二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.95 )
日時: 2022/04/28 22:16
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 夜も更け、月が神域を優しく見守る時間となった。全員が揃っていることを確認したオービュロンは、改めて刀剣男士達に声をかけ、カンパニーで撮ってきた写真を見せる。
 すると、前田が即座に反応を示した。"自分の知っている刀"だとはっきりと一同に告げた。



「あっ!これは…!」
「心当たりがあるんですか?」
「はい。僕の兄弟刀…"信濃藤四郎"と言います!」



 ワリオが握っていたのは"信濃藤四郎"という短刀だった。粟田口吉光作の短刀であり、藤四郎兄弟の一振だ。永井信濃守尚政所持であったことが名の由来であり、後に庄内藩酒井家に伝来したという逸話を持つ。前田家所持だったという説もある。
 信濃もまた、天界の蔵に仕舞われていた"邪気を纏った刀剣"の一振だった。このまま放置しておけば大変なことになるのは目に見えている。



「宇宙人が感じ取っていたのは"邪気"で間違いなさそうだな」
「それにしても…どこでそんな危険な短刀を見つけてきたんですかね?まさか、道端に転がっていたのを拾ったなんてオチありませんよね?」
「普通ナラ"アリエナイ"で話が終わるノデスガ…。わりおサンのコトデス。道で拾ったノヲ大袈裟にワレワレに話してイテモオカシクはアリマセン」
「……今、強奪された刀剣はこの世界の大陸中にばら撒かれている状態だ。ネズが言ったように、そこら辺を歩いていたら刀が落ちていた、なんて状態も普通にあり得る…」
「マジですか」
「マジなんです。それくらいアンラはとんでもないことをしたんです!」
「口調が移っておられますよ、前田さま」



 危険な刀剣が道端に平気で転がっている可能性も考えられると大典太に返され、思わずしかめっ面をしてしまうネズ。しかし、どこに落ちたかが分からない彼らに取っては見つかるだけでも有難いことだった。
 刀剣の正体は分かったものの、まだ問題が残っている。ワリオが信濃の本体に触れていても何も問題がないということだ。現在、信濃の本体は透明なケースに入れられ、誰も触れないように保管されている。ワリオが四六時中監視をしている為、開けようとしたら彼がすっ飛んでくるとオービュロンは言った。実際、開ける寸前まで行動を起こした彼が実際にワリオに怒られているのだ。恐らく、本番まで信濃本体は誰にも触らせるつもりが無いのだろう。



「……トイウコトデスノデ、けーすは本番マデ誰も開けられマセン」
「……口ぶりからして、本番までにレプリカとすり替えるのも無理そうだな」
「恐らく無理かと思われます、大典太さん。ワリオ殿はああ見えて目ざといお方…。レプリカにすり替えられたことをすぐに看破されてしまう筈です。それによって、一番被害を被るのはオービュロン殿です」
「ワタシは別に構いまセンヨ。慣れてマスシ」
「慣れんじゃねぇ」
「ソシテ…他の方に調査を依頼スル素振りも見せてオリマセンデシタ。恐らく、しなのサンの本体はソノママ大会の優勝賞品にナルデショウ」
「ふむ…」



 ワリオが常に監視をしている為、大会が始まるまでに偽物とすり替える等をすることも不可能。更に、ワリオはトレジャーハンターでもある為偽物とすり替えたところですぐにバレてしまうことも前田は諭した。
 そこまでオービュロンが話したところで、ノボリが顎に手を当てて悩む素振りを見せる。何か心当たりがあるようだった。



「優勝賞品…となりますと、ゲーム大会を優勝された方の手に渡るのですよね?わたくしは存じ上げませんが…オービュロンさまが経験なさった惨状に巻き込まれてしまう可能性も示唆しなければなりません。
 このままでは、優勝された方が脱線事故に巻き込まれてしまいます」
「刀に触れたり、直接攻撃されたり…って、"邪気"って奴に巻き込まれた連中はおれ達含め碌な目に逢ってませんからね。優勝者の身の安全の保証は確かに出来ないよね」
「ウーン…。何とかわりおサンの目を掻い潜る方法はナイモノデショウカ…。イヤ、ナカッタ…」
「……俺もそれについては心配している。優勝者が信濃を受け取って、その邪気の影響でワリオのように暴走したり、ネズやノボリのように命を刈り取られかけるなんてことになったら意味がない。
 ……対策を練らねばならないのは分かっているが、俺にはいい案が思いつかない…。……やはりこんな俺では…」
「そこで卑屈にならないでください大典太さん!」



 ノボリは優勝者の身を案じていた。信濃本体が邪気に侵されていると確定した以上、優勝者が誰であっても邪気の影響を受けることは明らかだ。一度邪気が原因でワリオがピンピンしているのだから、似たような経験をしている人物が手に取って解呪出来る者の居場所まで持って行ければいいのだが…。ネズもノボリも大典太も、当日は参加者としては大会に訪れない。ならば前田が優勝すればいいのではないかと思うが、そうは問屋が卸さない。



「部外者である以上、わたくし共に出来ることは限られております。一体どうしたら…。申し訳ございません、わたくしも中々ブラボーな案を思いつけないのでございます」
「本当に詰んでますよね、今の状況。勢いで何とかなると言っても、今はそうじゃない時だってことはおれも理解しているんで。事情を知っている連中が優勝すればいいんですが…。おれ当日付き添いですし。光世の話を聞いていると、前田もアウト側なんでしょう?」
「わたくしも午前中仕事が入っておりますので、参加は無理なのです」
「確かに僕は大包平さんと共に、アンラの呪縛を逃れた刀剣男士です。しかし…ここで引き下がっていては誇りというものが汚れてしまいます!主命を果たす為、当日は優勝するつもりで全力で参ります!」
「……前田が張り切っているのに水を差すようで申し訳ないが、前田もアウト側だ。邪気に侵されていない以上、刀剣男士とはいえ触れたら何が起こるか分からない。あんたが信濃の本体に触れて、無事である確証はない」
「それでも、優勝を目指さないと諦めるには早いように思えます!僕、当日全力で頑張りますから!」
「……そこまで言うなら止めないし、あんたが結構頑固者だということは俺も知っているからな。だが、無理はするなよ」
「はい。無理をして倒れてしまっては言語道断ですからね!ねっ、ネズ殿!ノボリ殿!」
「耳が痛いですね」
「肝に銘じております…」



