ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 総念④(怖い話) ( No.17 )
- 日時: 2010/11/02 13:17
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: BkSc4LvP)
朝晩の怒濤の時間でなくても、次の電車はすぐに来る。私はホームの外れの方、ちょうど一番後ろの車両が停まるあたりで、安全用の停止線を踏むような格好で電車を待っていた。
さっきのひらめきの続きで、そういえば飛び込みをする人は恐怖に歪んだ顔ではなく、どういうわけか皆一様に驚いたような表情をして落ちていくという噂もあったなということを思い出したり、かと思えば昼食の予定のことを思案してみたり、そんなとりとめのないことを考えていると、じきに定刻が来て列車の到着を告げる放送が流れ出した。
私ははっと気を取り直して、こちらに滑り込んでくる電車の正面に顔を向けると、
どん、と。
一瞬何が起こったのか判らなかった。ただ背中に触れた衝撃と落ちていく感覚があって、そのうちに軸が半回転してホームの方向に身体が向き、そこで私は飛び込みに関する噂が正しいことを悟ったのだ。
何しろ私に手の届く範囲には、誰の姿もなかったのだから。
ああいう時は時間が引き延ばされたように感じるものなのだな、そこから私はほんの二秒足らずの間に、実に色々なことを感じ取った。
周囲の人々の硬直した姿、近づいてくる運転手のガラス越しの青ざめた顔、焼き上げられるような夏の陽の光。そしてはっきりと耳に届いた、複数の人の、安堵するようなため息を、な。
次の瞬間速度の戻った私の身体は固い石の上に打ち付けられ転がり、真っ白になった頭の横を耳をつんざく轟音が通り抜けた。
……怖がらせてしまったな、大丈夫だ。ああ、私は奇跡的にも無傷でそれを免れた。
あとで分かったことなんだが、私がホームの縁ではなく内側に立っていたことと、押す力がそれほど強くなかったことで、一度転落したものの線路の真ん中に落ちずにバランスを崩して、偶然にもちょうど真下にあった退避用の側溝に転がり込んだ、というのが真相だ。
いくら助かったとはいえ、あんな経験はもう二度としたくはないな。——何が何だか分からないうちに落ちていて、電車が止まって。気がついた時にも身体の震えが止まらなくてしばらく起き上がることもできなかった。今も思い出す度に背筋の冷える心地がする。
確かにこれはこれで珍しい話だが、何も私は自分の奇跡の生還を語りたくてこの話を持ち出したわけではない。だから私自身のことは後回しだ。
さて——先ほど背中を押す力が弱かったと言ったが、周りの方の証言と、そして私自身の経験が証明しているように、私を突き飛ばせる範囲には一人も人がいなかった。
そう、問題は、『誰も私を押さなかった』ことにある。
勿論私自身にそんな気がなかったことは、ここに誓って明言致そう。
しかし状況から言えば見事な身投げにしか見えず、誰も罪には問われなかった。
あのため息——駅員さんに引っ張り出された後、私はホームを通り抜けて一旦駅舎へ入ったのが、その時の雰囲気には一種忘れがたいものがあったよ。
予定を乱された憤り、目の前で事故の瞬間を目にした驚愕、珍しいものを見たという高揚感、それでも人は無事だったという晴れ晴れとした気持ち、色々なものの中を私は病み上がりの人間のような覚束ない足取りで通り抜けたが、その中でも、『解放感』が一番強かったと、私は確かに感じたのだ。
いったい何からの解放か。死を、それもかなり凄惨な死を目の前で見ること、それでも自分はそこから立ち去らねばならないという現実に向き合うこと? いいや、そんな掴みどころのないものではない。
私にもね、否応なしに分かってしまうんだよ。だって私でも彼らと、悲しいくらい同じで、どうしようもないほど繋がっているのだから。
それは……電車が定刻に来てしまうということからの解放だ。
(続く)
- 総念⑤ (怖い話) ( No.18 )
- 日時: 2010/10/03 10:27
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
遅刻しないように今日もいつもの電車に乗らなければならない。約束の時間までに場所に行かなければならない。たとえ不必要でも先方のことを考えてできるだけ早く着いていなければならない。
私達はいつも時間という名の鞭で追い回されている。大人でも子供でも、女も男もそれは同じこと。本当の意味で自在に生きている人間など、我が国には一握りしかいないだろう。
そしてそれに拍車を掛けるのが、電車に代表されるような、社会全体の緻密さだ。
私は以前イギリス在住の従姉のお宅に御邪魔した時、一日に数本しかない地方行きの電車が二十分も三十分も平気で遅れることに、正直言って酷い衝撃を受けた。
もし用事に遅れたらどうするんですか? それで乗客から不満は出ないんですか? と、思わず取り乱して食って掛かってしまったほどだ。だが彼女はただ一言、肩をすくめてこう仰った——仕方ないじゃない、と。
きっと欧州ではそれが普通のことなのだろうな。そんな齟齬があちこちに転がっていて、それに合わせて人々は暮らしている。だが我が国ではそんなことは通用しない。背景が邪魔をしないぶん、遅刻も、失敗も、全て自分の責任だ。
