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【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】
日時: 2011/10/25 19:37
名前: アニホとミシン (ID: Qh0QXHw.)

夢小説好きの友人に「銀魂の夢小説書いて!」と頼まれて書いた作品です。
初めての夢小説なので可笑しいところも多々あると思いますが、よろしくお願いしたします!


〜目次〜


>>1 プロローグ
>>2->>9 第一話(1)『魔法の国からやって来た少女』
>>10->>20 第一話(2)『とある使い魔の奔走』
>>21->>23 第一話(3)『オーガVS万事屋銀ちゃん』
>>24->>31 第一話(4)『魔法使いもヒーローも遅れてやって来る』
>>32->>57 第二話(1)『武装警察真選組』
>>58->>62 第三話(1)『その男の名は』
>>63->>72 第三話(2)『花よりも団子よりも』
>>73->>82 第四話(1)『リーフレット・キルケゴール』
>>83->>93 第四話(2)『下着泥棒って懲役何年くらいなのかな』
>>96->>100 第五話(1)『和の祭に洋の姫』
>>101->>120 第五話(2)『かくして祭がやって来る』
>>121- 第五話(3)『眠れる姫君は夢を見る』

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Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.4 )
日時: 2011/10/19 13:30
名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)


 『世界の架け橋』——それはシャングリラの中央に位置する、他の世界とシャングリラを繋ぐ装置のようなもの。
 周囲には優秀な魔法使い達が張り巡らせたモンスター専用の結界があり、モンスターは絶対にその橋を渡れないことになっている。
 つまり、シャングリラから自由に他の世界に行けるのは魔法使いだけ。
 だから今まで、モンスターが他の世界に行くなどという事件は発生していなかったのだが——

「よりにもよって結界の向こうにワープさせるなんて、何やってんですかソイツ」
「だから言っただろ、エスペランサ・アーノルド? お前のクラスにいる奴だって」
「……」
「正確には、お前のクラスにいる異様にドジな娘だって」

 ……マーテルのことか。

 シーレの言葉を聞いたエスペランサは、心の中で呟いて溜息を吐いた。
 マーテル・ホイットニー。別名『ドジっ娘マーテル』。
 保持する魔力の総量は並外れて多いのに、魔力の使い方が基本から出来ていない。
 それ故によく魔法を暴発させては校舎の一部や教室を壊している女子生徒なのだが、今回はその中でも随一のドジを踏んでくれたらしい。


「……で、つまり私はマーテルの尻拭いでわざわざ異世界にまでモンスター討伐に行かなきゃならないんですか。それもオーガって、危険度Aランクの食人モンスターですよ。Ⅰ年の生徒に討伐させやがるのは、命の危険が少ないBランクモンスターまでじゃないんですか?」
「そりゃお前、Ⅰ年の生徒の平均級数が六〜八だからだろ? Aランクモンスターとはいえ、オーガはその中じゃ強い方じゃねぇ。第四級魔法使いのお前なら、倒せない相手じゃない筈だ」
「……本当の理由は?」
「お前を行かせた方が、他の生徒を行かせるより面白くなりそうだから」

 ガキ大将のようにニヤッと笑って、堂々と人には誇れないような台詞をのたまう。
 そんなシーレを見て、エスペランサは溜息を吐きたい気分になった。
 そういえばこの人は、自分の楽しみを第一に行動するダメ人間、否、ダメ魔法使いだった。

 一体どうすればこの伝説の魔女(と紹介する事すらもう嫌になってきた)を黙らせられるのかと悩んだが、そんな方法は全く思い浮かばない。
 この唯我独尊さがあったからこそ、彼女は伝説の魔女と呼ばれるまでに成長したのだから。

 そんなエスペランサの苦労を知ってか知らないでか、シーレは悪戯っぽくニヤニヤと笑い続けている。
 それを見たエスペランサは、この人に何を言っても無駄だと悟ったのか、観念したように本日何回目かの溜息を吐いた。

