コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑦ ( No.155 )
日時: 2016/08/10 09:05
名前: 詩織 (ID: JJibcEj3)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode


----- 名前を呼ばれた気がして、トーヤは目を瞬かせる。



「どこだここ・・?」

気づいたら、そこに立っていた。


なだらかな緑の丘。
その先に広がる湖面は、太陽の光をキラキラと反射させて眩しい。辺り一面に咲き誇るのは、目に鮮やかな紅色の花々。

優しい風の吹く、とても心地の良い場所。

(ここは・・)

それは、よく知っている光景だった。

ルル湖のそば。
昔から2人でよく遊んだ場所。
リーメイルの大好きな、あの、花の咲く場所だ。

(ああ、これは夢だ。)

頭の片隅で思った。
そう言えば、ここにもだいぶ来ていなかった気がする。

少し前までは、当たり前のように2人して眺めていた風景。

なぜだか少し、胸が痛んだ。




「トーヤ。」


今度ははっきりと声が聞こえた。
間違いない。
「リーメイル?」
勢いよく振り返ると、数メートル先、赤い花の中に立っていた彼女が、緩やかな微笑みを浮かべてトーヤを見ていた。
「良かった。繋がったのね。」
ほっとした様子で、近づいてくる。


嬉しそうに笑うその顔に、トーヤにはなぜか幼い頃の彼女の笑顔が重なって見えた。

(そう言えば、ここに来るといつも嬉しそうだったな。この花が大好きだとか言って。)

そんな彼女の姿をしばしぼうっと眺めていたトーヤだったが、彼女が目の前まで来た時、遅ればせながら彼女が言ったセリフに反応しはハッと我に返った。

「は?・・・繋がった?これは・・・夢じゃない・・のか?」
うろたえたような彼の声に、クスッと笑ってリーメイルは答える。
「ええ、夢よ。夢紬の法。やってみたのは初めてだったけど、うまくいったみたいで良かったわ。------- ふふ、 びっくりした?」

からかうような声で言いながら、笑ってこちらを見上げるリーメイルに、トーヤの瞼が半分になる。
「うっせーな。お前はこんな時に何を呑気な・・って、そんなわけないよな。」
リーメイルがあまりにも”いつもの”リーメイルだったので、トーヤもいつものように返しかけ、しかし途中で気づいたように、声のトーンが下がった。


「『夢紬の法』?---- お前、今の状況は?」
大丈夫なのかと聞くトーヤに、リーメイルはええ、と答えた。
「神殿の皆は?」
「ああ。夕刻の話し合いで結論がでた。もうこのままあいつらの好きにさせとくわけにはいかないんだ。残っていた施設の子供たちも全員隠れ家に避難させた。俺たちが行動を起こしても、あいつらが狙われることが無いように対処もした。明日、夜明けが来たら城に救出に向かう。絶対助けるからな。それまで、もう少しだけ待っててくれ。」

強い口調で告げるトーヤに、リーメイルは嬉しそうに微笑む。
「ありがと、トーヤ。」

笑う彼女。
金色の髪が風に舞う。
笑っているのに、その笑顔がなぜかとても儚げに見えて、トーヤは胸がざわつくのを感じた。

「リーメイル?」

トーヤの表情が僅かに曇ったのを見て、リーメイルは困ったような笑顔を浮かべる。
しかしひとつ大きく呼吸をすると、しっかりと彼の視線を受け止めて言った。

「トーヤ。今から私が話すことをよく聞いて。・・・明日、夜が明けたらすぐ、皆を連れて隠れ家へ逃げて。ここには来てはダメ。絶対よ。」

「・・・どういうことだ・・?」

「ここに来て分かったの。・・レフ・ラーレの魔法陣はもう限界よ。このままだといつ暴走するか分からない。私がここで何とか食い止めるけど、きっと余波は出てしまうから。」
「ちょっと待てよ!?リーメイル、話が見えねぇ・・。」
トーヤは困惑しきった視線をリーメイルにぶつけた。

「私は捕らえられたあと、城の最奥、魔法陣のある地下室へと監禁されたの。そして、ルーファスの魔法で強制的に魔法陣と繋がれてる。今、私の魔力は魔法陣を作動させる為に使われてるのよ。」

