コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 ( No.65 )
- 日時: 2015/08/28 14:34
- 名前: 詩織 (ID: cSw9GUzL)
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜
「シルファ、こっちこっち!」
前方から聞こえるラヴィンの声を頼りに、シルファはぼうぼうと生い茂った雑草をかき分けて木立の間を進む。
しばらく行くと急に視界が開け、まぶしい日差しに思わず目を細めた。
鬱蒼とした林を抜けたそこは、小さいけれどきれいに開けた空間になっていて。
声の主である少女はそこで足を止めると、息を弾ませシルファを振り返った。
「お疲れ様っ。ここだよ。」
赤い髪をひとつに括り、動きやすい旅装束姿でラヴィンは笑う。
隣には、彼らの目的のものが立っていた。
マリーの背丈よりも少し低く、平たい楕円形の石を縦に地面に埋めたような形。
村人によってきれいに刈り取られた草地の中に、ひっそりと、その石碑は置かれていた。
「うわぁ、本物だ。・・・あの絵そっくり。」
シンプルな、一見ただの大きな石のようにも見えた。
だがよく見ると、その苔むした表面には何か彫られている。
「・・・・・。」
ゆっくりと、手でなぞってみた。
ざらりとした感触。
石特有の、ひんやりとした温度。
目線を合わせるように、石碑の前にしゃがみこんだ。
彫られているのは確かに、最近何度も何度も繰り返し見てきた、あの魔法文字だ。
「なんか・・、本物見ると、やっぱ違うね。なんかちょっと感動かも。」
触った右手を開いたり閉じたりしながら、視線は石碑に釘付けのシルファを見て、ラヴィンがクスクスと笑った。
「だよね。私も前回初めて見たときそうだったもの。それまで絵でしか見てなかったものが、ちゃんと本物だぁって思って。」
うんうんと大きく頷きながら、シルファは改めてジェンのスケッチの精密さにも感動していた。
彼が描いたノートの中の石碑とそっくり同じものが、目の前に立っていたのだから。
———— ルル湖南側に位置する村、『エイベリー』。
特別な観光名所など何もない、小さく静かな村である。
宿は食堂兼宿屋が一件だけ。
宿屋と言っても、1階が食堂になっていて、その2階の空き部屋をついでに貸出しているという簡素なものだ。
街道からは少し外れるし、旅人などあまりこない村なのだろう。
4人が到着したのは昨日の夕方。
挨拶と仕事の話をする為に村長を尋ねると、大歓迎で迎えられた。
静かでのどかな良い村だが、過疎の不安を抱える村長は、ぜひともあの花の香料で村を活性化させたい!と意気込んでいる。
郷土料理たっぷりの夕食までふるまってくれた。
お腹がいっぱいになった4人は旅の疲れもあり、その夜は早々とベットに潜り込み、あっという間に眠ってしまった。
そして翌日。
朝からジェンの仕事の手伝いをした後、手が空いたシルファとラヴィンはさっそく例の石碑を調べる為、探検に出かけたのだった。
石碑を前にして、シルファはしばらくの間珍しそうに表面に触れたり、いろんな角度から眺めてみたりしていたが、一息つくとさっそく資料を取り出して座り込んだ。
ラヴィンはその隣に腰を下ろすと、一緒に彼の資料を覗き込む。
「まずはここに彫られているのがどの文字になるのか調べたいね。」
「そうだね。シルファはどれだと思うの?」
「うーん。全体の形はこれに似てるんだけど・・。」
文字の一覧の中から、四角っぽい形の幾何学模様を指さした。
「そうだねぇ・・。でもさ、ここ、このすみっこのトコ。ちょっと違わない?」
「だよねー。やっぱこれは違うかぁ。」
石碑はところどころ風化されたり苔に覆われたりして、見ただけでは分かりづらい。
2人はそーっと触ってみたり、視点を変えたりしながら丁寧に観察していった。
「あ、ねぇシルファ!ここにくぼみがあるよ。」
「え?どこどこ?わっ、ほんとだ。あれ?てことは・・。」
シルファは資料に視線を走らせる。
その瞳がきらきらっと輝いた。
「わかった!これだ!」
「え?どれ?どれ?」
顔を上げるシルファにラヴィンが飛びつくように尋ねる。
「ほら、ここ。これと全く同じじゃない?この角とか、ラインとかさ。」
