コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜② ( No.150 )
- 日時: 2016/07/02 22:17
- 名前: 詩織 (ID: ZHKrBVHH)
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「ルーファスの野郎、陰険な魔法使いやがって!」
吐き捨てるように言うトーヤをいつもなら咎めるラウルだったが、今は何も言わず厳しい顔つきで窓から外を眺めている。
あの書簡から4か月。
たったそれだけで、この地の在り様は一変していた。
平和な時なら日中のこの時間は外で騎士たちの訓練が行われているはずで、この部屋にも、かけ声や剣戟の音が響いてくるのが日常であった。
けれど、今はそれすらも聞こえない。
静かだった。
日々緊迫していく空気の中、城の者たちはそれぞれの役割の為に振り分けられた持ち場についている。
「失礼します。ラウル様、いらっしゃいますか。」
扉の向こうから聞きなれた声がして、ラウルは振り返ってここにいると告げた。
「ただいま戻りました。」
軽く一礼をして、ジルが室内へと入って来る。
「例の場所の準備が整いました。一度確認をお願いできますか。」
「例の場所って、前に言ってた信者たちを匿う場所のことか?」
ジルの言葉にラウルが答えるより早く、トーヤが口を開いた。
今、領地内における神殿の立場はかなり厳しいものとなっている。
城を中心に、ルーファスを讃える者たちが後を絶たない。
そうさせる出来事が、この4か月でもう何度も起きていたからだ。
起こされていた、と言った方が正しいかもしれない。
民衆の心を神殿から引き離す為に、リアンとルーファスは計画を実行する手を緩めることはなかった。
その渦中、民衆の中でも、城を支持する者たちと神殿を慕う者たちの間に少しずつ溝ができている事に、リーメイルを始めラウルや神殿の面々は危機感を抱いていた。
トーヤの質問に頷いて返しながら、ジルは渋面を浮かべる。
「どうした?」
ラウルが問うと、ジルは悔しそうに視線を下げたまま言った。
「・・・帰り道、城下の様子を見てまいりました。やはり、状況は芳しくありませんな。」
「そうか。」
ラウルがため息をつく。
「私は若い頃、修行の為に他国を訪れたことがあります。そこで見た光景を、思い出してしまいました。」
言葉を切ったジルに、ラウルが視線で先を促す。
ジルは言いにくそうに、その重い口を開いた。
「その国には古くから人々に信仰されていた神がいました。ところが、丁度私が滞在していた頃、新しい宗派が起こり、人々は新と旧、それぞれの宗派に分かれて争うようになりました。」
「・・・それで?」
「ええ。新しい宗派が広まる中、古い宗派は追いやられ、異端宗教として・・・迫害が始まりました。歴史の中では、よくあることなのでしょうが。」
「・・・・・」
「私は旅の途中でしたから、その後どうなったかは存じませんが・・。迫害された側の、特に弱き者や貧しい者たちはかなりの苦境を強いられたようでした。ふと、そんなことを思い出してしまって。」
沈黙が落ちる。
その沈黙を破って、トーヤは荒々しく叫んだ。
「そんなこと!させるわけないだろ!大体、なんだよ異端って。神殿派だとか城派だとか言ったってなぁ、結局おなじ女神エルスを信仰する仲間だろ?少なくとも、一般人たちは。ついこないだまであんなに平和にやってきたじゃないか、ずっと、ずっと!!」
堪らないというように、吐き出すと、ラウルに向かって言った。
