コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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第15章  因果は巡る風車  〜欲しかった強さ〜④ ( No.200 )
日時: 2017/03/06 12:29
名前: 詩織 (ID: a1.gBlqJ)


「・・シルファ。トーヤがもうすぐだから準備してくれって」
遠慮がちに声をかけたラヴィンは、返事のない背中にもう一度呼びかける。
「シルファ?」
「え、あ、ラヴィン。ごめん、何か言った?」
抑揚のない声はやっぱり彼らしくない。
「トーヤが、もうすぐだって」
「そっか。分かった、ありがとう」
微笑んでるつもりだろうけど、その笑顔がいつものシルファじゃないことにラヴィンの胸は痛んだ。

ここはトーヤのいる地下の隠れ家だった。
イルナリアの機転により、城に直接ではなくここにある移動魔法陣を使って向こうの隙をつく作戦をとったのだ。
そうして今、イルナリアがユサファたちと対峙している間に、マリーとシルファを連れて一旦こちら側へと戻ってきた。

『眠りの唄の封印は今、無理やり蓋がはがされた状態だ。どちらにしても、もう引き返せない。魔力は溢れ出てくる』
『そんな!どうしたらいいのトーヤ』
『長い年月を経て、魔力はだいぶ薄れている。俺もその一部だからな、分かるんだ。だから思い切って封印を解けばいいと思う』
『そんなことしたら魔力の暴発が』
『聞け。シルファの一族がやろうとしたことは、封印された魔力の中から特定の力だけを選別する魔法だった。マリーの力を上手く起動出来ずに失敗に終わったが、今度は俺の力を使えばいい。俺は封印された魔力の一部だ。今の状態なら力をコントロールできる。そうして呼び出すんだよ』
『呼び出すって・・』
『リーメイルだ』
眠っているリーメイルの魂を呼び出す。そして残された魔力が暴発する前に、正しい流れで自然に還るよう魔法をかけ直してもらう。
『今だからこそ出来る方法。そしてそれが出来るのは、世界でただ1人、リーメイルだけだ』


ラヴィンはシルファに近づくと、静かに隣に座った。
俯く彼の顔は髪に邪魔され、隣からでもその表情は見えない。
「シルファ」
返事はない。
ラヴィンは思い切って手を伸ばすと、優しくシルファの背を撫でた。
「大丈夫。シルファ、大丈夫だよ」
彼の肩にこつんと頭を乗せると、肩を抱くように身を寄せた。

「・・強く、なりたかったんだ」
こぼれた言葉は、微かに震えていた。
「でも、それは僕の欲しかった強さじゃなかった」

僕は、間違ってたのかな。
静かに漏れる嗚咽に、ラヴィンはただ黙ってその背を撫で続けた。

Re: はじまりの物語 ( No.201 )
日時: 2017/03/27 21:48
名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)


**


「どういうことだ、イルナリア」
固い声で問いただす父親を前に、けれどイルナリアは臆することなく向かい合った。

「言った通りです。私は私のやるべき事をする為にここに来ました」
「やるべき事とは」
「もちろん、お父様をお止めすることです」
イルナリアの視線は揺るがない。
ユサファは疲れたようなため息をついた。
今回の要であるマリーとシルファはすでに姿を消している。
計画は失敗だ。

中途半端に放たれた魔力が暴走しないよう、魔法使いたちはバランスをとるので精一杯。このままおけるはずもなく、すぐに今後の処置を考えなければいけない。

「どうして突然・・その恰好はどうした、なぜ魔法使いでないお前が」
「魔法使いではないからこそです」
イルナリアは即答する。
「せっかく素質が認められても、身体が弱く魔法使いとしての道は選べなかった。家族なのに何の役にも立てないのが悔しかった。私だって、お父様やお兄様、シルファや・・皆と一緒に、この家の為に力を尽くしたかった」
ユサファも、その後ろで魔法の渦中にいる3人の兄たちもそろって瞠目していた。
イルナリアがそんな風に自分を語るのは、初めてのことだったから。
「だから決めたのです。直接魔法は使えなくとも、魔法についての知識は誰よりも身に着けようと。魔法道具のことも必死で学びましたわ。いざという時、いつでもお役に立てるように」
「・・それが・・なぜ、今・・」
「お父様。私がそう心に決めていたのは、家族が、一族の皆が大切だったからです。皆が笑っていられるように、私は私なりに大切なあの家を守りたかった。・・お母様のように」

