コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 第14章 ファリスロイヤ昔語り 〜君に捧ぐ花の色は〜 ( No.125 )
- 日時: 2016/01/23 18:11
- 名前: 詩織 (ID: 710duu2T)
え? ええ??
リーメイルは呆然と、目の前に立つ幼馴染を見つめた。
見慣れているはずの顔なのに、なぜかいつもと違って見える。
(?????)
自分の頬にそっと添えられている、彼の左手。
「えと、・・トーヤ?」
小さな頃からずっと一緒にいたけれど、こんな彼は初めて見る。
触れられた手からほんのりと暖かさが伝わってきて、顔が熱くなるのが分かった。
今、自分の顔はきっと赤い。
リーメイルはなぜかドキドキして止まらなくなってしまった。
目を丸くしてトーヤを見上げていると、今度は彼の右手がスっと動いた。
近づくその手に、思わず身をすくめると、リーメイルはぎゅうっと目をつぶる。
鼓動が更に早くなった。
左側の頬に、右と同じ暖かさを感じて。
次の瞬間。
「・・・へ?」
———— むにゅ、という感触と共に、両側から、頬がつままれるのが分かった。
「???」
何が起きたか全く掴めず、固まったまま、目だけをぱちくりと瞬かせるリーメイル。
その呆けた彼女の顔を見下ろして。
「ぶはっ!」
堪えきれないように、トーヤが思い切り吹き出した。
「・・は?」
呆然とする彼女をよそに、盛大に笑う彼。
「ぶっ、くく、お前っ、変わらねぇよなぁその顔!ガキの頃のままじゃんか。ははっ、『聖女』サマのくせになー。」
「!」
『聖女様』。
この日、このタイミング、この状況でのそのセリフに。
リーメイルの中の何かがぷつんと切れた。
「らによそれ!!なんらのよ!らんで今そのよび名でよぶの?あたしのきもち、ひってるくせに!!」
頬を引っ張られたままだから、微妙に発音が出来てない。
でも、そんなことより、なんで彼がこんなことをするのか分からなくて。
カッとなったまま、リーメイルは声を荒らげて叫んだ。
ただでさえ儀式の前の不安と緊張でいっぱいな時なのに。
っていうか、あんなにドキドキしたのに!
ただのイタズラだったなら、ぜったいぜったい許さないんだから!!
張り詰めていた緊張によるストレスを一気に吐き出すように、リーメイルはトーヤを思いっきり睨みつけた。
「わけわかんらいっ!らにふんのよ、このバカトーヤ!!」
むにょんと頬を伸ばされたまま、彼女にしては滅多にない剣幕でくってかかった。
本人も気づかぬうちに溜まりに溜まっていた何かが、あっという間に溢れ出てくる。
すると。
「バカはお前だろ!このバカメイル!」
それを真っ正面から受け止めるように。
すかさず反撃され、そのままゴン、とおでこに衝撃がきた。
「いひゃっ!」
思わず閉じた目を開けると、すぐ目の前に彼の顔があった。
その瞳が、上から自分を覗き込んでいる。
「らにふんのよぅ。」
思い切り非難の色を浮かべた視線を向けるが、そんなものものともせず、彼は言い放った。
「『聖女』だろうが『悪女』だろうが!いいじゃねーか、呼び名なんてなんだって!」
「あ、悪女って・・。」
「お前はお前だろ!!」
・・・。
リーメイルは目を見張る。
目の前の栗色の瞳の中には、頬をつねられたままの自分の姿が映っていた。
「呼び名なんてなんだって・・、お前はお前なんだろ、リーメイル。」
彼女の目をまっすぐに見据えたまま、強い口調でトーヤは言った。
「確かに、お前のことなんか何も知らずに、ただ見た目や噂で『聖女』っつーシンボルに祭り上げようとしてる奴らがいることも知ってる。お前が必要以上に崇められるのを好んでないこともな。その期待が相当プレッシャーになってることだって見てりゃ分かるよ。けど・・。」
目をそらさずに、語りかける。
