ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 怪奇拾遺集
- 日時: 2011/03/19 18:22
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
ご機嫌麗しゅう、魔女に御座います。
**前書き**
このスレでは大体二、三話構成のもと怖い話・変な話・不思議な話を綴っていきます。
コメントは大歓迎ですが、荒らし・中傷には呪詛の刑なので悪しからず。喧嘩は両成敗です。
「怖くなかった」というコメントも困ります。「これを読んだら周りで怪奇現象が・・・」自己責任でお願いします。
微弱でしょうが、話によってグロテスクな表現が飛び出すので注意して下さい。
誤字、脱字がありましたら教えてくださいませ。
魔女は主にジャパニーズホラー・都市伝説・怪奇伝説を好みます。
アクション系・脱出系ホラーがお好きな方にはお奨めしません。
***
前書きはきちんと読まれましたね?
全てを条件を了承されたお方はどうぞ・・・
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- カミサマカクシ ②(不思議な話) ( No.22 )
- 日時: 2011/02/28 22:02
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
「日本には、まだたくさん人でないモノが住んでいるのですね」
「お前の家にも犬や猫はいるだろう」
町の見物に出た帰り、満足そうな(彼女自身それを表にだしているつもりはないだろうが)妹はそう言いながら、お腹の前で手を組んだ。
「そうじゃなくて、山の上を飛んでいる烏の親玉みたいなものたちなどですよ。あと沼人みたいなお皿を乗せたものとか、動く市松人形とか」
「烏の親玉、か?」
ほらあれですよう——スピカは遥か遠くを指差した。
その時はまだ青空だった。青に薄くかかった雲を背景に、長い髪がやたらにきらめいていたのが印象に残っている。
「お兄さまのお家にもたくさんいらっしゃいますよね? いいなあ、私のところは大きいものが多い上にかなりの引きこもりなのです。わざわざ森に出向かないと会えない場合が多くって」
「お前の家の庭は結構広いと思うが」
「あそこでは、そうかもしれませんね。でも自然を表す英国式庭園と言っても結局は人工物にしかすぎません。妖精たちにはそれで十分らしいのですが、どうも木精や水精には合わないようです」
木精?
ええと、ほら、ドライアドとかそういうのですよ。
「神、か?」
首をかしげた自分に、妹はぎょっとしたように慌てて首を振った。
「いいえ、神様はただ一人だけです。でも妖精や精霊はそれこそ星の数のようにいるのですよ」
成程な——そうして自分はこう言い返したのだった。
「しかし日本には全てのものには神が宿るという考えがあって、八百万の神神と言う」
神——優しく暖かくもあれば厳しくもあり、時として怪異も起こすその存在。その圧倒的な力で、酷く気にいらないものを徹底的に排したり、逆に心底気に入ったものを取ってしまうことがある。
「神、隠し」
呆然と呟くしかなかった。自然と駆け戻っていた足が止まる。
先ほど会話をしながら通り過ぎた箇所は、もうとうに過ぎていた。妹の姿は、見えない。
「……どうも私の故郷の方々は、宗教以外は低俗なものとみなしているようです」
「そうみたいだな」
もしも彼女の言葉が何かの怒りに触れてしまっていたとしたら?
