コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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Re: はじまりの物語 ( No.175 )
日時: 2016/10/05 09:32
名前: 詩織 (ID: 1kkgi9CM)

ここまで読んで下さった皆さんありがとうございます(^^)

やっとやっと、過去編終了です。
お待たせしました。

そして、今までの

第Ⅰ部 王都ギリア編
第Ⅱ部 過去編

に続き、ここから最終部となる第Ⅲ部に進んでいきたいと思います。

ここまでゆーっくりちょびちょび進んできたので、最初の方忘れちゃったーとか、王都組?コレ誰だっけ??という状態の方もたくさんいらっしゃるのではと思い、ここらへんで登場人物紹介パート2を載せさせて頂きました。

今回はコメントも入れてます。
こちょこちょして見にくいかもしれませんが

眺めて、ああーこんな人いたなーって思い出してもらいまして、
最終部も楽しんでいただけたら嬉しいです♪

(ちょっと入らなかったので、ふたつに分けました。)


<<<  登場人物紹介パート2  >>>

※コメント ラヴィン、ラパス、ジェイド、ジェン=そのまんま

シ=シルファ、ア=アレン、マ=マリー、ギ=ギズラード



<ラヴィン・ドール>
・小柄で赤毛の見た目可愛らしい少女。
(ラヴィン「・・見た目?」シ「ラヴィン、お、落ち着いて!ラヴィンは中身も可愛いよ!」)

・好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。とにかく動きが素早く武闘には長けている。
(シ「初めて会った時はびっくりした。かっこよかったよ。」)

・旅は大好き。完全にアウトドア派。
(ジェイド「さっすが俺の姪!」ア「怖いもの知らずなとこは嫌になるくらいそっっっくりですよ。」シ(いつも苦労してるんだろうなぁアレンさん・・))
・明るく素直、割と単純。
・かわいいもの好き
(マ「ちょ!ラヴィン抱き着きすぎっ・・うう」ラヴィン「だってぇふわふわであったかくってマリーかーわーいーいー」ジェン「おーい、息継ぎはさせてやれよー。」)


<シルファ・ライドネル>
・銀色の髪の少年。背が高い。(ラヴィン「すごーく綺麗な髪と瞳。神秘的っていうのかな。目が引き寄せられちゃう。」シ「/////(照)」)
・魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。

・魔法の修行中。悩めるお年頃。
(ラパス「ま、そういう年頃だよなー」マ「悩んでるのがシルファって感じもするわね。」シ「ええっ?!ちょっとマリーそれは・・」ラヴィン「眉毛下がったシルファもかわいいよね」マ「ね。」シ「・・・(無言でジェンを見る)」ジェン「・・・(笑いを堪えてる)」)

・父や兄たちには内心コンプレックス  (シ「・・・(お悩み中)」)

・魔法の研究や魔法書の読解が趣味
・図書館大好きっ子で確実にインドア派。
・・だったけれど、最近はラヴィンに引きずられめっきりアウトドア。




〜 ウォルズ商会の仲間たち 〜

<ジェイド・ドール>
・ラヴィンの叔父さん。茶髪で色黒。
・体つきががっしりしていて一見海の男っぽい(ラヴィン談)

・王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。今では地元の名士。(ラヴィン「尊敬するっ!」ラパス「カッケーっ!」2人ともきらきらのお目目で。)
・姪っ子ラブ。(ギ「本気で怒るんだもんなー怖ぇー」)

・大雑把で荒っぽく見えるが、心根は優しい。(ア「まぁね。それは認めます。」)
・酒好き、うまいもの好き。(シルファ「姉上と気が合うだろうなぁ。」)

・剣術が得意、体術もできる武闘派。(ア「ストレス解消に喜々として振るってますね。人の言う事もちょっとは聞いてください。」)



<アレン>
・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。
・ウォルズ商会幹部
・冷静で頭が良い
・性格、生い立ちはまるっきり正反対だが、ジェイドのよき親友。

・尊敬も呆れも入り混じった態度。(ラパス「そうそう、いつもそう。ホントは好きなくせにー」ラヴィン「ね!アレン、叔父さん大好きだもんねっ。」ア「・・・(何て返すか本気で考え中)」)


<ラパス>
・金髪、碧眼。体育会系の青年。(ラヴィン「金髪がねーとってもきれいなの。目はね、夏の海の濃いとこみたいなね、とにかく夏が似合うイメージなんだ。」)
・以前は王宮騎士団に所属していた。幼い頃から騎士になるための教育を受けてきたが、ジェイドに憧れウォルズ商会での護衛の仕事に転身。
・性格はサッパリきっぱりで正直。一見爽やかだが、思ったことはズバっと言う。


