コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 第10章 旅支度 ( No.60 )
- 日時: 2015/08/06 21:59
- 名前: 詩織 (ID: uqhP6q4I)
その日の朝、シルファは緊張した面持ちで父の部屋の扉を開けた。
なんだろう、今朝はまだ何もやってないよな。
昨日?なんかやらかしたっけ?
いやいや、最近はかなり頑張ってるし、叱られることなんてないと思うんだけど・・。
あ、もしかしてあれ?!
昨日ひとり1個のおやつ、間違えて2個食べちゃったの黙ってたから?
っていやいやいや。そんなことで父上がでてくるなんてそんなバカな。
動揺しておかしな思考になっている彼は、父の机の前で顔を上げるまで、そこに居るもう1人の人物にまったく気づいていなかった。
「父上、お呼びで・・あれ?リュイ兄上?」
椅子に腰掛ける父ユサファの後ろに立ってこちらを見ていたのは、一番上の兄、リュイだった。
「兄上がね、父上に話したらしいんだ。僕が古代魔法について調べてること。」
イルナリアと書庫にいた時、リュイに見られた資料。
そこでシルファが古代の魔法文字について何やら調べていることを知ったリュイは、父にその事を話したらしい。
どういう経緯でそんな話題になったのか、シルファには分からない。
とにかく父からその事を質問されたシルファは、今自分がしていることを正直に話した。
友人が出来たこと。
その彼らの仕事繋がりで、興味深い魔法文字を見つけたこと。
そして、現在自分はそれを解明したくて、彼らと協力しながらいろいろと調べていることなど。
シルファが話す間、ユサファは黙って彼の話を聞いていた。
後ろに立つリュイも、珍しく軽口を挟まずに、シルファが話すのをじっと見つめていた。
一通り話終わっても、口を引き結んだまま何やら考え込んでいる父を見て、シルファは少し不安になる。
(最近は遅刻もしてないし、自由時間を使って調べてるから問題はないはず・・。修練も課題もきっちりやってるし・・。なんだろう。)
その静かな間をなんとも居心地悪く感じていた、その時。
父の口から出た言葉は、全く予想外のものであった。
「シルファ。その古代魔法文字の調査を、当面のお前の課題とする。新しい事実がわかり次第、すぐに報告するように。もし現地調査に同行可能ならば、その日数に限り外泊を許可しよう。」
一瞬何を言われたのか分からず、口をぽかんと開けて父と兄の顔を交互に見つめるシルファ。
そんな息子を見てユサファは軽くため息をつき、続きを話し始める。
後ろではリュイが、笑いを堪えた表情で弟を眺めていた。
石碑にあった魔法文字は、今は貴重な古代魔法の資料であり、未解明の部分も多く残る。
シルファとイルナリアに限らず、ライドネル家自体にとって興味深いものだ。
よってこの古代魔法の調査をシルファの研究課題とすることを決めた。
ただし、あくまで課題であるのだから、調査結果は些細なことに至るまで全てきちんと報告するように。
父の話は、つまりそう言うことだった。
「だからさ!皆と行けるんだよ、僕も!次の現地調査っ!」
両手を広げて、それは嬉しそうに3人を見回した。
最初は怪訝そうな顔で話を聞いていた3人だったが、シルファの報告が終わると思わず歓声が上がった。
「すごいすごい!やったね、シルファ!」
嬉しそうにラヴィンが言った。
「一緒に行けるんだぁ。わぁーなんか楽しみになってきたねっ。」
「うん。僕もすごく楽しみ。父上からそんな話をされるなんて、まだ信じられないよ。今回ばかりは兄上にも感謝だなぁ。」
「うんうん。いいお兄さんじゃん。お父さんもさ、きっとシルファの為に調査に行けるようにしてくれたんだよ。頑張らなきゃね〜。」
2人、にっこりと微笑み合う。
「良かったな。」
ジェンも言った。
「普段なかなかギリアから出られないんだろ?魔法のことはよく分からないけど、いい経験になるんじゃないか。」
「そうなんだ。僕、友達と泊りがけで出かけるなんて初めてでさ。あ、そう言えば嬉しすぎて何にも考えてなかったけど、まず何をすればいいのかな。」
ジェンを見ながら、シルファが首を捻った。
「じゃあまずは、シルファの荷物の準備からね。私とラヴィンでやりましょ。ジェンは、早く村へ出発できるように、香料の研究頑張ってちょうだい。」
