コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 第15章 因果は巡る風車〜欲しかった強さ〜⑦ ( No.205 )
- 日時: 2017/04/13 11:56
- 名前: 詩織 (ID: JPqqqGLU)
**
「何ぃ?儀式を中止だと?どういうことだそれは!」
怒鳴りつけるクロドの剣幕に、部下たちは身体をビクッと竦ませる。
「そ、それが俺たちにもよく分からないんです。何か言い合う声が聞こえて、バチバチっとこう、でっけー音が何回も聞こえてきて・・」
見張り番の男たちはしどろもどろに顔を見合わせる。
「魔法使い以外は部屋に近づくなと言われてたから別室で待機してたんでやすが、音が収まったから近づいてみたら、ユサファ・ライドネルの声で『儀式は中止する』って。なあ?」
「お、おう。確かにそう言ってやしたぜ」
不安げに自分を見る部下たちを無視して、クロドは拳を壁に叩きつける。
「クソ!まさか裏切る気かユサファ・ライドネルめ!!」
儀式の場所付近は危険だからと、最奥であるその部屋から1番離れた城跡入り口側に待機していた。それが仇となり、クロドは事態の急変に気づけなかった。
「どうしやすクロド様、このまま計画は中止で?」
「バカ野郎!!」
おどおどと尋ねる部下を一喝し、クロドは
「ここまでどれだけの時間と労力費やしてきたと思ってんだ!」
荒い呼吸を繰り返しながら気持ちを落ち着けると、クロドは胸ポケットに手を入れる。
「それにこちらにはグレン公爵がついている。ここで逃げることは公爵を裏切ること。そんなことをすればライドネル家とてただでは済まないことくらい、あの男なら分かってるはずだ。お家大事のあの男がそんな危険を冒すはずがないわ」
公爵の名のもとに、ユサファ・ライドネルと自分の名で交わした盟約の書。
これがある限り、彼は裏切ることは出来ない。
「町で待機してる奴らをすぐに呼んで来い、全員だ!集めた流れ者たちもな。武器の準備も怠るなよ」
**
「聖女リーメイルを呼び出す?そんな事が本当に可能なのか?」
今だ困惑気な表情を見せるユサファに、トーヤは強く頷いた。
すでにトーヤの指示のもと、封印解除の儀式へと魔法使いたちは慌ただしく走り回っている。
ユサファを初めライドネル家の誰も見たことのない術式。トーヤの使う、特別な古代魔法だった。
「封印を綻ばせることに成功したら、次はその魔力の流れの中から眠っているリーメイルの意識を呼び出す。さっきあんたたちがやろうとしてた方法だろ」
「ああ、だが失敗した。もし彼女の意識が目覚めなければ、溢れた魔力が制御できない。年月が経っているとはいえ、何が起こるか分からないぞ」
「中心でのコントロールは俺がやる。俺とリーメイルの意識は必ず共鳴するはずだ。俺が絶対に、リーメイルを見つけてみせるさ」
トーヤは見る間に塗り替えられていく魔法陣を、鋭い瞳で見つめた。
魔法使いたちは円になる。
中心には浮かぶのはトーヤの姿。
「ではいくぞ、トーヤ・クラウン・ファリス」
ユサファの厳かに響く声に、ユサファは頷いて目を閉じる。
閉じる前の一瞬に、シルファと目が合った。
(頼んだぞ、シルファ)
目でそう語りかければ、真剣な銀の瞳が強く視線を返した。
魔法使いたちの詠唱と共に、トーヤは意識を深く沈める。
残り少なくなった最後の魔力を全て解放する。
そうして静かに、愛する者への言葉を紡いだ。
聞こえるか、リーメイル。
長い間、1人にして悪かった。
今、迎えに行くから。もう1度、必ずお前を見つけてみせるから。
だから俺と一緒に、お前の愛したこの地を守ろう。
なあ、リーメイル。
- 第16章 継がれゆく光 ( No.206 )
- 日時: 2017/04/16 19:17
- 名前: 詩織 (ID: fpEl6qfM)
第16章 継がれゆく光 〜 目覚め 〜
深い、深い眠りの底にいた。
眠っていることすら忘れる程に深い場所。
大きな力と一体となり、個の意識など無くなる場所。
永遠に続くような深く静かな眠りの中で、一瞬・・意識が揺らいだ。
”何か、聴こえる”
”ここは・・。私は・・?”
