コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
- 第12章 『魔女の棲む山』〜女神エルスの子守唄〜 ( No.80 )
- 日時: 2015/10/18 13:07
- 名前: 詩織 (ID: JFnkbIz5)
そいつはいきなり現れたんだ。
男たちは言った。
黒いフード付きのローブに身を包んだその男は、気配も感じさせず、いつの間にかそこに立っていたんだ、と。
「あの日、俺たちはいつものように鉱山でとれた原石を積んで、町に向かう道の途中にいたんだ。何度か襲われた後だったから、もちろん警戒しながらな。案の定、そいつらに襲われたが、こっちはちゃんと武器も隠し持ってたし、いつもいつもやられてばっかりじゃねえ。俺たちが優勢だったし、今回は勝ったと思ったさ。あいつらが捨て台詞吐いて逃げようとしやがったから、ふんじばって役所に突き出してやろうとしたんだ。だがよ・・。」
男たちの表情に、悔しさが滲む。
「そこに、突然、あいつが現れたんだ。」
彼らの話によれば、奮闘の末、盗賊の一味をあと一歩のところまで追い詰めた。
その時点で荷運びの男たちは、勝利を確信したという。
だが。
「なんだ?おめぇ。」
盗賊たちを羽交い締めにし、いざ縄をかけようと意気込んだ時。
いつの間にか目の前に、1人の男が立っていた。
黒いフードと口元を覆うスカーフのようなもので顔はよく見えなかったが、隙間から覗いた美しい銀色の髪と、同じく銀色の鋭い瞳に思わず息を飲む。
そして。
「っ?!」
———— 最初は何が起きたか分からなかった。
気が付くと仲間は全員、数メートル離れたところに吹き飛ばされていて。
「・・うう。」
「いてぇ。」
突然の体の痛みと仲間のうめき声に、訳も分からず体を起こすと、視線の先には男に庇われ逃げようとする盗賊たちの姿があった。
「おい!待てよ!」
起き上がれた数人が叫んで追いかけようとしたが、駆け出したところで何かに思い切りぶつかり、再び悲鳴を上げてうずくまる。
目には何も見えないが、透明な壁のようなものがそこにあるようだった。
その向こうでは、あの忌々しい盗賊たちが次々と逃げてゆく。
「くそっ!なんなんだよ!」
ドン!と両手をぶつけてみてもびくともしない壁の向こうで、最後に1人残ったフードの男は静かに手のひらを男たちに向けて掲げた。
ざぁぁっと音をたて、吹き荒れる風。
視界は砂埃で遮られて、あちら側が見えなくなる。
・・・次に視界が開けた時。
透明な壁は消えていたが、盗賊たちはもちろん、男の姿も跡形もなく消えていて・・。
「ちくしょー!!」
積み荷も全て無くなっていて、ワケが分からないまま、男たちはただ悔しがるほかはなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・それは魔法、だよな?」
戸惑うように、ジェンが尋ねた。
「うん。十中八九。・・そういう魔法なら、僕も使える。」
視線の先のシルファは、考え込むような表情のまま答えた。
3人は顔を見合わせる。
『銀の髪』『魔法使い』。
この言葉を聞いて思い浮かぶ答えは、3人ともひとつしかなかった。
けれど、それは有り得ない。思い浮かべたのは名実ともに、王都では誰もが認める魔法使いの名家。
こんな山間の盗賊に加担するなど、理由は全くないはずだ。
それに・・。
「シルファの家族や仲間が、こんなとこにいるはずないよ。」
ラヴィンが気遣うように言った。
「そんなことするはずないもの。銀の髪だって、この辺じゃ確かに珍しいけどさ、ちょっと大きな街にいけば、けっこう見かけるよ。」
「そうよね。考えなくても分かるわよね、有り得ないって。何の得もないもの。」
「そうそう。当たり前じゃない!」
「うん。ありがと、2人とも。」
ラヴィンとマリーが一生懸命シルファを気にする様子を見て、シルファは笑った。
「俺もそう思うぞ。単なる偶然の一致だろ。で、お前は何をそんなに考えてるんだ?」
ラヴィンが事情を説明する間、ずっと黙って考え込んでいたシルファに、ジェンが尋ねた。
