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怪奇拾遺集
日時: 2011/03/19 18:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。

**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***



前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・

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落語怪奇談① (怖い話) ( No.137 )
日時: 2011/05/03 17:52
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(語り部:羽柴藩兵衛はしば・はんべえ





 それでは僭越ながらお話し申し上げましょう。言葉だけで相手に恐怖を与えることが出来るか否かは、どうかは語り手の腕次第です。私のようにあまり話し上手ではない者では皆さんを震え上がらせることもできないしょうが、どうかしばらくの間ご拝聴願います。
 皆さん、落語、というのをご存知でしょうか。
 ご存じない方のために軽く説明をさせて頂きますね。落語とは江戸時代……およそ四百年ほど前から続く我が国の伝統的な話芸です。
 かなり簡潔に言ってしまうならば、座って行う一人芝居のようなものですね。使われる小道具は扇子や手ぬぐいなどごく限られたもので、それをお箸や筆に見立てて行う所作はどこか優美さすら感じさせます。
 もちろん、話芸と申しますから語り手……いわゆる噺家さんの腕が非常に重要になります。同じ演目でも噺家さんごとにそれぞれ個性が見られますし、その中で無論、上手下手も判断されてくるわけですね。

 あるとき、一人の落語好きのお爺さんがおりまして。この方は職業としての噺家をやったこともなく、特に誰かに弟子入りしていたというわけでもなく、幼い頃から毎日寄席に行っているような門前の小僧というわけでもありませんでした。
 はっきりと申してしまえば素人さんです。そういう方ですから、時おり自分が身内の前で披露する落語も決してお上手とは言えない腕前でございました。
 しかし、このお爺さんは大層ご身分の高い方でして、お金もたくさんお持ちであった故に親戚などからはいつも、

「とても素人とは思えない」

 そんな当たり障りのない絶賛を頂いておりました。誰も彼もにそう言われますのでお爺さんはあるとき思いつきました。
 そんなに評判がいいのなら、一日寄席を借りて演じてみようではないか——。
 大きな寄席のスケジュールは既に埋まってしまっておりますから、小さな演芸場……といいましても、三桁の客は入るようなところを借りて、落語をやることに決まりました。
 焦った身内たちは、何とか友人知人に声をかけまして……その中の一人が私だったのですが……何とか三百の席を全て埋めることに成功しました。
                                             (続く)

落語怪奇談② (怖い話) ( No.138 )
日時: 2011/05/15 15:48
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

 さて、落語の演目は基本的に『サゲ』と言われる話の落ちの部分があります。人情噺においては必ずしもこれが必要ではないのですが、まぁそれを語ると話が逸れていってしまいますので置いておきましょう。
 このサゲが一風変わった『死神』という落語があります。ざっとあらすじを説明致しますと、ある貧乏な男の前に死神が現れて言ってきました。

「お前に死神が見える呪いを掛ける。もし、死神が病人の枕元に座っていたならばそいつは死に、逆に足元に座っていたならば助かる。足元に居る死神は呪文を唱えれば追い払う事ができる」

 男はその能力を利用して医者になりますが、あるとき欲を張って枕元に座っている死神が居眠りをしている間に、病人を回転させて足元の位置に死神を来させると、呪文で追い払ってしまうのです。
 大金を手に入れて喜ぶ男は帰る途中で怒った死神に捕まり、たくさんの蝋燭がゆらめく洞窟の中へと案内されます。