まだ子供たちが年端も行かぬ頃、病で逝った妻。
その面影が浮かぶ。

「殿方というのは大変ですわね。当主、またはそれに準ずる立場になれば尚更。守らなければならないものが増えていく。・・けれど」
—— その中で見失われていくものも、確かにある。
そしてそれはもしかしたら、とても、大切なものかもしれない。
「今、お父様はご自身の本当の心を見失っているように感じます。それはお兄様たちも」
ユサファは立ち尽くしたまま、微動だにしない。
イルナリアは静かに告げた。
「それをお止めするのが、ライドネル家の女としての、私の役割かと。ですから私は私なりに、勤めを果たそうと思います。—— お母様に代わって」

Re: はじまりの物語 ( No.202 )
日時: 2017/03/28 12:22
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

お久しぶりです!!
……名前をお見かけしてたまらずにコメントさせて頂いてます笑←

前回コメントした時に、参照6000突破の内容だったと思うんですけどあと少しで7000……きっと詩織さんならすぐなんだろうなぁ、とか思ってました。


小説を新コメディ板に移動しました!

最近は忙しいを言い訳になかなか更新出来ていないです←
本当は書こう、と思って時間を作っているのに全く書けなくって。

ここまで捗らないなら……いいや。ってなってしまいます(‾▽‾;)

本当に忙しくて更新の出来ない方に失礼ですよね。←

一更新の文字数もそんなに少なくないはずなのに、なかなか進まない。
ずっと停滞してる状態です笑

あんまりテンポよく進めすぎても、なんだかなぁーって思ってしまいますが私の場合は遅すぎてテンポが悪いどころかまともに刻めてさえいなくて(´;ω;`)


私自身の話ばかりになってしまいましたが、詩織さんの更新見て心に染みるものがありました。

どうやったら、こんなに夢中にさせられるような文章や内容が書けるんだろうとか……。

そのお陰もあってか、今日は少し進めることが出来ました←


この小説が立てられた時から、「すごく面白い」って思った気持ちが今でも離れなくて。

なんて言うんでしょうか、この小説の……虜です笑


本当に素晴らしい作品をありがとうございます!(*´▽`*)
これからも頑張ってください!

応援してます。


色々と書いてしまってすみません(((;°▽°))

byてるてる522

Re: はじまりの物語 ( No.203 )
日時: 2017/03/28 14:28
名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)

>> てるてる522さん


お久しぶりです!お元気そうで何よりです☆

私もなんだかんだで更新が久しぶりになってしまい(しかも短い(;^ω^))サイトを開くのも2週間ぶりくらいです。

「最近は忙しいを言い訳に〜〜」、私もおんなじですよ!
なんとか書く時間は作れるんだけれど、その隙間時間でうまく集中力やモチベーションが保てなくて。

結局停滞させてしまって、読んで下さってる方に申し訳ないなぁといつも思います。


でも文章書いてるいろんな方の話を聞くと、それもひとつの「文字書きあるある」みたいです。

あるプロの方は、

「受賞云々以前に、まず完結させることが難しい」

「書けないから意志が弱いとか自分を責める必要はない。それは小説的筋力がないだけだ。

いきなりフルマラソンをしても完走なんてできない。まずは短距離から筋力をつける。小説も同じで、書き上げることがとても難しいのだから、少しづつ習慣づけて小説的筋力を鍛える」

というようなお話をされてました。

私も小説的筋力は全然ないから、すぐ逃げたくなっちゃう。
好きで書いてるくせにね(^-^;


