ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 間違われた話① (不思議な話) ( No.97 )
- 日時: 2010/11/05 19:09
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
(語り部:根来那智(ねごろ・なち))
ホラー……ではないけど、私が体験したことをそのまま話すね。信じるか信じないかは好きにして。
その日は、幼馴染のスピカの家で食事会を予定していた。私とスピカ、そしてユリとイワンの四人でね。
普段はスピカが用意してくれた料理を食べることが多いんだけど、その時はみんなで料理を作るところから楽しもうという話になったの。
スピカはちょっと困った顔をしていたけど、イワンとユリは大喜びだった。もちろん、言い出した私もね。
当日、調理は順調に着々と進んでいるようにみえた。
メニューはキノコとハムのスパゲッティ、シーフードサラダ、コーンスープ、デザートは幼馴染みお手製のオレンジケーキ……って感じで。
でも、不思議なことに何故かどれも少しずつ材料や量が足りないのよ。
「昨日は確かにあったんだよ?」
事前に食材を準備した本人も首を傾げている。私はなんだか薄気味悪く、露骨に顔をしかめてしまった。イワンはほんの少し眉をひそめて首を捻っている。ユリは小さく震えてスピカにしがみ付いた。
有るはずのものが消えてしまった。たったそれだけのことが、まるで良くないことが起こる前触れのようで——周囲に不穏な空気が流れたことが誰の目にもハッキリと分かったわ。
「とにかく。材料がないのなら買いに行くしかないですね」
すぐさまイワンが冷静に提案した。声自体はいつもの通りだったけど、表情に不安な様子が見え隠れしていた。そんな彼がなんだか可愛らしくみて、私はついクスッと笑みをこぼしてしまった。
「那智さん?」
「あ、ゴメンなさい。私も貴方の言うとおりだと思うわ」
私の言葉にスピカとユリも頷いた。
「そうだね。私のミスで申し訳ないんだけど、お願いしていいかな」
「わっかりました閣下! 買い物へ行くでありまーす!」
「ありがとう、ユリ。イワンも那智もごめんね」
「気にしないで下さい」
「そうよ、スピカ。さっと行ってささっと買い物を済ませちゃいましょう」
しだいに全員の顔色が元に戻ってきた。
きっとスピカの勘違いだったのね……とまあ、私もその場はそう自分に言い聞かせたわ。
さっそく買い物へ行くことになった私達は、荷物と距離の兼ね合いからスピカとイワン、私とユリの二手に分かれることにした。
勝手知ったる我が町だから、何一つ問題はない。しかも近くのスーパーまで野菜と果物を買いに行くだけだもの。
私達は急いで出かける準備を始めた。
イワンはガレージからバイクを出しに行き、スピカは二階の戸締りをしに行った。私はエプロンを脱いで束ねた髪を解き、カバンにお財布が入っていることを確認して完了。ユリは玄関前で髪を整えていた。
「じゃ行ってくるわね」
先に出かけようとした私達をスピカが呼び止めた。
「そういえば、話してなかったと思うけど」
「なに?」
「実は最近、途中の川に新しく橋がかかったの。知ってた?」
「そうなの?」
私は以前に町まで歩いた時の道筋を思い出した。
その途中には確かに川があったけど、その川を渡るにはかなり離れた場所まで行かないとならなかったの。それが改善されたと聞いて、私はとても嬉しくなった。
「便利になったじゃない」
「ほんまやな」
「行きましょう、ユリ」
「はーい。じゃあ、行ってくるで〜、スピカ、イワンくん」
「ええ、気をつけて」
「那智、ユリのことをお願いね」
「任せて」
こうして、私とユリはさっきの不穏な空気も忘れ笑顔で出かけた。
(続く)
- 間違われた話② ( No.98 )
- 日時: 2010/11/07 18:25
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
スピカが言っていた橋はすぐに分かった。
確かに、以前よりも商店街に行くのが楽になったのは間違いないわ。
ただ、思っていたよりも簡素な、しかも木製の吊り橋だったのが気になったわ。
川の流れも、小川と呼ぶには速く幅も深さもそれなりにあるんだから、落ちたらどうしようって。少しだけ先ほどの嫌な予感がよみがえって、渡るのが少し怖くなったわ。
「那智、どないしたん?」
「ちょっとね……橋が壊れたりしたら嫌だなと思って」
余計な不安をかけたくないから、私は先ほどのことを言わず適当に誤魔化つつ返事をした。
「大丈夫やて、ほーら」
ユリは駆け足で橋を渡り、途中でくるっとそこで回った。一瞬ドキリとしたけど、橋は多少揺れたもののそれ以上は何もなかった。
「そうよね」
急に自分の考えがバカバカしくなった。
ユリは既に渡りきって、こちらに向かって手を振っている。
何でもない。何も起きるはずがないじゃない、馬鹿ね私——そう言い聞かせながら、私は橋を渡り始めた。
一歩、二歩、三歩。橋が少し軋んだ。
四歩、五歩、六歩。橋がかなり揺れた。
六歩、七歩、八歩。橋が……え?