 前田は優勝する気満々だった。主君の為にと張り切るのも当たり前だが、短刀の正体が自身の兄弟刀、果ては関わりのあった刀だということが判明したからだ。
 しかし、前田は大包平と共にアンラの呪いを回避している刀剣男士である。信濃の本体に触れるということは、他の普通の人間と同じように、"呪詛をその身に受けてしまう"可能性が高かった。
 そのことを心配していた大典太だったが、遂に前田の気迫に折れる。そして、当日は無理をするなと彼に激励を贈ったのだった。
 つい先程、マリィとホップと共に"当日は優勝を目指して頑張ろう"という光景を見守り神域に戻ったばかりである。ネズは妹とホップに申し訳ない、と良心が痛んでいた。



「一応、何とか今話している面子だけでも結果発表時には合流しましょう。事件が起こるとなれば、優勝賞品の授与前後が一番危険です」
「わたくしもクダリと連携し、結果発表時には会場に待機するようにいたしますね」
「皆サン…お心遣い感謝イタシマス」
「何か起こったら呼べ。大典太」
「……本当は最初からいてほしいところなんだがな。鬼丸」
「断る。大会ということは人が集まるんだろう。人混みの中に紛れる等真っ平御免だ」
「……はぁ。まぁ、いつ出陣してもいいように準備だけは整えておいてくれ…」
「あぁ」




 せめて当日、授与のタイミングで行動が起こせればいいと結果発表時には全員が合流することを約束した。優勝者を邪気から守る為。信濃を邪気から救う為に。そう結論を付け、話は終わり一同は解散をした。
 そして、ゲーム大会当日まで時は過ぎていったのだった…。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.96 )
日時: 2022/04/29 22:29
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 遂にメイドインワリオカップの開催当日となった。世界中、果ては異世界からダイヤモンドシティに人々が訪れる為、朝からシュートシティ駅では人がごった返していた。
 朝の通勤ラッシュよりも多い。執務室から改札方面を見ているクダリはふとそんなことを思う。しかし、自分達もこれからその人混みの中に飛び込んでいかねばならない。自分達の戦場は、今日はここではないのだから。
 隣ではノボリが駅員達に今日のスケジュールの再確認を行っている。ヘルプに入っているとはいえ、元々駅の車掌を2人とも務めていた関係上、いつの間にか立場は逆転していた。現在は2人が中心となり、現場を取り纏めているのが現状だった。



「それでは、本日の運行予定はこのようになっておりますので。大会が開始される前、そして終了後…。恐らく、そこが一番のラッシュになると思われます。どうぞよろしくお願いいたします」
「ダイヤモンドシティ経由のお客様、すっごいいる。でも、大丈夫。いつも通りにやればいい!」
「場所が変わっても、わしらがいつもやってることと大して変わらんからな。ガラルでも、イベントの時は駅が人の波で埋め尽くされるんやろ?」
「ジムチャレンジの決勝とか…あと、最近ではガラルスタートーナメントの開催の時にも人で溢れかえっていますよ。著名なジムリーダー、そしてポケモントレーナーの戦いを生で目に焼き付けたい、という人が多い証拠ですね」
「ガラルスタートーナメント!こっちでいうポケモンワールドトーナメントみたいなものなのかな?」
「えっ?なんですかその面白そうな大会。後で休憩時間にでも聞かせてくださいよ!」
「じゃあ、お昼時にでも各地方の大会について話しましょうよ!僕もガラルスタートーナメント、どんなものか興味があるので!」
「いつの間にか駅員同士も仲良くなっていらっしゃるようで…何よりでございます」
「うんうん。みんなスマイル、みんな楽しい。これ一番いい!」



 いつの間にか駅員同士も仲良くなっており、早速休憩時間にそれぞれの地方で開催される大会について話をする約束を取り付けていた。微笑まし気なその光景を見守りつつも、ノボリはもうすぐ電車が出る時間だと駅員達を現実に引き戻す。
 時間になれば、サブウェイマスターである彼らもダイヤモンドシティへと出発する。改めて今日のことを頼むと真っすぐと彼らに伝えると、駅員は揃って敬礼をした。



「それでは、わたくし共もこちらの電車に乗車しダイヤモンドシティ駅の方向まで向かいます故。重ね重ねよろしくお願いいたします」
「お土産話、いっぱい持って帰ってくる!だから頑張ってね!」
「ボス達も無理しないでくださいねー!いってらっしゃーい!」



 お互いに挨拶を交わしながら、双子は開いた電車の扉に向かって歩いて行った。
 何とか乗車に成功し、ほっと一息を下ろす。人でごった返していたとはいえ、恐らくこれからが電車が人でパンパンになる時間なのだ。その直前を狙って、双子は移動しようと予め決めていたのだ。
 窓から見える景色を眺めながら、クダリはノボリに話しかける。



「ノボリ、今日の勤務って午前中だけだよね」
「はい。トラブルもなく終了出来れば、午後からは大会を観覧できると思いますよ?」
「ふふ。ぼくすっごく楽しみ。ノボリも楽しみ?」
「勿論でございます!どんな催しが飛び出して来るのか…。わたくし、不肖ながら少し興奮しております」
「街は広いけど、多分ノボリの大声街中に響いちゃうかも」
「沢山のお客様がいらっしゃるのですから、それくらい大目に見てください。いつでも大声、という訳ではないのですよ?」
「うん。それは分かってる。でもノボリ、大声で洞窟の入口塞ぎかけたことある。だからぼくちょっと心配」
「く、クダリっ。ティーパーティーの失態をほじくり返さないでくださいまし!」
「からかっただけ!でもそれくらいぼくも楽しみ。メイっぱい楽しもうね、ノボリ!」



