コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 第6章 動きだす歯車③ ( No.35 )
- 日時: 2016/01/19 22:30
- 名前: 詩織 (ID: I4ogAiKW)
『村人が信仰する神の石碑』
そう言われて、シルファとラヴィンはその絵をまじまじと見つめた。
見たことのないような植物や風景のスケッチと共に描かれていたのは、楕円形の平たい石碑のようなもの。
表面には何か彫ってあるらしく、石碑の絵の横になにやら幾何学模様が描かれていた。
「依頼された植物の調査には関係ないんだけどな。」
ジェンがそんな彼らを見ながら言った。
「今回この村から、この花を香料の原料として商品化できないかって相談がきて。社長から頼まれて生態調査に行ってたんだ。」
指差したのは、石碑の隣ページに大きく描かれている赤い花。
「それで森の中を調べてたら、この石碑があってさ。なんだろうと思って村人に聞いたら、そう言ってた。で、ついでにメモして来たんだ。なぁ、マリー?」
言いながら隣のマリーを見る。
マリーは小さく頷くと、思い出したように笑って言った。
「社長さんが、こういうの好きそうねって話したのよね。」
「そうそう、社長もラヴィンも好きそうだって言ってたんだよな、あの時。」
笑いながら言うジェンの話によると、村では昔から土地の守り神としてその神を信仰していて、石碑は村の奥深いところに、いくつか点在しているという。
ずっとずっと昔からそこにあり、いつ誰が建てたのか、その彫られた模様にどんな意味があるのか、知る者は誰もいない。
だがそんなことは関係なく、信仰深い村人たちは、この石碑を大切に祀り、日々神に感謝して祈りを捧げているそうだ。
「古いものとか、謎めいたもの、叔父さん大好きだもんね。私も好きだけど。」
とラヴィン。
その横で、シルファは相変わらずそのページをじっと見つめていた。
石碑の絵・・ではなく、その横にメモされた彫られた模様の方を。
「んんん・・。」
眉間に皺を寄せる彼を見て、ラヴィンが不思議そうに尋ねる。
「どしたのシルファ?なんか気になる?」
ラヴィンの問いかけに、目線を動かさないままシルファは答えた。
「うーん・・。僕、この模様、見たことある気がするんだよなぁ・・」
「本当?!すごい。どこで見たの?」
「いや、それが・・。思い出せないんだよなー。この模様の形、特徴あるよね?なんだっけ、どこで見たんだっけ・・。たぶん、うちの書庫かどこかの文献でか・・。ああ!思い出せない!」
片手で髪をくしゃくしゃとかき上げる。
「へぇ。面白いな。」
興味深そうにジェンが言う。
「ただの模様じゃなくて、やっぱり何か意味があるってことか?文献があるってことは、誰か調べたやつがいるんだろ?」
「や、でもなぁ・・。たぶん、だよ?あーもう、思い出せないー。もどかしい。」
そんなシルファを見てラヴィンがわかるわかる、と頷く。
「もどかしいよねー。こう、喉もとまで出かかってるのにさ、あと一歩がでてこないんだよね。そのもやっと感が気持ち悪いよねぇ。」
でも、と続ける。
「がんばって!シルファ!思い出して!だって気になるじゃん〜!」
シルファの肩をつかんでがくがくと揺する。
「わ、わ。分かったよ、がんばるから!ちょっと、ラヴィン落ち着いて・・。」
言いながらその隣をみる。
すると、その大きな瞳をきらきらさせてじーっと自分を見上げているマリーと目が合った。
まだ自分には慣れてくれていないマリー。
なかなか目を合わすこともできないマリーが。
期待に満ちたくりくりの瞳で自分を見つめているではないか!
(おお!これは仲良くなるチャンスかも!)
