コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑩ ( No.160 )
- 日時: 2016/08/14 14:13
- 名前: 詩織 (ID: njcqYR8N)
暗く閉ざされた地下室の一角。
色素の薄い睫毛が微かに震え、鎖で両手を繋がれたリーメイルは閉じていた双眸をゆっくりと開いた。
「・・・はぁっ。」
苦し気に肩で息をする。
魔力を吸い取る鎖は幾重にも彼女を拘束し、僅かな自由さえ許されない。
意識が朦朧とする中、荒い呼吸を繰り返しながら、リーメイルはもう一度目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、さきほどまで目の前にいた彼の姿。
髪を撫でてくれた、大きな手。
自分の顔を覗き込む、強くて優しい栗色の瞳。
暖かい彼の腕に包まれて、笑いあったこと。
いくらでも浮かんでくる、大切な、愛しい思い出たち。
「・・・っ。」
小さく、嗚咽が漏れた。
慌てて唇を噛みしめる。
外の見張りに気づかれないよう、リーメイルは溢れだしそうな自分の声を必死に押さえた。
涙がその頬を流れ、ぽたりぽたりと地下室の冷たい床を濡らした。
だが、ひとつ大きく深呼吸をすると、リーメイルは顔を上げる。
闇の中。
何か得体の知れない力が絶えず蠢いているような、そんな異様な雰囲気の漂う部屋の中央。
鈍い光を放つ巨大な魔法陣。
「泣くのは、全てが終わったあとだわ。」
その光景に凛とした眼差しを向けるて呟くと、呼吸を整え、再び集中状態に入った。
(最後の準備をしなくちゃ。)
口の中で小さく呪文を唱えだす。
ふわり、と彼女のまわりを淡い光の粒子が包み始めた。
残り少ない魔力を振り絞り、リーメイルは意識を目的地へと飛ばした。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
雲に覆われた新月の夜。
空には月も、ひとつの星さえも見えない。
森の漆黒の闇の中に、1人の女性の姿が浮かび上がった。
光の粒子をまとい淡く光るのは、
長く波打つ金色の髪と宝石のように美しい紅い瞳。
辺りを見回し目的のものを見つけると、その顔には微笑みが浮かぶ。
(ラウル様・・・。)
父のように慕った神殿の長の名を心で呟くと、その姿が鮮明に思い浮かんだ。
それと共に、自分を世話してくれた巫女たち、慕ってくれた子供たち、困っていれば手を貸してくれた騎士たち・・・次々と浮かんでは消えていく。
(ジル様・・・ヤルク・・・皆、今までずっとありがとう。大好きよ。)
リーメイルの視線の先、暗闇の中でも彼女にだけはしっかり見えていた。
魔法文字の刻み込まれた、いくつもの特別な『石碑』たち。
ファリスロイヤ城周辺から距離を隔てた場所、ルル湖を挟んで反対側に広がる森の奥。
この最後の魔法の為に、密かに用意されていたものだった。
いざという時はこれを使う、と。
リーメイルはラウルから伝えられていた。
彼はきっと、リーメイルに使わせるつもりはなかったはずだ。
娘のように大切に育ててきた彼女を、ラウルは確かに愛していた。
それでも、リーメイルは決断した。
彼を、彼らを愛しているのは、守りたいのは自分も同じ気持ちだったから。
彼らを護れるのなら、何をしても構わなかった。
リーメイルは大きく息を吸い、唄うように呪文を紡ぐ。
そうして大きくゆっくりと、手をひと振りした。
その動きに合わせて、彼女を取り巻く光がひときわ輝きを増す。
光を放つ彼女を中心に、大きく広がった光の輪が石碑をも包み込む。配置されたひとつひとつの石碑たちが、燦然と輝きだしていた。
光は更に大きくなると、辺り一面を包み込み -------。
・・・そうして、弾けるように辺りに散ると、そのまま空気に溶けるように消えていった。
リーメイルの姿も、光と共に消える。
光の波が去ったあと、
そこにあったのは、静かな森と、元どおりの闇夜だけであった。
- Re: はじまりの物語 ( No.161 )
- 日時: 2016/08/14 12:47
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
お久しぶりです!
