コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 第12章 『魔女の棲む山』 〜森の中の急襲〜 ( No.75 )
- 日時: 2015/10/08 20:49
- 名前: 詩織 (ID: r5VGwxxq)
「よく気づいたな。」
がさりと茂みを揺らし、2人の正面側から男が姿を現した。
それが合図のように木の陰や草むらから、がさがさと音を立て、幾人もの男たちが現れる。
「こんなところにいやがったのか。探したぜ。」
怒りを押し殺したような、低い声が響く。
その目は2人をきつく睨みつけていた。
他の男たちも同様だ。
「何のことですか?僕たちに何か用でも?」
構えの姿勢をとったまま、シルファは静かに問う。
シルファのその問いに男はカッと目を見開くと、持っていた棒のようなものを地面に叩きつけた。
「用だと?!ふざけんじゃねぇ!俺たちの荷物はどこだ!さっさと返しやがれ!」
「?荷物?何言って・・。」
「うるせぇ!ここまできてしらばっくれる気か!あんだけ痛めつけられて、こっちがその銀の髪、見忘れるワケねーだろ!」
シルファの言葉を遮って、別の男が叫んだ。
周りの男たちも皆、一様に殺気立っている。
(どういうことだ・・?)
シルファは眉をひそめる。
荷物?返す?
そう言われても、まったく身に覚えがない。
けれど、男たちの殺気は本物だ。
ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきそうな顔で、睨みつける目は血走っている。
(銀の髪って・・。)
隣に目をやると、ラヴィンも同じように困惑した顔でこちらを見ている。
シルファは視線を前方の男に向けなおすと、再び口を開いた。
「人違いではないですか。僕たちはただの旅人で、言われていることに全く身に覚えがありません。落ち着いて話を・・」
「まだ言うかっ!」
男が叫び、武器を構えた。
——— 構えながら。
ふ、っと視線が動いたのを、ラヴィンは見逃さなかった。
「ハッ!」
素早く体を翻すと、同時に、大きく右足で蹴り上げる。
後ろ側の木の陰から音もなく飛びかかってきた男たちのうち、1人の胸辺りに命中し、男は呻いてうずくまった。
そのままもう1人の腕を捕まえて、勢いのままひねり上げると、男は悲鳴を上げて地面に膝をつく。
「ラヴィンっ?!」
「平気!シルファ、前見てっ。」
ラヴィンの身軽さに虚をつかれた男たちだったが、怒りが頂点に達したのか、それともヤケでも起こしたのか。
1人が「うおぉぉ!」と叫んで手にした武器を振り上げると、他の男たちも皆何かを叫びながら一斉に2人めがけて襲いかかった。
「あいつらを捕まえろ!積み荷を取り返せ!!」
怒号が飛び交う。
「っくっ!」
倒した2人を放り出して、ラヴィンが男たちを迎え撃とうと構えた時。
ぐっと腕を掴まれ、後ろに引っ張られた。
「わわっ。」
「下がって!」
シルファは自分の後ろ手にラヴィンを庇うと、もう片方の手を大きく振り上げた。
- 第12章 『魔女の棲む山』〜森の中の急襲②〜 ( No.76 )
- 日時: 2015/10/07 23:07
- 名前: 詩織 (ID: /BuoBgkT)
ふわり、と。
銀色の髪が風を孕んだ。
一陣の風がシルファを包み込み、足元から空へと駆け抜ける。
上着の裾がはためき、静かに瞬きをした。
それが合図かのように。
「うわぁっ。」
「っ?!」
男たちの悲鳴が上がった。
小さなつむじ風たちが、あちこちで木の葉を巻き上げ、彼らの足をすくう。
それとともに土埃が舞い、男たちは思わず武器を放り出すと、手で顔をかばった。
シルファの後ろから覗くラヴィンも、思わず目を細め、両腕を顔の前で交差させる。
風はもちろんこちらを襲って来ることはないが、その余波は彼女の髪や身体を煽り、赤い髪を空へと巻き上げた。
ヒュォォと唸り声を上げ、風は男たちに襲いかかる。
「くそぉっ。」
魔法の風に翻弄されていた男たちは、いつの間にか、1本の大きな木の根元まで追い詰められていた。
たまらず、その大樹の根元にしゃがみこむ。
そのタイミングを見計らって、シルファの手が、呟きとともに空を切った。
シュッと音を立て、風が、男たちを取り巻く。
風圧で、辺りに舞い散る木の葉。
「うおっ?!なんだこりゃー!」
