コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
- 石碑の謎解き〜読めない魔法文字⑤〜 ( No.45 )
- 日時: 2015/07/05 11:10
- 名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)
数千年の昔、古代と分類される時代。
異国で使われていたらしいこの文字は、まだ全て読み解かれてはいない。
分かっているのは表音タイプの文字ということ。
いくつかの音の読み方、それらを並べた単語の意味。
シルファとイルナリアはその文献に没頭していった。
途中、食事や修練の時間を挟みながらも、交代で本を読み、必要な資料は書き写す。
彼らにとって、相当興味深い世界だったようで。
と同時に、ぜひとも有力な情報を見つけ出して、帰ってきた友人たちの驚く顔が見たいというシルファの小さな野望もあったりして。
そこから数日間の2人の集中力は目を見張るものがあった。
「ねぇ、シルファ。私思うんだけど・・。」
数日後、一通り調べられることは調べ尽くした頃。
書き出した資料と広げた文献を前に、呟いたのはイルナリアだった。
「これって本当に、村の為に・・宗教的に造られたものなのかしら。」
先に口にしたのはイルナリア。
だが、シルファも全く同感だった。
ジェンとマリーの話によれば、村に点在する石碑は村人の信仰心の象徴であり、祈りを捧げる場所。村の守り神を祀る意味を持つはず。
けれど、魔法使いの目を持つシルファとイルナリアには、全く別のものに見えたのだ。
「手がかりがこれだけじゃ、まだ確証はないですけど、・・」
「この魔法文字の属性と文字を点在させる手法・・、もしかして・・」
すなわち。
「「古代魔法による、魔法装置」」
視線を合わせると、2人同時に呟いた。
「でも、なんでこんなところに?」
シルファの問いに、イルナリアはただ黙って首を傾げた。
・・・・・・・・・・・・
「魔法文字を使って発動させる魔法道具って割とメジャーなんだよ。だからこの手法自体は別に珍しいものじゃないんだ。」
黙って自分の話に聞き入っている友人たちを見回して、シルファは言った。
「ただ、使われていたのが特殊な古代文字っていうのと、今現在誰もその意図を知らないっていうのが気になるところだけどね。」
そこで一旦言葉を切ると、ふぅ、と息を吐いて手元のカップに手を伸ばした。
一気に喋って乾いた喉に、少し冷めたお茶がちょうど良い。
そんなシルファに、ラヴィンが同じくカップを手に取りながら言う。
「じゃあ、つまりさ。村の人たちは神様の為にあの石碑を祀っているけれど、遡ると、本当は別の意図で造られたものじゃないか、ってことね。そしてそれを知らずに、あの村は石碑を守っている。」
「うん。」
彼女の言葉に素直に頷いて、シルファはジェンに目を向けた。
「ジェン、他の石碑のスケッチもある?あと、村の全体図って分かるかなぁ。石碑がどういう形で配置されているかも知りたいんだけど。」
シルファの問いにジェンは
「ああ、ちょっと待ってろ。」
と立ち上がると、資料机の上からノートを手に取りシルファに渡した。
「お前の言うとおり、それぞれの石碑には全部違う文字が彫られてたよ。あとはだいたいだけど、村の地図。それから・・簡単にだけど、村長に頼んで村の過去の年代記も写させてもらった。」
「うわぁー。さっすが!ありがとう!」
パラパラとノートをめくりながら、シルファは嬉しそうに歓声を上げた。
- 第8章 夢 ( No.46 )
- 日時: 2015/07/07 22:00
- 名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)
「それにしても。」
喜々としてノートに見入っているシルファを見て、ジェンが苦笑する。
「すっかり夢中になってるな。確かに魔法絡みってのは驚いたけど。」
仕事の合間になんとなく描いたひとつのスケッチ。