ジェンを見上げてそう言ったマリーに、ジェンが苦笑いの表情を浮かべる。
「あーはいはい。頑張りますよ。もう数日で目途が立つから。もうちょっと待ってくれな。」
それと、と思い出したように付け加える。
「何度も言うけどな、俺たちのこれは仕事だからな?ジェイド社長にはきちんと話しとくこと。」
「「ハーイ!」」
ラヴィンとシルファの声が重なって、楽しげに響いた。
「よぅし!」
ラヴィンが勢いよく立ち上がる。
「まずは必要なものでこの店にあるもの、見に行こう!で、ついでに叔父さんたちにも報告しようよ、シルファも一緒に行けるってこと!」
シルファの手を握って引っ張った。
つられてシルファも立ち上がる。
「うん!わ、わ、待ってラヴィン。転ぶ転ぶっ。」
ラヴィンの勢いに引っ張られながら、2人は玄関に向かった。
ジェンとマリーも顔を見合わせると、どちらともなく笑顔になる。
席を立つと、2人の後に続いて店に向かった。
- 第10章 旅支度③ ( No.61 )
- 日時: 2015/08/10 22:04
- 名前: 詩織 (ID: uqhP6q4I)
「おっはよー!・・あれ?どしたの叔父さん?」
「おう・・。ラヴィンか。」
珍しく朝から気だるそうな叔父に、ラヴィンは思わず声をかけた。
店の裏口から中へ入ると、カウンター奥の荷物置き場の木箱にジェイドが腰かけていた。
だるそうに壁にもたれて、目線だけを向ける。
「いやぁ。ちょっとな・・。」
「単なる二日酔いと寝不足です。心配要りませんよ。自業自得ってやつですね。」
ジェイドの隣に立つアレンが、にっこり笑顔で辛辣な解説をする。
顔はにこにこしているが・・、目が笑っていない。
「あ、え?そ、そうなの?大変ね。」
何があったのか分からないけど。
(この笑顔には逆らわないほうがいい・・。)
全員、心の中で思った。
「くそぉ・・。今日は半日ゆっくり寝られると思ったのに・・。」
「甘いです。あなたは社長なんですよ?急なトラブルや予定変更は日常茶飯事のはずです。それに・・」
アレンが冷ややかな目でジェイドを見下ろす。
「体調管理には気を遣うよう何度も言ってますよねぇ?な・ん・ど・も。」
相変わらずの笑顔。
だがその声音に、部屋の温度がさらに下がった気がする。
シルファは隣のラヴィンに、こそっと耳打ちする。
(アレンさんて、静かに怒るタイプ?)
(そうなのよ。普段あんまり怒らないんだけどね、叔父さんが無茶するとたまに・・)
「どうしました?」
「!い、いえっ。何でもありませんっ。」
2人はぷるぷると小動物のように首を振った。
昨夜、ジェイドとギズラードは結局明け方近くまで飲んでいた。
久しぶりに昔の思い出話に花が咲き、散々飲んで喋って。気が付いたら2人ともそのままソファで寝てしまったらしい。
どのくらい時間が立ったのか。
ふと、気配を感じて目を開けると——。
腕を組んで仁王立ちのアレンが、額に怒りの青筋を浮かべて2人を見下ろしていたのである。
後ろには怒りオーラが渦巻いていて・・。
「鬼の形相ってのはああいうのを言うんだろうな。あーあれには肝が冷えたぜ。」
「それはこっちのセリフですよ。」
アレンが呆れたように言う。
「隣町の支店で入荷のトラブルがあったから、社長に確認に来てほしいと連絡が入って。休みのところ大変だなぁと少し思いながら自宅に迎えに行ったらですね・・」
覗いた居間でアレンが見たもの。驚くほど度数の高い酒の空瓶が何本も転がるテーブル、そして、ソファで寝こける男たちの姿だった。
「‘少し’かよ。もっと労われってんだ。」
「・・あれだけ飲み散らかして爆睡してた人が何言ってんですか。しかもこの季節にあんな恰好でソファでなんて。風邪でもひいたらどうするんですか。立場考えて下さいよ。」
ビシッと正論を突き付けられ、うっ、と言葉に詰まる。
視線を泳がせたあと、観念したように呟いた。
「スミマセンねぇ。気を付けますよ。」
口を挟まず成り行きを見守っていた4人。
よく分からないが、とりあえず話がひと段落しそうな気配を感じて、ラヴィンはおそるおそる話しかけた。
「えっと、あのさー。」
「おう、なんだラヴィン。そういやどうした、こんな朝から4人そろって。」
「シルファ、さっきは勢いよく走って行きましたね。何かあったんですか?」
「あ、それがですね!」
