ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- ラストプレゼント② (不思議な話) ( No.112 )
- 日時: 2011/01/09 16:49
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ピアノは夏のあいだ中、そこで歌っていました。
しかし、だんだん壊れて、鍵盤も、ピアノ線も、ボロボロになりました。
妖怪や魚がさわったり揺らしたりしても、歌っていました。
ボロン、ボロロン……。
さて、真っ白な月がでている、美しい夜のことです。
島の人々は、ボートに乗って遊んでいました。
ボロン、ボロロン……。
海の底からピアノが響いてくると、みんなが気味悪がって家へ帰ってしまいました。壊れかけたピアノは、おかしな音しか出せなくなっていたのです。
でもたった一人だけ、悲しそうに海の底を見つめている人がいました。見た感じ、もう還暦を越えられたお爺さんでした。彼は海の中の、あのピアノの持ち主だったのです。
彼は若いころ有名なピアニストでした。古ぼけた、気味の悪い音を出すピアノでも、お爺さんには、大切な思い出がありました。
両親が急逝して一人ぼっちで寂しかった夜、慰めてくれたピアノ。
恋をして、嬉しくて、たまらない日にひいたピアノ。
そのピアノでお爺さんは、子どもや孫のために子もり歌をひきました。小さかった赤ん坊は、もう立派な淑女になって結婚し、数人の孫達は海岸の広場でダンスを踊っています。
「あのピアノは、私の大切な友だちだ。私の心をすみずみまで知ってくれいて、何十年も、一緒に歌ってくれた。それが、今はもう、さわることも会うことさえできないところに行ってしまった。私は二度と、大切な家族の一人に会うことはできないのだな……」
お爺さんは、皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃにして、長くて重いため息をつきました。
「おやすみ……」
あちこちでセミが鳴き喚き、雲ひとつ出てこない暑い日が続きました。
遠くからやってきた嵐がうなりながら、海を通りすぎていきます。
はげしい波に打たれても、ピアノは、ひっきりなしに歌いました。
ようやく涼しい風が吹く秋がやって来ました。
おかしな音しか出せなかったピアノは、最後の力を振りしぼって、
ポロン、ポロロン……ポロン、ポロロン……ポロン、ポロロン……。
とてもとても美しい音で歌いました。
それは海に落ちたピアノが、大切な人に贈る、お別れの歌だったのです。
ピアノは歌いながら、海の底へ沈んでいきました。
そしてそれきり、不思議な音楽が聞こえることは二度とありませんでした。
(題材はスウェーデンの昔話『海に落ちたピアノ』)
- 命がけの鬼ごっこ ( No.113 )
- 日時: 2011/01/29 17:26
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
(語り部:武田堅信(たけだ・けんしん))
そんじゃ、俺のもう一つの故郷で有名な妖怪の話をしてやるぞ。
キョンシーって知ってるか? ああ、日本でもちょいと前に流行ってたよな。あ? なんか名前が可愛い? ばかやろ、キョンシーは中国語で「倒れた屍体」って意味だぞ、ちっとも可愛くねぇ。
清の時代に多く語られてたから、中国では比較的新しい妖怪になるな。だから清の正装をして、髪は弁髪にしてんだよ。
日本版だとなんでか三つ編みで顔にお札が貼られてて、ぴょんぴょん跳ねてるお間抜けなイメージが強いけどな。しかし、本当はキョンシーってのは物騒な妖怪なんだぞ。
キョンシーっていうのは、正しく埋葬されなかった屍体から魂だけが抜け、肉体だけが残って凶暴化したものだ。死臭はするが腐らないのも特徴だ。欧州ンところのゾンビなんかは腐ってっから、そこが違うところだな。
ぴょんぴょん跳ねてるイメージは、別に愉快な動きで笑いを誘うためじゃねぇ。死後硬直のせいで関節が曲がらねぇだけだ。しかもキョンシーになって長い時間がたつと、フェイキョンになって空を飛べるようになる。
ああ、そうポケモンの進化みたいに。
キョンシーはどこにでも出るぜ。俺も一度、遭遇しちまったことがある。その時の話をさせてもらう。
その日俺は、フィールドワークで遠くへ出かけた帰りだった。バスに乗ればよかったんだが、別に歩けない距離じゃなかったから歩くことにした。晴れてたしな。けど思ったより時間がかかってしまい、随分と暗い道を歩く羽目になっちまって、日が沈んでから後悔した。
まあ、でもあと一時間も歩けば家に着く。歩くのは好きだし鍛錬のためそのまま歩き続けたんだが、前から何かが近づいてくる気配がした。けど、足音がしねぇ。その代わりに、
たん、だん、だん、たん、
っていうなんだかおかしな音は聞こえてくる。そう、キョンシーが近づいてきていたんだ。
しかし、情けないことに俺はそれがはっきり見える所まで近づいてくるまでちっとも気づかなかったんだよな。キョンシーは俺を見つけると、迷わず追いかけてきた。何故だと? キョンシーは人間を食うからだよ。だから、食料発見と思ったんだろうな。
俺はもちろん逃げた。たまに振り返りながらも全速力で逃げたが、キョンシーもなかなか早い。飛び跳ねているくせに、早いんだぜ。まだフェイキョンになっていなかったからマシだがな。
追いつかれそうになった瞬間、俺は運よく太く高い木を見つけて、迷わずそれによじ登った。キョンシーは死後硬直を起こしてるから、手は前に突き出してるし、足も曲がんねぇ。それじゃ木登りなんてできねぇよな。
案の定、キョンシーは悔しそうに木の周りをぐるぐる回り始めた。けど、ずっとここにいるわけにもいかねぇし……どうするべきか。
俺は懐にライターがあったのを思い出し、それから鞄の中から読み終わった新聞を取り出した。二、三枚にまとめて思い切り絞り、それに火をつける。
キョンシーは火に弱ぇんだ。火を見て怯んだキョンシーに向かってその火を投げると、キョンシーは気味の悪ぃ声を上げてその場に倒れた。俺はまた、今度は使い終わった資料をねじり、火をつけて投げた。
大柄なキョンシーだったのでそれだけではこと足りず、結局その後もまた何本かマッチを使って火をつけ、キョンシーを焼き払った。
……もし中国に来る用事があるなら、常に火を持ち歩くことが生死を分かつ。キョンシーは炎に焼かれるか雷に打たれない限り死なねぇからな。
てめぇら、食われてキョンシーの仲間入りしたくなかったら、今の内に肝に銘じとけ。
- おいでおいで ( No.114 )
- 日時: 2011/01/30 14:29
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
語り部:弁財天沙穂(ベンザイテン・サホ)
会者常離。
それでも、さよならなんて、彼は言わないでしょう。
月光様。ああ、愛しい殿方。
月光様ごめんなさい、もうお別れです。とうとう別離の刻がやって参りました。
山の主が我を呼んでいるのです。
此処へ還って来いと。
森が囁いているのです。此方に戻って来なさいと。
それでも、貴男は我を追ってくるのでしょう?