シルファは俄然やる気を出した。
「とにかく、思い出せるようにがんばってみるよ。うちに帰ったら書庫も調べてみるから。僕も気になるし。」
ラヴィンを落ち着かせつつ、そう言うシルファにジェンが言った。
「じゃあ俺とマリーはもうちょい詳しくあの石碑を調べてみるよ。まだメインの調査は終了してないし、どうせもう何度か現地へ行かなけりゃならないからな。」
「私も!私も行くっ!」
ジェンの言葉が終わるか終わらないかのうちに、ラヴィンが身を乗り出した。
ジェンが苦笑する。
「言うと思ったよ。じゃあちゃんと社長に許可もらってこいよ。ま、こっちとしても人手は欲しいとこだったし、今回は調査助手としてついてきてもらおうか。」
「やったぁ。楽しみだね。」
にこにこ顔のラヴィンの頭を、ジェンがぺしっと叩く。
「こら、一応仕事で行くんだからな。ちゃんと働けよ?」
「はーい。分かってるってば。」
「ほんとかよ・・。」
そんなやりとりを、シルファは羨ましそうに眺めている。
「いいなぁ。僕も行きたいよ、面白そうだし。」
ルル湖の南側のその村までは、日帰りできる距離ではない。
仕事の内容も考えると、現地で過ごす数日間が必要で。
・・修行中の自分の身では、長期休暇は申請しにくい。
「ちぇ、僕は留守番かー。じゃあその間に、書庫であの模様を調べてみるよ。」
残念そうにいうシルファ。
そんな彼に、いっぱい調べてくるから、帰ったらまた報告しあおうね、とラヴィンが笑った。
- 第6章 動き出す歯車④ 〜ライドネル邸〜 ( No.36 )
- 日時: 2015/06/20 20:37
- 名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)
第6章 動き出す歯車 〜ライドネル邸〜
おみやげだと言って袋を渡すと、中を覗きこんだイルナリアは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、シルファ!とっても美味しそう。」
「ジェイドさんのおみやげだって。姉上好きそうだったから、少し分けて貰いました。」
姉の喜ぶ顔を見て、シルファもにこにこと言う。
イルナリアの部屋、日当たりの良い窓際でお茶を飲みながら、2人はおしゃべりを楽しんでいた。
「ちゃんとお礼を言っておいてね。でもいいなぁ、私も遊びにいってみたい。」
「姉上はお菓子目当てじゃないですかー。」
「だって、下さるおみやげのお菓子、いっつも美味しいんだもの。私いつかジェイド社長と他国のお菓子について語ってみたいわ!」
目をきらきらさせて語る姉に苦笑するシルファ。
「でも、ほんと一度遊びにいくと面白いですよ、あそこは。見たことない品物もたくさんあるし。みんないい人で面白いです。」
「いってみたい!・・でも残念ね、今回はあなたラヴィンちゃんたちと一緒に行けないんでしょう?」
「そう!そうなんですよぉ。」
イルナリアの問いに、机に突っ伏してぐでぐでと愚痴る。
「あーあ。僕も行ってみたかったなぁ。でも何日かかるか分からないし。」
「その石碑に彫ってある模様って写してきたのよね?」
「ええ、これです。」
シルファは自分のノートを姉に差し出した。
「ふぅん。」
ノートを手に取ったイルナリア。
開いているページはシルファが書き写した、ジェンのノートの石碑部分だ。
ジェンと同じく器用なシルファの写した絵と文字を、イルナリアはじっと見つめる。
その横で、シルファは暖かいお茶をすすっていた。
しばらく無言で眺めていたイルナリアが、急にぽつりと呟いた。
「これ、魔法文字の一種じゃないかしら。」
「へ?」
突然の言葉に、呆けた顔をするシルファ。ごくんとお茶を飲み込んだ拍子に、変な器官に入ってしまった。
げほげほとむせこんでいる。
「な、なんですか急に。っていうかやっぱり姉上もその模様見たことありますか?!僕も絶対どっかでみてると思うんですよね!っけほっ。」
お茶にむせながら興奮するシルファに、顎に手を当てて考え込みながら、イルナリアが答えた。
「ええ・・。たぶんうちの書庫のどこかで。」
「やっぱり!」
シルファが目を輝かせる。
けれど、イルナリアは顎に手を当てたまま首を傾げた。
「けど、どういうことかしら?この石碑には文字として文章が彫られているわけではないわよね?」
「・・そうですね。」
イルナリアの言う通り、ノートの中の石碑には、表面に大きな模様のように一つの図形が彫りこまれていて、文章のようには見えなかった。
「これが本当に魔法文字の一種だったとして。何か伝えたかったなら、文章で彫りますよね?言葉で伝える為じゃなくて、この文字の形自体に何か意味があるとか?」
シルファも首をひねる。
「逆に、これを立てたのが魔法使いではない普通の人で、文字として使えなかったとか?」
とイルナリア。
「えー、なんでわざわざこの文字を?あ、その宗教的にこの図形に意味があったとか?」
「ううーん。」
2人で首を捻ったり唸ったりしていたが、結局推測だけでは何も分からない。
「ちょっと書庫で調べてみましょうか。面白そうだから、私も手伝うし。」
「そうですね。お願いします。」
イルナリアが申し出て、二人は書庫に向かおうと席を立つ。
