コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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ファリスロイヤ昔語り〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.145 )
日時: 2016/06/18 21:38
名前: 詩織 (ID: rjNBQ1VC)

「っはぁっ。」
素早く目をあけて肩で荒い息をする。
見上げる天井はいつもの自室のものだ。
しばらくじっとしながら何とか呼吸を整えると、ベットの上で強張った体を起こし、リーメイルは顔を上げた。
カーテンの外からはまだ日の光は射していない。

ベットから立ち上がり窓から外に目をやると、夜明け前の暗闇が広がっていた。
その先にそびえるファリスロイヤ城をにらむと、くるりと振り返り、手早く着替えと準備を始める。


さきほどまでいた夢の中の世界。
本当にただの夢だったらどれだけいいだろう。けれど、リーメイルには分かっている。あれは夢であって夢ではない。

ルーファスの夢紬ぎの法を自分の魔法で無理やり破り、こちらへと帰ってきた。
普段なら危険がともなうこともありまずやらない技だが、ルーファスと会話が成り立たない以上、リーメイルは一刻も早く目覚めて動き出す必要があると思ったのだ。

(夜が明けたら、すぐに神殿長様のところへいこう。トーヤのところへも。)

素早く準備を終えると、灯りを手にそっと部屋の扉を開ける。
夜明け前の廊下は暗く、冷たくて静かだ。
だがリーメイルには、彼らに報告する前にやることがあった。

(古代魔法・・、レフ・ラーレの魔法陣。人々の心への魔法による干渉。何か方法があるはずよ。)
心の中で呟くと、あの秘密の部屋へと急ぐ。
闇の中に、白い巫女装束が消えていった。



---- けれども。


リーメイルが思っていたよりずっと、事態は深刻だったのだ。

神殿の誰もが気づかぬうちに、あの魔法使いの語る夢は、もう後戻りできぬほどのところまで、深く、静かにこの地を侵食していた。

それは用意周到な計画だった。決して外部には気づかせず、細心の注意が払われ、ゆるやかな坂を下るように、少しずつ少しずつ。そして気づいた時には、動き出している大きな魔力の流れはすでに簡単には止められぬほどの勢いを生み出していることを、彼らは知ることになる -----



「話にならん。」
大きくため息をついて、応接間のソファに腰かけたラウルは組んだ両手に額を乗せた。
目を閉じて眉間にしわを寄せるその表情は、ここまでの交渉がかなり難航していることを示している。

ラウルのため息を聞きながら、隣に座ったリーメイルは姿勢を正したまま、硬い表情を崩さずにテーブルを挟んだ向かいの席を見つめた。
今は空になっているその席の主は、平行線をたどり続けるこの話し合いの途中で、別件の仕事の為に少しの時間席を外している。

このまま続けても答えはでないだろう、少し冷静になるといい。
そんな風に淡々と言い、その席に座っていたこの城の主は部屋の外に消えていった。

リーメイルは膝の上にそろえた両手を強く握る。

さらさらと揺れるオリーブ色のまっすぐな髪。
少し低くなったけれど、あの頃と同じ響きで自分の名を呼ぶ声。
幼かった頃の面影は確かに残っていた。

でも・・。

(リアン・・。あなたいつから・・)



そんな眼を、するようになったの。



今ここにはいない空席の主に、心の中で語り掛ける。

こんな状況であっても、久しぶりの再会が嬉しかったのは本心だ。
思わず笑みが浮かびそうになった。

けれど、目の前に立った彼の顔に、リーメイルの望んでいた笑顔はなかった。
髪と同じ美しい色は変わらないのに、その瞳は酷く冷たくて。
こちらを見ているようでいて、一向に合わない視線。
なんの色も映していない瞳の奥に彼が本当は何を思っているのか、リーメイルには何も感じ取ることはできなかった。

(会えば分かると思っていたのに。)

『リアン様はご承知ですよ。』
ルーファスはそう言っていたけれど、心のどこかでは、まだ信じていた。
否、信じたかったといったほうがいいのかもしれない。
あの彼が、こんなことを許すはずがないと。

(優しくて、可愛くって、ちょっと気が弱くて泣き虫で・・でも、いつも一生懸命だった。)
父親がどんなに厳しくても、たまに寂しそうな笑顔を浮かべながら、それでも父の期待に報いようといつも頑張っていたことを、リーメイルは知っていた。