「ん。僕も、自分の家の人間がそんなことするなんて考えてないよ。でも、魔法使いが町の人に危害を加えてるなら、それは問題だし、帰ったらすぐ報告する。
ただ、間違われれるほど外見が似てるなら・・。しかも同じ魔法使いだろ?噂にでもなれば、父上や兄上たちの仕事に支障がでたら困るんじゃないか、って。もちろん父上も兄上も優秀だから、そんなことで支障を来すことなんてないだろうけどさ。」
それでもやっぱり、いろいろと考えてしまうのだろう。
口数少ないシルファを見て、ジェンは言った。
「お前、先に帰るか?気になるなら早く帰って、そういう奴がいるらしいってことだけでも親父さんたちに伝えといたらどうだ。」
「いや、それはいいよ。大丈夫。」
ジェンの勧めに、シルファは顔を上げると思いのほかきっぱりとした声で返した。
「気にはなるけど・・、すぐにどうこうってことじゃないと思うし。町の人達も領主さんへ調査依頼の嘆願書を提出することも考えて相談中だって言ってたしね。それに、僕は今回、ジェンの仕事の助手として同行させて貰ってるわけで・・。」
「だからそれは、」
「それにね、」
それはいいから、と言おうとするジェンの言葉を途中で遮り、シルファは続けた。
「それに、僕は父上から今回の古代魔法文字の調査を任されてる。正式な仕事ではないけど、これもライドネル家での魔法学には大事なことだから。きちんとやることはやって帰りたいんだ。」
ジェンはシルファの顔を見る。
考えを変える気は、無さそうだった。
(シルファも、こうと決めたら頑固だもんね。)
隣のシルファを見上げながら、ラヴィンは心の中でそっと思った。
「お前がそう言うならな。でも・・、いいのか?悪いけど、さっき言ったように、明日から2日間は集中して実験をする必要があるんだ。石碑の調査と例の坑道の探索は、行くならそれ以降になってしまうけど・・。」
「うん。それでいいよ。約束通り、明日と明後日は、ジェンの仕事を手伝うから。」
「了解。そこまで言うなら、予定通り、全員でやることやって、全員で帰ろう。」
「ありがとう、ジェン。」
ほっとしたように、シルファは笑った。
父や兄からみれば、ただの課題のひとつだったとしても。
(父上から命じられた、ライドネル家の為の、『調査』。初めての調査課題。どんな形にしても、結果はきちんと出したい。)
シルファは、強く思っていた。
それが、父や兄たちに追いつく為の一歩だと。
そう、信じていた。
「あらあら、皆さん、お食事はもう済んだのかい。」
明るい声が響き、4人の座るテーブルに、お盆を手にしたエプロン姿の女性がやって来た。
「あ、おかみさん。ごちそうさまでした。」
ラヴィンが笑顔で返すと、50代くらいのふくよかな女性は柔らかな笑顔を浮かべる。
「どうだい、村の味付けはお口に合ったかい?」
「もちろん!とっても美味しかったです。」
ラヴィンの返事に、宿のおかみである女性は嬉しそうに笑うと、お盆にのせてきたカップを4人の前に並べた。
「はい、あったかいお茶。よく眠れるよ。お嬢ちゃんにはホットミルク。」
カップを手渡され、マリーは小さく頭を下げた。
「ありがとう。」
「はいね。ほれ、お兄さんには風味づけにぶどう酒、垂らしてあるからね。あったまるだろ。」
「ありがとうございます。」
ジェンも柔らかい笑みを見せ、おかみは満足そうに頷いた。
「あれ?」
カップのお茶を飲もうとして、ふとラヴィンが顔を上げる。
そして、きょろきょろと周りを見回した。
「ん?どうした、ラヴィン。」
ジェンの問いに、ラヴィンは首を傾げる。
「今、赤ちゃんの泣き声が聞こえたような気がしたんだけど・・。」
「ああ、そりゃうちの孫さね。」
おかみが笑った。
「半年前に生まれたばかりでね。よく泣くんだこれが。」
あはは、と快活に笑いながら、奥のキッチンの方へ目を向ける。
「今うちの娘・・、赤ん坊の母親があやして寝かしてるとこさ。うるさくて悪かったね。」
「いえ、そんなこと。」
言いながら、ラヴィンは切れ切れに聞こえてくるその声に、耳をすませた。
「・・歌?」
「・・本当だ。」
一緒に澄ませたシルファの耳にも、その小さな歌声は聴こえてきた。
「ああ。これはね、この村に伝わるエルス様の歌。子守唄だよ。」
