ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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怪奇拾遺集
日時: 2011/03/19 18:22
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。

**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***



前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・

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懐古③ ( No.117 )
日時: 2011/02/06 14:27
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 入ってみると、そこは両親が急逝して以来開けていなかった音楽室だった。楽器の類は葬式後全て処分してしまっていたから、グランドピアノの無い音楽室は湿気た臭いがした。
 その、入ってすぐの壁にまた大きな鏡が掛かっていて、鏡の中の俺は部屋着に着替えていた。
 青い夜闇の中に、有る筈のないグランドピアノが黒黒と艶やかに映っている。その傍には姉弟と叔父、従妹がいた。
 従姉はピアノ、姉さんはヴァイオリン、弟は、フルート。俺はギター。叔父は一人だけ立って、楽譜を捲っている。
 そういえば昔、定期的に一族達と演奏する事があったな……そう懐古している内に、鏡の中で演習が始まった。
 しかし聞こえてきたのは楽器の音色ではなく小さな破裂音。鏡はまた罅割れ白く濁った。それが落ちるのを見届けず俺は音楽室を出ていた。

 扉が閉まりきる瞬間に硝子が硬い床に落ちる虚しい音がしたが、防音扉のおかげで廊下は静けさを保っていた。
 俺は漸く、逸早く寝室に戻るべきだと思い至った。

(全て、精神的に酷く疲れている所為だ)

 俺はそう自己完結してベッドに腰掛けた。
 ふと顔をあげると、俺が同じようにベッドに腰掛けて此方を見ていた。鏡の中から。
 少ししてから鏡の中の俺は出かけるべく身支度を始めた。あっという間に式典用の軍服を着て制帽を被った俺は、不意にはっきりと俺を見た。
 俺は、もう自分の顔をしたソイツと、鏡面越しに睨み合った。
 ソイツは俺を睨みつけたまま腰の後ろに手を伸ばした。記憶違いでなければ、そこにはボーガンがあった筈だと思った俺はベッドサイドの引き出しに飛びついた。
 案の定ソイツが引き出しからボーガンを取り出した時、俺は引き出しから全く同じものを手にして安全装置に触れていた。
 そのまま俺はボーガンを構えようとしたソイツに向かって衝動的に撃った。何回も聞いたあの破裂音を何倍にもした様な発砲音が重なって、結局撃たなかったソイツと鏡はあっさり床に雪崩れ落ちた。
 それと同時に、俺はボーガンを握り締めたままベッドへ仰向けに倒れ込んだ。

 ——怖かった。

 鏡が落ちる一瞬前だ。罅の向こうに影が、凍り付くような薄い笑みが浮べていたんだ。
                                                  (続く)

懐古④ ( No.118 )
日時: 2011/02/07 10:23
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 眠っていたのかどうかは分からんが——我に返ると朝になっていた。
 飛び起きて壁際の床を見たが、どこにも鏡の破片なんぞ見当たらない。だが、夢と言い切るにはおかしかった。
 床には発射された矢が転がっていて、俺は安全装置の外れたボーガンを握りしめたままだったんだ。だが壁にはどこにも矢が刺さった跡など無かった。
 俺は矢を拾い上げ安全装置をかけたボーガンと一緒にベッドサイドの引き出しに仕舞った。
 その後家中を見て回ったが、全ていつも通りだった。
 しかし。元から設置されていた鏡——洗面所、各部屋のクローゼットの扉の内側についている姿見、それから玄関脇のそれらもなくなっていた。
 あの夜、に家中を埋め尽くした、『ある筈の無い』鏡は何だったのか……当時は勿論、今になってもわからない。この歳になってもわからないだろうし、むしろわかりたくはない。
 ……今でもあの笑みを夢に出てくるんだ。まるでソイツは、

『わすれるな』

 そう、言わんばかりにな。

 ……俺の体験談はこれで終いだ。
                                                 (終わり)

お慕い申しております・・・① (怖い話) ( No.119 )
日時: 2011/02/12 18:16
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

(語り部:源柚姫ミナモト・ユズキ





 じゃあ、私は一つ、人形にまつわる話をしようかな。
 みんな知ってると思うけど、日本には人形がメインの怪談がたくさんあるよね。
 捨てられたぬいぐるみが動き回るとか、三本足のリカちゃん人形から呪いの電話がかかってくるとか、納戸の奥に押し込まれた毎晩毎晩雛人形が啜り泣いているとか……。
 一番有名なのは日本人形の髪が伸びるという話かな。
 人形は職人が一体一体丹精込めて作るからね、そのぶん色色なものが宿っていて、そして宿りやすいんだろうと思う。いや、そう思わずにいられない体験をしたんだ……。



 私の家の庭には小さな蔵があってね。中身は古い家財道具とか、まあ普段は使わないようなものを仕舞っているんだ。
 それで今年の春先、久しぶりにそこの整理をした。
 虫干ししようと並べていたら、思いのほかたくさん物が出てきたりして、驚いたよ。それでね、蔵から出した品の中に見慣れない木箱が一つあった。
 桐でできたなかなか上等な物で、赤い組紐が掛けてあったと思う。埃を払って箱を開けてみると、うん、女の子の人形が入ってたんだよ、ガラスケースに入った。
 白のブラウスにピンクのスカート姿のとても可愛らしい人形がね。肌はミルクみたいに白くて、唇と頬の辺りがうっすら桃色に染められている。茶色い髪はミディアムヘアで、ふわふわの小さな帽子を被っていた。とても年代ものには見えなかったよ。
 でも、私、その人形に全然覚えがないの。自分で買った覚えはそれこそなかったから、どなたかに頂いたんだろうけど、それがいつのことなのかまったく思い出せない。蔵に仕舞った記憶もないし。
 それでも、本当に可愛らしい人形だったから、ケースから出して居間に飾った。ガラスケースは角に罅が入っていたので捨ててしまったよ。
                                     (続き)