やっと本題に入れそうだ。
4人で胸をなで下ろすと、シルファは2人に先ほどの事情の説明を始めた。
ジェイドとアレンはシルファの話を聞き終わると、顔を見合わせた。
「それで、あの、もしご迷惑じゃなければ、僕もジェンの研究に同行させて貰えませんか?」
「お願い、叔父さん。仕事の邪魔はしないし、ちゃんと助手として手伝いもするから。ね、いいでしょ?」
遠慮がちにシルファが言い、彼の後ろからラヴィンもジェイドを見上げる。
ラヴィンの隣で、マリーもぺこりと頭を下げた。
「お願いします。」
マリーの積極的な姿を見て、2人は目を丸くした。
そうしてもう一度顔を見合わせると、ジェイドは軽く息を吐き、シルファを見る。
「分かった。分かったよ。そうまで言われちゃ、断る理由もねぇしな。ま、ジェンの仕事を邪魔しないってんなら、いいぜ、別に同行するくらい。」
「わぁ!ありがとうございます。」
「やったぁ。」
「良かったわね、シルファ。」
3人は歓声を上げて盛り上がった。
「ありがとうございます、ジェイドさん。」
ジェンが穏やかな声で言った。
「仕事の調査は順調です。あと数回の調査と実験が出来れば、試作品を幾つか提出出来ると思います。ラヴィンとシルファには、助手としてしっかり働いてもらいますから。」
喜ぶ3人を見ながら微笑む。
「おう。よろしくな。こいつらの事も、任せたぜ。おい、お前ら。ちゃんとジェンの言うこと聞くんだぞ。」
「「はーい。」」
シルファとラヴィンが返事をし、マリーもこくんと頷いた。
「なんか遠足の引率みたいだなぁ。」
苦笑するジェンに、アレンが笑った。どうやら機嫌は直ったようだ。
「ま、ジェンは面倒見がいい保護者みたいなもんですしね。」
「アレンさん・・、俺そんな年じゃないんですけど。」
がっくりと肩を落とすジェンを見て、ラヴィンがクスクス笑った。
その時。
「楽しそうじゃーん、ラヴィン!なーに話してんの?」
ラヴィンは頭の上から聞こえた声に振り返ろうとして、盛大に悲鳴を上げた。
- 第10章 旅支度④ ( No.62 )
- 日時: 2015/08/12 13:52
- 名前: 詩織 (ID: uqhP6q4I)
「っきゃあぁあああああっ」
ラヴィンの悲鳴が店内に響く。
首元から手が回され、後ろから思い切り抱きしめられたからだ。
「やだなぁ。俺、俺だってば。」
「え?ギ、ギズ?!」
抱きしめられたまま首を捻ると、斜め後ろから馴染みのある声がした。
「そ。久しぶりだね〜ラヴィン。相変わらず可愛いなぁ。」
「ちょ、ちょっと、苦しいってば。」
ラヴィンの言葉に、笑いながら少しだけ腕の力を緩める。
「うわ、びっくりした。ホントにギズなの?すごい、久しぶりだねっ。」
見上げた先に懐かしい薄茶色の瞳とそばかすの浮いた笑顔を見つけて、ラヴィンは驚きと喜びの声を上げた。
「そうだよ〜。元気だった?実は昨日の夜・・」
楽しそうに喋るギズラード。
ジェイドは無言で近づくと、そこらへんにあった冊子を丸めてその頭をスパンと叩いた。
「あイタっ。何すんのさダンナぁ。」
「何すんのじゃねーだろっ。手を離せ。」
「ヤダね〜、久しぶりの再会なんだ。こればっかりはいくらダンナでも譲れねぇな〜。」
べ、と舌をだすギズラードに、ジェイドが再び冊子を構える。
「ま、まあまあ2人とも。叔父さん、私、大丈夫だからっ。」
2人に挟まれたラヴィンが慌ててとりなす。
「で?えーと、ギズ、昨日の夜がどうしたの?」
「そうそう、昨日の夜中に王都に到着してさ、ゆうべはここに泊めて貰ったんだ。」
「それで。散々酒盛りした結果がコレ、ですけどね。」
ちらりと自分を見るアレンに、ジェイドが「コレってなんだよ。」と呟いた。
・・自覚はあるのか、小声ではあったけれど。
そんなアレンの嫌味にも全く動じず、ギズラードはラヴィンを抱きしめたまま嬉しそうに言った。
「だからさ、久しぶりに今日はラヴィンと遊ぼうと思って。」
にかっと笑う。
「相変わらずですね、ギズさん。」
横から苦笑気味にジェンが言う。
もっともこの光景は見慣れているのか、気にしている様子はあまりない。
「おう!お前らも元気だった?ジェン、マリー!」
「ええ。元気よ。あなたも相当元気よね。」
ジェンと同じく、さらりとした調子のマリー。
その中で。
(え?え、えーっと、だ、誰だろう?何だろう、この状況は・・?)
