ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 人形① (不思議な話) ( No.27 )
- 日時: 2010/08/28 11:09
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
(語り部:御山孫四郎(おやま・まごしろう))
あれは——そうだな、十年くらい前の話だ。
その日俺はちょっとした用事があって、車を使うには近すぎるが歩いて行くのには離れすぎている場所まで行かなきゃならなかった。まあ、用つっても仕事じゃなかったからな。これで良いだろうって自転車を使うことにしたんだ。
家を出るとすでにあたりは真っ暗で、俺はライトを点けてこぎだした。その日は霧が少し出ててな。でもまあ、俺くらいともなれば多少の霧なんて関係ない。なんの問題もなく走ってたんだ。
どれくらい進んだ頃だっただろうか。突然、地面の上になにかが横たわってるのが見えた。暗闇と霧のダブルパンチっていうのはなかなか恐ろしいもんで、どんなに薄いもんだろうと一旦出ると視界の確保が一メートル先でも危うい。
だからそのときも突然、なんて見え方をしたんだろうな。ともかく、最初俺はそれが猫かなんか、そういう動物の類いだと思った。けど違った。自転車から降りて拾い上げたそれは、人形だった。
身長は握りこぶしを縦に二個くっつけたくらいで、ビスクドールっていう……ええとなんだ? 精工に作られた球体関節人形、っていう認識で構わないよ。
綺麗な人形でな、白い肌にブルーの瞳、黒髪の巻き毛のボブカットが良く映えていてフリルが付いた白のブラウスとたくさんひらひらした、なんて言うんだろ? ……ああ、ギャザーが付いた青色のスカートを着て、薄い青色の薔薇が付いた帽子を被ってた。そいつが道端に落ちていた。
棄てられた、って風には見えなかったな。どっちかっていうと、どこかのご息女様が車で通りかかって窓から落としてしまいました、っていう方がしっくり来るような。そんな良い人形だった。
俺は少し悩んだけど、結局そいつを連れていってやることにした。あ、拾得物を警察に届けるのは当然のことで、義務でもあり……変な趣味は無いからな!
話を戻すよ。俺は人形をカゴに寝かせるとまたこぎ始めた。
霧は相変わらずだったが、それでもまだ問題じゃなかった。問題は、路面の方にあった。よくよく知ってる道だからこそ余計にまずかったのかもな。
——ぶっちゃけると、俺はちょっとだけ気が弛んでいた。だからそこの道には軽い傾斜がついていて、砂利が散らばり、更には霧のせいでそれらが濡れて普段以上にスリップしやすい状態であることを失念していた。
ガリガリガリ、ってタイヤが砂利を噛んで空回る嫌な音がして、あっと思ったときにはもう、硬いコンクリートの上に放り出されてたよ。いや、あれは叩きつけられた、って言った方が正解か。
すぐに起き上がろうとしたんだが、地面についたはずの右腕や自転車の下敷きになった右足の感覚がどうにも覚束なくなるぐらいだったから。相当なダメージだったんだと思う。指は動いたから折れてないっていうのは分かったんだが、それで安心してる場合でもなかった。
俺の故郷では道路法規上、自転車は車道を走らなきゃならないことになってる。つまり、俺が寝そべってたのは車道のど真ん中で、いつ後続車がきて俺を踏みつけていくかも分からない状態だった。加えて、その日は霧が出てたわけで。
車を運転出来るかどうかはこの際関係ない。助手席だろうが後部座席だろうが、とにかく車に乗ったことのあるヤツなら車のタイヤ付近がどれだけの死角になるのか、想像するのは簡単だろう? 普段でさえそんなんだ。これが夜、しかも霧でライトが足元をしっかり照らせてないような状態になってみろ。何を轢きながら走るか分かったもんじゃないぞ。
そんなわけで俺はなんとかその危険地帯から脱しようと満足に動かない身体で自転車をどかそうとした。しかし……あれなんでなんだろうな。悪いときには悪いことが重なるもんで、俺はこっちに向かって来る車のライトを見つけてしまったんだ。そして道を伝う振動と重低音から、それがかなりの大型車ってところまで——分かりたくもなかったが、分かった。
呑気者の俺も焦った。自転車をどうこうするのは二の次にして、とにかくまずは脱出することに専念したんだ。けど、変なんだよ。どういうわけなのか、どんなに動かしても自転車の下から足を抜くことができない。ひょっとして足に力が入ってないのか? そんなことを疑って無事な左手も使って足を引っ張ったんだが、それでもまだびくともしない。真っ暗だし霧は出てるしで何も見えなかったけど、どうやらなにかが俺のズボンの裾を固定してしまっているらしい。たぶんペダル辺りだろう……まぁ、そんなのは俺にとってはどうでも良かった。
重要なのは、そこから逃げられないってところだ。
車のライトはさっきよりもずっと大きくなっていた。俺のところまで届いてるんだから、いい加減気づいてスピードを落とすなり回避行動を始めてくれても良さそうなのに、その気配は全くない。ただこっちに真っ直ぐに突っ込んでくる。
いよいよ勝負のジャッジが迫ってきてるのを感じた。
俺はとにかく気づいてもらおうとムチャクチャ叫びながら、自転車ごと身体を引きずることにした。つっても、もう逃げてる時間なんてないからな。端に寄るんじゃなくて、一か八か、その大型車の下を潜れるように体勢を調整したんだ。
大きな車はタイヤも大きいから、必然的に車高も高くなってる。勝算は限りなく低かったが、それでもまったくのゼロってわけでもない。あとはひたすら神に祈り運に頼るだけだ。
俺は少しでも五体満足の生存率をあげるために、ぼんやりとした車のシルエットを睨み付けて隙間を探り続けた。
そしてついにライトの明かりが俺の目をつぶすほど近くまで来たときだった。