「ほんとだぁ!」
ラヴィンが、まるでなぞなぞを解いた子どものような歓声を上げた。
「ホントにあったねぇ。スケッチだと文字の詳細まではよく分からなかったもんね。」
「よし。じゃあ他の石碑も回って、とりあえず全部の文字を並べてみよう。そしたら意味が見えてくるかも。」
「うんっ。じゃあ、次のポイント、行ってみる?」
ラヴィンの言葉に、シルファは大きく頷いた。
好奇心いっぱいの、わくわくした瞳で。
、
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
第2の石碑は、深い森の中だった。
先ほどの林よりも、さらに鬱蒼とした木々の中。
ほとんど日も差さないような薄暗い場所に、同じように、ひっそりと。
先ほどとは違い、ここは村人でも普段あまりこない場所なのか、人の手が入ったのはだいぶ前のようだ。
伸び放題の植物に半分埋もれるように、静かに、石碑はそこに在った。
慣れないシルファは、木の根に足を取られては引っくり返りそうになったり、ぬかるみで滑って服がどろんこになったり。ひやひやしながら進んでいった。
対してラヴィンはこんなシチュエーションにも慣れっこなのか、ひょいひょいと身軽に進んで行く。
「ちょ、待ってラヴィンっ、うわっ。」
「シルファは魔法使いで体力もあるはずなのにねぇ。」
シルファがずっこけそうになるたび、手を差し伸べて、楽しそうに笑った。
女の子にそんな風に笑われても、情けなくなる気持ちより、ラヴィンはすごいなぁと素直に思う気持ちの方が強くて、シルファは自分でも不思議だった。
兄たちに同じことを言われたら、きっと意地でも手を取ることはせず、無理やりにでも自分で歩き続けただろう。
悔しいとか、情けないとか思いながら。
けれど、どうして今、自分はそう思わないんだろう?
ラヴィンの前では、なぜか背伸びしなくてもいい気がして、素直でいられる。
(そりゃあちょっとは、カッコ悪いかなぁとか思ったりするけどさ。)
ラヴィンに助けられながら、彼女の顔を見る。
「ん?大丈夫?」
小首を傾げて聞いてくるその笑顔は、バカにした様子なんて一切なくて。
ただただ素直にシルファと歩くことを楽しんでいる、そんな笑顔。
シルファはその手を握り返すと立ち上がり、服の裾を払って言った。
「大丈夫だよ。行こう。」
そうして2人は第2の石碑も解読し、続けて第3の石碑を目指した。
- 第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜② ( No.66 )
- 日時: 2015/08/30 22:47
- 名前: 詩織 (ID: pfKTVxMr)
第3の石碑は、川のほとりに立てられていた。
村の中を流れる小川は重要な生活用水にもなっていて、少し離れた下流の方からは村の主婦たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「ひゃあ、冷た〜い。」
おそるおそる川の水に手を浸したラヴィンが、声を上げて手を引っ込めた。
急いで手を拭う。
「うー、じんじんする。川の水はまだ冷たいね。」
言いながら小走りに日向に立つ石碑のもとにやって来た。
手を太陽にかざしながら、資料とにらめっこするシルファに話しかける。
「どう?なんか分かった?」
「うーん。多分、これかな・・。」
シルファは石碑の表面に彫られた部分を手でなぞった。
「ほら、ここ。このくねっとしたラインと凹凸。これと一致しないかな?」
「ええと・・。そだね。このクネクネはこれしかないんじゃないかなぁ。」
2人が顔を突き合わせ、ああだこうだと話していると、後ろから可愛らしい声が2人の名を呼ぶのが聞こえた。
「見つけた!2人とも、ここに居たのね。ジェンがそろそろお昼の休憩にしようかって。これる?」
「ああ、マリー。呼びに来てくれたんだ。ありがと。」
やって来たマリーを見て、シルファは微笑みかけた。
「よくここが分かったね、マリー。」
ラヴィンの問いに、マリーはふふんと笑って答えた。
「さっきこの辺りで洗濯してた村の人が教えてくれたの。お友達を川の辺りで見かけたわよって。」
「ああ、それで。」
2人は納得の表情になる。
