ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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怪奇拾遺集
日時: 2011/03/19 18:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。

**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***



前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・

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夕方怪奇談 ( No.42 )
日時: 2011/05/28 16:40
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(体験者:望月倫モチヅキ・リン・エリザベート・L・バーネット)





 ——桜の頃も美しですけど、緑溢はる季節もええもので御座いますよ。

 珍しく誇らしげな調子で、一つ下の後輩はそう言った。それが決して自慢げに聞こえないところが、彼女の性格の顕れなのだろう。
 是非その頃にと招かれるまま、訪れたのは水無月の末。
 カランコロン……蒸し暑さが色濃く残る中に、履物が鳴る音が入る。

「夕涼み、と言いまんねん」

 夕闇に染まる町を歩き、柔らかく笑みながら——エリザベート気に入りの後輩の一人——倫が言った。
 強過ぎず弱過ぎず、吹き抜ける風はひんやりと涼しい。
 もうちびっとしたら陽が落ちて、過ごしやすくなりますよ——。
 成程、昼間彼女が言った通りだ。
 川の畔を歩いているせいもあるのだろう。さらさらというせせらぎが、聴覚からも涼を呼び寄せた。
 ふと、川沿いに植えられた木に目が留まる。風を受けてふわりふわりと、枝垂れた枝の影が揺れた。
 その根元に、佇む人影。赤い着物を纏った——女——だろうか。

「知り合いか?」
「はい?」

 隣を歩く倫に問う。小首を傾げて、どへんかされたんやか(どうかされたんですか)——不思議そうに返された。
 足を止めた私に倣って、カランと下駄の音も止まる。

「ずっと、こちらを見ておるぞ」

 あそこから。
 柳の木を指差して、知り合いか——再度問う。倫は細い眉をきゅっと寄せ、その目を眇めて小さく唸った。

「……あこにどなたかいらっしゃるちゅうわけどすな?」
「あ、ああ。赤い着物の、女じゃな。たぶん」

 線が細く、髪が長いからな。

 そう告げると、倫は視線を外さぬまま、次次と問いを投げてきた。
 着物の衿の向き。女の顔色。纏う雰囲気。答える毎に倫の顔は青褪めていき、細い指を握り締める。
 もしや、具合が悪いのではなかろうか。そんな不安が脳裏を掠め、声を掛けようとした矢先。
 倫はくるりと踵を返し硬い声で言った。

「帰りまひょ」
「いいのか? 知り合いなら、」
「あかしまへん」
「……倫?」

 いつになく強い口調で、倫が私の腕を取った。
 その手は小刻みに震えていて、痛みを覚えるほどの力が込められる。

「行きまひょ」
「え、あ、おい倫?」
「あちらへ行ってへーけまへんよ。絶対に」

(エリザベート姐さんには見えとるんどすな? もし仮に、別の場所でおんなじような人を見かけても、決して近付いてはいけまへんよ。ええどすか、絶対に、どすえ)

 鬼気迫る強張った表情、有無を言わさぬ口調。腕をぐいぐいと引きながら、念を押すように囁く。
 青褪めた頬、ひやりと温度の低い指先。具合でも悪いのではないか。そう思っても声を掛けることは憚られた。
 自宅の玄関を潜ったところで、やっと彼女は息を吐く。
 下駄を脱ぐことすら忘れ、後ろ手に閉めた引き戸に凭れた。

「どうした、一体何事か」

 うっすらと滲んだ汗を拭い、青褪めたままの相手に問う。
 倫は震えの残る手で白い額に触れ、深く重い息を吐いた。あの手は冷たいままなのだろうか。掴まれていた腕に、その感触が蘇るようだった。
 倫が夜空と同じ色をした目を向ける。心なしか色の失せた厚めの唇が、ふるりと震えて音を紡いだ。

「あんはんが見たあれは、死人どす」

 ——魅入られたが最後、二度と戻っては来られまへん。

 告げられた言葉を飲み込んで、理解するまでに時間が掛かった。
 どもへんどですか(大丈夫ですか)——問い掛けてくる声が思考回路を上滑る。
 ぞっと背筋が粟立ったのは、汗が冷えたためではなかった。

天網恢恢疎にしてもらさず ( No.43 )
日時: 2011/06/19 14:26
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(語り部:板橋大智(いたばし・だいち))