あと頭の中のイメージではすごく色々浮かぶのに、実際書くと全然それを表現できない自分の実力が目に見えてしまって

そのギャップに自分が耐えられないとか(苦笑)

全力でやるって、残酷なほどに自分のできなさ加減が浮き彫りになりますからね。文章だけじゃなくて、どんなことでも。


でもそれも「あるある」らしいですよ。

割と創作者の皆さん、似たような経験されてる方も多いようです。


私はそれを知って、「なんだ〜自分だけじゃなかったんだ〜。じゃあこつこつやってたらなんとか乗り越えられるかな」と、ちょっとほっとしました(^^)/


こんな私が書き続けられているのは、
てるてるさんのように読んで下さる方、声をかけて下さる方がいるからに尽きます。

1人だったら、絶対続いてない!

だからとっても、本当に感謝してるんですよ。

嬉しいコメントを、どうもありがとう(#^^#)


てるてるさんの作品も、十分に面白いし、私にはない視野と感覚を持ってるので新鮮です。もしかしたらご本人にとっては当たり前すぎることかもしれないけど、他人から見たら意外と新鮮なことってあるんだと思います。自信持ってくださいね♡

素敵なメッセージに感動して、こちらこそ長々と失礼しました<(_ _)>

これからも小説、お互いに楽しみましょう。

第15章  因果は巡る風車  〜欲しかった強さ〜⑥ ( No.204 )
日時: 2017/03/28 14:39
名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)

記憶の中の彼女は優しくて朗らかで、そのくせ時折見せる頑固さはユサファをもたじろがせるほどだった。
けれどその笑顔はどんな時も、ユサファに安らぎを与えてくれる。
振り返ればいつも、見守っていてくれたひと。
(・・・リリア?)
目の前の娘に重なるのは、遠い記憶の中の妻。


「お父様を責めるつもりなど、私には毛頭ありません。その資格すら、私にはないのですから」
茫然を自分を見つめるユサファから目を逸らさずに、イルナリアは続ける。
「家の為、ご先祖様方の為、そして今を生きる私たち一族皆の為。そうやって全部を背負われて、ご自身の全てを捧げてきたお父様を責めることなど、一族の誰にもできはしません。私たちを守ってきて下さったお父様には心から感謝しております」

けれど、と。
そう言ったイルナリアの瞳が揺れた。
うっすらと透明な雫がひとすじ、その白く柔らかな頬を滑り落ちていく。
「だからこそ、お父様をお止めしたかった。こんな形でご自身を失って欲しくなかった。幸せに、なって欲しかった」
もちろんシルファやマリーの為でもあった。
きっかけはラヴィンとジェイドとの面会だった。
けれどその気持ちの更に奥、ずっとずっと隠してきた父への想いが今言葉に、行動になってあっという間に溢れだしてゆく。

「お父様」
「・・・」
「私、何でもしますわ。お父様のお力になれるよう、もっと頑張ります。だからどうか、お一人で背負わないで下さい。どうか、あの優しかったお父様に戻って、笑って下さいませ。このような、誰かを、自分たちをも犠牲にする行為など、どうかお考え直し下さい。お願い致します」

そこまで言ったイルナリアの身体が、ふいに傾いだ。
「おい!イル!」
くたりと崩れ落ちるイルナリア。素早く駆け寄ったのはリュイだ。
魔法から手を放したことで鋭い火花と痛みが彼を襲ったが、かまうことなく妹を抱き止めた。
「大丈夫か?!」
「・・え、ええ、大丈夫・・です。少し、眩暈がしただけで」
青白い顔をして、それでも気丈に笑みを浮かべようとする妹に、リュイは口元を歪める。苦い思いがこみ上げる。
「バカ。なんて無茶なこと・・」
「リュイ兄様こそ」
魔法よって火傷を負ったリュイの右手を、イルナリアはそっと包み込む。
「シルファと同じことを。やっぱり兄弟ですわね、私たち」
ふ、と嬉しそうに笑った後、イルナリアはリュイの眼を見て言った。

