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【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】
日時: 2011/10/25 19:37
名前: アニホとミシン (ID: Qh0QXHw.)

夢小説好きの友人に「銀魂の夢小説書いて!」と頼まれて書いた作品です。
初めての夢小説なので可笑しいところも多々あると思いますが、よろしくお願いしたします!


〜目次〜


>>1 プロローグ
>>2->>9 第一話(1)『魔法の国からやって来た少女』
>>10->>20 第一話(2)『とある使い魔の奔走』
>>21->>23 第一話(3)『オーガVS万事屋銀ちゃん』
>>24->>31 第一話(4)『魔法使いもヒーローも遅れてやって来る』
>>32->>57 第二話(1)『武装警察真選組』
>>58->>62 第三話(1)『その男の名は』
>>63->>72 第三話(2)『花よりも団子よりも』
>>73->>82 第四話(1)『リーフレット・キルケゴール』
>>83->>93 第四話(2)『下着泥棒って懲役何年くらいなのかな』
>>96->>100 第五話(1)『和の祭に洋の姫』
>>101->>120 第五話(2)『かくして祭がやって来る』
>>121- 第五話(3)『眠れる姫君は夢を見る』

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Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.49 )
日時: 2011/10/19 15:25
名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)



     *     *     *


 広場から見上げる夜空、夜空の月明かりを背にしたその空間の中に、漆黒の衣装を纏った少女は空を食う染みとなって、月蝕のように立っていた。

 透けるように白い肌。
 怖気を奮うほどに整った顔立ち。
 上から見下ろす蒼い瞳。
 光り輝く銀糸の髪。

 そしてその体を覆う、無数の絹糸が縫い取られた、漆黒の着物。
 夜風に煽られてその裾が翻り、黒い袖が背景の薄明かりを透かしている。
 見る者の魂を奪う、世界の時間が止まったような、この光景。
 その美しさは、例えるなら死を告げにこの世に舞い降りてきた天使。

 そんな堕天使のような姿で杖に乗って、空に浮いていた少女は、突然の出来事とそのあまりの美しさに見惚れる男達を見下ろして、鈴を転がすような麗しい声で言った。

「……なんで杖に乗って浮いているんだとか、その着物は何処で手に入れたんだとか、その手に質問はありやがらないわけですね」

 呟き、少女は杖から飛び降りて地面に着地する。
 その軽やかな様は、まるで天使が光臨したよう。

「き……桔梗?」

 ずっと美しすぎる少女の登場に固まっていた男達の中で、初めて土方がそう声を発した。

 斑鳩桔梗。
 夜の闇の中においてなお、数多の宝石がくすんで見えるほど圧倒的な輝きを放つ彼女。
 さっきまで玉座で暇を持て余していたはずのお姫様が、何故ここに。

 その疑問に応えるように、漆黒の和服を纏った彼女は、深海の色をした瞳をこちらに向けて言った。

「あんなに丁寧なもてなしをされては、私も何もせず帰るわけにはいけませんから。お礼として戦闘に参加しようかと。……ちなみにこの着物は、チャイナドレス以外の服が欲しいと言ったら隊士の皆様がくれやがりました」

 言って、漆黒に染め上げられた布地に金の絹糸で刺繍が施された着物を指差す桔梗。
 見るからに数百万から数千万はしそうな造りの良さだった。
 こんな物が屯所にあった記憶はない。
 という事は、彼女のお願いに舞い上がった隊士共が急ぎで購入してきたのだろう。
 見てもいないのに、「姫姉様に安物なんか着せられるか! 今すぐ高級な品をご用意しろ!」「「「おおー!!」」」と、無駄に気合を入れる彼らの姿が脳内にありありと思い浮かべられる。
 斑鳩桔梗の美貌は、どうやら会って間もない隊士達に数千万の金を貢がせるくらいは余裕でできる代物らしい。
 ……彼女に欲しいとねだられたら、自分もそのくらいの金額のものは買ってしまうかもしれないが。

 というか、それは置いておいて。

「お前っ……戦いに参加するってどういうつもりだ!?」
「どういうつもりと言いやがりましても……そのまま、あちらの方々を拘束するお手伝いをと」

 桔梗の白く華奢な指先が、門の入り口で固まったままの攘夷浪士たちを示す。
 話題が自分たちの事に移っていると気付いて、桔梗に見惚れていた攘夷浪士たちはやっと我に返った。