だからこそ、余計にショックだった。

『書簡に書いた通りだ。何も難しいことはない。』
そうさらりと言ったリアンの言葉には耳を疑った。

リアンはルーファスに騙されて、上手く利用されている。
もしくは、そう、ルーファスの魔力で、自らの思考を操られている。
まずはそれを何とか解かなくては。
事態の根源はルーファスだ。

リーメイルはそう考えて今日この城にやって来た。

なのに、
『ああ、最初に言っておくが僕は別にルーファスからなんの魔法も強制されていない。これが何か分かるだろ?君たちなら。』
話し合いが始まるなり、そう言って彼は右腕の服の袖をめくると2人の前に差し出した。

細身な腕の手首下辺り。昏い青色の染料で特徴的な紋様が描かれている。
魔法知識のある2人にとっては見知ったものだった。
『これは・・契約の魔法印?』
『この紋様は魔法干渉の制御、ですな。』
その答えに、リアンは口の端を上げた。
『正解だ。この意味、分かるだろう。』
そう言って袖を元に戻す。
彼の言わんとするところを理解して、2人は戸惑いの表情を浮かべた。

『この魔法印がある限り、この魔法の主は同意のなく僕を魔法で動かすことはできない。』

リアンの腕に描かれていたのは、魔法により契約を結ぶ際の魔法印だった。
これはお互いの同意の元になされる魔力を介した契約であり、片方の意志だけでは成立しない。
かけた者とかけられた者が、お互いに了承した上で発動する魔法なのだ。

『この魔法印を付けたのは、もちろんルーファスだ。僕と彼は魔法の契約により、互いの合意がなければ魔法で干渉しあうことはできない。』

残念ながら僕は魔法は使えないが、と肩をすくめたあと、リアンはリーメイルに向かって言った。

『リーメイル。ルーファスが君に会ったそうだね。』
『!!聞いたのね?!だったら・・っ!』
勢いよく口を開きかけたリーメイルを手で制して、リアンは鋭い視線を彼女に送る。
『もしかしたら君は、僕がルーファスに騙されて利用されているか、もしくは彼の魔法で操られているかもしれないなどと考えているかもしれないね。』
『っ?!』
思っていたことをずばり指摘され、リーメイルが目を見開く。
そんな彼女の表情を見て、リアンは小さく笑った。
『やはりな。だが、これではっきりしただろう?僕とルーファスはお互いの理想の為に、協力することを約束している。この契約魔法がその証拠だ。これがある限り、ルーファスが僕本人の同意なしに僕に魔法をかけることは在り得ない。つまり、』


------ 僕は僕の意志によって、この計画を推進していくつもりだよ、リーメイル。


ファリスロイヤ昔語り〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.146 )
日時: 2016/06/19 16:57
名前: 詩織 (ID: rjNBQ1VC)

今まで、この地は古い風習に囚われあまりにも保守的でありすぎたと、リアンは言った。
知恵も魔力も持ち合わせたルーファスに出会い、大いなる大地に宿る魔力を利用できること方法を見つけた今、この地はもっともっと強くなることができるのだと。

魔力を使い、もっと豊かに。もっと強大に。
国の中での地位も、権力も。
手にした力を利用すれば、もっと上に上り詰めることができる。

そう語るリアンの耳には、リーメイルの言葉もラウルの声も意味をなさない。
それがどれほど危険でどれほど不自然で、どれほど民を裏切る行為になるのかと説いても。
最初から、聞き入れるつもりはないのだ。

結局歩み寄ることはできないまま、今日はもう話すことはないと、強引に話し合いは終了した。

長期戦を覚悟し、疲れ切った顔で部屋をでようとする2人に、リアンが声をかけた。

「ああ、すまないが少しだけ、彼女と2人で話がしたい。残ってくれるか、リーメイル。」

ラウルはぴくりと眉を上げ、丁重に断ろうと口を開きかけたが。
「大丈夫です。私も彼と話がしたいと思っていました。・・少しだけ、お時間を頂けますか。」
リーメイルの真剣な表情に、迷った挙句渋々頷く。
心配そうに自分を見つめるラウルに、リーメイルがにこりと笑ってもう一度大丈夫だと告げると、彼は控えの間で待つと言い部屋を後にした。