<ジェン>
・漆黒の瞳の青年。同じく漆黒の髪を後ろでひとつに括っている。
・お兄さんというか「お母さん」または「保護者」。
(皆一斉に頷く。後ろで1人肩を落とす本人)
・もともとは他国の研究員。
・研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
(ラヴィン「目の前のことに没頭するタイプよね。あと基本おおらかで落ち着いてるなー。」シ「うんうん。冷静だし大人って感じでかっこいいよね。ねっマリー。」マ「っ、そ、そうねっ。」ラヴィン「あれ、どしたのマリー?顔赤いよ?風邪?」マ「なんでもないっ!」(睨まれてシルファ目を逸らす))


<マリー>
・見た目は10〜12歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。
(ラヴィン「ふわんふわんで柔らかい猫ッ毛でね!めちゃくちゃ可愛いの!」)

・ジェンの妹ということになっているがそれは建前で、真実はラト族の村出身。身寄りのない彼女をジェンが引き取った。

・村では古代幻獣の力を持つ『幻獣の子』として恐れられており、未だに人と関わることが苦手。けれど最近は少しずつ、外の世界にも興味を持つようになりつつある。
(ア「いい傾向ですね。店でお客さんに話しかけられても、隠れることが減りましたし。」(裏のない笑顔)
ジェイド「そうだなぁー。俺たちと話すことも増えたしな。」(嬉しそうに顎をさする。) 
2人とも娘を見る父のような、もしくは孫を見る爺のような雰囲気。
ラパス「笑顔も可愛いしなぁ。悪い虫がつかないといーっすね。」
ジェイド「ああ?そんな野郎速攻でぶっとばしてやんよ。(ドス声)」
ア「社長が出張らなくても私がすぐに手を回しますからご心配なく(黒い笑顔)」
ラパス「あー、まっっったく心配なさそうっすねー。」)

・ジェンには特別な好意を寄せている。
・・でも誰にもナイショ(シルファにだけはバレている)
(シ「マリーがんば!」)


<ギズラード・ミシェル(ギズ)>
・ダークブラウンのくしゃくしゃクセっ毛に、薄茶色の瞳の小柄な男。そばかすの浮いた憎めない顔。
・ジェイドの昔馴染みで、仕事でも手を組む間柄。
・メインの仕事は交渉人だが、情報通で情報屋としての顔も持つ。今回は武器商人クロドとグレン公爵、ライドネル家の繋がりに気づいてジェイドに打ち明けた。
・小さな頃から知っているラヴィンがお気に入り。
・へらへら飄々としていて実は何を考えているかよく分からない人物
(ギ「ひでー!そんなことないよなダンナ?」ジェイド「あ?まんまだろボケ。」)


②へつづく

Re: はじまりの物語 ( No.176 )
日時: 2016/10/04 22:07
名前: 詩織 (ID: 1kkgi9CM)

<<<  登場人物紹介パート2  >>> ②



 〜 ライドネル家の人々 〜 ・・シルファの家族

<ユサファ>(シルファの父)
・ライドネル家現当主であり、シルファにとっては厳格な父親。
・歴代の中でも指折りの実力者で、一族内では絶対の存在。
・王宮付き魔法使いたちの長として王宮に努める。
(シ「とにかく凄い。絶対的な存在。」イルナリア「私たちが小さなころはもう少し柔らかく笑うことも多かった気がするわ。まだ、お母様がいらしたころ・・」)


<ロン>(ユサファの弟、シルファの叔父)
・当主の補佐を務める。
・生真面目で几帳面。
・ユサファを尊敬している。
(イル「真面目な方よねぇ、たまには冗談とか仰ってもいいのに。」シ「うーん、それはそれで・・怖い・・かも・・?」イル「まぁ失礼ね。あとで叔父様にお伝えしちゃおーっと。」シ「あ、姉上ぇぇ」)


<リュイ>(長男)24歳 (シルファは4男で末っ子。以下年齢順。)
・いつもシルファをからかって遊ぶ兄3人組の1番上。兄弟で1番背が高い。
・皮肉屋で、シルファの前では意地悪な笑顔を浮かべることが多いが、仕事に関しては真面目で有能。頭が良くユサファの片腕として王宮で働いている。

(イル「兄上はほんと、シルファで遊ぶの大好きよね〜。」シ「姉上・・、遊ぶって言い方止めてください・・」イル「あ、リュイ兄様だけじゃなくってルージ兄様とレイもだったわね。」シ「・・・」イル「気持ちは分かるけど(にっこり)」シ「・・・え?!」)