リーメイルが淡々と語るその内容に、トーヤは目を瞠る。

「お前っ・・、それじゃ今・・!」
「ええ。魔力がどんどん減っていくのが自分でも分かる。それだけこの魔法陣の魔力の吸収力が高いということね。ルーファスはすごい技術の持ち主だけど、最後の最後でコントロールしきれなかったんだわ。この状態で『夢紬の法』も使えるかとても不安だったけど、なんとかあなたに繋がれて良かった。」
「あいつ・・リアンは?!」
「リアンは多分このことを知らないと思う。魔法の知識はないもの、細かいことはルーファスに全て任せているみたい。私も見ただけではここまでひどい状態だとは分からなかったわ。ここに繋がれて初めて分かったの。ルーファスは、リアンに真実を告げるつもりはないんだわ。私が繋がれている場所は魔力の濃度が濃すぎて普通の人間は入れない。動けない私がリアンに会いにいくことはできないし、どちらにしろもう手遅れよ。それにリアンは・・・。リアンが何を考えているのか、私には分からない。でも・・、多分・・。」

リーメイルが視線を落とす。
「彼はエルス様を憎んでる。女神エルスを崇拝する私たち、女神の神殿の存在そのものが許せないんだわ。彼と話をしていて、そう思ったの。」

この数か月の間、彼の心に近づこうとして気がついた。
あの、冷たい視線の向けられる先は、女神エルスに関わる全てだと。

けれどその理由までは、結局たどり着くことができなかった。

「だから、ルーファスの話にのってしまったんだわ。女神エルスという思想そのものを排除して、ルーファスの魔法陣の力で大地の魔力を集め、『エルス様のご加護』としてではない大きな『力』を手に入れる為に・・。」

顔を上げ、トーヤを見る。
紅い瞳と栗色の瞳。
視線が交わる。

「ルーファスは私を使って魔法陣を完成させようとしている。でも無理よ!私の全魔力使ったとしても、このままでは破たんするのは時間の問題。だからね、トーヤ、私・・・。」

視線をそらさずに言った。


「禁忌魔法を使うわ。古代魔法で封印をかけ、ルーファスのレフ・ラーレの魔法陣を凍結させる。」


落ち着いた、けれど強い強い決意をにじませた声だった。

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑧ ( No.156 )
日時: 2016/08/10 09:02
名前: 詩織 (ID: JJibcEj3)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

トーヤは息を飲んだ。

頭が真っ白で、言葉がうまく出てこない。


今、リーメイルはなんと言った?


(古代魔法・・禁忌・・・・魔法の凍結・・)


「まさか・・・『 眠りの唄 』・・?」

トーヤの呟きに、リーメイルは静かに頷いた。

サッと、トーヤの顔色が変わる。

「バカ!!お前何言って・・っ!!」
声を荒げて叫びながら、その両手は彼女の両肩を掴んでいた。
「あれがどういう魔法か、お前、知らないのか?!あれは・・」


「 ” 一なる魔力の源に  我は呼ばれしか弱き小鳥・・・」


微かな、けれど唄うように滑らな声。

「か弱き小鳥は大地に眠る  友なる魔力を携えながら  そは眠りの唄  光となりて  深き眠りのその先にある  闇も光もなき彼(か)の地へと ” 」


リーメイルが詠唱したのは、古代魔法書の中のとあるページに記されている言葉だった。


『 眠りの唄 』。

消滅させることが出来ないような巨大な魔力を『眠らせる』。 --- 封印の魔法。

自分の魔力を凌駕する力に対してさえ、隷属させることができる。

使えるのは、1人につきたった一度だけ。



対価が、術者本人の存在そのものだからだ。



対する魔力を道連れに、自らも共に眠りに落ちる『封印』。

故に、禁忌とされた魔法。


「分かってるなら・・!バカなこと言うなよ!そんなこと、俺は絶対に許さないからなっ!!」

「トーヤ・・。」

必死な表情で、声で。
リーメイルの肩を掴むトーヤの手に力がこもった。

「ねぇ、トーヤ聞いて。」

リーメイルは、静かな声で言った。

「もともとね、選択肢には入れていたの。・・ごめんなさい。きちんと話せなくて。」

「・・・もともと?」

そう、といって彼女は頷いた。

「もしリアンとルーファスを説得できず、最悪の事態としてレフ・ラーレの魔法陣が暴発するようなことになったら・・、『眠りの唄』を実行すると決めていたの。私と、神殿長様で。」
「親父が?!まさか!お前にそんなことさせるわけ・・!!」
「もちろん、神殿長様は私にやらせるつもりなんて全くなかったわ。最終手段として、皆の命を守る為に、ご自分が行うとおっしゃった。でも、私がそれだけでは駄目だと言ったの。」
「・・・・。」
「眠りの唄は、対象である魔法陣に直接繋がらなければ発動しない。あの2人や城の兵たちをかいくぐってたどり着くのはとても困難だと。だから、打てる手は多い方がいい。」