「……わかりました。その『銀魂』の世界に行って、オーガを討伐すればいいワケですね?」
「おお、物分りがいいな。さすがはアタシの生徒だ」
「物分りがいい生徒なんて、うちのクラスには片手で数えられる程度しかいませんよ」

 ゴーイング・マイ・ウェイを地で行くクラスメイトを脳裏に思い浮かべたら、また溜息を吐きそうになった。
 大理石の椅子から勢いよく立ち上がったシーレは、そのまま机を飛び越えてエスペランサの前に立つと、「んじゃ、あそこの魔法陣の上に立ってくれ」とちょうど部屋の中央あたりに描かれている床の模様を指差した。
 逆らっても無駄だとわかっているので、エスペランサは言われた通りに魔法陣の上に歩いて移動。
 そしてちょうど魔法陣の真ん中に来たところで、魔法陣が鮮やかな金色に光始めた。

「校長、一つ聞いてもいいですか?」
「おう、何でも聞いてみろ我が生徒よ」
「……私の頭に入っている知識と私の目が間違っていなければ、これって転移魔法の魔法陣なんですけど」
「ああ、そうだが?」
「……」
「……」

 エスペランサは悟ったような顔で、シーレは悪戯に成功したような笑顔でお互いに見つめ合う。
 さらに輝きを増していく魔法陣の光の中で、エスペランサは腹に力を入れて叫んだ。

「これから行って来いって、今スグって意味だったんですか!?」

 その言葉を皮切りに、魔法陣の光はエスペランサの身体を呑み込む。

 ……そして魔法陣の光が消え去った数秒後、もうエスペランサの姿はどこにも無かった。

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.5 )
日時: 2011/10/19 13:35
名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)



     *     *     *


「銀さん。今回の依頼主って、一体どんな人なんですか?」

 通された和室の片隅で、落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見回しながら、新八は言った。

 ここは平安時代から続く、とある名家の屋敷。
 その一室に通された万事屋一行は、この家の主が今回の依頼主であるということ以外、何も知らずにここにやって来た。

「さーな。とりあえず、こんなデッケー屋敷に住んでんだ。報酬は期待できんじゃねーのか?」
「マジか。酢昆布いくら買えそうアルか?」
「あれだ、きっとダース単位で買えるぞ。いっそのこと駄菓子屋を買収しちまえ」
「駄菓子屋なんてショボイもん買収するくらいなら、いっそ工場から買い占めるネ。工場長様とお呼び!」
「テメェらここに何しに来たんだよ! っつーか酢昆布工場買収するくらいなら給料を払え給料を!」

 いつも通りに気の抜けた会話をする銀時と神楽に、一人ツッコミとして奮闘している新八。
 そんな日常的だが騒がしい光景に乱入するような形で、スッと部屋の扉が開かれた。

「初めまして、万事屋の皆様。今回そちらに依頼させて頂いた者です」
「あ、ご丁寧にどうも。僕は万事屋の志村新八です」
「神楽アル!」
「どーも、万事屋銀ちゃんの坂田銀時でーす」

 それぞれの個性が出た挨拶を主人に向けた後、家のリビングにいるように崩していた姿勢を最低限正す二人と、初めから正座の新八。

 一見マジメさなど微塵も感じさせない態度だが、主人の方はそんな事など全く気にしていないようだった。


     *     *     *


「……いや、今までも二日三日家を空けることはあったんだがね。さすがに一週間ともなると……。
 連絡は一切ないし、友達に聞いても誰も何も知らんときた。
 親の私が言うのもなんだがキレイな娘だから、何かよからぬことに巻き込まれているのではないかと……」