<ルージ>(次男)23歳
ユサファ、リュイと共に王宮で働く。


<イルナリア>(長女)19歳
・おいしいものが大好きなシルファの姉。
・ストレートの長い髪。色は母に似て濃い鉄色
・身体が弱い為、魔法使いとしての修行はしていない。シルファの良き相談相手であり、母代わりでもある。
・見た目は繊細で美しい女性だが、芯は強い。
・趣味はお取り寄せ。

(シ「はー、姉上のお取り寄せは年々パワーアップしてきますね。」イル「だって大好きなんですもの!まだまだ食べてみたいお菓子はたくさんあるのよ。ええとね・・」(延々と続くお取り寄せ商品名) シ「わわ、分かりましたっ!よーっく分かりました!」イル「ちゃんと聞いてよ、それからね、隣国のフルーツの砂糖漬けに、あとはシロップで煮詰めた甘い木の実の云々・・」シ「・・・(黙って聞いてあげる優しい弟シルファ少年)」)


<レイ>(3男)18歳
・お調子者で賑やかな3番目の兄。
・近々グレン公爵家へと務めることが決まっている。
(シ「レイ兄上、もうすぐグレン公爵家での仕事が始まりますね。」
イル「・・(浮かない顔)」シ「大丈夫ですよ。レイ兄上なら上手くやりますって。」イル「シルファ・・」シ「あの人世渡り上手ですし。」イル「・・伝えておくわね。」)



〜 なにやら怪しい気配のひとびと 〜

・隣国に拠点を置く武器商人クロドとその部下たち
・代替わりしたばかりの若きグレン公爵



〜 これまでのお話をかんたんに 〜


第Ⅰ部 王都ギリア編
ベルリルの町から叔父に会いに王都へとやって来た赤毛の少女ラヴィン・ドール。無事叔父や仲間たちと喜びの再会を果たし、久しぶりのギリアでの生活に胸を躍らせる。叔父たちの話から興味を持った古い遺跡ファリスロイヤ城について王都図書館へと調べに出掛けた彼女は、帰り道、ガラの悪い男たちに絡まれたところを魔法使いの少年シルファに助けられた。

次第に打ち解けていくラヴィンとシルファ、それにウォルズ商会の面々。
己の立場や将来の夢に迷うシルファは、彼らとの関わりのなかで少しずつ自分と向き合っていく。

そんな中、ジェンの仕事中のスケッチを発端に、ルル湖付近にある村エイベリーの石碑に魔法文字が使われていることをシルファが発見。
大いに興味を惹かれたラヴィン、シルファ、ジェン、マリーの4人は、ジェンの仕事ついでにエイベリー村へ調査の旅に出かけることにした。

けれど、実は叔父のジェイド・ドールには僅かな懸念材料があった。
昔馴染みのギズラードに相談しつつ、なりゆきを見守るジェイド。

叔父の心配をよそに、ラヴィンたちはうきうきと、謎の石碑が待つエイベリー村を目指し、ギリアを発っていった。



第Ⅱ部 過去編 〜ファリスリヤ昔語り〜

エイベリー村で石碑を調査するうちに、村の老人ノエルから女神エルスと魔女についての伝承を聞くことができたラヴィンとシルファは、魔女に呪われるとのいわくつきの場所『魔女の住む山』を探索中、坑道らしき謎の入り口を発見。

翌日ジェンとマリーを伴って、4人は坑道を探索。
途中仕掛けられた魔法によってバラバラにされるも、なんとか合流することができた。

そこで出会った不思議な青年トーヤからこの地にまつわる物語を聞かされ、それと共に彼に力を貸してほしいと懇願される。

以下 『ファリスロイヤ昔語り』参照


・・・そして物語は最終部へと続きます。

第15章  因果は巡る風車  〜記憶〜 ( No.177 )
日時: 2016/10/12 23:01
名前: 詩織 (ID: qyjkJIJL)

第15章  因果は巡る風車  〜記憶〜


皺だらけの分厚くて大きな手が、幼い兄弟の頭を優しく撫でた。

修練の時間は人一倍厳しい祖父は、けれどそれ以外の時間は驚くほど気さくであたたかな人物であり、孫たちはそんな祖父をとても慕っていた。

「ねぇ、おじい様。今日も昔話を聞かせてよ。」
せがむ兄がゆったりと椅子に腰かける祖父の服の裾を引っ張ると、兄に比べて大人しい弟も、真似をして反対側の裾をくいくいと引く。
「はっはっはっ。いいとも。今日の修練は2人ともよく頑張っていたからな。」
快活に笑った老人は、ふと何かを思いついたように部屋の壁に目を向ける。
壁の上部に並べられているのは、代々の当主たちの肖像画。