「この蝋燭は人間の寿命だ。お前のはあれだ」

 今にも消えてしまいそうな蝋燭を死神が指さします。蝋燭の火が消えると人間は死にます。死神は男に寿命を延ばすための蝋燭を渡しますが、継ぎ足してほっとした瞬間についたため息で舞台が真っ暗になって終わる……そういう少少ブラックな話です。
 非常に難しい噺ですが、お爺さんはこの『死神』が舞台でしかできないものだからと、最後の演目に決定されました。
 そして、その当日になりましてお爺さんは落語を演じました。しかし、もちろん素人さんでしたから見ているこちらはとても辛いものです。
 やられた演目はどれも有名なものばかりでしたが、二人の会話シーンを演じ分けられていない。台詞を間違えても気付かない。小道具の所作があまりにも雑とって按排で……はっきり言って散散なものでした。
 もう帰ってしまおうかと誰もがそう思ったときに、最後の死神が始まりました。
 これが今までとは打って変って目を見張るほどお上手でした。お爺さんのしわがれた声は死神に合致しておりましたし、台詞も朗朗と飛び出し間違えることもありません。所作も一つ一つが丁寧かつ優雅で、まさに本物がそこにあるかのようでした。
 私はそのお爺さんを知人経由でしか存じませんでしたから、さては前の演目までは寄席でやるのが初めてだから緊張していたのだな……などと見入りながら考えておりました。本当に今までとはまるで別人が演じているように思えたのです。それほどに凄まじい落語でありました。
 そして最後の蝋燭が消えてしまうシーンが来ました。

「消える、消える……」

 お爺さんのか細い声でいうところはまさに迫真の演技で、ごくりと唾を飲み込む音があちらこちらから聞こえました。やがて最後のふぅ……息遣いとともに舞台が真っ暗になると、幕はゆっくりと下りていきました。寄席全体に静けさが満ちた後、小さな拍手があちらこちらから起こり、それはやがて会場全体を包む大きなうねりとなりました。
 この死神という演目だけでも、今日は来た甲斐があったと皆さん意気揚揚と会場を後にしたのです。
 私は厚かましいながら、ぜひ一言素晴らしかったとご本人に伝えたいがために、お口添えをして頂いて特別に楽屋口で待たせて頂いたのですが……しかし、それは叶いませんでした。お爺さんは楽屋に戻ることは二度と叶わなかったのですから。
 そうです、何とお爺さんは高座の上で亡くなられていたのです。
 言わせて頂きますと、そのお爺さんは今まで軽い風邪の一つすらかかったことのない大変健康的な方でして、食事にもかなり気を使われておりました。それに前日にも健康診断をされていて、医者からはあと二十年は軽く生きられると太鼓判を押されたそうです。
 そもそも、お爺さんの亡くなられた時間——死亡推定時刻というのですかね、それを調べますと、見事に噺をしている最中に合致致しまして……。
 最後の演目、死神の時間に。

 ——その今までとは全く違う腕前から見ても、お爺さんには本物の<死神>が憑いていたのではないか。
 ——そもそも本当に私たちが見たのは、お爺さん本人であったのか。
 ——いやいやあの人はきっと練習に練習を費やすあまりに、自ら命まで吹き消してしまったに違いない。
 ……長い間様様な噂が世間で飛び交いましたが、真相は今でも明らかになっておりません。さて、こんなところで私の話は終わりです。
 ご清聴有難う御座いました。
                                         (終わり)

近づいてくる① ( No.139 )
日時: 2011/06/12 15:20
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(体験者:近藤弥慧こんどう・やえ





 ノックの音がした。
 コン、……コン。
 やや遠慮しているリズムで、宵闇にとけ込んでしまうような音がふたつ。
 雑誌に目を落としていた弥慧は、音源を求めて顔を上げた。リビングを照らす灯りは火鉢と行灯の火だけで、部屋の隅はぼんやりと仄暗さに包まれている。
 音はその向こう側、つまり玄関から聴こえてくるようだった。弥慧は眉を顰め、卓上の時計を見遣った。
 針が示す時刻は、家の軒が三寸下る丑三刻(深夜二時)。人を訪ねてくるには非常識すぎる時間だ。ならば大事か——。一瞬考えたが、ノックの調子に差し迫った様子はなかったのも事実で。
 とりあえず雑誌を置いて玄関に向かってみる。ノックの音は一度響いたきりで、あとはとても静かなものだった。陽の暮れた辺りから未だ降り続いている、雪の所為だろう。