 予め午前中の勤務をするように交渉してくれたラルゴにも改めて感謝をしつつ、ノボリとクダリは窓から遠目に見えるダイヤモンドシティを見つめていた。
 どことなく中世的に見えるリレイン王国とはまた違う、自分達の勤務していたライモンシティと雰囲気が似た都会的な雰囲気。それに、双子はどことなく懐かしさを覚えていた。
 心地よい電車の音と揺れを楽しみながら、電車はダイヤモンドシティまで走っていくのだった。






 ―――そんな双子を興味深そうに見つめている、藍色の車掌服を身に纏った桃色の髪の少女がいたことには気付かずに。





















 ところかわってダイヤモンドシティへと場面は移る。シュートシティの駅で集合を果たしたネズ、マリィ、ホップ、ダンデ、大典太、前田は会場の受付へと歩いていた。オービュロンから事前にパンフレットを貰い、それを見ながら会場を目指しているところだった。ホップとダンデはそらをとぶを覚えているポケモンに乗ってここまでやってきた為電車のラッシュには巻き込まれなかったが、空から見ていた電車の中の人の量に思わず苦笑いをしたのだとか。
 現在パンフレットはホップの手に渡っており、彼は付随されている地図を見つつも大会のルールを確認していた。



「"プチゲーム"っていうゲームを沢山クリアする、スコアアタック系の大会らしいぞ」
「……ぷちげーむ」
「オービュロン殿が事前に教えてくださいました。5秒程度の物凄く短いミニゲームなのだとか。ミニゲームよりも短いゲーム、だから"プチゲーム"らしいのですが」
「一瞬でも油断して判断誤ったらクリアできなさそうですね。ロックでおれは好きですよ、こういうルール。マリィはやったことがあったんでしたよね、こういうの」
「うん。前にこの街に来た時にペニーさんからゲーム借りてやったよ。面白かったから、ファンレター書いた」
「成程。それは製作側も喜びますね」
「瞬間判断能力を問われるのか…。ポケモン勝負とよく似ているぜ。今後のバトルにも活かせそうなものがあるかもしれないな!」
「何でもかんでもポケモン勝負と繋げて考えるのはやめやがれ」
「ネズさん、アニキにポケモン勝負と切り離して考えるなんて無理なんだぞ…」



 確かにダンデの言葉も一理あるのだが、今はそういうことではないだろうとネズがジト目で彼を見やった。一瞬の判断で正解を導かなければならない。しかも、恐らくプチゲームは1つではない。音楽の小節のようにテンポよく、タイミングよくやってくるものだとネズは考えていた。
 マリィは以前、ダイヤモンドシティを訪れた時に仲良くなったペニーから過去作のゲームを借りて遊んだ経験があった。わざわざ直筆でファンレターを送ったのにはそういう背景があった。


 そのまま道路を歩いていると、ふと人が並んでいる光景が見える。恐らく受付会場なのだろう。まだ開催時間である9時には少し時間がある。それでも行列が出来ている事実に、宣伝の効果と会社の知名度を彼らは垣間見た。
 早く並ばなければ締切に間に合わなくなってしまう、と一同は早足で行列の最後尾のプラカードを掲げているスタッフの場所まで急ぐ。



「……この人数だと、受付出来るまで20分程度はかかりそうだな」
「前もって来といて良かったね。オービュロンさんからのアドバイス、早速役に立った」
「受付の締切に間に合わないで参加できないなんて、完全に不完全燃焼過ぎるからな…。間に合って良かったぞ!」



 彼らはオービュロンから事前に"大会当日、恐らく様々な異世界カラ参加者が集いマス。ナノデ、早めに街に出てきてイタダイテ、受付を済ませてオクノガイイと思いマス"とアドバイスを受けていた。
 彼の言葉通り、ネズ達が列に並び始めたと同時にすぐ後ろに人が並ぶ。それは瞬く間に長蛇の列へと変化していった。もう少し遅い集合時間だったら、もしかしたら受付すら敵わなかったのかもしれない。



「おおお…。すぐにオレ達の後ろに長蛇の列が」
「ガラルスタートーナメントの観覧席もこんな感じだったみたいだぜ。うーん…今後の開催も色々工夫しなきゃいけないな」
「今はスタートーナメントの話はナシですよダンデ。ほら、列動きました」
「ガラルスタートーナメント…。もし機会があれば、僕一度見てみたいです!」
「ダンデさんに頼めば過去の大会の録画残ってると思うから見てみれば?前田くん、ポケモン勝負にそんなに興味持ってくれとるんやね」
「シュートスタジアムで行われた大会なら大体録画してあるから、言ってくれれば録画したものを用意しよう。今度見てみるといい!」
「はい。とっても興味があります!」
「……おーす 未来のチャンピオン?」
「光世、それはちょっと違います」



 話し合っている間にも、列は少しずつ動く。後ろの人物に迷惑にならないように、4人と二振も動きに合わせて足を進めていった。
 そして―――大典太が予測した通り、列に並び始めてから20分が経った頃……遂に受付担当のスタッフと鉢合わせることが出来た。早速ネズは受付をする為に口を開く。



「ようこそダイヤモンドシティへ!"メイドインワリオカップ"の参加受付でよろしいでしょうか?」
「えーと。参加するのはこの4人です。おれとこの彼は付き添いですね」
「了解しました!お名前を教えていただいてもいいでしょうか?」



 受付の人物は、バインダーに挟まれた紙を3人と一振に渡す。それに名前を書き、同意書のようなものにサインをした後受付に返す。時折受付担当の人物が驚いたような表情をしていたのは、恐らくダンデのような立場の人物が普通に参加を表明していることが原因なのだろうとネズは見守りながらそう思った。
 そして、参加料を払う為財布を懐から取り出した。三角に折り曲げられた紙には、"参加料 1000円"と記載されている。値段は別にいいのだが、それを見たネズは思わず眉間にしわを寄せる。幻視でなければ、彼の目には0が3つくらい二重線で消えているように見えたからだ。