「今日は特別な話を教えてやろう。」
「とくべつなはなし?」
兄が小さく首を傾げて祖父を見上げる。
「そうだ。ほら、あれを見なさい。」
祖父の視線を追って、兄弟は飾られている肖像画に視線を向けた。
「お前たちのご先祖様方。このライドネル家を支えてこられた方々だ。皆素晴らしい力と知識を持っておられた。」
「うん。知ってるよ。お父様からもいつも言われてる。『ライドネル家のなにはじぬいきかたをしなさい』って。」
大きな瞳で祖父を見つめて、そう言う兄の口ぶりは子供ながらに真剣そのものだ。
弟も黙って頷いている。

祖父は嬉しそうに微笑むと、兄弟の頭をぐりぐりと撫でた。
「その通りだ。お前たちには、この方々と同じ血が流れている。その意思を受け継ぎ、立派にこの家を守っていくのが使命だからな。」
「しめい・・。」
その言葉に、幼子たちは胸の高鳴りを覚える。
自分たちの、使命。

「今日の話は、我がライドネル家に受け継がれる、ひとつの使命の話だが・・。これは当主の血を引く選ばれた者だけに伝えられる、秘密の使命だ。」
「ひみつの?」
大きく頷いて、祖父は問う。
「お前たち、秘密は守れるか?」
兄弟は顔を見合わせ、それから祖父を見上げると、同時に声を上げた。
「「はいっ!」」
威勢のいい声に祖父は小さく笑うと、2人をその両膝の上に抱え上げた。

「いい子だ。じゃあ話してやるから、しっかり聞くんだ。いいかい、ユサファ、ロン。」
力強く2人の体を抱きしめると、祖父は語り始めた。


・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


控えめなノックの音に、ユサファは我に返った。
いつの間にか物思いにふけっていたらしい。

「父上。いらっしゃいますか、シルファです。」
扉の外から聞こえる声に、軽く咳払いをしてから短く返事を返す。
「入れ。」

失礼しますと言いながら、久しぶりに帰宅したシルファが顔をのぞかせる。

「ただいま帰りました。ご報告したいんですけど、今お時間大丈夫ですか?」
「私は構わないが、お前は帰ったばかりだろう。報告なら休んでからでいい。」
服だけは着替えてきたようだが、顔にはまだ旅の疲れが滲んでいるようにユサファには見えた。
「あ、いえ、僕は大丈夫です。」
けれど思ったよりも元気そうな声で言い、シルファは部屋に入ってくる。

「なるべく早くご報告したい事があって。」
シルファの言葉にユサファは片眉をあげて息子を見る。
仕事用の椅子から立ち上がると、部屋の奥のソファに息子を促し、向かい合わせで座った。
シルファは2人の間のテーブルに持ってきた資料を広げると、父親の顔を見て言った。
「今回の旅の報告と、・・・実は、父上に相談があるんです。この、魔法文字を使った魔法の件について。」
今回の調査で分かった事実と、自分の体験したことについて、シルファは全てをユサファに語った。


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

「あ〜〜〜〜!!つっかれたぁ!」

ぼふっと音を立てて、ラヴィンはベットに飛び込んで大きく伸びをする。
「ふわぁ〜。やーっぱ我が家はいいよねっ。」
「我が家じゃないだろー。ほら、ちゃんと荷物どけて。先に風呂入らないとベットが埃っぽくなるぞ。」
「ラヴィン!私のベット壊さないでよね。」
「うーん、分かってるよぅー。」
枕に顔を埋めているラヴィンはくぐもった声で返事をした。

いろんなことがありすぎるほどあった旅だったけれど、なにはともあれ無事こうして帰ってこれた。
とりあえずはまずは休息したいと体が叫んでいるから素直に従う。

そこへ、入り口の方から声が聞こえた。
「お疲れさま。ケガもなく無事の帰宅で何よりですよ。」
「アレンっ!!ただいまぁ!」
顔を上げたラヴィンが嬉しそうに叫ぶと、声の主であるアレンがくすくすと笑う声がする。
「元気そうですね、ラヴィン。向こうにお茶の準備をしてますから、着替えと片付けがひと段落したら社長の家の方へ来てください。甘いお菓子もありますよ。」
「わぁーい!ありがとう!さっすがアレン〜。」
甘いものと聞いて、ラヴィンの瞳が輝いた。
「ほら、さっさと着替えろ。せっかくのお茶が冷めてもいいのか。」
研究室で荷物の整理をしながらジェンが笑う。