リーメイルはトーヤを見据えて言った。
「神殿長様が長として皆を守る為に命をかけるなら、私も同じよ。」

私は女神エルスの神殿の、巫女長なのだから。
そうきっぱりと言った彼女は、凛として、女神に仕える巫女としての尊厳に満ちていた。

巫女長に就任する前、不安だと揺れていた少女はもう、そこには居なかった。

「眠りの唄が使えるのは私たち2人だけ。万が一の時は、私か神殿長様、どちらか機を掴めたほうが封印を実行すると決めたわ。神殿長様はお優しいから・・、最後まで駄目だとおっしゃったけど、私が説得したの。もちろん最終手段として、ということでね。でも、最悪の事態は起きてしまった。これは私の役目なのよ。だから・・・」

「だからって・・!そんなん納得できるかよ!!俺は嫌だからなっ!!」

リーメイルの話を遮るように、トーヤの声が響いて。


気づいた時、リーメイルは彼の腕の中にいた。

「・・・トーヤ?」

力いっぱい引き寄せられて、強く、強く抱きしめられる。

「・・・嫌だからな、そんなの・・・。」

掠れたような呟き。

顔は見えない。
けれどその体は、微かに震えているようだった。

「トーヤ・・。」

胸が苦しい。

リーメイルは、トーヤの肩にそっと頭を寄せると、静かに目を閉じた。

ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑨ ( No.157 )
日時: 2016/08/14 22:39
名前: 詩織 (ID: .j7IJSVU)

沈黙が下りる。

永遠とも思える、けれど実際にはほんの短い時間。


2人しかいない、世界。

けれどどれだけきつく抱きしめても、今の2人を包んでいるのは、静かな悲しみの漂う世界だった。

絶対に嫌だと何度叫んでも。

トーヤにも、分かってしまった。
これが、最期だということが。

どれだけ足掻いても、もうこれしか方法がないことが。
そして、それを知ってしまった彼女が決して逃げ出さないことも、分かっていた。

「トーヤ、私ね。」
リーメイルがぽつりと言う。

「この街が、皆が、大好きなの。」
「知ってる。」

そんなの昔っからだろ。
どんだけ隣にいたと思ってんだよ。

リーメイルの髪に顔を埋めたまま、トーヤが呟く。
リーメイルはくすぐったそうに笑うと、彼に体を預けたまま続けた。

「神殿の皆も、神殿長さまも、もちろんエルス様も。捨て子の私は血の繋がった家族を知らないけれど、周りにいてくれた皆が、私の大切な家族だわ。リアンのことだって・・・。できたらリアンとも、もっと早くに分かり合えたら良かった。」
「・・・・」

後悔の響きを含んだ声に、トーヤの手が優しく彼女の頭を撫でる。
言葉に出来ないその痛みを、分かち合うように。
リーメイルはその優しさを受け取って、頬を緩めた。

そして、彼を見上げる。

「ねぇ、ここ、どこだか分かる?」
顔を上げたリーメイルに、トーヤは少し体を離すと呆れたような声で言った。
「当たり前だろ。昔からお前とよく来た場所だ。」

そう言ってしゃがむと、足元に咲く花を一輪手折る。
そのまま立ち上がり、目の前にいる彼女の柔らかい金色の髪にそっと挿した。

「あの日みたいだな。」

あの、就任式の日の中庭で。
同じように、彼女の髪にこの花を挿した。
淡い金色に赤い色がよく映えていた。彼女の紅い瞳と同じように。

まるで昨日のことのように鮮やかに、トーヤの記憶の中で、彼女は笑っていた。


リーメイルが歩き出す。
手を広げて、気持ちよさそうに風を受けて。

「私、幸せだったわ。」

くるりとトーヤのほうを振り返りながら、穏やかな声で言った。

「皆に出会えて、優しくしてもらって。たくさんたくさん、・・・愛してもらった。」

その顔には、満ち足りた笑顔が浮かんでいた。

そんな彼女の様子が切なくて苦しくて、トーヤは唇を噛みしめた。


「この土地も、人も、私は皆愛してるわ。」
「ああ。」
「トーヤ、あなたのこともよ。」


吹く風に髪をなびかせながら、リーメイルはトーヤを見つめる。

その眼差しを受けて。


「ああ。・・・知ってる。」


トーヤも、目を逸らさずに言った。

「俺もだ、リーメイル。」


リーメイルの双眸が大きく見開かれる。
驚きの表情のまま数秒間固まっていたが、ゆっくりと頬が赤く染まってゆく。

そして。

キラキラと輝くような笑顔を浮かべて笑った。

「ふふ、知ってるわ。」


今までで一番幸せそうな笑顔。
巫女としてではなく、トーヤの前だけで見せる、少女のような顔になる。


そのまま、可笑しそうにくすくすと笑い出した。
「なんだよ。」
怪訝そうなトーヤに、リーメイルはからかうように言った。
「トーヤ、耳まで真っ赤よ?やっぱりそういうとこは昔から変わらないわよね。ふふ。」
「うっせえ!余計なこと言うな。」
憮然とした様子で言うトーヤ。
その様子に、リーメイルは更に楽しそうに笑った。