「ルーファスの魔法を解く方法はまだ見つからないのか?!もう我慢できねえよ!あいつを捕まえて力づくでも追い出そうぜ。魅了だとか記憶操作だとか、結局は洗脳だろ?レフ・ラーレの魔法陣だって、このままじゃ・・・!!」
「落ち着け、トーヤ。」
低い声で、ラウルが制する。
「気持ちは分かる。だが、なんとか方法を探すんだ。あの者は確かに常軌を逸しているが、その魔力は本物だ。こちらも然るべき対策を立てねば。それに無策な強行にでれば、必ずや民にその余波が行く。」
「だけどっ・・」
「今、リーメイルが城に行っているはずだ。」
「!」
「あの子と私で、なんとかリアン様に思いとどまっていただくよう説得を続ける。お前はいざという時の為に、民たちをどう護るかを考えろ。いいな。」
悔しそうに唇を噛み、けれども反論はしない。
神殿長である父親が、どれだけ悩み抜いた上での言葉なのかを、分からないほど子供ではなかった。
今、この事態を最も憂い、そしてこの神殿の責任全てを背負っているのは、まぎれもなく父ラウルであるのだから。
黙ったままのトーヤに、ジルが言った。
「では、トーヤ様にも避難所の件、ご報告致します。ご意見があれば、なんなりと。」
ジルは真剣な顔でトーヤを見ると、傍にあった机の上に手に持っていた資料を広げた。
それは、この辺り一帯の地図だった。
「かねてから進めていた、いざという時に信者たちを匿う為の避難場所計画です。この地よりルル湖を挟んで対岸の、さらに山あいの地中に坑道を利用した隠れ家を準備していたのですが、それがほぼ完成しました。あとは、万が一奴らに感づかれた時の為に、周りに魔法で罠を幾つか仕掛ける予定です。」
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜③ ( No.151 )
- 日時: 2016/07/16 21:13
- 名前: 詩織 (ID: cFR5yYoD)
「まだ決心はつかないかい、リーメイル?」
執務机で書き物をしながら、軽い口調でリアンが言う。
来客用のソファにかけたまま、リーメイルは答えた。
「ええ。もちろんよ。あなたに考えを変えてもらうまで、私は諦めないわ。」
今は2人しか居ない自分用の執務室で、書類から目を離さないままリアンは小さく苦笑する。
「君の強さは知ってるよ。だが同じくらい、君の賢さも理解しているつもりだ。・・・このままこうしていても無駄なことくらい、分かってるだろ?」
「お褒めにあずかり光栄だわ。でもね、私、あなたが思う以上に諦めが悪いのよ。それも覚えておいて。」
煽るようなリアンの言葉には乗らず、淡々とした口調でリーメイルは返す。
この数か月、必死に説得をしてきたが、彼の意志が変わることはない。
焦って感情的になればなるほど、彼との溝は大きくなっていくような気がした。
この計画の恐ろしさや無謀さをいくら説いても、もしくはいくら非難しても、リアンは頑なに心を閉ざすばかりで、リーメイルたちの声は届かない。歯がゆいが、リーメイルはやり方を変えることにした。
逸る気持ちを抑え、努めて冷静に振る舞い、少しでも彼の本心へ近づこうと自分を律して、彼との交渉役を引き受けているのだ。
リアンに何があったのかは分からない。
けれど、こうして関係を持っていくうちに、いつか自分に心を開いてくれたら。
自分を信頼し、頼ってくれたなら。
もっと近づけたなら・・・・・ルーファスよりも、もっと近くに。
その様子にリアンは少しばかり目を大きくして彼女をみたが、それはほんの一時で、すぐに視線を書類へと戻した。