飛び起きたラヴィンはマリーと一緒に着替えをすませると、まだ片付け中だったジェンの腕を引っ張って、ジェイドの自宅へと向かった。

因果は巡る風車 〜 風の向く方向 〜 ( No.178 )
日時: 2016/10/16 14:59
名前: 詩織 (ID: lt5Nu10v)


因果は巡る風車 〜 風の向く方向 〜




「え?叔父さん留守なの?」
ほんのりと湯気の立つティーカップを片手に、ラヴィンが少し驚いたように言った。部屋にはラズベリーティーの甘い香りが漂っている。てっきり皆揃っていると思っていたのに、お茶の支度の整った部屋にはその主と、人懐っこい笑顔を浮かべる金髪碧眼の青年の姿が見えなかったのだ。

「ええ。また少し離れた街に用ができまして。社長はラパスとギズを連れてギリアを離れてるんですよ。まぁあと5日ほどあれば帰ってこられる予定ですけど。」
ジェイド宅のダイニング。
卓上のドーム型ケーキを切り分けながら、アレンが答えた。
「あなたたちが帰ってきたら、ここは勝手に使っていいと言ってましたからね。ほらこれ、社長が取り寄せてた果実酒につけた干しブドウの焼き菓子。ラヴィン、好きでしょう?」
「うん、大好き。帰ってきたら叔父さんにお礼言わなくちゃね。」
「ええ。悔しがってましたよー、早く旅の話が聞きたかったみたいですけど仕事でどうしても出かけなくちゃならなくて。なんだかんだ言って、あの人も気になってたんでしょうね。」
クスリと笑って、アレンは手際よく菓子を乗せた皿を配ると自分も席に着いた。

日当たりが良い窓からは、春先の明るい陽射しが陽だまりを作っている。
少しだけ開けた窓からそよぐ風に、白いレースのカーテンが揺れた。

「それで?どうでしたか、調査の旅は。」
「仕事ですか?それとも私用のほう?」
ジェンが笑いを含んだ声で聞く。
「どっちもです。」
白状するように苦笑して、アレンが言った。
「実は私もね、気になってましたから。その、古代の魔法文字?とやらのこともね。どうだったんです?何か分かりましたか?」
楽し気な様子で尋ねるアレン。
いつもはジェイドのブレーキ役になることが多いから、こんなアレンもなかなか珍しい。
3人は代わる代わる、旅先で見てきた出来事をアレンに報告した。



「・・ふぅむ。・・それはまた・・・、なかなか興味深い話ですね。その青年−−トーヤ、と言いましたか。彼の話だと、過去としてだけじゃない、今現在にも関わる案件だということですね。」
「そうなの。もし本当にあの魔法を解こうとしてるのが悪い考えを持つ人たちで、その力を何かに利用しようとしてるとしたら・・。トーヤの話だと、古代魔法の正しい術式を踏まずにムリヤリ解除しようとすれば、何がしかあの土地への悪影響は避けられないって言ってた。暴発・・っていうのかな?それに何より、トーヤにはリーメイルさんのこともあるしね。」
言って、ラヴィンは焼き菓子を口に運んだ。
果実酒の染み込んだ生地はしっとりとしていて、干しブドウの甘酸っぱさが堪らない。
ラヴィンの好みをバッチリ把握している辺り、さすがのジェイドである。

「でもそのことはシルファがお父さんたちに相談してくれるっていうから大丈夫だと思うよ。魔法のプロだし。」
ラヴィンの言葉に、アレンが目を丸くした。
「おや、珍しいですね。いつもなら我先にと飛び出していくラヴィンが大人しく人に委ねるなんて。」
「・・なにようそれ。だってさぁ、仕方ないじゃない。私たち魔法のことなんて、ぜーんぜん分かんないもん。ねっ。」
拗ねたように言うと、隣のマリーに目を向ける。
マリーも、こくんと頷いた。

「だから今はシルファからの報告待ち。もしそこから必要があれば、ファリスロイヤでの待ち伏せだろうと悪い奴らを捕まえる作戦だろうと全力で参加するもんっ。」
「はいはい。ケガだけはしないで下さいよー。」
苦笑するアレン。

「ねぇ、ジェン。」
「ん?」
マリーに呼ばれ、ジェンは自分とラヴィンの間に座る彼女を見下ろした。
「あのトーヤの過去の中の話なんだけど。リーメイルが眠りの唄を使う時、石碑が出てきたよね?夜の、森の中で光ってる・・。」
「ああ、あれな。俺も思った。あれはきっと・・」
「ノエルさんの話に出てきた、女神エルスの掲示の言い伝え、よね。」
マリーの言葉に、ラヴィンも振り向いた。
「あ、私も思った!ノエルさんのご先祖様が見たエルス様って、あの時のリーメイルさんだったんだよね?!」