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.50 )
日時: 2011/10/19 15:27
名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)


「きっ、貴様は何者だ! 服装から見るに真選組の者ではなかろう!」
「何者……そうですね、とりあえずは『みんなの姫姉様』とでも名乗っておきましょうか」
「何を訳のわからぬ事をっ……!」

 刃を向けてくる攘夷浪士を意に介する様子もなく、桔梗はスタスタと杖を持ったまま歩み寄る。
 慌てて背後にいた土方がその肩を掴むが、触った瞬間に静電気のような違和感を感じて離してしまった。
 バチバチという効果音こそないものの、指先に走る感覚は間違いなくそれに近いもの。

「桔梗……?」
「……信じやがって貰えるかに確信が持てず適当なことを言っていましたが、はぐらかし続けるのもいずれバレそうなのでここで明かしておきましょう。私は魔法使いです」

 土方と沖田の瞳が揺れる。
 同時に口から零れ落ちる、「「ま、魔法使い……?」」という間抜けな呟き。
 それらを背景に、桔梗は手にした杖をカツンッと地面に突き立てた。
 土方が静電気と称した気配、魔力が溢れ、迸る。

「でも魔法使いとはいっても、今は訳あって魔力が極端に少ない状態でしてね。使える魔法はかなり限られてやがるんですよ。……ですが、それもこの時間帯なら話は別です」

 サァッ、と、少女の杖を何か黒い物体が登ってくる。
 固体でも流体でも液体でもない、ただ黒いだけの闇。
 それがどんどんと幅を広げていって、編み掛けのビロードのように解れ枝先を空に向けた時——その正体が何であるかを周囲は理解した。
 足元から伸びる闇。
 即ち、影。

「今は夜——魔女わたしの時間です。
 闇が世を包むこの禍々しい時にだけ、とても簡単に使える魔法というものがありやがるんですよ」

 斧・槍・刀・剣・鎌・鞭・針・鉈・弓——様々な形状に姿を変えた無数の影が彼女の足元から伸び、小さく悲鳴をあげる攘夷浪士たちに向かっていく。
 それはあくまでただの影でしかない。
 ただの影でしかないはずなのに、その影が何か恐ろしいものであるかのように感じられ、攘夷浪士たちは必死に刀で対抗した。
 が、いかんせん数が多すぎる。
 一人、また一人と弱い者から順を追って影に拘束されていく。
 驚くべき事に、捕まった攘夷浪士たちは一辺の傷も負ってはいなかった。

「夜を統べるは影、影を統べるは闇、闇を統べしは汝なり。汝、夜の王よ。汝の眷属たる我らに助力せよ。今は汝が時、虚ろなる宵闇の世界———」

 そして最後に、代表とし土方たちに啖呵を切っていた攘夷浪士が拘束される。
 彼にもまた、斑鳩桔梗は僅かな傷さえも負わせていなかった。
 勝負が終わると同時に魔力の奔流は彼女の体内に収まり、歪に駆動していた影たちもスルスルと元の形に戻っていく。
 攘夷浪士たちは気絶していた。

「……とまあ、こんな感じで私は魔法使いでして。ちなみに実名も斑鳩桔梗ではなく、エスペランサ・アーノルドです。こちらの世界じゃ浮きやがるので前者のままでお願いしたいのですが」
「え、えっと……え? ええ? えっ?」
「ま、魔法使いって……あの呪文唱えたりするやつですよねィ?」
「ええ、呪文を唱えない場合もありやがりますが」

 あっけらかんと秘密を告白する桔梗、否、エスペランサとは裏腹に、未だにパニックな土方と沖田。
 このどうしようもない心中を落ち着かせる為、とりあえず二人は叫んだ。

「「なんじゃそりゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!」」

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.51 )
日時: 2011/10/19 15:30
名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)



     *     *     *


「おてがら真選組、攘夷浪士大量検挙。その偉業の影にまたしても謎の美少女あり。闇の中で優雅に敵を圧倒するその姿はまさに黒き舞姫——。
 ねえねえ銀ちゃん、この写真って桔梗じゃないアルか?」

 新聞紙を広げて記事に目を通していた神楽の言葉に、銀時はガバリと起き上がった。
 慌てて神楽から新聞紙をひったくり記事を見てみれば、確かにエスペランサと思しき少女の写真が掲載してある。
 着ている服はチャイナドレスでもゴシックロリータでもなかったが、この底冷えするような美貌は間違いなく彼女。

