コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44



第一章 赤毛の少女、王都へいく ① ( No.1 )
日時: 2016/02/03 22:07
名前: 詩織 (ID: VNDTX321)

「よぅ、そこのお姉ちゃん!ちょっとのぞいてきなよ!安くしとくよ〜」


街道に立ち並ぶ露店の店主に声をかけられ、ラヴィン・ドールはつい立ち止まる。
このあたりはこの国の王都・ギリアの西端に位置する街道だ。


小さな屋台がずらりと並び、みやげ物や美味しそうな匂いのする食べ物などいろんなものが手に入る。
このあたりに住む人々や、王都への旅人、観光客など、街道は活気溢れていた。


髭もじゃの店主が手を振る店は、簡素な台に広げられた大きな風呂敷の上に、髪飾りやアクセサリーなど女の子が喜びそうな可愛らしい雑貨が所せましと並んでいる。

「わぁ〜かわいい。」

目をきらきらさせて、ラヴィンは風呂敷の上を覗き込んだ。



「どうだい、全部手作りの一点ものだぜ。職人が作ったやつをおじちゃんが買い付けてくんだよ。きれいだろ。」

「へえぇ。うん、きれい。これは?」
淡いグリーンの下地に花柄の刺繍の髪留めだ。


「 お、お嬢ちゃん、お目が高いねぇ。そいつぁおじちゃんが作ったやつさ。どうだいなかなかいいだろ?」
「うん、なかなかだ。やるね、おじちゃん。」
人懐っこく笑うラヴィンに、店主もついつい笑顔になる。

「どうしようかなぁ。」
「ようし、じゃあおまけだ。これもつけちゃうぜ。これもな、おじちゃんが作ったんだ。どうだ、これもなかなかだろ?」
「あ、それもいいね!うん、買う買う。」
店主は金色の刺繍でふちを飾った白いリボンを手に取ると、髪留めと一緒に小さな紙袋に入れ、ラヴィンに手渡した。

「ありがと、おじちゃん。」
にこにこと素直に礼を言うラヴィンを見て、店主は満足げに笑った。



代金を支払い立ち去ろうとするラヴィンに店主が聞いた。


「ところでよ。お嬢ちゃん、どっからきたんだい。観光か?」
「ううん、違うよ。この街にいる親戚に用事があってさ。ベルリルっていうとこからきたんだ。」
「ベルリル?そりゃ長旅ごくろうさん。」
「知ってるの?」
「そりゃあ知ってるさ。昔買い付けにいったことがある。たしか七日くらいかかるだろ?船も馬車も使って。」
「そうそう!よく知ってるね。」
ラヴィンは嬉しそうに言った。


「今日やっとこの街についたんだよ。さすが王都だよね。やっぱ。
何度来ても人がいっぱい。」
辺りを見回しながら、ほぅ、と感心したようなため息をもらす。

そんなラヴィンに店主は少し驚いた。


「そんなに何度も来てるのか?ああ、その親戚に会いにか。・・というか、連れが見あたらないんだが。どこかで待ち合わせかい?」
店主の言葉にラヴィンは首を横に振った。
「んーん。いないよ、一人旅。」
「一人旅?」
言いながら店主はしげしげとラヴィンを見つめる。


きれいな赤毛を後ろでひとつにくくり、温かみのある茶色の瞳でこちらをにこにこと見ている。
先ほどの人懐っこい笑顔といい、まだあどけなさを残した明るそうな少女。


「・・お嬢ちゃん、年は。」
「ん?16。」
決して飛びぬけて目立つ容姿ではなく、どこにでもいそうな普通の少女だ。


確かにきちんと旅のための丈夫で動きやすそうな服を着ているし、厚手のマントもはおり、よく見ると腰には短剣をくくりつけているのが分かる。新品ではなく、よく使い込まれているようなもの。

旅慣れてはいるようだ。

だが・・。


「お嬢ちゃんみたいな若い娘が一人でここまで旅かい?そりゃちょっとあぶねぇなあ。ま、事情はいろいろあんだろが。大丈夫かい?」


そりゃこんな商売やってたら、いろんな旅人をみる。それぞれに事情があり、この王都へやってくるのだろう。
けれど、それでもこの時代、旅は過酷だ。
体力だってもちろんいるし、山の中や人気のない街道では盗賊だってでるだろう。
こんな可愛らしい少女が一人でよくここまで無事に来たものだ。


