コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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第5章 友達⑤ ( No.30 )
日時: 2015/05/26 22:39
名前: 詩織 (ID: KfCyy7lh)

「これ、魔法使いが身につける装飾具なんです。」

シルファは腕につけた銀細工のブレスレットを皆に見せた。赤い石のあしらわれた、不思議な文様のものだ。

「流派によっても違うんですけど、うちはこのブレスレット型の装飾具を皆身につけてるんです。魔力が込められてて。まあ、お守りみたいなものですね。」
へぇー、ほう、とそれぞれ声を上げながら、彼の腕の装飾具を見ようと顔を寄せる。
視線が集まったからか、シルファは照れて赤くなった。


「そう言えば、君の兄上たちにも会ったことあるぜ。ま、会ったっつうか見かけたって程度だけど。」
「そうなんですか。うわーびっくりです。」
ジェイドの言葉に再び驚くシルファ。
そんな2人にラヴィンが問いかけた。

「お兄さんたちも王宮で働いてるの?」
「うん。」
答えたのはシルファだ。
「上の2人は父上の任務を手伝ってるよ。三番目の兄はまだだけど、今度貴族の屋敷の護衛の仕事に就くことが決まってる。今はその準備をしながら僕らと修行中なんだ。」
「そっか。それで?王宮で働く魔法使いって、シルファのおうち以外にもいるの?」

普段縁のない王宮や魔法使いの話題に、興味津々のラヴィン。
次々と質問が飛び出す。

好奇心旺盛なラヴィンに押されつつ、シルファは簡単に説明してみた。
「えっと、もちろん他にもいるよ。うちみたいにギリア出身の家系もあれば、もっといろんな地方から集まってきている人たちもいるしね。皆で話し合って、仕事の方針を決めるんだって。」

「王宮付魔法使いといやぁ、魔法使いの職の中でも花形だもんなぁ。」
横からジェイドが言った。
「ユサファ殿はその中心にいる。代々の王宮魔法使いたちの長はライドネル家出身者が多いからな。君の父上や兄上がたはすごいと思うぜ。」
シルファを見ながらジェイドが笑う。

「あ、ありがとうございます。」
自身も尊敬する家族をほめられて、シルファは嬉しそうに顔を赤くした。

そう、嬉しい。
もちろん嬉しいに決まってる。

けど。

「ん?どした?」
シルファの浮かない表情に気づいたジェイドが、優しい口調で尋ねた。
「あ、いえ。そのっ。」
自分の胸のうちが顔にでていたと気づき、シルファは慌てて言った。
「すみません。たいしたことじゃなくって。」
ジェイドを見ながら苦笑する。

「うち、父や兄たちはすごいんです。身内の僕が言うのもなんですけど、優秀っていうか。魔力も強いし、それを駆使する術の使い方も。特に父は歴代の当主の中でも、持っている魔力の強さは5本の指に入るって言われてます。」
「だろうな。」
ジェイドが頷く。
「でも僕は・・。」
「?」

黙ってしまいそうになるシルファを、ジェイドが視線で促す。
言ってみていいよというように。

「なんか不思議なくらい、兄たちに追いつかなくて。自分は自分て分かってるんです。自分なりに頑張るしかないって。でも、僕は何をやってもかなわないんです。兄たちにも、もちろん父なんて論外で。それでも・・」

諦めにも似たその笑顔は、なんだかとても寂しげで。
だんだん声が小さくなって、最後はつぶやくようにぽつりと言った。
「それでも、近づきたいんです。」


うつむくシルファの背中をジェイドがぽんぽんと叩いた。
顔をあげると、暖かい瞳で自分を見つめるジェイドがいた。
「まあ、いいんじゃねぇの。まだ、これからだろ。」
どっしりと安心感のある、優しい笑顔。
大丈夫だ、と言われたようで、心が温かくなった。