「女神様の?」
マリーが小さく抑えた声で尋ねると、おかみは頷いて、懐かしそうに言った。
「ああ、私も昔はよく歌ったものさ。娘や息子たちにね。」
「これ・・、歌詞はないんですか?言葉が分からないような・・。聞き取れないだけなのかな。」
「黒髪の兄さん、耳がいいね。そうさ、この歌は今の言葉じゃない。昔から伝わる、どこかの民族の言葉らしいけどね。知らない人間が聞いたら、歌詞のないメロディだけのように聞こえるだろ。あれでちゃんと、意味があんのさ。村の人間たちに伝わる意味がね。」
「へえ。どんな?」
興味津々な4人の顔に、おかみはニっと笑うと。
微かに聞こえてくるそのメロディーに合わせて、彼らに分かる今の言葉で歌いだした。
村の誰もが聞いて育ったという、その女神エルスの子守唄を。
- 第12章 『魔女の棲む山』〜女神エルスの子守唄〜 ( No.81 )
- 日時: 2018/07/14 16:03
- 名前: 詩織 (ID: NOuHoaA7)
眠れ 愛し子 御手の中で
女神は汝に 与え給う
空をゆく風 命の大地
ほのかに香るは 紅き花
女神の瞳の 紅き色
眠れ 愛し子 御手の中で
女神は汝に 与え給う
この世の全ての平安と
全てを満たす とわの愛を
怖れはいらぬ いるは いのり
眠れ 愛し子 その名のもとに
御胸に抱かれ 深き眠りへ
そして ふたたび 目覚める朝まで
女神のうたう 朝の来るまで
- 第12章 『魔女の棲む山』〜密会〜 ( No.82 )
- 日時: 2015/10/23 21:44
- 名前: 詩織 (ID: maEUf.FW)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ラヴィンたちが、エイベリー村で子守唄に耳を澄ませていたその頃。
王都、ライドネル家の一室。
誰も近づかぬようきつく言い渡されたその部屋の中では、3人の男が対峙していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「勝手な行動はしないで頂きたい。」
厳しい口調のユサファを前にして、クロドはうすら笑いを浮かべた。
「申し訳ありませんなぁ、ユサファ殿。うちのバカどもが、ご迷惑を。」
ニヤニヤとした笑みを貼り付けたまま、クロドは口だけの謝罪を述べた。
低姿勢をとっているように見せて、こちらの言い分を本気で聞く気はないような、そんな態度だった。
撫で付けた黒髪に、きちんとしたスーツを着こなした、ユサファと同年代くらいの男。
胸ポケットには白いハンカチ。
襟元にはギラギラと光る宝石の飾りがあしらわれ、ひと目で裕福な立場の人間だと分かる。
————以前シルファとイルナリアがライドネル家で見かけた、あの、使いの男だ。
自分を厳しい眼差しで見つめるユサファと、その後ろに控える弟、ロン・ライドネルを眺めながら、クロドは目を細める。
「・・そうして凄まれると、味方ながら恐ろしいですな。やはりライドネル家現ご当主と弟君ともなれば、貫禄が違う。いやはや、さすが。」
「お世辞は結構。」
ユサファはクロドの言葉をきっぱりと切り捨て、一通の封書を差し出した。
この男と話していても時間のムダだ。
価値を置くものが違いすぎる。
「これを、グレン公爵様に。」
要件だけを、端的に伝える。
それだけで、クロドは理解したようだ。
「承知致しました。」
慇懃無礼ともとれる態度で礼をし手を差し出すと、それを受け取った。
「先日の件につきましては、こちらでも対処策をこうじております。まぁ、そんなにご心配なさらずに。」
「なぜ、」
ユサファの後ろから強ばった声がした。
「なぜそのように笑っておられる?あの時、たまたま私が側にいなければ、貴殿の部下たちは賊として役人に引き渡されていた!もしそこから計画が漏れれば・・・、漏れなくとも、何か人々の興味を引くような噂でも流れれば、気づかれずに事を進めることに支障がでよう!そうなったら・・」
「ロン。」
クロドの態度に思わずいきり立った弟を、ユサファは静かに制した。
普段は冷静に状況を見る彼が、感情的になるのは珍しい。