「4人の分はおれが代理で今は払いますんで。後で参加費返してください」
「……分かった。すまんな、ネズ。前田の分は後で俺が渡すよ」
「一々個人が財布を出していたら、いくら時間があっても足りませんからね。ただでさえ後ろがつっかえてんのに。
 ―――それは別にいいんですが。何なんですかこの手書きで修正したような跡は…」
「0が3つくらい二重線で消されとる」
「あぁ。それですか…。ワリオ社長が本当はもっと参加料を跳ね上げたかったのですが、直前でモナさんとジミーさんに見つかりまして。こっぴどく反論されて、渋々今の金額に調整したそうなのです」
「100万円じゃ参加者が減ってしまうんだぞ?!」
「ジムチャレンジにおける推薦状のようなものだと考えればいいんでしょうが…。現金でそれを表されると流石に気が引けるというかなんというか」
「ま、まぁまぁ。過去の話なのですし深く突っ込まないでおきましょう!元々ワリオ殿は強欲な方ですし」
「笑って済ませていいんですかそれ。あ、すみません。駄弁ってないで金払いますね。はい、4000円丁度ある筈です」
「……はい、参加者分間違いなくいただきました。では、あちらにいるスタッフがいる場所まで移動をお願いいたします。ルール説明の後、9時からいよいよ大会が開始されますので本日は楽しんでいってくださいね!」
「勿論!あたし、負けないよ!」
「オレだって負けるつもりはないぞ!」
「僕も誠心誠意頑張ります!」
「よーし。気合を入れたところで早速指定された場所に行ってみようぜ!」
「ダンデはホップの前に立って動いてくださいね。ただでさえ迷われたら本当に困るんで。お願いしますよ」
「……しんがりは俺がやる。そんなに心配しなくてもいい、ネズ」
「感謝しますよ、光世。それじゃ行きましょうか」




 そう言いつつ受付に指定された場所を見やると、オービュロンの姿があった。彼の周りにも、スタッフとは雰囲気が違う人物が数人いるのが見受けられる。恐らく、彼らがオービュロンの言っている"ワリオカンパニー"の社員なのだろう。
 一同は早速その場所に向かって移動を始めたのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.97 )
日時: 2022/04/30 22:10
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 4人と二振に気付いたオービュロンがこちらに向かって手を振って来た。前田がいち早く気付き、早く行きましょうと催促をする。慌てなくてもまだ開始時間までには少し時間があるが、確かに余裕を持って行動をしておいた方が大会へ向けての心構えも出来るというものだろう。
 説明が早いに越したことはない、と彼らは決断しオービュロンの元まで駆けて行ったのだった。



「皆サン!来てクダサッテアリガトウゴザイマス!」
「こっちこそありがと。お陰でスムーズに受付が終わったよ」
「ソウデスカ!ヤッパリ人、並んでイマシタカ?」
「オレ達が並んですぐに長蛇の列ができ始めたんだぞ…。本当にギリギリのタイミングだったな」
「まぁ、そのお陰で早いうちに説明を聞けそうだけどな!」
「オービュロン。1つ確認ですが、参加者ででないおれ達も別に説明は聞けるんですよね?」
「ハイ!一緒に行動スルコト自体は別に咎められマセンノデ!げーむを協力スルトカ、ソウイウコトヲシナケレバ大丈夫デス!」
「大丈夫ですよ。端からルール違反をするつもりはありません」
「……パンフレットに書いてないことも言われそうだからな。きちんと聞いた方がいい」
「ソウデスネ!ぱんふれっとに記載がアルモノニ関しては、アクマデ簡易的なモノニナリマスヨ。デハ、ワタシカラ今大会のるーるの説明をサセテイタダキマス!」
「お願いいたします!」



 3人と一振からの"お願いします"という言葉を受け、オービュロンは早速説明を始めた。
 大まかなルールはパンフレットに載っているものと同一で、複数人で行動してもいいが基本的には個人戦。街中にネクストコーポレーションのカメラを仕込んでいるから、ルールに違反した参加者はすぐに分かるようになっているらしい。
 注意事項を簡単に説明した後、オービュロンは改めてルール説明に話を戻した。



「皆サンニハ、コレカラ街中を巡ってイタダキ、"9時カラ14時マデノ間"にだいやもんどしてぃ中にアルVR型のじゃんるに分けられたすてーじをくりあシテイッテクダサイ。すてーじゴトのくりあシタぷちげーむが記録サレ、予選終了時にすこあの高い上位4名が決勝戦へ進むコトガデキマス」
「VR…。ここから左に見えるあの機材のことですか?」
「ハイ!今回大会を開催スルトイウコトデ、機材のもにたーをシテクレルトイウ条件ツキであしっどサンが貸し出してクレタノデス」
「上手いこと実験台にされてるじゃねぇですか」
「……金欠なのは分かっていたが、ここまでとはな…」
「コノお話を持ちかけられたカラコソ、わりおサンハVRの手を思いついたノカモシレマセン…。デスガ、彼のお陰で大会が開催デキテイルノデ、我々も文句が言える立場デハナイノデス」
「大変なんやね、オービュロンさんも…」
「イエイエ。慣れてマスノデ」
「慣れていいのかそれは?!」



 ダイヤモンドシティ中に設置された、VR形式のステージを次々クリアしていき、最終的にスコアの高い4人が決勝戦へ進めるという。チャレンジ回数は各ステージ1回であり時間も有限な為、最初のステージは早めにクリアして次に進みたいと彼らは判断した。
 そして、彼はマリィ、ホップ、ダンデ、前田にタブレット型の端末を1台ずつ手渡してきた。これで自分の今の戦績と、どのランクにいるのかの確認が出来るらしい。
 そこまで話したところで、オービュロンは思い出したように彼らに注意事項をもう1つ促す。この大会での"脱落"についてだった。