「那智!」
ちょうど真ん中に来た時、橋が崩落した。粉々に砕けた板と共に、水飛沫をあげて私は川へと落ちていった。
私を呼ぶユリの声が聞こえたところまでは覚えているけど、記憶はそこで一旦途切れるの。
(続く)
- 間違われた話③ ( No.99 )
- 日時: 2011/02/23 17:12
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
それからどれくらい時間が経ったのかしら……気がついた時、私は不思議な空間に突っ立っていた。
辺りは真っ白で、まるで濃い霧のようなものに包まれていたわ。
「ここは……?」
どこなのかしら。
記憶を辿ってみたけど、もちろん納得の出来る答えは出てくるわけがない。
ただ、買い物の途中に橋から落ちたということは思い出せた。
「もしかして、死んだ!?」
川で溺れて死んでしまった可能性はある。じゃぁ、此処はあの世? そんなことを咄嗟に考えた。
「いいや。君はまだ死んでいない」
突然、どこかから声が響いた。
「だ、誰?」
私は恐怖を感じながらも、ハッキリとした口調で叫んだ。一瞬の間をおいて、再び声が響く。低いながら、よく透る声が。
「残念ながら我々には人間のような概念は存在しなくてね。それよりも少々話をしたいことがあるのだが……構わないかな?」
「そんな急に、ちょっと、待ってよ」
「時間が経過すればするほど、君にとって面倒なことになるぞ」
そして私がその言葉に驚くより早く、目の前に黒マントを纏った女性がふっとわいたように現れた。
彼女は手を伸ばせば届くほど近くに立っていた。
何で女だってわかったって? フードの下から見える顎の輪郭と咽喉仏の有無よ。声は……男とも女とも取れたけど。
肌は背景にとけこむほどの白だったのが印象的だったわ。
「一体どうなってるの!?」
「ああ、これかい? これは我々の仮の形だ。姿が見えないと不便だろう? いや、人間は“不安”と言うのだったかな?」
彼女は私をからかって楽しむような笑みを浮かべた。
その態度にちょっと腹が立ったけど、先ほど聞いた『時間がない』という言葉の方がもっと気になる。私は黙って男の言葉を待った。
「なるほど、賢明だな。こんなに早く理解してくれるとは思わなかった」
私の反応が面白くなかったのか、女はワザとらしく呟いた。
「……褒めてくれるのは嬉しいけど、急いでいるのでしょ? 早く先に進めてくれない?」
「では本題に入ろう」
こうして、彼女はとんでもないことを話し始めたの。
「今回のことは完全に我々の責任であり、君に非はない」
一番最初に、大げさな動作で謝罪の言葉を告げた。
事務的な態度が気に入らなかったけど、彼女は有無を言わさぬ雰囲気が放っていたわ。
「本来このようなことがあっては決してならないのだが、起こってしまったものは仕方がない」
「えぇ、そうね」
私は適当に相槌を打って先へと促す。
「我々には人間の世界でいう弟子のような存在が複数いる。それらが原因だといって良いだろう」
「弟子? 原因?」
「つまり、それらは我々より未熟ということだ。そのミスのせいで、今君がここにいる」
「どういうこと?」
その時、周囲の空気が静かに変わったように感じた。
(続く)
- 間違われた話④ ( No.100 )
- 日時: 2010/11/24 23:14
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
「本来の標的は君ではなく、別の人物のはずだったということだ」
「えっ?」
