ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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怪奇拾遺集
日時: 2011/03/19 18:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。

**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***



前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・

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鎮魂歌を・・・②(怖い話) ( No.57 )
日時: 2011/03/29 09:35
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)

 その真夜中。私はふと、意識が浮上するのを感じました。とろりとした甘だるい眠気の中に、ちょっとしたトゲのような違和感を感じたのです。
 なんと説明すればいいのですかね……ああいうのが第六感と、いうものなのかもしれません。
 身動ぎをしようとして……しかし、それはかないませんでした。私は、あお向けにベッドに入ったまま金縛りにあっていたのです。
 しかし金縛りといってもまばたきは問題なく出来ますし、首から上は動くものですから、私はこの状況を理解しようと頭を働かせました。
 違和感は、私の右側から伝わってきます。
 私はなにげなく確認しようと右側に首をめぐらせようとして……思わず息をのみました。
 私の視線の先、二メートルほどのところに、あり得ないものを見てしまったのです。
 そこには、ぼろぼろの服を着た女性が……ちょうどベッドに横になった私と同じ高さの宙空に、同じように横になった状態で浮かんでいました。しかも、身体は仰向けに、顔だけはこちらをしっかりと見据えて。
 私は状況が理解できず、茫然とその女性を見つめることしかできません。
 しかし。私は我に返りました。
 それというのも、その女性がこちらを見据えたまま、低く、低くうなりはじめたのです。
 ああ、とか、うう、とか。そういった言葉で表せないようなうめき声でした。
 私はとっさに起き上がろうとしましたが、それはかなわず、ただ目の前の光景を見つめることしかできません。先ほどは動いたはずの首でさえ今は動かすこともできなくなっていたのです。
 その女性は目を見開き、うめきながらも苦悶の表情で私を見つめています。
 彼女のうめきは次第に大きくなり、小さくなり、大きくなり……やがてそのうめきが地響きのように、びりびりと空気を振動させるのを感じました。

「う、うぅぅう……ぁぁああああああぁああああ!」

 私は恐ろしくなり、そのときの私にできる最後の抵抗を決めました。目を閉じたのです。



 ……気がつくと、次の日の朝を迎えていました。
 身支度をしてぼんやりしたままの頭を抱えながらもリビングに向かうと、そこは穏やかな朝食の席で、何も変わったところはありません。

「おはようございます」
「おはよう……ございます」

 あまりにも普通すぎるやりとりに、昨日のことは疲れからくる悪夢だったのだろうかと、私は無理やりにでも気分を切り替えようと朝食の席につきました。
 けれど、どうしても昨日の恐怖が何度も脳裏にはっきりとよみがえります。
 海藻のような乱れた長い髪、うめく声。ぽっかりと開いた闇のような口。そして、なにかをうったえかけるように歪み、血走った両目。
 ……その映像を消そうと額を軽く叩いていると、そこへワンピースに着替えた娘さんが近づいてきました。

「おはようございます、ミス・カンタータ……あの、もしかして、きのう、おんなのひとが……?」

 無邪気ながらも聞きようによってはとんでもない言葉に、視界の端で知人姉妹がぎょっと顔を強ばらせています。
 私は彼女がなにを言っているのか察することができましたが、しばし次の言葉が出ませんでした。

「…………」

 無言のままの私に焦れたのか、娘さんは言葉を続けます。

「きのうのよなか、おんなのひとがあたしのところにきました……。でも、すぐでていきましたけどね。なんか、ここじゃない、って」
「……『ここじゃない』……とは、どういうことかしら?」

 なんとか平静な声を絞り出すと、娘さんは首を傾げて考える仕草をしてから言いました。

「さあ、そこまではあたしわからないんですど……。でもきのうのよるも、うたっていらっしゃるあなたをずっとみてたから。それならレクイエムを、っておもったんですけど……。もしかしたら、ステキなうたごえがすきなひとだったのかもしれないですね……ミス・カンタータ、あなたのような……」

 以上が、私の体験談です。
今こうして冷静に考えてみれば、あの女性はただ救いを求めにきただけなのかもしれませんね。
 なにかに心囚われ、妄執に苦しみ続ける自らの魂を鎮めてほしいと……哀れなものです。
 また、後から聞いた話によると、娘さんは近辺ではなかなか名の知れた霊的センスを持った少女であったそうなのですよ。
 だからこそ、この契機に少女を通じて私にうったえかけてきたのでしょうね。
                                                  (終わり)