狂い無く歯車が回っているというのは理想的な状態だろう。また我が国の人々は昔からそうすることが得意だった。和を旨とし、隣の人との噛み合わせがずれないように日々心を砕いている。精密機械を作り出すことで、これまでは計り得なかった天候や自然のことまである程度は調整できるようになった。けれど我々はあることを忘れているのだ——人間は決して機械にはなれないということを。
機械はますます高度になり、世界はますます緻密になる。そして人は遅れを取り始める。電車は定刻に来るけれど、自分の睡眠時間は狂ったまま。言い訳は許されない、けれど少しでもいいから空いた時間が欲しい、誰かこれを止めてくれないか、予定を狂わせてくれないか。気まぐれな天災など当てにならない。何かとてもイレギュラーで、何か防ぎようのないもので、誰にも罪を着せずに済む方法で……。
つまるところ、人が死ねば電車は必ず止まるのだ。
沢山の人々の精神が集まるとどういうことが起きるか、個を尊ぶ人間には分かりかねるかもしれない。群衆というものは、それだけで一つの凶器、否、魔物となりうるのだ。呪いという言葉は時代錯誤に過ぎるが、昔から人々は願いの強さだけで様々なことを叶えてきた。例え集団によるものでなくても、人の想いが力を持つところはどこででも古来から目の当たりにしてきたのだ。それは今でもきっと変わらない。なになにの奇跡と言い換えても、おそらく本質は同じものなのだよ。
呪詛、言霊、集合的無意識。その手段は何でも構わない、ただもう電車が止まりさえすれば。
誰も私を押さなかった。しかし確かに人一人を突き落とす力があった。それはあの場にいる全員の、総括した願い、としか言いようがないものだった。何人かは理性を乗り越えて安堵の吐息を漏らしさえした。ああ、これで遅れても許される——と。
勿論、実際に誰かが誰かを突き落とすケースもあったのだろう。その場合、罪は速やかに忘却される。個人の手を介そうが、介すまいが、それを望んだのはそこに集まっている人みんななのだからね。
だから投身した人間は驚いているわけだ。その瞬間通り過ぎる、自分の内側からではない、外からの衝動に突き飛ばされるから。
ああ、なんとか理解して頂けたようだな。説明下手ですまない。そうだ。我が国、日本における飛び込みは、自殺ではない、常に事故という名の他殺なのだよ。
やっぱり、人間は人間が一番怖いものだな。
(終わり)
- Re: 怪奇拾遺集 ( No.19 )
- 日時: 2010/03/17 17:47
- 名前: 闇の中の影 ◆xr/5N93ZIY (ID: YDf5ZSPn)
>>18おぉ、すごく読みやすい文章です!
それに、事故という名の他殺、と言う所が
なんだか深いな〜と思いました。
- 返信 ( No.20 )
- 日時: 2010/03/18 13:03
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: EfKicuSN)
ご機嫌よう、闇の中の影様。
魔女は「結局生きている人間が一番怖いんだよ」的なオチが好きです(笑)
ご感想有り難う御座いました。精進します。
- カミサマカクシ ①(不思議な話) ( No.21 )
- 日時: 2011/02/28 21:56
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
彼女はとても純粋で、こまっしゃくれた中にも子どもっぽいところがあるから。神神に好かれてもおかしくはないのだろう。
(体験者:神風(かみかぜ)義兄妹)
「……スピカ?」
黄昏時、あるいは逢魔ヶ時と呼ばれている時間帯のことだった。
少年はそろそろ、自分の後ろに付いてきていると思っていた妹をおぶろうと振り返った。
踏み均された大地がむき出しになっている、名ばかりの街道。ひょろりと細長い影法師が紅い夕日に照らされて、深く濃く浮かび上がっている。先程までは確かに大小ふたつの影法師が並んでいたのだ。しかし今は少年のぶんだけ。
山道まで続いている一本道にはくっきりと踏み固められた茶色い線が伸びておる。道に外れようはずもない。彼女はふらふらとどこかへ、それも断りもなく行ってしまうほど幼くはないし、一体どうしてしまったのだろう。
人攫いか痴漢にあったのならば、自分にも気付かぬはずがない。まず最悪の事態を想定し、却下。それにこのあたりは大して治安も悪くない。せめて小さな妹を、守りきれると思うぐらいには。
ざあん。
音を立てて風が駆けていく。
どこか遠くで山と風と木木が鳴く。
闇の気配が濃密さを増していく。どうしようもなく空が紅い。
「——っスピカっ!」
搾り出すように張り上げた声は、裏返ってまるで悲鳴のようになってしまった。
あたりを見回して、もう一度。
「スピカ、っスピカ!?」
どうせ周りに人家はない、多少の騒音など問題にならないだろうと土地勘のある少年は踏んだ。
前を向けば後ろに、振り返ればまたその後ろに何かいるのではという、気味の悪い想像が押し寄せる。自分がずっと前を先導していたではないか、これ以上先にいるということは絶対にないだろう。
スピカの義兄である暁彦はそう判断した。
戻らなくては、早く。早く妹を見つけて家に帰らなくては……。
着物の裾をはためかせ、羽織を風に任せながら兄はもと来た道を走った。
どこから妹の姿を見失ったか? どこから会話が途切れたか?
……焦れば焦るほど混乱してくるのが自分でも分かる。ああ、こんな状態の記憶など、信用なぞできるものか……。
(続く)
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