それがこんな風に広がっていくなんて、正直思っていなかった。
「だってさ、面白いじゃないか。」
ノートから顔を上げると、少し頬を赤くして照れたような顔のシルファ。
「もしこの石碑の謎が解けたら、この魔法文字についてもっと解明されるかもしれないよ?!そしたら魔法学的にも新たな発見で・・、ってラヴィン、その顔何だい?」
熱く語りそうになるシルファを、両手で頬杖をついてニマニマと見つめるのは、隣に座る赤毛の少女。
「だってさー。魔法の話する時のシルファ、すっごい楽しそう。」
ふふふ、と笑うラヴィンの言葉に、更に顔が赤くなる。
「そもそもね。魔法ってすっごく奥が深いんだよ、人間の領域を超えたものだからね。だから魔法使いなんて、結局は探求とか研究好きな人間が多いんだ。」
言い訳するように主張するシルファに、ラヴィンが笑った。
「ああ!そんな感じする。シルファって研究大好きって感じするもん。将来は魔法の研究者にでもなるの?すっごく似合いそう。」
・・何気ないラヴィンのセリフ。
けれど、シルファは思わず言葉を切り、目を見開いたまま動きを止めた。
『将来』。
その言葉がシルファの胸にやけに響く。
「?」
黙ってしまったシルファを見て、ラヴィンが不思議そうに首を傾げた。
「どうした?なんか悩みでもあるのか?」
飲んでいた紅茶のカップを置いて、ジェンが尋ねる。
マリーもつまんでいた菓子を置き、黙ってシルファを見つめた。
「あ、いや。・・ちょっとびっくりしただけ。」
ラヴィンから視線を外しながら、シルファは戸惑うように言った。
「んっと、僕は・・、いや、僕らはさ。ライドネル家に生まれた時から、必然的に魔法使いの道が用意されていて。あ、それは全然嫌じゃないんだよ。僕、魔法の世界が大好きだし・・」
しかもそれを極めていける家庭環境が与えられたことには、シルファは素直に感謝していた。
そして、あの家で、当主の決定は絶対だ。
将来仕える先も、代々の当主が決める。
一族に何か問題が起これば、当主が判断する。
全てにおいて、一族内における当主の権限は絶対だった。
それは現当主ユサファ・ライドネルとて例外ではない。
「・・もちろん自分にも・・やってみたいことはあるけど、結局、いつか自分も父上の命令に従ってどこかに仕えるんだと思ってたからさ。」
上の兄たち2人が王宮に入り。
3番目の兄レイにグレン公爵家という仕え先が決まった今。
次は自分か、と心のどこかで覚悟していた。
「だから、びっくりした。ラヴィンにさらっとああやって言われて。うちの中じゃ、誰もそんなこと言わないし、僕だって口にしないから。」
「そっか・・。」
思ったことはいろいろあったけれど、うまく言葉にならなくて。
少しせつない気持ちになって、ラヴィンは黙ったままシルファの困ったような笑顔を見つめた。
彼が魔法の話をする時、いつもどれだけ幸せそうかを知っていたから。
- 第8章 夢 ② ( No.47 )
- 日時: 2015/07/08 20:02
- 名前: 詩織 (ID: LZQ7Wo2E)
たぶん、ここに来てからだ。
「当たり前」以外の世界もあるのかもしれない、漠然と、そんな気がし始めたのは。
ラヴィンと出会ったあの日から、シルファの世界は急速に広がりだしていた。
「最近思ったんだけどね。僕は、ずっとあの家に守られてきたんだと思う。」
言葉を選びながら、ぽつりぽつりとシルファは思いを口にした。
「守られながら、外の世界にも憧れてて、でも、具体的に自分が何をどうしたいのかよく分からなかったんだ。ただ、ここに来て、いろんなものを見て、聞いて、人と出会って・・。知りたいって思うことがずいぶん増えた気がする。」
父は絶対。
家の為に、ライドネル家の一員として恥ずかしくないよう生きること。
それは今も変わらず根付いた自分の「当たり前」だけれど。
少しずつ、自分が変わっていることが、シルファ自身まだよく分かっていなかった。
(僕、どうしたいんだろう?)