白い夢① (虚しい話) ( No.58 )
日時: 2011/02/23 14:49
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

(語り部:神風スピカ)





 きょうも、ひらりひらり。しろいつぶがはいいろのおそらからふってくる。
 おそとのくうきはどこもピーンとはっているから、からだをよせあってだんをつくりだしても、ゆびさきのブルブルまではとめられない。

「……大丈夫か? スピカ」

 ひくい、でもやさしいささやきごえ。ふいによばれたので、かおをあげて兄をみた。
 しきそがほかのひとよりうすいせいで、あまそうにみえるいろをしたかみのけ。アキヒコとなのった兄はふんわりほほえみかけながら、そっとてをにぎりかえしてくれる。
 このさむさでは、さっさとおうちのなかに入らなければこごえてしまう。さすがにしぬことはないだろうけれど、いつまでもここにはいられない。でも私はうなずくだけで、つよく、もっとつよく兄にだきつく。
 まっすぐなせなかにまわしたてが、マフラーにあたってひっぱりたくなるてをしかって、それをかきけすようにかおをうもらせた。
 マフラーはお祖母さまから兄へのプレゼント。私は、そんなものいちどももらったことがない。だって私が孫になるまえにしんじゃったもの。
 それに、私は“お兄さま”のおそばにいられればいいんだ。あたらしい“お母さま”は、ずっとびょういんでくらしている。父さんはおしごとでほとんどおうちにかえってこない。
 たくさんのじかんは兄といっしょにすごすことで、すべてをおぎなっていた。そしてたくさんのことをたくわえていた。
 カラダもココロも、あたまをなでられたり、こうやっておててをにぎりあうだけでまんぞくだった。
 私は両親よりもきょねんのはるまではアカのたにんだった兄をしたっていた。けして父さん母さんがきらいなわけじゃない。ただ、みぢかにかんじられないだけ。
 私のせかいは、兄だけでじゅうぶんだったのだ。それはむかしも今もおなじだけれども。
                                    (続く)

白い夢② (虚しい話) ( No.59 )
日時: 2011/03/05 14:13
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

「スピカちゃん」

 やみあがりでよわよわしいけれど、ココアみたいに甘ったるい声。母が家の中であそんでいた私に声をかける。
 兄はいない。居なくなってしまって数日ちょっと経っていた。

「…………」

 私はこたえなかった。弥勒菩薩さまをほうふつとさせる母はきらいではないけれど、兄よりは好きじゃない。

「大丈夫よ、スピカちゃん、戻ってきてくるからね」

 和風づくりのお家はすきま風をとおすから、いつも母は私によりそっていた。私もさむいからそばははなれない。
 手元の、むかしもらった木せいのお人形は手あかで見るもむざんになっているけれども、初めてもらったものだから大切にしていた。
 そんな私を母は、いつもどおりやさしく笑いながら、

「はい、スピカちゃん」

 母のふっくらとした手から出てきたのは、どう見ても裁縫のあまりで作ったつぎはぎの布でできた人形。

「なんですか、これ」
「こっちからお母さんとお父さん、お兄ちゃんとあなたよ」

 三つあみをうしろでまとめていて、白のワンピースを来ている人形、髪が短くてバンダナをまいている人形、黒髪で太いまゆげが描かれた人形、最後にながい髪にリボンをつけられている人形。

「これでさみしくないね、お父さんとお兄ちゃんが帰ってくるまで我慢しようねえ」

 水気のある言葉をききながしながら、手わたされた四体の人形を見る。
 二体だけ髪の毛の色がちがう。家族なのに、ハチミツをうすめたような色の母と兄の髪色ではなく、全てを吸い込んでしまうクロの父と私。
 眼はボタンでつたないし、口の形もあらい。手ざわりはかゆいかんじ。とても大の大人が作ったとは思えないものだったけれども、