お慕い申しております・・・② ( No.120 )
日時: 2011/02/16 11:18
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 最初に異変が起きたのは、人形を飾って一月ほど経った頃だったかな。家の中で妙な感じを受けるようになった。

<誰かに見られている>

 おかしいよね、私は独り暮らしなのに。

 ある時夕飯の準備をしてると、ふと視線を感じた。すぐ真後ろから吐息がかかるような、あの感じさ。私を見ていたのはあの人形だった。
 床の間の横の棚に飾っておいたんだけど、勿論ちゃんと壁に背を向けておいたんだよ? それが、身体の角度を変えてこっちを見ているの。ぞっとしたよ。
 最初はペットのアリス(猫だよ)の仕業かと思ったけど、そんな悪戯をするような子じゃないし。
 気のせいなんかじゃないよ、それは一度きりじゃなかったんだから……。ベランダで洗濯物を干している時とか、台所に立っている時、ある日は夜中に目を覚ました時なんかに、不意に視線を感じる。
 そうすると、必ず人形が私を見てる。何度向きを直しても、いつの間にか身体を動かしてこっちを見つめてる。
 初めは本当に恐ろしかったし、気味悪く思ってたんだけど。不思議だね。ある程度時が経つとこんな奇妙なことにも慣れてしまった。
 視線はだんだん気にならなくなって、そのうち彼女に微笑み返す余裕まで生まれてきた。
 その頃になると、彼女も棚の上から私を見るだけでは満足できなくなったのかな、とうとう徘徊を始めた。一人で棚から降りて家中を歩き回りはじめたんだ、私に付いて。実際に彼女が歩くところを見たわけではないけど、後ろから足音が聞こえる。
 こと、こと……小さな音が。
 それで振り返ると、柱の影や廊下の隅に彼女がいる。そこからこっそり私を見ている。ある夜なんか、布団をめくってみたら彼女が潜り込んでいた、なんてこともあって。あの時はちょっと叫んじゃった。
 これはいよいよまずいことになったな……私は困った。彼女はどうやら……私に懸想してしまったみたいなんだ。そろそろ何とかしないと大変なことになるんじゃ……そう思ったけど、簡単に捨てていいようなものじゃないよね、人形っていうのは。
 ほら、人の形をした物には魂が宿るって言うし。だって彼女は明らかに『それ』を持ってるんだもの。さて困った、どうしよう。
 そんな中、

『人形を引き取りたい』

 悩んでいた私の前に、そんな意外な申し出が現れた。お向いの一軒家に住むお婆さんで、一度人形のことをお話したことがあったんだけど、その方がぜひ引き取りたいって。
 曰くつきのものを差し上げるのは躊躇われたんだけどね。気にしないと仰るし、それならということでお譲りしたの。ちょうど翌日から家を空ける予定だったし。うん、仕事でね。

 一週間の海外出張を終えて、私はお婆さんを訪ねた。仕事中アリスの面倒をみて頂いていたから。そうしたらね、お婆さんが申し訳なさそうな顔で仰ったの。

「お帰り柚姫ちゃん。ごめんなさいねえ、この前あなたに頂いたお人形さん、どこかへ行ってしまったの。ちゃんとあそこのとこに飾っておいたんだけどね……。いつの間にか。一昨日孫が遊びに来ていたから、気に入って持って行ってしまったのかしら。本当にごめんなさい」

 嫌な予感がした。私はとりあえずお礼を言ってアリスを連れて家に帰った。急いで鍵をつっこんで引き戸を開けると——そう。いたよ。彼女が。たたきの所にちょこんと座ってね、私の方をね、こう、心なしか不満そうな目つきでじぃっと見上げて……。
 肌が粟立つっていうのは、ああいうのを言うのかな。さすがの私も怖かった。どうやって隣家を抜け出してきたのかとか、どうやって鍵のかかった我が家に入ったのかとか、そういうことが全てどうでもよくなるくらいに。
 また追い出されては堪らないと思ったのか、彼女はそれまで以上に私に付き纏うようになった。もう、私が見ていようが構わずに動き回る。
 こと、こと……家の中を歩いているのだって何度も見たよ。仕事先にだって付いてくる。私が気付くと、尚更視線を強くしてくる気がする。国内だろうが、海外だろうが、どこからか私を見つめてる。
 じぃっと、ね。
                                                   (続く)

お慕い申しております・・・③ ( No.121 )
日時: 2011/02/18 11:55
名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)

 まあ、こんな感じのありきたりな話なんだけど。まだ今年のことだよ。
 え? 彼女に会ってみたいって?
 いやだなあ、さっき言ったじゃないか。いつでもどこにでも私の後を付いてくるって。今日ももちろん来てるよ。
 私のことが一番よく見える位置……あ、ほら、君のすぐ傍に。
                                              (終わり)


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