複雑・ファジー小説
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- OUTLAW 【6ヶ月ぶりの更新ですっ!!ごめんなさいっ】
- 日時: 2014/05/07 00:17
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
ちわちわー、Cheshireって書いてチェシャって読みますww
んーと、誤字脱字、文が変ということがあった際は、スルーせずに言ってください、お願いします。
あと、更新が不定期です。まぁ、暇なんで、多分早いとは思いますが、遅くなるかもです。すいません
あとあと、もうお話自体が下手だと思いますが、どうぞ飽きないで読んでください。
コメント、アドバイス、イラスト、その他もろもろ大歓迎ですwwというか、ください。ください。大事なことなので2回言いました。
OUTLAW
<プロローグ>
>>1
<ハジマリ>
>>18 >>25 >>30 >>33 >>38 >>40 >>41 >>43 >>44 >>49 >>50 >>51 >>56 >>57
<JUNE>
>>86 >>87 >>88 >>90 >>93 >>94 >>95 >>99 >>100 >>101 >>111 >>116 >>121 >>125 >>128 >>131 >>134 >>138 >>139 >>140 >>144 >>145 >>146 >>147 >>148 >>149 >>152 >>159 >>160 >>163 >>166 >>169 >>170 >>171 >>172 >>190 >>194 >>197 >>198 >>199 >>200 >>204 >>219 >>221 >>222 >>227 >>228 >>231 >>232 >>237 >>240 >>248 >>253 >>257 >>258 >>261 >>263 >>266 >>267 >>269
<番外編1>
>>72 >>76 >>77 >>78
<番外編2>
>>79 >>82
<サブストーリー>
サブストーリーは、チェシャではなくキャラクターをくださった皆様方がそれぞれのキャラクターを主として、書いてくださったお話です
葉隠空悟編 >>201 >>202 >>211 007さん作
阿九根理人編 >>217 ルル♪さん作
社井狛編 >>179 ルゥさん作
黒宮綾編 >>187 朝比奈ミオさん作
<登場人物>
矢吹真夜、篠原梨緒 >>21
高嶺真 >>39
葉隠空悟 007さんより >>5
杵島灯 金平糖さんより >>3
阿九根理人 ルル♪さんより >>6
社井狛 ルゥさんより >>19
璃月那羅 雷羅さんより >>22
榊切 橘椿さんより >>11
黒宮綾 澪さんより >>64
天内小夜 ブルーさんより >>10
皐 ミケ猫さんより >>8
- OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.228 )
- 日時: 2013/08/11 00:03
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
「あなたの言う通りです。僕は昨日、天内さんが拉致されているところを見ていました」
と、彼ははっきりと明確にしてくれる。
ふと見やれば、どうやら彼は備品整理をしていたらしい。机の上にある備品を手にとって、指定場所と思われる場所に次々と運んでいく。だが、片付け場所と言ってもそう遠くはないので、会話くらいはできそうだ。
美術部という扱いで美術の先生にコキ使われているのだろう。そう思うと、少し可哀相に思えた。
「その時のことを、できるだけ詳しく教えてくれないか?」
「もちろん。ですが、ご期待に答えられるかどうかは分かりかねます」
「それでいい」
俺がそう答えると、彼は備品整理を一旦中止してくれるらしく、備品を机の上に置いた。そのままの流れでドアのところまで歩き、鍵をかけた。誰かに聞かれたらいけないという、俺への配慮だろう。かなり気が利く子のようだ。
今までそういう奴とは関わってきてなかったから、違う意味で戸惑ってしまう。
「昨日の・・・7時を過ぎた頃でしょうか。僕昨日もここで片付けやらされてて、帰るの遅くなっちゃって。やっと完全下校時刻になって、帰れるって思って校舎から出たら悲鳴が聞こえて・・・」
