ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 海底奇談① ( No.72 )
- 日時: 2010/05/27 18:45
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: Kxa936Ty)
(語り部:甘蜜乙女)
あたしの母親の母国は、最後の楽園って言われてるほど自然がたくさん残ってる国なのね。で、結構昔のままってことは、色んな言い伝えこみで残ってるってわけで。島国だから特に海に関してはかなりあるんだけど、その中でもあたしが体験したことを話すね。
あたし、魚をとるためにたびたび海に潜るの。自慢じゃないけど小学校に上がる前からやり続けてるから、ここにいる誰よりも長く海に潜ることができると思うな。今からするのはそのときの話なの。
「ねぇ、長く潜れるってどれくらいの間息が持てるの?」
そうねえ、獲物をとれたら一回一回船に戻っちゃうから、平均したらそこまでないかもしれないかな。でも長く潜ってるときは一・二分ほどは平気かな。
「動きながら……?」
もちろん。じゃないと魚とか獲れないし。
「動きながらは……すごいわな。軽く尊敬するわ」
えへへ、なんか照れちゃうね。あ、話を戻すね。
その日は本当に雲ひとつない晴れの日だったの。
水平線あたりにマシュマロみたいなちっちゃな雲とかがある晴れの日ならいつも通りだったんだけど……本当に青空だけだったんで、気味悪がっている人もいたぐらいだよ。だから海に出ないってわけにもいかなくて、その日もあたしは海に出かけていったの。
まあ、あたしはそこまで気味悪いとも思ってなかったんだけどね。そのときは。
(続く)
- 海底奇談② ( No.73 )
- 日時: 2010/11/07 18:29
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
しばらく息継ぎも交えながら潜ってたんだけど、そこでやっぱり海がいつもと違うって気づいた。だって魚が一匹も見つからなかったのよ。岩陰にもね。
それにそよ風さえも吹かない完ぺきな『凪』状態だったの。
以前おじいちゃんに、そういう状態ではいくら潜っても魚は出てこないって教えて貰ってたから、漁はその時点で諦めたわ。ただ、こういうことってたぶん二度とないだろうから思いっきり楽しんでおこうと思ったのね。
銛とかを乗ってきた船において、ただ純粋に楽しむために潜ったわ。ホントすごかったよ。あ、そうそう。あたし、潜るときも服着たままなのよね。
「え、普段着のまま?」
ええ。あたしの家、海から近いし。あ、きちんと家に帰ったらすぐ着替えるよ!
「そういう問題じゃねぇと思うが……」
まあ、そういうことはおいといて。
それで底まで潜って、重しになりそうな石を持って海底に立ってみたの。石とか持ってないとどうやっても浮いちゃうからね。
そこであたし、言葉にしがたい感動ってこういうことを言うんだろうなあって、初めて思ったな。
魚が泳ぐ音も、波が立てるのわずかな音さも、ぜんぜん聞こえないの。その世界で動いてるのはあたしと海底に差し込んでくる光だけだったんだから。
地上では大人しくまとまっている髪も、ふわふわ揺らいでてね。Tシャツの裾も、風でなびくよりもゆっくりと揺れてたよ。
本当に素敵な時間だったな。
「……おい」
なに?
「まさかそれで終わりじゃねぇよな。怖いどころか不思議でもなんでもねぇぞ?」
全くせっかちね〜。ここからだよ、肝心なのは。
そうこうしてる間に、あたしはあることに気づいたの。今思えばなんでもっと早めに気づかなかったのかって話なんだけどね。
あたし、明らかに五分はそこにいるのに、息が苦しくならないのよ。で、なんでだろうって思うよりも早く、そのことに少し驚いて抱えてた石を落としたの。石はゆっくり、あたしのつま先の少し前に砂埃を立てて落ちたんだけど……あたしの身体、もうなんの重しもないのに浮いていかなかったのよ。
あれって思って、海底をけっても少し身体が浮くだけでまたそこに着陸。試しに海底を歩いてみると地上と同じように歩けちゃうの。なんて言えばいいのかな、宇宙飛行士が月の上を歩いてる映像ってあるじゃない。あれと似たような感じ。
いよいよ怖くなっきて、とうとうあたしは泣き出しちゃったの。
そう、自分自身がうるさいって思うくらい大声で。精一杯、お腹に力を込めて、大声で。『海の中』にも関わらず、大声で。
そこで、なんで海底に立ってるのに息苦しくないのかがやっと理解できた。あたし、いつの間にかお魚みたいに『呼吸』できていたの。