「だから、その神神と言う言葉ではお兄さまの言う言葉は、今一つ理解できないのですが……」
「何だ?」
「木木や泉、自然のものにも意思がある、というのはスピリットとしてなら理解できます。私も実際よく見てますから」
もしも彼女が、何かとても強いものを魅了してしまっていたとしたら。隠し神が欲しがるかも、わからない。
「冗談じゃないぞ」
闇が全てを喰らいながら、ひたひたと迫ってくる。
「そんなのって、ないだろう」
紅の光さえ、もう西の端に沈もうとしている。
ああ、こんなことになるなら気など遣わず手を繋いで置けばよかった。
「私は、許さない」
暁彦はもう一度袖で風を切って振り向くと、一本道を外れて走り出した。
「許さんぞ」
(続く)
- カミサマカクシ ③(不思議な話) ( No.23 )
- 日時: 2011/02/28 22:13
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
突然、視界が揺れ、足が宙に浮いた。いきなり後ろから抱き上げられたのだ。
人攫いか変質者か。
一瞬息が詰まり、次に悲鳴をあげようとしたが、青い袖からのびる手首に巻かれた、見覚えのある数珠が見えたので止めた。
しかし驚愕は消えなかったので、
「おお、お兄さまっ!? どうしたんです何事ですか」
「……この、ばかっ」
常の彼の言動からは考えられない大胆な行動に、スピカは顔をきょとんとした。
これはなにかな、あれかな。それなのかな。むしろどれだろう。
あまりに動揺しすぎて思考が定まらなくなっているスピカに、もう一度暁彦はかすれる声で吐き捨てるように呟く。
「どう、かしたのは……お前の方だっ」
はたとスピカの思考が止まる。どうしようもなく震える声は、紛れもなく涙声というやつで。
「ふらふらといなくなって、こんなところで、何をしていたんだっ」
「こんなとこって……うわ、ここどこですか!?」
言われてざっと辺りを見回せば、街道のど真ん中ではなく木木に囲まれた開けた場所。地面には灰色の石が敷き詰めてあり、古びたアジア風の(彼女には大して他のものと見分けがつかないが)建造物がある。
さっきまで兄と一緒に歩いていた場所とは、明らかに違う場所だ。
「今更気付いたのか!? 今の今までどうしていた!」
「今の今までって、ちょっとお兄さま、ひとまず離して!」
とりあえず彼を引きはがそうと腕に触れると、やけにがさがさした感触がある。なんだろうと目をやって、スピカは息をのんだ。
「お兄さま、腕傷だらけじゃないですか!」
「そんなことはどうでもいい!」
どうでもいいわけありますか!
スピカは無礼を承知で兄の腕を振り払って足を地面に付けた。
少し力任せにしたせいでよろけた兄に、今度は正面から抱きついた。
兄の目元は少し腫れていた。すり傷やきり傷の見られる頬には赤くこすった後があり、唇はぎゅっと引きむすばれている。
息はすっかり上がってしまっていて、さっき見たときにはきっちり着られていた着物も、あちこちがぼろぼろになって乱れている。
腕の傷も相当なものだったが足の方はもっと酷く、明らかに転んだような痕まであった。
「お兄さま、なにがあったのですか?」
目が合うように顎を兄の腹に押しつけて問うと、反射的に暁彦は目をそらせた。代わりに、それが説明できるのはお前だけだ——そうポツリと返される。
「山の神に参りに来た。お前を返して下さるようにと」
ここはその社だ。もう人が足を踏みいれなくなって久しいように見えるが。
「はい? なんでまた、そんな」
ぽかんと、口が開いて閉まらない。
返すもなにも、自分はずっと一緒に歩いていたじゃないですか。そりゃあ途中で小さな女の子と話しこんで、あとから追いかけようと思ったけれど……そこまで考えてから、スピカはふと黙り込んだ。後から追いかけようと、思ったけれど?