「ア。チナミニナンデスガ…。一度デモ"1度目のぼす前にすてーじをくりあデキナカッタ場合"はソノ場で脱落とナリマスノデご注意クダサイネ。マタ、るーる違反をシテモ脱落にナリマスヨ」
「つまり、1回ボスステージをクリアしたうえでスコアを伸ばしていかなきゃならないのか…。中々シビアだぞ」
「大丈夫デス!最初はミナサン同じすてーじをぷれいシテ貰う手筈にナッテマスノデ、ソコデぷちげーむの感覚を覚えてクダサイ!ソウスレバ、次のすてーじもすむーずにすこあが伸ばせると思いマスヨ!」



 そう言って、オービュロンは右手にある、先程前田が指摘した機材が並んでいる群れを指さした。"テハジメ"ステージといい、誰でも簡単にクリアできる優しい難易度のステージが揃っているらしい。ワリオの家が立っているのが目印だと彼は言った。現在は準備をしているようだが、既に列が出来ていた。
 そのステージをクリアしたら、次から好きな場所に行けるのだという。なお、テハジメステージはボスをクリアしたらそこでステージは終了。スコアを伸ばすことは出来ないともオービュロンは付け足した。



「今回は観光目的も兼ねてイルノデ、街巡りの形を取らせてイタダイタンデス」
「街巡り、ねぇ。スパイクタウンの町おこしの参考に出来るかもしれませんね」
「スタンプラリーとかしたら面白そうじゃない?制覇した人にはアニキのライブチケットの半券渡すとか、アニキとポケモン勝負出来るとか」
「良き案だと思います、妹よ。帰ったら意見をメモさせてください」



 ネズとマリィがそんな会話を繰り広げていた折、ダイヤモンドシティ中に大会開始のアナウンスが鳴り響く。大典太がスマホロトムに今の時刻を尋ねると、ロトムはきっかり"9時"だと答えた。
 今からメイドインワリオカップの予選が始まる。それを自覚した途端、妙な緊張感が街に走った。



「……開始したようだな。列も動き始めた」
「じゃあ、さっさとオレ達も列に並ぶんだぞ!初動が遅くなったらそれだけスコアも伸ばせなくなる!」
「そう焦るなホップ。手数で攻めるのもいいが、1つ1つの記録を伸ばしていくのもオレは大事だと思うぜ!」
「駄弁ってる暇があったら足を動かしなさいよハロン兄弟。前田とマリィはもうあんなところにいます」
「早く行きましょうよみなさーん!」
「アニキ!遅いよ!」
「今行きます。先進んでてください」



 初動に遅れたら大変だと焦るホップに対し、ダンデは元チャンピオンの余裕を見せている。立ち止まっている暇があったら足を動かせと先に進んでいる前田とマリィを指さし、ネズがジト目で2人を見た。
 追いつく為に少々早歩きで1人と一振の元へ向かった一同は、そのまま"テハジメ"ステージへと足を進めた。











 最初のステージは全員がやることを想定していたのか、VRの機材が10台程並んでいる。それと比例するように、機材に並ぶ人の列も多くなっていった。機材の隣にはスタッフがおり、端末を見せることでゲームが開始できる仕組みらしい。近くにはベンチもあり、参加しない人や早く終わった参加者はそこで休憩も出来るようだった。
 早速3人と一振は列の方向へと移動し、それを見守ったネズと大典太はベンチの方向へと歩いて行く。途中、ダンデがまた真逆の方向へ転換しようとした為、ホップが捕まえて一緒の列に並ばせたのが見えた。勿論、ダンデが後ろだ。

 ベンチに座ったネズと大典太は、思わず先程のダンデの行動について言葉を交わした。



「……こんな人がごった返している場所でも迷うのか?」
「ええ迷いますよ。堂々と迷います。おれは仕事で顔を出せませんでしたが、以前ジムリーダーやそれに連なる者がシュートシティで遊んだ時も、キバナの目が離れた瞬間にダンデが迷子になって、昼から夕方にかけて総出で探したらしいです。キバナが泣きそうな顔で愚痴って来たのを覚えています」
「……リザードンはどうした?」
「丁度ジュラルドンと美味いもの食べてたらしくて、ダンデから目を離していたそうです。まぁ、美味いもん食って幸せな気持ちなら仕方ないですよね」
「……そうだな。ポケモンは悪くない」
「ま、今回はホップが見ててくれるみたいなんでいいですけど…。これの次の場所からそうは行かなくなります。光世。ダンデ、申し訳ないですが一緒に見張っててほしいです」
「……承知した」
「うーん…。こういう時に"主命"ってのを使うんですかね?」
「……あんたは主じゃないだろ…」
「ふっ。冗談ですよ」




 あまりにも大典太が真面目に受け取った為、思わずネズは笑ってしまった。からかわれたことに大典太は困っているようだった為、ネズは改めて詫びを入れた。
 その間にも、3人と一振が並んだ列は次々に移動を続ける。遠目から見ても楽しそうにゲームをプレイする一同を見て、大典太も思わず微笑んだのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.98 )
日時: 2022/05/01 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 街中に大会開始のアナウンスが鳴り響いてから3時間程経過した。現在、スマホロトムの時計は12時を指している。
 あんなに張り切ってスタートした筈の大会も、気付けばスムーズに街を巡れるようになるまでになっていた。あれだけいた参加者も、ルールのお陰でどんどんふるいにかけられ少なくなっていた。
 そんな中、次の場所のマップを確認していたホップが口を開いた。



「うーん。7割くらいは回ったか?」
「沢山ゲームをやったので、僕はもう少し多く感じましたよ」
「まさかジャンルが10、11くらいあるとは思わねぇじゃないですか。そりゃふるいにかける必要がある訳だ…」
「最初はあんなに沢山参加者いたのに…。ステージ回るごとに人がどんどん減ってってたね」
「オレ達は無事残れているからいい!次も頑張ろうぜ!」
「……本番に強い奴らばかりで本当に凄いよ」