「私、お兄様方にも、幸せになって欲しいと思っています。そんな辛そうな眼をするリュイ兄様も、もう見たくないんです」
「・・イル」
驚いたように瞠目して、それからリュイの表情が崩れた。
困ったような、泣く一歩手前のような、そんな笑みだった。

「ふふ。良かった」
「?」
「リュイ兄様のそんなお顔、久しぶりに見ましたわ。最近はずっと難しい顔で気を張ってらして。シルファにも意地悪ばかり」
「あれは」
「分かっています。あれは兄様なりの愛情表現ですわよね。シルファをからかう時だけは、楽しそうにしてらしたもの」
イルナリアがクスリと笑う。
リュイはぐっと言葉につまった。
「気づいていないとでも思ってらして?見ていれば分かります。お父様もお兄さま方も、だんだん笑わなくなって、苦しそうな顔をすることが多くなって。それを見ているのは、とても、辛かった」
瞳を伏せるイルナリアに、リュイは言葉を見失う。
そして。

「・・・父上」
ユサファの身体がぴくりと揺れた。
「父上。俺はここで降ります。やはりこれはやりすぎです。いくら父上のご命令でも。そしてそれをお止めできなかったのは、長男である俺の責任。どんな後始末でも
俺が全てを懸けてやり遂げますから。どうか父上、イルナリアの願いを、お聞き届け下さい」
「リュイ兄様・・」

ユサファは瞳を閉じる。

目の前の暗闇に、今までの日々が浮かんでは消え過ぎ去ってゆく。
物心ついた時から自分の心の中心にあった使命。
それによって心は勇み、高揚し、いつか必ず叶えると誓った。
ライドネル家の魔法使いであることは、自分の輝かしい誇りだった。

けれどいつの間にかその夢は、強い執着に変わっていたのか。
自分は間違えたのだろうか?
ならばいつ、どこで?
何を見失ってしまったのだろう。

途方もない気持ちでため息を吐き、そっと瞼を上げる。
受け入れるのは苦しい。けれど目の前にいる、子供たちの必死な姿は、想いは。それが今自分が選ぶべき答えだと分からせてくれる。
同時に心のどこかで、まるで憑き物が落ちたような肩の軽さを感じているのも確かだった。
(私も、もう十分いい歳になったと思っていたのに)

いくつになっても、自分の心すら、御するのは難しいものなのだな。
心中で呟いて、ユサファは子供たちを見つめた。

「・・分かった。計画は、ここで正式に中止とする。速やかにこの場を収める術式へと儀式の内容を変更しよう。イルナリア」
「はい!」
喜びに瞳を輝かせるイルナリアと、心からの安堵を浮かべるリュイに向かって、ユサファは呼びかけた。
「お前はすぐにその衣装を脱ぎなさい」
「っ!嫌ですお父様!私も皆と一緒に」
「駄目だ。これ以上ここにいたらお前の身体がどうなるか分からない」
「でも」
「言うことを聞きなさい。私もお前の願いを受け入れた。お前の身に何かあったら、リリアに合わす顔がない。分かってくれるな」
言い聞かせるような声音と、瞳に宿る優しい色。
先ほどまでとは違う、大好きだったあの頃の。
「・・お父様」
瞳を潤ませるイルナリアを、リュイが支え直した。
「イル、ここは危険だ。着替えを済ませたらお前はどこか離れた場所で・・」

「それならご案内します。姉上はどうぞこちらに」

静かに告げる声。

「シルファ!!」
「戻ってきたのか?!」
イルナリアとリュイが叫んで振り返る。
入り口に立つシルファ。その後ろには、赤い髪の少女と、青い瞳の剣士が一緒だ。
それから。
「・・もしかして、トーヤ、殿?」
目を瞠るイルナリアに、シルファの隣に居る・・ように見える、不思議な姿の青年が頷いた。
「俺の名はトーヤ・クラウン・ファリス。この騒動の決着をつける為、提案があってここに来た」


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