「宿のおばちゃんがサンドイッチ作ってくれたから、あっちの野原のほうで食べようって。ジェンの仕事道具、あっちに広げてるから。」
「了解。シルファ、行こ。私もうお腹ぺこぺこ。」
ラヴィンがそう言ってお腹を押さえると、タイミングよくぐぅっと音が鳴った。
3人は顔を見合わせると、プっと吹き出した。
「あはは、僕もお腹すいた。じゃあジェンのとこに行こっか。」
朝早くから動き回っていて、ラヴィンでなくとも皆空腹に襲われていた。
急いで荷物を片付けてカバンを背負うと、自然と早足になりながら、ジェンの待つ野原へと向かって歩きだした。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「で?どうだよ、そっちの首尾は?」
サンドイッチを片手に、ジェンがシルファとラヴィンを見る。
野原の一角に腰を下ろし、4人は宿のおかみさんが持たせてくれたお弁当を広げて昼食をとっていた。
メインメニューは粗挽きの粉で焼いたパンに、採れたての野菜やチーズを挟んだサンドイッチ。
他にもジャガイモを茹でたサラダと果物もつけてくれてあって、ラヴィンは目を輝かせた。
「午前中のうちに、みっつの石碑を見てきたよ。」
シルファが答える。
「ここまでは順調かな。なんとか文字も解読できてるし、できたら午後はもう少し範囲を広げて探索してみたいんだ。ジェンのほうは?」
「ああ、こっちもちょうど面白いとこだ。」
ジェンが辺りを見回しながら言う。
彼らの陣取っている野原には、今回の研究対象である赤い花が一面に咲いていた。
ふわりとした花の甘い香りが、風に乗って運ばれてくる。
「不思議なんだよな、この花。ここらの土地特有の植物みたいだけど、王都では見たことない種類だ。生育条件も変わってるし・・。使い方によっては村の名産として十分商品化出来るだろうな。ま、なんにしても研究者にとってはすげー興味深い植物だよ。」
声は相変わらず落ち着いているが、目がキラキラとしている。
その生き生きした顔を見て、やっぱ研究者だなージェンはとラヴィンが笑い、シルファは自分も石碑の前ではきっとこんな顔してるんだろうなーと思った。
「僕らに何か手伝えることはあるかい?」
「いや。」
シルファの問いに、ジェンは首を横に振った。
「今日のところは俺とマリーがいれば十分だ。そっちは午後も自由行動でいいぞ。春と言ってもまだ日が暮れるのは早いから、夕方は早めに宿に戻ってきてくれ。」
___ 春のはじまり。
季節が冬から春へと移った今の時期、吹いてくる風は優しいものに変わっていた。
晴れた日の昼間なら、こうして外で食事もできる。
心地よい春風が頬を撫で、髪を揺らす。
ついウトウトとまどろみたくなるような、そんな柔らかい春の日差しが、野原の草や花に降り注いでいた。
「うん、分かった。じゃあ午後はちょっと離れたとこの石碑を調べに行こうよ、ラヴィン。」
そう言ってシルファが隣を見ると、ラヴィンが大きな口を開けてサンドイッチを頬張るところだった。
「んん!」
ほっぺたを膨らませ、もぐもぐとそれは幸せそうにパンを頬張りながら、ラヴィンはコクコクと頷いた。
「あ!ちょっとぉ、ラヴィン!あなたサンドイッチいくつ食べてるのよ?私まだ2つしか食べてないんだから!」
ラヴィンの手元を見ながらマリーが叫んだ。
「らってー、おいしいんらもん。」
「もお。ラヴィンのくいしんぼ!」
相変わらずもごもごと口を動かすラヴィンに、マリーがくってかかる。
「あー。平和だなー。」
2人のやり取りを眺めていたジェンは、お茶をすすりながらそう呟き、マリーから「じじくさい」と言われてちょっぴりショックを受けていた。
シルファは空を見上げた。
うららかな春の昼下がり。
青空には白い雲と、鳥が舞っているのが見える。
「よーし。午後も探索、頑張ろーっと。」
楽しげに呟いて、空に向かって思いっきり腕を伸ばした。
- 第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜③ ( No.67 )
- 日時: 2015/08/31 20:50
- 名前: 詩織 (ID: DTH1JhWe)
「ここかぁ・・。」
「・・うん。ここなんだよね・・。」
シルファは目の前にある木で作られた柵と、簡素な作りの入り口を眺めた。
