ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 久しぶりに会ったいとこ④ ( No.107 )
- 日時: 2011/01/05 11:44
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
庭にいたのは、獣でも不審者でもない——大好きな従姉だったのです。
あれほど叱られていたのに、靴下さえ履いていないではありませんか。綾音は、あの、細くて華奢な足に傷がつかないか心配になりました。
僅かに開いていた戸から冷たいと思えるほど涼しい風が吹き込み、綾音は肩を振るわせます。
それでも庭に佇んで風を受ける従姉は、とても気持ちが良さそうです。大きな目を細めて、丸い丸い月を眺めています。小さな口元が動いています。——歌を歌っているようでした。
柔らかな髪がゆらゆらと風を孕んで揺れて、月光を浴びてきらきらと光っています。
(……綺麗)
感嘆すると同時に、綾音はひどく不安になりました。大好きな従姉が、このままどこかへ消えてしまうのではないかと思ったのです。
——ゆらゆら。
風は止まず、ただスピカの髪と服を揺らします。
——ゆらゆら、ざわり。
高価な卵のような柔らかい輪郭を描いている従妹の頬を突然、大きな手が撫でました。綾音はガラス戸から勢いよく離れました。
月光に慣れた目が、縁側の闇を吸い込んでひどく重たく感じます。カーテンの隙間からわずかに零れてくる光が、細く差し込んで綾音の足元を照らしました。
(あれは、なに)
そうっと、従姉の頬を撫でた、あの手。
(あれは、なんや。あれは、あれは、あれは)
石灰岩から削り取ったような、作り物じみた、大きな、男の。
(なにもないいところから、とつぜん)
僅かに髪を撫でる外の風が氷のように冷たく感じられて、綾音はたたらを踏みました。
ふと感じた、風の中に混じる匂いに綾音の眉間が寄ります。
薬のような匂いですが、薬ではないもの。どことなく爽やかさを含んだ、青い匂い——森の中のような。ざわざわと高鳴る鼓動に、呼吸のリズムが短くなっていきます。
(……なん、の)
いつの間にか歌声は止んでいて、ひゅうひゅう。吹き抜ける風の音だけが耳に届きました。
しばらく、綾音は立ちすくんだままでした。風はまだ吹いていて、あの青臭い匂いも消えません。
見間違いであることを祈りつつ、綾音はもう一度、そっとカーテンに手をかけました。そこに、闇がありました。
(続く)
- 久しぶりに会ったいとこ⑤ ( No.108 )
- 日時: 2011/04/16 14:09
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
「ひっ……!」
綾音が上げかけた悲鳴は、口に添えられた手によって外気に晒されることはありませんでした。訳が分からず暴れようとして——目の前のよく見慣れた人物に、ほっと息をつきます。
「す、スピカ姉ちゃん……」
「ごめんねえ、吃驚させて」
申し訳なさそうに笑うスピカに、綾音はぶんぶんと首を振ります。
「姉ちゃん……なんで、庭に?」
「……暑くて、眠れなかったからね」
ますます困ったような笑みを浮かべながら、綾音の従姉は縁側に上がって窓をしっかり閉めました。凍えるような冷たさの風はもうそこには無く、うんざりするような暑気を含む空気が停滞しています。
「——あんな、スピカ姉ちゃん」
「なあに?」
綾音は出そうになった言葉を飲み込みました。先ほど自分が見た手の話だったのですが、いたずらに彼女を怖がらせてしまいそうな気がしたからです。それに、見間違いであったのかもしれない可能性だってあるのですから。
(きっと、寝ぼけてたんやて)
そう結論づけて、綾音は頭を振りました。
「ううん、なんでもないで」
「……そう?」
寝床に戻るらしく、スピカが背を向けました。その姿を見送って、綾音はアッと気が付きました。
——おらへんのや。
綾音が大好きだった従姉はもうここにいないのだと。
身体はここにあるけれど、心はここに無いのです。どこかに置いて、いいえ、持ってくるのを忘れてしまったのでしょう。
妙な違和感はそこだったのです——綾音は妙に腑に落ちました。
寂しさと悲しさが一緒くたになってしまって、泣くに泣けない奇妙な感慨に浸りつつ、綾音は歩き出したスピカを見つめました。そして、息を呑みました。
従姉の首には、雪のように白くて長いものが巻きついていたのです。幾重にも幾重にも……。夜の闇は全ての色を褪せさせて、どんな色だったのかをわからなくしてしまいます。ですが綾音は、それが何故か——髪の毛だと、気付いてしまいました。
(あれ、や)
綾音は背筋が震えるのを止められません。
(あれは、あれの)
スピカの頬を撫でた、あの白い手。
夜が作る闇の中、一瞬金色の光を見た気がして、綾音は恐ろしくなって部屋まで駆け出しました。
(続く)
- 久しぶりに会ったいとこ⑥ ( No.109 )
- 日時: 2011/01/08 14:27
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
……それから数日、何事も起きませんでした。