 どうやら、3人も前田も脱落せずにスコアを稼いでいるらしい。そんな中、街中を歩いていた前田のお腹が大きく鳴る音が聞こえてきた。刀剣男士として恥ずかしいことをしてしまったと途端に彼の顔は真っ赤になる。
 全力でゲームに挑んでいたのだから腹が減るのも当たり前だ。それに、丁度いい時間だとネズも判断した。



「別に恥ずかしくありませんよ。もう12時です」
「え?!そんなに経ってたのか?!」
「はい。あと2時間程で予選終了ですが…。腹が減ってちゃ戦には勝てません。丁度いい時間ですし、腹ごしらえしましょうか。ほら、双子とも合流せにゃなりませんし」
「……そうか。あの双子、今日は勤務が午前中だけだったな」
「いつ仕事が終わった連絡が来てもおかしくありませんし、飯食いに行きましょう」
「アニキ、露店あっち」
「先導お願いします、妹よ」



 そろそろノボリとクダリが合流してもおかしくはない時間帯でもあった。約束をした以上、露店に移動した方がいいのは明らかだった。
 前を歩いているマリィに露店への先導を頼み、いつ双子のどちらかから連絡が来てもいいようにネズはスマホロトムに通信が来たらすぐに連絡するように頼んだ。






 5分程歩いた場所に、イベントスペースがある。今日はそこに広めの露店が出店されており、そこで食べ物を買って食べるシステムになっていた。近くには簡易的なテーブルと椅子も設置されている。丁度昼食の時間帯だった為、露店周りは人が集まっており賑やかだった。
 空いているテーブル席に場所を取り、ネズはマリィにお札を渡し全員分の昼食を買ってくるよう頼んだ。彼女はそれを受け取りホップ、前田と共に自分が気になった店の方までまっすぐ歩いて行ったのだった。
 大典太はそれを見守った後、自分の財布から参加料と共に昼食代を折半しようとネズに手渡した。しかし、彼は前田の参加料である1000円しか受け取らず、後は大典太に突き返した。



「……全部あんたに払わせるわけにはいかないだろう」
「いいんですよ。大人には大人らしくかっこつけさせやがれ」
「でもネズ、お前まだ19だよな?」
「こまけぇことは突っ込まなくていいんですよダンデ。四捨五入すれば20です」
「……たまにあんたが酒が飲めない年齢だということを忘れそうになる…」
「老け顔で悪かったですね」
「……そうは言ってない。随分と…精神が成熟しているんだなと感心しただけさ」
「そりゃ、色々あれば子供じゃいられなくなります。―――光世、だから昼食代はおれに『俺が勝手に渡した。俺は折半したいと望んでいる』……あんたも頑固だね」
「はははっ。そう片意地にならなくてもいいんだぜネズ。後でオレの参加料と一緒に昼食代も渡す。今日のは3人で折半だぜ!」
「……はぁ…」



 からっと言い切った元チャンピオンと、意外と頑固だった刀剣男士の顔を見やり、ネズは深くため息を吐いた。大典太に差し出されたお札を最初は拒否していたものの、彼がぐいぐいと戻すのを辞めなかったので遂に折れ、受け取った。そして、ダンデも後に参加料と一緒に昼食代を渡すと言ってのけたので言い逃れが出来なくなってしまった。
 それと同時に、スマホロトムがネズに通知をする。ノボリから連絡が来たらしい。通信を繋ぐと、スマホロトムの画面に仏頂面の黒い車掌が映った。



『もしもし。ネズさま。ノボリです。今お時間大丈夫でしょうか?』
「もしもし、ネズです。大丈夫ですよ」
『今しがた仕事の方が終了いたしましたので、クダリと共に会場へ移動中でございます。合流を果たしたいのですが、現在どちらにいらっしゃいますか?』
「あぁ、終わったんですね。仕事お疲れ様です。今ですか?露店にいますよ。ダンデと光世も一緒に席取って待ってます。マリィ達には食いモン買いに行かせてます。おれの髪の毛を目印にして来ていただければ」
『うん、わかった。ぼく達もお客様からお土産貰ったから、みんなで食べよう!』
「そうですか。楽しみにしてますね」
『それでは、すぐに合流いたします故。一旦失礼いたします!』



 すぐに向かうという返答を確認した後、ノボリからの通信が途切れた。そのことをダンデと大典太に話すと、彼らもどことなく笑みが増えたように感じた。
 その後、しばらく席で談笑を続けていると2人と一振が戻ってきた。両手にはビニール袋が握られており、色々な露店から買ってきたのが分かった。ジンベエやハスノもさり気に露店を開いていたことを前田は口にした。



「色々気になったのあるから全部買ってきちゃった。みんなでちょっとずつつまも」
「ジンベエ殿やハスノ殿も出店していたんです!どれもこれも美味しそうで…吟味するのにかなり悩みましたよ!」
「……あいつらもいたのか」
「マリィも前田も次、次って目移りするから本当に大変だったんだぞ…。オレ、もう腹ペコペコ…」
「珍しいモンを見たら目が宝石のようになるのは何も不思議なことではないですよ。ほら、飯冷めちまう前に食べちまいましょう」



 袋から買ってきたものを取り出し、みんなで少しずつ分けて食べることにした。王道の焼きそばやお好み焼き。具材がたっぷり詰まったオムレツなんかも堪能した。
 美味しそうに昼食をいただく子供達の顔を見守りつつ食べ進めていると、人の声で溢れている中でもよく響く聞き覚えのある声が聞こえてきた。その方向を振り向いてみると、白い車掌がこちらに向かって大きく手を振って合図をしていた。黒い車掌もこちらに気付き、小さく手を振り返す。
 双子は空いているスペースへと腰掛け、現在の進捗を訪ねた。



「お疲れ様です、皆様。わたくし共、只今目的地に到着いたしました」
「これ、東の大陸限定のラングドシャ。お客様からお土産って貰った。一緒に食べよう!」
「丁度甘い物欲しいと思ってた。ノボリさん、クダリさん、ナイスやね。ありがと」
「えへへ」
「ところで…。現在、大会の方はどうなっておりますでしょうか?順調でございますか?」
「うーん。今まで見守ってきましたけど…スコアはおれ達が確認できるわけじゃ無いですしね。どうなんです?」



