ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 誘い② ( No.142 )
- 日時: 2011/06/19 14:26
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
って何だ、混ぜっ返すな!
ったく、今のどこに食いつく要素があったんだ……こら、いつまで笑っている?
確かに隣は空いていたんだが、しかしおかしいじゃないか。一両きりとはいえ、乗客は俺しか居ないんだから。
「空いていますが、他の席だって空いていますよ」
そう返したら、彼女は笑って言った。
「もうどの席も埋まっていましてよ、皆さん楽しそうにお喋りなさってるのが聞こえるでしょう!」
彼女の言う通りだった。反響して聞き取り辛くはあったが、結構な数の人間が喋っている声が聞こえた。彼女は、他の乗客達は、一体いつ乗車したんだ?
彼女はもう一度隣に座って良いかどうか尋ねてきた。空いてないなら仕方がない、彼女は俺の隣に座った。何で拗ねているんだ、……お前が彼女と会ったら……いや、止めておこう。
どんな? あぁ……さして特徴は無かったと思う。全体的に綺麗な印象は受けたが、それだけだ。茶髪に青い瞳で、髪は少し癖があったな。
スタイル? 何でそんなことが気になるんだ……スタイルは、……普通だ。華奢な女性だったぞ。白のブラウスに水色のロングスカートというありきたりな格好だ。
そう言えば、綺麗な声をしていたな。聞き心地の良い音というのか。
彼女は色色話しかけてきた。とりとめもない話だ。どこの街のどこの喫茶店のケーキセットが美味い、でもコーヒーだけならあそこが一番、服を買うならどこそこ、だれそれの本が好き、歌手ならあの人……楽しくはあった。色々な疑問を忘れるくらいに。
何しろ、一つ聞けば十でも二十でも話題が出てくるんだからな。
ただ、一つだけ話したがらないことがあったな。……そんなおかしなことじゃないぞ、彼女の話題の大半は川近くの街についてだったから、その辺りに住んでいるのか、或いはその辺りが好きなのか……そう尋ねただけだ。別に普通の質問だろう?
彼女は困ったように笑ってごまかした、だが俺には彼女が一瞬顔を顰めたのが判った。まるで、取り返しのつかないことをしでかしたみたいに……。
会話が途切れ、暫し沈黙が降りた。……そして、ふと俺はいつ電車が駅に着くのかが急に気になりだした。
同時に、彼女や他の乗客達はいつ乗車したのかも不審に思った。果たして、彼女以外の乗客は実在しているのか? そう疑った俺は彼女に伝えた。
「車掌に聞きたいことがあるから少し席を外しますね」
だが彼女は何も返事をしない。俺はもう構わずに立ち上がった。ずっと同じ体勢で座っていたからか、やけに身体が重かった。
彼女は呟いた。
「賭けに勝ったのは君が初めて……」
何のことか訊いたが笑って答えない。
「お喋りに夢中になりすぎるのはいけないね——」
そう言うだけだった。……一目惚れされた? まさかな。
それで、俺は当初降りる予定の駅に一時間早く降り立ったという訳だ。
(続き)
- 誘い③ ( No.143 )
- 日時: 2011/06/25 17:29
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
解っている、話が繋がらないと言うんだろう? だが、そこが俺もよくわからないんだ。
気が付いたら列車が減速していて、俺は荷物を背負って扉の前まで歩いて、ごく普通に列車から降りていた。あの彼女が黒幕だったんだろう、恐らく。
……正体? そんなもの判る訳がないだろう……ひょっとしたらローレライ(岩の妖精、あるいはセイレーンの一種とされる。美しい声で男を誘惑し、破滅へと導く)だったのかもしれないな。ほら、妙に川のあたりのことに詳しかったし、声が綺麗だったから。
……なあ、それでも、お前は彼女と同伴したかったか?
(終わり)
- 祭にて① (怖い話) ( No.144 )
- 日時: 2011/06/29 18:39
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
(語り部:早喜綾音)
怖い話……うーん、迷うなぁ何話そ。
お、せや、あの話しようかな。うちが前体験した話なんやけどね。
地元の祭に参加しとった時の話なんやけどな。三年にいっぺん開かれるやつで、去年がちょーどその年やったねん。あ、かなり壮観なんやで。神輿とか出てみんな仮装して練り歩きとか。良かったら来てなー。
でもな、祭っちゅーもんは日常の中に異世界を繋げてまうもんでもある。もしかしたら、魔物とか幽霊とかそういったもんが紛れ込んどっても、だーれも不思議に思わんとこ……そんな感じ、みんなはせぇへん?
実際、仮装なんかしとったら隣に居るんが人間なんかそうでないかなんて、わからへんのやない?