会ったばかりだけど。
たったこれだけのことだけど。

皆がこの人を好きな理由が、ほんの少しだけ分かった気がした。


「すみません!なんか愚痴っぽくなっちゃって。」
安心したら、急に恥ずかしくなって慌てて紅茶を飲み干す。
(僕何言ってるんだろう!初めて来た場所で、初めて会う人たちなのに。)
自分でも気づかぬうちに、不安がたまっていたのだろうか。・・話し始めたら止まらないくらいに。

それでも、何故か不思議と後悔はなかった。
ここの人たちの雰囲気が、そうさせているんだろうか?
ラヴィンからさんざん話を聞いたせいだろうか。
なんだか暖かくて、居心地がいいな、と素直に思った。


そんなシルファを元気付けるように、ラヴィンが明るい声で言った。

「でもシルファだって凄いよ!今日は私を助けてくれたじゃない。聞いてよ皆、あいつらひどいんだよ。か弱い女の子に5人がかりで、ナイフまで出すんだから。」
「ん?か弱い・・ですか?」
「か弱いの!」
アレンの突っ込みにラヴィンが頬を膨らませる。
皆が笑った。シルファも笑った。

「シルファが助けてくれなきゃどうなってたか。あ!そういえばねぇ・・!」
例の隠し子だの愛人だのという話をすると、皆大笑いした。
話題の主のジェイドだけは、なんだよそれ、と苦笑いだったが。

第5章 友達⑥ ( No.31 )
日時: 2015/06/03 22:16
名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)

まだ日が沈むのが早い季節。
窓の外は、もうすっかり夕暮れだ。

帰り支度をしながらその景色を眺めていたシルファは、その視線を隣にいるラヴィンへと向けた。
「ラヴィン、今日はどうもありがとう。楽しかったよ。」
「私もだよ。いろんな話が聞けて、楽しかった。」
嬉しそうに笑う。

玄関までシルファを見送りながら、ラヴィンが言った。
「ねぇ、良かったら、また遊びにきて?シルファの話、もっと聞いてみたい。魔法使いの話とか。」
「うん。僕も、ラヴィンと話したいよ。それに、ジェイドさんの冒険談とか、ラパスさんの剣の話とかも、もっと聞いてみたい。また、来てもいいかな?」

あれから、応接室はいろんな話で盛り上がった。
特にシルファをわくわくさせたのは、ジェイドの冒険家時代の話だ。
今は修行中であまり王都からでたことのないシルファだが、だからこそ、外の世界にもすごく憧れていた。

目をきらきらさせて彼の話を聞くシルファを見て、「ラヴィンの顔と似てる!」とウォルズ商会の面々が笑った。

隣のラヴィンに目をやると、まさにおとぎ話をせがむ子供のようにキラッキラのまなざしでジェイドを見ていて。
自分のことは棚にあげ、つい吹き出してしまいラヴィンに睨まれた。



「もちろん、いつでも来て下さいね。」
穏やかに微笑んで言ったのは、後ろから見送りに来ていたアレンだ。
「はいこれ。お姉さんにもよろしくお伝え下さい。」
手に持った紙袋をシルファに差し出す。
「わぁ。助かります。ほんとにありがとうございました。」
受け取りながら、ほっとした顔で頭を下げる。
袋の中には例の砂糖菓子。
イルナリアもきっと喜ぶだろう。


ドアを開けて外にでると、冬の夕暮れの風が吹きつけて、顔が冷たい。
でも、なんだか楽しかった時間で満たされた気持ちで、寒さはあまり気にならなかった。

「じゃあね。おじゃましました。」
「うん。」

手を振って歩き出そうとする。
そこをラヴィンが呼び止めた。
「あ、あの、シルファ。」
ん?とラヴィンを振り返る。

「今日ね、あの男たちに、言ってくれたでしょ?と、友達になるって。」
あの男たちが、再びラヴィンに仕返しにくるのを止める為、とっさにシルファが叫んだセリフ。
理由はさっき聞いた。でもそのことよりも。
「私、嬉しかったよ。かばってくれたのもそうだけど、友達になるって言ってくれて!」
照れたように明るく笑って、シルファに手を振る。
「だからさ、また、絶対遊びにきてね。」