「ありがとうございます、お母さま」

 幼い私には、母からもらい受けたイチバンのタカラモノだった。今でも部屋の机の上に四体仲よく並んでいる。これだけは、なくさまいこわさまいと大切にまもってきた。
 よこを見れば笑顔の両親と、見上げればほほえんでくれる兄と、私はかこまれて過ごしてきた。
 でも、やっぱりうつむけば灰色が両脇から迫ってくる。
 そして二人とも見えなくなってしまうのだ。
                                          (続く)

白い夢③ (虚しい話) ( No.60 )
日時: 2011/02/23 15:14
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

「……おはよう」

 ユメから帰ってきて起き上がると同時に、夢で見た人形が目の前に飛び込んでくる。
 父、母、兄、私と並んだ、くしゃくしゃの糸が飛び出し、目玉のボタンも取れかかった年代物。
 冬の朝の床は氷みたいに冷たいけれど、近くまで寄っていっての挨拶だけは欠かさない。昔はベッドの共にし、眠る時の挨拶もしていたけど、いつの間にか止めてしまった。
 そろそろ直さなければと思うたびに、何となく先のばしにして来た。正直、繕い物は得意な方ではない。
 こういう時は一緒に暮らしていれば、お節介な母は何も言わずに縫い直してくれるというのに。離れて暮らしはじめてから、不便になった。
 それでも両親は数日おきに電話をくれるし、兄は月一で必ず長い手紙をくれる。
 気ままな一人暮らしなぶん、自由で、これはこれで満足なのに。
 ふいと真ん中に居座って、二つの人形を寄りかからせている自分の人形を持ち上げたら、ぽとん。とうとう首が取れてしまった。

「…………」

 布切れを詰めた綿が飛び出して、他の人形に体当たりする。

(はやく縫い直さないと)

 そう思いつつも似ていない人形を、首がもがれたまま置いて普通に着替えてから部屋を出た。
 生活感のない部屋で食事を軽く取って、ヨーグルトを食べている最中、人形のことを思い出したけれども、まあいいや。
 家を出て、向かう先は必然、兄のところ。いないかもと思ったけれど、

「スピカ」

 どうしたんだ——でも兄は笑って出迎えてくれた。やはり父はいなかった。私はぺこりとお辞儀すると、優しい兄は笑いながら私を迎え入れる。
 玄関のドアをくぐって、母のいるキッチンに向かう。

「ちょうどよかったスピカちゃん」

 パンが焼けたところなのよ——手袋をした母が笑った顔で出迎えてくれる。
 出来るだけ無表情でいようと思うのは、気恥ずかしいからだ。
 後ろから肩に手を置かれて兄に座るよううながされた。

「ご飯は食べてきたの、スピカちゃん」

 母の問いに、首を振って嘘をつく。

「じゃあ三人で朝ご飯ね」

 数十分前に齧ったカロリーメイトの存在など忘れるくらいに、花柄のテーブルクロスの上に並べられている食事は、少し暮らしやすくなった時に食べていたものばかりで。好みを把握している母らしく、兄と私の好物ばかり。
 焼きたてのパンも温かいスープも全てそろった、優しい空間せかい。ブツッ。

「あら、やだ」

 母の胸のボタンがはじけ飛ぶ。そこから漏れ出したのは古びた布切れだ。

「あれ?」

 初めて私は言葉を口にした。今まで少しでも言葉を発すれば壊れてしまうと思っていた空間は、いとも簡単に崩れさる。
 目の前に座っていた母も、横に座っていた兄も、目玉がボタンになってしまうから、私も眼を瞑って身体から力を抜けば全てが布の切れ端と糸切れに代わった。
 こうなればあとは簡単で。かくんと動かせばぶちぶちと音を発しながら、軽い音をたてて床に転がる私の首。
 もう二度と直されることがない「私」が出来ることといえば、私に灰色の空を見せる私に夢を見させてあげることぐらい。
 こうやって私が私をごまかすことしか出来なくて。

『ネエ、見エテルンデショウ』

 ぶつぶつと口の糸が裂けながら紡がれるその先は、驚愕の顔をする夢を見る私。

『ドウセ、コンナモノナノヨ』
(何がよ)