自分自身へと疑問を投げかける。
・・・答えはまだ、聞こえてこない。
「やってみたいことって、何?」
聞いたのはマリーだ。
「え?」
「やってみたいこと。あるってさっき言ってたでしょ?」
「あ、ああ。」
突然の質問に、慌ててわたわたと手を振った。
「いや、まだ漠然とした夢・・っていうか、単なるイメージだからさ。何をどうやって、とか全然ないし。」
「いいから。」
よっぽど気になるのか、マリーは強気だ。
身を乗り出して、シルファをじっと見つめる。
(に、睨まれてる?)
そんなマリーに押されて、たじたじとその瞳を見つめ返しながら、まだ誰にも話したことのない夢のようなものを、シルファは初めて言葉にした。
なんだかとても、ドキドキしながら。
「えと・・もしできるなら、いつか・・今よりもっと広い世界の、もっといろんな魔法を見てみたいな。それを研究しながらさ・・」
彼らしい、はにかんだような笑みを浮かべて。
「いつか、自分で新しい魔法を開発してみたりできたら、面白いなって。」
聞いてくれる友人がいて、初めて言葉にできた自分の気持ち。
嬉しいような、恥ずかしいような、不思議な気持ちで、シルファは顔を赤くしてしきりに照れ笑いを浮かべた。
その笑顔があまりに素直なものだったから、ラヴィンは一瞬、見蕩れてしまった。
そんな自分に気づいて、慌てて目をそらす。
(え、なんで?)
よく分からずに、内心動揺する。
そんなラヴィンの様子には全く気づかず、シルファは顔を赤くしたまま頭を掻いた。
「で?マリーは?」
ひとしきり照れたあと、今度はシルファがマリーに聞いた。
あれだけこの話題に食いついてきたのは、マリーも、何か将来について思うところがあるのかもしれない。そう思ったからだ。
「・・え?私?」
今度はマリーが目を丸くする番だった。
自分にそんな話題が振られるなんて、思っていなかったのだろう。
「マリーは?何になりたいとか、これをやりたいとか、あるのかい?」
大人になったら何になりたい?
そんな意味で、シルファは聞いた。
ケーキ屋さん。お花屋さん。女の子だったらお嫁さんとか?
あ、マリーだったら、ジェンみたいに研究者とか?賢そうだし。
そんなことを考えて、にこにこと彼女を見ている。
けれどマリーは・・。
「私・・は・・。」
言いよどんだまま、黙ってしまう。
(あれ、聞いちゃまずかったのか?)
シルファが少し焦って、何か言わなくちゃと思った時。
マリーが顔を上げて、まっすぐシルファを見た。
「・・強く、なりたい。」
小さいけれど、きっぱりとした声で。
「私、もっと強くなりたい。」
- 第8章 夢 ③ ( No.48 )
- 日時: 2015/10/31 18:58
- 名前: 詩織 (ID: 7OomKey8)
その瞳は、とても真剣で。
予想していなかった答えに、シルファは言葉が見つからない。
彼女を挟んで座るラヴィンとジェンも、この答えは予想外だったのか、シルファと同じ様子で驚いたようにマリーを見ている。
マリーの瞳は、見ているシルファの方が切なくなるような、そんな真摯な想いで溢れていた。
『・・ちょっと事情があって、そういうことにしてる。・・・マリーのことはそっとしといてあげてくれるかな。』
いつかのラヴィンのセリフを思い出す。
(マリーにも、抱えてる何かがあるのもしれない。向き合っている何かがあるのかも・・。)
懸命なマリーの表情を見ていたら、なんだか堪らない気持ちになってしまって。
シルファは思わず言った。
「大丈夫だよっ!」
ばんっと机に手をついて、思いっきり身をのりだす。
「・・え・・」
「マリーなら大丈夫!絶対強くなれるよ!」
大きな瞳をぱちくりさせて自分を見上げるマリーに、シルファは続けた。
