コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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Re: はじまりの物語 ( No.15 )
日時: 2015/04/28 20:53
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)

>ビタミンB2さん

ありがとうございます(^^)

こんなんで大丈夫かなぁとか、意味伝わるのかなぁとか、どきどきしながら書いていたので、すっっごく嬉しいです。元気でました☆

はい、最後までいけるよう頑張ります!
読みにくいとこもあると思いますが、よろしければお付き合い下さい♪




第4章 出会いは冬の空の下① ( No.16 )
日時: 2015/05/04 14:27
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)

第4章 出会いは冬の空の下



王都図書館の受付で念願だった本を受け取り、シルファは上機嫌だった。
(ああ、嬉しいなぁ。ふふふ。)

思わず顔はにやけるし、足取りは軽くスキップ気味。
ついでにもう少し気になる本も見ていこうと、二階の閲覧室へ向かう。

静けさが漂う図書館内で、若干浮き気味の自分に気づいたのは、踊り場の窓に映った姿が目に飛びこんできたからだ。
浮かれた自分の姿に急に恥ずかしくなって、コホンとひとつ咳払いをするとそそくさと階段を上った。


この王都図書館はその名の通り、広さも蔵書数もこの国一番を誇る国立の図書館だ。他では手に入らない貴重な文献や他国の資料も多く、ここに来るために地方から旅してくる研究者もいるほどで、本の大好きなシルファにとっては昔からお気に入りの場所である。


他国の歴史学や文化史の棚の中から、魔法史学の本を探す。
ずっとライドネル家で魔法理論を学んできたシルファだが、最近は他国の魔法文化や歴史にも興味があった。

いつか、広い世界の魔法をもっと研究してみたいと、密かに思っていたりする。
父や兄にはもちろん内緒だけれど。


(ん?)
本探しに夢中になっていたシルファだが、ふと窓際をみる。
広い図書館内では、閲覧用の机と椅子がそこここに配置されており、メインの閲覧室の他にも、壁際には外に向かって机と椅子が置かれていた。


ちょうど通りかかった窓際の席に、1人の少女が座っている。
静かな館内。明るい午前の日が差し込む窓辺。
机の上には、開かれた大きな本。
(あ、あの子寝てる。)
開かれた本の上に覆いかぶさるように、少女は居眠りをしていた。
規則正しい呼吸にあわせて、背中が上下している。
サラサラとした赤い髪が、本の上に広がっていた。


(・・綺麗な赤毛だなぁ。)
なんとなく、少しだけ近づいてみた。

・・良く寝ている。
うつらうつら、というよりは、いっそ気持ちが良いほどすやすやと眠っている。

『図書館行ってまで寝るんじゃないぞ。』
兄たちの笑い声を思い出す。
小さく苦笑すると、シルファは少女から離れ、自分の目的地へと戻っていった。

・・・・・

「ふう。」
2時間後、一通り閲覧を終え充分満足したシルファは、追加で借りていく本を2,3冊選び、ほくほくと階段へと向かった。


(あれ?)
先ほどの窓際の机の近くを横切る。
(あの子・・まだ寝てるよ。)
先ほどと全く変わらぬ姿勢のまま、赤毛の少女はすやすやと眠っていた。

(どんだけ眠いんだろう、夕べ夜更かしでもしたのかな?)
こんなとこで寝たら風邪を引かないか気になったが、見知らぬ自分が声をかけるのもなんとなく躊躇われたので、そのまま通り過ぎた。


図書館をでると、明るい日差しとは反対に、冷たい冬の風が吹き付ける。
今日は天気はいいが、少し風の強い日だ。
道には木の葉が舞っている。
マフラーをぐるぐると首に巻き、本を詰め込んだカバンを肩にかけると、シルファは歩き出した。


ああー、早く読みたくてたまらない。
再びウキウキとした足取りで家に向かおうとして、ふと思い出したように方向転換する。
(そうだ。姉上に頼まれたおつかいがあった。)
いけないいけない。本が嬉しすぎて忘れるところだった、と反省する。
早く用事を済ませて帰ろうっと。
笑顔のまま、シルファは歩調を速めた。


・・・その寄り道が自分にどんな出会いをもたらすのかを、彼はまだ、何も知らなかった。

第4章 出会いは冬の空の下② ( No.17 )
日時: 2015/05/26 23:35
名前: 詩織 (ID: KfCyy7lh)