ロンはまだ何か言いたげではあったが、口をつぐむと大人しく兄に従い、一歩後ろに身体を引いた。
「ですから、大変申し訳なかったと申し上げているのです。部下たちも、私の為になると思って勝手にあんな愚かな行動を・・。」
「———貴殿の指示ではないと?」
クロドを睨んだまま、ロンが再び口を挟んだ。
「あの積み荷の鉱石は、近年、武器への加工原料としても高値で取引されると聞く。貴殿としてはぜひ手にしたいものでは・・。」
「ロン!」
もう一度弟を制して、ユサファはクロドに向き直った。
「弟が失礼した。しかし、どのような理由であれ、計画に支障がでることは極力謹んで頂きたい。盟約を結んでいる以上、我らにも主張する権利はあるはず。」
「それはもちろん。」
クロドは両手を広げ、さも異論はないと言うように、口の端を上げて笑みを作る。
・・その人を見下すような笑みに、ロンも、ユサファ自身も苛立ちを隠せない。
瞳に浮かぶのは、嫌悪の色。
(だが・・。)
——— 今はまだ、駄目だ。
この男との繋がりを切ることはできない。
ユサファは心を静めようと努めた。
ロンもきっと、同じ気持ちだろう。
・・・の願いを。
ライドネル家の悲願を、叶える為には。
この計画に、この男は必要だ。この男の雇い主・グレン公爵も。
あと少し、もうしばらくの間は——————。
「噂に関しては、こちらでも既に手は打ってあります。見事消し去ってみせますよ、『銀の髪の魔法使い』出没の噂もね。」
クロドの言葉に、ロンは唇を噛んだ。
思わず飛び出して彼らを逃がしたが、逆に自分の姿を見られてしまった。
自分の失態だ。
悔しそうに俯くロンを面白そうに眺めて、クロドはユサファに向かって言った。
「とりあえず、この件は私にお任せ下さいませんかねぇ、ご当主殿。」
「・・承知した。」
ユサファの返事を聞き、クロドは満足そうに笑うと、「ではそろそろ失礼を。」と扉に向かう。
扉に手を掛けたところで、ふと2人を振り返った。
「そう言えば。」
浮かぶのは、歪んだ笑み。
「たまたま、ですか。監視していたわけではなくて。」
ユサファとロンは、黙ったままだ。
クックッと声に出して笑うと、クロドは意地の悪い笑顔で言った。
「気づいてないとでも思っていらしたか?まあ、お互い様ですな。ただ、例の計画に関してはぜひとも成功させたい。私も、侯爵様も。・・・貴方方も。仲良くやりましょう。」
そう言って、扉を開けた。
「誰か。お客様がお帰りだ。」
見送りの為、ロンがクロドに続いて部屋を後にする。
足音が、次第に遠ざかっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
急に静かになった部屋に、ユサファはひとり佇んでいた。
身動きもせず、ただ一点を見つめる。
彼の視線の先には、壁に飾られた代々当主の肖像画。
心の底にある想いを噛み締めるように、ユサファはただ、佇んでいた。
- 第13章 暗闇の中の声 〜探索開始〜 ( No.83 )
- 日時: 2015/10/24 19:16
- 名前: 詩織 (ID: maEUf.FW)
第13章 暗闇の中の声 〜探索開始〜
「へぇ、これがその坑道か。」
ジェンが感心したような声を上げて中を覗き込む。
4人は今、あの日ラヴィンとシルファが見つけた坑道らしき穴の入口へとやって来ていた。
彼らが見つめるその先は、相変わらず真っ暗で、物音ひとつ聞こえない。
外では通り過ぎる風が木々を揺らしざわめく音、そして時折、どこか遠くで鳴く獣の声だけが響いている。
青空のもと、春の朝日を浴びた木々の間から木漏れ日が差しているのに対し、その穏やかな日和の景色とは裏腹に、坑道の中は数メートル先さえ何があるのか分からないような暗闇に支配されていた。
「よく見つけたなぁ。」
「えへへ。」
ジェンの驚きを隠さない言葉に、ラヴィンは得意げに笑った。
本日の彼女は、赤い髪をひとつに括り、手には指先のない革手袋、腰には短剣。
背中のリュックには食料や水、携帯用の燃料などを詰め込んでいる。
他のメンバーも同じように、各々リュックを背負っていた。
括った髪にこっそりと、王都で買った可愛い白のリボンが結ばれているのは、数日前のちょっとショッキングな事件を気にしている表れなのか。