「ありがと、おじちゃん。でも大丈夫。ここまでの旅は慣れてるし、いろいろ教わってるから。
うちの父さん、昔は冒険家だったんだって。世界中を旅してたんだよ!今は引退したけどね。」
屈託のない笑顔を向ける。


「でね、父さんの弟である私の叔父さんも、父さんと一緒に冒険してたんだって。で、その叔父さんが今はこの街でお店やってるの。旅して集めた商品とかを売ったり、知り合ったほかの国や大陸のひとたちとやり取りして、商品を買い付けたりする貿易商人。ジェイド・ドールっていうんだけど。」
「ジェイド・ドール?!」
店主が目を丸くする。


「知ってる?」
「知ってるも何も・・。この辺で商売してて、ジェイド・ドールを知らねぇ奴はいねぇよ。そうか、お嬢ちゃん、ジェイドさんとこの姪っ子だったのか。」

ラヴィンはにこにこしたまま話していたが、はっと思い出したように口をつぐんだ。
困ったように眉毛が下がる。


「しまった。この街ではこれ、あんまし言っちゃいけないんだった。」
「そうなんだ?」
「うん。ジェイドおじさんの店人気あるからさー。絡まれたりすること増えたんだよね。面倒くさいから、最近はあんまり言わないようにしてるの。まぁ、店にいたらどうせ分かっちゃうんだけどさー。
おじちゃんもなるべく黙っててね。」

手を合わせてこちらを上目遣いにうかがうラヴィンに、店主は苦笑する。


「わかった、わかった。言わないよ。おじちゃんだって、せっかくの可愛いお客さんになんかあったらヤダかんなぁ。その代わり、また帰りには寄ってくれよ?安くしとくから。」
「うん。わかった!」
元気良く答えるラヴィンに、じゃあ気をつけていけよ、と声をかける。


ありがとーばいばーい、と手を振りながら、王都の中心地へと向かう後ろ姿をみて、店主は再び苦笑した。

大丈夫かな。
またどっかでしゃべっちまうんじゃないかあの子。

少し話しただけだけど、素直で明るそうな少女だ。
物怖じしないし、人見知りもしないのだろう。


「さすが、血筋かねぇ。」
話題の主、ジェイド・ドールの顔を思い出し、くっくっと笑う。


あの男の姪っ子かぁ。
それにしちゃ、ずいぶん可愛いじゃない、と店主は思う。

それから、うーん、と大きく伸びをする。青い空が見えた。
今日は快晴。
まだまだ客は来るだろう。
「さて、今日も商売がんばるかー。」
街道の人ごみに向かって、店主は呼び込みを始めた。

第一章 赤毛の少女、王都へいく ② ( No.2 )
日時: 2015/04/11 19:08
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)

冬の終わりが近いとはいえ、吹きつける風はまだまだ冷たく、道行く人々は厚手の外套を手放せない。


それでも昼間のうちは少しはましだったが、日の傾き始めた今のような時刻になるとさすがにキツイなぁとラヴィンは思う。

「ふわぁ、寒っ。」

皮の手袋をしていても、寒さで手がちくちくしてくる。
防寒用のマントをぎゅっと体に巻きつけると、足早に目的地を目指した。



にぎやかな下町の市場を通り過ぎ、ここ王都ギリアの中心に向かうにつれて街道はきれいに整備されたものになっていく。

景色もずいぶん変わり、店も屋台などではなくきちんとした建物が並ぶ。
石畳が続く街道沿いの街灯には、明かりが灯されていた。


夕刻の街。


仕事が終わり家路につく人々のざわめきや、
さあこれからだぞ!と意気揚々と酒場に集う男たちとすれ違いながら、ラヴィンは中心街にある一軒の店の前までやってきた。


「やっと着いたぁ。」

安堵のため息とともに、肩の力が抜ける。
旅は慣れているとはいえ、完全な一人旅は実はこれが初めてだ。

思っていたより緊張していたのかも。

思うと同時に、ぐぅぅっとお腹が鳴った。
その時、

「あれ!?・・もしかして、ラヴィンか!?」

後ろから声がした。
ラヴィンが振り返ると、そこには背の高い黒髪の青年が立っていた。

ラヴィンより少し伸びた漆黒の髪を後ろで束ね、肩掛けの大きなかばんを提げている。彼もどこかから帰ってきたのか、暖かそうな外套に身を包んでいた。
深い黒色の瞳が、大きく見開かれている。