「私」?私、なんて存在が、ここにはあったの?
それすらも曖昧な世界。
揺らいだ意識の中で問いは続く。
未だ微睡みの中で、何も思い出すことは出来ないけれど・・。
”聴いたことがある・・『声』・・?”
「リーメイル」
その言葉の意味は分からないけれど、なぜか無性に揺さぶられた。
「リーメイル」
懐かしくて優しい声は、何度も何度も、『彼女』を呼んだ。
意識が暗い水底から水面へと浮かび上がるように、その『声』にゆっくりと導かれてゆく。
それは光の射す方から、聞こえる気がした。
**
強い風が髪をうねらせていく。
空は分厚い雲に覆われ、昼間だとは思えないほど暗い。嵐の前の様な風が、唸りを上げて彼らの間を通り過ぎた。
「シルファ、大丈夫かな」
マリーの呟きに、ラヴィンは握った拳に力を込める。
「大丈夫だよ、シルファだもん。それにトーヤも、皆もいる」
眼下に広がる景色から目を離さずに言った。
「信じてようよ」
ラヴィンの隣でマリーが頷く。
その肩を抱いて寄り添うように立つジェンも、真剣な表情で丘の下・・エイベリー村を見つめていた。その向こうには、空を映した灰色のルル湖が広がる。
『この魔法を発動させるには、ファリスロイヤ城の魔法陣、それから封印の石碑で同時に術をかけなければならない。広範囲に分散してもらう必要があるんだ。それから移動の為坑道の移動魔法陣にも待機を。ひとりひとりの負担はかなり重いものになるが、やれるか?』
トーヤの問いに、ユサファは即答した。
「ここにいるのは我がライドネル家の中でも上級の使い手たち。我が一族の誇りと威信を賭けて成し遂げてみせよう」
「頼もしいな、それは」
ライドネル家の魔法使い達は坑道を通り、エイベリー村の石碑の元へ。
村長に面識のあるラヴィンは村人たちを一時避難させる為共に村へと向かった。村人たちと共にマリーとジェンにも隣村へ避難するよう伝えたのだが、マリーは頑として首を縦には振らなかった。
「私も行く」
強い口調でそう言った。
「駄目だよマリー。まだ体調が」
「平気。ねぇお願いラヴィン。私も見届けたいの、ちゃんと、最後まで」
ジェンに支えられながら訴えるマリーに、ラヴィンはそっとジェンを見上げる。
「マリーのしたいようにさせてやろう。俺が、ちゃんとついてるから」
そうして3人は今、村の見渡せる小高い丘から魔法使い達の動向を見守っているのだった。
(シルファ・・、トーヤ、どうか無事で。魔法がちゃんと成功しますように、誰もケガなんてしませんように)
ラヴィンは心で強く祈りながら、村人の居ない村を見つめた。
- 第16章 継がれゆく光 ( No.207 )
- 日時: 2019/05/23 08:16
- 名前: 詩織 (ID: 32zLlHLc)
ふと、名前を呼ばれた気がした。
ゆっくりと目を開けると、そこは真っ白な世界。
(精神世界か?)
