コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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ジェイド・ドールと噂の古城③ ( No.5 )
日時: 2016/01/05 21:30
名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)

「ファリス一族の治めるルル湖北の地域ってのはとても豊かで、そこでしか手に入らない特産品も多かったらしい。水もきれいで土地が肥えていたから、果実酒造りも盛んでな。
珍しい植物も多かったから、それ目当てにやってくる研究者も多かったそうだ。それでまた町が潤ったんだろうな。」

「へぇ。ただの田舎町じゃなかったんですね。」
ジェンが感心したように言った。

「そうだな。基本は自然の恩恵なんだが、それをうまく整備して、町を潤わせて発展させたのは、ファリス一族がうまく治めてたからだよな。」
ジェイドも同意した。


「その文化の中には、今ではかなり貴重なものとされる知識や情報、技術なんかもかなりあったらしいんだ。
・・これはあくまでも伝承というか噂話なんだが、黄金城の財宝ってのは実際の領主の遺産・・つまり金やら宝飾品やらだな。という説が半分。
もう半分は、現物の遺産ではないんじゃないかって説だ。」

「どういうこと?」
ラヴィンがマリーの髪を撫でながら聞く。
マリーは諦めたのか大人しく撫でられながら、オレンジジュースを飲んでいた。

「その、ファリス領独自の希少価値の何か、ですよ。」
アレンが答えた。

「伝承では、ファリスロイヤ城の滅びた事件当時、ファリス一族の内部で反乱が起きていたらしいのです。

そこで、当時の領主の行動に反対した一族の誰かが、その事件のカギになる何か・・・、金なのか、それとも何かの道具か貴重な薬・・もっと言えば何かの情報や技術かもしれませんが・・・そういった何かを領地のどこかへと隠してしまったらしいんですね。

そして結局それがファリス一族が崩壊する原因になったようです。」

「・・それがファリスロイヤの『伝説の財宝』・・」
ふむふむ、とラヴィンがつぶやく。

「何か、か。随分あいまいだな。」
ジェンが言った。

「まぁ、そうですね。結局は伝承、正確な資料があるわけではないですから。」
アレンが苦笑した。

「ただ、研究結果では、ファリス領の文化は奥が深く、実はかなり高度な研究もされていたようですよ。
特に植物や農作物、薬学の分野なんかはね。
もし、もっと優れた当時の資料でも見つかれば、使い方によっては十分財宝という価値はあると言われていますよ。」

「「「へぇ〜」」」

ラヴィン、マリー、ジェンがそろって納得する。
三人がおんなじ顔で自分を見ているので、アレンは吹き出した。


「まぁね、ここまでは分かっていたことなんですが。結局のところ今まではそれがどこにあるのか、確たる証拠は見つかっていませんでしたからね。我々が直接関わることはなかったんですが。」

「ふぅん。それで?そもそもそのファリスロイヤの話とおじさんの巻き込まれたトラブルってどうつながるの?」

ラヴィンが皿に盛られた串焼きをつまみながら聞いた。肉と野菜を交互に串にさして焼いたもので、甘辛いタレがたっぷりとつけられている。


「そうそう、今回この件で社長が足止めをくらってたってことは、何か新しいことが分かったんですよね?実際、あの辺りを封鎖して特別許可がないと入れないっていうたいそうな処置までされたんだし。」

「ほうらの?らからおいさん、連絡がとれなくなってたんら。」
ジェンの言葉にラヴィンがもごもごと串焼きを頬張りながら言った。

「ああ。」
ジェイドが頷く。

「まず、俺とラパスはさっき話した商談の為にルル湖の南側にある町へ行ったんだよな。そんで商談は無事成立して、じゃあ翌日にはギリアへ帰るかっていう夜のことだ。酒場に飲みにでたら、その話で持ちきりだったんだよ。」
「その話?」


「ファリスロイヤ城に、国の調査団が入るって話さ。」

そうして、ジェイドは今回の経緯を話し始めた。

第2章 ジェイド・ドールと噂の古城④ ( No.6 )
日時: 2015/05/27 16:11
名前: 詩織 (ID: yvsRJWpS)

『国の正式な調査団がファリスロイヤ城に入る』


 その話を耳にしたジェイドとラパスは興味津々、どの道帰る方角だよなぁ、そうっすよね!ということで。
ファリスロイヤ城の様子を見ていこうと、少し寄り道をした。
ところが、ここで思わぬアクシデントが起きた。
そして連絡の取りようのないまま、帰りの予定が大幅に狂ってしまったという。


