ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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怪奇拾遺集
日時: 2011/03/19 18:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。

**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***



前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・

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間違われた話⑥ ( No.102 )
日時: 2010/12/04 10:40
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 ……何も知らなければ、ただの『奇跡的なエピソード』で終われるかもしれないわね。
 実際、私も最初は全てを夢だと考えた——けど、スグに夢ではないと気付いたの。

 イワンが言った。

「しかし、不思議なこともあるものですね」「不思議なこと?」

 私は尋ねる。

「那智さんのこともそうですが……実は、無くなったはずの食材が冷蔵庫に入っていたんです」
「えっ?」

 それはありえない。私は反射的に思った。
 食材は不自然に消失した際、最初に探したのが冷蔵庫。それは全員が確認している。見間違いなんてあるはずがない。

 スピカがさらにとんでもない言葉を続ける。

「それから、イワンが壊れた橋について役所に問い合わせたのだけど」
「……けど?」
「そんなものは知らないと言われてしまったの」
「……嘘でしょ?」
「それが本当なんだよ」

 スピカが困った表情を浮かべながら言った。

「私も何度も訴えたんだけど、役所の返答は“知らない”の一点張りで」
「そんなこと、だってそんなことって!」
「それから実はその、私自身もあの橋のことを上手く思い出せなくてね……」
「へっ?」

 そこで唐突に、私は彼女の言葉を思い出した。

 彼女がみんな橋のことが分からないし覚えていないだろうと言った。そして、その理由はある女性の命を奪うためだけに用意されたものだったからとも……。
 あの時は意味が分からなかったけど、今なら少しだけ理解できるような気がする。
 つまり橋も食材も全ては『死神』が女性を自然に死へ向かわせるために仕組んだことだった。
 けど、手違いがあった今はもう必要ない。それで、関わりの少ない人間の記憶から有耶無耶にしている、もしくは始めから関わっている者の記憶にしか存在してなかったのかもしれない。
 どちらにせよ、突然消えた橋も突然消えたり戻っていた食材も夢や奇跡で片付けられるようなことではないでしょう。
 そういえば彼女は『時間を巻き戻せない』と言っていたけど、記憶の操作はある程度なら出来るのかもしれない。
 それなら私の記憶も消してくれればと思う反面、やはり理由が分からず事故にあった事実だけが残るのは考えものね。

 だけど。

 ただ一つ無意識に考えないようにしていた、しかし避けては通れない疑問が否応なしに浮かんで来た。
                                            (続き)

間違われた話⑦ ( No.103 )
日時: 2011/04/17 09:36
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

 それは……一度は助かった彼女が、私が助かった今どうなっているのかということよ。
 普通に考えれば、代わりの私が生きているのだから本来亡くなるはずだった彼女が生きているとは考えらない。
 ある言い伝えには、死神のカマは必ず何者かの魂を獲るというものがある。そして、死神の鎌から逃れるためには他の者の魂を捧げなければならないといわれている。
 だけど、自分が死ぬのは嫌でも、私が助かったせいで誰かが死ぬなんて——とてもじゃないけど耐えられるものじゃないわよ。
 でも、私自身にはどうすることも出来ない。
 こんなもどかしくて辛いことになるなら、事故が心の傷になったとしてもいいから、いっそ記憶を消してほしいと思ったわ。
 ……ふと、フードの女性が最後に見せた表情が頭を過ぎた。
 あの嘲笑は、本当の意味を理解出来ずに呑気なことを言った私に対するものだったのかもしれないわ。

『楽しくて忘れちゃいそう』

 大事な一つの命が関わっているのに、私はなんてことを言ってしまったのかしら。

 ……決局、三人にその話はしなかった。
 信じて貰えないとかではなくて、むしろ話せばきっと三人は信じてくれたでしょうけど……だからこそ言えなかった。
 三人に話すことで『彼女』まで真相を知ってしまったらどうしよう……その時は思ったの。
 そして何よりも運命が死神のミスで無理矢理捻じ曲げられるという——その、“自分ではどうにもならない天命”を受け入れることが出来なかった。

