コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑬ ( No.170 )
日時: 2016/10/13 10:03
名前: 詩織 (ID: 6kBwDVDs)

「リアンっ?!おい!・・・くっそ、このばっかやろぉ・・・。」
トーヤに支えられながら二言三言言葉を残し、それを最期にリアンはその薄いオリーブグリーンの双眸を閉ざした。


それは、いともあっけなく。

「こんなん・・・、お前、ホントにずりぃよな。」
動かなくなったリアンの肩を支える手に、ぎゅっと強く力を込め、トーヤはその顔を見つめる。

最後まで、分からなかった。分かってやれなかった、彼の想い。
(お前も、苦しんでたのか?)
許せるわけじゃない。
たくさんの罪のない者たちが苦しんで、居場所を失った。
自分も今まさに、誰よりも大切な者を失おうとしている。

それでも。

リアンを憎み切ることができなくて、トーヤは苦し気に唇を噛みしめる。

しばらく頭を垂れて目を閉じた後、ひとつ大きく呼吸をして、すっと立ち上がった。

「俺はいくぞ。・・・じゃあな、リアン。」

そっと横たえたリアンに呟いて、くるりと前を向き、トーヤは駆けだした。
もう、振り返ることはなかった。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜



「・・・リーメイル?」

そっと、呼びかける。

闇に包まれた地下室。

巨大な魔法陣は今や完全に暴走の有様だったが、その荒れ狂う魔力のエネルギーは、魔法陣をドーム状に包む白い光の結界に阻まれ押さえ込まれていた。
制御不能となった魔法陣の魔力は、光に抵抗するかのように暴れまわり、結界の中はまるでひどい嵐のように闇と鋭い色彩の閃光が激しくぶつかり合っている。

それでも、白い光を放つ結界は一切の放出を許さず、むしろ次第にその大きさを少しずつ縮め暴走する黒い魔力を追い込んでいく。

魔法陣の周りには、幾人かの横たわる影も見えたが、トーヤはそれらに視線は向けず、ただ一点を見つめていた。

リーメイル。

結界と同じ、白く清らかな光に包まれて歌い続ける1人の巫女。
その瞳は半分まで閉じられ、意識はすでにここにない。
置かれた美しい人形のように、彼女は動かない。

その形のいい口元だけが微かに動いて、そこから歌が紡がれている。
『眠りの唄』。
暗闇の中で、その歌声だけはひどく神聖に響き、こんな状況であるのに、トーヤはある種敬虔な気持ちさえ感じながら彼女を見つめた。

「手伝いにきたぜ、リーメイル。」

彼女の前に座り込んで。
静かに語り掛けた。

「さすがだよなぁ、お前。こんなとこまで1人でやったんだろ。神殿の皆も、お前を誇りに思うよ。」

彼女は答えない。
トーヤを見ることもない。
けれど構わず、トーヤは続ける。

「安心しろ。俺たちの仲間は皆無事だ。追手はうまく撒いて、今は皆隠れ家いる。お前のおかげだよ。城の奴らも、なんとか避難してるらしい。街を守ってる結界も、お前だろう?」
小さく苦笑が漏れた。
「ったく。1人でそんなに頑張んなよな。お前のことだから、全部、守りたいんだろうけどさ。」

でも、もう俺が来たから。

「いいんだ、1人で頑張らなくても。」


低く、柔らかな声音。

きょとんと眼を大きく見開いて、ほんのりと赤くした顔で、くすぐったそうに笑う彼女の顔が浮かび、そして消えた。

目の前の彼女は、微動だにせず歌い続ける。
今の彼女の世界に、トーヤは映らない。
けれど合わない視線など気にしない様子で、トーヤはリーメイルに話し続けた。

「お前が巫女長になった後、俺も親父に頼んであの部屋に入れてもらったんだ。正式な引き継ぎはまだだったけどな、俺も、古代魔法をどうしても学びたかった。無理やり、あの部屋に入る許可をもぎとった。苦労したんだぜ、説得するの。親父、そういう決まり事にはうるさいからな。知らなかったろ?秘密の特訓だったからな、今バラしちまったけど。」

言いながら、茶色の革袋を取り出す。
中から出てきたのは、手のひらに乗る大きさの幾つかの石。
透明な水晶、淡い桃色の桃花石、白黄色の月光石。
晴れた日の空のような水色や、他にも澄んだ紫や深い緑。