 この下に、人を殺して埋めたんだ。

 赤毛の男性は楽しそうに笑って、そう言った。

「私は雪が好きなんだ。何もかも隠してくれるからね。綺麗なもの穢いもの罪さえも、全て例外なく」

 男の足下には、何センチもの雪が積もっている。普段の地面は一切それで見えなくなっており、例えこの下に何があろうと分からないだろう。

「しかし、春になれば溶けますよ。そうしたら、何もかもが露見することでしょう」

 ——たとえ貴方が死体を埋めていても。

 僕がそう答えると、彼は更に笑みを深くした。

「うん、そうだね。でも、今は見えないからわからないだろう? どうかな、少年は今、私の足の下に死体が埋まっていると思えるかい?」

 確かに。男の足の下の雪は、人工的に踏まれ慣らされ完全に固まっていた。
 眩しい程の白さ、最早雪というより氷といった方が正しいかもしれない。その白い顔は、何を抱えていようが素知らぬ無表情で押し黙っている。冬の間は多くのものを飲み込む雪。

「雪は良いね。母親の胎内のように、何もかも包んでくれる気がしないかい?」

 兎のような眼をした男の笑み。目と歪んだ口元から、臙脂色がたらりと垂れた。それは男の頬や顎を伝い、地面に吸い込まれた。雪は一瞬だけ赤く染まり、すぐに次々と降ってくる雪によって地面は白に戻る。

「君はこの白い地下には何が埋まっていると考える?」

 抑揚の彼の声が、興奮で少しだけ火照りだした。

「こんなにも優しい顔をして、一体何を考えているんだろう。……彼女みたいだ。彼女に雪に似ている。彼女は雪のように白い顔をしていた。彼女はとても美しかった。美しくて、冷たかった。だから、私は……」

 男は笑って言った。さっきと違い、今にも泣き出しそうな顔で、

「私は、彼女に愛されたかっただけなんだよ!」

 肺の中にある空気を全て吐き出すように叫んでから、音も無く消えた。

 ……恐らく春になったら、雪の下から二人の男女の死体が出てくるだろうと僕は推理した。しかしそれは、冬が終わるまでは分からないことだ。
                                                              (終わり)

足跡 ( No.44 )
日時: 2011/06/25 17:30
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(語り部:白菫しろすみれ・ききょう





 み、短くてつまらないんだけど、これで勘弁してね。

 あたしの実家は北の方にあるから、冬の間はずっと雪に覆われるんだけど、一度だけね、つかないはずの所に足跡がついていたことがあるの。人間のね。
 そこは、降ったばかりの新雪の上なんだけど……え、降ったばかりで子どもとかがつけたんだろうって?
 うう、大抵はそうなんだけどぉー……そうじゃなくて。
 だってそこは凍った池なんだよ。五メートルくらい積もった雪の上にさらに積もったところだったの。ね、おかしいでしょ。
 そんなところわざわざ歩く人なんていないはずだし、ううん、仮に歩いたら足がずぶずぶ埋まっちゃって下手をすれば氷が割れて溺れちゃう。だから歩けるはずがないの。
 しかもその足跡おかしいの、片足ぶん、一つしか残っていなんだもん……。
 それに初めて気づいたのはあたしのお家の二階、あたしの部屋から見えたの。もう気味が悪くて怖くて怖くてどうしようもなかった……。

 うん、これが唯一のあたしの恐怖体験かな……。ほ、ほんと、短くてごめんね。
                                   (終わり)

悪戯  (不思議な話) ( No.45 )
日時: 2011/06/29 18:41
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(体験者:甘蜜乙女(アマミツ・オトメ))





「こう、小さな銀製のボタンなの。テントウムシが彫り込んであるやつねで、そこに無かった?」
「……あったような、無かったような……あー、これはボタンじゃない?」
「それは六ペンス銀貨だよ。参ったね、どこにやったのかしら」

 どうしてアンナがせかせかとクリスマスディナーの準備をしているのかは、さっきまで乙女にとって大きな謎であったのだけれど、今しがた、その謎はほとんど解けてしまったところだ。まだ師走にも入っていないのに、友人はプディングを作り始めている。
 今年のクリスマスだって生徒会会長の家に行くし、料理は皆で分担して作る。つまりこの料理は、そのパーティーで自分たちに振る舞われるためのものではないのだ。
 では誰が食べるのか? まさか彼女と二人で食べるというのか? この量を?
 ……香りをかいだだけで満腹になってしまいそうなボリュームだ。

「クリスマスプディングにチャームが入ってないなんて、笑えないよ。どうしようか」

 もちろん自分たち二人で食べっこないのだ。
 ちなみにチャームというのはプディングの中に沈めておいて、切り分けて食べたとき、誰の切れにどのチャームが入っていたかで、次の年の運命を占うためのものだ。だから大勢で食べるのを目的にしているはずだ。
 ならば彼女は誰のためにプディングやパイ、ビスケットを用意しているのか。
 もちろん乙女はすでに察している。なぜならグラスの隙間から現れた小さな両手が、ボタンをこっそり隠すのを見ていたから。
 アンナに気づかれないようにそっとため息をついて、グラスの淵をコツンと指ではじいてから、囁く。