 もちろん、本当のところは分からない。彼女は死んでないかもしれないし、もしかしたら彼女なんて最初からいなかったかもしれない。
 もしくは私が出会ったフードの女性だって全てはただの夢であったという考えの方がずっと健全だわ。そもそも死神が存在するなんてそんなこと……。
 今はある程度の気持ちの整理が出来ているつもりだけど、それでも出来うる限り、真実は解き明かさないでいられたらと思う。



 以上が、私の体験した出来事についてだよ。
 私自身が半信半疑だから、上手く伝わっていなかったらゴメンなさいね。
 ただ、私はもう二度と彼らには会いたくないし会わないで済むことを願ってるよ。
                                            (終わり)

久しぶりに会ったいとこ①   (不思議な話) ( No.104 )
日時: 2011/01/05 11:19
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

語り部:早喜綾音(さき・あやね)



「久しぶり、綾音ちゃん」

 前の冬から髪を伸ばすことにしたんだ——。

 電話でそう言っていた大好きな従姉は、大人びた表情でにこりと笑いかけてきました。



 お八つの時間を少し過ぎた駅は静かでした。これがもう少し早いか遅かったならば、仕事で都心に向かう大人たちや地元から少し離れた学校へ行く学生たちでよく混雑していたことでしょう。
 今ではレトロの分類に入りつつある、木造駅のホームは全ての日差しを遮ることはできません。しかも熱がよく閉じ込めます。それでも爛爛と輝く太陽の真下に居るよりはずっと心地がよいと、綾音はぼんやり考えていました。
 最終駅へと出ていった電車が作った風がスピカの髪を揺らしました。それが、目の前の懐かしい笑顔に固まってしまった綾音の意識を正常に戻しました。

「お、スピカお姉ちゃん、久しぶり! 元気やった?」

 不自然な沈黙を悟られないように、綾音はつとめて明るく声をかけました。

「うん、元気。綾ちゃんは?」
「元気やけど、この暑さでまいってまいそうやわ」

 スピカも、そうだねえ。小さく頷きました。

「よく来たわねぇ、スピカさん。勝ちゃんやお母さん達は来れなくて残念だったけれど、ゆっくりしておいきなさい」

 祖母が、骨張った手でぽんぽんとスピカの肩を叩きます。
 彼女の(血の繋がりはないけれど)たった一人の弟であるしょうは流行りの風邪を引いてしまって、今回は遊びに来ることができませんでした。
 彼女の父は仕事で地方に出かけてしまっていますし、父を除いた家族全員で来る予定だったのですが、息子がそれでは母親は離れるわけにはいきません。
 もちろんスピカも、そんな状況で大阪まで出てくる気など毛頭無かったのですが、母の『ゆっくり遊んできなさい』指令の元、急遽、彼女だけが綾音の住む街まで遊びに来たのでありました。

 きっと彼が来なくて寂しいのは祖母の方だろうと、綾音は心中苦笑します。
 やや年が離れている従弟は甘えるのがとても得意で、誰にでも好かれるという得な性質をしていました。
 しかし綾音自身は勝のことがあまり好きではありませんでした。我侭とまではいきませんが、やや腕白が過ぎるところが苦手だったのです。
 その点スピカは年上ということもあり、とても大人びていて面倒見がいい子でした。ですから、あまり年が変わらないというのに、まるで自分の姉のような気がして、綾音はスピカをとても気に入っていたのです。

「ねえ、おばあちゃん、アイス食べに行きましょう!」
「その前に、ご飯でしょう。デパートに行きましょうか」

 綾音はスピカの手を取って歩き出しました。しかし。苦笑するような従姉の顔に違和感を感じて、ふと首を傾げます。
 一年半も離れていたのです。どこか変化があってもおかしくはありません。現に髪も、背だって彼女は伸びていました。服装が違うからでしょうか?
 可愛いと言うよりは、綺麗という言葉が合っている気がして——。

(そのせいなんやろうか)

 綾音には、どこか従姉が遠く見えたような気がしてなりませんでした。
                                (続く)