「酒場では、『あのルルの城の謎がついに解けるのか?』ってそりゃあ盛り上がってたんだぜ。」
ジェイドが言った。
「その話を聞いた俺たちも興味があったからな、帰り道のルートを少し変更してルル湖の北側へ回って行くことにしたんだ。
この時点では現場の様子を見物したらそのまま予定の期日までには帰るつもりだったからな。特に連絡もよこさず悪かったと思ってる。すまんな、心配かけて。」

皆を見回しながらすまなさそうに話す彼に、アレンが穏やかに微笑んだ。

「今回は無事に戻ってきたんだし、いいとしましょう。それに、そういう話に目がないあたりは社長の社長らしいところですよね。」
社長らしいところですよね、のところで、ジェイド以外の全員がうんうんと強く頷いた。

「はは、そう言ってくれると助かるな。」
ジェイドは頭を掻きながら笑った。


「国の調査団って、国が正式にあの遺跡を調査するってことですよね。何か、それを裏付けるものが見つかったってことですか?」
ジェンが聞いた。

「そうらしい。一般には伏せられているが、何か確実性の高い情報が手に入ったことは間違いなさそうだ。」
「それで?調査団が来るのを見てたんでしょ?何があったの?」
ラヴィンがジェイドとラパスを見ながら言う。
二人は顔を見合わせたが、そのままジェイドが話を続けた。

「事故だよ。」
「事故?!」
ラヴィンがびっくりして目をぱちくりさせる。
他のメンバーは、二人が帰ってきた時点で簡単には説明を受けていたらしく、黙って三人のやりとりを見ていた。



 その日、現地の町に着いたジェイドとラパスは、城のすぐ近くの丘の上からわくわくしながら調査団の様子を見ていたという。

城の入り口付近には、大きな調査道具らしき荷物を背負った調査員たちが集まっていたが、団長らしき人物の指示で、衛兵を数人残し全員中へと入っていった。
城のまわりには彼らの持ってきたらしい紋章の旗が掲げられ、関係者以外は立ち入りが禁止されているようだ。


「・・ん?」
その光景を眺めていたジェイドだが、ふと違和感を覚える。

「・・なぁラパス、あの旗・・。」
「・・ええ、そっすね。あれは確か・・。」
ラパスが言いかけた時。


突然鳴り響いた轟音と共に、城の一部が崩れるのが見えた。




「爆発?」
またもやラヴィンが驚いた声を上げた。

「ああ、ファリスロイヤは本館の両脇、西と東にそれぞれ塔があるんだが、その西の塔の一部が突然爆音を上げて崩れたんだよ。あんまりいきなりだったもんだから、こっちも驚いたのなんの。まわりで見物してたやつらも唖然として突っ立ってたなあ。」


ジェイドの話によると、彼らが遠巻きに見守る中、突然西塔で爆発音がし、塔の一部が崩壊。そして、もうもうと立ち込める煙の合間から、崩落したがれきの下で恐慌状態の調査員たちが見えた。彼らもまた何が起きたのか理解していないようだった。


・・その日は、晴れ渡った冬空だった。
なだらかな丘と森の続く、緑豊かな大地。
湖と、そのほとりに静かに佇む石造りの古城。
そんなのどかな風景が、突然一変した。

それまで見ていた風景とは、あまりに異質な出来事である。
呆然としていたジェイドとラパスだったが、ハッと気を取り直し、すぐさま彼らの救出に向かっていった。

動ける人間を集め、大きな瓦礫の下敷きになった人々を助け出し、怪我人の治療に奔走した。
時間はかなりかかったが、とりあえずはなんとか全員を無事救出することができた。
怪我人は大勢いたが、幸い死者はおらず、調査員たちは涙を流して仲間の無事を確かめ合っていた。



「良かった。怪我だけですんだんだね。皆助かったし。」
ラヴィンがほっとしたように言った。
「ああ、そうだな。」
答えながら、ジェイドの脳裏にあの時の光景が浮かぶ。


助かった彼らをみてほっと一息つく二人だったが、多くの調査員が負傷していて、調査が続けられる状態ではないことは明白だ。とにかく全員を安全な場所に移してきちんとした治療をしなければ。
そう考え、調査団の代表者を探した。