「どうなってやがる?」
「おい!離せよっ!」
「いてーって!お前こっちくんな!」
シルファの手の動きに合わせて、男たちは木の幹から身体が動かせなくなっているのに気づき、口々に叫び声を上げた。
まるで、目に見えないロープで縛り付けられているようだ。
「くそ、俺らもかよっ。」
ラヴィンは足元からした声に目を向ける。
先ほど倒した2人も同じように身体の動きを制限されているようで、ジタバタと必死にもがいていた。
・・・しばらくそうして各々叫んでいたが。
やがて、そこから抜けるのは無理だと悟ったのだろう。
荒々しかった怒りの声も、次第に小さく収まっていった。
「・・・・ふう。」
大人しくなった男たちの様子を見て、
シルファは大きく息を吐くと、上げていた腕を下ろす。
と同時に、風が、パタリと止んだ。
肩の力が抜け、引き締められていた表情が緩む。
(あ、いつものシルファの顔だ。)
横から彼を見上げて、緊張していたラヴィンは、なんとなくほっとした。
そのまま自分も深呼吸すると、改めて、襲ってきた男たちに目を向ける。
疲れたような顔つきの男達には、先ほどのような殺気立った様子はない。
男たちは最初こそ暴漢のように見えたが、落ち着いて見てみると、見た目はごく普通の村人のような格好をしていた。
手にしていた武器も、よくよく見ると大きなスコップや木の棒、工具など、およそ戦う為の武器とは言い難いようなものばかりで。
(だからシルファ、怪我させるような強い魔法、使わなかったのね。)
そう考えながら、ラヴィンはふと、あることに気づいた。
(あれ・・?)
「ねぇ、シルファ。この人たち・・。」
「うん。」
シルファはラヴィンに頷くと、男たちの方へと進み出た。
「手荒なことをしてすみません。」
男たちのいる木の根元まで歩くと、シルファはしゃがみこんで、彼らに目線を合わせた。
「落ち着いて、お話をうかがいたくて。」
穏やかな声で話しかけられて、男たちは面食らったような顔をする。
よほど予想外だったのだろうか、置かれている状況も忘れたように、シルファを凝視した。
思い描いていた敵と目の前の少年の雰囲気のあまりの違いに、すっかり毒気を抜かれたようだ。
そうして、仲間同士困惑したような顔で、お互い顔を見合わせる。
リーダーらしき男が代表して口を開いた。
「・・あんたは・・」
「僕はシルファ。こっちは仲間のラヴィン。この先の村に滞在している旅人です。どなたかと人違いのようですけど・・」
そこまで言って、男の服の襟元から覗く包帯に視線を向けた。
「・・その怪我は、その『銀の髪』の誰かに?」
シルファの言葉に、男たちの顔が強張る。
「ああ。」
リーダーの男がぶっきらぼうに答えた。
————ラヴィンとシルファが先ほど気づいたこと。
襲ってきた男たちは、あちこちに怪我の手当ての跡があった。
巻かれた包帯や打ち身の跡などを見れば、それが比較的最近のものだと分かる。
『あんだけ痛めつけられて、こっちがその銀の髪、見忘れるワケねーだろ!』
あの言葉と合わせると、なんとなく、話が見えてくる気がした。
「俺たちは、山向こうにある町のもんだ。鉱山からでる石が町の主産業で、その荷運びの仕事をしてる。近頃うちの積み荷を狙った賊がでやがってよ。何度か襲われてやり合ってんだ。つい最近も奴らに襲われて・・。」
「その怪我は、その時に?」
男は渋い顔で頷いた。
((やっぱり。))
シルファとラヴィンは顔を見合わせた。
「それでなのね。荷物を返せ、って。」
ラヴィンが合点がいったというように頷いた。
それを聞いて、それまでシルファしか見えていなかった男が、妙にほけっとした顔でラヴィンを見上げた。
「・・『なのね』?」
「ん?なによ?」
男の間の抜けたような様子に、ラヴィンは当惑して男を見つめる。
男の視線はしばらくの間、ラヴィンの頭からつま先までを行ったり来たりしていたが・・。
「ぶはっ。なんだ、おめぇー女か。」
「!!な、なんですってぇ!」
突然気が抜けたように男が笑い出すと、さっきまで険悪だった他の仲間たちも、一緒になってざわつき始めた。
「なんだよ女かー。」「あいつじゃないじゃん。誰だよあいつらだっつったの。」「お前だろ」「ちげーって。」それぞれ勝手なことを言い合っている。
(あいつ?じゃあ銀の髪だけじゃなくて、赤毛の仲間もいたってことか?)