「ジェンっ!!わぁーい!久しぶりだねーっ!」

ラヴィンは笑いながら青年の首にとびついた。
ラヴィンがあまりに思いっきり飛びついたものだから、ジェンと呼ばれたその青年は後ろに2,3歩よろけつつ、彼女を抱きとめる。

ぐぅう、とまたお腹が鳴った。

「ジェンー、おなかすいたー。つかれたぁー。さむいよー。ごはんー。」

ジェンの胸に飛びついたまま、ラヴィンが笑い混じりにまくしたてる。

「おい。」
その頭をポン、とジェンが軽くたたく。

「相変わらずだなぁ、お前。俺はお前の母さんか?」
言葉とは裏腹に、優しい笑顔で彼女を見つめると、そのままぽんぽんと優しく頭をなでた。その声は安堵に満ちていた。

「・・まぁ、なんにせよ無事着いたみたいで良かった。みんな心配してたんだぜ。俺も、マリーも、店のみんなも。それに、ジェイドさんも。」
「うん、ありがとう!いろいろあったんだけどさ、無事こられたよー・・って・・」

ラヴィンが言葉を切る。
ジェンの胸にすりつけていた顔を、ゆっくりとあげた。

「・・へ?ジェイドおじさん?え?連絡つかないんじゃ・・。いるの?


え?え?とわけが分からない顔をしてラヴィンは首をかしげる。
そんなラヴィンを、ジェンは困ったような顔をして見下ろした。



 『ジェイド社長と連絡がつきません』

ラヴィンの家族のもとに送られてきた一通の手紙。
それが今回の、ことの発端だったのだから。

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 ① ( No.3 )
日時: 2015/05/04 14:01
名前: 詩織 (ID: .Gl5yjBY)

「わぁーっはっは!悪かったなぁ、ラヴィン。こんなとこまでこさせて。」

 ドンっと音をたててジョッキを置き、口元の泡をぬぐって豪快に笑うのは、ラヴィンの叔父、ジェイド・ドールその人である。

金色に近い明るい茶髪頭に、派手なバンダナを巻いている。
よく日に焼けた浅黒い肌に立派な体躯。
元冒険家だからか筋肉もしっかりついていて、商人というよりは海の男だ。

見た目は豪快。
しかしその人懐こい表情は、確かにラヴィンのそれとよく似ている。


これで剣も扱えちゃうんだからな〜商人って柄じゃないのよね、いつ見ても。
ラヴィンは心の中でつぶやく。

「もう!ほんとに心配したんだからね?おじさんのことだから、絶対大丈夫だろうって皆思ってはいたけどさぁ。」
ぶぅぅっとむくれて言うのは彼の向かいに座るラヴィン。

くくっていた髪は今は下ろし、肩にかかる赤毛がさらさらと揺れる。

「で?何がどうなったの?」
ラヴィンがジェイドに聞くと、
「まぁ待て待て。せっかくお前がこうして無事に着いたんだし、ゆっくり説明してやるよ。」
言いながら右手を高く上げる。
やってきた給仕の男にビールのおかわりと山盛りの食べ物を頼んだ。


 ここはラヴィンの目的地であった叔父ジェイドの店の近所の酒場。
彼らは今、その一番奥のテーブルで食事を囲んでいた。

ジェイドが店にいたことに驚いたラヴィンだったが、『一杯やりながら説明すっからまずは歓迎の宴といこうぜ』という叔父の言葉に素直に賛成した。
(だっておなかすいちゃったんだもん。)


