社会問題小説・評論板
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- Re:愛してる
- 日時: 2012/07/26 14:34
- 名前: おかゆ (ID: uOIKSYv5)
『非常識だとしても皆が常識といえばそれは常識になるんだ』
こんにちわ。
名前を変えて他の所でもちょくちょくやってますが、社会系が一番書きやすいと思ってまた書いてみることにしました。
どうぞ生暖かい目で見守ってください。
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2012.0219
- Re: Re:愛してる ( No.53 )
- 日時: 2012/04/27 22:26
- 名前: おかゆ (ID: 7TIhQdvp)
始めの変化が起こったのは夏休みに入る少し前だった。
「・・・・あれ?」
愁がいつも持っていた台本がなくなっていたのだ。
「翔、俺の台本知らない?」
「台本?いつもお前が持ってるやつか?」
「そう。おかしいな・・机の中にしまってたはずなのに・・」
「・・・・・なぁ」
「ん?」
俺が何気なく見たゴミ箱の中。
「——・・これ、お前の台本・・?」
「・・え?」
ほこりや消しゴムのカスでよごれていた愁の台本があった。
「・・・・誰が・・こんなこと・・」
すぐに愁は台本をとり、ほこりなどを払った。
次の変化は夏休みが終わったあと。
中三ともなると夏休みが終わったあとはピリピリした奴も多かった。
だからなのか。
愁はいつもストレス解消として扱われるようになった。
「お前女っぽくね?」
「その台本ぼろぼろじゃん。俺らが綺麗にしてあげよっか?」
「ちょ、何その顔。まじうざいんだけど」
耳に残るような笑い声。そのたびに耐えていた愁の顔。
今でも忘れられない。
「やめろよ」
「うっわ。こいつ何マジになってんの?」
気が弱くてちょっと怖がりなくせに頑張って。
俺はそれにかかわりたくなかった。
だから『傍観者』になった。
そして変化は次第に大きくなっていく。
「・・・っ」
受験のストレス。しだいに暴力も増えてきた。
「おい、」
「やめろ。さすがにかわいそうだ」
見てられなくなって、ついとめた。
今だったら当たり前にとめるはずなのに。
『つい』なんて言葉・・あのときの俺は本当にどうしようもない人間だった。
驚いた愁の顔。そしてどこかほっとしたような顔をしていた。
英雄のようになりたかった。
愁を助けて、俺はすごい人間なんだって、愁に『ありがとう』と言って欲しくて。
市川の言う『偽善者』がしっくりと当てはまっていた。
『かわいそう』って言葉だって愁を完全に上から見ていて。
でもみんなの目には俺は
完璧な『英雄』のようにみえていたんだ。
- Re: Re:愛してる ( No.54 )
- 日時: 2012/04/27 22:53
- 名前: おかゆ (ID: 7TIhQdvp)
「翔・・・」
帰り道、久しぶりに陸上部の練習がなかった俺は一人で帰ろうとしたら愁に呼び止められた。
「久しぶりに一緒に帰ろうよ」
力なく笑った愁。
「・・・そうだな」
あのとき一瞬、嫌という気持ちがまざった。
* * *
「・・今回はどんな役やるんだ?」
「んー・・まぁ普通の男の子なんだけど」
友情ものなんだ
今度やる劇の内容を少し楽しそうに話した。
「見る?台本」
「あ・・じゃぁ」
愁から台本を受け取りぱらぱらとめくる。
「『俺はもうお前なしでは生きていけないんだ』」
「なんだよ急に」
「劇、劇。なんか顧問の先生がねー?こうゆうのにはまっちゃってさー」
「本当に友情ものなのか?」
「俺が今いったところは主人公の過去。彼女に対して言う台詞なんだけどそのあと彼女が病気で死んじゃうんだよ」
「うわー、ありがちだなー・・んで、台詞がクサくね?」
「まぁこれは全校生徒の前で発表しないから別にいいんじゃない?」
愁はまた軽く笑って俺に言った。
「俺もきっとお前がいなきゃダメだわ」
「・・・・なんだよ、急に」
「いや、なんかさ。思ったんだよ・・いつも翔に助けてもらってばかりだなーって」
「そんなこと・・」
「あるよ」
愁が珍しくきっぱりといった。
「あの時、助けてくれてありがとう」
「・・・・っ、」
『あの時』は聞かなくても分かった。
なんでだ?
愁からの『ありがとう』が聞きたかったはずなのに、
なんでこんな泣きたい気持ちになったんだ———・・?
「・・・そ、そういえば俺ら最近遊んでないよな」
「あ、そうだねー」
こんな気持ちが嫌になって話題を変えた。
「今度遊ぶか」
「・・いいね!卒業までには遊びたいね」
「そうだな」
「お菓子持ってこうよ!」
「子供かよ」
「いいねー、久しぶりだから!!すごく楽しみだ!」
今度は本当に楽しそうに、嬉しそうに笑った。
今思えば、
あれが俺の見た愁の最後の笑顔だったのかもしれない。
- Re: Re:愛してる ( No.55 )
- 日時: 2012/04/28 00:11
- 名前: おかゆ (ID: 7TIhQdvp)
今日も愁はいじられていた。
加害者はそれがもはや『快楽』であるかのように。
被害者はそれがあたりまえかのようにたえ、
傍観者はそれが日常となっていて。
とにかく皆が狂ったかのように。
俺はクラスに居たくなかった。
* * *
「翔・・・!!」
今日も部活は休みだった。
「一緒に帰ろ」
・・本当に、女っぽい奴。少しうっとうしいとも思った。
「・・なぁ、」
とまらなかった。
「なんでお前はいつも」
イライラが、なぜか。
「俺ばっかに頼ってさ」
押さえきれなくて
「正直うっとうしいんだけど」
なんでだ・・・・?
