ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- 偶然 ( No.67 )
- 日時: 2011/04/06 17:38
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
(語り部:三浦伊織)
あたしの話はねぇ、ああ、そんなに心配しないで。
オネイサンがこれから喋るのはそんなに怖くないからぁ。
むしろお話自体よりぃお姉さんのセクスィーボイスに酔っちゃうかもぉ……いた、やだぁ殴んないでよう長政ちゃん。わかった、わかったってばぁ。
まぁったく、ジョークが通じないのねぁ。じゃ、どっかの凶悪面がキレる前に、オネイサンさんのお話を始めるわねぇ。
あの日は、たしか初夏のころだったわぁ。
あたしはさる美術館に出掛けた帰りだった。
地下から地上に出る階段を上ってると、むわぁっとしたあの雨の匂いが鼻をついてねぇ。
あーらら困った、傘なんか持ってきてないわあとか思いながら外に出ると、雨はもう止んでたみたいで
……それよりもあたしはまわりの景色に目を奪われた。
あたりは一面が真っ赤に染まってたの。なにかって、やーねー、夕焼けでよぅ。
ほんと、滅多に見られないぐらいの、それはもう見事な夕焼けだったわぁ。
故郷の古い街並が完璧な紅色に染まっててね。その上、空を見上げると、暗い色をした雲に大きな虹が綺麗にかかっていたわぁ。
すっごく幻想的で美しい風景だったんだけどぉ、なんだか強い引力のようなものを感じて、あたしは
目を奪われたままその場から動けなかった。
空を見上げて、辺りを見回して、空を見上げて。
壊れたロボットみたいにその動作を繰り返していたの。
なんて言うのかしらぁ、見慣れた街並みなのにぃ、現実感がないの。
この世界にひとり取り残されちゃったような錯覚しちゃったくらいだもの。
本当にうつくしいものに出会うと人は畏怖を抱くというけどぉ、あれ本当よねぇ。あのとき、まさにあたしはそんな状態だった。
しばらくぼーっと佇んでいたんだけど、あたしはようやく我にかえった。
そして、そこで初めて、入り口すぐ横——つまりあたしが立っている真横に、子供が立っていたことに気づいたの。
たぶん年は十歳そこらの、どこにでもいるおとなしそうな少年がね。
なのになぜか目を引いたのは、彼はなぜだか式典で着るような礼服を着てたの。
まぁ礼服を着る自体はともかくとしてぇ。その服、よくよく見るとどう見ても冬用でねぇ。
真夏ほどではないとはいえ、もう初夏だってのにネクタイまできちっと締めちゃってさぁ。この子に服を着させた人は、なに考えてんかしらぁって思ったわ。
たぶんあたしは結構じろじろ見てたのねぇ、こっちの視線に気づいてその少年はあたしを見上げた。そしてこう言った。
「お兄ちゃん、ばいばい」
ものすっごく平坦な声で、にこりともせずに。
無愛想とかそういうわけでもない、感情というものが一切含まないものだった。
あたしもまさかそんな少年に挨拶されるとは思ってなかったから、
「チャオ、坊や」
(そーいやあの子、なんであたしがオニイサンだってわかったのかしら……)
とっさに笑みを浮かべて、あたしはそこから離れた。
その日、人と約束があったのよぅ。
待ち合わせのカフェへ向かった。それで、あたしはいつもの通り近道をして行くことにした。
この町のことはもう隅から隅まで知ってるから、迷路のように入り組んだ路地をあたしは迷いもせず進んでた。
それで何本目かの角を曲がったところだったかしらぁ。
突然ぼすんと、腰のあたりに軽い衝撃を感じた。
感触で、飛び出してきた子供とぶつかったんだなとわかったわぁ。
「あら、」
あたしは足を止めて、小さく声をもらしてしまった。
「大丈夫? 気をつけなさいねえ」
そう声をかけて手を差し出しながら、あたしはちょっとギョッとした。
あたしを見上げていたのは、さっきの……季節ハズレの礼服を着た少年だったんだもの。
正直、顔は曖昧だったんだけど、服装ですぐ分かったわ。
少年はあたしを穴があくほど見つめていた。
「あらぁ? 君、さっきの子ね。よく会うわねぇ」
あんまりじっと見られているからできるだけ愛想よくそう言ったんだけれど、少年はなにも答えずに踵をかえして行ってしまった。
そのときはあたしもなんとも思わなかったんだけどぉ……歩き出して、ふと気が付いた。
そして今さらながら不思議に思ったの。
彼は、なんでここにいたんだろう、って。
百歩譲ってたまたま同じ方向に進んでたとしてもよ。あっちは子供の足。ほぼ大人に近い体型のあたしと比べて歩幅はどうしても小さくなるだろうし、その上、あたしは路地裏をたどって近道したのよ。
どう頑張っても、同じ場所に同じころに着けるわけがないと思わない? テレポートじゃあるまいしぃ。
そんなことをつらつら考えながら、あたしは角を曲がった。
もう夕暮れの赤さに黒が混じってきていて、夜が近いわぁってふと顔をあげて、驚いちゃった!