 叔父や店の仲間と共にやってきた酒場は昔からの馴染みの店で、気のいい店主はおお!ラヴィンちゃん久しぶり!いっぱい食ってけよ!と声をかけた。食事のおまけにデザートもつけてくれるという。
ラヴィンはありがとーと笑って手を振った。


ストーブの火が赤々と燃え、店内はとても暖かい。
客たちのざわめきと笑い声、どこかから聴こえてくる陽気な歌声も入り混じって、店は今夜も盛況のようだ。



「さて。」
テーブルに所せましと並んだ料理を食べながら、ジェイドが話を切り出した。
「まずはラヴィン、こんなとこまで良く来てくれたな。心配かけて悪かった。兄貴たちにも。俺が帰ってすぐに兄貴のところには手紙を書いたんだが、お前とはすれ違っちまったみたいだな。」
そう言いながら、ラヴィンに向かって頭を下げた。

 事の起こりは一通の手紙。
久しぶりに弟に手紙を書いたラヴィンの父。
なかなか返事は来なかったが、まぁ、あのいつも忙しく飛び回っている弟のことだ、そのうち返ってくるだろうとそれほど気にも留めていなかった。

しかし待っていても返事がこない。
ちょっくら催促してやろう、と再度手紙を送ると、届いた返事は代理人・アレンからのものだった。

手紙には、何度か手紙を頂いているがまだ社長には渡せていないこと、出張に出かけたまま、予定の日になってもまだ帰ってこないこと、
現地でトラブルがあったらしく現在は連絡がとれないことなどが流麗な文字で書かれていた。

社長のことだし、ラパスも連れているのだから無事なはずだと思うが、手紙の返事はもう少し待っていて欲しいと謝罪が書き添えてあった。

あいつなら大丈夫だろ。
そう言い合いながらも、やはり心配なラヴィンの一家。

仕事でベルリルを離れられない父や兄に代わり、王都の店まで直接様子を見に行くこと。

それが、ラヴィンがここまで旅してきた理由である。


ラヴィンは飲みかけのジュースをテーブルに置くと、首を横に振った。
「ううん、大丈夫。うちのみんなも叔父さんのことだから、何か事情があるだろうけどきっとすぐ戻ってくるっていってたもの。
ほんと、怪我もないし元気そうだし、良かったよ。父さんたち、きっとほっとしてるよ。」

 実際、こうして無事に叔父に会えて、心底ほっとしていた。
なんだかんだで、こうして皆で食事ができていることが嬉しくて、旅の疲れなんてふっとんでしまったようだと、ラヴィンは思った。

「でも何があったの?店のみんなも連絡とれなくて、心配してうちに手紙くれたんだよね?」
「すみません、ラヴィン。私の手紙で余計な心配させてしまって。」
答えたのは、ジェイドの隣に座る男、アレンだった。
「いやいや、いいって。当たり前だよ〜。手紙ありがとう、アレン。」
ラヴィンは笑って言った。


 彼らの座るテーブルは6人がけ。
一番奥側にジェイドとラヴィンが向かい合わせで座り、ジェイドの隣には店のナンバー2、ジェイドの片腕である相談役・アレンが座っていた。さらにその隣にはもう一人の片腕であり護衛役でもあるラパス。

細い目にすっきりした顔立ちのアレンはとても頭がいいし、
金髪をツンツン立てて二カっと笑うつり目のラパスはまるで夏の太陽のよう。青く綺麗な瞳が印象的だ。
叔父の部下であるこの二人が、ラヴィンは大好きだった。


 向かい側、彼女の隣の隣には、兄のような(母のような?)黒髪の青年・ジェン。

ジェンも叔父の店で働いていたが、少し特殊な契約で席を置く研究員であり、アレンやラパスとはまた関係が異なっている。
ラヴィンは彼のことも大好きだった。
彼の優しい笑顔はなんだか安心感があり、つい甘えたくなってしまう。


そしてラヴィンとジェンの真ん中に座るのは、ふわふわした水色の髪にカチューシャをした10歳くらいの少女。
大きな目をぱっちり開いて、オレンジのジュースを飲んでいる。