「さて。」
リアンがリーメイルに向き直る。立ったままの2人の間には距離があったが、なんとなくどちらも動かぬまま話は続けられた。

「ルーファスが夢で君に逢いに行ったことは、僕も今朝聞いたんだ。」
「え?」
「事後報告。まさかこんなに早いタイミングで君に直接計画を明かすなんて思ってなくて、こっちも驚いた。」
「あなたの命令ではないの?」
その言葉にリアンは肩をすくめた。
「彼は僕の協力者であり、むしろ僕は彼の知識の恩恵にあずかる身なんだよ。彼は協力者であって僕の臣下ではない。彼には彼の叶えるべき理想がありそれを邪魔する権限は僕にだってないのさ。彼は自由だ。」

それにしても、とリアンが続ける。
「2人で話すのは本当に・・、久しぶりだね、リーメイル。」
「ええ。でも、本当はもっと楽しい話がしたかったわ、トーヤも一緒に3人でね。」
「トーヤも一緒に、ね。僕と2人では不満かい?」
揶揄うような声音に、リーメイルは首を横に振る。

「そんなこと!ただ私は・・、あの頃みたいに皆で笑って・・」
「あの頃とはもう違うんだ。君もわかってるだろ。」

言い切る言葉があまりにも冷たく響く。
それを聞いたリーメイルは、つい感情が表に出てしまう。

「分からないわ!どうしちゃったのリアン?!あの頃のあなたはこんな危険な計画に耳を貸すような人じゃ・・」
「今は『あの頃』じゃない。もう終わったんだ。それに・・、あの頃の僕と言ったか。僕があの頃何を思っていたかなんて、君に分かるのか?」
突然問われて、リーメイルは言葉を失う。

「友達ぶるのはやめてくれ。そんなものは不快だ。僕が何を思い、何の為に生きてきたかなんて、君には分からない。僕の見ていた世界がどんなものかなんて、分からないよ、一生ね。」
突き放すように言われ、頭が真っ白になり俯く。
けれど、なんと言っていいかわからぬまま、それでも必死に言葉を探した。

彼に、伝えたい。
今、手を離してはダメだ。

「・・分からない・・かもしれない・・けど、でも・・!リアン、私は・・!」
「そんなに心配なら。」

リアンの声が低くなる。
向き合ったまま、ゆっくりと歩く。
2人の距離が近づいた。

「僕の傍で、僕を見張っていればいい。」

リーメイルのすぐ目の前。
影が落ちる。逆光で、表情は分からない。
覗き込むような仕草で彼女を見下ろしたリアンは、静かに、その右手をリーメイルの顎に添えた。

「城へ来るかい、リーメイル?僕の・・・妻として。」

低い声のまま、囁くように告げる。
オリーブ色の瞳には、幼馴染の少女を捉えて。

リーメイルは黙ってリアンを見上げている。

ぶつかる視線。
毅然として見返す赤い瞳は瞬きもせず、じっと彼の瞳を射抜く。
唇を引き結び、一歩も引かず、リーメイルはリアンを見返した。


--- どれほどそうしていただろう。
先に視線をそらしたのは、リアンのほうだった。

「相変わらず強い瞳をしているよ、君は。」
苦笑にも似たため息とともに、あっけなく彼女から体を離すと、部屋の扉へと向かう。

・・・僕の一番嫌いなものと同じ瞳なのにね。

小さな呟きは空気に溶け、彼女の耳には届かなかった。

「どれだけ話しても、僕はこの計画を変える気はない。すでに城の者たちもルーファスに従っているし、ほどなく民衆もそうなるだろう。」
「それは彼らの本当の意志ではないわ!あなた、本当にそんなこと望んでいるの?」
リーメイルの問いに、リアンは答えない。

扉を開けながら振り返り、淡々と告げた。

「神殿の役目は終わりだ、リーメイル。この地の主は僕だ。命令には従ってもらう。・・どんな手を使ってもだ。」
言い終わると同時にリアンの姿は廊下の向こうに消え、ガチャリと扉が閉まる音が聞こえた。

リアンの足音が遠ざかるのを聞きながら、リーメイルは壁に寄りかかると、力が抜けてそのまま床にへたりこんだ。
壁に体重を預けたままそっと目を閉じる。

(・・・エルス様・・。私は・・どうしたらいいのでしょうか。)

やることは山積みであるはずなのに何も頭が働かない。リーメイルは目を閉じたまま深く深く息を吐いた。

Re: はじまりの物語 ( No.147 )
日時: 2016/06/22 12:44
名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
参照: http://pixiv.me/asaginoyumemishi

こんばんは!