自分たちは部外者だが、非常事態だ。

自分は一商人だが、これでも王宮や貴族からも注文を貰える程度には信頼と規模を持つ商人であり、この辺りの地域にも助けを求めるつては多くある。なにか手助けできるはず。そう思ってのことだった。

事実、王都には彼が懇意にしている名家も多い。王都から遠く離れたこの地でも仕事仲間は多く、彼が助けを求めれば、借りられる手は多いだろう。

だが。


「その必要はない。」
調査団の責任者を名乗る男は淡々とそう言った。

「・・必要ない?」
ジェイドは怪訝な顔で聞き返す。
この状況で助けが必要ない、とはどういうことかと。

「今、騒ぎを大きくするつもりはない。事態はここで収拾をつける。調査員の移動はしない。」
「大きくするつもりはないって・・。あのなあ、どう見てもこれは非常事態だろ。そんなこと言ってる場合か。」
男を睨むジェイドに、変わらず淡々とした声で答えが返った。

「規模は予想以上ではあったが、起こりうる事態としては想定内だ。我々で対処できる用意はあるのでな。」
「・・想定内って。・・おい・・。」
感情を抑えた、低い声でジェイドは男に問うた。視線は鋭く男を捕らえたまま。


「・・これは、何の調査だ。」


ただの考古学調査ではない。伝承の財宝などという曖昧なモノを、探しにきたわけではない。理由は分からないが、直感的にそう思った。

男は顔色を変えることなくジェイドを見ながら言った。
「一般人には関わらぬこと、責任者は私だ。指示は私が出す。ここは関係者以外は立ち入りが禁じられている。貴殿のような立場の人間がなぜこんな所に居るのか知らぬが、野次馬は終いにして即刻王都へと帰られるがよい。・・ジェイド・ドール殿。」

突然名前を呼ばれて、ジェイドは一瞬言葉に詰まる。
なぜ、自分を知っているのか。
問いただそうと口を開きかけたとき、男は後ろから仲間に呼ばれ振り返る。
そのままこちらに背を向けた。

「こちらは調査員の手当てと事態の調査で忙しい。話はここまでだ。失礼する。」

一方的に言い終わると、そのまま他の調査員たちのもとへ戻っていこうとした。
だが、ふと足を止め、振り返る。

「これは国が許可した考古学調査の一環である。興味がおありなら、調査の結果を大人しく待っているのがよかろう。・・・貴殿には貴殿のやるべき仕事があるだろうからな。」

そう言うと再び仲間のもとへと足を向け、もう振り返ることはなかった。




「・・社長、どうします?」
彼の姿を目で追いながら、ラパスが聞いた。しかし答えは分かっている。
「どうするも何も、このままほっとくわけにいくかよ。とりあえず、俺たちはできることをやらせてもらうぞ。」
ジェイドもまた相変わらず鋭い視線を男に向けながら言った。


(・・余計な詮索はするなということか。)


思うところはあったが、二人はそのままそこに残り、調査員たちの手当てや物資の運搬、食事の手配など、自分たちのできる範囲で手助けをした。
あの男はちらりとこちらを見たが、それ以降一切話しかけてくることはなく、こちらも近づかなかった。
両者は言葉を交わさないまま、数日が過ぎた。調査員たちの手当てがあらかた終わったのを見て、一段落したジェイドとラパスは現地を後にしたのだった。



「・・おじさん?どしたの?」
言われてジェイドは我に返る。
ラヴィンがきょとんとして首を傾げながら、自分の顔を覗き込んでいた。
「ああ、すまん。ちょっと思い出しちまってな。」
ラヴィンから視線を外し、ジョッキに残っていたビールを一気に飲み干す。

そんなジェイドの様子から、彼の迷いを読み取ったラパスがさりげなく後を引き継いだ。

「つまり、俺たちが野次馬してた城の調査中に、よくわからんけど何らかの事故が起きて、社長も俺もその手助けに奔走してたってわけ。人手も足りなかったしさ。そんでなかなか現場から離れられずに、連絡が遅れちゃったんだよ。現場が混乱してて、休む暇もなくてさ。」

軽い感じで肩ををすくめる。
ラヴィンに向かって、なるべく分かりやすく話した。


・・二人が感じた違和感、そしてあの男との会話以外の話を。

ジェイド・ドールと噂の古城⑤ ( No.7 )
日時: 2015/05/24 21:48
名前: 詩織 (ID: /a2DLRJY)