まだ返信してないけれど、小説にコメントありがとう!!!!
嬉しかったです←
最近あまり忙しくて来てなかったカキコだけど、やっぱり詩織さんの小説には圧巻です……レベルが凄い。
その才能欲しい(ㆆ_ㆆ)
私は、本当にファンタジーとかは書けないから憧れてますw
これからもホント応援してます!
描写が本当に好き( *´艸`)ですw
更新頑張って下さい!!!
また来ますー!!
byてるてる522
- Re: はじまりの物語 ( No.162 )
- 日時: 2016/08/17 11:32
- 名前: 詩織 (ID: .j7IJSVU)
>>てるてる522さん
こちらこそ嬉しいよーどうもありがとう!
私もぜんっぜんまだまだ思うようには書けなくてもどかしいです。
私は逆にてるてるさんみたいな楽しい現代ものはなかなか書けないので、自分と違うとこが面白いなあといつも思ってます(^^)
私も家族に中1がいるので、今の中学生ってこんな感じかぁ〜とそんなとこも楽しませてもらってます。
(私はもう中学は卒業してしまったので。(^^;))
あ、あと書くスピードもかなわないですね〜。
あんなにたくさん書けないもの。
中学生になって部活とかで忙しいでしょうけど、学校も小説もぜひ楽しんで頑張ってください♪
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑩ ( No.163 )
- 日時: 2016/08/17 10:52
- 名前: 詩織 (ID: .j7IJSVU)
運命の日。
その日も、いつも通りの夜が明けてゆく。
ゆっくりと、静かに、空が白み始めた頃。
街の誰もが気づかぬうちに、神殿の人々は隠れ家へと移動を開始していた。
先頭をゆくラウルの表情は硬い。
早朝、トーヤからリーメイルの伝言を受け取った時から、彼は深い悲しみと後悔、無念さに胸を引き裂かれていた。
(命を懸けるのは、私1人で十分だったのに。私がもっと早く決断していれば・・。)
リーメイルはルーファスの拘束魔法を逆手にとり、眠りの唄発動の為すでに魔法陣と自分の魔力を繋げてしまった。
最愛の娘を守ってやれなかった口惜しさに歯ぎしりする。
けれど自分にはまだやらなければならないことがある。
神殿長として、信者と神殿の者たちを護らねば。
・・・リーメイルの為にも。
そう言い聞かせながら、悲しみを心の奥底に押し込み、人々を導いて進む。
(安心しろ、リーメイル。彼らは必ず私が護る。)
神殿前には、神殿の騎士たちが待機していた。
昨日の今日で、城の側でもこちらの動きを警戒しているはず。
戦えぬ者たちが皆避難を終えるまで、それを悟らせぬよう神殿を警護しているように見せかける為だった。
「トーヤ様っ!」
偵察に出ていたヤルクたち数人の騎士がトーヤのもとに駆け込んできた。
「城からの兵がこちらに向かっています。」
「やっぱり来やがったか。」
トーヤは騎士たちの前にでる。
「いいか、手筈通りいくぞ。絶対に無理はするな。俺たちの仕事は時間稼ぎだ。」
全員の顔を見回して言った。
「目的は戦うことじゃない。全員が無事、生きて避難場所で合流することだ。罠の場所まで逃げ切れば、援護が入る。それまでなんとか踏ん張ってくれ。」
「トーヤ様っ、奴らが来ました!」
トーヤが素早く振り返ると、自分たちの倍はいるだろう兵たちの姿が視界に入って来た。
一気に高まる緊張感の中、トーヤは強い、強い声で言い放つ。
「俺達には、女神エルスと巫女リーメイルの加護がある!胸を張れ!大切なものを俺たちの手で守るんだ!そして全員無事で、必ず例の場所で再会するぞ!いいな!!」
「はいっ!!」
騎士たちから揃って声が上がる。
トーヤは前方、やって来た兵たちを睨んで声を張り上げた。
「我らが神殿に何用か!」