その路地の目の前を、さっきのあの少年がサッと通りすぎていったんだもん!
しかもちゃんと目があったのよ。
その少年は、まるであたしに存在を知らしめるように、顔だけはこちらを、つまり進行方向から横に向けていたからね。
さすがのオネイサンも少し気味悪くなったわぁ……
え? その後?
とくにそれ以降なーんにもないわよ。ちょっと気味わるーいって程度の体験だから。
あたし、ふと思ったんだけどね。きっと、不思議なものはあたしたちのすぐ近くに存在してるんじゃないかしらぁ。
大多数の人はそれに気付かず生活してるけど、彼らはちょっとしたきっかけでふっと姿を現す。
それを、今回は夕暮れ時っていうきっかけで、今回偶然あたしはのぞき見ちゃったってワ・ケ。
それにしても、あの子は一体なんだったのかしらね……。
- わらべ唄① ( No.68 )
- 日時: 2011/02/20 17:17
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
(語り部:伊達勇希)
怖いというよりは、薄気味悪くて後味の悪い話なるな。
「スピカの怖い話は本当に怖ぇよー。わたし、もう聞きたくないからな……」
「そう? それは悪かったね」
月しか出ていない晩のこと。
久しぶりに友人の家に遊びに来てみたはいいが、おかしな経緯でスピカの怖い話(というかスピカの語り口調が怖かった)を聞かされるはめになってしまい、すっかり精神的に気が滅入ってしまった。
「しばらく怖くて帰れねー……」
今は午後八時過ぎ。もちろん外は真っ暗だ。
しかも、季節は話された内容が今と同じ夏ときたもんだから、余計に気味が悪い。今日バイクだし。
「じゃあ今日は泊まる? 別に構わないけど」
「是非そうさせてもらう」
間髪いれずに即答した。
「ユウちゃんって、意外と怖がりだったんだね……寝床の準備してくるね」
スピカは微笑むとすぐ部屋から出て行ってしまった。友人がいなくなると、当然部屋も静かになるわけで。しかも今は怖い話を聞いたあとでもあったしなにもかも余計に怖く感じてしまう。たぶん誰だってそうなはずだ。
たまに、後ろに気配を感じるときとか、意味なく天井を見てしまったりとか。絶対、自分だけではないはずだ。
『何かいるな、と感じたときは十中八九いるらしいよ。君のすぐ傍に』
怖い話の一説を思い出してしまい、試しに後ろを向いてしまったが、なにもいなかった。
当たり前のことなのに内心ほっとする。頭の中で、スピカの話を反復した。 (続く)
- わらべ唄② ( No.69 )
- 日時: 2011/02/20 17:19
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
『わらべ唄って、ご存知? 私が昔よく歌ってた唄だよ。あれを思い出してもらえばいい。かごめ唄とか花一匁とかね。そう。その中の一つに通りゃんせという唄があって。ある夜中にね、寝ていたら廊下からその唄がぼそぼそっと、女の人の声で聞こえてきたの。勿論、戸締りもしっかりしていたけど……』
スピカはそこで俯いた。
『とおりゃんせ、とおりゃんせ……って。だんだん声が近くなってきたんだよ。怖くなって、布団を深く被ったんだけど、お構いなしといわんばかりだった。ここはどこの細通じゃ……天神さまの細道じゃ……ちょっと通して下しゃんせ、御用のないもの通しゃせぬ……。ついに部屋の前まで来てしまったの。そして——』
「そして……なんだ?」
しかしスピカはそこで話を区切ってしまい、一度も見たことない不気味な笑みを浮かべるだけだった。 (続く)