「冷静だね。理知的な女性は嫌いじゃない。」
「そう。私もあなたのことは好きよ。大切な友人として。だから」
立ち上がって机の前まで歩く。
目の前に立ち、彼を覗き込むようにして言った。
「計画を中止して。ルーファスを止めて。今なら、まだ間に合うわ。」
お願い、と訴える真剣な目を見上げ、けれどリアンはすぐに視線を下げた。
「今日はこれから会議がある。長くなるだろうから一度帰るか・・、なんならこのまま泊まっていっても僕は一向に構わないが?」
からかうように言いながら席を立つ。
「残念だけど帰らせていただくわ。今、神殿はとても忙しいの。誰かさんのおかげでね。」
リーメイルの返事に肩をすくめ、リアンはそのまま部屋から出て行った。
リーメイルは大きくため息をつき、ソファに腰かける。
やり方を変えてはみたが、果たしてこれでいいのか、自信はなかった。
もう、時間がないのだ。
事態が悪化し先行きが見えなくなるほどに、焦りや不安や怒りが混ざり合ってどうしようもない気持ちになる。
(トーヤたちは大丈夫かしら。ジル様が今日は避難場所の確認に行かれているはず。うまくいっているといいのだけど。)
目を閉じると、神殿の人々や街の人々の顔と共に、最近頻繁に起こる、神殿を貶めるような事件の数々が思い浮かび、リーメイルの表情は暗く沈んだ。
------- はじまりは、小さな噂から。
神殿の騎士が、街の住人に乱暴を働いたという噂が出始めた。
他にも、とにかく小さな被害が頻繁に報告されるようになっていった。
たかが噂。
けれど、リーメイルは嫌な予感がしていた。
レフ・ラーレの魔法陣によってファリスロイヤ城へと集められている魔力。
その影響が、少しずつ現れ始めていたのだ。
空気の中に時折感じる、ピリピリとした妙な気配。
ふとした拍子に感じる平衡感覚のわずかな狂い。
魔法が使える者たちは、その街全体を覆う違和感に不安を隠しきれずにいる。
魔法とは関わりなく暮らす一般の民たちでさえ、なぜかは分からないなりに、妙にそわそわしたり、イライラしたりと感情に波がたちやすくなっていた。
そんな雰囲気の中で、噂は次第にひどくなって広まっていく。
あからさまな嫌がらせだとトーヤは憤っていたが、リーメイルはこれで終わるとは思っていなかった。あのリアンとルーファスが、こんな単純な嫌がらせ程度で事を運べるとは思っていまい。
予想通り、次の手が打たれたのはその翌月。
魔法使いたち数人が、街中を歩き回るようになったのだ。
ルーファスの助手を名乗る、皆見たこともない容貌の、異国の魔法使いたち。
その不思議な雰囲気に加え、ルーファスと同様、彼らも賢かった。
そして、人目を惹く魔法も使った。
街の中では次第に民たちの人気を集め、彼らが街頭に立ちルーファスやリアンの手腕について論じれば、人々は周りを取り囲み、彼らの話に聞き入った。
環境的にも精神的にも不安定になりつつある暮らしの中で、人々の不安感が募れば募るほど、城の魔法使いたちへの人気は増してゆく。
そして、彼らが人々の心を掌握すればするほど、リアンの政策に反論し、抵抗する神殿への疑念は、人々の間に少しずつ波紋を広げていった。
(なんとかしなくちゃ。同じこの地に暮らす皆が、争ってはダメ。)
リアンにはああ言ったけれど、リーメイルの心は揺れ始めていた。
これ以上神殿への不信感が募れば、もう今までのようにはいかないだろう。
このままでは人々が何を信じて良いのか迷い、不安の中でバラバラになってしまう。
大地にも、魔法陣の影響が色濃い。
レフ・ラーレの魔法陣は、今、どんな状況なんだろうか。
暴発の危険は?