はじめまして!!
いろはうたといいます。
以後お見知りおきをm(ーー)m

素敵な題名のお話だなぁと思い、お邪魔させていただきました!!



そして、読み始めて圧倒されました。


(゜□゜)ほぁっ!?


って感じです。

地の文が非常にお上手で
読んでいてぐぐっと引き込まれました。
ダイソン並みの吸引力でした……



更新がんばってください!!

Re: はじまりの物語 ( No.148 )
日時: 2016/06/25 17:18
名前: 詩織 (ID: u5ppepCU)

>>いろはうたさん


コメントありがとうございます〜!
そんなこと言ってもらえちゃうなんて!
嬉しいな。

まだまだボキャブラリー少なくって、いつもう〜〜ってなりながら書いてます。
とりあえずなんとか話のスジだけでも伝わったらいいなって思ってて(^^;)

読んでもらえてうれしいです。

こんどはいろはうたさんの小説の方にも遊びにいきますね。
よろしくお願いします。

私も更新がんばります☆

気が向いたらぜひまた感想教えてくださいね〜(^^)

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜 ( No.149 )
日時: 2016/07/02 21:54
名前: 詩織 (ID: ZHKrBVHH)


ファリスロイヤ昔語り  〜 魔女と呼ばれた聖女 〜



そこからは、あっという間の出来事だった。
それまで水面下で進められていたファリスロイヤ側の計画は、機は熟したとばかり一気に表面化してゆく。

まずは小さなものから次々に、神殿の権限は削り取られ、行動範囲を狭められていった。
もちろんラウルはそのたびに抗議に赴くのだが、リアンが命令を覆すことはない。

戸惑う神殿の人々をよそに、リアンとルーファスはかねてから綿密に張り巡らされた計画を着々と実行に移していく。そんな限られた自由の中でも、神殿の巫女や騎士たちは街にでて、貧しい民たちの生活を支える役目を必死に続けていたのだった。


相変わらず城の中でのルーファスとリアンの権威は絶対であり、
しかしリーメイルたち神殿側にとって一番困惑したのは、それが恐怖政治というわけではなく、城の者たちが心底2人を尊敬し、ルーファスに至ってはその魔力と知識からもはや崇拝に近い念を抱く者たちすら少なくなかったことだった。

そこには確かにルーファスの魔法が関わっていたのだけれど、ルーファスという存在には皮肉にも、もともと十分に人々を惹きつける不思議な魅力がある。リアンと合わせて、一概に魔法のせいだけとは言い切れない求心力となり、それが魔法と相まって、さらに複雑に人々の心を捉えていた。その上、人々自身に魔力に依って魅せられている自覚はない為、皆自分の意志で彼らに信頼を寄せているのだと思い込んでいるのだ。




「その魔法の恐ろしさは、解き方を一歩間違えればそいつの心が壊れてしまうかもしれないってところだ。だからその部分に関しては、悔しいが俺たちには手出し出来なかった。」

トーヤの声にラヴィンたちは後ろを振り返る。

壁に寄りかかって腕を組んだ姿勢は変わらないまま、彼の栗色の双眸は、前方に浮かぶその過去の城を鋭く睨み付けていた。

「心が壊れる?」
自分を見るラヴィンの問いに、トーヤは苦々しい顔のまま答えた。
「本人の知らぬ間に仕掛けられ、まるで乾いた土に染み込む水のようにじわじわと内部へと浸透していく魔法。『魅了と記憶操作』。それを無理やり解除しようとすれば、本人の記憶や精神にダメージを与えかねない。混乱して、自分で自分が分からなくなったりな。

例えるなら、気づかないうちに植えられた『種』がゆっくりと成長し、根を張り葉を伸ばしてくんだ。気づいた時にはもう育ちすぎていて、表の葉を引っ張っても、根が食い込んで抜けないのさ。それを強引に引っこ抜こうとすれば・・・分かるだろ?根と一緒に土台まで崩れてしまう。そういうことだ。」

「・・・厄介な魔法だね。」
シルファが眉間をよせて呟く。
その声は固い。魔法使いとしてのシルファがこの魔法の使い方に対して嫌悪感を抱いているのがラヴィンにはよく分かった。