「じゃあシルファ、お願いね。」
「はい、姉上。」

笑顔の姉のお願いに、シルファも笑ってうなずく。


今朝、出掛けに姉の部屋に寄ると、彼女が頼んできたのは、図書館近くにある姉行きつけの店へのおつかいだった。

「姉上もホント好きですねぇ、あの店のお菓子。」
シルファの笑い混じりの言葉に、頬を赤く染めた姉・イルナリアは照れたようにむくれて言った。

「だって、あそこのが一番おいしいんだもの。シルファだって好きなくせに。そんなこと言うと分けてあげないわよ。」
「ええー。っていうか、取りに行くの僕なんですよね?」

シルファの言葉に、イルナリアは自分のセリフがおかしかったと気づいて笑い出した。
「あはは。そうか、そうよね。うそうそ。ちゃんとシルファにもあげるから。」
ころころと鈴を転がすような可愛らしい声で笑う。


姉・イルナリアはシルファの2つ年上。
シルファが今年17だから、姉は19になる。
その間に18の兄と、更に22と24になる上の兄たち。
先ほどシルファを散々からかっていた3人だ。
彼らは5人兄弟だった。

シルファや兄たちは父・ユサファ似で明るい銀色の髪と瞳だったが、姉の髪と瞳は黒髪の美しかった母に似たのか、黒味がかった濃い鉄色だ。

彼らの母親は、彼らが幼い頃に亡くなっていた為、イルナリアは家族内で唯一の女性である。
年は近かったが、面倒見の良い彼女はよく弟の世話をしていたし、特に母を亡くしてからは、いつも彼のことを気にかけていた。
そんな姉を、シルファも随分と慕っている。


「頼みたいのはね、いつもの焼き菓子とキャンディーの詰め合わせね。それから、注文してある商品が届いたか、確認してきて欲しいの。」
長い髪を揺らし、イルナリアは弟を見上げた。


図書館近くにあるその店は、可愛らしい店構えと手作り菓子で、特に女性に人気がある。
イルナリアも大のお気に入りだ。
バターたっぷりの焼き菓子と可愛いキャンディーの『いつもの詰め合わせ』は最近のおやつの定番である。

「いつものやつ以外に、何か頼んでるんですか?」
シルファは聞いた。
そうなの、とイルナリアは嬉しそうにいったあと、でもね、と表情が曇る。

「なんでもね、その店の店長が地方で見つけた砂糖菓子を、たまーに取り寄せるんですって。ものすご〜く美味しいらしいから、一度食べてみたくて頼んであったのだけど、全然連絡がこないのよ。遠方からの取り寄せでしょ、なかなか入荷しないのは分かってるんだけど、待ち遠しくって。」
片手を頬に添えて悩ましげに言う。


・・女の人ってすごいなぁ、お菓子ひとつにこんなに夢中になれるなんて。

姉の話を聞きながら、妙なところに感心してしまう。
そんなシルファに、ちゃんと聞いてるの?とイルナリア。
シルファは慌てて頷いた。

「分かりました。いつものと一緒に、その取り寄せとやらの状況も確認してくればいいんですね?」
そう言うと、イルナリアは嬉しそうに笑っていった。
「そうよ。よろしくね、シルファ。」
「はい。じゃあ、行ってきます。」

笑って手を振ると、玄関に向かって歩き出した。

「あ、シルファ!」
「ん?まだ何かありました?」
呼び止める姉の声に振り返る。


イルナリアは美しい顔でにっこりと笑って言った。
「図書館では寝ちゃだめよ。」


兄上ぇぇ、姉上にまで・・。
がっくりうなだれて呟く弟を見て、
楽しそうに笑うイルナリアの声が廊下に響いた。

第4章 出会いは冬の空の下③ ( No.18 )
日時: 2015/05/30 23:08
名前: 詩織 (ID: yvsRJWpS)

「あ!ライドネル様ですね!ちょうど良かった。ご連絡しようと思っていたところだったんですよ。」

姉の代理だと名乗るシルファに、まだ若い店主の男は忙しそうにしながらも愛想よく笑った。

この界隈で人気の店。
淡いピンクと白を基調にした内装に、同じくパステルカラーのインテリア。
メインのショーケースには、色とりどりのケーキや焼き菓子が並び、クリームやフルーツのデコレーションでまるで宝石みたいで、とても美味しそうだった。


サイドのテーブルにはキャンディーコーナー。
ピンクと白の渦巻き型に棒のささったものや、透明で、中に閉じ込められたカラフルなゼリーが楽しめるもの。
おしゃれなビンに詰められたマシュマロなんかが並べられている。