そんなラヴィンに目を丸くしたシルファだが、次の瞬間にはなんとも言えない笑顔で答えた。
「うん。じゃあまた!」

手を振り歩き出す彼を見送って、ラヴィンはドアを閉めた。

新しい友達ができた。
この街でできた友達。
嬉しそうに鼻歌を歌いながら、部屋へ戻る。


そんなラヴィンとシルファの姿を、アレンは微笑ましく眺めていた。
小さな気がかりはあったけれど、それはまだ、心の隅に隠しておいて。

Re: はじまりの物語 ( No.32 )
日時: 2015/05/27 10:08
名前: せいや (ID: rBo/LDwv)

紹介ありがと!

調査団が、なにを模索してるのか気になりますなあ。

それに 貴殿には貴殿のやるべき事があるという意味深な発言もきになる。
名前も知っていたし。

第6章 動き出す歯車① 〜ジェンとマリーの研究室〜 ( No.33 )
日時: 2015/06/08 23:14
名前: 詩織 (ID: TtFtbd5q)

第6章 動きだす歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜

わぁ、と声をあげ、シルファはその部屋をぐるりと見回した。
それほど広くはない室内に、乾燥させた植物や標本が溢れ、たくさんの専門書が積まれている。
南側の窓辺には、見たこともない花や草木の鉢がいくつも置かれ、部屋の中には花なのか薬草なのか分からない不思議な匂いが漂っていた。

奥を見ると、小さなテーブルにガラスのビンがたくさん並び、中にはなにやら怪しげな液体。
「?」
魔法使いの性なのか、つい興味を引かれ手を伸ばすシルファに、この部屋の主が声を掛けた。


「おっと、ストップだシルファ。それは今実験中の香料だから。そーっとしといてくれるか?」
「あ、ごめんよ、ジェン。」
シルファの肩に手を置いて止めたのはこの部屋の主、黒髪の青年・ジェンだった。
「いや、いいけど。もうすぐ完成だから、そしたら見せてやるよ。」
穏やかな笑顔で言った。


ここは離れにある、ジェンの研究室兼ジェンとマリーの住居。
今はラヴィンの生活場所にもなっている。

・・あの日以来、シルファは暇があればここ、ウォルズ商会に顔を出し、ラヴィンとあれこれ話をしたり、ジェイドの冒険談を聞いたり、アレンやラパスの仕事を見学したりしていた。
そんな彼を、店の皆も快く迎え入れてくれて、シルファは厳しい修行の合間、ここで楽しい時間を過ごすようになっていた。

「やっぱり魔法使いってのは、好奇心が旺盛なのか?よく分からないものとか、怪しげな薬とか・・」
「えー、そんな変なイメージやめてよ。怪しげな薬は・・まぁ、なんだろうって分析してみたくなるけどさ。」

「そうなんだぁ。シルファも研究者っぽいとこあるもんね。没頭し始めると他の事忘れちゃうし。」
横からくすくす笑うのはラヴィン。
「そんなぁ。好奇心って言ったらラヴィンだってそうだよ。すぐ危なっかしいことするって、ジェイドさん言ってたよ?」
シルファが言い返す。
「もー叔父さんってば。自分だって人のこと言えないくせに。あ、そうだ!」
思い出したように机の上に置いた袋を開けた。

「これ、叔父さんから差し入れ。こないだ出張した時のお土産だって。」
甘そうな菓子を取り出し皿に並べるラヴィンを見て、お茶にしようとジェンが言った。

「ラヴィン、マリー呼んできてくれるか?」
お湯を沸かしながらジェンが振り向く。
いいよーと返事をしながら、店の手伝いをしているマリーの呼びにラヴィンは外へでていった。


「・・・僕がいると、マリーは来にくいかな。」
ぼそっと言ったシルファに、ジェンは優しく言った。
「そんなことないさ。あいつはちょっと・・いろいろあって・・。人見知りなだけだから。そのうち慣れるって。」
「ん。」
椅子に腰を下ろしながら、シルファは思い出していた。
ジェンとマリーと、初めて会った日のことを。