ひとり混乱中なのは、もちろんシルファ少年だ。
目の前には、ダークブラウンのくせっ毛の男性。そばかすの浮いた人懐っこい顔。
ジェンやラパスよりも年上で、ジェイドやアレンよりは年下だろう。
いや、そんなことよりも。
「へへ、ラヴィン、なんか背伸びた?」
「ええ?そうかな?自分じゃ分かんないけど?」
なんであの姿勢のままなんだろう。
ギズラードに抱きしめられたまま、ラヴィンはフツーに会話している。
シルファが戸惑っていると、その後ろ、店の玄関の鈴がチリーンと鳴った。
「はよーごさいまーっす。」
ドアを開けて入ってきたのはラパスだ。
開店前の店内に、何やら人が集まっているのを見た彼は、きょとんとして店内を見渡した。
「なんで皆こんなとこに・・って、あれ?ギっさん?!」
「よ〜ラパス!おはよーさん。元気そうだなっ。」
ギズラードは片手をひらっと上げる。
「うっわぁ。お久しぶりっす!相変わらず元気そうっすね!」
ギズラードのいるところまで歩いてくると、ラパスは満面の笑みで笑った。
(え〜と・・。)
引き続き動揺中のシルファ少年。
(ジェイドさん以外誰も突っ込まないということは・・。あれってふつうなのかなぁ。)
思考はグルグル駆け回る。なんとか顔は平静を保っているつもり・・だったのだが。
「シルファ、シルファ。」
呼ばれてハッと気づくと、振り向いたラパスが意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
ギズラードは後ろのジェンやマリーと、何やら談笑している。
ラパスはシルファの隣りまで来ると、こっそりと小声で囁いた。
「シルファ、顔。顔コワイ。眉間にシワ、寄ってるぜ。」
「え?うわっ。ほんとに?」
慌てたシルファは反射的に両手で額を隠した。
その様子を見てラパスはニヤリと笑った。
「あー、ギズさんのあれね。気にすんな、いつものことだから。」
「べ、別に気にしては・・。」
「鏡見てみ?なんだあいつって顔してるぜ。」
「えええ?うそだぁ。」
慌てるシルファにラパスは堪えきれず笑いだした。
「あははっ。ウソだよ。だいじょぶだって。っぷぷ、お前素直だなぁ、ホント。」
「も、もう!ラパスさん〜!」
顔を赤くしてシルファが叫ぶ。
それを聞いて、ギズラードに抱きしめられたままのラヴィンがこちらを見た。
「シルファ?どしたの?」
「!あ、いやいや、何でもないっ。」
ぶんぶんっと首を振り、隣で笑いを噛み締めているラパスをちらりと睨んだ。
「あ、ごめんね。シルファは初めて会うよね。このひとは・・。もー!ギズ、いい加減離してってば。」
ラヴィンの言葉にはいはーいと軽く返事を返しながら、ギズラードはようやくその腕を離す。
そうして。
シルファに向き直り、そこに立つ男の視線を、シルファは少し緊張した面持ちで見つめ返した。
- 第10章 旅支度⑤ ( No.63 )
- 日時: 2015/08/16 10:43
- 名前: 詩織 (ID: lgK0/KeO)
このひとはね、ギズラード・ミシェルっていうの。
叔父さんの昔からの友達で、今は仕事を手伝ってくれたりもしてるんだ。
私のことは小っちゃい頃からずっと可愛がってくれてるんだよね。
目の前の男を、ラヴィンは微笑みながらそんな風に紹介した。
その声を聞きながら、シルファは改めてその男を見つめる。
明るくて人懐こそうな表情を浮かべ、けれどその瞳の奥では何か自分が見透かされていそうな気がして、何故だか少し緊張した。
そんなシルファに気付いたのか、ギズラードがぱっと相好を崩す。
「やあ。君がシルファ君かぁ。話は聞いてるよ〜。俺、ギズラード。ギズでいいからさ。よろしくねっ。」
手を差し出す。
「あ、はいっ。よろしくお願いします。」
シルファも慌てて手を差し出すと、ギズラードは嬉しそうにその手を握った。