「良かった。」
ひとしきり笑ったあと、リーメイルが言った。
「こうして最後に、あなたと会えたわ。もう一度だけ、いつものあなたと私に戻ってみたかったの。」
「・・・リーメイル。」

苦し気な声で自分の名を呼ぶトーヤを、切なさや悲しさや愛しさが全部混ざったような顔で、リーメイルは見つめた。
そして、困ったような顔で小さく笑う。

「・・時間になっちゃった。」
「っ、待てよっ!まだ・・っ。」

焦ったように近寄るトーヤ。
リーメイルはふわりと微笑むと、今度は自分からトーヤの腕の中へと飛び込んだ。

「ね、トーヤ。私はこの地を愛してる。大切な皆を守れる力があることが嬉しいの。ホントよ。」
「リーメイル!お前、体が・・っ!!」

トーヤが叫ぶ。
リーメイルの姿が、まるで日の光に透けるように薄くなっていた。

それにも構わず、リーメイルはトーヤを見つめて話し続ける。

「今なら私、自分の力を誇りに思える。だから、この選択に後悔はないの。」

胸を張ってそう言った。


「私は死ぬんじゃないわ、トーヤ。」


この地に、還るの。


「私は幸せよ。だから、泣かないで。」

「泣いてなんかっ!」

言ってから、トーヤは気づく。
自分の頬が、濡れていることに。

「リーメイル?!待てよ!」
更に色素の薄くなった彼女の周りを、光の粒子が縁取り始める。
朝日に消えてゆく夏の朝霧のように、リーメイルの姿は儚く消えようとしていた。

「なあ!やっぱり駄目だ!お前は逃げろ!俺たちで何とか別の方法を探すからっ、だから・・・っ」


思わず叫びかけたトーヤは目を瞠る。その声は、そのまま飲み込まれた。

驚きの余り、体が固まったまま動かせない。


-------- それは、一瞬のことだった。


愛し気にトーヤを見つめていたリーメイルはふわりと浮き上がると。


そっと、トーヤに口づけをした。

甘い、花の香り。


「ごめんね。ありがとう、トーヤ!大好きよ!・・・・さよなら。」

光の粒子が風に舞い、彼女の姿をさらっていく。

そのまま光が空に散るようにして、リーメイルはトーヤの世界から姿を消した。
後に残るのは、風に揺れる赤い花たちと、彼女の纏う甘い香り。


・・・・ 彼女の最後の顔は、いつものように、優しく微笑んでいた。



「・・・リー・・メイル・・?」

その場に1人残されたトーヤは、茫然とその名を呼んだ。

「リーメイル・・?リーメイルっ!!」
何度呼んでみても、あの声は聞こえない。

『なあに?また鍛錬さぼって遊びに行くの?』
『トーヤのバカ!!もう大っキライ!!』
『ごめんね、私をかばって・・。ケガ、大丈夫?痛くない?』
『うん、もう大丈夫。ありがとう。頑張るね!私。』

記憶の中でなら、いくらでも彼女の声が、姿が溢れてくるのに。


トーヤはその場にがくりと膝をつくと、両手の拳を夢の大地へと叩きつけた。

「リーメイルっ!!」

どこに向ければいいのか分からぬままに、彼女の名を叫んだ。
叫びながら、トーヤには分かっていた。

自分の声は。

・・・もう、彼女には届かない。

Re: はじまりの物語 ( No.158 )
日時: 2016/08/12 22:42
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

 こんばんは、ゴマ猫です。
 この間は小説にコメントありがとうございました。
 さっそく拝見させて頂きました〜。

 タイトルを見て、現代物なのかなぁと想像していたんですが、ファンタジーなんですね。情景描写や人物描写もしっかり書きこまれていて、本当に小説初挑戦なんだろうか!? と、驚きました。
 まだ途中までしか読めてないんですが、これから少しずつ読ませて頂きますね。

 更新、応援しております。

Re: はじまりの物語 ( No.159 )
日時: 2016/08/13 21:44
名前: 詩織 (ID: JJibcEj3)

>>ゴマ猫さん

わあ、さっそく来てくださってありがとうございます。

ゆっくり更新&まだまだ慣れなくて・・って感じですが、読んでもらえてうれしいです。

私は書き始めると文章がごちゃごちゃしてしまうので、いつかゴマ猫さんみたいに現代もので面白く読みやすいお話が書けるように挑戦もしたいなあと思います(^^)

応援ありがとうございます。
こちらこそ更新楽しみにしてますのでがんばってくださいね〜。


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