「たまには自分で何とかしたらどうなんだ?」
嗚呼、俺馬鹿だ。
「一人になるのが嫌だったから俺と本当はつるんでたりしてな」
やっと止まった俺の口。愁を見ると絶望したような顔。
「・・翔どうしたんだ・・?」
「確かに・・そうかもしれないけど・・」
「でも俺は・・っそんなことおもってなか、たのに・・」
「お前、最低だ」
「俺のことそう思ってたのかよ・・」
愁の声が遠くの方で聞える。
「・・・・・分かった。お前がそう思ってるなら俺はもうお前に近付かない。悪かったな」
やっと届いた。
「・・は?」
「じゃぁな、翔」
一瞬だけ寂しそうな顔をしてそれからまたいつもの笑顔になった。
でもその笑顔は自嘲するような笑み。
「——・・」
愁は最後に俺に一つの言葉を言って俺より先に歩いた。
「・・・・んだよ」
("ありがとう"とか、)
(なんで言ったのか俺はまだ知らない)
- Re: Re:愛してる ( No.56 )
- 日時: 2012/04/28 22:18
- 名前: おかゆ (ID: tkwGoBUC)
最後の変化はその『喧嘩』の次の日だった。
俺は久々の休日を楽しんでいた。
最近部活が忙しくて休みの日まであったから。
だから好きな音楽を聴いたり、携帯いじったり、それなりに充実していた。
思えば俺は昨日愁にひどいことを言ったな。
月曜日にでも謝るか。
受験とかで八つ当たりとか、かっこ悪かったな・・
仲直りしたら今度また遊ぼうか。
なんて事考えていた。
♪—♪—♪—♪—♪—・・
聞き覚えのある曲だと思ったらこれ俺の携帯の着信音だっけ、とかのんきな事を考えていた。
「はいー?もしもし・・誠也か?」
『おい!!お前なんでそんなにのんきなんだよ!?・・あぁ、そうか、これ俺が先だからまだお前は知らないのか』
「なんだよ、言ってる意味がわかんねぇよ」
『・・・・いっ・・いいか?多分驚くかもしれんけど・・落ち着けよ?』
むしろお前が落ち着けと思いながら俺は笑ってた。
でも、心の中で何かの警報音。
俺一人しかいない部屋でやけに静寂した空気がまるで音となって響くように。
嫌な予感しかしなかった。
『今、連絡網で回ってきたんだけど・・』
『愁が交通事故にあって——・・死んだ』
「・・・・・は?」
『それ』はあまりもあっさりとしていて。
でもすごく重い。
『愁が死んだ』
頭に入るのに数秒かかった。
愁が死んだ
交通事故で
死ぬ
愁が
事故
死んだ
昨日まで元気だった
喧嘩していた
死んだ
死んだ
死んだ
死、
———・・『死』
「・・・・・・嘘だろ?」
このときの俺は自分でもビックリするぐらいに冷静だった。
『誰がこんなこと嘘で言うかよ!とにかくお前は次の奴にまわせ!!』
「・・・・わかった」
ピッ・・と機会音が響いた。
「嘘だろ・・・・?」
もう一度、自分に言い聞かせた。
「・・・、」
悲しさ。なんてものはなく、
心に大きな空洞が出来たような、そんな感じで。
ただまだ実感がなかった。
「・・・・・もしもし?」
『おー、翔か。どうした?』
「いま誠也から連絡網来たんだけどさ」
「——・・愁が事故で死んだって」
(それはあまりにも客観的な言葉だった)
- Re: Re:愛してる ( No.57 )
- 日時: 2012/04/28 23:08
- 名前: おかゆ (ID: tkwGoBUC)
『・・・・!?は!?死んだ!?え、何!?』
俺の冷静な言葉とは裏腹に電話ごしで焦る声が返ってきた。
「うん・・・交通事故で、愁が、死んだ。嘘じゃないよ」
相手にはっきり伝わるように、ゆっくりといってみた。
『なんでお前冷静なんだよ?マジで言ってんのか!?』
「・・・・・・、」
冷静。
確かに自分の口から出てくる言葉、雰囲気。
なんでだろう。
「・・・・そんなことないよ。ただ・・実感がわかないだけだよ」
『実感って・・お前なぁ、』
「俺だって今の表現はおかしいと思ってる。でも・・他に言葉が見つからないんだよ・・」
その言葉で電話のむこうで友達が息を呑む音が聞えた気がした。
俺が尋常じゃないってのが分かったらしい。
「・・・とにかく、次の人に回して」
『・・あ、うん・・わかった』
そしてまたピッ・・と機械音が響く。
「・・・・愁、」
不思議と涙が出ないのは、
まだ実感がないからなのか、
それとも———・・・
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