第6章 動きだす歯車② ( No.34 )
日時: 2015/06/02 19:59
名前: 詩織 (ID: yvsRJWpS)

「『ジェン』でいい。」
さん付けで呼んだシルファに、ジェンは笑った。

「俺は自分の研究も兼ねてここに厄介になってるだけだし。普通に話してもらったほうが気楽でいいよ。」
気さくに言われて、シルファは嬉しそうに頷いた。
そのジェンの後ろから、小さく揺れる水色の髪がのぞく。

「あ、えーと、シルファです。よろしく、マリー?」
ジェンの妹だと紹介された少女・マリー。
彼女の視線の高さに合わせしゃがんだシルファが声をかけると、
「・・よろしく。」
と、か細い声で返事が返る。
けれど姿は相変わらずジェンの後ろに隠れたまま。

どうしようかとジェンを見上げると、
「悪い、こいつはちょっと人見知りなんだ。また今度ゆっくりな。」
とマリーの頭に優しく手を置いて言った。

そういて2人が部屋をでて行くのを見ていたシルファだが、何気なく隣のラヴィンに尋ねた。

「ねぇラヴィン、あの2人って・・・。本当の兄妹?」
言ってから、しまった!と気づいて慌てて謝る。
(今、僕めちゃくちゃ失礼なこといったよな。)
無意識に発した言葉に後悔する。

しきりに謝りながらシルファが顔を上げると、なぜか複雑な顔をしたラヴィンと目が合った。

「・・なんでそう思ったの?」
ラヴィンが聞いた。

シルファは少し困惑しながら説明する。
「ええとね、マリーからは魔法の匂いがしたから・・かな。ジェンからは全く魔法の気配はしなかったのに。」
「魔法の匂い・・?」
不思議そうに自分を見るラヴィンに、シルファはうん、と頷いた。
「僕ら魔法使いは、普段から感覚的に魔法の力が感じ取れるんだ。それは目に見えるものじゃないんだけど・・、例えば花の匂いとか、温度とかさ・・感覚的なものなんだけど。わかるかな。」
「・・うん。なんとなく。」
頷くラヴィンを見て、話を続けた。

「さっき2人を見たとき感じたんだよね。ジェンからは全然魔法の匂いっていうか、気配がしなくて。でも、マリーからは魔法の気配がすごくしてくるんだ。しかもとても濃厚に。けど・・。」

思案顔のシルファを、ラヴィンが覗き込んだ。

「なんだろう?よく分からないんだけど、僕が今まで見てきた魔力とは、なんか違う気がする・・・。今まで感じたことのない感覚な気がするんだよなぁ。強力なのに、種類が全く違うっていうか・・。つまり、魔法の感覚からいくと、ジェンとマリーが余りにも違うから・・って、あ、ごめん。分かんないよね、こんな話。」

黙り込んでいるラヴィンに気づいてシルファは慌てて話を戻した。
「だから、ついそう思っちゃって。ごめん、変なこと聞いて。」

すまなさそうに言う彼に、ラヴィンはううん、と首を振った。
「シルファは魔法使いなんだもんね。うん、確かに・・・本当の兄妹じゃないんだ。」
打ち明けるように、小さな声で彼女は言った。
「でも、ちょっと事情があって、そういうことにしてる。ごめんシルファ。マリーことは、ここで会ってもそっとしといてあげてくれるかな。」
ラヴィンの言葉に、シルファは強く頷いた。

だって、ここはマリーの居場所なのだから。
遊びに来ているだけの自分が、彼女に嫌な思いをさせるなんてとんでもない。
(ジェンとマリーのことは聞かずにおこう。)
そう思った。
(でも、可愛かったな。)
こちらも末っ子のシルファは、ちょっぴりそう思ってしまった。
いつか仲良くなれたら嬉しいな。


