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怪奇拾遺集
日時: 2011/03/19 18:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。

**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***



前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・

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邂逅① ( No.77 )
日時: 2011/05/07 10:28
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(登場人物:神風月光カミカゼ・ゲッコウ源柚姫ミナモト・ユズキ近藤弥慧コンドウ・ヤエ



*題材はマケドニアの昔話『月の夜の訪問者』から拝借しました





 むかしむかしのお話です。ある町とも村とも甲乙付けがたい人里に、神風月光と源柚姫という恋人たちが住んでおりました。
 二人の家はまるでお互いを見つめあうように建っておりましたが、家の前は大きな川で隔たれていたので、家の行き来は少し不便でした。
 ですから二人は、いつも川辺でめいめいの趣味に浸りつつ、長い間仲良くお喋りを楽しんでいました。
 柚姫はなかなか賢くてお喋り上手なお嬢さんでしたが、いつも恋人の月光青年だけには言い負かされてばかりでした。それでも、一緒に居て言葉を交わすのは彼女にとってこの上なく幸福な時間でした。それに月光だって意外とシャイなのか口にはあまり口に出しませんが、柚姫のことを深く深く愛しているのでした。

 そんなある日のことです。
 月光の家の縁側で、すっかり散ってしまった桜の木を、二人で眺めていました。すると、

「柚姫さん。私は明後日に、都心部に近い街へ行くことになったのです」

 月光の突然の告白に、彼の家に遊びに来ていた柚姫は驚きました。
 詳しく理由わけを聞くと、以前世話になった者から頼まれ、数ヶ月間その町で古書店の経営を任されることになったそうなのです。
 しばらく恋人と全く会えなくなることに目に見えて落ち込む柚姫でしたが、聡明な彼女は仕方のないことだと思い直しました。

「冬が来る前には戻ります。それまで待っていて頂けますか? ああ、でもうっかり屋の貴女のことだから、戻る頃には私のことなんてすっかり忘れていらっしゃるかもしれませんね」
「まあ失礼な。わっちは貴男のことくらいは忘れるわけありんせんではない」
「どうでしょうね」

 可愛らしく口をとんがらせる柚姫に、月光は意地悪そうに笑い返します。そして上着のポケットから砂時計を取り出すと、彼女の手のひらにそっと置きました。

「これを預かっていてくれませんか。大事なものですからね、私が戻るまで大切に保管しておいて下さいね」

 秘色ヒソク色の硝子の中の青い砂を少しの間見つめていた柚姫は、それを掌で優しく包みこむと、そっとポケットにしまいました。そして脇においてあった紙袋から真っ黒なマフラーを取り出します。

「もう霜降月の後半でありんすから」

 月光は優しく微笑んで、ほんのり頬を赤く染めた恋人の頬を撫でました。

「心配しなくても、すぐに帰ります」
「——待ってありんすわ、ずっと」

 その翌日、一人の青年は寂れた集落からを旅立ちました。
 それからというもの、柚姫は毎日のようにふたりで会った川辺に座り込んで、砂時計を撫でたりひっくり返したりして指先で弄びながら、遠くの恋人に想いを馳せました。
 彼女はきらびやかな外見と抜け目の無い身のこなしとは裏腹に、一途な性格でした。というより、月光に対してだけはとてつもなく一途な女性だったのです。
 春が過ぎ、夏が訪れました。夏が終わりました。待ち焦がれた秋がやって来ました。しかし、いとしい恋人は帰ってきませんでした。秋が去りました。
 冬になって、雪が辺り一面を白く染めました。それでも、それでもです。大好きな月光は帰ってこないどころか、便りのひとつも寄越しません。
 柚姫が不安を募らせるのは、無理もありませんでした。
                             (続く)

Re: 怪奇拾遺集 ( No.78 )
日時: 2010/06/25 16:19
名前: ゆっきー★ ◆bswP1xdNwk (ID: MlM6Ff9w)