 心底娘を心配しているような表情でそう言って、手に握っていた写真を銀時と新八に見せる主人。
 因みに神楽は、庭の小さな池で遊んでいた。

 受け取った写真に写っている人物は、とてもじゃないがキレイとは表現できない、ガングロ肥満体型に加えギャルメイクの少女だった。

「そーっスねェ。なにか……こう巨大な……ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」

 銀時は二日酔い気味なのか、いつも以上にだるそうな声で失礼な発言をかます。
 主人の方もさすがに困惑しているようで、「いやそーゆんじゃなくて、なんか事件とかに巻き込まれてんじゃないかと……」と発言を付け足した。


「事件? あー、ハム事件とか?」
「ちょっと、大概にして下さいよ! せっかく来た仕事パーにするつもりですか?」

 どこまでも失礼な態度をとる銀時を注意しながら、新八は「でも、本当にコレ僕らでいいんですかね? 警察に相談とかした方がいいんじゃ……」と言葉を続ける。
 そして返ってきたのは、バレると大変だから内密の内に連れ帰って欲しいという、娘よりも世間体を重んずるある意味では金持ちらしい台詞。

 かくして坂田銀時率いる万事屋一行は、行方不明のガングロギャルを捜索しに出かけるのだった。


     *     *     *


 第四級魔法使いエスペランサ・アーノルドは、地面の中から這い出てきた。
 いや、正確に言えば、地面に浮かび上がった転移魔法陣から姿を現したのだが。

 聖マジカル学院の女子制服についた微量の土を払いながら、彼女は周りの景色を見渡した。

「なるほど、ここが『銀魂』の世界なワケですね……。しっかしシーレ校長には本当に毎回毎回コキ使われすぎて、本気で転校を考えるようになっちまうじゃねーですか……」

 どこかガサツで乱暴な雰囲気のする敬語でブツブツと呟きながら立ち上がると、その時点で彼女の足元にあった魔法陣は音もなく消失した。

 空は灰色、雲も灰色。
 様々な有害ガスに汚れきったような色彩を放つその光景は、自然を操ることもある魔法使いとしてかなり不快だった。
 目の前に小突けば壊れそうな民家があるところを見ると、ここはどうやら誰かが所有する庭らしい。

 よって人目につく前に逃げた方が利口だと判断し、エスペランサは自身の貧弱な胸に手を当て

「『魔唱杖スペルステッキ』、迅速に神妙に滞ることなく今すぐマッハで出てきやがって下さい」

 と柄悪く言った。

 その言葉に呼応するように淡く発光しだす胸。
 そして次の瞬間、彼女の手には奇妙な造形をして杖が握られていた。

 長さは一メートルほど、色は青。
 てっぺんにキラキラと輝く王冠は宝石を液体にして塗りたくったように輝いていて、そこから杖の最下部まで石細工の蛇が絡みついた意匠の杖だ。

 彼女はその杖、『魔唱杖スペルステッキ』の持ち手側に近い先端を地面につけると、そのままガリガリと土を削って何かを書き始めた。

「やっぱりこっちの世界じゃ、私の魔力と自然が馴染まねーですね……ああくそっ、ここの土スゲェ硬い」

 そうして硬い地面と奮闘すること一分、やっと完成した図形は、『魔法円マジックサークル』の中に『五芒星ペンタグラム』が刻まれた基本的な『魔法陣マジックシール』。
 魔法歴の浅いものならこの状態からさらに手を加えていかなければならないのだが、第四級魔法使いにして≪無限劇場——ヴァーミリオンエンドレス≫の異名をとるエスペランサにはこれで充分だった。

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.6 )
日時: 2011/10/19 13:39
名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)


「んじゃ、さっさと始めやがりますか」

 完成したばかりの魔法陣の内側。
 ちょうど五芒星の中央部分の真上に立って、エスペランサは魔唱杖を水平に構えた。

「——魔法名マジックネームは≪無限劇場——ヴァーミリオンエンドレス≫、第四級魔法使いエスペランサ・アーノルドの名に置いて命ずる。
 来たれ野蛮なる略奪者よ。
 その上半身は女、下半身は鷲。
 汝は腕に羽を持つ神々の使い、穢れし怪物——」