シルファは考える。
が、ラヴィンにとって今はそんなことどうでも良い。
「ちょっとぉぉ!?どういうこと!?どう見たって女の子だっての!あんたら目どうかしてんじゃないのっ?」
今にも男に掴みかからんばかりの勢いで憤慨するラヴィンと男の間で、シルファは必死にラヴィンを止めた。
「ラ、ラヴィン、落ち着いて。大丈夫、ラヴィン可愛いよ!今はその格好だからさ、ねっ。」
「うう〜〜。」
納得いかないラヴィン(意外と乙女な16歳)を宥め、まぁまぁと笑ってみせる。
「とりあえず、話進めよう?ね?」
「〜〜。分かった。」
むくれた顔のままの彼女を、なんとか引き下がらせて。
ふぅ。
さっきとはまた違うため息をつくと、シルファは男に向かって言った。
「続き、お願いします。」
- 第12章 『魔女の棲む山』〜女神エルスの子守唄〜 ( No.77 )
- 日時: 2015/10/07 20:48
- 名前: 詩織 (ID: /BuoBgkT)
「あ!帰ってきた!」
マリーがそう言って、ジェンの服の裾を引っ張った。
ジェンが振り返ると、道の先に小さく、2人分の人影がこちらへ向かってくる。
「ごめん!遅くなって!」
宿の前の薄明りの下、心配そうに2人の帰りを待つジェンとマリーの姿を見つけて、シルファとラヴィンは思わず2人に駆け寄った。
———あの森での急襲のあと。
男達から事情を聞いていたら、いつの間にかすっかり日は暮れていた。
約束の時間はとうに過ぎ去り、2人は星の瞬く夜の道を、とにかく急いで戻ってきたのだ。
「心配したぞ、こんな時間になっても帰ってこないから。何かあったのか?」
2人の元気そうな様子にほっと安堵の表情を浮かべながら、ジェンは2人の顔を交互に見る。
シルファはかいつまんで事情を話した。
「そうか、大変だったな。だからか。そんなに埃まみれになって、どこまで行ってきたのかと思ったよ。」
ジェンは苦笑しながら、ラヴィンの髪に絡んだ木の葉をとって地面に落とした。
「とりあえず、先にお風呂入ってこれば?2人ともすっごく汚れてるわよ。食事はおかみさんに頼んでそのままとっといてもらってるから。ねぇジェン。」
「だな。詳しい話は食べながら聞くよ。」
そう言われて、シルファとラヴィンはお互いを見る。
バタバタしすぎて気付かなかったが、言われてみれば、確かに。
髪は風でくしゃくしゃになっているし、服は砂ぼこりまみれ、おまけにどこで引っかかったのか蜘蛛の巣の糸までへばりついている。
2人、顔を見合わせて苦笑する。
言われた通り、まずは宿の風呂場に向かうことにした。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「ははっ。そりゃシルファも大変だったなぁ。」
ラヴィンが男たちにくってかかったくだりを聞いて、ジェンはマグカップ片手に楽しそうに笑った。
隣に座ったマリーもパンをちぎりながら
「ラヴィンのフォローごくろうさま。」
と続ける。
そのセリフに、シルファは困ったように笑った。
「ちょっとぉ、2人とも?どういうイミよ?」
ちょっぴり不機嫌な声に入り口の方を見れば、風呂上がりのラヴィンが濡れた髪をタオルでふきながら、食堂に入ってくるところだった。
ここは4人の泊まっている宿屋の1階。
古ぼけた木のテーブルとイス。色褪せたチェック柄のテーブルクロス。
そんな小さな食堂のすみっこで、3人は遅い夕食をとっていた。
シルファの隣の席には、もちろんラヴィンの分の食事も並んでいる。
「あのカッコがいけないのよ。動きやすさ重視の旅装束だもん。あーあ、もっと可愛いやつ選べば良かった。」
「でもなぁ。いきなり大の男が2人もふっとばされちゃあ、向こうだって女とは思わないんじゃないか?」
「いきなりじゃないって!向こうから仕掛けてきたんだから!ジェンのばーか!」
「いてっ!おいラヴィン!」
歩いてきたラヴィンが椅子の後ろを通り過ぎながら、ジェンの伸びた黒髪を思い切り引っ張った。
「いってーなぁ、おい。抜けたらどうすんだ。」
「知—らない。抜けちゃえ、ジェンの髪なんて。」
「うわぁ。ラヴィンそれひどい。」
頭を押さえるジェンに、シルファが同情のまなざしを向ける。
「あら。ジェンなら全部抜けたって、自分で毛生え薬くらい作れるんじゃない?大丈夫よ。」
「マリー・・、お前そういう問題じゃないぞ。」
ジェンはうめくように隣のマリーを見るが、マリーは気にしない。