初めまして……ではなく、結構昔に一度お会いしているのですが、多分忘れられているかと。
いつも拝見させて頂いておりますが、とにかく上手いです。私もこれくらい書けたら……。

月光はどうなったのか……続きが楽しみです。頑張ってください。

返信 ( No.79 )
日時: 2010/06/25 20:21
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

こんばんは、ゆっきー様。
いえいえ、そんな滅相もないですよ。こちらこそ覚えていて下さって嬉しいです。
コメント有難う御座います。精進します。

邂逅②  ( No.80 )
日時: 2011/06/12 15:35
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

 ある月末、柚姫は外国から帰省してきた友人の家に泊りがけで遊びに行きました。
 その二日目の夜のことです。柚姫は考古学者であり旧友である近藤弥慧とチェスをしながら、学生時代の思い出を懐古しておりました。

「……月光くんは、どうして戻ってこないのかしら」

 突然柚姫はぽつりとそうこぼしました。弥慧は涙声に気付かぬはずもないのに、冷静に相槌を打ちました。

「向こうでの仕事が忙しいんじゃないのか?」
「それでも、秋には戻ると言っていたのよ」
「じゃあ本を読むのに夢中で帰るのを忘れているのさ」
「……なら良いけど、もしかしたら、向こうで新しい恋人ができたのかも……」

 基本的に楽観思考の柚姫でも、さすがに不安と焦燥が無意識の内にたまってきていたようです。いつものなら、すぐに冗談を言って笑い飛ばしてしまうのに。

「あの本馬鹿が二股だと? そんな面白いことがあったら大笑いだ!」

 弥慧は笑い飛ばすと、出来立てのホットココアを淹れて、ブルーモードの友人に差し出しました。受け取った柚姫はなかなか飲もうとしません。カップを両手で抱えて、暖を取っているだけです。
 テーブルの向こうの友人は、どことなくいつもより多弁でした。柚姫は、少しだけいつもの自分も取り戻したようでした。
 降り続けていた雪が止み、冴えた月が姿を見せた頃。
 バイクのエンジンの音が遠くから近づいて来ては、また遠ざかって行きました。

「ねえ、誰なんだろうね?」
「本当にな。来たかと思うと、また行ってしまうし。まるで誰かを探しているみたいだ」

 そう言っていると、エンジン特有の小うるさい音が弥慧の家のそばまで来て、ピタリと止まりました。

「……あなたの家の前で止まったわよね」

 柚姫がそう話しかけたとき、呼び鈴の音がしました。こんな真夜中に、いったい誰なのでしょう。
弥慧は警戒心タップリに窓から外をのぞきみました。

「全身真っ黒で、男のようだ」
「私も見たいわ」

 柚姫が見てみると、それは確かにほぼ全身黒尽くめの若い男性。一見暗殺者か不審人物です。
しかしよくよく見つめていると、それはずっと離れていた自分の恋人に見えました。若い男がヘルメットをはずしました。
 そこには、何度も夢に見た愛しい恋人の顔が。

「ああ、月光くん!」

 彼女は反射的に玄関に駆け寄り、ドアを開けました。

「御機嫌よう柚姫さん。申し訳ない、随分と待たせてしまいました」

 目の前に立っている、どんなにか待ち焦がれた恋人の声に、柚姫は一瞬夢なのではないかと疑いました。ですが恐る恐る触れた手は確かな感触を伝え、列記とした現実だとことを教えてくれました。
 浮かんでくる涙を抑えきれないまま、柚姫は月光の手を強く握りました。この冬の夜道を歩いてきたのでしょう、その手は驚くほど冷えていました。

「月光くん、遅いじゃない。わっちはすっかり待ちくたびれてしまいんした」
「すみません——不慮の事態が多くて。でももう大丈夫です、これからはずっと一緒に居られますよ」
「良かった……。ああ、貴男の手ずいぶんと冷えてありんすねぇ。暖炉にあたってきなんしよ、ねえ弥慧、良いでしょう?」