「ラヴィン、お前たちのとこにアレンから手紙が届いたんだよな?俺が出張先から戻らず、連絡もつかないって。」
「うん。」ラヴィンはラパスとジェイドを交互に見ながら言った。

「最初に手紙だしたのは父さんだけどね。
おじさんに連絡したいことがあったみたいで。
そしたらなかなか返事が来なくて、催促の手紙をだしたらその返事がアレンからだったの。
おじさんが予定の日になっても戻らず、連絡もとれないって。行き先は『ルル湖』だっけ?」

「そうだ・・いや、正確に言うとルル湖の南側の町だな。小さな町だが鉱山があって、いい石が採れるんだ。そこへ商談に行ったんだが,その帰りにちょっとしたトラブルがあってな・・。ちっと足止めくっちまった。]

ジョッキを傾けながら言う。

「ラヴィン、お前『ファリスロイヤ城』って知ってるか?」

「・・何それ?ううん、知らない。」
ぷるぷると首を横に振る。

「じゃあ『ルルの黄金城』は?」

「ああ、それなら知ってるよ。有名な遺跡でしょ?古いお城だっけ。なんか昔の城主の財宝が眠ってるって噂のあるヤツ。」
「そう、その噂の古城な。その正式名が『ファリスロイヤ城』なんだ。『ルルの黄金城』はいわゆる通り名だな。」
ジェイドはそういうとグビっと一口ビールを飲んだ。


「財宝の噂話のある遺跡なんていろんなとこにあるが、この『ファリスロイヤ城』は実際、建造物としての歴史的価値があるようでな。以前からその分野の学者たちが細々と調査をしていたらしいんだ。」

「へぇ。ただの噂じゃなかったんだね。」

「いや、財宝やら何やらはもちろんただの噂で、何の確証もなかったんだ。建造物としての価値はあっても、伝説の財宝やらとはまた話が別さ。黄金城なんて呼ばれたって、行ってみりゃ半分朽ちた古城だったんだ。・・今まではな。」

その意味ありげな叔父の言葉に、ラヴィンが少し身を乗り出す。


「・・『今までは』?」

興味津々。
そんなラヴィンを見てジェイドは満足そうに言った。

「ふん、そうだ。今までは、な」
ニヤリと笑うと、続きを話し始めた。

ジェイド・ドールと噂の古城② ( No.4 )
日時: 2016/01/05 22:35
名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)

『ファリスロイヤ城』

またの名を

『ルルの黄金城』



・・・その昔、ギリアから東へ向かったルル湖北岸。

周囲の山々と、その山から流れる川、肥沃な大地、豊かな自然・・。
美しいルル湖の恩恵を受けるその土地を治めたのは、領主ファリス一族であった。


ファリスロイヤは、何代にも渡りこの地域を見守ってきた城である。
領民も、領主も、誰もがその平和な暮らしがずっと続いていくことを願っていた。

しかし。
ある当主の代に事件は起こる。
更にはその最中の内部の裏切りによって、美しく穏やかだったその城は滅びることとなったそうだ。



詳細な記録は残っていない。


民に語り継がれる伝承と、残された古城の遺跡をもとに、学者たちが今も研究を重ねている歴史だ。


そして時は流れ・・・・



「ファリスロイヤの『伝説の財宝』話。このあたりにいるやつなら誰でも一度は聞いたことあるよな。」

ジェイドがアレンとラパスを見ながら言った。
「そっすね。俺も子供のころはすげー憧れたなぁ。まわりのやつらもみんな。
子供にとっても男の夢とかロマンとかってやつっすよねー。じいちゃんたちから話聞くだけでわくわくしたし。」

美味しそうにビールを飲んでいたラパスが懐かしそうに言う。
彼はここギリアの出身である。

「そういや、ジェンはどうなんだ?知ってた?この話。」
ラパスが向かいのジェンを見ると彼は首を傾げた。

「いや、俺は出身この国じゃないしな。名前くらいは聞いたことあるけど、あまり詳しくは・・。」

そっかぁ、とラパスは答えると、今度は隣に座るアレンに目をやった。
「アレンさんは出身ギリアっすよね?どうっすか?」

するとなぜかアレンも、ジェンと同じく首をかしげる。
「う〜ん。どうかな。私はあまり現実味のない話には興味がなかったから。どうせよくある民衆の噂話かと。」
「っはぁぁ〜。かわいくねぇガキだな、ほんとにお前。」