 蛍のように発光しだす魔法陣と、そこから吹き出てくる風に煽られてなびく銀色の髪。
 水平に構えていた魔唱杖を地面に描かれた魔法陣に勢いよく付き立てると、エスペランサは空気を裂くような凛然とした声で叫んだ。

「——ハルピュイア!」

 そして凛々しき残響も鳴り止まない内に、その纏わり付くような声は魔法陣の中から聞こえてきた。

『ΩΨΖΠ? ΣΦ!ΜΛΘψ!!』

「……異世界に来た時はその世界の言語を使えって言いやがったのを忘れましたか、ハルピュイア」

 はっきり言って何と喋っているのか分からないその声を理解しているのか、エスペランサは気分を害したような表情でそう魔法陣を踏みつける。
 踏みつけられた事に歓喜するように、地面に描かれた魔法陣はうねうねと動き出す。
 そしとボコボコと土が積み上げられて行き、徐々に髪や腕を持った人のような形に作られていった。
 ただしそのシルエットは、腕から翼が生えていて下半身が鷲という奇妙なものなのだが。

 初めは土そのものだった人形には段々と色がついてきて、最後には魔法陣が人形の口の中に呑み込まれる。
 そしてもう土だった頃の片鱗さえも感じられない人形は、猛禽のような翼が生えたその腕をガバッと大きく広げ、エスペランサに勢いよく飛びついた。

『ΩΦΓΨ……じゃなくて、久しぶりだっちゃエスペランサ!』

 思わず地面に倒れこんだエスペランサに馬乗りになり、その柔らかな頬をグリグリと擦り付ける異形——ハルピュイア。

 ハルピュイアとは、ラテン語で『略奪者』を意味する。
 最も広く知られている名称は『ハーピー』の方なのだが、シャングリラではこちらが正式名称とされている。
 ハーピーとはギリシャ神話に出てくる怪物。
 上半身は美しい女、下半身は鷲。
 腕からは猛禽の翼が生えた、戦場に現れる怪鳥だ。
 ギリシャ神話内では弱った者や傷ついた者を上空に連れ去ったり、食卓に汚物を撒き散らす迷惑極まりない習性を持った生物として書かれている。
 シャングリラでも野生のハルピュイアはそんな習性を持っているのだが、使い魔として充分に躾けられたハルピュイアは別だ。

 現に今エスペランサの革靴を舐め始めたハルピュイアに、不潔にして野蛮なる略奪者の面影はない。
 はあ……っと甘い息を漏らして恍惚とした表情を浮かべるハルピュイアは、何処からどう見ても従順なマゾヒストだ。

 ギリシャ神話だけでなく北欧神話やエジプト神話のモンスター達までいる混沌としたシャングリラだが、そもそも世に存在する様々な宗教や神話は、全てシャングリラから派生したものなのだから仕方がない。
 ありとあらゆる幻想をぶち込んだ不思議な世界。
 それがシャングリラなのだから。

 ちょっと躾けすぎたかもしれない、とエスペランサは内心愚痴りつつ、鬱陶しそうな形相でハルピュイアの顎を蹴り上げる。
 「ぁんっ!」と嬌声のような悲鳴を上げて嬉しそうに地面に倒れ込むハルピュイア。
 制服のプリーツスカートについた土を払い落として立ち上がると、ハルピュイアの前髪を掴んで同じように立ち上がらせた。

『んっ、エスペランサぁ……』
「気色悪い声を出しやがらないで下さい、ハルピュイア。ぶっ叩かれたいですか」

 言ってから、しまったと思い顔をしかめた。
 この怪鳥マゾヒストを相手に、脅すような言葉はむしろ快感にしかならない。
 そしてエスペランサの予想は的中。
 ハルピュイアは餌を前にした犬のような荒い息で、熱の篭った眼差しをエスペランサに向けてきた。