「我々の標的は近くに住む君と背格好の似ている女性だ。彼女は日々の買い物や仕事であそこを通る。あれらはその女性と君を勘違いしてな」
「か、勘違い?」
「そうだ。もし我々に時間を巻き戻す力があったならば、わざわざこんなことをする必要などなかったのだが……しかしそれは不可能だ。だから我々はこうして君の前に現れた……少しでも君の恐怖を和らげるためにな」
「意味が解らないわよ。もう少しちゃんと説明してくれる?」
「無論そのつもりだ。尤も、全ては我々のエゴでしかない。君はきっと怒ることだろう」
「それは聞いてから私が判断することよ。いいから話して頂戴」
「ああ、そうだな。では聞くが……」
途中、彼女の言葉には僅かに自嘲的な色が滲んでいたように思った。しかし、スグに元の事務的な口調に戻る。
「君が落ちたあの橋の存在はとても素晴らしいものだと思わないかい?」
「それはもう、絶対に便利だと思うわ」
私は間髪入れずに答えた。
「橋の近くに住む人が便利だと言ってたし。私は今日初めて渡ったけど、すごく良かったわよ、途中で落ちなかったらね——それが何なの?」
「ならば、あとでその住人とやらに再度聞いてみるといい。彼らは橋が出来た経緯も時期もその形さえ、答えられないだろう」
「何故?」
「それは——我々が今日のために架けたものだからだ」
そこで彼女はニヤリと笑った。私はその不吉な表情に寒気を覚えたけど、気にせず言葉を続ける。
「あの場所にあの橋があったら必ず使うだろう?」
私は男の言わんとする意味を考えた。
不便な川に橋が架かれば、必ず毎日使うはずだわ。使わない理由はない——それがたとえ、壊れてしまいそうだと思っても。
事実、私も危険を感じたのにも関わらず、最後は橋を渡ってしまった。
——それは全て神の導きだったかのように。
「彼女が橋を渡るのは、既に必然となっていた」「……それが何?」
彼女はまるで一人芝居の如く話を進める。
「彼女は料理の準備をしている途中で食材が足りないことに気付いた。昨日買ったはずなのにどこへ消えてしまったか? 不審に思いつつも、彼女は急いで買い物へ出かけた。町までの道程は最近誰かが架けた橋のおかげで随分とラクになった。彼女はそこへ足を踏み入れ……途中で川に落ちてしまう」
「あんたは一体、何を言いたいの?」
私は彼女の言葉を待つ。
そしてたっぷり間を置いてから、彼女は今まで見せなかった邪悪な笑みを浮かべて言った。
「簡単なことだよ。川に落ちた彼女はそのまま安らかな死を迎えるはずだった——しかし我々の不手際のせいで、死を迎えるのは彼女ではなく君になったのだ」
『死』という言葉を口にした彼女の表情は、今さらながらヒトではない別のモノだと感じた。
私は無意識にその場から後ずさった。
「そんな……軽々しく死ぬとか言わないでほしいわ」
「軽々しくなんて言っていない。それが我々の仕事だから」
「仕事?」
「そう。我々は“死を司るモノ”だ」
「死を、司る?」
「そうだ、解らない?」
「……いいえ」
彼女の問い掛けに、私は溜め息をつきながら答えた。
「思い当たることはあることはあるけど——ただ、そんなことが起こると考えたくないだけよ」
「それは良かった。賢くて助かるよ」
彼女はいつの間にか——最初のクールな表情に戻っていた。その様子を見れば、私の考えが間違っていないと嫌でも分かる。
生命の死を司る存在を、人は『死神』と言う。
目の前の女性は鎌を持ってるわけでも骸骨で(黒いローブを纏っているけど)、彼女はきっとそういう存在なのでしょう。
そして別の命を刈り取るつもりが、誤って私を殺しかけたと言っている。
……誤って?