彼が言うには。
天内の悲鳴を聞いたその場にいた全員は、すぐにそちらへ目を向けたらしい。
そして見たのは、倒れる寸前の天内だった。俺の予測だと、昨日写真に写っていた社井を連れ去る際にも用いられた薬か何かを嗅がされたのだろう。ぐったりとした天内を、犯人は車の中へと押しやり、自分はそそくさと運転席に乗ってしまったらしい。
一連の出来事は、彼がいた昇降口からかなり離れていたところだったという。被害者が天内だと分かったのは、悲鳴を聞いたときの声と前髪にあった水色のヘアピンがかろうじて見えたらしい。確かに、黒髪に光沢のある水色はよく目立っていた。
場所が離れていたため、車のナンバープレートを覚えることもできなかったらしい。ちなみに機種はどこにでもあるような中古車だったそうだ。似たような車はいくらでもあるので、車から割り出すのは難しい。
今のところ、望んでいるような情報は1つもない。
・・・が。
「何か、ちゃんとは聞こえなかったんですけど、天内さん悲鳴のあとにいろいろ叫んでたんですよね。いつもの彼女の雰囲気とはかけ離れてい
たので、ちょっと驚いちゃいました」
「叫んでた?」
「えぇ。えっと確か・・・」
『花を傷つける人はいつもそうやって人も傷つけるのよ!恥ずかしいと思わないの!?最低ね!』
「だった気がします」
ちゃんと聞こえてんじゃねぇか、と内心で突っ込みつつ、やっと使えそうな情報が出てきたことにテンションが上がる。
その天内の言葉から分かるのは、天内が相手を「花を傷つける人」と言ったことだ。
花を傷つける人・・・つまり、花を蹴っていた、熊谷信之。
天内を攫ったのは、熊谷で間違いない。
確信を裏付けるのには、充分な情報だった。
「どうです?何か役に立てますか?」
「あぁ。充分だ」
「それはよかったです」
朗らかに笑う彼に釣られて、俺も微笑を浮かべる。
・・・そして俺は、ここに来たときから考えている1つの疑問を聞くことにした。
「もう1つ聞きたいことがあるんだけど」
「何でしょう?」
にこやかに聞き返してくれる彼には非常に聞きづらいのだが・・・。
「あの絵って、お前が書いたんだよな?」
そう言いながら、俺は壁に飾られた絵を指差しながらぎこちなく聞いた。
彼が俺が指差すほうを見やり、すぐに「あぁ」と声をあげる。
自信満々に笑みを浮かべながら、
「はい、そうですよ」
と答える彼に、俺は何て声をかけていいのか分からなくなる。
にこにこと笑う彼と、何ともいえない顔の俺。
さっきとは違う意味で時間が止まる。
・・・いやいや、俺が本当に聞きたいのはそこじゃねぇだろ。
落ち着け。頑張れ、俺。覚悟を決めろ。
「じゃあ、あれって「灯ちゃんです。分かりませんか?」
俺の言葉を遮りながら、尚且つ俺の聞きたいことを言いながら、不安げに彼は見つめてくる。
確かに杵島だった。あの態度の悪いムカつく杵島だった。
黒い髪も、細すぎる四肢も、白い肌も、仏頂面の表情も、確かに杵島だった。見れば1目で分かる。
皐ほどではないが、それでも絵に関心がない俺からしたら充分上手かった。
だけど、どこか違う気がした。
酷い言い方になるが、だって杵島はこんなに綺麗じゃない。
いや、普通に考えれば杵島だって美人なんだ。ただ、雰囲気がどす黒いだけで。
だから何というか、背景が白っぽい杵島は何となく違和感がある。多分そこが皐との決定的な違いだ。あいつは雰囲気さえも絵に書き記す。その場の空気を丸ごと写すのだ。だからこそ、この絵はどこか実物と雰囲気がかけ離れていて・・・違和感を覚えてしまう。
あいつの背景は朝でも昼でも構わず暗い。とにかく影を背負っている感じで、決して純粋とかそういう言葉が似合わない。
なのに、この絵の杵島は、何となく純粋で・・・あの暗い雰囲気も醸し出しつつ、何故か「普通の女の子」だった。
「あいつ・・・こんなに白くなくね?」
つい、俺の中の感覚で語ってしまう。
ちゃんと相手に伝わるのかな、と不安になりつつ、見やると彼は呆けた表情をしていた。俺の言っていることがちゃんと分かってないらしい。
「あー・・・えっと・・・」
何て言ったらいいのか分からなくて言葉に詰まる。
そんな様子をしばらく見ていた彼は、ふいにくすりと笑った。
「僕は見たままの灯ちゃんを書いただけですよ」
再び、備品整理に戻った彼は楽しげに話し始めた。
「灯ちゃんは白くて白くて、白すぎるんです」
・・・、こいつは何を言っているんだ?