--------- 『淡い光が辺りを照らす中、その中心に、それはそれは美しい女神様の姿が浮かんでいるのをご先祖様たちは見ていたらしい。

言い伝え通り、薄金色の長い髪、宝石のような真紅の瞳をした女神エルスは、優しい微笑みを浮かべ手をひと振りした。

すると、光の輪が広がり、女神とその周りにあった石碑が燦然と輝きだす。
光は更に大きくなると、辺り一面を包み込み、流浪の民たちはあまりの眩しさに目を閉じた。
思わず意識が遠のくほどの光だったそうだ。』   −−−−−−−−−


そして彼らはそこに住み、女神の石碑を守り続けることを誓った。
ノエルの語った村の石碑にまつわる昔話。


夢物語のような言い伝えが、トーヤの昔語りによってその輪郭をはっきりと現してきた。

バラバラだったモノから糸は紡がれ、だんだんと1枚のタペストリーが編みあがっていくような感覚。

マリーは両手に包んだカップを口元に寄せる。
少し冷めた紅茶は、それでもまだ甘い香りが鼻孔をくすぐる。

「これから、どうなるんだろうなぁ。」
マリーの呟きに、皆それぞれの思いを馳せた。
窓の外。遠くで小鳥の鳴き声が聞こえている。

しばらく歓談した後アレンは仕事に戻っていき、3人はなんとなく夕暮れまで、ああだこうだと今回の出来事について話し合っていた。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

その日の夜。
ギリアから少し離れた、とある街の酒場 ---------

「おっせーよ!ったく。」
ドン、と音を立て煽っていたビールジョッキをテーブルに置く。
「なぁにうろちょろやってんだおめーは。」
「やだなぁ、別に遊んでるわけじゃないってば。」

わいわいと騒がしい夜の酒場。
そこここで乾杯の声が上がり、力自慢のごつい男たちが飲み比べで盛り上がっている。裏通りのここはあまり柄の良い店ではなかったが、酒にこだわる店主の趣味でかなりマニアックなものまで揃っていた。食事も見た目の雑さにしてはなかなかに旨かったから、ジェイドはたまの出張で訪れるこの店を結構気に入っている。

椅子に寄りかかり顔を赤くしたジェイドに、遅れてきたギズラードはいつものようにへらっと笑いながら言った。
「お疲れっすギズさん。」
爽やかに笑ってラパスが片手を上げる。
反対の手には豪快なぶつ切りの肉が刺さった串を持っていて、ギズは思わず喉を鳴らした。濃厚そうな茶色のタレには、肉汁がたっぷり混ざっている。
「あーもう腹減ったぁ〜。俺もその肉食いたい!」
「あいよ。おーいおっさん!この肉もう3本追加で!あと酒も追加ね!」
ラパスが振り返って声を上げると、奥から野太い店主の声で了解の返事が聞こえた。
「そんで?待ち合わせ時間まるっきり無視しといて、なんかいい情報は手に入ったか?」
呆れたようなジェイドの問いに、ギズラードはふふんと笑う。
「ま、ね。でもまずは腹ごしらえが先だよー。」
「俺らに荷物持たせたままあちこちふらふらしやがって全く。」
「仕事はちゃんとしたじゃんかー。せっかくここまで来たんだからさ。もう一つの仕事もね、しないとさ。ほら、俺ってプロ意識高いしー。」
軽口を叩くギズラードにジェイドは口をへの字に歪めるが、どれだけ冗談めかして言ってもこの男の仕事に対する意識の高さは本当なので、とりあえず否定せずに聞き流した。
それになんだかんだで長い付き合いだ。突然ふらっと出かけたかと思うと、いつの間にやらとんでもない情報を掴んでくるこの男の習性にはもう嫌というほど慣れてもいた。

運ばれてきた熱々の肉に目を輝かせかぶりつくと、感嘆の声が上がる。
「うっめー!肉やわらけー!やっぱ仕事の後の飯は旨いねぇ。」
上機嫌で頬張る。
幸せそうに飲み込んでから、ギズラードはジェイドとラパスに向かって言った。
「ちょっと面白いネタ仕入れたんだけどさ。聞きたい?」
「あ?なんだよ、俺たちの仕事に関係することか?」