いっそのこと、リアンに従い自分が城に入れば。
そうすれば、直接魔法陣に対峙できる。
もう引き返せないほど魔力が集められているとしたら、少しでも被害が少なくて済むよう自分が魔力のコントロールに力を注げば・・。
その対価として、神殿がこれまで通り活動を続けられるよう、リアンに交渉してみようか。神殿で女神に心身を捧げる巫女や騎士たちのことも守れるように。
『聖女』と呼ばれ神殿の象徴となっていた自分が城に入ることで、神殿を守ることができるとしたら。
(神殿と全面的に争うことなく、私の力と民からの支持を手に入れることは、リアンとルーファスにとってもメリットが大きいはず。そうしておいて、ゆっくりと時間をかけて、ルーファスの魔法を解除していけば・・。)
迷いの中、必死に可能性を模索する。
(私は諦めないわ。例え、どんな方法を選んだとしても。皆を、守るの。)
ひとつ大きく深呼吸して、リーメイルは立ち上がると、足早にリアンの部屋を後にした。
けれど彼女の願いもむなしく、再び事件は起きた。
その日、今年も雨乞いの儀式を行う為、リーメイルは前回同様祭壇に立って空を見上げていた。
(・・・空気の流れがおかしい。やはり、魔法陣の影響が強くなってきているんだわ・・)
天候、土の具合、森の生き物たち・・・
最近では魔法の気配だけでなく、この土地を取り巻く様々なものからの歪みのような現象が顕著になっている。
今年の天候不順の原因は分かり切っている。
意を決し、楽の音に魔法の言葉をのせ、高く響かせた。
空に向かい、凛と澄んだ瞳で歌い上げる聖女を、集まった民衆は期待を込めて見つめていた。
からからに晴れていた空が、次第に灰色の雲に覆われてゆく。
人々は、前回の奇跡のような場面を待ち望み、期待を込めて空を見つめた。
けれど、訪れたのは。
「っ!!」
曲の途中で、突然歌が止んだ。
皆が祭壇に目をやれば、そこには苦し気にしゃがみこんだリーメイルの姿。
「リーメイル?!」
後ろで控えていたトーヤがすぐに駆け寄る。
「おい!大丈夫か?!どうした?」
「・・・・れて・・・」
「は?なんだって?」
リーメイルはトーヤの服を掴むと、絞り出すような声で必死に告げた。
「・・皆、ここから離れてっ!!」
その声の直後。
真っ黒く空を覆った雲から鋭い稲光が射し、そのまま恐ろしいほどの轟音が鳴り響いた。
あちこちから悲鳴が泣き声溢れる。
「雷が落ちたぞ!!!」
「雨は降ってないぞ?!儀式はどうなったんだ!」
場は騒然となり、逃げようとする人々はパニック状態に陥りつつある。
怒号が飛び交う中、容赦なく次の稲光が走った。
「トーヤ!!騎士たちで街の皆を誘導して!ここから逃がすのよ!」
トーヤに支えられて立ち上がると、リーメイルは空を見上げた。
「魔力のコントロールが効かないの!思ったよりずっと、磁場が歪んでるんだわっ!とにかく急いで、この場から離れなくちゃ!」
リーメイルの必死な叫びに、トーヤは頷く。
近くにいた巫女たちに彼女のことを頼むと、騎士たちを集めて民たちのもとへと駆けていった。
そのまま倒れそうになったリーメイルは、巫女たちに支えられなんとか避難する。
----- 結局、儀式は失敗に終わった。
死傷者こそ出なかったものの、その恐怖は人々の不安を煽ることとなり、結果的に神殿への更なる攻撃の口実を与えてしまったのである。
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜④ ( No.152 )
- 日時: 2016/07/16 21:19
- 名前: 詩織 (ID: cFR5yYoD)
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「そろそろ・・、潮時でしょう。」
静かに、ルーファスが言った。
「・・・そうかもな。」
リアンは、それだけ答える。
暫くの静寂。