トーヤは冷静に考える。視界とは裏腹に頭は冴えていて、心は静かだった。
現実の世界ではライドネル家の魔法使いたちによる儀式の最中だ。その中心にいたトーヤの意識は今、魔力と溶け合い別次元の空間に繋がれていた。
ふ、と。
名前を呼ばれた気がして振り返る。
息が、止まった。
「……リーメイル…?」
金色の長く美しい髪。
赤く澄んだ瞳。
忘れるわけがない。あの日から、1日だって忘れたことなんてない。
「リーメイルっ!!」
視線の先、焦がれ続けたその姿に向かって、トーヤは夢中で駆け出していた。
**
「おい、何だお前は!そこで何をしている?!」
いら立ちを隠さず怒鳴るクロドに、通路に立っていたラパスはあっさり答えた。
「見りゃ分かるでしょー見張り番」
儀式の行われている部屋の入口はこの奥になる。
「ユサファ・ライドネルはどこだっ!今すぐ呼んで来い!」
「それは無理。今大事な用事で取り込み中なんだ」
「黙れ!いいか、何を考えてるか知らんがこっちには奴らの署名した盟約状とグレン公爵の後ろ盾があるんだぞ。裏切ったらどうなるか……っ痛!」
怒りに身を任せラパスの胸倉を掴もうとしたクロドは、悲鳴と共に慌てて手を引いた。
後ろに控えていた部下たちにもどよめきが起きる。
「くそ!魔法か?!」
「そ。怪我したくなかったら近づかないほうがいいってさ。ユサファ殿からの伝言」
にっこり笑って返すラパスに、クロドは盛大に床を蹴りつけた。
「馬鹿にしやがって!!」
ぎりぎりと歯ぎしりの音をさせながら踵を返すと、荒い足取りで来た道を戻っていく。
仲間を連れに入口に戻ったのだ。
ふむ、と一息つくと、ラパスは目に見えない壁を見上げた。
(やっぱりそうくるよなー。とりあえず、もう少し頑張ってくれよ)
今回の計画に執着しているクロドは自分の決定に必ず反対するはずだと、そう言ったのはユサファだった。最初の魔法が失敗に終わった後、ユサファが簡単に語った今回の計画内容。この土地に眠る魔力を解放することで、所有する土地を豊かにし他の貴族に対抗する為の富を得たいグレン公爵、手足となって動くことで報酬の金品と商売の権利を約束されているクロド、ふたりに利用されていると知った上で自分たちの目的の為実行者となったユサファ。ここまで来て、心変わりを理由に計画を手放すことを、クロドは許さないだろう。
「全てが終われば、私が責任を持ってカタをつける。ただ、今は時間がない。とりあえず結界を張っておくが、皆本来の儀式に集中するので精一杯だ。万が一途中で解けた時には、すまんが時間稼ぎを頼む」
頭を下げたユサファに、ラパスはニッと笑うと剣の柄に手をかけた。
「任せてもらっていいっすよ。うちの仲間を護るのが今回の俺の仕事。社長命令ですから」
ユサファは彼らの大切な仲間を危険に晒した。
それでも、『うちの仲間』の中に己の息子が含まれていることを読み取って、彼はもう一度深く頭を下げる。
「恩に着る」
そうして儀式は始まった。
「頑張れよ、シルファ」
前を見据えたまま、ラパスは強く呟いた。
- Re: はじまりの物語→→再開しました! ( No.208 )
- 日時: 2017/07/03 17:02
- 名前: 詩織 (ID: JPqqqGLU)
「リーメイルっ!!」
体の動くままに駆け寄って抱きしめる。
華奢な身体は、あの頃の記憶のままだった。
「リーメイル」
何度も何度も、トーヤはリーメイルの名前を呼ぶ。
もう一度会えるなんて、思っていなかった。
時が流れ自分の意識が消えるまで、ただ静かにこの土地を見守ってゆくつもりだった。
なのに今、彼女は自分の腕の中にいる。あの頃と変わらぬ姿で。
「リーメイル」
こみ上げる愛しさに、抱きしめる腕の強さが制御できない。
「……トーヤ?」
囁くような声で呼ばれ、トーヤはやっと我に返る。腕の力を少しだけ弱めると、リーメイルがゆるゆると顔を上げた。
「トーヤ?」
「ああ」