「あれからどれだけ探してもいないと思ったら、よりにもよって真選組にいたのかよ……」
『坂田、あれから夜も眠らず必死で探したっちゃのにねー。全力疾走で町を駆けてぶっ倒れたところをウチがここまで連れてきたっちゃのにねー』
「うるせー、銀さん休んでただけだから。本当はもう少し頑張れたから!」

 からかうようなハルピュイアの声に、若干ふてくされたように返す銀時。

 あれから万事屋を飛び出し五時間は全力疾走で探し続けたが、ついにエスペランサは見付からず、道端で倒れこんだ銀時。
 そんな銀時をこっそり見守っていたハルピュイアが銀時を連れて帰り、そして今に至る。

「なんか、桔梗の両サイドでマヨラーとサドが嬉しそうにしてるのが気に喰わないアル。つーか後ろの奴もデレデレしてて気持ち悪いネ」
「記事抜きでこの写真だけ見たら大量の男に絡まれてる美少女って感じですもんね……あ、記事に隊士Aの証言とか載ってる」

 銀時の後ろから覗き込むようにして新聞紙を読んでいて新八は、記事のとある一部分を指で指した。

「隊士Aの証言『あの攘夷浪士どもが姫姉様の柔肌にちょっとでも傷を付けたら一族郎党皆殺しにしてやろうって全員で話してたんですけど、そんな心配なんて全然ありませんでした! 戦う姫姉様の強いこと強いこと! 穏便に済ませるから手を出すな、っていう姫姉様のお言葉を聞いておいて正解でした!』
 隊士Bの証言『姫姉様マジお美しかったです! 戦ってる姿まで綺麗な人なんて見ました!』
 隊士Cの証言『あの着物ブランドものでかなり値段が張ったんですけど、それでも姫姉様のお美しさの前ではやっぱりくすんで見えました。今度は全員でもっと豪華なものをプレゼントしよう!』
 隊士Dの証言……」
「ちょっと一旦ストップ新八くん。頭痛してきたから」

 読み上げられる内容に、思わず額を押さえてストップをかける銀時。
 なんだそのアイドルのファンがライブに言った後のアンケートみたいな証言! ミーハー全開? などと考えつつ上半身をハルピュイアの方に向けると、自身の髪を暇そうに弄っていたハルピュイアが銀時の視線に気付いた。
 『何だっちゃか?』と首を傾げるハルピュイアに、銀時は一言。

「エスペラ……桔梗の奴、もしかして何処に行ってもこういう扱いなわけ?」
『んー……まあ、基本的に男に貢がれてはいるっちゃね。シャングリラじゃ億単位のドレスとか日常的にプレゼントされてただっちゃ』
「自分から欲しいって言ってんのか?」
『いや、そもそもエスペラ……桔梗は自分が綺麗っていう自覚もないっちゃよ。勝手に惚れた男が勝手に貢いでるだけだっちゃ』
「末恐ろしいなオイ……」

 若干十三歳にしてすでに貢がれまくっている、さらに本人は意識すらしてないときた。
 その事実に軽い戦慄を覚える銀時に、『それよりも』とハルピュイア。

『桔梗の場所がわかったんだっちゃから、さっさと謝りに行くだっちゃよ。ああみえて優しいから謝らなくても普通に接してくれるだろうけど、坂田がそれをやったらウチが不快っちゃ』
「……いま思ったんだけどさ、お前なんか銀さんに対してだけみょーに厳しくね? 神楽とか新八にはそうでもねーのに」
『ウチ、桔梗を傷付ける奴は自分以下の存在として見るって決めてるんだっちゃ』
「何気に見下し宣言!?」

 ショッキングピンクの眼差しを受けてそうツッコミを入れながら、銀時はとりあえずソファーから起き上がる。
 そしてテーブルの上に置いてあったいちご牛乳を一気飲みすると、口元を袖で拭った後に玄関に体を向けた。
 「何処に行くんですか?」「馬鹿かお前、桔梗を迎えに行くに決まってるネ」とコソコソ話し合う新八と神楽を尻目に、そのまま玄関へと歩みを進める銀時。
 そんな銀時をヒラヒラと手を振って見送るハルピュイア。
 そして銀時が万事屋から出て行ったことを確認すると、その猛禽の翼をバサリと広げて、ハルピュイアは二人に顔を向けた。