「まだ、未練がおありで?・・・彼女に。」
ルーファスの淡々とした問いに、リアンはふ、と口の端を上げた。
「そんなわけないだろ。あの魔力が魅力的だと言ったのはお前だ、ルーファス。」
ルーファスが微笑む。
「そうでしたね。彼女自らの意志でこちらに加わってくれるなら手間が省けると思って少々遊んでしまいました。けれど、それはあなたも同じでしょう?ご自身の奥方の座を与えてまで呼び寄せようとしたのはあなただ。」
くすくすと笑いを漏らすルーファスに、リアンは表情を変えずに返す。
「分かってる。俺の酔狂だ。気にするな。」
「では。」
ルーファスは、声音を戻した。
「かねてからの計画通りに。よろしいですね?」
「ああ。」
「では、そのように。」
ルーファスは深く一礼をする。
「魔力を引き出させるだけならいくらでも方法はある。・・いい頃合いではないですか。魔法陣は素晴らしく順調。これからしばらくの間、魔力の揺れは激しくなるでしょう。苦しみや・・不安や恐怖が募れば、おのずとはけ口を求めるのが人間というもの。恐怖で歪んだ人間の心ほど、御しやすいものはございません。」
ルーファスの言葉を、リアンは黙って聞いている。
ルーファスも、そのことに返事を求めたりはしなかった。
そのままもう一度会釈をすると、そのまま静かに、部屋から退出していった。
窓辺に佇んで、リアンは呟く。
「僕は選択肢を与えた。・・・選んだのは君だよ、リーメイル。」
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑤ ( No.153 )
- 日時: 2016/08/14 13:42
- 名前: 詩織 (ID: njcqYR8N)
「これでよし、と。」
ジルはその絵を見上げ満足そうに頷く。
「これで中の整備もほぼ終わりですね。急ごしらえの割には、なんとか安全性を確保できて良かったです。」
「そうだな。」
ジルの言葉に、ラウルも頷きながら飾られた絵を眺める。
「皆、よくやってくれた。」
リアン、ルーファスを支持する街の人々と、神殿を慕う人々の間の溝は、日を追うごとに深くなっていく。
それだけではない。天候不順から農作物や薬草が育たず、不安定な魔力の影響もあり、人々の心は荒んでいた。募る不安やストレスには、はけ口が必要になる。
神殿が関わる人々は、主に貧しく、弱い立場の人たちだ。
荒む人々の攻撃の矛先は、必然的にそこへ向かっていった。
近頃では神殿が援助する養護施設の子供が、城派の家の子供たちに囲まれ暴力を受ける事件も何件か発生していて。ラウルたちは話し合いの末、少しずつ、身を護る術を持たない者たちを隠れ家に誘導し匿うことに決めた。
地下坑道の薄暗い通路に、魔法で灯りをともす。
その壁部分には、それまで神殿に飾られていた女神エルスの絵画を運び込んで飾った。
「この絵を神殿から動かすことになるとは・・。」
ジルが悔しそうに言う。
もしもこのまま話し合いが平行線をたどり、両者の決裂が決定的となった場合。万が一神殿が戦いの場になった時のことを考えて、ラウルたちは事が収まるまでの間、それらをここに置くことを決めたのだ。
代々受け継がれてきたこの美しい女神の肖像を守る為、そして、ここに避難してくる不安を抱えた人々の心の支えとして。
「なに、ほんのしばらくの間さ。すぐにまた平和な暮らしが戻り、民たちも平常心を取り戻す。この地は、女神エルスの守り地だ。」
「そうですね。あとは・・、奥の祈りの間に、女神像を置きましょう。女神への祈りの時間は信者たちにとっての何よりの心の支えですからね。」
目の前の父と仲間のやり取りを聞きながら、トーヤは、幾枚も並べて飾られたその絵を眺める。
生まれた時から毎日見てきた、女神エルスとそれを慕う人々が描かれた絵。
ジルの言うように、まさかこんな場所で見ることになるとは思いもしなかった。