トーヤが頷いて見せる。その顔をじっと見つめていた赤い瞳がふるりと震えたかと思うと、あっという間に潤んで、その滴が幾筋も白磁の頬を伝った。
「リーメイル?」
「……トーヤぁっ」
彼女の整った顔がくしゃりと歪んだ。
「え、おい、リーメイル?」
慌てて頬に手を添えると、トーヤはその溢れる涙を拭ってやる。
リーメイルが泣いていた。
巫女長に選ばれてからどんな時も——あの最後の日でさえ、涙を見せなかった彼女が。
子供のように声を上げて肩を震わせるリーメイルに、トーヤは小さく笑った。
「お前がそんな風に泣くの、どれくらいぶりだ?」
そんなの分からないわよ。
答えようとして、言葉にならなかったのだろう。リーメイルはふるふると首を横に振った。その反応が可笑しくて可愛くて、なんだかとても懐かしくなって、トーヤは思わず添えていた手で彼女の柔らかな頬を引っ張ってみる。
「ちょっと!トーヤ?」
泣き顔のまま、リーメイルが声を上げる。その顔に、トーヤが噴き出す。
くすぐったさが心の底から溢れてきて、トーヤは笑った。リーメイルは一瞬非難の表情を浮かべたが、それはすぐに柔らかく崩れ、声を立てて笑いだした。1度ぐいっと涙を拭い視線を上げると、2人の目が合った。
優しくて暖かくて、ちょっとだけ意地悪な栗色の瞳。
ああ、本当にトーヤなんだ。
リーメイルは頬を緩めたまま、もう一度彼の胸にしがみつく。
その彼女を、トーヤも強く抱きしめなおした。
お互いが確かにここにいる、その存在を抱きしめる。
暫くの抱擁の後、そっと腕の力を緩めながらトーヤが口を開いた。
「リーメイル。お前に頼みがあるんだ」
「大まかなことは分かるわ。意識が浮上してからずっと、外の世界から魔力が流れ込んできている」
トーヤに抱かれたまま、リーメイルが答えた。
トーヤが状況を素早く伝える。少しの間瞳を閉じて考えを纏めると、リーメイルは顔を上げた。
「分かったわ。やってみる。眠っている魔力を、世界に還しましょう」
強い光を宿した双眸は赤く燃えている。もう泣いてはいない。そこにあるのはあの日、最期まで必死に人々を救おうとした、この地を愛する聖女の瞳だった。
**
ラヴィン・ドールは視力が良い。見下ろしていた丘の上からでも、その異変を見逃さなかった。
「どうかしたのか?」
先ほどから1点を凝視したまま動きを止めたラヴィンに、ジェンが声をかける。
「……なんか、様子がおかしくない?ほらあそこ」
彼女の示す先を追って、ジェンとマリーも目を凝らした。バラバラと点在する石碑にそれぞれ魔法使いが1人ずつ配置され、儀式が始まってからは均一な淡い光が彼らを繋ぎ、丘の上からは大きく歪んだ光の環のように見えていた。その中のひとつの光がうっすらと点滅し、よく見ればその石碑の傍らに立っていたはずの魔法使いが地面にうずくまっている。不安定に点滅する光は周りにも影響を及ぼしているようで、少しずつ均衡が崩れていくように見える。
「ねえ、隣見て!あっちの人も!」
ラヴィンが更に斜め上を指さして叫んだ。
隣に引きずられるように、立っている魔法使いが少しずつ体勢を崩していく。まるで何か見えない圧力が彼を襲っているかのように。耐えきれなかったのか、彼の膝が折れ地についた。
「……っ!私ちょっと行ってくる!」
「あ、おいラヴィン!」
移動用の魔法陣へ向かってラヴィンが駆け出し、ジェンとマリーも後を追う。
3人が通路にたどり着くとそこには、焦った様子で通信用魔法道具を覗く魔法使いの姿があった。彼は魔法使いたちの移動の為にこの場に待機していたはずである。
「何かあったの?!」
ラヴィンが駆け込むと、彼が弾かれたように顔を上げた。
「クロドが……」
3人の顔色が変わる。魔法使いは早口で言った。
「クロドがユサファ様の裏切りを知って儀式の邪魔をしているようです。こちらの魔法使いたちは儀式に手いっぱいで……今ウォルズ商会の剣士殿が食い止めているそうですが、いかんせん多勢に無勢の為、向こうは混乱している様子」