「君たちの時代はそんな魔法が一般的だったの?」
尋ねるシルファに、トーヤは大きくかぶりを振った。
「そんなわけない!あんなの俺は聞いたこともなかった。リーメイルが過去の資料から突き止めたんだ。あの男が使うのは、禁忌魔法や古い時代に廃れた魔法・・およそ俺たちが見たことないような危険なものばかりだった。言い訳になるが・・だから対応が後手に回ってしまった面もある。ふがいないけどな。」

口惜しいのだろう、トーヤの眉間に刻まれたしわがきつくなる。
ラヴィンは口を開きかけ、けれど、今は何もかけられる言葉が見つからなくて、仕方なく黙って口を閉じた。


「あいつらはまず城の奴らの心を完全に掌握し、その上で街の人間たちにも手を伸ばしていたんだ。」
「街の人たちも魔法でルーファスを支持するようになるってこと?」
マリーの言葉にトーヤは頷く。
「俺たち神殿の者は民たちの中でも主に貧しい地区や立場の弱い者たちへの支援を担ってたんだ。施設で暮らす子供たち、老人、病人・・。だからリアンとルーファスはその逆から取り込もうとした。」
「逆?」
「そう、逆だ。比較的城に近い立場の者、富裕層、知識人とかな。そうやって神殿の人間の居場所を次々と奪っていったのさ。]

「街の皆にばらしちゃうことはしなかったの?お城には証拠の魔法陣だってあるんでしょ?こんなに怖い事しようとしてますよって。皆あんなにエルス様を慕っていたのに。」
ラヴィンに聞かれ、トーヤは肩をすくめた。

「女神への信仰が強く根付いてる土地だってのは奴らも計算済みさ。ルーファスは頭が良かった。少しづつ、確実に自分に惹きつける為に、民衆の前では女神エルス自体は否定しなかったんだ。あくまでもリアンとルーファスが神殿の責務を引き継ぎ継承するという形をとることで、神殿をなくすことへの民たちの抵抗を削いでいった。その上で、具体的な政策を挙げたり、それがいかに得策かを論じて、民衆を味方につけていった。」
言いながら、その顔が苦々しく歪む。

「あの、魔法陣は?」
「俺たちは城へは入れない。入れたのは親父とリーメイルだけだったが、厳しい監視付きで、自由には動けなかったんだ。そうなれば、唯一の情報源はリーメイルの夢だけだ。リアンもルーファスも、最初の会見以来、そのことは一切口にしない。そもそも城の連中はもうルーファスに心酔してるやつらばっかりだからな。証拠が出せなければ単なる言いがかりになっちまう。」

「つまり・・、民衆には魔法や話術を使って自分たちを支持させ、その実彼らがやろうとしていたのは危険極まりない魔法実験と、それには邪魔な存在である神殿を排除しよう、と。そういうことだな?」
ジェンが言った。
「そうだ。リーメイルの話を聞く限り、ルーファスにとっては俺たちは単純にジャマだったんだろうな。---- リアンは・・・。」
「?」
「奴の本心は・・。結局、分からずじまいだったが。」


その名を口にする時のトーヤの表情と声音。

怒り、だけでもなく。
口惜しさ、だけでもなく。

彼の心の奥にあるであろう、他人には分からない複雑な思いが滲んでいるように、ラヴィンには思えた。

言葉を切り、一瞬邂逅の淵に沈んだトーヤだったが、すぐに顔を上げて話を再開する。

「その象徴が、リーメイルとリアンの結婚。つまり城と神殿の一体化だったんだ。」
「でも・・それは・・。」

淡々とその言葉を紡ぐトーヤに、思わずラヴィンは口を開く。
今ここで言っても全く意味がないと分かっているのに、思わず口から声が漏れた。

だって、ちょっと見ただけだって分かってしまった。
リーメイルは、トーヤのことをとても大切に想っていたんだ。絶対に。
トーヤだって・・。

「リーメイル・・さんは・・」

言いかけるラヴィンに、トーヤはふ、と小さく苦笑する。
それはまるで言葉を制されたように感じられて、ラヴィンはその先を続けることが出来なかった。

ラヴィンの言おうとしたことを、きっとトーヤは分かっている。

それは諦めが混じったような、泣きたいのに泣けない時のような、そんな複雑で切なげな顔だったから。
それを見て、ラヴィンはまた、何も言えなくなってしまった。


「あっという間に、全ては変わっていったよ。-------- 均衡ってやつはさ、保つのは難しくても、崩れるのは一瞬のことなんだ。」




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