「……誰だ?」

 ドア越しに声を掛けたが、外はしんとしたままで何の返答もなかった。人の気配すら感じられない。
 いっそう訝って、ドアの覗き穴に顔を寄せる。小さなレンズの向こうに見えたのは、丸く形を歪めた庭と階段、そこに降り積もる真っ白な雪だけだ。

「…………?」

 気のせいだっただろうかと首を傾げる。何だか急に眠気が増した気がして、弥慧は欠伸を噛み殺しながらリビングに戻った。



 翌朝。
 夜中のノックが妙に気になって、弥慧は新聞を取りにいくついでに庭に出てみた。雪は夜通し降ったようで、まっさらな新雪が庭を覆っている。
 そう言えばあの時、ここに足跡を見ただろうか。ふと気になったが、どうにも思い出せない。
 新聞を片手に雪を眺める。朝日にきらきらと輝く雪面には、人はおろか、動物の足跡さえ見受けられなかった。

『妖精じゃないんですか?』

 電話の向こうで弟のハインツが言った。

『あまりにも寒いもんだから、姉さんの家に入れて貰おうとしたと』
「いや、そういう類(やつら)だったらすぐ分かるよ」

 妖精や精霊の類の気配はしなかったし、もちろん姿も見えなかった。そう続けると、弟が小さく唸る。

『ああでも、そもそもお客だったなら、普通はべル鳴らしますよね……』
「だな」
『真夜中のノックだなんて、ちょっとしたホラーですねぇ』

 自分の家は郊外にあるから、来訪する人間は限られている。知り合いに順に電話をかけて尋ねてみても、みんな同じような答えしか返ってこない。

『簡単にドアを開けない方がいいですよ、強盗かもしれないし』
「いや、強盗ならノックしないだろ」

 やはり気のせいだっただろうか。そう思う一方で、何故だか妙に引っかかって仕方ないのだ。

「あーあ……かわいーい弟が“お姉ちゃん、ただいまー”って言ってくれるなら、すぐに開けてやるのに」

 冗談半分でそう呟けば、電話の向こうで弟が盛大にため息をついていた。
                                      (続き)

近づいてくる② ( No.140 )
日時: 2011/06/12 15:20
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

 ノックの音がした。
 コン、……コン。
 少し奇妙なリズムで、どこか辺りを憚るような音がふたつ。
 弥慧はさっと時計に一瞥をくれた。昨夜と同じ、丑三時。やはり来たか。
 提灯を手に取って立ち上がる。ドアにぴたりと身を寄せて外の様子を窺った。やはり何の気配もない。
 コン、……コン。
 それでもドアは今度は目の前で音を立てる。気のせいではないだろう。何もいないことがはっきり分かっているのに、そこには確かに何かがいるのだ。

「…………」

 息を詰めてドアノブに手を伸ばす。開けるためではなく、開かないように押さえておくためだ。しかし弥慧の指先がドアノブにかかった瞬間、

「おーねーちゃーん、たーだいまー」

 甘ったるい子供のような声が聴こえた。
 ドアノブに触れた指先が異様に冷たくて、思わず飛び退くようにしてドアから離れる。

「……っ!」

 バンッ。
 同時に、ドアが勢いよく開いた。四角に区切られた外から、雪が混じった冷風が吹き込んでくる。手にしていた提灯の灯が消えて、玄関が真っ暗になった。傷んできたらしい蝶番がギィギィと鈍く軋む。
 頬に貼りつく雪を掌で拭いながら、弥慧はぼんやりと廊下を見やった。
 ——どうやら、とんでもないものを招き入れてしまったようだ。
 暗闇に沈む廊下の奥——コン、……コン。
 リビングに続くドアが音を立てた。



 ノックの音がした。
 コン、……コン……。
 少し奇妙なリズムで。あれを招き入れてしまった夜からは、玄関のドアではなく家の中のドアからノックされるようになった。リビング、書庫、バスルーム……ドアだけでなく襖や引き戸まで。
 弥慧は決してそれに応じてドアを開けたりはしなかった。部屋の間の移動は極力避けて、一日のほとんどをどこか一室で過ごす。