普通の世間話のように語る彼の言葉は、全くもって信じられなかった。
彼の目に映る杵島と俺の目に映る杵島とでは、大分差があるようで。
何も言い返せなくなってしまう。
「でもだからこそ、灯ちゃんは儚いんです」
そこで彼は何かを思いついたかのように、整理していた備品の中にあった何色かの絵の具とパレットを取り出した。片づけ中なのに、そんな勝手に使っていいのか不安を抱いたが、この際どうでもいい。
「例えばここに白の絵の具がありますね」
白の絵の具のチューブを握り、パレットに適量の絵の具を出した彼は俺に向かって見せる。とりあえず俺は頷いた。
- Re: OUTLAW 【参照20ありがとうございますっ!!】 ( No.229 )
- 日時: 2013/08/07 19:50
- 名前: 金平糖 (ID: YjRhtU7o)
さ、小夜たぁぁぁぁぁあああああああん!
小夜ちゃんが心配ですし美術教師は殴りたい○したいおすし…
謎が謎を呼んで色々やばいですね。
は、蓮井君が謎すぎる…黒い、黒いぞコイツ…
そして真夜君の安定的かっこよさ。
- OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.230 )
- 日時: 2013/08/07 23:42
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
伏線多くてチェシャも訳わかんなくなりそうです・・・orz
もし終わっても「ここ分かんねぇよ、馬鹿!」ってとこがありましたら、すぐに言って下さい。お願いします。まだ終わんないんですけど。
長引いちゃってごめんなさい・・・
キャラクターについて言って頂けると嬉しいですw
そう思ってくれて、とりあえず安心してますw
もう少しなのですっ・・・っ
頑張ります
- OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.231 )
- 日時: 2013/08/10 23:59
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
「そしてここに」
パレットを俺のほうへ向けたまま、彼は黒の絵の具のチューブを取り出し蓋を開けた。
「違う色を加えたら」
白と同じくらいの量を出し、近くに置いてあった筆で手馴れた手つきで混ぜる。
「当然、色が変わります」
灰色の出来上がりだった。どこかのコンクリートのような、不安を掻き立てる色だった。
「白は凄く、色を変えられやすいんです」
自分で作った灰色を見つめ・・・というより睨みながら、視線を向けずに俺に言葉を投げかける。
「ですが、性質上、色を変えられた白は」
パレットをパタンと閉じた。
「元の色に戻すことができません」
眼鏡の奥の瞳が俺を捉えた。
どんなに絵に関心がなくても、絵の具を扱ったことくらいは一応ある。
白は色を薄める色。白い紙にそのまま使うことはそうそうない。
それくらいの認識でしかなかった。
だから、違う色を「白」にしようとなんて思ったことさえない。
けれど言われてみればそうだ。
白を他の色に染めるのは容易い。
でも、他の色を白に染めることは難しい。
「灯ちゃんは白いんです」
今までの物静かな雰囲気とは一変し、彼は酷く冷たい印象だった。
「だから簡単に染められて、それでいて元に戻るのは困難なんです。それこそ今の何倍もの量の白を混ぜないと、元の色には戻れないんです」
どこか儚げに切なげに、彼は目を伏せた。
「それが、灯ちゃんなんです」
俺は何て声をかけていいのか分かんなくて、黙ってしまう。
本音を言ってしまえば、そんなことを言われても杵島を白いとは思えない。
だって俺は白い杵島なんて見たことがない。あの夥しいほどのどす黒いオーラを纏ってる杵島しか見たことがない。
そんなんで信じろというほうが無理な話だ。
確かに彼は、彼の言う白い杵島を見たことがあるのかもしれない。が、俺はないのだから仕方がない。
だけど多分、それを彼に言うのは間違っている。
俺はそこまで、杵島を知らない。親しくない。何も知らない。
彼のほうがよっぽど、杵島を理解していることだろう。
だったら、俺に杵島について何か言う権利はほとんどない。
「・・・ごめんなさい、話が逸れてしまいましたね」
自重気味に笑った彼は、さっきまでと同じ物静かな少年だった。
今までの彼と今の彼、どちらが本当の彼なのかは、分かりかねるけど。
でもだとしたら、さっきの話題には触れないほうがいいのだろう。
「平気。つーか、よくあいつが許したよな。絵に描かれるとか写真とか嫌いそうなのに」
俺は描かれてても全然平気だったけど。・・・皐だけかな?まぁ、何でもいいか。
「あぁ。あれは勝手に描いたんです。そしたらあんな賞取っちゃって、半ば無理矢理美術部に・・・」
・・・え?