「お前が昔から親切にしてきた奴らや、仲良くしてきた奴ら・・、施設の子供たちや、町の年寄り連中とかさ。あいつら、皆お前のことが好きだから。だから、こんなにお前のこと応援してるんだぜ?」
強かった口調が、少しだけ柔らかくなった。
「あいつら、本当にお前のことが好きなんだよ。巫女としてお前にこの土地を守って欲しいって、心底思ってる。神殿の奴らだって皆そうさ。お前だって・・、それは分かってんだろ?」
頬をつままれたまま、リーメイルはコクリと頷いた。
「だったらさ。」
トーヤの顔に、ふっと優しい笑みが浮かぶ。
「信じてやれよ、あいつらのことも・・、自分のこともさ。お前なら、大丈夫だから。」
そこまで言うと、そっと、彼女の顔から手を離した。
リーメイルはやっと解放された頬をさするのも忘れてトーヤを見ている。
頭の中を、彼の言葉がぐるぐるとまわっていた。
- 第14章 ファリスロイヤ昔語り 〜君に捧ぐ花の色は〜 ( No.126 )
- 日時: 2016/01/26 16:45
- 名前: 詩織 (ID: DTH1JhWe)
『お前はお前だろ!!』
トーヤの言葉がリーメイルの中で何度も響いた。
それは静かに、ゆっくりと、心の中に染み込んでくる。
彼の強い口調と、その瞳に映るちょっとまぬけな自分の顔。
嬉しい気持ちとあったかい気持ち、それになんだかちょっぴり可笑しい気持ちが次第に湧き上がってきて。
リーメイルは思わず笑っていた。
「そっか。うん。そうよね。」
照れ屋な彼なりの、これはきっと励ましの言葉。
(ほんとにもう・・、やり方が乱暴なのは昔と変わらないんだから。)
それでも確かに、彼の気持ちは伝わってきた。
(『私』は『私』。)
リーメイルは彼を見上げて言った。
「ありがと、トーヤ。」
さっきは本気で頭に来たけど。
でも、彼とやりあって思いっきり発散したおかげで、溜まっていたモヤモヤはずいぶん吹き飛んだ気がする。
あんなに感情的になったのはひさしぶりだし。
そもそも、あんなケンカする相手なんて彼くらいだし。
なんだか、気持ちが楽になった。
(おっきなお役目だもの。不安だし、怖いけど・・、でも、頑張りたいな、私。みんなも、トーヤもいてくれるんだもの。それに)
『信じてやれよ・・、自分のこともさ。』
(信じたい。みんなのことも・・、自分のことも。)
信じたい。
リーメイルは強く思う。
覚悟は、決まった。
(よし!)
心の中で気合を入れると、リーメイルは明るく言った。
「うん、もう大丈夫。ありがとう。頑張るね!私。」
その笑顔を見下ろして。
トーヤは満足げな表情を浮かべたが、それはほんの短い時間で、すぐにいつものからかいを含んだ笑みに変わった。
「なんだよ、単純だなぁお前。やっぱ昔のままじゃん。泣いてても菓子もらうとすぐに泣き止むとかさ。」
「もー、せっかく感謝したのに!いつも一言余計なのよトーヤは。」
ふん、と笑う彼に、リーメイルは呆れたように言い返した。
まぁ、仕方ないか。
リーメイルは心の中で苦笑する。
照れ屋で意地っ張りな彼が、素直に優しくするなんて出来るわけないもんね。
でも、だからこそ。
さっきの言葉は胸に響いた。彼が本気で言ってくれたのが分かるから。
(本気の言葉を伝えるのは、勇気がいるもの。)
頑張って、伝えてくれたんだなぁと思うと、からかわれても、あまり嫌な気はしなかった。
そんなやりとりをしている中、トーヤの右手がサッと動く。
「ちょ、やめてってば、もう分かったから・・。」
思わず身を引くリーメイル。
だが彼の手は、彼女の顔の横を掠めて、すぐに離れていった。
「?」
彼の手が掠めた場所にある、何かの感触に気づいて、リーメイルはそっと手で触れてみた。
「?これ・・。」
ふわり。
よく知っている香りが漂う。
そこに挿されたものの正体に気づいて、彼女は目を丸くした。
「あの花?いつの間に・・。」
いつの間にとってきたんだろう?