「シルファ君は今日暇?俺久しぶりの王都なんだけど、君も一緒に遊ばないかい?」
「ええと、今日は・・」
言いかけて。
そこで言葉を止めたシルファは、ハッと顔を上げた。
「わ!すっかり忘れてた。」
慌てて懐中時計を取り出すと、時間を確認する。
「良かった。まだ間に合う。」
は〜っと安堵のため息を漏らした。
「ん?どした?」
「すみません。僕、今日は家で頼まれてた仕事があったんでした。朝の出来事で舞い上がって完全に忘れてた。良かったぁ、思い出して。」
そばに置いていた上着を手に取ると、着込みながら申し訳なさそうに言った。
「すみません。また次の機会に。」
ぺこりと頭を下げるシルファに、ギズラードは
「いいっていいって。また、ゆっくりね〜。」
と笑顔のまま、手をひらひらと振った。
「ごめんよ、明日また来るから、その時調査の旅のこと、いろいろ教えてくれるかな。」
ラヴィンたちにそう声をかけると、慌ただしくドアを開ける。
「じゃあ、失礼します。」
振り返ると、じゃあなーと笑顔で見送る面々。
その中で、ラヴィンの肩に片腕を回しながら、もう片方の手でバイバイと手を振るギズラードの姿が目に入った。
(・・・・・)
笑顔で手を振り返し、店を出たシルファ。
少し複雑な気分を味わいながら、来た時よりもだいぶ暖かさの増した家路を急ぐ。
(いい人、なんだろうな。明るくて、優しそうだしさ。)
歩きながら、またぐるぐると思考が巡る。
(きっとお兄さんみたいな感じなのかな。小さな頃から可愛がって貰ってたって言ってたし。うん、そうだそうだ。)
何となく、自分にそう言い聞かせて、っていうかなんで僕こんなこと考えてるんだろ、という自分への突っ込みも同時に思い浮かべながら。
そのもやもやを吹き飛ばすように、シルファは早足で家へと向かった。
- 第10章 旅支度⑥ ( No.64 )
- 日時: 2015/09/05 20:33
- 名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)
慌てて帰っていったシルファを見送って。
開店時刻が近づき、店内のメンバーも各々動き出す中「そういえば」とラヴィンが顔を上げる。
「ねぇねぇ叔父さん。」
「あ?なんだ?」
さて、出かけるかと大きく伸びをしていたジェイドがラヴィンを振り返った。
「今度行く村って、ルル湖の南側でしょう?だったらさ、帰り、北岸を通って帰ってきてもいい?ほら、例の噂のファリスロイヤ城ってルル湖の北岸だよね?私も一回でいいから見てみたいんだー。ね、いいでしょ?」
さらりと発せられた思いがけないお願いに、ジェイドは言葉に詰まったままラヴィンを見つめた。
『・・奴らに関係しそうな場所は、ここ。ファリスロイヤだ。』
昨夜のギズラードとの会話が浮かぶ。
そんなジェイドの様子には気付かず、楽しそうな仕草で叔父の顔を覗き込むと、ラヴィンはいたずらっぽく笑った。
「ほら、叔父さんだって仕事の帰り道に寄ったって言ってたじゃない。私も行ってみたいなぁ。ねえねえいいで・・。」
「駄目だ。」
きっぱりと、ジェイドは言い捨てた。
その声音のきつさに、それぞれ動き出していた皆が驚いて2人を見る。
ジェイドがラヴィンに声を荒げることなど、滅多にないことだった。
当のラヴィンも驚きと困惑の表情を浮かべ、黙って叔父を見上げている。
「それは駄目だ、ラヴィン。」
先ほどよりは抑えた声で、しかしきっぱりとした口調で、ジェイドは言った。
皆が何事かと見守る中。
———ギズラードだけは表情を変えず、頭の後ろで手を組んだ姿勢のまま、2人の様子を眺めていた。
「これはあくまでもジェンの仕事がメインだからな。遊びじゃないんだ。」
真剣な顔で言ってから、大きく息を吐き出すと、表情を緩めてラヴィンの目を覗き込む。