「君の望む強さって、僕にはどんなものか分からないけど、でもきっとマリーなら大丈夫だよ!うまく言えないけど、君ならきっと、望むものになれるから・・だから・・」
うまく言葉にならないのが歯がゆい。
なんとかマリーを励ましたくて、シルファは両手を握り締めて言った。
「だって、マリーかわいいからっ!!」
・・・・・・。
・・きょとんとするマリー。
次の瞬間。
「〜〜〜〜っ!何よそれ!!」
その顔が真っ赤に染まった。
「・・っく、くく・・」
笑いをこらえているジェン。
そして、ラヴィンはというと。
「シルファ!いいこと言ったね!そうそう、マリーはかわいい!ぜーったい大丈夫!」
「きゃぁぁ!ちょっとラヴィン!苦しいってば!」
むぎゅぅ〜〜っと思い切りマリーを抱きしめて、ほっぺたをくっつけながら。
うんうん、と何度も頷く。
大丈夫、がんばれ、と。
「あー。ずるいよラヴィン!僕が最初に言ったのにー。」
ラヴィンに向かって情けない声のシルファが言う。
ぶはっ!とジェンが吹き出して、笑い声が響いた。
「ははっ!マリー、お前大人気だなっ。」
「ジェン!笑ってないで助けてってばっ。」
マリーが暴れても、抱きしめたラヴィンはびくともしない。
いいなぁ、とラヴィンを見ながらシルファは言ったが。
うう、でもマリー女の子だしな。
僕触ったらちょっと犯罪だよなぁ。
言いながら考えて、おとなしく座って2人を見守る。
「もお!2人とも!」
顔を赤くしたまま、怒ったような表情でもがいているマリーを見て。
(・・テレ隠しだな。)
笑いながら、ジェンはそっとマリーを見つめる。
(・・・嬉しそうだな、お前。)
ーーーーーーあの日。
『・・行く場所なんて、他にない。』
そう言ったあの顔を、ジェンは忘れてはいない。
大きな美しい瞳は、何も映していなくて。
ただ無機質な声で、彼女は言った。
『・・どこにも、行かない。』
感情の消えた人形のように、身動きひとつせず、少女は小さな声で言った。
その姿を、ジェンはただ、見ているしかなかった。
・・シルファも、ラヴィンも知らない、あの頃のマリー。
そして今。
目の前の少女は。
赤い顔をして、豊かな表情で。
大切な友人に抱きしめられて、励まされて。
その瞳は、彼らを映している。
(・・良かったな、マリー。)
心の中で、そっと呟いたジェンの顔は、とてもとても、優しいものだった。
これから起きる出来事がどんなものであっても、きっと。
彼女を支える仲間がいるから。大丈夫だと、そう思えた。
- 第8章 夢④ ( No.49 )
- 日時: 2015/08/07 22:30
- 名前: 詩織 (ID: uqhP6q4I)
夢 ④ 〜冬の終わり、帰り道。〜
「よっ、シルファ。今帰り?」
顔を上げると、ニコニコと手を振るラパスと、寒そうにポケットに手を突っ込んで立つジェイドが並んでこちらを見ていた。
ジェンから新しい資料を受け取り、大切にカバンにしまって。
次来るときはもっと面白いことが分かるかもね、と友人たちに笑ったシルファは、日が暮れないうちにと家路につくところだった。
「次の訪問は今回の調査結果が出てからだからなぁ。採取してきた花の成分でもう少し実験してみてからでないと。」
え〜、と不満そうな声を上げるラヴィンの頭を小突きながら、ジェンがそう言った。
「つーか仕事のメインはこっちなんだからな。」
むぅ、分かってるわよ、とラヴィンがつまらなさそうに言う。
シルファはじゃあとりあえず僕はこっちを頑張るね!と張り切って言い、
気合充分の顔でこぶしを作ると、そんなに力まなくても石碑は逃げないぞ、とジェンが笑う。