 私はそう言い返したかったけれど、時間切れが来てしまったので、また灰色の空から白い粒が舞うシーンに切り替わる。
 そうすれば私はこの夢のお告げを忘れて、また眠って思い出して、また眠って忘れて……。
 こんな事を幾度も幾度も繰り返しながら、未だ何も言ってこない両親と兄に挟まれながらベッドに戻ってくる私を待つ毎日。
 私は布切れの身体も、幼い心も満足だった。そして、私は、また同じ夢を見続ける。
                           (終わり)

火事奇談 ( No.61 )
日時: 2010/08/01 14:33
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

(体験者:源光太郎ミナモト・コウタロウ





 一瞬の判断が、全ての生き死にを決める。
 そう実感したのは、アレは俺がまだ小学校に上がったばかりで、冬休みに実家へ帰省した時だ。
 俺にはユズキという五つ年が離れた姉が一人いて、二階の二部屋は俺と姉が使っていた。その年の冬はとても寒くて心細くなると、枕を抱えて姉の部屋に行くことがしょっちゅうあった。けれどその日はそれぞれの部屋で寝ていたんだ。
 ——ある寒い夜。俺はすでに布団の中でうとうとまどろんでいた。ところが、突然の息苦しさと立ちこめる煙の臭いで目が覚めたんだ。
 部屋の中は真っ暗だったからしばらくの間は何が起こったのか分からなかった。でもしだいに大変なことが起こっていることに気付いた。
 窓の外がうっすら赤い色に染まっていて、カーテン越しにオレンジ色の炎がめらめらと動いているのが見えたから。
 父の叫ぶ声が聞こえた。

「ユズキ……! コウタロウ……!」

 俺と姉の名をどこからか呼んでいる。俺は逃げる前に姉の部屋に行こうと思った。姉を守らなければ……!
 幼い俺は、派手で強引だが何だかんだ言って姉のことが大好きだった。俺は急いで廊下につづくドアを開けようとした。が、ドアを少し開けた瞬間、たちまちとんでもない量の煙と熱風が部屋に入り込んで来た。
 俺は思わず立ちすくんだ。そして煙のせいか、心細さのせいか、はたまた姉を助けられない己の不甲斐無さが情けなくなったのか、涙が溢れてきた。その時、

『光ちゃん! 光太郎ちゃん!』

 姉の声が聞こえた。俺は急いでドアを開けた、が俺はまた固まってしまった。
 ところが俺は再び立ちすくんでしまったんだ。そこには姉が二人、立っていたからだ。

『光太郎ちゃん、何をしているの、ほらこっちよ、早く!』

 一方の姉が俺の左腕をつかんで、階段の下の方へ引っ張って行こうとした。

『何をしているの、光太郎ちゃん、早く、こっちよ!』

 もう一方の姉は俺の右腕をつかんで姉の部屋の方へ連れて行こうとした。そちらの姉の手は冷たくなかったけれど、左手の姉よりもさらに強く俺の腕をつかんだ。姉はお互いが見えていないらしい。
 俺はどうしたらいいのか、戸惑いと恐ろしさで頭の中は真っ白だった。
 ベランダがあり畑に面している姉の部屋の方が安全そうに思えたが、今なら階段も炎を振り切って下に降りることができそうだった。

『どうしたの、急いで!』

 二人の姉が同時に叫んだ。
 俺は、俺の直感は、何故か手が冷たく感じた、左手を引っ張る姉の方を選んだ。そして右腕を掴む姉を振り切り、左手の姉と一緒に階段を駆け降りて行った。
 駆け降りながら、俺はやっぱりもう一人の姉が気になって、振り返ってみた。するとそこには、オレンジ色を背景に煙のむこうで恐ろしい形相で俺を睨んでいる姉が見えた。
 姉の部屋の方から噴き出して来る炎の中で、次第にミイラのような顔に変化していき、焼けただれて生皮が剥げ落ちた顔で、にやりと笑うったのをよく覚えている。そのミイラ婆は、骨だけになった指をこちらに突き出したまま、炎の中に消えていった……。
 前を向くと、父と母がこちらに向かって来た。俺達は助かったのだ……。

 あの時、俺の右手を掴んでいたのは、一体誰だったんだろうな。そしてあの時、もし俺が右手の方の姉を選んでいたら、俺は一体どうなっていたのだろうか……。
                                               (終わり)


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