 地面に五メートルほど垂れたショッキングピンクの髪に、柴犬のようにまん丸な同色の瞳。
 黙っていれば愛らしい顔立ちなのだが、先ほどからの変態行為のせいで魅力を帳消しにしている。

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.7 )
日時: 2011/10/19 13:41
名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)


「……その某アニメの電撃鬼娘みたいな喋り方は、相変わらずみたいですね。いつか貴方が真っ当な口調で話せるようになったら叩いてやりますから我慢しなさい」

 呟き、地面に落ちた魔唱杖を拾い上げるエスペランサ。

 ハルピュイアは、数年前にエスペランサと契約した使い魔だ。
 さきほどエスペランサが描いていた魔法陣は、召喚魔法サモンマジック用の簡易魔法陣。
 複雑な文様や記号を刻まなかった分魔力の消費も多くなってしまうが、時間を無駄には出来ない。

 残念そうな顔でこちらをじっと見つめるハルピュイアをスルーして、エスペランサは魔唱杖を使い宙に五芒星を描いた。
 発光しながら、魔法陣はハルピュイアの体に染みこんで行く。

 隠蔽魔法シークレットマジック
 聖マジカル学院では成績下位者でも使う事が出来る、魔法界における基礎中の基礎だ。
 この魔法を使うと、自らの姿や声を周りから隠せる。
 しかし他人に使う場合は体に直接魔法陣を書き込むか魔力を送り込んで体内に魔法陣を描かなければならないので、あまり多用されなかったり。

 今回の場合、エスペランサは空中に描いた魔法陣を丸ごとハルピュイアの体に送り込んだ。
 その理由は、目立つハルピュイアを人目に付かせずモンスター捜索を頼む為である。

「貴方に隠蔽魔法を施しました。地上からでも空中からでもどちらでも良いので、私がこの世界を把握している内に貴方は今回討伐する予定のオーガを探しやがって下さい。わかりやがりましたか?」
『わかったっちゃ! あ、今回は何かご褒美ないんだっちゃか?』
「三時間以内に見つけたら、私の右足の親指を一分間しゃぶりやがって下さっても構わない権利を差し上げましょう」
『全力で捜索して来るっちゃ!!』

 バサリと両腕の翼を広げて、意気揚々と飛び立つハルピュイア。
 灰色の空に消えていくそのショッキングピンクの怪鳥を見届けた後、エスペランサは何事も無かったかのように民家の庭から出て行った。


     *     *     *


 どうやら自分が降り立った地は、歌舞伎町という名前らしい。

 周りから惜しげもなく注がれる好奇の視線を気にもせず、エスペランサはそう思った。

Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.8 )
日時: 2011/10/19 13:43
名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)


 クラスメイトに「なんか常に澱んでる」と評される目付きを左右に巡らせて、そこにいる和装の人々や、よく分からない容姿をした生物達を眺める。
 そういえば昔、シーレ校長が言っていたような気がする。
 銀魂には『天人』と呼ばれる地球外生命体が登場すると。

 とは言っても、あの人はありとあらゆる漫画について語っていたから間違った情報を覚えている可能性もある。

 モンスターと間違えて天人を討伐しそうになるのを抑えつつ、エスペランサは道を歩く。
 魔唱杖を手にしたまま、排気ガスの混じった空気に銀色の髪を靡かせて。


「——そこの人、ちょっと止まって貰っても良いですかねィ?」


 そんな声をかけられたのは、町を歩き始めて5分もたっていない頃だった。

 江戸っ子口調とでも言うのだろうか。
 独特な訛りを感じさせる話し方で、しかし声色は若々しい。
 この世界に知り合いはいない筈だが、と思い振り返ると、そこにいたのは爽やかなルックスの美少年だった。