 引きこもる姉を心配したハインツから何度か電話があったが、適当にごまかして、しかし絶対家には呼ばなかった。
 風呂に入っている間にバスルームのドアをノックされた時は、熱いシャワーを浴びながら途方に暮れた。また、あの甘ったるい声がするのではと思うとぞっとしない。
 しかしそんな生活が二週間も続けば、ある程度は慣れてしまった。今日も日がな一日リビングの炬燵で仕事に没頭し、うとうとと眠くなってきたので寝室に移った。
 どうしても通らなければならない寝室のドアだけは、いつも開けてあった。そのおかげか何なのか。寝ている間だけは、寝室のドアをノックされるということがなかった。
 開けっ放しのドアをくぐり抜けて寝室に入る。しんと冷たい夜気に肩を震わせながらベッドに潜ると、すぐに明かりを消して目を閉じる。そのまますんなりと眠りに落ちようとした、その時。
 コン、……コン。
 聞き慣れた、ノックの音がした。咄嗟にぱっと目を見開く。音が、するはずがない! だって、この部屋のドアは開いているのだから。
 廊下の向こうのどこかから聴こえてきたのかと思ったが、それにしてはいやにはっきりしていた。もっと近くだ。更に近い場所で。
 コン、……コン。
 もう一度ノックの音がした。

「……っ」

 ぞぞぞわと、決して気温のせいだけではない寒さが肌を襲う。
 弥慧は気づいてしまった。音源は、自分の真下。ベッドの底板だ。
 彼女のベッドの下はちょっとした収納スペースになっていて、アルバムを入れた背の低い引き出しや、下着を入れた編み籠などが幾つかつっこんであった。音はそこから響いていた。——底板が、叩かれているのだ。
 恐る恐る身を起こして、ぶら下がるようにしてベッドの下を覗き込む。人ならぬモノ相手などとっくに慣れていたはずなのに、嫌な汗が額に滲んだ。緊張で息が詰まる。
 そして弥慧の瞳がベッドの下を捉えると——引き出しと編み籠が置いてあるはずのそこにいるそれと目が合った。

「やっと会えた、おねーちゃん」

 手の甲で底板を叩きながら、それがにたりと笑った。
                                          (終わり)

誘い① ( No.141 )
日時: 2011/06/12 15:34
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(語り部:クロード=ブルゴーニュ)





 どこから話そうか……まず壁の時計が狂っていたんだ。一時間も近く進んでいたのに、気がつかなかった。
 腕時計の方は合っていたんだが、俺はその日壁掛け時計の方を見ていたから、泡を食って家を出た訳だ。電車の時間に遅れるのは何としても避けたかったんでな。……まあ、駅に着いたら杞憂だとすぐ分かったが。
 駅構内で適当に時間を潰すか、早いがもう電車に乗ってしまうか……遅れるより良いだろう。そう思って俺はやってきた電車に乗った。
 早朝だったからか、乗客は殆ど見当たらなかった。最後尾で、ホームの端だったこともあるだろう。とにかく、乗った車両には自分以外誰も居なかった。

 俺は電車に乗ると読書するのが日課になっているんだが……いつもと違ってあまり身が入らなかったから、すぐに止めた。何とは無しに窓の外を眺めている内に寝てしまったようでな。ふと目が覚めたら、相変わらず、俺の他に乗客は居なかった。
 というか……前方の車両が無かったんだ。車掌すら居ない。なのに電車、一両きりのそれは、ある程度のスピードを保ったまま走り続けた。
 車内がやけに白っぽくて眩しかったな。その中を、黄色い蝶が一匹飛んでいった。窓が全て開けられていて、絶えず温かい風が吹き込んでいた。一言で言うなら『幻想的』といったところか。
 窓の外? 眩しい空のせいであまり見えなかったが、多分、川の傍だったんじゃないか? 水の匂いがしていたしな。
 どのくらい経ったかわからないが……急に声をかけられた。

「——すみません、お隣空いてますか」

 顔を上げてみれば、美しい女性が……。
                                                  (続く)


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