絵の中、幸せそうに微笑む金色の女神を見つめ、トーヤは大切な少女のことを考える。
(女神エルス。どうか、リーメイルを・・神殿の皆を守れるように、俺に力をお与えください。)
握る両手に、思わず力がこもった。
「大変ですっっ!!!」
突然、坑道の中に悲鳴じみた男の声が響き渡った。
「ラウル様っ!!ジル様っ!トーヤ様もっ!大変なことが!!」
「何があったっ?!」
駆けこんできた若い騎士の1人にジルが鋭く問う。
息を切らせた騎士の青年は、青ざめた顔で3人を見回すと、震える声で告げた。
「ファリスロイヤ城から、新たな声明が出されました!リアン様が・・・、神殿が・・城には内密に禁を犯した魔法を使っていると・・。城から独立する為に、魔力をコントロールしこの地の所有権を握ろうとしているのだと仰せられました!最近の異常な天候や街中の不穏な空気も、原因に我らの名を挙げられて・・」
「何をバカな!!それは彼らの方ではないか!」
「待てジル、それより続きを。」
いきり立つジルをラウルが素早く制し、騎士に先を促した。
「人々の心を惑わし均衡を不安定にさせ、なおかつその悪しき魔法の中心であった人物は、女神エルスの名のもとに『聖女』を騙った巫女リーメイル・・」
一瞬言葉を失った3人に、騎士の青年はそのまま一気に告げた。
「城から兵が出されました!リアン様がっ、巫女でありながらこの地を脅かす、ま、『魔女』リーメイルを・・捕らえよと仰せに・・・!!」
「リーメイルはどこだっ?!」
トーヤが騎士に掴みかかるようにして叫ぶ。
「数刻前、施設の子供たちのところへ行くと神殿を出られていて・・!」
「ちっ!!」
大きく舌打ちすると、すぐさま走り出す。
「トーヤ!移動の魔法陣を使え!」
ラウルが叫ぶ。
通常の出入り口とは別に、緊急時用にこの隠れ家と神殿を結ぶ魔法がかけられている魔法陣。
「トーヤ様っ。連絡があってすぐに、神殿に待機していた騎士たち数名が街に救出に向かいました!何かあればすぐこちらにも連絡が!」
「わかった!」
振り向きもせずに返す。
湧き上がる怒りに、目の前が真っ白になる。全身の毛が逆立つのを感じた。
そして、リーメイル。
(どうか、無事でいてくれ!)
祈るような気持ちで、トーヤは移動の為の魔法陣に飛び込んだ。
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑥ ( No.154 )
- 日時: 2016/07/31 21:19
- 名前: 詩織 (ID: dPcov1U5)
「状況はっ?!」
神殿に到着するなり駆けだしたトーヤは、待機していた騎士を捕まえて問う。
「は、はいっ!先ほどリーメイル様を探しにヤルクたちが数名で街へ・・」
「トーヤ様っ!!」
騎士の男が状況を説明しようとしたその時、入り口の方から数名の騎士たちが駆け寄ってきた。
「ヤルク!リーメイルは?!」
「それが・・」
先頭を駆けてきたヤルクと呼ばれた若い青年騎士が、はぁはぁと荒い息をつきながら頭を下げた。
「申し訳ありません!俺たちがリーメイル様を見つけた時には、既に城の兵たちに囲まれているところで・・。戦ってでも連れ帰ろうと一度は剣を抜いたのですが・・。」
ヤルクは悔しそうに拳を握りしめる。
「リーメイル様が・・・剣を引けと。回りにいる民たちや、私たちのことを考えてのことだと思います。」
『剣を引いて。争ってはダメ。』
毅然としてそう言ったリーメイルは、そこでふと表情を和らげた。
安心して、と言うように。
『城へ行き、リアンと話をしてくるわ。私は大丈夫だと、神殿長様やトーヤたちに伝えて。・・迎えに来てくれて、ありがとう。』
ふわりと笑って、そのまま兵と共にファリスロイヤ城へと連れられて行ったという。
「くそっ!」
トーヤは握った拳を壁に叩きつけると、そのまま踵を返して駆けだした。
「トーヤ様っ?!どこへ・・っ」
「城へ行く!!」