扉を開け部屋をでたところで、遠く廊下の反対側から、話し声が聞こえた。
目をやると、父・ユサファと叔父・ロン、そしてシルファの知らない男が3人で通り過ぎていく。
「誰だ?あれ。」
小さく呟いたシルファの問いに、イルナリアがそっけなく答えた。
「グレン公爵の使いの人よ。」
「姉上?」
姉の言い方がいつもと違う気がして、不思議そうに姉を見る。
「ほら、レイの新しく仕える公爵家よ。最近よく来るの。」
「ああ、兄上の・・。」
言いながらその男に視線を向けた。
三番目の兄・レイが仕えることに決まったグレン公爵家。
その使いということは、兄の仕事の件だろうか。
「でも、兄上いませんねぇ。」
「私、あの人好きじゃないわ。」
突然の姉の言葉にシルファは驚いて姉を見た。
唇をぎゅっと結んで、眉をひそめて男の姿を見ている姉。
「姉上・・。」
びっくりしているシルファに気づいて、イルナリアは少し表情を緩めた。
「あ、ごめんなさい。変なこと言って。」
「いえ、あの・・。珍しいなと思って。」
姉はめったに人の悪口は言わない。
素直で正直な女性だが、理由もなく人を嫌ったりするのは見たことがなかった。
どちらかというとその逆で。
暮らす人間の多いこの家で、特に男の多い中、皆を和ませ、上手く繋げる役目を果たしている。一緒にいる人を楽しませるような会話が得意な女性だ。
だからシルファは余計に驚いた。
「あの人が来るようになってからね、なんだかピリピリしてらっしゃる気がするの、お父様。」
「父上が?」
気づかなかった。姉の観察眼に感心しながら、彼らに目を向ける。
「私に仕事や政治のことは分からないけど・・、あの人がくると、いつもあの3人でお父様の部屋に篭ってしまわれて。やけに長くお話されてるな、と思っていると、出てきたお父様がなんだか難しい顔をしてらして・・。最近特にそうなのよ。」
イルナリアが心配そうに言った。
「なにか、困ったことが起きてないといいのだけど。」
「大丈夫ですよ。」
姉を安心させようと、シルファは明るく言った。
「あの父上が困ることなんて、そうそう起きやしませんって。それに、」
姉の顔を覗き込んで言う。
「父上が難しい顔してるのなんて、いつものことじゃないですか。」
ニっと笑う。
「もう、シルファったら。」
イルナリアも苦笑する。強面の父は確かに気難しい表情が多かった。
ふぅ、と一息吐いて、イルナリアはシルファを見上げた。
「ごめんね、変なこと言って。気を取り直して、書庫にいきましょうか。何か面白いこと、分かるといいわね。」
言って軽く片目をつぶる。
シルファも笑って頷いた。
(良かった。いつもの姉上だ。)
姉の話が気にならないわけではなかったが、それでもあの父の手に余る事態など、シルファには想像できない。
そのくらい、父親を尊敬していたし、信じてもいた。
きっと兄の務めの件で何か話し合いがあったんだろう、そう軽く考えをまとめて、シルファはイルナリアと共に書庫へと向かった。
- 第6章 動き出す歯車⑤ 〜ライドネル邸〜 ( No.37 )
- 日時: 2015/06/11 22:33
- 名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)
「今のがご息女と、四番目のご子息ですかな?ユサファ殿。」
歩きながら問う男の言葉に、ユサファは表情を変えず淡々と言った。
「そうです。娘イルナリアと、レイの弟であるシルファ、四男です。」
「なるほど、噂どおりご立派なお子様方で。」
男が薄く笑う。
ほめ言葉のようでいて、しかしまるで心のこもっていない言い方だった。
「そんなことはありません。娘は体が丈夫ではありませんし、シルファもまだまだ修行中の身。」
「しかし、ご息女は美しい。」
ぴくり、とユサファの眉が上がる。
立ち止まり、無言で男を睨む。
そんなユサファの様子を見て、男はおどけたように言った。
「ああ、すみません。あれほど美しく、そしてライドネル家のご息女とあればさぞや良いお輿入れ先候補がおありかと思いまして・・例えば、どこかの公爵家のご子息など・・いかがですかな?。」
「・・・何が言いたい。」
剣呑な空気を孕んだユサファの視線に、男も視線を返す。
・・長いようで短い数秒間。
男のほうが先に力を抜いた。
肩をすくめて、再び歩き出す。
「いや、失礼しました。今回の話とは関係ありませんね。いずれまた、機会があれば。」
「・・・・。」
強張った表情のまま、男から視線を外すと、ユサファも歩き出す。
黙って2人を見ていたロンも、それに続く。
「今回は、我々は同士。これからお互い協力しなければなりませんから。・・あのご子息、シルファ殿にも、ぜひご助力いただきたいですな。」
「必要とあらば。」
表情をもとの淡々としたものに戻し、ユサファは答える。
「それは頼もしい。ぜひとも、よろしくお願いしますよ、ユサファ・ライドネル殿。」
男は口の端だけで笑った。
- Re: はじまりの物語 ( No.38 )
- 日時: 2015/06/09 22:10
- 名前: せいや (ID: G1aoRKsm)
毎回コメまじありがと(^^)
凄くわないさあ。
俺的に しおりも上手だと思うよ!