- わらべ唄③ ( No.70 )
- 日時: 2011/03/17 10:23
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
「ゆうちゃん」
「うわぁあ!」
「ちょ、ちょっと驚きすぎ……」
背後から突然呼ばれたせいで、スピカにもわかるくらい身体が跳ねた。
「お布団、敷けたよ?」
彼女は微笑みを浮かべ、部屋まで案内すると言った。
「あ、あんがと……」
スピカが用意してくれた部屋の布団にもぐりこむ。
(……それにしてもだ)
彼女はなぜあの後を話さなかったのだろう。
スピカが敷いてくれた布団に包まりながら考えていた。
「通りゃんせか……日本の唄だから、たぶんあれでおしまいなわけねぇよな……」
なんとか昔のスピカとのやりとりを思い出してみる。なにしろ物心つく前から一緒に居たのだ。周りの友人よりは多くの事情を知っている。
記憶をたぐりよせ、頭の中で復唱してみた。
(とおりゃんせ とおりりゃんせ)
(ここはどこの ほそみちじゃ)
(てんじんさまの ほそみちじゃ)
(ちょっととおして くだしゃんせ)
(ごようのないもの とおしゃせぬ……)
……続きがなかなか思い出せない。
だが、意味深な歌詞だったので忘れたわけではないだろう。
「えと……このこの……ななつの……あ、思い出せた!」
(このこのななつの おいわいに)
(おふだをおさめに まいります)
(いきはよいよい かえりはこわい)
(こわいながらも とおりゃんせ……)
「とぉおりゃんせぇ」
「……あ?」
頭の中で復唱していた歌詞と声が重なった気がした。若い女の声……。
「とぉおりゃんせぇ、とぉおりゃんせぇ……」
いやちゃんと聞こえてくる。いや、聞こえるのは当たり前だ……。だって、それは自分の頭のほうから聞こえているのだから。
壊れたテープのようにわらべ唄を唄っている女……。直接私の顔を覗き込んでくるつもりなのか、だんだん前かがみになってきている。
「こぉこはどぉこのほそみちじゃぁ……」
目を逸らしたかった。
でもそんなわたしの願いは悲しいかなかなうことなく、恐怖からなのか、それとも違うものの力なのか。身体のありとあらゆる器官が言うことを聞かなかった。
「てんじんさぁまのぉほそみちじゃぁ……」
ついに目が合う。黒い瞳に黒い髪。しかし、目の黒さだけはなにか違った。
そうまるで、墨を窪んだ容器にいっぱい入れたような完璧な漆黒。ああ、そんな表現じゃあ足りない。……“眼球がくり抜かれている”の方が、正しいな……。あははは……見えてないはずの目で……わたしを見つめているんだ……。
気が狂いそうな衝動が心臓と脳内を揺さぶる。吐きそうだ。
ああ、こんなことなら怖いの我慢して自分の家に帰ればよかったと後悔した。
動け、動け。頼む。とにかくこの部屋から出なければ。
目の前に迫り来る女、動かないこの身体。とにかく念ずる他なかった。
「うわああああああッ……!」
やっと動いた身体。わたしは必死に布団を跳ね除け、部屋の外へと出る。“通りゃんせ”はまだ聞こえている。
「す、スピカ! スピカ!」
真夜中じゃなくてもその声は近所迷惑だ、なんて言われても知ったこっちゃない。
こちとらなにされるかわからない状況だったのだから。スピカの寝室の障子を開けた。
「んー……なあに……もう……」
スピカはパニック状態のわたしとは正反対に、のんびりと布団から起き上がる。
口元をへの字にひん曲げ、手で目元を擦っていた。
見るからに不機嫌そのもの。しかし、そんなのお構いなしにスピカの元へ駆け寄る。
「い、いい……今、唄が……唄が……」
「唄ぁ? 何のこと……?」