壁には、お菓子と同じくらい可愛らしい雑貨が飾られていた。

確かに可愛いもの好きの女性が喜びそうな「ロマンチック」な店内なのかもなぁ、と店内を見回してシルファは思った。
もっとも彼には「ロマンチック」なんてよく分からなかったから、全部姉からの受け売りなのだけど。


「今すぐ準備致しますので!お待たせして申し訳ありません。どうぞ、お掛けになってて下さい。」
混み合った店内でばたばたと動き回っていた店主が、すまなさそうにシルファを奥の喫茶室のテーブルへと案内した。


待っている間、特製のケーキと紅茶が運ばれてくる。

シルファは慌てて、受け取りを頼まれただけだから、と断った。
けれど、大得意先の彼にそれは出来ないと考えたのだろう、店主は半ば強制的にシルファを一番良い席に座らせてしまった。

すぐにでも帰りたかったシルファは一瞬ため息をつきかけたが、まぁいいや、ここで読んじゃえ、と思い直し本を広げることにした。
だって待ちきれないし。


出てきた紅茶はとても上品な香りだったし、ケーキも季節のフルーツがふんだんで一番人気のものだった。
食器類も、パステルカラーのお洒落なもので、ファンの女の子たちにはたまらない可愛らしさだ。


けれど全く興味のないシルファはとりあえずそれらを全部スルーして。夢中で本を読み始めた。
ケーキはしっかり頂いた。
もちろん目は本に釘付けだったから、色も形も全然覚えてないけれど。


・・・・・・
「・・すごいや。」
あっという間に半分まで読み進めたシルファは思わず呟いた。
思っていたよりずっと濃い内容で、とにかく面白かったのだ。
わくわくしながら更に読み進めようとする。
が、はっと我に返り今いる場所を思い出した。


頼まれていた商品はすでに受け取っていたのだが、どうしても途中でやめられず、ここまで読み進めてしまった。

もう昼食の時間も少し過ぎ、おやつには少し早いような時間。
周りを見渡すと、喫茶室は客で埋め尽くされ、店の外には並ぶ列までできている。
しかもそのほとんどが女性客の集団で、男1人で居座る自分はかなり浮いているように思えて、シルファは焦った。
中には遠巻きにだが、ちらちらと興味深そうな視線をそそぐ女子たちもいたりして。


(わあ、しまった!)
慌てて荷物をまとめると、店主への挨拶もそこそこに店をでる。
やっぱこんな店僕には向いてないですよぉ、姉上。
心の中で姉に叫びながら、今度こそ家路を急ぐ。


(思いのほか時間くっちゃったなぁ。本読めたからまぁいいんだけど・・あ、そうだ。)
行きかけた道を一本戻ると、ひとつ手前の曲がり角を曲がる。

大通りとはうって変わって、急に道が細くなる。
路地の裏通りだった。

子供の頃から図書館通いが趣味のシルファは、このあたりの裏道に詳しい。
近道や抜け道もよく知っている。
名門の子息らしからぬ知識だったが、馬車で気取った店に行くよりも、こうした裏道を1人静かに散策するほうが、シルファは好きだった。


もともと人通りの少ない路地裏である。
この冬の寒さの中、外にでている者は誰もいなかった。
静かな昼下がり、シルファの足音だけが響く。

(えっと、この先を抜けたら右に曲がって・・)
日陰になっている家と家の隙間を抜け、次の角を目指し目線を上げたシルファ。
目の前で交差する通りは、午後の日差しに照らされて明るい。
眩しくて目を細めた、その時。


バタバタバタっという足音。
シルファの目の前の通りを、誰かが駆け抜ける。
「・・え?」

それは一瞬の出来事だった。
けれど、シルファははっきりと見た。
瞬間的なワンシーンが、なぜかスローモーションのように彼の目に写る。


赤い髪を翻し、風のように走り抜けたのは。


「あの子・・?」
小柄な体で彼の目の前を走り抜けたのは、確かにあの少女だと、シルファは思った。
図書館で気持ちよさそうに寝ていた、あの赤毛の少女。

そして。
「待てっ!」
一瞬の間の後、声を荒げて目の前を駆けていったのは、数人の男たち。
バタバタと激しい足音をたて、少女に向かって走っていく。
・・明らかに、彼女を追っている。

その荒々しい声を聞いた瞬間、気づくとシルファは走り出していた。

自分でもよく分かっていなかった。
けれどなぜか、あの少女が気になって、反射的に彼らの後を追って駆けていった。

第4章 出会いは冬の空の下④ ( No.19 )
日時: 2015/05/06 16:35
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)