ええ知っていますとも。勿論わかっていますとも。
貴男は、きっとどこまでもどこへでも駆けて行かれるのでしょう。深い深い樹海の中を。服も手足も傷付いて、二度と此岸に戻れぬと知りながら。我を捕まえにいらっしゃるのでしょう。
そしてそしてそして、
(あな恋しや愛しや月光様)
(沙穂は何時までもお待ちしておりますとも)
- 懐古① (怖い話) ( No.115 )
- 日時: 2011/02/05 17:54
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
(語り部:雅芳登行)
まず言わせて貰おう。
俺はその時本当に怖いと思ったし、今でも怖いと思っている。しかし俺以外の奴からすれば特別恐ろしい話ではないかもしれん。だから終わった後に不満があっても文句は言わないでくれ。言われてもどうもできんからな。
ああ、勿体つけて悪かった。では話そう。
あれは大学生で、就職活動中の頃だった。バイトと勉強に明け暮れていたから、いつも夜は疲労困憊で夢も見ないのが常だったが、その夜はふっと目が覚めた。
弟は学校の寮へ、姉も結婚して出て行って暫く経っていたから少しは慣れていたのだが、その時は殊更家の広さというものが際立って押し寄せるようだった。
喉が渇いていてとにかく何か飲みたかったから、俺は台所へ降りていった。
冷蔵庫には半分程残っている麦茶の瓶があった。俺はそれを飲み干して流しへ置いたのだが、その瓶に映った影が動いた。
俺の影ではなかったし、あの時他に動くものなど何もなかった。
反射的に顔をあげると、そこにあったのはタイル貼りの壁でなくてのっぺりとした鏡だった。継ぎ目が一切見当たらない、大きな一枚物の鏡に俺と台所のコンロが映っている。
……だが、鏡の中の俺は学生服を着ていたんだ。しかも鏡の中には死んだ母親が隣に立っている。
慌てて隣を振り返ってみたが勿論誰もいない。改めて鏡をよく見ると、鏡の中の俺は洗い物の途中のようだった。
暫くは俺と同じようにこっちを見ていたが、母に何か言われたようで、作業を再開した。
アルバムの住人となってしまった母親はとても懐かしかったが、明らかに現在でないモノを映す鏡には、今にもその奥から手が伸びてきそうな怖さがあった。
薄暗い真夜中の台所で真昼の様に振る舞う光景は異常だったし、よく台所を手伝った事は覚えがあって全くの嘘でもなかったからな。
鏡に釘付けになっている内に、小さく破裂音が響いて我に返った。
(続く)
- 懐古② ( No.116 )
- 日時: 2011/02/06 11:38
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
以前もっと大きなそれを聞いた事があった気もしたが、思い出す前に喧しく割れ落ちた鏡に思考そのものが吹っ飛んだ。俺は思わず後ずさって台所を出、混乱したまま気が付けば居間の前まで来ていた。
ぼんやりと青い居間を入った正面の壁に、居間全体を映す程の大きな鏡が掛かっている。
その鏡の中の俺はまた制服を着ていて、無人の筈のソファーには同じく学生時代の姿の王、鍛治屋、後輩の涼子君、教え子の近藤君が寛いだ様子で座っていた。
リビングの入り口に此方を見て立っている俺は、人数分のマグカップが載ったお盆を持っていて、気付いて立ち上がった涼子君と何か会話した後めいめいの前にカップを置いていった。
近藤君は俺と入れ替わりに台所へ行ったようだった。確かに——夜ではなかったが——あの時彼女は食べ物の載ったお盆を取りに行った筈だ。それで巨大台所害虫に遭遇して大騒ぎ……頭の隅で思い返していると、また小さな破裂音がして、鏡は床に騒騒しく流れ落ちた。
俺は訳がわからないまま居間を後にした。
廊下の壁には大小様様な鏡が隙間無く並べて掛けてあった。
俺が歩くのに合わせて上着を肩にかけた制服姿の俺も鏡の中を歩いていく。ある時は一人で、ある時は家族や友人達と一緒に。
歩いている間中ずっと、後ろの方で小さな破裂音と硝子の落ちる喧しい音がつかず離れずついてきた。
廊下の壁から鏡が消えて、通り過ぎた最後の一枚が割れ落ちるのを聞いた時、俺は一つだけ開きかけたドアに気が付いた。
(続く)
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