 亜麻色の髪に赤い瞳。
 整っているがどこか幼さを感じさせる顔立ちは、同年代よりも年上の女に好かれるタイプだろう。
 一見どこぞの坊ちゃんともとれる容姿だが、腰にぶらさげた打刀がその印象を裏切っている。

「……何ですか。こちとら男に声をかけられて喜ぶような、つまらねぇミーハー魂はとっくの昔に枯れ果ててんですが」

 相手が武器を持っているのを見て、いつ攻撃されても良いように内心身構えながら答える。
 目の前の帯刀美少年に殺気がないのは感覚で理解しているが、それでも魔法使いとしての防衛本能がエスペランサにその行動をとらせた。

 対し、黒い洋服を身に纏った美少年は、そんなエスペランサの様子を考慮する様子もなくズカズカと近くに寄ってくる。
 そしてエスペランサの目をジッと見詰めると、特にどうでもなさそうな表情でこう言い放った。

「あんた、クスリとかやってねぇですかィ?」
「……はぁ?」

 クスリってあれか、吸ったら「あへへ」とかなっちゃう危ない奴か?

 何を言いやがるんだコイツはという意思を込めて、相手にジト目を返す。
 すると美少年は、こちらが求めてもいないのに「いや、実は……」と説明をし始めた。

「最近、ここらの界隈で『転生郷』って薬が出回ってましてねィ。アンタの目がヤバイから、もしかしたら使ってんじゃねぇかと思って」
「……つまり貴方は、私をその危ねぇ薬でラリってる中毒女だって思ってやがったんですか?」
「まあ、正直に言えば」

 殴りたくなった。
 いくら自分の目がヤバイからと言って(自覚はしている、シャングリラでもよく言われているのだから)、それだけで薬物中毒者だと思われるのは流石に気分を害する。
 ましてやここは魔女狩り文化のあったシャングリラではなく、地球外生命体が蔓延る未知の世界だ。

 誰も自分を知らない場所でいきなり疑われるなんて、自分の目付きはよほど悪いのだろうか。
 いや、目付きというよりは目の色が悪いのかもしれないが。

 というか、何故この少年はそんな理由で自分に声をかけた?
 警察でも何でもないのに、例えエスペランサが本物の薬物中毒者だったとしても声をかける義理はないだろう。

「それより、何で貴方はそんな理由で私に声をかけやがったんですか? 私が本物の薬物中毒者だったところで、一般市民に取り締まる権限なんてねーでしょうに」

 考えていた疑問をそのまま口に出すと、美少年は驚いたように目を見張り、そして自分の着ている服を指差し言った。

「俺ァこれでも、武装警察『真選組』の一番隊隊長なんですけどねィ……沖田総悟って名前、聞いた事ありやせんかィ?」
「全くもって初耳でしかありませんね。自分の名前を先に言いやがった事は礼儀正しいと評価しますが、貴方が警察官だったとしても初対面の相手を薬中扱いするのはどうかと思いますし」

 適当に返しながら、美少年——沖田総悟の言葉にエスペランサは驚いていた。

 まだ二十歳にもなっていないであろうこの少年が、まさか警察官だとは。
 しかも一番隊隊長ということは、それなりに上位の役職なのだろう。
 十三歳で第四級魔法使いに認定されている自分もそれなりに凄いと自負しているが、それでも「○長」と名の付く役を任されたことは一度もない。

「こっちが名乗ったんだ、アンタの方も名乗ったらどうですかィ」

 思考に割り込むようにしてかけられた声に、再び思考を開始してしまうエスペランサ。

 沖田総悟という響きから察するに、きっとこの世界では漢字を用いた名前が一般的なのだろう。
 エスペランサ・アーノルドという自分のフルネームを、果たしてここで名乗っても良いものか。

 三秒ほど考えて、エスペランサは「……斑鳩桔梗いかるが・ききょうです」と答えた。
 本名とは何の関連性もない、正真正銘の偽名だ。


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