 ラングドシャの箱を開けながら、ネズはマリィに進捗を訪ねる。大会の現在の進捗を確認できるのは参加者だけ。見守っているネズや大典太には知り得ない情報だった。
 彼に聞かれ、マリィは素直に自分の端末を兄に見せた。そこには、マリィのスコアが現在"3位"だということを示す場所に名前が載っていた。



「あたし、決勝行けるかも」
「本当!マリィちゃん、凄い!」
「1位から3位までがスコアが突き抜けてて、4位が団子状態なんだぜ。その抜けている3人のうち1人がマリィくんということだな」
「ダンデさま。つかぬことをお伺いいたしますが…。もしかして、ご自分の戦績以外は確認が出来ないのでしょうか?」
「あぁ。自分の今の位置と、上位陣がどれだけスコアを稼いでいるかしか確認は出来ないな。決勝に行くのが誰かは予選終了までのお楽しみだぜ」
「というかマリィ、いつの間にそこまで…」
「だから言ったじゃないですか。経験者は強いと」
「そういう問題じゃないんだぞネズさんー!」
「上手く行けば、優勝賞品も持ち帰れるかも。アニキも大典太さんもなんだか気にしてたみたいだし…。あたし、頑張るけんね」



 そこまでマリィが言ったと同時に、ネズは顔をしかめる。そう。マリィが決勝に残るということは、優勝して邪気の纏った短刀を手にする可能性があるということに他ならなかった。彼女を危険に晒さない為に、大典太達の本来の目的は彼女に隠すように頼んでいたのはネズ本人だった。
 しかし、ここで彼女の決意を否定してしまえばやる気が削がれてしまう可能性もある。純粋に応援したい気持ちと、短刀を手に取ってほしくない気持ち。相反する2つの気持ちが、ネズの心に不安を生んでいた。



「少しばかり不安ですね」
「何が?」
「―――! い、いえ。こちらの話です。変なこと言ってしまって申し訳ないね」
「ネズさま…」
「アニキが何に不安がっているかは分からんけど…。大丈夫。モルペコもいるし、アニキの不安通りになんかさせん。あたしも怖がってばかりじゃなくて、あたしに出来ることをしっかりやろうって最近改めて思うようになったよ。みんな、色々な思いをしながらも前向いて全力で頑張ってる。あたしだってちゃんと前を向いて頑張らないと。ね、モルペコ?」
「うらら♪」
「……マリィは、本当に強い子だな。流石あんたの妹だ」
「―――ふっ。当然のこと言ってどうするんですか光世。でも…少し不安が晴れたような気がします。ありがとうございます」
「………?俺は、何もしていない」
「勝手に言わせやがれ」




 大典太の言葉のお陰で、ほんの少しだけだが不安だった気持ちが和らいだ。そのことに思わず礼を言うと、彼はきょとんとした顔で"何故礼を言われるのか"と問い返した。
 はぐらかすように言葉を返すと、大典太は更に分からない顔をして首を傾げた。マリィは日々成長している。それを目の当たりにし、ネズはまた感慨深い気持ちになったのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.99 )
日時: 2022/05/02 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 みんなで昼食を食べ終えた午後。残りのステージを回る為に、一同は再び移動を始めた。ノボリとクダリも"大会がどんなものか見たい"と、大典太達について行くことを決めた。
 オービュロンのステージは、海沿いの何もない原っぱのど真ん中に建てられていた。修理中のピッグシップを背景に、何人かがステージに挑戦しているのが見て取れた。


 早速ステージに近付いてみると、オービュロンがこちらに気付いたのかゆっくりと手を振っている。近くにいたスタッフに一声かけ、彼はぽてぽてと音を立てながら一同に近付いてきた。



「お久しぶりデス皆サン!」
「おお?!本当にポケモンみたいな姿をしているんだぞ?!」
「ソレ、2回目デース…。シカシ、ヨクゾ皆サンココマデ来てクダサイマシタ!ワタシ、盛大に褒めてサシアゲマス!」
「出ました、オービュロンのたまに出る上から目線。別に見下したつもりはないって分かってるから良いんですけどね」
「つっこみはノーデスヨ、ねずサン!皆サン、順調ミタイデスネ!サテ、誰か決勝に進めそうな人はイルノカナ?」
「あたし、決勝行けるかもしれん。今3位」
「オー!凄いデスネ!」



 オービュロンに進捗を聞かれ、マリィが自分が行けそうだと返す。すると、彼は感心するように声を上げた。本当に自分達の作ったゲームが好きで、本気で挑んでくれているのだということが彼らを見ていると伝わってくる。それだけでも、ワリオの案に結果的に乗っかって良かったとオービュロンは内心思っていた。
 しかし、彼が報告しなければならない事柄はそれだけではない。彼は途中、スタッフにステージの管理を任せワリオが保管している信濃の様子を見に行っていた。信濃は相変わらずカンパニーの1階にケースに入れられたまま、オービュロンがあの日写真を撮ったい日のままだった。
 そのことを伝えると、顎に手を当てながらネズは言った。



「つまり、信濃は優勝者がそのまま手にする可能性が高いんですね」
「ハイ…。正直、カナリ不安デス。デスガ、開催側トシテモ大会が始まってシマッタ以上、最後マデ公平に物事を進める義務がアリマス。まりぃサンが仮に優勝シテ短刀が渡るコトニナッテモ、ワタシが全責任を負うツモリデイマス」
「そんなことしなくていいよ。あたし、自分に出来ること全力でやるって決めたから。あたしの為に責任なんか追わないで」
「マリィ…」
「……ワカリマシタ。デスガ、不調がアッタラスグニワタシに報告シテクダサイネ!デハ、4人はコチラマデドウゾ!ア、ねずサン達はソチラの休憩すぺーすニテ応援をお願いシマス!」
「分かってますよ。参加者でもないのに手出しはしません」
「ぼく達、みんなのこと全力で応援する!頑張って!」
「誠心誠意、応援いたします!頑張ってくださいまし!」