人気のない路地裏。
建物と建物の間をくぐり抜け、軽やかな身のこなしでラヴィンは走る。
数メートル後ろからは、男たちの怒声と乱暴な足音が聞こえた。
「んもう、めんどくさいなあぁっ。」
言いながら軽くスピードを上げる。


曲がり角を見つけると、素早く左へ曲がる。
次を右、左。
石造りの階段を駆け上がると、民家の裏口に積んである荷物を飛び越え、また右へ。
追ってくる男たちを翻弄しながらあちらこちらと逃げ回っていた彼女だったが、あと一歩のところで遂に袋小路へとぶつかってしまった。


「ありゃー。」
息を切らせながら、目の前の高い塀を見上げる。
振り返ると、同じように息を切らせた男たちがラヴィンを取り囲んでいた。

・・・ひとつ後ろの建物の隙間から、シルファは小さく顔を出すと様子を伺った。
なんでついてきたのか、自分でもよく分からない。
でもあの少女が気になって、とっさについてきてしまった。

(・・あ、あの子・・、早っ・・)

とりあえず息を整えながら少女を見る。
彼女は驚くほど身軽だった。
修行で鍛えている自分でも、これだけ息が切れるのだ。
あいつらはと目を向けると、苦しそうに息をする体格のいい男が全部で5人。
ひざに手をつき必死で息をする男たち。
そのうち1人なんて、地べたに座りこみ、天を仰いでいる。
比べて少女はというと・・。


「はぁ、やっぱりよく知らない道はダメだなぁ。抜けられるかと思ったんだけど。」
のんきに言いながらあたりを見回している。
疲れている様子はない。
見た目に反した体力に、シルファは驚きを隠せなかった。



「・・・こ、このっ、どんだけ走りゃ気が済むんだっ。」
「て、手間・・かけさせやがってっ・・。」
ゼイゼイと荒い呼吸をしながら男たち言う。

セリフだけは威勢がいいが、何のことはない、すでにヘロヘロだ。
「・・はぁ。疲れた・・。」
座り込んだ男がつぶやく。

ラヴィンは呆れた顔で言った。
「だったらついてこなきゃいいじゃん。」
もっともだ。
シルファは1人でうんうんと頷いた。



「だからぁ、言ったじゃん!人違いだって。私は『ウォルズ商会』とは関係な・い・の!」
ハッキリキッパリ言い切ると、腕を組んで男たちを睨む。

男の1人が言った。
「嘘つくな。お前があの店でやつらと親しそうにしてるのなんざ、皆知ってんだよ。」
そうだそうだと地べたの男が合いの手を入れた。立ち上がるのは諦めたらしく、しゃがみ込んだまま仲間の応援に回る。
「赤毛の女。あの男が・・・ジェイド・ドールの野郎が、お前をやたら大事にしてやがんのだって、こっちは全部知ってんだからなぁ!」
そうだそうだーと再び地べた男。
ああ、あのひと合いの手要員なのかとシルファは理解する。一番体力なさそうだもんなあ。


それにしても。
ウォルズ商会?どっかで聞いたような・・?

シルファは記憶を探る。
そうしている間にも、男たちと少女のぎゃあぎゃあと遣り合う声は続いていた。
「お前さぁ。」
手前の男がニヤっと口の端を上げる。
「そんなにあいつとの関係否定するなんておかしいだろ。あの男の隠し子か?それとも愛人・・」
男が言い終わるまで待てずに、ラヴィンはぶはっと吹き出していた。

「あ、あはは、あははははっ!」
苦しそうにお腹を抱えて爆笑している。
「隠し子っ。あ、愛人だって!あははははっ。帰ったら・・っ、教えてあげなきゃ・・」
笑いすぎて目には涙まで浮かんでいる。
1人盛大に笑う少女と、きょとんとする男たち。奇妙な図だった。


「・・ん?」
そこでシルファは気づく。
あれ。さっきなんて言った?帰ったら、教えてあげなきゃ・・?それってさぁ。

シルファが見守る中、涙を拭ったラヴィンは男たちに向かって言った。
「あのねぁ、調べるならもっとちゃんとやりなさいよ。隠し子どころか叔父さんには子供なんていませんー。結婚もしてないのに、愛人って・・。叔父さんのことなんて何にも知らないくせに、よく言うわ。」
まだくすくすと笑っている。


(あーあ。言っちゃった。)
シルファはぽりぽりと頭を掻いた。
それってさ、そういうことだよね。
男たちの反応を見ながら、シルファはその場を見守った。


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