「待てラヴィン!どうする気だ?!」
話の途中で移動用魔法陣に向かって飛び出したラヴィンにジェンが叫んだ。
「あたしも加勢しに行く!ジェンとマリーはここで待ってて」
「ラヴィン、大丈夫?」
不安そうに見上げるマリーに、ラヴィンは強い声で答える。
「大丈夫!ラパスもいてくれるし、それに」
シルファを助けたいんだ。
そう言って、ラヴィンは魔法使いの方を向いた。
「本当にいいんですか?」
不安げな魔法使いの問いに、ラヴィンは大きく頷く。
そうして彼の移動魔法の呪文と共に、ラヴィンの姿はかき消えた。
- Re: はじまりの物語→→再開しました! ( No.209 )
- 日時: 2017/07/07 14:44
- 名前: 詩織 (ID: JzqNbpzc)
「ハッ!」
鋭い声を上げラパスは剣を振るう。唸りを上げて弧を描く切っ先に、幾人かの男たちは悲鳴を上げて体勢を崩した。儀式が行われている部屋への通路を背にしたラパスは、大広間から通路へ侵入しようとするクロドの部下たちを前に孤軍奮闘中である。通路の途中には魔法で防壁も張られているが、ライドネル家の者たちが余分な魔力など使えない現在、どこまで持つかは不明だ。できるだけ通路前のここで侵入を食い止めておきたい。しかしながら明らかな多勢に無勢とあり、すでに数人がすり抜けて奥へと駆けて行ってしまった。とにかく、これ以上行かせてなるかとラパスは再び構えの姿勢をとる。
「やるじゃないか若いの」
余裕ぶった態度で言うクロドだが、その声は少し上ずっていた。無理やり作った笑顔もぴくぴくと引きつっている。50人近くいた力自慢の荒くれたちがたった1人の若い男に次々と打ちのめされていくのだ。クロドの腹の中は今まさに煮えくり返って爆発しそうだった。
「だがそろそろ遊びは終わりだ。こちらも暇じゃないんだからな」
脅し文句のようなクロドのセリフに、組み合っていた3人を同時に床へ転がしながらラパスが答える。
「だったらさっさと帰ればいいのに」
「誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ?!」
「俺じゃぁないよ」
呑気な口調とは裏腹に剣呑な目つきで自分を射抜くラパスに、クロドは顔を顰めたその時。クロドの後方からラパス目がけて一陣の強く鋭い風が走った。
何かを考える間もなくそのまま後方床に叩きつけられる。
咄嗟に受け身を取った為何とか頭部への打撃は免れたが、したたかに身体を打ったせいで呼吸が詰まる。苦し気に咳込むラパスの前に、1人の男が進み出た。
真新しそうな該当を纏った男は、倒れているラパスを一瞥する。
「おお、遅かったじゃないか。何やってたんだ」
クロドが安心したような声で呼びかけた。
「来るのが遅いぞ。前金いくら払ってると思ってるんだ、まったく」
文句を言いながらも、先ほどより随分顔色が良い。
(……流しの魔法使いを雇ってたのか)
ラパスは立ち上がりながら素早く男を観察する。今の攻撃は明らかに魔法の力だ。見た所、魔法の使い手はこの男1人。そもそも基本的に希少価値の魔法使いは、はぐれ者とて雇うのに法外な金がかかる。どこで見つけてきたのか知らないが、さすがクロドといったところか。
「ただの剣士が、魔法の業に勝てる道理はない。身を引け」
男が低い声で言う。片手には酒の小瓶。金欲しさに雇われたのだろう。魔法知識のないラパスには、実力のほどは分からない。
「やだよ」
短く返し、再び剣を構える。
魔法に対抗する術は、自分は持っていない。攻撃を上手く避け、隙をついてなんとかこちらから仕掛けるしかない。ラパスは息を整える。
引く様子のないラパスに、男は面倒臭そうに片手を上げた。
「燃えろ」
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