 「なるほどね。そういうことだったのかぁ。」
は〜っとため息をつきながら、ラヴィンが言った。

 ふと気がつくと、あちこちから聞こえてきていた笑い声や、にぎやかなざわめきが少しずつ消えている。
酒場で騒ぐ人々も一人、また一人と家路につくような時間だ。
マリーのジュースも空になっていた。

「うん、わかった。」
やっと事態が飲み込めたラヴィンは、うんうんと頷いた。
「子供の頃憧れてた遺跡に調査が入るって知って、冒険家の血が騒いじゃったってことよね、叔父さん。]
ジェイドを見て笑う。

「で、二人してわくわく見学してたら、その崩落事故がおきて。それでその救助や手助けに走り回ってたら、あっという間に数日たってしまった、ってことでしょう?」
「そうだなぁ。簡単にいうと、ま、そういうことだ。」
うーん、と大きく伸びをしながらジェイドが言う。


そして、調査はこれからどうなるのだろう、とか
ファリスロイヤ城の財宝って結局なんなの?とか
調査団の今後は?とかとか

話題は尽きなかったが、とりあえず調査は続行されるらしいから、大人しく見守ろうか、というところで話はひと段落した。


テーブルの上の皿はほとんど空っぽになっている。
うつらうつらと眠たそうなマリーを見て、そろそろいくか?と誰からともなく立ち上がった。

勘定をすまして、上着を着込むと、まだ底冷えするような夜の道を皆で歩き出した。


「でも良かったぁ。叔父さんもラパスも元気で。」
嬉しそうに笑うラヴィンの頭を、ジェイドの大きな手が優しく撫でた。

星のきれいな夜道を、ジェイドの店へと向かって歩いていく。
月明かりの下、石畳には五つの影。
そのひとつには、背負われた小さな影も。

「ふぁぁ。」
ジェンに背負われたマリーは、半分夢の中であくびをした。

「そのまま寝ていいぞ。」
優しい声で、ジェンがささやくように言う。
「・・んー。」
小さな返事らしきものが聞こえたあと、すうすうと静かな寝息が聞こえてきた。


「ふふ、マリー寝ちゃったねぇ。・・かーわいーなぁ。」
緩んだ顔をして、ラヴィンがマリーのほっぺをそっとつついた。
「ジェン、背中あったかいでしょ。」
「ああ、めちゃくちゃあったかいよ。」
ジェンが笑う。


「ねぇ!叔父さん!」
ラヴィンが斜め後ろを歩くジェイドを振り返って言った。
「私、しばらくこっちに居てもいいよね?」
楽しそうに笑う。
「ああ、いいぞー。ゆっくりしてけ。家には手紙、書いとけよ。」
はーい、とご機嫌な返事。
つられてジェイドも笑う。
アレンもラパスも、微笑んだ。


・・・あの場では話さなかったあの日の出来事。
知っているのはジェイドとラパス、そしてアレンの三人だ。


実は、ジェイドとラパス二人とも、現地に入る時点で、すでにいつもと違う空気を感じていた。

見物に来ていた一般人は、予想していたよりだいぶ少なかった。
その理由。

旧ファリス領の町に入る時点で、入り口に兵士が立っており、通行許可証の提示を求められた。普段ならそんなもの、もちろん必要ないのに。
それがなければ、あれだけ噂の出回っていた調査団派遣だ。野次馬はそれこそ辺り一面に溢れかえっていただろう。

最初は、人気のある遺跡だけに、見物客が押し寄せれば調査に支障がでるだろうから、その為の処置だと軽い気持ちで考えていた。

自分たちはこの町にも近隣の町にも商売仲間のつてがあり、今回は知り合いの地元有力者に頼んで特別に許可証を手配してもらえたのだ。

へへ、ラッキー。その時はそう言って、二人で笑った。

しかしいざ行ってみると・・。


明らかに人為的な爆発事故、あの男の言葉。
・・思い返せば羽織ったローブの下から見えた装飾具には、見覚えがある。


「ファリスロイヤに国から調査団が派遣された件は、もうすでに周囲に知られている。いずれ正式に発表があるだろう。それはいいんだ。」

二人が帰った日の夜、店の社長室に呼ばれたアレンとラパスに、ジェイドが言った。

「どうせ面白おかしく噂が広まれば、ラヴィンたちも知ることになるしな。・・だが・・。」
「その男のことですね。それと・・」
「ああ。」
アレンの言葉を肯定する。

「ただの遺跡調査には、俺にも思えませんけど。」
とラパス。


ランプの明かりが揺れる。
三人の影も揺れた。従業員たちの去った店はとても静かだ。

「気になる点はいくつかあるんだ。だが、まだはっきりしたことは分からない。そもそも俺たちには直接関わる話ではないのかもしれない。・・ラヴィンに話す必要は・・。」
「ありませんね、今のところ。」
アレンが含みのある言い方をした。