今日は彼だって儀式の準備で、朝から忙しかったはずなのに。
彼女の髪に挿されていた、それはあの赤い花。
神殿の外、森の近くに生えている、リーメイルの大好きな「あの花」だった。
「お前、儀式の日取りが決まってからずっと 『緊張する』って言ってただろ。やるよ。好きな花でもつけてりゃ、ちょっとはましだろうからな。」
御守り代わりにはなるだろ。
そう言う彼の顔は、少し硬い。
口調も先ほどより少しぶっきらぼうな感じがして。
目をまんまるくして彼を見ていたリーメイルは、その意味を悟って、思い切り吹き出していた。
「あはははっ。トーヤ、照れてる!ふふっ。」
「なっ!そんなんじゃねぇよ!お前が大事な儀式でドジやらかしたら神殿の威厳が傷つくだろ!俺は次期神殿長としてだなぁ・・!」
「分かった分かった!あはは、ありがとう、次期神殿長サマっ。」
立場逆転。
いつものお返しとばかり、思い切りからかってみる。
(いいじゃない?たまには、ね。)
リーメイルの楽しげな笑い声に、トーヤはふてくされた様子でふん、と視線を逸らした。
けれどそんな態度すら、どういう顔をしたらいいのか分からない彼の照れ隠しだと知っていたから。
嬉しくて、くすぐったくて。なんだか愛おしい気持ちにもなって。
リーメイルは久しぶりに、心の底から笑った。
そんな彼女を、さてどうしてやろうかと見下ろしていたトーヤだが、ハッと我に返って叫んだ。
「おい!今何時だ?!お前、就任儀式!」
その声に、リーメイルも「あ!」と叫ぶ。
「いけない!神殿長様たちきっとお待ちになってらっしゃるわ!」
2人は慌てて走り出す。
「ほら、いくぞっ!」
トーヤはリーメイルの手を掴むと、一気にスピードを上げた。
「きゃっ、ちょ、待ってっ。」
「待たねーよ!」
繋いだその手を更に強く握って、トーヤとリーメイルは儀式の間へと駆けていく。
2人が去ったその場には、ほのかに、甘い花の香りが漂っていた。
——— その日、皆が感心するほど堂々とした佇まいで儀式を終えると、リーメイルは、名実ともに神殿を代表する巫女となった。
その髪を、可憐な赤色の花が、優しく彩っていた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
時を同じくして。
神殿と対をなすここファリスロイヤ城は、今まさに、大きな転換期を迎えようとしていた。
「た、大変ですっ、皆様、こちらにいらっしゃいますかっ?!」
バァンと大きな音を立てて扉が開き、衛兵の1人が飛び込んでくる。
尋常ではないその勢いに、ファリスロイヤ城会議の間において今まさに決議の最中だった重臣たちは、何ごとかとそろってそちらに顔を向けた。
「何事だ。今日は大事な決議の日である。場を弁えよ。」
会議をしきっていた重臣の1人・ゾーラが顔をしかめるが、それどころではない様子の衛兵はゾーラが彼を追い出すより前に、早口で伝令を叫んだ。
「城門兵より伝令ですっ!留学中であらせられましたリアン様、たった今、突然のご帰郷とのこと!事前の御連絡もなく、ただ今城内騒然としております!どうか、ご指示を!」
- Re: はじまりの物語<おしらせ> ( No.127 )
- 日時: 2016/05/26 19:00
- 名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)
〜〜 おしらせ 〜〜
こんにちはー。
いつも読んでくださってありがとうございます(^^)
今回はちょっとしたお知らせです。
本編が一段落しましたら、おまけのショートストーリーとして小話をいくつか書いてみたいなぁと思っております。
本編だとどうしてもストーリー上書ききれない、どうでもいいような(?)話とか、日常とか、人間関係とか、そういう遊びっぽいのをやってみたくて^^
もうちょっとひとりひとり突っ込んでみたいなぁとか思ってます。
読んでくれる方に楽しんで欲しいなーと思っているので、もし何か見てみたいシーン、キャラなどなどありましたら、ぜひ教えてください。
ほんとにちっちゃなワンシーンで大丈夫です。
過去、未来のエピソードとか。
気になるキャラ名だけでもいいですよ。教えて貰えたらうれしいです。
あ、もちろん本編に関してでもOKです!