入り口の奥に広がるのは、同じような形に彫られた石が幾つも並べて立てられている光景。
その意味は・・。
「・・墓地?」
「うん。」
2人は顔を見合わせた。
村の家々が集まる中心地からしばらく歩いて、2人は地図でいう村の端まで来ていた。
そこにあったのは、墓地。
今は人気もなくひっそりとしている。
小さいが、やはり特別な場所という空気が漂っていた。
昼間だというのに、高く育った木々に囲まれていてなんとなく薄暗い。
「この中に石碑が?」
「そう。墓地の敷地内の奥側に。」
「あ、そっか。ラヴィンは前回一度来てるんだよね。」
「あー・・。ううん。ここには来てないの。ここはジェンが調べてくれて・・。」
「そうなんだ。」
「・・どうする?」
「どうするって・・行くしかないよね?でも、いいのかな。僕らなんかが入っちゃって。」
「あ、それは大丈夫。事前に村長さんにも許可とってあるし。そうじゃなくて・・。」
「?どうしたの?」
心なしかラヴィンの顔色が悪いように見えた。
妙に歯切れの悪い言い方が気になって、彼女の顔を覗き込む。
「あのさ、私・・。」
ラヴィンが言いかけたその時。
バサバサバサ!っと、大きな音がして、彼らの横にあった木の枝が大きく揺れた。
「っうっきゃあああー!!」
シルファはどん、という軽い衝撃を感じながら、その光景に目を丸くした。
舞ってくる木葉にまみれながら、悲鳴を上げたラヴィンが自分にしがみついてきたのだ。
「ラヴィン?どうしたの?」
「なんかっ、なんかいた!今、なんかいたでしょ?」
しがみついたままの姿勢で、ラヴィンが叫んだ。
「え、なんかっていうか・・。うん、鳥が飛んでったけど?」
「・・鳥?」
おそるおそる顔を上げる。
ゆっくりと辺りを見回すと、そろりそろりと視線を上げた。
2人の目が合う。
頭には振ってきた木葉を乗せたままだ。
「・・・・。」
「・・・ふっ。」
シルファは堪え切れず、大きな笑い声を上げた。
「あっはははは!ラヴィン、君もしかして、幽霊とか苦手なの?」
目に浮かぶ涙を拭って、ラヴィンを見下ろした。
片手は腹部に当てられている。
つまり、腹を抱えて笑っていた。
「もー!!シルファ笑いすぎっ。そうよ、大っ嫌いよお化けなんて!怖いんだもの仕方ないじゃない!悪いっ?私だってねぇ、怖いものくらいあるんだからっ。」
シルファの反応に憤慨したラヴィンはプイっとそっぽを向いた。
「ご、ごめん・・、あはは。」
「全然悪いと思ってないっ。」
シルファの笑いはしばらく収まらず、ラヴィンはぷんすかし続けた。
「ごめんってば。いや、なんか意外で。」
やっと笑いの発作が収まってくると、シルファは言い訳するようにラヴィンを覗き込んだ。
だってさ。
遠い町から、ひとりで何日も旅して王都までやってきて。
柄の悪い男たちに囲まれ、ナイフまで出されても怯むことなく勝気に向かっていき。
足場の悪い森の中でも軽々と進んでいくようなラヴィン。
そういえばここへ来る道中でも、声をかけてきた男たちを軽くあしらっていたっけ。
実際そこらへんの男には負けないほど、強い。
そんな彼女が、まさか。
「お化けが怖いなんて。なんか、可愛いなって思ってさ。」
言いながら、しかし堪え切れずに再びクスクスと笑うシルファ。
言われたラヴィンは、「もう。」とだけ言ってまたそっぽを向いた。
(〜〜〜っ。もぉ!なんでそういうセリフをさらっと言っちゃうかなぁ!シルファってば。)
その顔がうっすら赤くなっていることに、シルファは気付いていない。
ラヴィンに機嫌を直してもらおうと、何度も謝っていた。
「しょうがないなあ。許してあげる。そのかわり、シルファが前、歩いてよね。」
上目遣いに睨まれて、シルファは苦笑しながら言った。
「分かってるって。大丈夫。僕、全然怖くないから、こういうの。あんまり出番ないけどさ、魔法だって使えるんだし。さ、行ってみようよ?」
そういうと、ラヴィンを促して歩き出す。
きゅ、っと服が引っ張られるのを感じて振り返ると、背中の服を両手で掴んだラヴィンと目が合った。
「・・なによ。」
「なんでもない、なんでもない。さ、行くよ。」
珍しく自分が頼られてるのを感じて、シルファはなんだか嬉しかったりしたのだけれど、これ以上ラヴィンの機嫌を損ねてはいけないと、口には出さずに歩いていく。