そんなことが果たして許されるとでも?
(続く)
- 間違われた話⑤ ( No.101 )
- 日時: 2011/04/10 09:56
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
「これは言い訳なのだがね」
私の心を読んだかのように彼女は言う。
「人間がそうであるように、我らもミスをすることがままあるのだよ」
100パーセントの完璧なんて存在しない——そう付け足して嘲るように笑った。
「それはそうだけど……でもだからって、簡単に『はい、そうですか』とはならないわよ?」
私も負けずに言い返したけど、彼女は軽くあしらうだけ。
「君の気持ちはよく解るよ。こんなことを簡単に納得されたらこちらがビックリするさ。しかし、仲間のせいで関係の無い人間が見殺しになっては堪らない。君は我々が責任を持って元の世界に戻してあげよう」
「それは御親切に。まだ完全に納得したわけではないけど、もう良いことにするわ」
私は大きく溜め息をつきつつ、これ以上の抵抗を諦めた。
「それで、私はこの後どうしたらいいの?」
「何も心配することはない。戻りたいと思えばいつでも戻れる」
「そんなに簡単なのね」
「この世は案外単純な造りなのだよ」
「あんたの話は難しかったけど?」
私の言葉に女はククッと楽しそうに笑った。
「自分はとても楽しかったよ。……もう、戻りたい?」
「戻りたいわ」
「そうか、それは残念だ」
その瞬間、目の前にいた女性の姿がふっと消えた。
「あれっ?」
周囲を見回して探してみたけどどこにもいない——でも、すぐに声が響いた。
「目を閉じて三つ数えて目を開けたまえ、それで元に戻るよ」
「えっ?」
「君との会話は本当に楽しかったよ。しかし実に悪いことをした。もう一度謝罪させてくれ、すまなかった」
その声は先ほどの憂いを帯びたものだったので、私は何も言うことが出来なかった。
「もう二度と会うことはないだろう。我々のことは忘れてくれ」
「……忘れるのは難しいと思うわよ? でも、あんたが気にしていた心の傷は大丈夫そうだわ」
「そうか」
彼女がホッと胸を撫で下ろした様子が伝わってきた。
しかし。
「あんたと話していたら楽しくて、何でこんなことになったのか忘れちゃいそうだもの。何も心配はないわよ」
そう言って私が小さく微笑んだ時、彼女に嗤われたように感じた。
気がつくと、右斜め横にスピカの顔があった。
「あれ、私……」
「良かった、本当に良かった」
私がいるのは自分の寝室で、スピカは真っ青な顔で私の手を握っていた。
「えっと、あれ?」
「どこか辛い? 痛い? 気分はどう?」
「えぇ、特に問題はないけど……」
「なら少し待っていて。今、ユリとイワンを呼んで来るから」
「え、ええ」
そのまま部屋を出て行ったスピカは、一分も経たないうちにイワンとユリを連れて戻って来た。
私の姿を見つけるユリが泣きながら私を抱きついてきた。その後ろではスピカとイワンが息を整えながら、ほっとしたように笑みを浮かべていたのが分かった。
三人は私の身体を気遣いながら、これまでのことを話してくれた。
私が橋から落ちたあと、ユリは流されていく私を必死で追いかけてくれたそうなの。
追いかけて追いかけて、一キロメートルほど流されたところで“偶然にも”岩の隙間に引っかかっていた私を彼女は見つけてくれて……。
さらに“幸運にも”買い物帰りのスピカとイワンが通りかかり私は無事救出されたということ。
私は打撲やカスリ傷だけで済み、五時間ほど経った今やっと目を覚ましたのだった。
(続く)
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