荒れ果てた寺はうっそうとして、湿った空気がひやりと冷たい。この感覚なら知っている。何か霊的なモノを含んだ森の空気だ。
「さっきまで、まだお昼だったのに」
ぽかんと上を見上げてスピカは言った。
もう丸い月が高く登っており、夜が深いことを示している。
ふいと横を向いて、暁彦が恨みがましく言う。
「神、それに通ずるものにかどわかされ、数刻をあちらで過ごすうちに何日も経っているなど良く聞く話だ。それ以上に良く耳にするのが、二度と帰って来ないと言う話と、魂を取られ亡くなるもの」
引っかき傷や擦過傷は、たぶん森の中の獣道をめちゃくちゃに走って出来たものだろう。どれだけの長い間、彼は自分のことを捜したのだろうか。
——自分の身が傷つくのも構わないぐらいに。
「わからないだろう。お前が魅入られ失われることを、私がどれほど恐れたか」
兄の切れ長の瞳がまたじわりと滲むのをスピカは見た。……そういえば、兄がこれほどまでに取り乱すのを、スピカはついぞ見たことが無かった。
右手を、抱え込むようにバンダナを巻いた頭に乗せる。そのままぐしゃぐしゃと掻き回してから引き寄せた。
「私が幽霊にとってくわれるわけがありますか。私のところにいる彼らは皆、悪戯好きですけどいいこばっかりですよう」
「実際に消えていた奴に言われて信用できるものか!」
覆いかぶさるように抱きしめられる力が強くなった。
「それにお前は、そういった現象が好きみたいだったからな、スピカ」
言葉を発するたび、隻眼の少年の手から力が抜けていく。
「もしかしたらあちらのものを気にいって、もう二度と帰って来やしないかとさえ思った」
だんだんと力を失っていく口調は、最後には呟きのようにすらなっていた。
(続く)
- カミサマカクシ ④(不思議な話) ( No.24 )
- 日時: 2011/02/28 22:23
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: aXtewNOi)
「——あのですね、お兄さまの後ろを歩いている時に、子供、私より小さな子に袖を引かれたのです」
スピカは、うつむく兄の頭に向けて落とすように言った。
「で、ちょっとお話の相手してあげたら、とても喜ぶものですから。お兄さまが先に行ってしまわれるのが見えたけれど、まあ後で小走りで追いかければいいかなって思って」
そういえば、どうしてお兄さまは止まらないんだろうとは思いませんでしたねえ。
そう小さく続ける。
「本当に小さな子だったので、その場にかがんで話していたのです。そうしたらいきなり目をふさがれて」
で、気付いたらここに立っていました。お兄さまがぼろぼろなっていらして、夜でした。
妹の話を聞き終えて、暁彦はほうとため息を付いた。
「そうか……別に危害を加えられたわけではないんだな?」
ようやく笑顔を見せた彼に、妹は逆にきゅっと眉を寄せる。
「あのう、危害っていう点ではお兄さまの方がひどいと思いますけど。早く帰ってお手当てしないと……」
「身体の傷など問題ではない。……少し待っていろ。動くなよ。お前を返して下さったことのお礼を言って帰るから」
やんわりとがめられて手を放された。朽ちた建物に向かう前に、暁彦は首だけで妹の方を一回振り返る。
「この辺ではお前のような子供は珍しいから、何かがお前に興味を持たれたのだろう」
「いえ、きっと……それは違うと私は思います」
聞こえないとは分かりつつも、遠ざかる兄の後ろ姿にスピカはそう告げた。
(あのひととは、おしりあいですか)
(あのひとは、おげんきにしていますか)
(あのひとはいま、おしあわせですか)
どことなく義母に良く似た面差しの、古そうな着物を着た子供が自分に尋ねてきたいくつかのことを思い出す。
(むかしは、よくあそんでくださったのだけれど)
(さいきんは、かまってくださることがおできならなくなったみたいだから——)
そう言って浮かべた悲しげな微笑は、あどけない子供の顔には全く似合っていなかった。
「ねえ、君たち」
少女は森の中心でそっと上を見上げて呟いた。
「寂しいよね」
もう、兄は「そういうもの」が見えないことを知っている。前にためしに引き合わせたが、彼には何も見えなかったのだ。
「寂しいよね、忘れられるのは」
(ちゃんと、ここにいるのに)
だが、その昔の昔には、彼も見えていたのだろう。あの子供達と一緒に、遊び回っては笑いあった時期があったのだろう。
——応。
森が少女の声に答えるかのように、ざわりとその身を震わせる。
——ただ、自分を思い出して欲しかっただけなのに。
(終わり)
- Re: 怪奇拾遺集 ( No.25 )
- 日時: 2010/03/21 20:36
- 名前: 闇の中の影 ◆xr/5N93ZIY (ID: YDf5ZSPn)
なんかじ〜んと来た・・(泣)
- 返信 ( No.26 )
- 日時: 2010/03/22 12:55
- 名前: 書物狂乃魔女 ◆O8ZJ72Luss (ID: EfKicuSN)
こんにちは、闇の中の影様。
感想有り難う御座います。精進します。
P.S
ケンケン婆、とても面白かったです。
あるノベルズゲーム「学校であった怖い話」でも似たような妖怪お婆さんを観ましたよ。あちらは狙うのが子供限定ではありませんでしたが。
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