まあ書けるかどうかはおいといて(^^;
やってみたいなぁと思います。
よかったら ご意見・ご感想 教えてくださいね。
本編は先へと進んでいきますが、いつでもお待ちしております。
- 第14章 ファリスロイヤ昔語り 〜暗雲〜 ( No.128 )
- 日時: 2016/01/28 20:45
- 名前: 詩織 (ID: OCiCgrL3)
ファリスロイヤ昔語り 〜 暗雲 〜
「・・ここは?」
沈んでいく意識の中で、リーメイルは1人呟いた。
薄暗い靄の中を、所在無げに漂う感覚。
足元がおぼつかない不安感と、底知れぬ恐怖のようなものが
ジワジワと這い上がってくる。
ここはどこだろう?
無音の薄闇である世界は、少しずつ少しづつ、闇が濃くなっているような気がする。
辺りを見回すと、一箇所、その薄闇の中でも一際濃い影を落とす場所が浮かんでいた。
(何かしら?)
ゆっくりと一歩踏み出す。
意識を集中させる。
そして、見えたものは・・。
「あれは!?」
真っ暗な闇に包まれた、それは、この地の中心。
毎日のように眺めている、この地のシンボル。
「ファリスロイヤ城?・・どうして?」
闇の濃さは更に増してゆく。
自身も飲まれそうになりながら、リーメイルは必死にかの城を見つめた。
———— そこに視えたのは。
深い深い、海の色。
彼女を見返す、2つの瞳。
深い深い、闇のいろ —————
「っ!!」
「リーメイルっ?!」
遠くで声がして、パタパタと足音が駆け寄ってくる。
祭壇の前、荒い息をしてしゃがみこんでいたリーメイルは、固く閉じていた瞳をうっすらと開いた。
「まあ、ひどい汗。大丈夫なの?ずいぶんと長いこと篭っていたから心配で様子を見に来たのだけれど・・。」
リーメイルと同じ白い巫女装束を身に付けた年配の女性が、心配そうに声をかけ、そっと寄り添う。
「ごめんなさい、大丈夫です。ちょっと深く入りすぎてしまったみたいで。」
なんとか笑顔を浮かべようとするが、無理をしているのは明らかだった。
「何か・・、よくないものでも見ましたか?」
深く祈りを捧げる時、リーメイルはしばしば女神からの神託を受け取ることがあった。
それは、良いことも、悪いことも、区別なくやってくる。
細かいコントロールは出来なかったが、彼女が内側に深く入り込んだ時、時にはヴィジョン、時には声のようなイメージなど、断片的ではあったが様々な方法で何かの予見がやってくるのだった。
「いえ、大丈夫です。少し、集中しすぎて疲れてしまって。心配かけてごめんなさい。」
そういう彼女に、年上の巫女は穏やかに笑った。
「いいのですよ、あなたに何ごともないのなら。リーメイル、巫女長になったからと言って、無理をすることはありません。あなたは、今までも十分よくやっていました。ゆっくりとでいいのです。今まで通り、ゆっくり、やっていきましょうね。」
優しく語る女性の言葉に、リーメイルはほっとした表情を見せた。
小さな頃から世話をしてくれていた、彼女にとっては母でもあり、祖母でもあるような存在の女性。
彼女の穏やかな笑顔と声は、リーメイルに安堵の感覚を与えてくれる。
「ありがとう。もう大丈夫。少し、休みます。」
そういうリーメイルの背中を優しく撫で、「そうしなさいな。」と告げると、笑顔を残し、彼女は自身の持ち場に戻っていった。
1人残されたリーメイルは、目の前の祭壇で微笑む女神像を見上げる。
(あれは、なんだったのかしら。)
あの、闇の中の城。あの、恐ろしい瞳。
弾かれるように、あの空間から引き戻された。
「何ごとも、起こりませんように。どうか、穏やかで平和なこの地の暮らしが、ずっと続いてゆきますように・・。」
心の不安を必死に押さえ、リーメイルは祈った。
皆が愛するこの土地が、平和でありますように。皆が笑顔でいられますように。
紡ぐ言葉とは裏腹に、心はなぜか、晴れなかった。