「必死で勉強したさ。強くなりたかったからな、お前より。」

ひとつひとつ丁寧に、自分の周りに並べてゆく。

「早く、強くなりたかった。・・・護れるように、なりたかった。」

代々受け継がれてきた神殿の長の力。
ファリス一族分家の血脈 ーーーー古代魔法を使う力は、トーヤの中にも宿っていた。


「まだ全然、親父にはかなわないけど。それでも、いつか並んで立ちたかったんだ。お前の隣に。」

準備を終えて、苦笑いのようなため息をつき、トーヤは再びリーメイルに視線を合わせる。

「遅くなって、悪かった。護れなくてごめんな。・・・けど。」

胸の前、自分とリーメイルとの間の空間に、右薬指でそっと魔法印を描く。

「お前を1人にはしないよ。ずっと、お前の隣にいるから。」

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑭ ( No.171 )
日時: 2016/09/24 19:44
名前: 詩織 (ID: PSM/zF.z)


---------  まるで、大きな白い龍のようだった。


後に人々はそう語る。

重く真っ暗な空に向かって駆け上がる、真白な輝きを放つ巨大な聖なる龍の姿。

荒れ狂う嵐に向かい、真っ直ぐに立ち上る清浄な光。

闇を払い除けるような力強い光は、まさに伝説に謳われる女神の使い、聖なる龍そのものだった、と -----。



「・・・城が ・・・」

ゾーラは共に避難していた役人たちと共に、茫然と空を見上げた。

ファリスロイヤ城から放たれる光は一直線に天を射し、その光に触れた空の闇はまるで浄化されるかのように次第に消え去ってゆく。

地鳴りと共に、堅固に積み上げられた石がガラガラと崩れていく音が響いた。
長年の栄華を誇った権威の象徴ファリスロイヤ城は、今やその半分ほどが崩壊し、離れた場所から見守る彼らの前でその姿を変えつつある。

崩れ落ちてゆく城を見ながら、ゾーラは糸の切れた操り人形のように、力なく地面に膝をついた。


ーーーーー それから数えて3日間。


街の空を覆う光の結界は、人々を守り続けた。

大地の揺れはゆっくりと収まってゆき、

暗く覆われた空がすべて美しい色彩を取り戻す頃。


空に架かった虹がうっすらと消えてゆくように、そっと、風に溶けて消えていった。






〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


魔法が解ける。

映し出された世界を覆う光が消えると同時に、目の前にあった世界そのものが消えた。

過去の世界。

トーヤたちの、物語。


「これがあの日俺たちと、あの城に起こった出来事だ。」
トーヤの声が、静かに物語の終わりを告げた。

「・・・・・・・・。」
ラヴィンは俯いたまま、顔が上げられない。
固く結んでる唇を緩めれば、思わず涙と声が零れてしまいそうだったから。

トーヤの魔法で見た世界は、まるで自分がそこにいるかと錯覚するほどリアルなもので。
リーメイルの屈託のない笑顔は、まるで自分の旧知の友人のもののような気にさえなった。

(トーヤが泣いてないのに、そんなの、なんか違う。)
そう思って、なんとか留まる。
胸が痛かったから、
ラヴィンは両手にきゅ、と力を込めた。

マリーもそう思っているのか、小さくしゃくりあげながらも必死で泣き声を我慢してる様子だ。
それでも、その大きな双眸からはぽろぽろと涙が溢れ、小さな両手で一生懸命に拭っていた。
その背中を、ジェンは優しい手つきで撫でてやる。

「この後、ファリスロイヤ城は・・あの街はどうなったんだい?」

シルファはトーヤに向き直り、落ち着いた声でそう尋ねた。

「しばらく混乱しただろうけど、そのうち事情が国に届いて役人たちが派遣されたらしい。なにしろ政治の中心である城があの有様な上、城主だったリアンもいなくなったからな。街の連中は無事だったと思うが急な事態だ、リーメイルの結界が発動するまでに街の建物や森のあちこちがだいぶやられてたはずだ。復興には人でも物資も足りなかったんだろう。」