その隣で、いつもは黙って見送るマリーが、小さな声で「またね」と呟いてくれたのが、シルファにはすごく嬉しかった。
そうして友人たちに別れを告げ、帰ろうと店の裏門を潜ったところで、ラパスに声をかけられたのだ。
「あ!こんにちは、ラパスさん、ジェイドさん。これから仕事ですか?」
彼らの足元にある大きな荷物を見てシルファが聞くと、ラパスは、いんやーもう終わり、と首を横に振った。
「俺はもう上がりだよー。今から帰るとこ。帰り道の途中にこいつの届け先があるから、ついでに寄ってくだけさ。」
そう言うと、足元のでっかい荷物をひょいと抱える。
「シルファ、家帰んだろ?途中まで一緒にいこーぜ。」
そうシルファに言って、そのままジェイドに向き直る。
「んじゃ、社長、届けてくるっす!」
「ああ、悪いな。頼んだぜ。」
満面の笑みのラパスに、ジェイドがよろしくな、と片手を上げた。
「シルファも。なんかいろいろ調べてくれてるらしいな。ったく、あいつらそういう話にすぐハマリ込むからなぁ、特にラヴィンが。無理すんなよ。」
そう言ってシルファの肩をポンと叩く。
「そんなことないです。僕がすっごく楽しくてやってるだけだから。あ、もう少し調べられたら話聞いてくれますか?」
楽しそうにシルファは言った。
そして、ああいいぜと笑って答えるジェイドに、じゃあまた、と手を振ると、ラパスと揃って歩きだした。
「ラパスさんって、ジェイドさんといる時ほんとに楽しそうですね。」
「ん?」
「ラヴィンから聞きました。ジェイド社長と一緒に働きたくて、王宮騎士団辞めてまでウォルズ商会に来たって。」
「ああ。そりゃな。俺の憧れのひとだから。」
照れもせず、当たり前のことをいうようにさらりとラパスは言った。
冬の終わりの夕暮れ。
少し前には身震いするような寒さの中を歩いていたはずなのに、ふと気づくと、時折吹く風は暖かで優しい気配に変わっていた。
ほんの少し、日も長くなったような気がする。
そんな中2人で歩きながら、シルファは前々から聞いてみたかったことを、思い切って聞いてみることにした。
「ラパスさんて、なんで騎士団に入ろうと思ったんですか?」
「へ?」
「あ、いや、入るのがすごく難しいって聞いてるから。そんなに頑張って入ったのに、辞める時、迷わなかったのかな、とか。・・そうだ、今日ラヴィンたちと将来の話になって・・」
かいつまんで、今日の話題をラパスにも降ってみる。
「だから、ラパスさんが道を決める時、どんな風だったのかなぁって。・・僕はまだ、どうしていいか、よく分からないから。」
「ふぅん。なるほどねー。」
よ、っと荷物を抱えなおすと、ラパスは前を見ながら言った。
「俺が入団したのは15の時だからなー。うちはまぁ、なんていうかそういう家柄で。ガキの頃から英才教育っつーの?とにかく勉強も鍛錬もきっちりやらされたからな。騎士団に入るのは決まってたようなもんだ。」
「そうなんだ!」
意外だった。
いつも快活に笑う軽やかな彼に、そんなイメージは微塵も見えなかったから。
「意外と僕と近い環境なんですねぇ。」
「あーそうかも。けど、あの頃の俺と出会ってても、お前友達にはならなかったと思うぜ。」
「・・え?なんで?」
首を傾げてラパスを見るシルファに向けて。
それはもう爽やかな笑顔で、彼は言った。
「そりゃ、すんげーヤなやつだったから。」
へへっと笑いながらそんなセリフを吐かれて、シルファはなんと答えていいやら迷って、はぁ、とだけ返答した。
そんなシルファを見て可笑しそうに笑うと、視線を前に戻して、ラパスは話しだした。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
この掲示板は過去ログ化されています。