足を止めることなく叫ぶトーヤに、騎士たちは顔を見合わせる。
皆同時に深く頷くと、トーヤの後を追って駆けだした。
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「やあ、トーヤ。久しぶりだな。」
ファリスロイヤ城正門前。
トーヤは現れた幼馴染を怒りに満ちた瞳で睨み付ける。
城に抗議に向かった一向は、正門の前で兵たちに行く手を阻まれ、口論の末強行突破しかないと剣に手をかけた時。
門の向こう、たくさんの兵と従者に囲まれたリアンが姿を現した。
「リアン、お前!!リーメイルをどうした?!いい加減に目ぇ覚ませ!」
「相変わらず一方的だな。まあいい。リーメイルは今、城内で査問会にかけられている。口出しは認めない。」
「あいつを捕らえて、一体どうするつもりだ?まさかお前・・・」
口を慎め!とリアンの横にいた兵が怒鳴る。
リアンは表情を変えずトーヤを一瞥した。
その瞳が、今まで見たこともないほど冷たい光を宿しているのを、トーヤはひしひしと感じた。
「彼女は強い。聡明で美しくて・・けれど、もう遅いんだ。神殿なんて捨てて、最初から僕の元にいたらよかったのにな。」
その言葉にこもっている感情が何なのか、トーヤには分からない。
リアンはトーヤたちに背を向けると、そのまま城へと向かって歩き出した。
「おい!待てリアン!」
追いかけようとするトーヤを、兵たちが阻んだ。
「あいつに罪を着せて、神殿つぶして!それでどうするつもりだ?!お前らが手をだした魔法陣は、俺たちがいなくなったって変わらない!この地を破滅させるかもしれないんだぞ!そうまでしてお前が手に入れたいものはなんなんだ?!」」
リアンは答えない。
城へと歩き出しながら、一度だけ振り返った。
「ああ、そういえば彼女からの伝言だ。『私は大丈夫』だと。・・彼女らしいな。」
それだけ言うと、トーヤがいくら呼んでも、もう歩みを止めることはなかった。
「待てリアンっ!!」
思い切り伸ばした手は、叫んだ呼び声は、幾重にも立ちふさがった兵たちに阻まれ彼のもとへは届かない。
けれど、帰るわけにはいかないのだ。
大切なものを、取り戻さなければ。
「・・あいつは、返してもらうぞ。」
トーヤは、荒々しく剣を抜く。
後ろの騎士たちもそれに倣う。
兵たちの顔に緊張が走った。
張り詰める、緊迫した空気。
兵たちの後ろには、目深にフードを被った魔法使いたちが控えている。
ルーファスの助手たちだ。
それを見ても、トーヤは剣を構える姿勢を崩さなかった。
(リーメイルを取り戻す。)
彼の頭の中にあるのは、今、その想いだけだった。
けれど。
「お待ちください!!トーヤ様っ!!」
後ろから飛び込んできたジルに突然後ろから押さえられた。
「ジル?!どうして・・っ。」
驚きと非難の目を向けるトーヤに、ジルは声を潜めて告げる。
「落ち着いてください!こんな人数で城に攻め込んで、勝てるおつもりか?!」
「けど、あいつが・・っ」
「多勢に無勢すぎます!お気持ちは分かりますが一旦引いてください。戻って対策を練るのです。・・ラウル様からも、そのようにと・・。」
「っ」
2人の視線が交錯する。
にらみ合いは、けれどほんの数秒のことで、トーヤは苦し気に息を吐きだすと剣を鞘に納めた。
自分の激情だけで、ここにいる若い騎士たちを危険にさらすわけにはいかない。
「・・・皆、神殿へ戻るぞ。」
吐き捨てるようにそれだけ言うと、兵たちに背を向けた。
気遣うような視線を送りつつ、騎士たちがトーヤの後を追う。
ジルは険しい顔のままファリスロイヤ城を睨み、無言で踵を返した。
(リーメイル・・!待ってろ、必ず助けるからな。)
トーヤは唇を強く噛みしめる。
『私は大丈夫よ、トーヤ。』
健気に微笑む彼女の声が聞こえた気がした。
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