緊迫かんの出し方とか みんなで親密に話し合ってるところとかね^_^
おれは大人数の描くの苦手だからさあ。。
一応頑張ってみるwあ。でも厨二病的な技とかは期待しないでw
- 第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜① ( No.39 )
- 日時: 2015/09/08 21:45
- 名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜
軽いノックの音と共に、部屋の扉が開かれた。
久しぶりの研究室は相変わらず不思議な香りが漂っていて、たった一週間ではあるけれど、なんだか懐かしい気さえする。
帰ってきた友人たちと早く話がしたくて、無意識のうちに小走りになっていたシルファは、息を整えながら部屋に入った。
部屋に置かれたテーブルにお茶のカップを並べていた赤毛の少女が、彼に気づいて顔を上げる。
今日は可愛らしいカチューシャをつけ、下ろしている髪がさらさらと揺れた。
「あ!いらっしゃいシルファ。」
「こんにちは。おかえり、ラヴィン。楽しかった?」
満面の笑みでシルファを出迎えたラヴィンに、シルファも笑って言った。
「うん。ただいま。すっごく楽しかったよ。いっぱい話したいことあるんだ!今日は時間大丈夫なの?」
「うん、ばっちり。午後は休みだから。僕もさ、報告したいことがあるんだ!ジェンとマリーは?」
お互い早く喋りたくてうずうずしている2人の耳に、奥の部屋から声が聞こえた。
「ここだ、ここ。」
奥にある寝室から、仕切りの布をくぐって出てきたのはジェン。
続いてまだ少し眠たそうなマリー。
仕事の旅から帰って来たのが昨日だから、疲れも残っているんだろう。
ジェンのほうはそうでもなかったが、荷物の片付けをしていたらしく、やれやれやっと終わったと一息つきながら、席に着いた。
「で?どうだった?シルファ。何か思い出したの?」
皆が席についたところで、身をのりだして急かすように聞いてきたのは、もちろんラヴィンだ。
待ちきれないという顔をしている。
「うん!」
勢い良く答えて、シルファが話し始めた。
「あれから家で姉上と話してたらさ、姉上も見たことあったんだよ、あの模様。やっぱり家の書庫で!」
「へぇ!」
ラヴィンが目を輝かせる。
「それで一緒に書庫に行っていろいろ調べてさ、見つけたんだ、その文献。やっぱりあれは魔法文字だよ、それも相当昔の。」
少し得意げに、シルファは言った。
「まほうもじ?」
初めて聞く言葉に、マリーが首を傾げる。
きょとんとした表情がなんとも可愛い。
そんなマリーにシルファは嬉しそうに笑って解説した。
「うん。魔法を使える人が使う文字。それ自体に魔法の力があって、術式をモノに書いて魔法を発動させたり、魔法使い同士の連絡に使ったり。魔方陣にも使われてるしね。だから・・、あの石碑には、何か魔法的な意味合いがあったんだと思うんだ。」
そう言うシルファに、話を聞いていたラヴィンは何か考え込むように聞いた。
「魔法使いの文字かぁ。・・それって普通の人にも使えるの?魔法の力とか、知識がない人・・。」
「ううん。その文字を使えるのはあくまで魔法の力を持つ人だよ。そうでない人にとってはただの図形だね。・・どうしたの?」
うーん、と考え込むしぐさのラヴィンを、シルファが覗き込む。
そんな2人を見ながら、ジェンが口を開いた。
「ラヴィンの疑問は分かるよ。あの村にはだいぶ長いこと、魔法使いは居なかった。そもそも、魔法って概念すらよく分かってないような、小さな村だったもんな。もしこの文字が魔法文字で、魔法使いしか使えないってんなら・・・」
机に置かれたノートをめくって、あの絵のページを開く。
「そんな村になんでこんなモノが置かれてるのかってことだろ?」
「そうなんだ?」
シルファが3人を見渡して言った。