「うわぁ。真っ暗ねー!」
ふわふわの髪はツインテールに結び、丈夫な長袖シャツにタイツとキュロット姿のマリーが、ジェンの隣から中を覗き込んだ。
その声が坑道内に響くと、ほんのりエコーがかった広がり方をして、これから進む道の奥行を感じさせる。
「ちょっと待って、今明かりをつけるから。」
そう言いながら3人を後ろに下がらせると、シルファは数日前と同じように光の魔法で明かりを灯した。
ぽん、ぽん、と火が灯るように現れた光のおかげで、暗闇に支配されていた道内は優しい明かりに包まれる。
「うお!すごいな!」
「——— きれい・・。」
ラヴィンと同じように、ジェンとマリーも目を輝かせる。
特にマリーはその大きな瞳をキラキラさせて、頬もほんのり紅潮させて。
シルファの魔法の光に魅入っていた。
その横顔を見ながら。
「へへ。」
こんなに感動してもらえるなんて。
シルファは思わず頬が緩むのが自分で分かった。
だって家ではこんな初歩の魔法、誰も褒めてなんかくれない。
出来て当たり前だから。
シルファはふと、幼い頃初めて魔法を覚えて、父に褒められた時のことを思い出した。
(そう言えば、あの頃は父上、もっと笑ってた気がするな。厳しかったのは昔からだけど、もっと、今と違ってたような・・。)
なんとなく、姉が以前父を心配していたことが頭をよぎった。
そんなことを考えていたシルファの背中を、ラヴィンが勢いよく叩く。
「よし!行こうシルファ、ジェン、マリー!探索、開始だねっ!」
・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
入口から中に入ると、ひんやりした空気が肌に触れる。
(こんなとこ入るの初めてだなぁ。)
シルファはなんだかドキドキしてきた。
後ろからはラヴィンが慣れた足取りでついてくる。
心強いなぁ、とシルファは尊敬の眼差しをラヴィンに向けていたのだが・・。
(明るければ!みんなでいれば!怖くなんか、ないんだから。ぼ、亡霊なんて!)
顔には出さないように気をつけながら、ラヴィンは自分に言い聞かせていた。
・・・足取りも、壁を探る手つきも手馴れたそれではあったのだが、ラヴィンの不安はその一点にあるようだった。
ざらりとした手触りの冷たい壁を伝いながら、足元のごつごつとした出っ張りにつまづかないように慎重に進む。
少し低い天井に合わせて、シルファとジェンは気持ちかがんだ姿勢をとって歩いていた。
「おい、この微妙な高さ、ずっとこのままなのか?」
「さあ?途中でカーブしたり下降したりしてるし、入口からはそこまで見えなかったもんね。」
前方からラヴィンが答える。
先頭のシルファにラヴィンとマリーが続き、最後をジェンが歩いていた。
さらりと返事するラヴィンに、ジェンが唸る。
「このままいくと俺、腰がさぁ・・。イテテ。」
「もう。ジェンったらおっさんくさいわ。もうちょっと頑張ってよ。」
前を行くマリーに窘められて、ジェンがため息をついた。
「なんかお前、どんどん口悪くなってないかぁ?」
もしかして俺、育て方間違えた?などとぶつぶつ呟く声が坑道に小さく響いた。
どのくらい歩いただろうか。
そうしてしばらく行くと、前の方から、先に行くシルファの声が聞こえた。
「ジェン!大丈夫だよ!こっち、広くなってる。」
シルファの言ったとおり、少し行くと急に天井が高くなり、横幅も倍くらいに広がった。
「良かった。歩きやすくなるね。」
ラヴィンが安心したように息を吐き出す。
ここまで来る途中では、だんだん道幅が狭くなったり傾斜があったり、どうなるのかなと思っていたのだ。
もちろんその位は想定して、ちゃんと準備はしてきてはいるが、歩きやすいに越したことはない。
「うーん!ありがたい。」
「だね。」
ジェンが大きく伸びをしながら言うと、同じく身長の高いシルファも苦笑しながら頷いた。
「うわ、冷たい。」
まわりの壁を触っていたマリーが振り向いた。
「このあたりの土、湿ってるわね。」
「ほんとだ。」
ラヴィンも壁に近づいて手についた土をいじってみる。