「分かるな。あの辺だって比較的安全とはいえ、旅となれば何が起こるか分からない。それは知ってるだろ。」
「・・うん。」
「今回は相手がいる仕事だ。依頼主に結果を出すことを最優先に考える。ついて行って村で調査することは許可するが、ジェンの仕事が終わったら真っ直ぐ帰ってこい。・・な?」
「うん、分かった。ごめんなさい。」
神妙な顔で謝るラヴィンの頭を、ジェイドは優しく撫でて笑った。
「おし。分かればいいさ。ま、またいつか落ち着いたらゆっくり見に行けばいいだろ。んじゃ、俺は支店の方へ顔出して来るから。」
話題を切り替えるように明るい声で言うと、アレンに「行くぞ。」と声をかけた。
「あ、はいはい。準備は出来てますよ。」
アレンが鞄を手に取り玄関へ向かう。
その顔にはほっとしたような表情が浮かんでいたが、あえて口を挟むことはしなかった。
ジェン、マリー、ラパスの3人も、ほっと安堵のため息をつくと、それぞれの仕事へと動き出した。
そんな様子を眺めながら。
(そりゃあ、今行かせるのはマズイもんねぇ、ダンナ。)
顔には出さず、ギズラードはジェイドの後ろ姿に心の中で語りかける。
(相変わらず、可愛い姪には甘いよねぇ。・・まぁ、俺もだけどさ。)
心の中だけで小さく笑って、くるりと向きを変えると、ラヴィンの傍へと歩き出した。
「そうだ。 ——ジェン、午後俺が戻ったら話がある。ちょっと社長室に顔出してくれ。」
「分かりました。じゃあこれまでの資料まとめて、後で寄ります。」
答えるジェンによろしくなと声をかけると、ジェイドはアレンと共に出かけて行った。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
その日の夜。
なんの話だったの?と聞くラヴィンとマリーに
「仕事の話だよ。」
とだけ答え、ジェンは仕事机に向かった。
もう少し調べ物がしたいから、先に寝ててくれ。
そう言われて、ラヴィンとマリーは2人で寝室のベットに潜り込む。
「ふう。今日は朝からいろいろあったねー。」
もぞもぞと布団に潜りながら、ラヴィンが言った。
「そうね。けど、シルファが一緒に行けるようになって良かったわね。すごく行きたがってたし。厳しいお家だと思ってたけど、案外息子に甘いのかしら。」
「またまたぁ。マリーってばそんなこと言って。マリーだって嬉しいんでしょ?シルファと一緒に行けること。」
ふふふ、と笑って、ラヴィンはマリーの髪を撫でた。
マリーは少し顔を赤くして、そっぽを向いたけれど、呟いた声をラヴィンは聞き逃さなかった。
「・・そりゃあ。嬉しいわよ。」
そんなマリーの姿に、ラヴィンは自然と口元がほころぶ。
マリーの過去を、ラヴィンも全て知っているわけではないけれど。
抱えたものの為に、人と距離を置こうとする彼女の姿をいつも見てきたから。
少しずつではあるけれど、シルファという少年に心を開きつつあるマリーの姿を見るのはとても嬉しいことだった。
「シルファは、いい子だよね。」
布団の中で、そっとマリーを抱きしめながらラヴィンが言った。
「・・うん。」
それだけ答えると、マリーはゆっくりと目を閉じて、ラヴィンの胸に頭を寄せる。
風もなく、静かな夜。
月明かりが差し込む部屋で、2人で眠るベットは暖かい。
(明日シルファが来たら、さっそく計画を立てて、荷物を揃えに行こう。)
次第に瞼が重たくなるのを感じながら、ラヴィンはこれからのことを考えて、幸せな眠りについたのだった。
——— そうしてあっという間に十日ほど経った頃、ジェンの準備が整ったことから、4人は目的の村「エイベリー」を目指し、ギリアの街を出発した。
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