『さてお二人さん。ウチは今から散歩に行って、たまたま桔梗の居場所まで行っちゃったりするかもしれない予定なんだっちゃけど……二人はどうするだっちゃか?』

 笑みを含んだその問いかけに、二人はニヤリと笑って返す。

「「もちろん付き添いで!!」」

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.52 )
日時: 2011/10/19 15:31
名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)



     *     *     *


 結局、あれから真選組に泊まってしまった。

 そんな事をぼんやりと考えて溜息を吐きつつ、エスペランサはベッドから緩やかに起き上がった。
 周囲を見回すと、そこは万事屋ではなく、勿論シャングリラで使っていた自分の寝室でもなく、昨日あてがわれた屯所内のとある一室。
 本来は純和風であったがずの室内は、昨日自分がうっかり零してしまった「洋風の方が慣れている」という言葉のせいですっかり洋風の内装に造りかえられている。
 床が畳で扉が障子であることに変わりはないのだが。
 その畳の上に置かれているのはキングサイズのベッド、しかも豪華な天蓋つき。
 フリルとレースにまみれたそれは童話のお姫様が使うような少女趣味全開のデザインで、しかも驚くべきことにシーツや掛け布団はシルク百パーセントだった。
 いくらしたのかなんて知らないが、最低でも七桁は行っているはず。

「……お礼目的で戦闘に参加したはずが、余計に恩が積み重なっていきやがります」

 困ったように呟いて、触り心地のいいシルクの掛け布団を綺麗に畳む。
 シワがついていないことを確認して満足げに頷くと、何故か地面に用意されていたふわふわのスリッパに足を入れて、静かに障子を開ける。
 障子の向こうでは、これまた何故か隊士たちが部屋を覗き込むようにして大量に群がっていた。

「おはようございます姫姉様! 今日も変わらずお美しいですね!」
「おはようございます姫姉様! 今日は昨日よりもお美しいですね!」
「ちょっ、お前らなに抜け駆けして口説いてんだよ! みんなの姫姉様だからな! あっ、おはようございます姫姉様! 姫姉様はいつだって最高にお美しいです!」
「「テメェがいちばん抜け駆けしてんじゃねぇか!!」」

 目の前で繰り広げられるコントめいた会話劇に、とりあえず「……おはようございます」と小さく頭を下げてみる。
 すると隊士たちは「ああ、姫姉様に挨拶して頂けた……」と陶酔したような表情で地面に倒れ込む。
 駄目だ、何がしたいのかわからない。

 謎の行動をとる彼らに困惑していると、彼らの後ろから足音。
 ふとそちらを見ると、そこにいたのは既に隊服に着替えている沖田の姿だった。
 沖田はエスペランサが自分を見ているのに気付くと、ヒラヒラと手を振りながら近寄ってくる。

「おはようございまさァ。つーか何でこいつら倒れてんですかィ?」
「さあ……ただ挨拶されたので返したら、急に倒れやがりまして」
「納得。そういうことですかィ」

 何で納得したのかわからないが、とりあえず今の説明で彼には事態が飲み込めたらしい。
 そのまま地面に倒れている隊士たちを廊下の隅っこに足で寄せると、エスペランサの手を握って「んじゃ、行きまさァ」と何処かに歩き出した。
 あのままにしていても良いのだろうか、と幸せそうな顔で失神している隊士たちをチラチラと見ながら、エスペランサは沖田にとりあえず歩調を合わせる。

「腕細っ。普段なに食ってんでさァ」
「味の濃いものは嫌いではありませんが苦手なので、薄味のものを中心に食べています。……というかあの、何処に行きやがるんですか?」
「朝食。桔梗、昨日の晩は何も喰わずに寝てやしたからねェ」

 相手のその言葉を聞いて、そういえば自分が二日前の夜から飲まず喰わずだったことを思い出す。
 桂小太郎と名乗る黒髪の男に奢ってもらったパフェと、テーブルに初めから置いてあった水。
 こちらの世界に来てから、自分はこの二つ以外を口にした記憶がない。
 それでも喉が渇いたとは思わないし、腹が減ったとも感じない自分。