地上からの水が染み込んだ土は湿り気を帯びていて、ざらざらと手に張り付いた。
「ここまでの様子をメモするから、ちょっと待っててくれ。」
ジェンはそう言うとリュックからノートを取り出すと、ここまでの様子や道の曲がり具合を細かく書き込んだ。
今は1本道だから問題ないが、もしどこかで横穴でも出てきたら、迷わないようにきちんと記録はつけておきたい。
「下降してたとこ、いくつかあったよな。入口からみたら、思ったより地下に向かっているかもしれない。」
さらさらとペンを走らせながら、ジェンがそんなことを言った。
- 第13章 暗闇の中の声 〜異変〜 ( No.84 )
- 日時: 2015/10/24 18:48
- 名前: 詩織 (ID: maEUf.FW)
〜異変〜
シルファは3人から少し離れ、広くなった道を少し進んでみる。
急に空間が広がったせいで、頬に触れる空気が先ほどより更にひんやりと感じられた。
魔法で灯された明かりが、足元や壁にいくつも影を作っている。
その開けた空間の真ん中に立って、辺りをぐるりと見回した。
静かに深呼吸すると、そっと目を閉じてみる。
ジェンのペンが走る音。
ラヴィンとマリーが壁や天井を見回す気配。
それ以外の音のない、静かな空間だった。
——— その静寂の中で。
ふ、とシルファは閉じていた目を開いた。
「?」
辺りをくるりと見回すと、再び瞼を閉じる。
(なんだ?この感じ・・)
意識を集中させる。
なんなのかは分からない。
ほんのわずかな、違和感。
(魔法の気配・・?)
不思議な感覚。
目を離した瞬間に見失いそうな、そんな微かな気配・・。
それまで感じたことのない感覚を、シルファは感じていた。
(いや、この感じ、前にもどこかで・・)
ぐぐ、っと意識を深めようとした時、後ろから声がした。
「シルファ?どうしたの?なにか・・・!ひゃっ!」
シルファの様子に気づいたラヴィンが彼に近づきかけた時、湿った天井から水の雫がぴちゃりと降ってきた。
続けてピチャン、ピチャン!と垂れる水滴。
ラヴィンは驚いて小走りになる。
だがそこは、落ちてくる水分でもちろん滑りやすくなっていて。
足が取られて、バランスを崩した。
「わわっ。」
シルファはとっさに手を伸ばしたが、意識を他に集中させていた分彼女を支えきれず、2人はそのまま体勢を崩してその場に倒れ込んでしまった。
「あいたたた。」
「ご、ごめんシルファ!大丈夫?」
湿った地面の上で、思い切り両手両膝をついてしまった2人。
謝るラヴィンに大丈夫だと笑うと、シルファは起き上がりながら両手の濡れた土を払った。
2人の声に顔を上げたジェンが、苦笑しながらやって来る。
「おいおい。大丈夫か?ここら辺は湿ってて滑りやすいからな。」
言いながら手を差し出した。
「ありがとう。」
ラヴィンは素直にその手を掴む。
「だいじょうぶー?」
マリーもトコトコと仲間のもとへとやって来た。
何気ない風景・・
けれど。
「あれ?今、なにか・・」
マリーがすぐそばまで近づいたとき。
シルファは感じた。
今、何かが・・
カチリ、と音がした気がした。
それは実際の音ではなく、感覚に訴えてくる何か・・。
「マリー、ちょっと待っ・・」
言いかけた次の瞬間、
—————— 4人が立っていた地面が、消えた。
「えっ!?」
「きゃああっ!?」
4人のそれまで立っていた場所は、突然現れた黒い空間に飲み込まれていた。
身体を支えていた地面が突然消え、空間に放り出されるような浮遊感に包まれる。
「なっ!?」
それぞれの悲鳴がこだまする。
突然過ぎて、何が起きたのか理解できない。
・・・何かを考える暇もないまま、4人は足元の空間に飲み込まれていった。
視界が真っ暗になる。
叫んでいるはずなのに、その声も、何も聞こえなくなる。
す、っと意識が遠のいていくのを、4人は感じた。
そして、静寂。
4人を飲み込むと、空間は消え、そこには元どおりの地面が現れた。
・・・後に残ったのは、何の変哲もない冷たい地面と、静まり返った坑道だけだった。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
この掲示板は過去ログ化されています。