「その、『だろう』っていうのは?そう・・、君はあの後・・」
「『だろう』ってのは、俺は実際その場を見たわけじゃないからだ。」
淡々と、トーヤは語った。

死を覚悟して臨んだ古代魔法。

術式は、リーメイルに自分の魔力を分け与える目的のものだった。
事態が急だった上、魔法陣に魔力を吸い取られ続け弱っていた彼女が、無事魔法を完成させられるように、そして彼女が去った後も、街の結界が暫く持続するように。
その為にトーヤは、自分の全てをリーメイルに捧げる魔法をかけた。

それは予想通り、彼の生きる時間全てを代償とし、彼の命はそこで終わった。

・・・はずだった。

「次に目が覚めたとき俺はこの姿で、この場所にいたんだ。最初はワケが分からなかったよ。死ぬはずだった。いや、実際死んでるんだ、あの事件の時に。」

トーヤは自らの両手を開いたり閉じたりしてみせた。
生身の人間とは確かに違う、その身体。

「それが、その、最初に言ってた『魔法の反作用』ってこと?」
シルファの質問にトーヤは頷いた。
魔法関係の話は、シルファに任せるのがいいだろう。
そう判断したジェンは、マリーとラヴィンの肩にそっと支えながら、彼らの話の聞き役に回る。

「俺の使った古代魔法は、本来ああいう使い方をするものじゃなかったんだ。単発で威力を発揮する術式。それを俺が自己流で半ばムリヤリああして、リーメイルの魔法に連携させた。」
シルファが目をまるくする。
「自己流?あの追い詰められた状況で、新しい術式を?!すごいね。」
「それしか方法がなかっただけだ。まさに、追い詰められてたからな。」
トーヤは肩をすくめた。

「その影響かどうか分からないが、ただ死ぬんじゃなくて、こうして思念体のような形で意識が残ってしまった。ここにいたのは・・なじんだ魔力が濃い場所だったからかな。想像だけどさ。

気が付いてすぐ、俺は街の様子を見に行った。今じゃこの通り、年月とともに力も弱まってここから出ることは出来ないが、初めの頃は結構自由だったんだぜ。もともと思念体だから、意識を集中させてイメージすれば、一瞬で移動もできた。」

街に行ったトーヤが目にしたもの。
それは、自分の知っているあの街とは全く別物のようになった、彼の故郷だった。

「俺はずいぶん長いこと眠っていたようだ。俺の計算だと・・、だいたい100年くらい。」
「ひゃくねん?!」

シルファがすっとんきょうな声を上げた。
驚きすぎて、けほけほとむせている。
ラヴィンもマリーもジェンも、揃ってぽかんとした表情でトーヤを見た。

全員から見開いた目で見られ、トーヤはがしがしと頭をかくそぶりをしながらため息をついた。

「だよな、その反応。俺だって信じられなかったさ。そもそも自分のこの状態だってなんだかわけわかんねぇのに。」
驚きの視線を4人分注がれ、居心地が悪そうに、トーヤは身じろぎした。
そして、続きを話し出す。

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑮ ( No.172 )
日時: 2016/09/26 11:17
名前: 詩織 (ID: m3TMUfpp)


トーヤが古代魔法を使った日。
彼の記憶が途絶えてから目覚めるまで、この世界の時間にしておよそ100年。
その後も含めたら、ラヴィンにとっては気が遠くなるような年月だった。

でもよく考えてみれば。
(そりゃそうよね、私たちにとってのファリスロイヤ城は伝説の残る古代遺跡。トーヤと私たちの間には、何百年もの時の流れがある。)
思念体だからな、あまり時間の感覚がないんだ。
トーヤはそんな風に苦く笑った。


目覚めた後の彼の話をまとめると、だいたいこんな具合だった。

あの後街は大いに混乱し、最終的に国の指導のもと派遣された役人たちによって復興の舵がとられた。そしてファリス一族の納めていた領地は全て、直轄地として国の管理下に置かれることとなった。

事情を聴かれた人々の答え、それは事件の衝撃や恐怖体験、様々な噂や憶測なども入り混じり、役人たちにとってなんとも理解しがたい部分があったようだが、
結局のところ、
『この土地で悪事をたくらんだ魔女とそれに誑かされたファリス分家の跡取りが、邪悪な魔術による反乱を企てた。』
『神殿の信者たちは魔女の魔法で女神エルスを呪う邪教徒として魔女に付き従ったが、女神エルスの加護と城にいた魔法使いルーファスの力によって災厄は祓われ、人々の命は守られた。』
ということで報告書が出された。