 柚姫が振り向いて弥慧に頼むと、彼女はなぜか哀しそうな、どこか怒ったような表情でじっと友人の恋人を見ていました。月光も彼女の視線に気付いたのか、苦笑を浮かべます。

「それには及びませんよ。こんな夜更けにすみません、近藤さん。私達はもうお暇させて頂きます」
「でも、こんな夜中に」

 困惑する柚姫でしたが、

「早くふたりきりになりたいのですよ」

 耳元でそんなことを囁かれたら、頷かないわけにはいきませんでした。
 顔を真っ赤に染めながら弥慧にお暇を告げ、そそくさとコートを羽織ります。その背中に、

「おい」

 旧友の、女性にしては低い声が被さりました。

「柚姫、少し訊いていいか」
「なあに?」
「お前は、そんなに、その書痴男が好きなのか?」

 突然の問いに虚を突かれましたが、答えは一つしかありません。

「もちろん」
「誰よりも、一番にか?」
「ええ」
「失えば、死んでしまうほどに?」
「ええ」
「そうか……」

 きっぱり答える柚姫。弥慧はそれだけ言いました。
 そしてソファにかけてあった冬用のショールを彼女の華奢な肩に巻いてあげました。

「お前のマフラーはまだ濡れているから、これを使うと良い」
「え、あ、ありがとう……。明日にでも返しに来るわ」
「いつでも構わない。私は冬が終わるまでここにいるから」
「でも」
「いいんだ。それと、いつまでも人様の家の玄関でいちゃついてるんじゃない、砂糖が出そうだ!」

 そう叫ぶと、弥慧は二人を文字通り玄関先に放り出しました。

「恩に着ます、近藤さん」

 去り際に月光がそう囁きましたが、弥慧は聞こえない振りをしました。
 真っ黒な夜の中、真っ白な道を進んでいくバイクに乗る黒と紫。バイクが去っていくのを、弥慧は窓から見えなくなるまで見つめていました。
 完全に見えなくなった後、彼女は小さく呟きました。

「馬鹿どもめ」

 その声は何かに耐えるように低かったので、聞こえた者もないままに、すぐに外の風の音にかき消されました。
                                            (続く)

邂逅③ ( No.81 )
日時: 2011/05/07 11:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

 月の出ない夜でしたので視界は悪く、風は切るような冷たさでしたが、隣に恋人が居るというだけで、柚姫の心は浮き立っていました。しっかり抱きついた恋人の身体はやはり冷たくて心配になりましたが、彼の首に巻かれた漆黒のマフラーが目に入ると自然と笑みが浮かびます。

「ねえ、月光くん。わっち一日だって月光くんのことを忘れなかったぇ。貴男が預けた砂時計も大切に持ってたんでありんすから」
「恐縮です……柚姫さん、どうやら私は自分で思うよりずっと弱かったようです。弥慧さん達がおられるのだから何の心配もないとわかっていたのですが……」

 バイクが一時停止しました。月光はただ前方を見て、腰にまわされた恋人の手を優しく、冷えきった己の手でつつみこみます。

「私は、業の深い男です」

 彼の声は、まるで懺悔でもしているかのような、腹の底から絞り出したような辛そうなものでした。柚姫は消えていた不安がまたぶり返してきて、月光の冷たい身体に頬を寄せました。

「……そんなこと言わんせんでよ、わっちは間違いなく月光くんが好き、貴男が戻ってきてくれてすごく嬉しい。ずっと一緒に居たいの」

 月光に対する想いをそのまま伝えると、黒髪の青年は一瞬黙ってから、

「ありがとうございます」

 黒髪の青年はすばやく身体の向きを変え、愛しい恋人の花唇くちびるに、触れるだけの口付けを施しました。
 幸せそうな恋人達の笑い声が、夜の空気を小さく震わせました。二人の進んでいく道を、月が明るく照らします。
 それっきり、ふたりの姿を見た者は居ませんでした。
                                  (終わり)


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