今さらっと、凄いこと言わなかったか?
「勝手に、って、大丈夫だったのか?」
「え?駄目に決まってるじゃないですか。おかげで毎日悲惨な状況です」
にこやかに言われるからか、全く現実味がない。
どちらかというと、満足しているように見える・・・。マゾヒストなのだろうか。
机の上の備品も大分片付いてきたようだ。あとは細かいものしかないように見える。
そろそろ俺も帰ってみんなと捜査に入ったほうがいいかな。
とか思った瞬間、俺の視界の中に思わぬものが入ってきた。
小さなビニール袋の中。
堅そうなイメージがある角ばったパン。
そのパンに見覚えがあった俺は、すぐさま凄い勢いで机に近づきそのパンを凝視した。
3回目の犯行。如月美羽のときに、プール更衣室に落ちていたのは、如月美羽のストラップと
一欠けらの、パン。
形、色、質感・・・それら全てがよく似ていた。
「おい」
「なんでしょう?」
声をかければすぐに返事が帰ってきて、彼は作業をやめて俺のほうを向いてくれた。
1度唾を飲み込んでから、気持ちを落ち着かせる。心臓の動きが早いのだけは止まらなかったけど、この際どうでもいい。
「このパン、なに?」
袋の中のパンを指差しながら、できるだけ普通に聞く。・・・聞いたつもりだ。
彼は俺が指差すものを少し背伸びして確認したあと、すぐにあぁ、と声をあげた。
「それは消しパンです」
「消しパン?」
「はい。デッサンとかやるときに、消しゴムより紙を傷めずに消せるんです。確かそれは熊谷先生の所持品だと思いますよ」
その言葉に驚き、袋を見ると小さく「くま」と書かれている。熊谷と書くより遥かに楽そうだし、そう書いても不思議ではない。
彼の話しは続いた。
「この間まで使ってたやつをなくしちゃったみたいで、別のを家から持ってきたそうです。まぁ、絵に集中してると結構消しパンって袖の中とか服の隙間とかに入りこんじゃうことがよくあるんです。だからどこかに落としてきちゃったのかも・・・」
辻褄が合う。
第三の犯行の際にプール更衣室に落ちていたパンが、これと同じだとすれば熊谷信之があの場にいた証拠になる。
「悪い。これ借りてもいいか?」
つい掴んでしまったパンの入った袋を彼に見せると、にっこり笑って「もちろん」と返された。
如月美羽と、天内の犯行現場に熊谷信之がいたことが証明された。
現在の段階でこれほど有力な情報はない。早くみんなに伝えないと、と思って俺はポケットの中から携帯を取り出し、メールを作成し始める。
「熊谷先生この頃様子が変なんですよね」
「どういうことだ?」
「何か、疲れてるというか焦っているというか・・・製作中の絵が残ってて、早く続きを書いて欲しいんですけど・・・」
パンの所持者が熊谷だったためか、彼が不意に熊谷のことを話し始める。今の状況においてはどうでもいいことではないので、とりあえず相槌を打つことにした。ただ、集中しているのは携帯だ。
「絵?」
「はい。今までの画風と180度違うので、いろいろ教わろうと思っていたのですが・・・。見ますか?」
「いいのか?」
「知られなきゃ大丈夫でしょう」
案外融通が利くことに驚きながら、歩いていく彼についていく。
奥へと進んで準備室をくぐる。どうやら美術部の作成途中作品を保存する場所も兼ねているらしい。彼は生徒たちの作品だと思われる絵や彫刻の中の1枚を俺に見えやすくなるように移動させた。
・・・思考が止まった。息を呑んだ。
美術の感性は俺にはよく分からない。ただ俺はこの絵を上手いとは思えなかった。だったら皐の絵はもう神の領域だし、彼のあの杵島の絵のほうがよっぽど上手い。だが、ピカソのよく分からない絵を天才と称するような美術の世界だ。もしかしたら上手いのかもしれない。
多分、女の子・・・なんだと思う。いや、少女といったほうが妥当だろうか。多分俺らと同い年くらいの・・・15,6歳ほどの女だ。
髪の色も長さもばらばら。顔の部品たちはお世辞にも整っているとはいえない。もともと人の顔は左右対称ではないけれど、これは度を越えている。全てが曲がって、場所もばらばらだ。昔の遊びでよくある副笑いの、少し成功してるけどやっぱり違うやつ、に似てる。肌の色も所々違うし、身体だって歪んでいる。手足なんか長さも違う。・・・とにかく何が何だか分からない。幼稚園児の絵とそう変わらない。
俺には何が書きたいのかよく分からなかった。
- OUTLAW 【参照2000ありがとうございますっ!!】 ( No.232 )
- 日時: 2013/08/17 23:58
- 名前: Cheshire (ID: f7CwLTqa)
更新が遅れてしまい、本当に申し訳なく思います!