でもそんなこと分かったところで、水死体になる可能性が消えたってだけで、状況はなんにも変わらない。だから一生懸命訴え続けたの。
「誰にだよ」
誰にって、海以外にないでしょう。
お願いします。あたしは帰りたいんです。みんなのところに。家族と住んでいるあのお家に。お願い、帰らせて。お願い。あたしを地上へ帰して。
迷子の子どももびっくりなくらいに泣きわめきながら、ずーっと話していたら身体が徐々に浮きはじめて、やっと海の上に顔を出せたわ。
とんで帰っておじいちゃんたちに話したら、海に魅入られたんだなって言われたわ。
ときどきあるそうなのよ。そういうの。雲ひとつない青空で風もない日、海へ漁に出て行った人達が帰ってこなくなることが。かろうじて帰ってこられた人も、ずっと海を見つめたまま廃人になっちゃうことが多いみたいで。そしてそういう人たちは例外なく、ふらりと海へ出て行ったきり帰ってこないらしくて……。
だからあたしみたいに、無傷で意識がはっきりした状態で戻ってきたってのは前例がないって言ってたわ。
もう、ラッキーやら恐いやらで翌日熱出して寝込んじゃったわ〜。
(続く)
- 海底奇談③ ( No.74 )
- 日時: 2010/05/28 19:20
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: Kxa936Ty)
「これで、あたしのお話はおしまい」
「……とんでもない体験談ねぇ」
「あらそう?」
「そうですよ。よく帰って来られましたね」
「やっぱり必死に祈ってると通じるものなのね〜」
話している間の緊張感はどこへやら。テスト終了後のように和やかな雰囲気になった。うん、やっぱりあそこで止めておいてよかったんだ。
……実を言えば、この話には後日談がある。その後もときどき、海中での呼吸ができるようになっていった。さらに、呼吸ができる状態のときに海面へ向かおうとするとわずかに抵抗があるようになった。それも日に日に抵抗が強くなってきているように感じる。海の中で呼吸ができるようになるときも、目に見えて増えていってる。
逆に地上にいるとき、特に海から上がった直後はとてもだるく感じてきた。前は多少のけだるさはあったけど、今ほどひどくはなかった。なにより、前にもまして、海が恋しくなった。
あたしも、すでに海に魅入られてしまっているんだ。
(ああ、ほら)
(海の音が、耳から離れなくなっている)
(終わり)
- ひとりあそび (怖い話) ( No.75 )
- 日時: 2011/03/21 18:52
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
(語り部:本田梅花(ほんだ・めいふぁ))
友人のウィッカの家に遊びに行ったときの話だ。
その日はなかなか寝付けなかったんだ。
それで、ウィッカになにか暇つぶしになることは無いかと聞いたところ、
「この時間帯だったら肝試しかひとりかくれんぼかなあ。ひとりかくれんぼの方はあまりおすすめしないけどね」
ウィッカはそう言ったけど、肝試しはこの前みんなとやったし、その『ヒトリカクレンボ』とやらをやってみたくなった。
するとウィッカは人形に米、爪きりにコップにええと……ぬい針に赤い糸、台所から果物ナイフを持ってきてやり方を説明をしてくれた。
そのあと、ウィッカは愛犬を連れて恒例の散歩に出かけてしまった。正直ボクは居てほしかったんだけど、習慣だからって断られた。
三時になったときボクは、人形の腹あたりを切って綿を全部だした。
その後、米と爪きりで切ったボクの爪を一緒に入れて、赤い糸で閉じた。
それで、
『最初の鬼はスラック』
教えてもらった呪文を三回言って、水の張ってある風呂桶に人形を入れた。
……そのとき人形の顔が一瞬歪んだ気がしたけど、ボクは突っ込んだ振動で水面が揺れただけかなーって、妙だと思いながらもそのままにした。
家中の電気を消してテレビの電源だけつけて十秒数えたあと、果物ナイフを持って風呂場に行って、
『スラック、見つけた』
って言って……ああ、スラックってのは人形の名前だよ、名前をつけないといけないらしいから。
そして果物ナイフで人形を刺した。人形を刺すのはどうも抵抗があったけど、これがルールだって言われたからなんとか人形を刺した。
『次はスラックが鬼』
刺し終わったあとにそう告げて、ウィッカが用意してくれたコップに塩水を入れて押入れの奥の方にかくれた。
隠れてしばらく時間がたったときに、どこからか、
『クスクスッ』
笑い声が聞こえたと思ったら、どん、どんどん……。急に外から押入れの襖を拳で叩く音がした。
思わずコップを落としそうになったけど、なんとか震える手でしっかり握りしめた。
(……でも、もしちょっとでも襖が開けられてたら、叫んでたかもな)