 マリィの決意を聞き届けた後、オービュロンは彼女達をステージの場所まで連れて行った。小さくなる影を見守りつつ、3人と一振も彼に指を差された休憩スペースへと移動し、各々くつろぐことにした。
 そう言っている間にオービュロンのステージが開始された。彼の今回のジャンルは、制限時間が他のジャンルよりも長い、少し頭を使うゲームが揃っている"IQ"に、自身が世界で学んできた文化を取り入れた"カルチャー"を混ぜたものだった。見栄えのいい、華やかなゲームの数々に見守っていた3人と一振も思わず感嘆の声を漏らす。



「ブラボー!なんと素晴らしい…!オービュロンさまの製作されるゲームというものは、こんなにも華やかかつ繊細なのですね!」
「……1つ1つのゲームが短いからこそ、こんなことが出来るんだろうな。発想の勝利というものだろうか」
「世界って、ぼく達が見ているよりずっと広い。オービュロンさんは自分の故郷からやってきて、その広い世界をいっぱい見てきた。そんな気持ちが伝わる。オービュロンさんの"楽しい"が、いっぱい詰まったとってもいいゲーム!うんうん、ぼくも見ててとっても楽しい!」
「新曲のアイデアになりそうなものも沢山転がってますね。後でオービュロンに礼を言いにいかないと。効果音も適材適所、あいつ作曲のセンスありますよ」
「……絶対喜ぶだろう。プロのあんたがそう言うんだから」



 感想を各々述べあっているうちに、マリィ達のゲームが終了したようだ。遠目に彼女達がオービュロンと話しているのが分かる。その隣で、悔しそうにしながら装置から出てくる1人の女性も見かけた。現実的な服装を身に纏っていることから、恐らく異世界からの来訪者なのだろう。傍らに刀剣男士のような男性もついており、女性を励ましているように見えた。
 大典太からみてその刀剣男士には邪気が感じられなかった為、彼も"異世界の刀剣男士"なのだろうと判断した。



「あー悔しい!もうちょっとでボス倒せたのにー!」
「もうちっくとやったなぁ主。やけんど、頑張っちゅーのは伝わった!」
「いいところまで行ってもクリアできなかったら意味ないんだよぉー!」
「早う本丸帰って懇願会開こう。な、主!」



 べそべそと悔し涙を流しながらその場を去っていくのを見守りつつ、オービュロンの方を大典太は再度向いた。マリィ達がこちらに気付いたので、3人と一振も合流を急いだ。
 近くで見た一同の表情は"やりきってやった"という顔をしていた。どうやら全員、想像以上の力を発揮できたらしい。



「皆サン、素晴らしい好成績デシタ!モシカシタラ順位の変動もアッタカモシレマセン!」
「そう期待して端末見てみたんだけど、オレは全然上に行けなかったんだぞ…。上位、どれだけ接戦なんだ」
「はっはっは!だが、全員実力を発揮できて良かったじゃないか!」
「はい!皆様が高みへと昇られるそのお姿…。わたくししっかりと目に焼き付けましたとも。ええ、この眼差しにしっかりと刻ませていただきました!大変素晴らしい!ブラボー!スーパーブラボー!!」
「4位が団子状態って話でしたし、まずはそこまで頑張らなきゃお話になりませんよホップ。ま、いつも通り力を発揮すりゃいいんですよ」
「ネズさん。残り回ってないとこ、どこ?」
「えーと…。町の端にある"ナインボルトの家"というところです。大体回り切りましたから、そこが最後だった筈です」
「街の端か。それなら…」



 ノボリがブラボーブラボーと皆に賞賛を送っている間、彼の背中越しにネズとクダリが今後の道筋について話し合っていた。残りはナインボルトのステージだけなのだが、端にある為今いる場所からは数通り向かう為の道が存在している。マリィ達によりゲームを楽しんでもらう為、ネズの言葉を受けたクダリは少し考え、ミニマップに指をなぞらせた。



「だったら、こっちの道を行った方が近いかも。一見広いけど、狭くて近い道を行こうとすると渋滞に巻き込まれるかもしれない。参加者は少なくなってるけど、鉢合って到着が遅れちゃったらゲームが出来る時間が少なくなる。
 もうちょっとで14時。予選おしまい。だったら、少しでも広い道を歩いた方が確実。そして、沢山プチゲームクリア!」
「成程。それは考えつきませんでした…。ミニマップからみても、こっちの細道のほうが近いですが…。確かに、スコア勝負をしているからには早く辿り着きたいという気持ちは皆同じですもんね。流石車掌です。その案で行きましょう」
「えへへ」
「素晴らしい提案ですクダリ!わたくしもその案に乗らせていただきます!」
「……どこから聞いていたんだ?」
「わたくし、ルート把握はお手の物。ご相談を受けなくとも最適なルート選択を行ってみせるのです!今回の場合、クダリのご提案したルートが最適な目的地へと辿り着くルートだと、わたくし確信しております!」
「よーし!進む道が決まったら早速最後のステージまで行くんだぞ!」
「最後まで誰が勝ち残るか分からないからな!諦めないで最後まで食らいつこうぜ!」
「僕も諦めません!全力です!」
「気合を入れ過ぎて怪我しないようにね。それじゃ、目指すは勝利。出発進行、ですね」
「おや。お気に召されましたかネズさま!」
「まぁね。響きがいいもんで」
「うんうん!ぼくもこの言葉大好き!」




 自分達がいつも口にしてる口上がネズの口からぽろりと零れ落ちる。どうやら言葉の響きが気に入ったらしい。そんな彼の反応を見て、双子はどことなく嬉しそうに目を緩ませたのだった。
 オービュロンに見送られ、一同は最後のステージであるナインボルトの家を目指して出発したのだった。


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