こう見えて情報屋を名乗る彼はかなり口が堅い。
軽口ならジェイドが呆れるほど飛び出してくるくせに、掴んだネタを必要もないのに自分から語ることはしない男だ。
だから、ジェイドは少し意外そうに眉を上げた。

「いや、直接関わることじゃないけど。ほら、旦那が気にしてたあの城。」
「・・ファリスロイヤか?」
ピンと来て、ジェイドは丸めていた背を伸ばしてテーブルの方へ身を近づけた。
ラパスも少し前のめりになってギズラードの話を聞く姿勢をとった。
「ん、あの辺りでしばらく前に盗賊騒ぎがあったんだ。そこまでは知ってたけどその後音沙汰なかったからさ。どうなったのかと思って。被害も結構大きかったし。で、ちょっと情報仕入れにあちこち回ったんだけど、そしたらさ、出てきたんだよ名前が。」
「名前?」
「そ。あの、グレン公爵の名前がね。しかもそれが、ちょっと妙な話なんだ。」

因果は巡る風車 〜 風の向く方向 〜② ( No.179 )
日時: 2016/10/22 21:57
名前: 詩織 (ID: BYRZvQv9)

少し前、ルル湖付近にある鉱山の町で頻発していた盗賊騒ぎ。
貴重な鉱石は奪われ怪我人も続出。付近の街道を通る者たちも不安を募らせていた。
だが、ある時を境にその賊の集団はぱったりと姿を現さなくなったという。
そして一時期かなりの勢いで広がっていた騒ぎの噂もなぜか同じように途切れ、それに代わるように今度は別の噂で近隣の住民たちは盛り上がっているという。


「俺が前に仕入れてた情報だとさ、盗賊騒ぎはあの町のやつらにとってかなり深刻な問題だったはずなんだ。辺りの村にだってバンバン情報流れてきてさ。だけど最近じゃ噂もぱったり途絶えて、しかも結局その後どうなったのか誰に聞いても曖昧だった。」
「曖昧?」
ラパスが首を傾ける。
「そう。町のやつにそれとなく聞いても、もう大丈夫だとしか言わない。なーんか変だなと思ってさ。ま、ここからは俺のマル秘ルート情報なんだけど・・・どうやら箝口令、ひかれてるみたいだな。」
「箝口令・・誰にだ?」
「これは口外しないでくれよ、2人とも。」
身を寄せるように2人に近づくと、ギズラードは声を潜めて言った。

「例の、公爵様だよ。実際命令したのは町役人だけどな。あそこはグレン公爵家の領地だ。情報を手繰ってくと、どうやら命じたのはグレン公爵本人で間違いなさそうだな。」

さらに、とギズラードは小声で続ける。
「その後入れ替わるように出回ってる新しい噂ってのがさ。グレン公爵に関するものなんだよ、しかも公爵側に都合がいいような噂ばーっかり。人気取りみたいなやつさ。中にはホントかウソか物語並みにドラマチックな恋愛話なんかもあって、酒場でいい酒の肴になってるって。よりインパクトの強くて信憑性ある噂が流れりゃ、進展のない盗賊の噂なんかあっという間に薄れてくってわけだな。--- こりゃぁ裏で操作されてるね。」
「公爵がかぁ?町の噂を?」
眉を寄せて問うジェイドに、ちっちっと人差し指を左右に振って、ギズラードは訳知り顔で言った。
「人の噂をあなどっちゃいかんぜダンナ。尾ひれはつくしどこまで広がるか分かんねぇし、拡散したくない情報は早めに手を打たなきゃ一気に広がるよ。そういう時意図的に別の噂を流すのも常套手段。」

「もしかしてその公爵、その盗賊騒ぎになんか関わりがあったんすか?公になるとまずいような。」
ラパスが尋ねる。
「公爵自身かその関係者かまでは分からない。けど、実際盗賊被害にあった町のやつらには、見舞金として結構な額の金が支払われてる。もちろん公爵からね。」
「口止め料か?」
「だろうね。盗賊を捕まえる為の作戦云々とか都合良いこと言って情報を外部に漏らさないように通達を出す。その上で金を与える。」
「けどもともと盗賊の噂はもう流れてたんだろ?意味あんのか?」
「実際その後から盗賊は姿を消してるし、そもそも俺の情報じゃ、公爵側が押さえたかった情報ってのはどうやら盗賊そのものじゃないみたいだ。」
「どういうことっすか?」
「実は最後に盗賊騒ぎがあった日、現場に奴らを手助けする魔法使いが居たんだってさ。」
「魔法使い?」