ぱくりとスプーンを口に入れるともぐもぐと口を動かしている。
「あーお腹すいたっと。いっただっきまーす。」
ジェンに八つ当たって幾分スッキリしたのか、ラヴィンは席に座ると美味しそうに夕食をほおばり始めた。
今夜のメインは、大きく切った肉や野菜のごろごろ入った具だくさんのシチュー。
2人が帰ってくるまでにすっかり冷めていたのを、宿のおかみさんが温めなおしてくれて、今はほかほかと湯気がたっている。
ほんの少し肌寒い、山の春の夜にはぴったりだ。
横にはグリーンのサラダ。砕いたナッツが振りかけてある。
そして昼にも食べた粗びき粉のパン。ちぎってシチューに浸せば絶品だ。
「うーん。おいしい。しあわせー。」
ラヴィンは満足気な声を上げた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「それで?」
食べながら、ジェンが話を切り出した
「その男たちを襲った賊の中に銀の髪と赤毛のやつがいて、お前らをそいつらだと思って捕まえようとしたってことだよな?」
「うん。そうみたいだ。背丈も僕くらいだったみたいだし。」
「でも、赤毛がどうこうよりも、とにかく『銀の髪』が印象に残ってたんだろうね。」
シルファとラヴィンの言葉に、ジェンが頷いた。
「分かる気はするな。銀の髪なんて結構珍しいし。現にこの村に来てからだって会ったことないしな。」
すると2人は、なぜか複雑そうな表情を浮かべる。
「ん?なんだ?」
マリーも不思議そうに、2人を見上げた。
「それがね・・。」
言いづらそうに、先に口を開いたのはラヴィンだった。
シルファは、何かを考え込むように口を結んでいる。
「確かに珍しい髪色なんだけど、それだけじゃないの。それだけじゃなくって・・。」
そして、ラヴィンが口にした言葉に、ジェンとマリーも同じように複雑な表情を浮かべた。
「魔法、使ったらしいんだ。その、『銀の髪』の男が。」
- Re: はじまりの物語 ( No.78 )
- 日時: 2015/10/07 21:16
- 名前: ビタミンB2 (ID: fOamwJT9)
参照1000越えおめでとうございます!
シルファ君の重大報告の途中にすいません……。
謎が謎を呼ぶ、とはこの事でしょうか……銀の髪……ライドネル家の人だったり……?
これから、ラヴィンとシルファと仲間たちの敵とかも現れるのでしょうか。
あと唐突な余談ですが、個人的にはラパスさんがお気に入りです。
皆の冒険、とても楽しみにしています。こんな壮大な物語を書けるなんて、とても羨ましいです。クライマックスでも、その後の大団円が来ても、いつでも応援してます。
頑張って下さい!
- Re: はじまりの物語 ( No.79 )
- 日時: 2015/10/07 23:12
- 名前: 詩織 (ID: /BuoBgkT)
>ビタミンB2さん
ありがとうございます!
いえいえ、コメントはいつでも大歓迎です(^^)
嬉しいですよ。
いつもあったかい応援、ありがとう。
おかげで頑張れます。
はい、今後、彼らの『敵』となる立場のひとたちもでてきますよ〜。
謎解きもあり、戦闘もあり。
そしてバラバラだった色んな謎がだんだんひとつに繋がっていき、浮かび上がる真実・・・のように書けたらいいなぁ、なーんて。(理想ですが・・^^;)
ラパスもまだでてきますので、応援よろしくお願いします(笑)
ラパスとシルファの帰り道のシーンは、とっても書きたかったので満足です。
頑張りますので、ぜひ、彼らの冒険を見守ってやってください。
ビタミンB2さんの小説も、楽しみにしてますよ。
私こそ、そのセンス、羨ましいです。
【 読んでくれた皆さま 】
気づいたら本日、参照1024件です。思わず二度見してしまいました。
びっくり。
ホントに感謝です。
書きたい話を書いていて、でも、きっと1人で書いていたらこんなに続かなかったです、絶対。
想像するだけで終わっていた物語を、こうして楽しんで書けているのも、読んでくれる人がいるからだな〜と思います。
しあわせなことです。
自分の中にある書きたいシーンをきちんと書いて、物語を最後まで着地させたいと思ってます。
もう少し、ラヴィンやシルファ、彼らの仲間たちの冒険にお付き合い下さると嬉しいです(^^)
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