(あんまりからかわないであげて)

 ——あの子はあなたたち小さな同居人のために、プディングを作ってくれているのだから。

「さっきそこに置いたのに」

 そうぼやいてアンナが顔を上げるのとほぼ同時。ボタンは不思議な風に乗って、ポトンとテーブルの上に落ちた。
 一瞬目を丸くした姉御肌の友人は、しかしすぐに苦笑して部屋の中を見回した。そうしてこう呟いた。

 ——Happy Christmas!
                                                           (終わり)

夜毎通う女①    (怖い話) ( No.46 )
日時: 2011/07/03 18:21
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

(体験者:近江長政オウミ・ナガマサ





 彫刻家の近江長政が妙な噂を聞いたのは、残暑もようやく勢いをなくした神無月下旬頃であった。
 その内容というのは、さるスリラー作家の家に夜な夜な化け物が出るとのこと。
 これを長政に流し込んできたのは、お使いでやってきた友人の愛娘の國子である。この小娘、歳はまだ十とそこいらであるにも関わらず血を分けた親も舌を巻く程、舌先三寸ある事ない事べらべら喋り歩くのが常套であったので、長政はまともに相手なぞした事はなかった。

「まぁだ信じてくれないんですか? このクニコちゃんが得にもならないことで嘘なんかつくもんですか。この近所の連中ときたらみーんなビビちゃって夜中は雨戸まで閉めて念仏唱えてるらしいです。ときたら、ここらで魔除けの札でも売って歩きゃあさぞかし儲かるんでしょうねェ」

 光る眼鏡、にやけ顔で終始取らぬ狸の皮算用、これでは信心なのか無信心なのか解りやしない。

「俺ァこの通りあの色魔作家の真向かいにずっと住んでるが、ンな化け物はおろか怖気もしねえがなぁ」

 そう言って長政は腕を組むと、國子はむくれて日焼けで真っ黒な頬を膨らませた。

「あたいは実際見たんですよ! こないだの会合の帰り、父ちゃんと歩いてたらちょーどあそこ、ほら、あの坂のところをそりゃあ別嬪な若いのが一人で歩いてたんです。花嫁衣裳みたいな白いワンピース着て、茶色い髪は後ろでゆるくお団子にしてて、おくれ毛が少し出てたなあ。父ちゃんだってこんな真夜中に女一人あんな格好で歩いてるだなんておかしいって言ってました」

 間違いなく化け物の類だろう。だから二人で念仏唱えながら急いで帰ったんだ。

 そう言って國子は腰に両手を当て、勢いよく鼻を鳴らしてふんぞり返った。

「おいおい、てめえの肝の小せえのをわざわざ自慢してんじゃねえよ。あいつはあの通り女癖が悪い。ついでに面食いだ。大方どっかの姉ちゃんか嬢ちゃんでも連れ込んでんだろ」

 おっとガキにはまだ早え話だったな。

 対する長政は机に片肘をのせて、ひらひらと手を振って笑う。その反応が気にいらなかったらしい元来負けん気の強い國子が再び食ってかかる。二人の押し問答は暫く続いた。
 通りは人気も疎らである。暑い盛りを過ぎたとはいえまだまだ暑さが残る真っ昼間にわざわざ外へ出る馬鹿はそうそういない。
 軒先の影にすっぽりと収まった彫刻家とお喋り小学生は、要するに二人揃って暇なのである。時折ちりんと、気まぐれに風鈴の音がしては、温い風がゆるゆると吹き抜けた。

「そんなこと言うんなら、今夜その戸の影から覗いてみてくださいよ。そしたらあたいの言うことが本当だってわかりますから!」

 そう何度も國子は念を押して、暗くなる前に家へ帰っていった。長政は依頼された猫の彫刻に取り掛かりながら、頭の片隅で先程の話の事を考えた。

 慶次とはつい先日会ったばかりだった。二人で仕事を安酒の肴にしてだべっていたが、その時は何ら変わりなかった筈だ。それに彼の作品は本当の面白いし、ちょっとばかり女癖の悪い以外、これといった悪評は耳にしない。しかし、いたって気のいい奴なのである。付き合いも短くは無かった。
 ……長政は、どうも心配になってきた。
                                                                   (続く)


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