人々は魔女が死に災いが去ったことを大いに喜んだ。

神殿は解体され、あとには枯れ野だけが残る。

豊かだった土地は生気を失い、栄えていた街は衰退、仕事を求めた人々は次第にこの土地から流れて行き・・・

トーヤが目にしたのは、見る影もなく小さくなった町と、それでも息を吹き返しつつあった緑の森の姿であった。


「神殿の皆は?」
ラヴィンが尋ねる。
「しばらくここで暮らしてたみたいだ。それから、ここをでて西の土地へ向かった。」
「西?」
「ああ。ルーファスのかけた記憶操作は完全には解けていなかったし、街は混乱状態だ。誤解を解きまた同じように暮らすには、溝が深くなりすぎてた。親父は交流があった遠方の神殿に連絡をとって、そこで受け入れて貰えるよう頼んだらしい。この地で暮らすことは諦めて、皆で西の神殿へ旅立つと・・・、俺宛の書置きが残されてた。もし生きてこれを読んだなら、そこで待っていると。」
「・・・・・・・・。」

言葉を失うラヴィンに、トーヤは敢えて気にしていない風にさらりと話題を切り替えた。

「それで、だ。ここからが核心になる。聞いてもらえるか?」

トーヤの話の核心。
トーヤの『願い』。

------  『頼む。俺に、力を貸して欲しい。』 ------


トーヤの声に滲む真摯な響き、栗色の瞳に宿るすがるような色に、シルファは深く頷いた。


「最近になって、ファリスロイヤ城に近づく奴らがいる。」

トーヤが言った。

「リーメイルが封印した『あの』魔法の力に、気づいた奴がいるんだ。」

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑯ ( No.173 )
日時: 2016/09/27 18:48
名前: 詩織 (ID: m3TMUfpp)


長い、長い時間を経て、彼を縛る魔力も薄れつつあった。このまま静かに・・・この地に眠るんだと、トーヤは思っていた。

なのに。

「最近、頻繁にあの城に出入りしている奴らがいる。」
「ああ。それは」
ラヴィンが気づいたように説明する。

「今の時代ではあの城は古い遺跡になっててね、歴史の研究者たちがよく調査に」
「違う。」
けれどトーヤはきっぱりと言って首を横に振る。

「違うんだ。一般人じゃない、魔法使いだ。」
「・・・え?」

「俺はここから出られないが、俺の魔力はあの魔法で封印された魔法陣の魔力と一体化されてる。だから分かるんだ。誰か、封印された魔力に気づいて、干渉しようとしてる奴らがいる。1人じゃない、複数だ。それも、それなりに力のある魔法使い。」
「学者たちの警護についてる魔法使いたちでは」
「それも違う。」
ジェンの言葉にも、トーヤは首を横に振った。

「そいつらは、今は封印されている魔力に手をだそうとしている。現にあんたたちのくる暫く前、城で魔法を使った奴がいた。護る為じゃない、封印への攻撃魔法だ。その波動は俺にも伝わる、見ることは出来ないけどな。」

4人は顔を見合わせる。

「ねぇ、聞いてもいい?」
ラヴィンがぴょこんと手を挙げた。

「あなたは最初に言ったよね?この魔法の呪縛から、リーメイルさんを解放することが願いだって。」
「ああ。」
「じゃあ・・、リーメイルさんももしかしてあなたみたいに・・?」
「『眠りの唄』はもともと封印魔法だ。対象を消し去るわけじゃない。リーメイルの魔力・・魂は、魔法陣の膨大な魔力と共に、この大地に眠ってる。時間をかけ、いずれは自然の中の大いなる流れに還っていくはず・・それが俺たちの狙いだった。そしてそれが叶った時、」

憂いを帯びた声で、トーヤが呟くように言う。
「あいつは、この役目から解放されるんだ。」

このままいけば遠くない将来、時の流れと共に薄れ、消えていくはずの魔力の溜まり。

なのにどこから嗅ぎ付けたのか、今になってその力に目をつけた者がいる。

「目的は知らない。どこまで何を知っているのかも分からないが、『眠りの唄』は高度な古代魔法だ。もし奴らが無理やり封印を破壊する方法で力を得ようとしているなら、反動で想像以上の被害がでるだろう。それに・・・もし封印を上手く解除して魔力を手に入れたとしたら・・・。」