いや、ほらあれです。
学生にとって夏休み残り1,2週間というのはあれです。
・・・すいません、宿題が終わってないのです。馬鹿でごめんなさい。許してください。1発ずつ殴っていいのでお願いします。あぁ、でも痛いのは嫌いなのでやっぱりやめてください。我儘でごめんなさい。
というわけで、焦りながらも更新いたいますですっ
ただ何と言うか・・・禍々しい、というか、どす黒いというか・・・。
不安や恐怖を掻き立てるような・・・そんな暗い絵だった。背筋が凍るような、冷や汗をかくような。そんな、おぞましい絵だ。
少女の目線は全くこちらに向かっていて、苦しみにも、哀れみにも、妬みも、恨みも、そういう負の感情を含んでいるとにかく見つめて欲しくないものだった。なのに、どこか優しさや愛しさも混じっているようで不思議な感覚に捕らわれた。
「・・・何これ?」
「さぁ。こういったものは書いた本人にしか本当の趣旨は分かりません」
確かにある種の才能だとは思う。た、これを中年のおっさんが書いていたとしても、はっきり言って気持ち悪い。
ふと気付くと、その絵は少し端が破れていた。
「何で破れてんの?」
「これ、黒宮さん・・・って言って分かりますか?まぁ、3年生の方が、授業中に突然先生の前で破ってしまったんです」
黒宮綾。少なからず、俺はその名前に反応した。今のところ、俺にとってそいつは要注意人物だ。
前に理人に彼女のことを聞いたとき、『この間は美術教師の絵を破いたって聞いた』と言っていたことを思い出した。あいつが破った絵って、これのことだったのか。・・・でも何となく、破りたくなるのも分かる。
「熊谷先生それ以来、こうじゃない、こうじゃないって呟きながら何度も何度もこの絵を書き直すようになって・・・」
・・・“こうじゃない”。
ちぐはぐの少女を書きながら“こうじゃない”と呟いて、書き直す。
1人の少女を完成させるために、何度も想像しながら絵に記す。
俺は思い当たる節があることに気付いて、首を傾げて熊谷の絵を見つめる彼に声をかけた。
「悪い、俺もう帰る。今日はありがとな」
「あ、はい。分かりました、お気をつけて」
突然来て突然帰るなんて失礼な奴だとは思うけど、この際仕方がない。俺は美術室を出て、とりあえず昇降口へ向かった。
まず、空悟たちと落ち合う必要がある。今聞いた話をあいつたに伝えないと。メールは送ったから、大体の状況はあいつらにも伝わってるはずだが、話し合いはメールではできない。
彼・・・蓮井凪には悪いことをしてしまった。今度ちゃんと謝礼をしないといけないと思う。
だが少しだけ気になることもあった。
蓮井凪が今回俺に伝えてくれた情報は、全部で3つ。
昨日の天内小夜が拉致される際の状況。証言。
あとは、パンのこと。そして熊谷の絵のこと。
全て今回の事件に関係し、そして現在において重要な情報ばかりだった。
ここで思うことはただ1つ。
都合がよすぎる。
そもそも文化部が休みの水曜日に美術部の蓮井が先生の手伝いという名目で学校に残っていることから、俺にとって都合がよすぎているのだ。そう思うと、全てが怪しくなってくる。
もしかして俺は蓮井、または誰かの策略に踊らされたのではないだろうか?まぁ、そのおかげで今回の鍵を手に入れたのだから、別に怒ったりはしないのだが・・・何か腑に落ちない。
俺の性格が捻くれてるからかもしれないが、そう思えるほど俺はさっき蓮井に流されていた。
そんなことを思いながら、俺は校舎を出た。
***
「悪い、俺もう帰る。今日はありがとな」
「あ、はい。分かりました、お気をつけて」
アウトロウの新メンバー矢吹真夜さんが、美術室を出て行った。