そのあとも、襖をどんどんとかばんばんとか叩く音がした。しばらくしたらやんだけどな。
すると、居間の時計がボーンボーンと鳴った。四時半だ。
遊びをはじめてから一時間半がたったから、塩水を口に入れて押入れを出た。押入れから出た途端、ボクは口に入れた塩水を噴き出しそうになった。
……風呂場に置いてたはずの人形が、押入れをでてすぐ目の前にあったんだから。ちゃんと風呂場に置いたのにそれが、押し入れの前にあるなんてありえないだろ。
そしたら、急に耳元で『うふふふふ』だとか『あはははは』だとか、いろんな種類の笑い声が聞こえたけど、コップの中の塩水を全部かけたら笑い声がさらに大きくなった。
でも口の中の塩水をかけて、
『ボクの勝ち』
三回言い終わった途端、笑い声はピタッと止んだ。
ボクは急いで人形のところに行って、家中の電気をつけていった。
でもボクが隠れてたところの部屋に入ったら、ゾクッ。いきなり寒いところへ入ったような、とにかくいやな感じがして動こうにも動けないでいると、電気がついた。
飛び上がって振り返ると、ちょうど帰ってきたらしいウィッカがつけてくれたらしい。
それでも毛が逆立つようなあの感覚は消えなかった。
「この部屋と、この人形はお払いしないといけないね」
そう言って笑った友人の足元では、彼女の飼い犬が周りを威嚇しながら吠えまくっていた。
(終わり)
- 電波の向こう ( No.76 )
- 日時: 2011/04/23 18:03
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
(語り部:山本賢太郎)
電話って怖いよな。特に携帯電話。俺は未だにそう思う。
いや仕組みは知ってるしわかってんだけどさ。でも、知り合いによく似た声が、線でさえ繋がってさえいない、無機質な不燃物の塊から聞こえてくるんだぞ。普通怖いと思わないか? しかもこっちの都合なんかお構いなしに呼び出されるしさ。
全然姿が見えないのに声だけが届いてくる現象、なんでみんな平気なんだろうな……やっぱ一回とんでもない目にあったせいかもな。俺はそれからもう駄目なんだ。
ある日、携帯に電話がかかってきた。しかし非通知でかかってくる電話なんかろくなもんじゃないからしばらく無視していたのだが、何度切れてもすぐかけ直してくる。しつこいな、一度怒鳴ってブチ切ってやろうかと思い携帯電話を開くと、聞こえてきたのは友人の山田の声だった。
『やあ、元気か? 暇だから電話してみたぞ』
奴が電話してくるなんて珍しいから、俺はちょっと懐かしくなってな。俺もちょうど手が空いてたから、暇つぶしに付き合ってやることにしたんだ。
彼は電話の向こうで仕事やら趣味のことやらペラペラとしゃべっている。いつもの通り、嫌味は無いが妙に自身満満の声と独自の喋り方だ。それは確かに友人の山田だった。その時までは、そう思っていた。
でも玄関のインター音が聞こえ、
「あ、悪い、客」
電話の向こうの弁解しながらドアを開けた時……俺は思わず目を疑ったよ。
山田がいたんだ。携帯電話を持っていない山田がな! 玄関に立っている友人は笑って、
「やあ久しぶりだな。どうしたんだい、そんな阿呆面さげて?」
同時に電話の向こうの山田は、誰だったんだい? とか言ってやがる。
なんだ、なにが起きているんだ? どっちが本物なのか全然分からなくて、俺はまず、電話の通話口を手で覆って玄関の山田に聞いた。
「お前はハインツ・B・山田本人か?」
「何を言ってるんだ、寝惚けて出てきたのか?」
また笑った自信家の友人を無視して、次に、電話の向こうの山田(仮)に聞いた。
「お前はハインツ・B・山田本人か?」
するとどうだ、電話の向こうの奴は楽しそうに笑いはじめた。
機械を通してつぶしたような、男なのか女なのかも分からないような声だった。しかも、複数の声でこう言った。
『イ マ ゴ ロ キ ヅ イ タ ノ カ』
ほぼ反射的に携帯を地面に叩き付けると、携帯は嫌な音を立てて壊れた。
玄関の山田がなんとも奇妙な顔をしていたが、俺はそれをフォローする気力はなかった。
……あれはなんだったのか分からない。それはもう二度とかかってこなかったし。まあ、普通の、人間じゃないことは確かだけどよ。
とにかく俺は、本人が訪ねてくるまで、電話の相手の山田だと信じて疑わなかったんだよ。今の携帯はちゃんと非通知は拒否してあるから大丈夫とは思うんだが……。
お前らも気をつけろよ。
電話の相手がもしかしたら、人とは全く違う誰かが笑ってるかもしれないんだから。
(終わり)
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