- 第14章 ファリスロイヤ昔語り〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.129 )
- 日時: 2016/02/01 23:49
- 名前: 詩織 (ID: VNDTX321)
ファリスロイヤ昔語り 〜 冥(くら)き闇の手を持つ者よ 〜
「リアン様っ?!」
自分の名を呼びながら駆け寄るゾーラに、ファリス一族本家の嫡男、リアン・クロウド・ファリスは足を止めずに声だけを返した。
「ゾーラか。久しいな、息災か?」
オリーブ色をしたストレートの髪は、肩のあたりで切り揃えられ、歩くたびにサラサラと揺れている。
ちらりと視線を投げ薄く笑うと、返事も待たずに再び前を向いた。
ゾーラは彼に歩調を合わせながら、困惑した面持ちで問う。
「私のことなど今は良いのです!このような突然のお帰り、何かあったのですか?!予定ではお帰りの時期はまだ三月以上も先のはずでは・・。」
「やることが出来た。」
きっぱりとした声で言い放つ。
その鋭さに、ゾーラは思わず言葉を途切れさせた。
そんな彼を気にかける様子もなく、リアンと呼ばれた青年は続けた。
「父上はどこにおられる?」
「は、ただ今の時間はお部屋の方でお休みになられております。少しお疲れの御様子で・・。」
「そうか。」
そう答えると、リアンは足を速めた。
「父上のところへゆく。お前はここにいろ。」
「いえ、私もお共致しま・・。」
「いや、いい。我々だけでゆく。ここにいろ。」
ゾーラの言葉を遮り、リアンは強い口調で言った。
その言い方に、ゾーラは戸惑いを隠せない。
(これが・・、あのリアン様か?)
姿かたちがそれほど変わった訳ではない。
背が、少し伸びたくらいだろうか。
けれどその声の強さが、言葉が、そしてその瞳の鋭さが。
父の命令で他国へと留学に出るまでの彼と、今目の前を歩く青年では、全くの別物であると感じられた。
もうひとつ、気になることがある。
『我々』と。
そう言ったリアンを見つめたあと、ゾーラは視線を彼の後ろへと向けた。
先ほどリアンを見つけた時から、気になっていた存在たち。
「リアン様。彼らは一体・・。」
灰色のフード付きローブを羽織る人物たちが数人、リアンの後ろに付き従っていた。
フードから覗く髪や瞳の色は様々で、明らかにこの土地の者ではない。
「ああ、彼らは僕の客人だ。」
「客人?」
事も無げに言うリアンの言葉に、ゾーラは訝しげな声を返した。
「一番前がルーファス。彼は一流の魔法使いであり、深い見識を持つ賢者でもある。後ろの彼らはルーファスの助手だ。」
さらりと答えるリアンに、ゾーラは黙ったまま後ろを振り返った。
ゾーラが視線を向けると、ルーファスと呼ばれた男が顔を上げる。
ちらりと目が合った。
——— 濃紺の瞳。深い海の様でもあり、底知れぬ妖しさの滲むその色に、ゾーラは一瞬引き込まれそうになる。不思議な力のある瞳だった。
髪は瞳と同じ色がベースだが、そこに紫や深緑や白や黒・・まばらに色が混ざり合った、初めて見る髪色だ。
もともとなのか、何か魔法の影響なのか。
それすらもゾーラには分からない。
見たことも聞いたこともない風貌だ。
(・・・異国の魔法使いか?)
小さく会釈をすると、彼はゾーラから目を逸らし、視線を前を行くリアンへと戻した。
「これから役に立ってもらう予定だからな。丁重にもてなせ。」
そう言うとリアンはゾーラを残し、得体の知れぬ魔法使いたちを引き連れて父の部屋へと去って行った。
それを見送って。
(一体何があったというのだ、リアン様・・?)
リアンへの驚きと怪しげな付き人たちへの警戒心を抱えたまま、ゾーラは険しい顔をして、彼らの去った方向をじっと見つめていた。
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