「うん。」
ラヴィンが頷きながら、曖昧な表情で続ける。
「私たち、仕事の合間に村の人たちにもいろいろ話を聞いたんだよね。小さな村でね、もちろん村人の中に魔法使いはいないの。たまーに旅の魔法使いが立ち寄ることが、あったりなかったり・・。」
「つまり、村の年寄りの記憶にうーっすら残ってるくらい昔に、そういや居たかなあ、くらいな。」
ラヴィンの説明に、ジェンが苦笑しながら補足する。
「そんな村だから、そもそも魔法って概念がないんだ。たいていの村人は魔法なんて見たことないしな。だから石碑に彫られてる図形・・文字、か?それについても知ってる人間はあの村には居なかったよ。」
と肩をすくめた。
「素朴っていうのか、素直で信仰心が厚い村だからなぁ、代々守られてきた石碑は村の守り神のものとして大切に残されてきたみたいだけど・・。それがどういったものかとか、何が描かれてるんだとかは・・、あんまり疑問に思ったことはないらしい。」
「そうするとさ。」
珍しく口を挟んだのはジェンの隣に座るマリーだ。
「気になるわよね、なんの為に立てられたのか。神様を奉るだけなら、魔法文字じゃなくたって、普通の文字でいいじゃない。どうせ村の人には分からないんだから。本来の用途はなんだったのかしら。魔法使いの居ない村で、意味も伝えられていなくて・・だったら今は何の役にもたってない、ただの石よね?」
「ただの石って・・。お前、そりゃ言いすぎだろ、仮にも村人にとっては崇拝する守り神なんだからな。」
マリーのバッサリ言い切る言葉に、ジェンが苦笑いする。
ところが。
「うーん、でも、マリーの言うことも一理あると思うんだよなぁ。」
意外な答えが返った。
片手で頬杖をついて、考え込むようにノートを見ていたシルファだ。
「一理あるってどこが?」
「ん、村人にとって今はただの石かもしれないってとこ。」
ジェンの問いに、目線だけ上げてシルファが言った。
さらっと言われたその答えに、えぇ〜、とラヴィンが眉毛を下げる。
「村の人たち本気で信じてる神様なのにぃ。それはなぁ。」
だってだって、村のひとたち、みーんな心底信じてるんだよ?
おばあちゃんなんかさ、毎日広場の石碑の前でお祈りしたりさ、
おじいちゃんなんてさ、自分のおやつ、石碑の前にお供えしたりさ?
・・非難の色が含まれる声に、シルファは慌てて首を振る。
「い、いや、そうじゃなくて。あのね?神様とか、信仰してることとか、それはもちろんあると思うよ、うん。大切だよ、ほんとに。もう絶対。」
なにやらあわあわと言い訳めいているが、顔は必死だ。
「そうじゃなくて、この石碑に関してさ。僕と姉上が2人とも、気になってることがあるんだ。でもこの一週間じゃ、まだ調べきれなくて・・。それ考えてたら、その村人の信仰する神様の件と、この石碑って、別物じゃないかって気がして。」
「別物?神様に関係ないってこと?」
まだうっすらと不服そうな表情を浮かべているラヴィン。
そんな彼女をなだめようと、シルファは必死な顔のまま続けた
。
「そう、そうなんだ。村の人が信じている神様はそりゃ素晴らしくてきっとずっと村を守ってくれてるんだと思うよ、うん。でもね。」
こほん、とひとつ咳払いをして、3人を見回した。
「全く関係ないのか、少しは関係しているのか、そこまでは僕には分からない。
けどこの石碑に関してだけ言うなら、やっぱり魔法がらみだと思うんだ。なにかの魔法が、この村にかかってる。いや、かけられてる?っていうのかな。」
そう言ったあと、足元の自分の鞄をごそごそといじる。
「書庫の本は持ち出し禁止だからね。僕と姉上が気づいたこと、まとめてみたんだ。」
鞄から取り出した一冊のノートを机に広げると、自分を見ている3人に差し出した。
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