久しぶりに会ったいとこ② ( No.105 )
日時: 2011/01/05 11:18
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 綾音は、従姉がいつも我慢しているように見えました。
 今日だって、祖母が洋服や玩具を買ってあげようと言うたびに遠慮ばかりして、試着さえしなかったのです。
 彼女は強請ることは我侭、甘えることは罪悪なのだとでも思い込んでいるのでしょうか。それが綾音にはわかりません。せっかく買ってくれるというのですから、買ってもらえばいいのに。
 ただ、綺麗な色紙に包まれたお菓子や大阪名物の象ったキーホルダーなどは、友達のお土産にしたい。それだけはとても縮こまって祖母にねだっていました。それが綾音には、なんだか面白くありませんでした。
 聞けば、従姉弟が住んでいる、名ばかりの『街』はショッピングをするデパートも無ければ公園もないという、ただ田園と畑、森があるだけのところらしいのです。
 そんなすっからかんなところのなにが面白いのか、従姉から田舎の不満不平をひとつも聞いたことがありませんでした。自分はそんなところには半日もいられないだろう。綾音はそう思います。
 つまらなくないよとは従姉の弁ですが、そんなつまらない場所に越していった彼女を哀れに思いました。昨年だって、大雑把になった行動や少年じみた言葉遣いで綾音の母親に説教を食らっていたのです。
 大人びた姉のようだった従姉が、引っ越してからなかなか会えなくなって。どんどん変わっていく。けれど、久しぶりに会った彼女はきらきらと輝いていて、綾音にとってとても眩しいものでした。とてものびのびとしていて、まるで春の新芽か夏の若葉のように明るい年上の従姉。

(——なにがあったんやろう)

 田舎に引っ越す前、綾音の家の隣に神風かみかぜ一家が住んでいた頃、綾音とスピカは誰より仲良しでした。

 ——なにかが大きく、従姉を変えている。
 綾音はそう思いました。
                                                        (続く)

久しぶりに会ったいとこ③ ( No.106 )
日時: 2011/01/05 11:28
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 綾音はベッドの中でごろりと寝返りを打ちました。寝相がひどいのではなく、眠れないのです。考えごとをしていたせいでもありますが、蒸し暑い上、なぜか胸騒ぎがするのです。
 夜になって少々気温が下がっても、家の中の温度は大して変わりません。少しは涼めるだろうと、綾音は一階の台所へ降りていきました。今は自分以外誰も居ない真っ暗な台所は、自分の家であってもどこか恐ろしいものです。昨日観たホラー番組の影響かもしれません。
 水道の蛇口を捻って、綾音は生ぬるい水を飲み干しました。流しっぱなしの水は、ざあざあと音を立ててシンクの排水溝に消えていきます。

 ——蛇口なんてね、ないんだよ。井戸の水。

 従姉の楽しげな声が、頭の中でよみがります。綾音は、井戸水を飲むどころか汲んだ経験さえありません。スピカが楽しいのなら、自分も楽しく思えるだろうか。

 ——ごう。

 一瞬の大きな風が台所の窓ガラスを揺らしました。そのあと訪れた静寂に耳を塞ぎたくなりながら、自室へ戻るべく台所を後にします。暗い廊下に響くのは、ぺたぺたと湿った綾音の足音だけです。

(姉ちゃんもう寝てもたんかな)

 離れた隠居所へ思いを馳せていると、かすかな、足音や車の排気音とは違う、なにかの音が綾音の耳に届きました。それはそよ風の音、水のせせらぎ、もしくは歌にも似ていました。
 ふと好奇心にかられて、綾音はその音の方向に歩み寄ります。

「—……、……、——……」

 家の中ではなく、庭から聞こえてくるようです。縁側に雨戸は引かれておらず、夏用のカーテンとガラス戸だけが家と外界を遮っていました。
 カーテンの隙間から漏れる柔らかい光。今晩は月が出ています。闇夜に慣れた目に、月光はまるで電灯のよう。
 綾音は、そっとカーテンの隙間から覗きこみました。そして、目を見開きました。
                            (続く)


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