何かに気づいたように顔をしかめるジェイドに、ギズは口の端を上げた。


「そう、魔法使い。黒いマントで姿は分からないけど、銀の髪と銀の瞳をしてたって。そいつのせいで鉱山の男たちはケガを負い、盗賊は姿をくらませた。そこからの口止め、情報操作・・・これをどうみる?」

ジェイドは黙ったままため息をついた。
グレン公爵の名と共に語られる魔法使いの名など、今のジェイドにはひとつしか浮かばない。しかも銀色の髪、瞳。もはや確定したようなものである。

「まさか、その盗賊騒ぎにクロドの奴も関わってたりするのか。」
ギズラードはニヤリと笑みを浮かべたまま言った。
「さすがダンナ。俺の仲間が確認した情報によると、あちこちの飲食店で公爵の噂ばら撒いてる奴らの中に、幾つか知った顔があったってよ。--- クロドの部下だ。間違いない。」

2人のやりとりを眺めていたラパスが困ったように口を挟んだ。
「えっと、どういうことっすか。クロドって、あの、商人の?確か隣国に行ったんじゃ・・。」
ギズラードはジェイドを見る。2人の視線を受けて、ジェイドは仕方なさそうに再びため息をつく。
「ギズ、頼む。」
「あいよ。」
ジェイドの様子から全てを察したギズラードは、以前ジェイドには伝えていたクロドとグレン公爵、そしてユサファ・ライドネルの関係についてラパスに語った。


ジェイドは迷っていた。だから、ラパスにも、アレンにさえもこのことは伝えていなかった。必要となるギリギリまで黙っていたかったのだ。
(シルファ・・。)
ラヴィン、ジェン、マリー、ラパス、アレン・・。大切な店の仲間の中に、最近加わったもう1人。
最初は緊張で固くなっていた彼が、日が経つにつれて笑顔が増えていくのをジェイドは微笑ましく思っていた。
素直で裏表のない、実力主義の魔法使い一家で育ったにしては優しすぎるくらいの少年を、ジェイドだけでなく皆が好きになっていた。

だからこそ、確証もなく余計な水を差したくないとジェイドは考えていた。

年頃なりに色々と悩んではいるようだが、できればこれから歩む彼の道を、身近な大人の1人として後ろで応援してやれたらいいと思っている。


だから。
(なに考えてんだ、ユサファ・ライドネルは。)
裏世界と繋がる武器商人に、きな臭い公爵。シルファは多分知らない。父親が、そんな奴らと手を組んでいるということを。だがもし『ライドネル家』として動くことがあれば、シルファも巻き込まれることは必須だろう。できれば、そうなって欲しくはないのだが。


「ダンナ?聞いてる?」
ギズラードの声にハッとする。
「あ、ああ。悪い。なんだって?」
「だからさ、俺も今別件の仕事で情報集めてて。グレン公爵についてもうちょい突っ込んだネタが欲しいなと。」
「だからなんだよ。俺はそんなネタ持ってねーぞ。」
「ダンナは持ってなくってもさ。ほら、いるじゃん、お得意様のお偉いさん方。」
ウォルズ商会はその専門性と質の高さで今や王都でも名うての商店である。
城にも出入りするし、貴族からの個人的な注文も請け負っている。

人の悪い笑みを浮かべてギズラードは笑った。
「こっちもいっちょ手を組んで情報交換しないかい。俺はこのままクロドと部下の情報を追う。ダンナはギリアに帰ったら得意先回ってグレン公爵の情報を集める。どう?」
ジェイドはふむ、と頷いて考える。

「情報はさ、多い方がいいよ、いざという時。」

酒のジョッキを手に取りながら、ギズラード言った。

「今回の動きがダンナたちに関わると決まったわけじゃない。こっちから関わらなければなにも起きないかもしれない。けどさ。クロドとは昔のことがあるから、俺は少し心配してるんだ。あいつは執念深い奴だし、ダンナの店を恨んでてもおかしくない。それに・・。」
酒をひとくち飲んで、口を拭う。
瞳は鋭くジェイドを捕らえながら。
「もし何かあった時・・・、あの子、切るつもりないんでしょ。」



『あの子』・・ライドネル家の少年を。
ジェイドはギズラードを睨んだ。
「当たり前だ。」
その答えに、ギズラードは笑みを浮かべる。いつもの飄々としたものと違った、柔らかい笑みだ。
「だったらさ。何が起きても守れるように、情報だけはもっとかなきゃね。」
「わーかったよ。その話乗った。手分けして情報集めようぜ。」
「よっしゃ!それでこそダンナ。」
ギズラードは破顔して、ジョッキを差し出した。
「もっかい乾杯!そんで宿に帰ったら、さっそく作戦会議だ。」


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