信じられないことに、誰かが俺の前に飛び出した。……先に言っとくけど幻覚なんかじゃないぞ。
逆光のせいでよくは見えなかったけど、そいつは両手を広げてまるで俺のことを守ろうとしてるみたいだった。それで確か、青くてヒラヒラしたものも見えたような気がする。もっと他にもあったはずだった気もするけど、とにかく一瞬のことだったし、俺はびっくりしてそれぐらいしか分からなかった。
(続く)
- 人形② (不思議な話) ( No.28 )
- 日時: 2010/04/08 18:45
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: Kxa936Ty)
すぐに耳をつんざく甲高い音がした。その車のブレーキ音だった。車っていうか、トラックだったんだけどな。工事現場とかでよく見る。
鼓膜が破れるかと思ったけど、俺はなんとか轢かれずに済んだ。けど、車が軋みながら停まったときに吐き出された熱風が顔面に直撃した、って言えばどれくらいやばかったか分かるか? ……分かりづらいか。分かった、言いなおす。
俺は車両の下に潜り込むのをギリギリで免れた状態だったんだ。
間近で見てゾッとしたぞ。車と地面の間にある隙間は俺の身体でギリギリ、自転車なんてとてもじゃないが通れそうになかった。
もしあのまま自転車と仲良く引きずられたら……考えるだけでちょっとしたホラーだよな。
そうこうしてる内にドアの開く音がして運転手が慌ただしく走り出てきた。今どきは珍しくないトラック姉ちゃんだ。
そして車の前に回りこんで来るなり叫んだ。
「あんた、いきなり飛び出すなんて危ないじゃないか、お嬢ちゃん!」
——って。
(続く)
- 人形③ (不思議な話) ( No.29 )
- 日時: 2010/08/19 13:43
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
どうだ、お前ら。さっき俺が見たのは幻覚じゃないって分かっただろう? いいか、そこんとこをよく覚えておけよ。
俺を見つけたときの運転手のオネエサンの顔は、そりゃあ凄かった。あんな顔を出来るのはたぶん、今世紀最高のマジックショーを見せつけられた観客ぐらいだろうな。
まぁ無理もないっちゃ無理もないか。女が飛び出して来たかと思えば転がってるのはどう見ても男で、しかも轢く寸前だったんだからな。そりゃ驚くだろう。
運転手はすぐに駆け寄って来た。……実はすでに轢いたあとだと勘違いして、そのまま逃げを打つんじゃないのかと少しだけ疑ったんだけど、それは杞憂に終わった。
俺は差し出された手を有り難く借りて身体を起こした。どれだけ引っ張ろうとビクともしなかった足も、すんなりと抜けた。不思議なもんだよな。運転手も俺もまだ自転車には触れてなかったのに。けどまぁ、さっきはかなり焦ってたわけだし、冷静になればそんなもんなのかもな。
それから俺はなぜか車の前に落ちてた人形を回収して、痛む身体を引きずりながら運転手と一緒に飛び出して来た少女を探した。
思いつくところは全て見て回ったよ。車の前方から側面から車体の下から……タイヤの下までだ。だけど、どこにも居ない。ここまで探しても居ないってのは、さすがにおかしいだろ? ひょっとしたらなにか見落としてることがあるのかもしれない。
そこで俺は改めて運転手に訊ねたんだ。その少女はどんな感じだったんですか、ってな。
運転手は、
「……黒髪の巻き毛ボブで、」
それで、と幾分か青い顔で、起こした自転車のカゴに入れておいた彼女を指差して言った。
「そこの人形と、良く似た格好の少女だったよ」
……その後、俺と運転手は別れたが、最後までその場所には俺達二人しかいなかった。俺達以外には、誰もいなかった。
……とまぁ俺の話はこんなところだな。ま、信じる信じないはお前ら次第だけどな。
あー、別に怖い話ってわけでもなかったか。どっちかっていうと不思議系で——ん? 人形? ああそうだな。結局、その日はそのまま家まで連れて帰ったよ。警察まで寄る気力も体力ももう無かったからな。
それで次の日に見たんだけど、彼女は載せておいたテーブルの上から跡形もなく消えてた。以来、どこを探しても見当たらなくて、しょうがないからそれっきりだ。
ただ、それから何度か色んなとこで死にそうな目、危ない目に遭ったんだけど、そのたびに優しそうな微笑みを浮かべた彼女を見かけた。……きっとまた、俺のことを守ってくれてたんだろうな。
そうだ、良ければ今度彼女に会いに来なよ。客人が来ると結構な確率で彼女も出てくるし。
——歓迎するぞ?
(終わり)
- Re: 怪奇拾遺集 ( No.30 )
- 日時: 2010/03/24 16:31
- 名前: 樹 (ID: 9Q/G27Z/)
一つ一つ物語が面白かったです。
文を多く書いているに、読みやすい。というよりは、とてもひきつけられました。
スラスラというわけではなかったのですが、それなりにすんなりと頭の中に入ってきました。
どうも時間が無く全部読むのに時間がかかってしまいましたが、コメできる時間ができてよかった。
短編は書くのが難しいのに(自分的に)コンナに上手く書けるのは尊敬します!ネタが思いついてもそれを書くとなると絶対にダラダラとしてしまうのが自分です;
あと最後の終わり方がまたゾクゾクします。(すごいって意味で)
新しい物語待っています。
- Re: 怪奇拾遺集 ( No.31 )
- 日時: 2010/03/24 19:55
- 名前: 闇の中の影 ◆xr/5N93ZIY (ID: YDf5ZSPn)
なるほど、拾ってくれた礼で助けたのか。
なんて良い人形なんだ!
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