あれは何年前やったっけ。その日も祭は盛況やった。仮装パレード追っかけてはしゃぎ疲れたうちは、細い路地に入って一休みすることにした。みんなは大通りに集まっとるから、ぜんぜん人気なくて静かなもんやったわ。
ちょぉ寂しいみたいな気分になりながら、うちは奥へ奥へ路地を入ってった。そこを抜けると一番神社に近かってん。ラストは神社で餅投げするし、もちろんそれに参加するつもりやったしね、自然と足はそっち向いとった。
あの子に遇うたんはそん時やった。
(続く)
- 祭にて② ( No.145 )
- 日時: 2011/07/03 18:20
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
「お姉ちゃん」
突然、横道から小さく声が聞こえたん。振り向いた先には、小学校低学年くらいの小ちゃな女の子が立っとった。
黒っぽい髪はうっとこでは珍しいけど、祭になるとよそんちからのお客さんもぎょうさん来はるし、別に不思議なことでもないわな。
眼の大っきい可愛い子やったよ。猫の眼色でカッパーってあるやん? あんな感じの眼やったわ。見てるとなんや吸い込まれそうな眼。
「ねえ、いこうよお姉ちゃん」
女の子が言うた。いつの間にかうち、その子と手ぇ繋いでた。で、神社に向かって女の子が駆け出した。うちも一緒に走ってった。
何でやろ、一度も会ったこともないはずの子やったのに、そうせなあかんような気になったんよ。
後から考えると不思議なんやけど、うち、あの子と走っとる間の周りの景色、ぜんぜん憶えてへんねん。おかしいやろ、ちっちゃい時から何度も通って目ぇ瞑っても歩けるくらい慣れた道のはずやのに。
そういや神社も変やったわ。人っ子一人おらんかった。仮にも神社、それもちょっとしたら祭の目玉イベントする会場やで? それに普段でも世話人の一人や二人、おらん方がおかしいやん。
静かな、ううん、静かすぎるそん中を駆け抜けて、うちらは走った。ちと急な階段走って走って、どこまでも上って。たぶん、駆けっこしてった先はあの神社やなかったと思う。この世であってこの世でない、そんなとこやったんと違うやろか。
鐘楼の上は抜けるような青空やった。あんなに走ってはずやのに、あの子はぜんぜん息も切らさんで、追っかけるうちを待っとった。
風は吹いとったけど、やっぱり音はなかったわ。くいっと、あの子がうちの手を引いた。
「いこ?」
言ったあの子の後ろに光が見えた。カッパーの大きな眼が鏡みたいにうちの姿を映しとる。それ見たらなんも考えられんくなってた。
手を引かれるままにうちは歩き出そうとしたん。あの子の向こうの、光の中へ——
「待て」
不意に後ろから腕を引かれた。聞き覚えのある声やったけど、その時のうちにはめっちゃ怖く聞こえた。咄嗟に振り払ってそのまま駆け出そうとしたんよ。すぐにもっと強く、痛いくらい押さえ込まれてんけど。
あの子と行くんや、って暴れたけどその腕は緩みもせんかった。
「っの……ボケ! 下見ろ綾音!」
耳元で怒鳴られたその瞬間、固まってもうたうちの手から、あの子の手の感触がすり抜けてった。
んで、うちは。見てしもうたんよ。投げ銭占いの崖の下には道路も、森もなかってん。闇みたいにまっ黒い、もぞもぞうごめいとる大きななんかが、森があるはずの場所を覆ってた。
つま先の間にそれが見えた。うちの足、柵の向こうにあってん。あと半歩出たらもうお空の上や。ううん、ちょい前のめりになるだけで真っ逆さまかもしれへんわ。
「お姉ちゃん」
息を詰めたうちをあの子がまた呼んだ。うちの前の崖の向こうから。瞳孔が針みたいに細なってた。怖かった。
(死にたない!)
うち、声も出んかったわ。何か喉に硬いもんが詰まったみたいに。ただ首を横に振るだけしか出来んかった。あの子はそんなうちを見て、
「あのとき、わたしたちもそうおもってた」
俯いてぽつりと呟いた。その目がうちを抑えとる腕を見て、うちの後ろをじいっと、睨んで。
「まだ、いっしょにはいけないね」
そう言った。はっとするくらい、ほんまに寂しそうな声やった。
「行かすか、ボケ」
兄ちゃんが——そう、そん時にはもうわかっててん——オオカミみたいに唸ってた。
あの子が笑った。唇の端を吊り上げて、まるであれやね、アリスに出てくるチェシャ猫の笑顔。
そのままあの子は身を翻した。崖下の闇に向かって。うちはそこで気を失ってしもうたん。
(続く)
- 祭りにて③ ( No.146 )
- 日時: 2011/07/09 13:43
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
闇の中に瞬くものが見えた。それが無数の誰かの目ん玉やと、そう思ったとこで頭が揺れた。そのまま襟首ふん掴まれて大車輪されとるんかと思うた。
「おい……おい、起きろ綾音! どこで寝とるねんしゃんとしろやコラァ!」
目ぇこじ開けてみたら兄ちゃんやった。何や思ってまた目ぇ閉じたら首の骨緩むくらい揺すぶられた。
……うん、心配してくれるんは嬉しいんやけど、何でも限度っちゅうもんがあると思うんよ。まぁええけど。
兄ちゃん曰く、うちは柵にもたれて寝とったらしい。投げ銭やりにきたカップルが見つけてくれたんやけど、揺すってもつついてもくすぐっても起きへんから、たまたま近くにおった兄ちゃんが出てきたんやって。
ちゅーか誰やねん、くすぐったん。
あの子のこと聞いてみたんやけど、見たっちゅー人はおらんかった。
うちが階段上がるのを見た人もおらんらしくて。むしろ何でおるん、って不思議がられたわ。話してもみーんな、夢でも見たんやないかって信じてくれへんかったしね。
ほんま、あの子は何やったんやろう。何処に行こうとしとったんやろ? 今でも祭の片隅で、誰か呼んでるんやろうか。
万が一遭遇してもついて行ったらあかんよ。何人か心配やから釘さしとくけど。帰ってこれる保証なんかないんやで。
……ああ余談やけど。その投げ銭占いの場所はな。昔、願い叶えて貰う代わりに、生贄の人間生きたまま投げ落としてたんやって。
(終わり)
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