「・・ルファ、・・シルファってば!」
ラヴィンの呼び声でハッと我に返ると、マリーを連れて部屋に入ってきた彼女と目があった。
「どうしたの?ぼーっとして。」
「あ、いや、なんでもないよ。」
ラヴィンに言った後、後ろのマリーに向けて微笑んだ。

「こんにちは。マリー。おじゃましてます。」
「・・こんにちは。」
シルファの笑顔にちらりと視線を向け小さく言うと、すぐに目を逸らしてしまうマリー。
そんな彼女に、シルファは立ち上がって席を譲った。
「こっちおいでよ。ここ、南側だから暖かいよ。僕はそっちの机のとこ、座りたいからさ。」
マリーが落ち着いてお茶が飲めるようにと、テーブルの席を三人に勧めて、自分は反対側のジェンの資料が積まれた机へと移動する。


椅子を引くと反動で崩れそうになる本の山に、シルファは苦笑する。
(なんか僕の部屋と似てるな。)
なんとなく親近感。

「ん?」
雑多な研究資料の山の間に、開かれたノートが目に入る。
そこにはなにやら絵や文字がびっしりと書き込まれていた。

「ジェン、これは?」
「ああ、それは今回の仕事で行った村のスケッチ。今回は植物の商品利用の調査依頼で行ったからな。向こうで調べた文献の資料と、採取した植物のスケッチだ。」
お湯を沸かしてお茶を淹れていたジェンが顔を上げた。
「見てもいい?」
「ああ、構わないよ。」

許可を貰ったシルファは嬉しそうにページをめくる。
綺麗な文字で、植物や村の土地の様子が書き込まれ、スケッチには丁寧に色まで塗られていた。
「上手だなぁ!器用なんだなージェンは。」
感心して声を上げるシルファに
「ま、一応研究者だからな。」
とまんざらでもない様子のジェンが言った。

「今回はどこ行ったんだっけ?」
お土産の菓子をつまみながら、ラヴィンが聞いた。
「ルル湖の南側。前に社長も商談に行ってた町あるだろ?鉱山のある。あそこの隣の村だよ。」
「ああ!ファリスロイヤの逆側ね!」
楽しそうにラヴィンが言った。

2人がそんな会話をしている間にも、シルファはページを繰っていく。
丁寧に書き込まれた調査結果は、シルファには物凄く興味深いものだった。

ジェンがお茶を淹れ終わっても、夢中でページをめくっていたシルファだったが、その絵のページを開いた時、手が止まった。

「えー?それはないって。ラヴィンがおかしいんじゃないのかぁ?」
「うそだぁ。ジェンがおかしいんだよ、ねぇシルファ。・・シルファ?どうかしたの?」
くだらない言い合いをしながら笑っていた3人だったが、返事をしないシルファに気づいて机のほうを向いた。

皆の視線にも気づかず、シルファはそのページをじっと見つめたまま、難しい顔でなにやら考え込んでいた。

「なーにしてんの?」
「う、うわっ!ラヴィンか。驚かさないでよ。」
急に耳元で声を掛けられ、シルファは驚いてノートを落としそうになった。

「だってー呼んでも全然気づかないんだもん。何見てたの?」
ラヴィンがシルファの手元を覗き込む。
「なに、これ。」
その見たことのない模様の絵に、首をかしげて、それからジェンを見た。

「ん?なんだ?」
お茶のカップを置いて、ジェンが立ち上がる。
マリーも興味があったのか、ジェンの後ろに続いて、シルファのいる机のところまでやってきた。
4人でノートの見開きページに描かれた、村の風景画を覗く。
そして。

「これなんだけど。」

シルファが指差したのは、風景画の中に描かれた、小さな石碑のようなもの。その横に書かれているのは、不思議な形の模様。
「ああ。」
視線に答えるように、ジェンが言った。


「それは村人が昔から信仰している神様の石碑だよ。横の模様は・・そこに彫られてた。今じゃ誰も読めないし、意味も分からないそうだけどな。」


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