「だ、だから……唄……」
恐怖感からか、舌は上手く回らず、友人には一向に言いたいことが伝わらない。
未だに目を擦っているスピカ。
「あぁ……その唄ってもしかして」
目を擦っていた手を下ろしたスピカだが、顔は上げなかった。
すると突然、彼女は勢いよくわたしのほうを向いた。
口元は三日月のように弧を描き、綺麗な黒目は墨を入れたかのように完璧な漆黒。
——そこには、普段からはとても想像できない友人の顔があった。
「とおりゃんせえ……とおりゃんせえ……」
そう——あの女と同じ。あの女と同じ顔をして、同じ唄をうたいだしていた。
「こぉこはどーこのほそみちじゃあ……てんじさまのほそみちじゃあ……」
ゆらりとスピカは立ち上がり、迫ってきた。わたしは腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。
「ちょっととおしてくだしゃんせえ……ごようのないものとおしゃせぬう……」
「や、やめろよ……スピカ……」
「このこのななつのおいわいにい……」
わたしが声をかけても、彼女は唄をやめようとしなかった。
「おふだをおさめにまいりますう……」
横の障子が開いているのが見えた。模様が見えなかった、暗いからだろうか。
スピカは、わたしに手を差し伸べ、此処に入らない? とでも誘っているような仕草をした。
「いーきはよいよい……かえりはこわい……」
呆然としているわたしに業を煮やしたのか、手を掴み、スピカは無理やり白い襖の近くまで引きずってきた。わたしは直感的にその中に入ってはいけないと思い、抵抗する。しかし、彼女はビクともせずわたしを引きずっている。いつもは自分のほうが力持ちなのに……。
「わ、わたしは入らねー! 絶対入らないかんな!」
騒ぐ感情に任せそう怒鳴りつけると、今まで掴んでいた(友人の姿をとった)なにかの腕がいとも簡単に離れた。
今度はなんだと思い、思わずスピカを見上げる。
「こわいながらも、とおりゃんせえ……とおりゃんせえ……」
癖下の友人の姿を借りたそれはどこか悲しそうな表情でわたしを見ていた。
歌い終わると同時に彼女はその場に倒れ、いつの間にか襖は閉まっていた。
見慣れた、柳と三日月が描かれた襖だった。
(続く)
- わらべ唄④ ( No.71 )
- 日時: 2011/03/31 11:48
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: 7vvUHEHF)
翌朝、その話をスピカにしてみることにした。
「え? 昨日そんなことがあったの? ……さあ、起きた記憶さえないんだけど……」
どうやら全然覚えてないみたいだった。
じゃあ、奴さんは誰だったのだろうという疑問にたどり着くわけで。
「そうか……まぁ、覚えてない方がいいと思うぜ」
わたしだってとっと忘れたい。
「ごめんね……私があんな話を——」
申しわけなさそうにうな垂れるスピカ、これじゃあ自分が悪いみたいじゃないか。確かにぞっとしない話だが。
「き、気にするな! 夢だったんだよ、きっと」
これは嘘だ。気分を落ち着かせるために一度寝室に戻り、少しだけ眠ることにした。神経質な自分など気味が悪いことこの上ない。
「ゆうちゃん」
「ん?」
「また、遊びに来て。ね?」
「あ、あぁ……よろこんで」
(意地悪してごめんね……)
スピカはまた、あの微笑を浮かべた。
……あの女と友人は、なにか関係しているのだろうか。今でも、それは謎のままだ。
(終わり)
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