その後ろに、おそるおそる、ラヴィンもくっついていく。
こうして彼らの4つ目となる石碑の探索はスタートした。
- 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 ④ ( No.68 )
- 日時: 2015/09/08 22:10
- 名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)
「やだやだやだっ!何かいるっ!何かいる何かいる!」
「うぐっ、ちょ、ラヴィン、大丈夫だからちょっと離してっ。首がっ」
ラヴィンが服の裾を思い切り引っ張るものだから、首を絞められたシルファは哀れな声を上げた。
———もう何度目か分からないこの光景。
木々が大きく騒めく度、足元からカサカサと小動物が飛び出す度、
「ひっ。」やら「ぎゃぁっ。」などと叫んで、ラヴィンはシルファの服を引っ張ったり、飛びついて転倒させたりしていた。
その度シルファは必死になだめるのだが、相手はあのラヴィンである。
対抗するにはそれなりに体力がいるということで。
そんなこんなでやっと墓地の再奥地、石碑の祀られている場所まできた時には、たいした距離でないにも関わらず、シルファはすでに疲労困憊の様相であった。
「はぁ。苦しかった。」
「うう・・。ごめんなさい。」
目的地にたどり着いて少し落ち着いたのか、うなだれるラヴィンにシルファは苦笑した。
「僕は大丈夫だけど・・、ホントに苦手なんだね。」
「うん。」
しゅんとするラヴィン。
そんなラヴィンを珍しいなと思いつつ、彼女の肩にぽんと手を乗せて、シルファはその顔を覗き込んだ。
「誰だって苦手なものはあるよ。笑ってごめん。あんまり意外だったからさ。」
「ん、分かってる。ありがと。」
シルファを見上げ、ラヴィンも小さく苦笑した。
「じゃあ、早速ここの文字も調べよう。ラヴィン、早く帰りたいでしょ?」
「うん!でもあの道をまた通るのはちょっと不安だなぁ。」
「はは・・。僕もだよ・・。」
ラヴィンの言葉に、答えるシルファはどこか遠い目をしている。
「シルファ?」
「あ、いや。何でもない。さ、資料資料。」
カバンから荷物を取り出すと、2人は今までと同じように、丁寧に石碑を調べ始めた。
服が汚れるのも気にせず地べたに座り込む。
大きな木々の影になるその場所の地面は、ひんやりと冷たく、日向の暖かさには程遠い。
それでも2人は目の前の石碑の調査に没頭していった。
———— どれくらい時間が過ぎただろうか。
突然、大きな声が辺りに響いた。
「お前たち、そこで何しとる!」
集中していた2人は、そろって悲鳴を上げた。
「うわぁっ!」
「ひいぃっ!」
思わず抱き合って自分を見上げる2人を、老人は訝しむように眺めた。
「なんじゃ、お前ら。こんなとこで何しとる。それは村の守り神、エルス様の石碑じゃぞい。」
立っていたのは1人の老人。
白い髪、白い髭。ぎょろりとした目つきで2人を見ていたが、そのうち思い出したように言った。
「ああ、お前さんたち、村長のとこに来た研究者とかいうのの仲間だったか。そういえば、昨日見かけたな。客人がこんな墓場の奥で何しとる?」
老人の質問に顔を見合わせる2人。代表して、シルファが口を開いた。
「あの、僕たちは・・」
自分たちの目的をかいつまんで話す。
もちろん、村人にとっては崇拝する神の神聖な石碑だ。
魔法絡みの話はあえてせず、ただこの村の神様のことが知りたくて、とかなんとかごまかしながら話した。
シルファの説明を聞き終えると、老人はふむ、とひとつ頷き、2人の隣に腰を下ろした。
持っていた手提げの袋から菓子を取り出すと、おもむろに石碑の前に並べだす。
「エルス様は、わしらの村をずっと昔から守ってくださっとる。わしのご先祖様の時代からずっとな。失礼なことはしちゃならん。聞きたいことがあればわしに聞け。わしが知っとることなら教えてやろう。」
老人の意外な申し出に、2人は再び顔を見合わせたが、同時に頷くと慌ててノートとペンを取り出した。
「「お願いしますっ!」」
- 第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜⑤ ( No.69 )
- 日時: 2015/09/09 22:47
- 名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)
「エルス様はなぁ、そりゃあ美しい女神様じゃよ。」
まるで会ったことがあるかのように、うっとりとした様子で老人は言った。
「え?おじいちゃん見たことあるの?」
「バカか小娘。ある訳無いじゃろが、神様じゃぞ。それにおじいちゃんではない。ノエルさんと呼べ。」
きょとんと聞くラヴィンに、ノエルと名乗った村の老人は顔をしかめた。
「え〜、だってそういう言い方したじゃない!」
「言い伝えじゃ、言い伝え。エルス様はなあ、ずーーーっと昔から、この辺りの土地を守って下さっている女神様じゃ。わしなんか子供の頃からずっと、こうして祈りを捧げておる。」
「へぇ、じゃあこのお菓子もエルス様への捧げものなの?」
石碑の前に並んだ菓子を指さす。
「そうじゃ。やらんぞ。」
ノエルの言葉にラヴィンは目に見えてガッカリとした顔をした。
ペンを握り締めたまま2人の会話を聞いていたシルファ。
開いたノートに『エルス様』、『美しい—・・と書きかけていた手がピタリと止まる。
「え?神様って・・女神さま?女性なの?」
「なんじゃお前、そんなことも知らんのか。」
呆れたようにノエルが言う。
「あ!ごめんシルファ!言ってなかったっけ?私たちも前回の訪問の時村長さんに教えてもらったんだ。」
「そうなんだ。」
頷くと、ノートに美しい女神、と書き込んだ。
「それで、この石碑がいつ頃のものかって、ノエルさんは御存知ですか?」
ダメもとで聞いたシルファの問いに、案の定、ノエルは首を横に振った。
「知らん。そんなことは、村の誰も知らんよ。遥か昔の話じゃ。」
「ですよねぇ。」
シルファもラヴィンも、あーやっぱりなという顔をした。
「そりゃそうじゃ。ずっとずっと昔、わしらのご先祖様がこの土地に住むようになった、それよりも昔の話じゃからなぁ。」
「ふぅん。そうですか。・・・。」
「・・・。」
一瞬の沈黙の後。
「「え?」」
2人同時にがばっとノエルを凝視した。
「な、なんじゃ。」
2人に見つめられ、ノエルは体を後ろに引いた。
「おじいちゃん!今なんて言った?もっかい言って!」
「ノエルさんだと言っ・・」
「ノエルさんノエルさんノエルさん!今のもっかい!」
「わ、分かった分かった。うるさい小娘じゃな。なんじゃ急に。」
ラヴィンに急かされて、怪訝そうな顔でノエルは先ほどのセリフを繰り返した。
「『そりゃそうじゃ。ずっとずっと昔、わしらのご先祖様がこの土地に住むようになった、それよりも昔の話じゃからなぁ。』」
「この村が作られる前から、この石碑はここにあったってことですか?!」
ノエルに掴みかからんばかりの勢いで、シルファは尋ねた。
(だって、もし本当にそうだとしたら・・やっぱりこの石碑は・・!)
逸る気持ちを抑えて、ノエルの返答を待つ。
シルファの形相に押されながら、ノエルはこくこくと頷いた。
「ああ。わしが子供の頃、ひいじいさんに聞いた話だ。ひいじいさんはそのまたひいじいさんに聞いたと言っとった。」
「で、でも、村長さんや村の奥さんたちはそんなこと一言も・・」
ラヴィンが言うと、ノエルはフンと鼻を鳴らした。
「今の若い奴らは知らんのじゃろ。」
「その話、もっと詳しく教えて貰えませんか?」
懇願するシルファに、ノエルはしかめっ面で答えた。
「だいたい遥か昔の話といったじゃろ。記録になんか残っとらんしな。全部言い伝えじゃ。それでもいいのか?」
そう言いながらも、崇拝する女神の話ができるからか、それとも他の村人の知らない話を自分が話せるからなのか、どこかまんざらでもない様子が伺える。
「はい!なんでもいいんです。この石碑に関してなら。伝承でも昔ばなしでも!お願いします。」
「お願いします、ノエルさん。」
シルファの隣でラヴィンも一緒に頭を下げた。
「分かった分かった。最初に聞けと言ったのはわしだしな。知ってることは全部教えてやる。」
ノエルは2人を前に、女神エルスとエイベリー村の石碑について語り始めた。
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