朝、目を覚まして居間に下りても、従姉の首には髪の毛なんて巻きついていませんでしたし、庭にも何もいなかったし見当たりませんでした。従姉はいつも通り元気で、あの眩しい笑顔を皆に向けて、ひたすら遠慮と我慢のし通しでした。
ただ、夜中に歌が庭から聞こえてきても綾音は絶対に布団から顔を出しませんでした。時たま強く吹き荒れる風も、あの湿気たような奇妙な匂いもなにもかも。
綾音は気付かない振り知らない振りをして過ごしました。そうすれば、いつの間にか眠ることができるからです。——まるで魔法にかかったように。
どこか心が欠けたようなスピカは、毎日本屋や図書館へ通い、たくさんの本を読んで、毎夜こっそり庭へ出ていました。
あれだけ憧れていた従姉は、もはや綾音にとっては奇ッ怪な生き物にしか見えませんでした。もちろん一緒に話したりすれば楽しいし、遊べば面白い。けれど、なにか恐ろしいものとしか綾音は思えなかったのです。
そんな綾音にスピカは全く気付きませんでしたので、表面上、二人の関係はなんら変わりは生じませんでしたが。
(続く)
- 久しぶりに会ったいとこ⑦ ( No.110 )
- 日時: 2011/01/08 16:31
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
数日後。
スピカが自宅へ帰る時も、綾音は祖母と一緒に見送りに行きました。彼岸を過ぎて、幾分か猛勢を和らげた太陽は、それでも燦燦と輝いて地面に影を焼き付けようと必死です。
「またね、綾音ちゃん」
スピカが手を振ります。綾音も振り返します。
「……うん、またね、スピカ姉ちゃん」
にこりと微笑んだ従姉の顔は、帰宅をとても喜んでいるように見えました。そんな彼女を取り巻くように、あの緑の香りをした冷たい風がホームを吹き抜けていきます。
スピカが電車に乗り込み、入口からすぐ側の座席に座って、窓を開けました。
「気をつけるんですよ、スピカさん」
「大丈夫だよ」
そう言って笑った彼女は、確かに見惚れるような可愛らしさ。それでも、綾音は言葉を詰まらせました。
「……ばいばい、スピカ姉ちゃん」
それしか言葉の言えない綾音にも、スピカは可愛らしく笑いかけました。——数日前と同じように。
「うん、ばいばい!」
田舎へ駆けて行く電車を、綾音はいつまでもいつまでも見送っていました。正確には、そこから動けなかったのです。
祖母が不思議そうに顔を覗き込むまで固まったまま、からからに渇いた肺に空気を送り込みます。様子のおかしい孫に、祖母は首を傾げたままでした。
——綾音は今度、白い腕が従姉の身体をしっかり抱きしめているのを見てしまったのです。
(終わり)
- ラストプレゼント ( No.111 )
- 日時: 2011/01/09 13:43
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
むかしむかしのお話です。
ある初夏の夕方のことでした。海の中では、魚たちと共に海の妖怪たちもゆっくりとそこら中を泳ぎまわっていました。
そこへ、いきなり大きな音がしたかと思うと、真っ黒な塊が海に落ちてきたのです。
ポロロン、バーン!
その夕日でピカピカ光る大きな物体は、不思議な音を響かせながら海の底までやってきました。
落ちてきたのは、トラックで運ばれてきた古いピアノです。船の中へ運ぼうとした作業員が、うっかり手を滑らせてしまったようなのです。
『なんだ、なんだ?』
ビックリした魚たちは逃げてしまいましたが、妖怪たちは我先にと近寄ってきて、ピアノの周りに集まりました。
「もしかすると、食べ物かもしれないな」
海坊主が、大きな目をぐりぐり動かしながらいいました。
海牛はピアノの足をなめていましたが、とくに美味しい味はしないようです。
「いいえ、これは鏡よう。だって、私の姿が映ってるじゃあないのさ」
トモカヅキがいいました。
「はたおり台じゃァないのかい。こんなにたくさんの糸がついているよ」
船幽霊たちは、杓子でピアノ線を指していいます。
一匹の海小僧がペダルの上に乗っかりました。
『グワーン』
すると突然ピアノがとんでもない音で鳴らしたので、みんなさすがに驚いて逃げて帰ってしまいました。
その夜のことです。赤えいはその騒ぎで睡眠を邪魔され不機嫌で、海はすこぶる荒れていました。赤えいが起こした波がピアノをゆさぶると、
ポロン、ポロロン……。
優しいメロディの音楽が響きます。
ピアノは一人ぼっちで、歌っていたのです。ときどき海禿の群れがきて、壊れかけたピアノの上で遊びにくるぐらいでした。
海の底でなっているピアノの音は、陸の桟橋のところまで聞こえてきました。
ポロン、ポロロン……。
「なんだろう? 海の中で音する」
ピアノの音を聞いた男の子が、隣の女の子に聞きました。
「あれはきっと、人魚が歌ってるのよ」
女の子は、夢見るような顔つきで答えました。
夕方散歩に出ていた若いカップルも、ピアノの音を聞きました。
ポロン、ポロロン……。
近近婚礼を挙げる二人にとっては、かすかに聞こえてくる音楽が、自分たちの心の中で響いているように思われました。
(続き)
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