「……そういえば、昔は本を暗記するのに必死になりすぎて一週間なにも食べなかった事もありやがりましたね」
「? 何か言いましたかィ?」
「いえ、何も」

 そのあと結局ぶっ倒れて、クラスメイトに発見された記憶がある。
 場所が学校内の図書館で良かった。
 原因は栄養失調に水分不足に睡眠不足だったらしいが、ぶっ倒れる寸前まで自分は何も感じなかった。
 きっと集中力が凄まじいのだろう、とそのクラスメイトに半ば感心されたり。

 なんて懐かしい出来事を思い出していると、「つきやした」と沖田の声。
 慌てて顔を上げると、どうやらそこは食堂のようだった。

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.53 )
日時: 2011/10/19 15:33
名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)

 畳を敷いた部屋にいくつものテーブルが並び、カウンターの向こう側ではアルバイトかなにかと思しきおばあちゃん達がせっせと料理を作っている。
 入り口に近いテーブルで焼き鮭定食を食っていた一人の隊士が、沖田とエスペランサの存在に気付き慌てて立ち上がった。

「おはようございます、姫姉様に沖田隊長! 良ければこの席どうぞ!」
「いえ、私は立ち食いで充分ですが……」
「姫姉様に立ち食いなんてさせたら仲間にぶっ殺されます! さあさあ、どうぞどうぞ!」

 何故だか必死の勢いで着席を勧められ、仕方なくそこに座るエスペランサ。
 真正面を見ると沖田は勧められるまでもなく既に座っていて、いつの間に頼んだのだろうか、ベーコンと目玉焼きを箸でつついていた。
 果たしてここはどういうシステムになっているのだろう、と周りを見渡せば、気付けば朝食をとっていた隊士たち全員の視線がこちらに向いている。
 ふと、一人の隊士と目が合った。
 どうすればいいんですか? と眼差しで尋ねるようにそのまま相手の瞳を見詰め続けていると、真っ赤な顔で地面に倒れられた。
 その反応に困惑しつつもまた別の隊士と視線を合わせると、三秒ほどで相手が前の隊士と同じ状態になる。
 そんな見詰めては相手が倒れ見詰めては相手が倒れを繰り返している内に、沖田から「桔梗」と声をかけられた。
 バタバタと倒れていく隊士たちから視線を外し、「何ですか?」と首を傾げる。

「あいつらと目ェ合わせんじゃねェでさァ。気絶する」
「……失礼しました。確かに私の目がヤバイというのは沖田さんと初めて会った時にも言われたことですが、まさか目を合わせただけで気絶しやがるほどだとは……」
「いや、そういう意味ひゃなくて……無自覚って厄介でさァ」

 はぁ、と悩ましげに吐かれる溜息。
 ここに来てからというもの、なんだか会話相手に溜息を吐かれる回数が増えた気がする。

「で、何にしやす? 桔梗は細いからもっと喰った方がいいでさァ」

 溜息など無かったかのようにメニューを差し出してくる沖田。
 切り替わりの速さに若干辟易しつつも、受け取ったそれをパラパラと捲ってみた。

(日替わり定食A、日替わり定食B、焼き鮭定食、おにぎり……)

 右から左に文字を流し読み、とりあえず量的に食べられそうなものをチョイスする。
 「これにします」とエスペランサが指差したのは、拳サイズのおにぎり一つだった。

「……で、他には?」
「……これだけですが」
「……桔梗、今の体重何キロでさァ」
「……三十八キロはあったような無かったような気がしやがります」
「体重少なすぎでさァ!!」

 バァンッ! とテーブルを叩き、絶叫する沖田。
 身長が百五十六センチで体重が三十八キロ以下というのは、そんなに少なすぎるものなのだろうか。
 そういえば、クラスメイトにももっと栄養をとれと心配されたような記憶がある。
 再び懐かしい思い出を掘り起こそうとしているエスペランサを尻目に、沖田と、いつの間にか復活していた隊士たちが輪になって何かを話し合っていた。

「ヤバイでさァ。細いとは思ってたけど、まさか四十もないって……」
「いつか栄養失調で倒れますよ! うちの食堂で一番カロリーの高いメニューって何でしたっけ?」
「しょうが焼き定食とかじゃないか? いや、でも姫姉様しょうが焼き食ってるイメージねぇし……」
「それに薄味のものが好きなんだよな? 薄味で高カロリーのものって一体……」

 そこまで話し合ったところで、全員がハッ、と気が付いたように顔を上げた。

「「「副長の土方スペシャル!!」」」


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