数秒間、矢吹さんが出て行ったドアを見つめたあと、僕は小さく溜息をつく。
机の上に微妙に残った備品を片付けて、僕は多分今までと変わらない様子で美術室の後方のほうへと足を運んだ。
一番隅の机の下を覗き込むような体勢を取りながら、言葉を発しようと口を開く。
「僕の演技はどうでしたか?」
電気が届かないため机の下は少し暗い。そして何より狭い。そんな小さな隙間に身体を埋めていたのは、誰であろう灯ちゃんの姿だった。長い黒髪と折れそうなほど細い体が、より小さくなってその場に入っている。かくれんぼをしている子供みたいだった。
名前を呼ばれて埋めていた顔をあげた彼女は、ギッと僕を睨む。
「下手。絶対怪しまれたわ」
そう言うと、机の下からするりと抜けるように出てきて、きつかったみたいで身体を伸ばす。僕も相当小柄なほうだけど、灯ちゃんはそれより小さい。
「そう言うなら、灯ちゃんが言えばよかったのに・・・」
また睨まれる。
灯ちゃんが言うように、矢吹さんが気付いているのかは分からない。
けれどついさっきまで僕が矢吹さんに流していた情報は、全て灯ちゃんの指示だった。
そもそも昨日のメールも灯ちゃんから言われたからだ。自分ではみんなに天内小夜のことを言えないから、代わりにあいつに連絡しなさい、と。すぐにあいつというのが阿九根さんだということは分かったし、言われる通りにした。そのあと、昨日の犯行現場状況も伝えてほしいと言われ、消しパンのことも僕より灯ちゃんのほうが早く気付いた。このパン凪も持ってるわよね、と尋問されるように。
熊谷先生の絵を見せたことは僕の勝手な行動だけど、今日の僕の動きはほとんど灯ちゃんが指示していたと言っていい。
灯ちゃんはアウトロウのメンバーとはあまり上手く行っていないらしい。まぁ、大体予想はつく。
けれど、アウトロウの仕事はきちんとこなす。
実際、表向きに動いているのは阿九根さんとか・・・葉隠さん、と言ったかな?そういった表に立つ人たちのほうが、アウトロウとしての動きは目立つ。それこそさっきの矢吹さんのように。
でも灯ちゃんは口だけじゃない。ちゃんとやることはやるし、みんなのことも考えている。
大方今回のことも、自分からみんなに言うより、僕という一般生徒からの情報としたほうがみんなが信じやすいと、そう判断したのだろうと僕は思っている。
自己中心的な考えが目立つ言動が多いのは確かだし、本当にそうなのかもしれないけど、灯ちゃんは周りにいつも気を配っている。根は優しい子だから。
なんというか、素直じゃないというか。捻くれているというか。
「それにしても、今回はいつもより積極的だね」
「馬鹿言わないで。これ以上私の時間をとられたくないだけよ」
「・・・夜?」
無言で肯定を促す灯ちゃんに、つい僕は息を呑んだ。
「今まで通り、辻褄あわせよろしくね」
灯ちゃんは毎晩どこかにでかけている。
理人さんには僕の家と言っているようだけど、本当は、僕の家になんて来ていない。
でも、灯ちゃんはどこに出かけているのかを僕に教えてくれない。前聞いたことがあるけど、遠まわしにスルーされたので一切触れないようにしている。
それから灯ちゃんは美術室を歩き回り、美術部員の作品の中から1つ指差して僕のほうに振り向いた。
またか・・・と僕は悟った。でも、だからといって逃げられない。
「凪の、これ?」
「・・・う、ん」
僕の返事を聞いて、不気味に笑った灯ちゃんは躊躇なく僕の作品を手に持ち、
びりびりびりっ、と絵を破った。
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