さらっと答えるアレンに、ジェイドが嫌そうに言う。
「どうせガキのころから勉強ばっかしてたんだろ?ちったぁ子供らしくはしゃいでろよ。伝説の財宝だぜ?わくわくすんだろーが。冒険者ごっこなんてしちゃったりよ。ガキなんてそんなモンだろ?」
「そりゃ社長の子供時代そのまんまでしょ。」
アレンが目を細めて言った。

「あの頃の勉学で得た知識は今に生きてるからいいんです、私は。ほかになにか?」
すまし顔でそう言われて、ジェイドはワハハと大きく笑った。

「いやいや。ない!お前にはいつも助けられてるもんなぁ。うん、いいぜ、財宝に興味ないような、かわいくねーガキだってなんだって。」
「かわいくないは余計です。」
妙に拗ねたようなアレンの言い方に、ジェンが小さく吹き出した。
「お?んじゃかわいいかわいい。アレンはかわいいぞぉ!なぁ、ラパス!」
「はい、かわいいっすね〜」
ビールで顔を赤くしたラパスがにこにこと笑う。
「・・・・なんかむかつきますね。」
「社長にむかつくって言うな。」
「後輩にむかつくって言わないでくださいよぉ。」

そんなことを言い合いながらも、男たちは楽しそうにビールを飲んでいた。


叔父たちの会話を聞きながら、ラヴィンは隣に座る幼い少女に話しかける。

「マリー知ってた?」
「ううん。知らなかったわ。今回の社長さんの話で初めて知ったもの。」

マリーと呼ばれた少女は言いながら首を横に振る。
美しい水色のロングヘアがふわふわと揺れた。


水色の髪に銀色の瞳。


多くの種族の集まるこの国でさえ、あまり見ることのない風貌の少女だった。

可愛らしいレースのワンピースを着て、前髪をカチューシャで上げておでこをだしている。
くりくりとした大きな瞳が印象的だ。

ぱちぱちと目を瞬かせてラヴィンを見上げる。
なんとも言えず愛くるしい表情。

そんなマリーをしばらく見つめていたラヴィンだが・・・


「〜〜〜っ!」
思わずマリーのふわふわ頭を抱き締めた。

「マリーっ!やっぱりかわいい!!いつ見てもかわいい〜!」
「きゃぁぁ!」
突然抱きつかれて、マリーは小さく悲鳴を上げた。
そんなマリーにかまわず、ラヴィンはマリーぎゅうぎゅうと抱き締める。

「ああーこの感じ。久しぶり・・。うんうん!マリーほんとかわいいなぁ。」
「ちょっと!ラヴィン!やめてってば!さっきもあんなに抱きついてきたじゃないのよ!」
まるで子猫か子犬を抱きしめて離さない子供のようなラヴィンを引き離そうとしながらマリーが言う。

さっきとは、ジェイドの店で久しぶりに再会したときのことだ。
今の何倍もの激しさで、マリーはラヴィンの抱擁を受けまくったのだった。

末っ子のラヴィンにとって、マリーはそれはかわいい妹のような存在で、とにかくかわいがりたくなるのだった。



「おーい、そろそろいいかぁ〜?」
ジェンに声を掛けられても、ラヴィンはまだマリーの頭をわしゃわしゃと撫で回していた。
そんな二人の頭をぽんぽんと順に軽く叩いて、ジェンが二人を元の会話に引き戻した。

「それで?噂の財宝っていうのは、その領主の残した遺産ってことなのか?」
ジェンがラパスに聞いた。

「んー・・。そうだとも言われてるし、そうじゃないとも言われてるな。」
ラパスが含みのある言い方をしながらジェイドのほうをみた。
「ああ、それについてはいくつか説があるんだよな。」
ラパスの視線を受けて、今度はジェイドが話を続けた。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44



この掲示板は過去ログ化されています。