ジェイドは一瞬考えるそぶりを見せたが、結局首を横に振って言った。
「まぁとりあえずは静観だ。どうせ、まだ何も分からないしな。」
アレンとラパスも頷く。

「ジェンとマリーはどうしますか?」

ジェンとマリーは今、店にはいない。
取引先からの仕事の依頼の為、近くの町まで出掛けていたからだ。
ジェイドたちの帰宅に心から安堵して、入れ替わりに出発していった。
・・ラヴィンが聞いたのと同じ説明だけを受けて。

アレンの問いにジェイドは
「ラヴィンと同じだ。まだ何も分からないんだ。何か進展があったらその時言うさ。・・・余計な心配、させるこたねぇよ。」
と小さく笑った。




そして今夜。

「わぁ!ふかふかだ!気持ちいいなぁ。」
幸せそうにラヴィンがベットに沈む。
それを見てジェンが笑った。
「何でもいいけど、マリーをつぶさないでくれよ。お前の寝相、とんでもないからな。」
「そんなことないもん。」
ラヴィンが布団に埋もれたままむくれた声で言い、ジェンはまたくすくすと笑う。

店に戻った一行は、おやすみ、また明日な、とそれぞれ帰途に着いた。

アレンとラパスは仕事場の近くにある自宅へ。
ジェイドも店と同じ敷地内にある自宅のほうへと帰っていった。
ラヴィンも来るかと聞かれたが、迷った挙句、ジェンとマリーの部屋がある離れの研究室におじゃますることにした。


マリーの体温で温かくなったベットに潜り込む。
すぐに睡魔が襲ってきた。

「もっとしゃべりたいなぁ。」
睡魔と戦いながら、ラヴィンがつぶやいた。

「また、明日話せるよ。しばらくいるんだろ?」
ジェンが静かに言う。
「・・うん。・・楽しみだなぁ、久しぶりの王都。みんなに会えたし・・私・・一人でも来て良かった・・」

最後のほうはほとんど夢の中らしい。声は次第に小さくなり、最後には寝息が二人分になる。
ジェンは小さく微笑んでランプの明かりを消すと、隣にある自分の部屋へと戻っていった。


明日から、また賑やかになりそうだ。

シルファ・ライドネル いつもの朝① ( No.8 )
日時: 2016/02/08 21:30
名前: 詩織 (ID: m.v883sb)

ピピ チチチ



遠くから、小鳥の声がする。

顔に当たる光がやたら眩しくて、眠りの中にいたシルファ・ライドネルは顔をしかめる。


「・・ん、・・ん〜」
小さく息を吐き、もぞもぞと手を動かす。
銀色の髪には寝ぐせ。
髪と同じ色の瞳を薄く開く。
ゆっくりと顔を上げると、ふるふると頭を振り、何度か瞬きをして目をこすった。
ぼーっとしながら辺りを見回し、


そして、光の正体に気づいたとたん、物凄い勢いで飛び起きた。


「やばっ!!もう朝?!なんで?!」

大きな窓から差し込む朝日は予定よりだいぶ高い位置にあり、外の庭では小鳥たちが元気にさえずり回っている。
爽やかな朝とは裏腹に、泣きそうな顔で彼は部屋着を脱ぎ捨てた。


まずい。


冷や汗を浮かべながら急いで身支度をする。
ゆうべ遅くまで机に向かっていて、どうやらそのまま眠っていたらしい。
変な姿勢で寝たから、体中が痛かった。

立ち上がった拍子に積みあがった本がバサバサと雪崩を起こしたから、床は足の踏み場もない。


けれどそんな事にかまう暇もなく、なんとか身支度を整えたシルファは部屋を飛び出していった。
窓の外では相変わらず、小鳥たちが鳴いている気持ちのいい朝。




ライドネル家の敷地は広い。
息を切らせて彼が向かったのは、母屋の屋敷から中庭を隔てた敷地の奥にある建物だ。
転がるように走っていくと、背の高い木々に囲まれた、高い屋根の建物が見えてきた。