リーメイルの魔力も、その何者かの手に囚われてしまう。

トーヤの願い。

それは、動けない自分に代わって、ファリスロイヤへの侵入者の意図と正体を探って欲しいということ。
そしてもしその目的が予想通りであったなら、その者たちを止めてもらえないかということだった。



4人は相談をして、今後の方針を決めた。
ここまでの経緯の中で、4人とも気持ちはトーヤの側にあった。
できることは協力したい。

丁度良いことに、ここには魔法の専門家、しかも魔法使いの中でも血統は折り紙つきの彼がいる。
もともとシルファは父ユサファの指示によりこの地に魔法文字及び古代魔法の調査に来ていたのだし、家に帰って事情を話せば協力を得られるかもしれないと言った。
その過程で貴重な古代魔法について知識を得られるなら、それはライドネル家にとっても悪い話ではないはずだからと。


「よし、じゃあそういうことで俺たちは一旦ギリアに帰ろう。」
年長者のジェンが、荷物を背負い直しながら言った。

「まずはシルファにライドネル家への協力を頼んで、その結果次第で俺たちも動けばいい。」
「帰ったらすぐ父上に報告するよ。」
ジェンの言葉にうなずきながら、シルファも言って荷物を手に取った。

4人はトーヤに案内され、来た時と同じように魔法の力で入り口まで送られた。

「何か分かったら、またここにくるから。」
「ああ・・・、頼む。」
トーヤは4人の顔を順番に見て、頭を下げた。

「すまない。無関係なあんたたちを巻き込んで。でも、俺にはこれしか・・」
「大丈夫。」

可愛らしい、それでいて力強い声。
トーヤが視線を上げると、マリーがその大きな瞳でしっかりと彼を見ていた。

「シルファはね、すごい魔法使いなんだよ。それからシルファのおうちは、すごく有名な魔法使いの名門なの。優秀な魔法使いがたくさんいるわ。きっと、なんとかしてくれる。」

よどみなく言い切るマリーの信頼に、シルファは照れくさくもあったけれどそれ以上に嬉しくて、目を逸らさずに彼らのやりとりを見つめていた。

「それじゃ。またな。」
ジェンが片手を上げたのを合図に、それぞれ帰り道を歩き出す。

トーヤは期待と不安の入り混じったような表情で、彼らが見えなくなるまで、そこに立ち続けていた。

ファリスリヤ昔語り外伝  〜 もうひとつの昔ばなし 〜 ( No.174 )
日時: 2016/09/28 10:38
名前: 詩織 (ID: m3TMUfpp)

ファリスリヤ昔語り外伝  〜 もうひとつの昔ばなし 〜



あの日。

最期のファリスロイヤ城で。


尽きようとしているひとつの命があった。



もう身体は動かない。

僅かに残された魔力で、彼は敬愛する兄へと最期の言葉を残す。


もう、自分は会いに行けないけれど。

この心は届くといい。

そう願いを込めて、乾いた唇を微かに震わせる。


世界の誰にも聞こえない、小さな小さな呟き。

魔力を伴ったその言の葉は、小さな鳥の姿となって空高く羽ばたいてゆく。


その姿を見送った彼は、安堵と共にゆっくりと目を閉じた。
黒いローブの下、銀色の髪が広がる。



------  僕はここに眠るけれど、


若者の口元が穏やかな笑みを形作る。


------  どこにいようと、ずっと兄さんを・・・僕らの一族を見守り続けるよ。



       肉体を失っても、あなたたちの目には映らなくなっても

       心はきっと、あなたのそばに寄り添っているから



一族をまとめ、敬愛する兄と共に立ち上げた新たな流派。

更なる飛躍を求めて、止める兄を振り切って出てきたことを今更後悔はしない。


けれど一つだけ・・


------ 急ぎすぎるな、と。必死で止めてくれたあなたを残して逝くことを

      どうか許してください・・・兄さん



彼の命の輝きが、消えようとしている。


------ 僕らの愛する一族を、どうか・・・・





若者は、意識を手放した  -------------------


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