通称・瞑想の間。
毎朝この時間は、この家で学ぶ者たち全員がここで瞑想する決まりとなっている。


(もう皆、中だよなぁ・・。)
ぴったりと閉められた大きな両開きの扉を見上げて、シルファはため息をついた。

意を決し、そうっと扉を押してみる。
古めかしい扉は、少し力を入れただけでギギィと音を立てるから、シルファは細心の注意を払って隙間から中を覗いてみた。


この建物全体がひとつの広い部屋になっていて、部屋の一番奥には高く大きな窓と、儀式用の祭壇がある。
その広間では、おのおの自分の場所に座り込み、目を閉じて瞑想する仲間の姿が見えた。

それぞれが瞑想に集中しているらしく、私語どころか動く気配すら全く感じられない。


(よし、今なら行けるか・・。)


慎重に、慎重に。

極力音を立てないように、扉を押していく。

(あと・・少し・・)

隙間にそうーっと身を滑らそうとした、その時。
突然後ろから声をかけられ、シルファは飛び上がった。

「シルファ、何をしている。」
「ひゃっ!!」

首をすくめて、そろそろと振り返る。
顔を見なくても、声の主は分かっていた。

「・・ち、父上・・。おはようございます。」
立っていたのはシルファの父であり、ライドネル家当主ユサファ・ライドネルである。

この街でライドネル家と言えば、言わずと知れた魔法使いの名門。
何代にも渡り受け継がれてきた由緒ある魔法を使う家系だ。


この世界に存在する魔法。それは、大いなる自然の力。
この世界に満ちている、目に見えないエネルギーの流れ。
すべての命の奥に眠る、人智を超えた偉大な力。

それらの力と自分を一体化させることで、そのエネルギーを形、現象として表すことができる、それがこの世界での魔法使い。


いにしえから、人々は自然とこの世界の大いなる力を敬い、そしてそれは信仰となったり、または生活を支える技術・・魔法として進化していった。
それらの膨大な知識や技術は師から弟子へと受け継がれ、それぞれの流派で理論が構築されていく。


エネルギーを現象化する才能、修練、そしてそれを支える環境があって初めて完成される魔法使いという職業の人間は、その特殊性ゆえにどこにでもいるわけではない。


シルファはここライドネル家の末の息子として、兄や従兄弟、他の弟子たちと共に魔法の修行中の身だ。
いずれは国の有力貴族に仕えるなど、将来を嘱望される名門ライドネル家の息子たち。
・・の、一人のはず・・なのだが・・。


シルファの格好を見たユサファは、はぁ、とため息をついた。

シルファと同じ銀の髪と銀の瞳。
背は息子の方が少し高かったが、体格は細身のシルファに比べると、だいぶたくましかった。

「お前・・またか。」
「も、申し訳ありません父上!昨日は先日の修練で解けなかった魔方陣の構築法を基本から調べなおしていたらいつの間にか朝に・・。」
「言い訳はいい。」
ぴしゃりと言われ、思わずしゅんとなる。


そんなシルファを見たユサファは再度ため息。
「今入っては他の者たちの修練の邪魔になる。自室で待機し、瞑想の時間の後、私の部屋へ来なさい。いいな。」
「・・はい。」
厳しい口調の父に、うなだれたまま返事をし、自室に戻ろうとするシルファ。
数歩進んだところで再び名前を呼ばれて振り返る。

「なんでしょう、父上。」
「お前、私の部屋に来るときは、きちんと服装を整えてくるように。」
「?」

言われて自分を見る。きちんと着替えたはずだけどなぁ・・
「あ!」
よく見ると、羽織ったローブのボタンが首もとからひとつずつずれている。
左右がずれて留められたローブはかなりちぐはぐだ。

「す、すみませんっ。直してきます!」
恥ずかしさで顔が赤くなる。
シルファは父の顔を見ないようにしながら頭を下げると、自室へと向かって走り出していた。

後ろで父がまたため息をついた気がして、いたたまれない気持ちになった。

なんで僕っていっつもこうなんだろ。

心の中でつぶやきながら、来た時と同じく転がるように中庭を駆けていった。

Re: はじまりの物語 ( No.9 )
日時: 2015/04/25 22:43
名前: せいや (ID: FpNTyiBw)

タイトルが好みだからコメしました!
物語は
改めて読んだらコメしまーすね(^^)


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