「リアン様からの命である!今回の一連の騒動、魔女リーメイルと神殿の者たちによる城への反逆とみなし、たった今をもって神殿の全権をはく奪!幹部ならびに所属の巫女、騎士一同を拘束し城へ連れ帰るように命ぜられている。特に魔力のある者は魔女と同等の罪として即刻捕らえよとのお達しである!速やかに投降されよ!!」
兵の代表が荒々しく叫ぶ。
そういうことか。
胸中で呟いたトーヤの顔に冷笑が浮かぶ。
『魔力のある者を即刻城へ』。
魔法陣の制御の為に、魔力ある人間を拘束するつもりだ。リーメイルのように。
「・・・させるかよ。」
トーヤが剣を抜き構えをとると、それに合わせて後ろに並んだ騎士たちもそれぞれ剣を構えた。
「反抗する気か?!」
「冤罪に魔女狩りとは、ファリス本家の治世も地に落ちたもんだな!」
「何を言う!抵抗するのならこちらとて容赦しないぞ!全員捕らえよ!!」
指揮官の号令で兵たちが一気に襲い掛かる。
「いくぞ!」
トーヤの声を合図に、騎士たちも声を上げいっせいに駆けだした。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「おい、あれ見ろよ。なんか空が変じゃないか?」
街の中心部、店の軒先にでた店主が空を見上げて不審そうな声を上げた。
「ん?どうした?」
「なんだなんだ?」
人々はつられるように上を見上げ、同じように眉をひそめる。
「なんだありゃ?」
その日は朝から、青く澄んだ快晴の空。
の、はずだった。
最近おかしな天気が続いている中、今日は久しぶりに穏やかな晴天だと人々が胸を撫で下ろしていたはずの空の真ん中。
小さな黒い点のようなものが浮いていた。
真っ黒い小さな浮遊物は、見上げる人々の前で、だんだんと大きく膨らんでいく。
「なんか気持ちわりぃな。雨雲か?」
「バカ言え、こんなカラッカラの雲一つない空のど真ん中に、なんで突然雨雲なんか・・・」
そんなやりとりをしていた街の人々の目の前で、ほんの小さな点だった黒いものは、一気に溢れだし、あっという間に広い空を覆いつくした。
太陽は隠され、真っ黒な雲が街の空を飲み込もうとしている。
突如現れた不気味な光景に、人々の小さなざわめきは大きな動揺となって広がった。
皆が不安げに空を見上げた、その直後。
ドォオオン!!と地響きのような音を立てて、閃光と共に地面が揺れた。
「雷だぁ!街に雷が落ちたぞ!」
「なんで突然?!」
「おい!空が光ってる!またくるぞっ。」
あちこちから悲鳴が上がる。
口々に何かを叫びながら、人々が逃げ惑う。
そんな中。
「おい?!西の空を見ろ!」
「こ、今度はなんだよ?!」
「うわぁ!た、竜巻だ!!」
地面から遥か空高く、一本の荒れ狂った風の渦が立ち上り、ゆっくりと、だが確実にこちらへと向かってくる。
人々は突然の恐怖に言葉を失い、思わずその場に立ち尽くした。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
ファリスロイヤ城、地下室。
(始まった。)
身動き一つせず、拘束されたままの姿で目を閉じていたリーメイルは、静かに瞼を上げた。
外の音など何一つ届かぬこの隔離された空間にいても、巨大な魔力のうねりに空気が上げる悲鳴は、確実に彼女のもとに届いていた。
深く息を吸って、細く長く吐き出す。
目の前、今まさに荒れ狂う魔力が溢れだそうとしている魔法陣を見つめ、心の中で祈りを捧げる。
(女神エルスよ、どうか未熟な私に力をお与えください。今、この地に生きとし生ける全ての命を、この歪んだ魔力の暴走から、どうか守ることができますように。無理やり集められたこの大地の力を沈め、大いなる流れに還すことができますように。)
昨夜、最後の準備を終えてから、ただひたすらに残り少ない魔力を整えることに集中していた。
リーメイルは意を決すると、瞼を半分下し、静かに歌い始めた。
「 一なる魔力の源に 我は呼ばれしか弱き小鳥・・・
・・・彼の地に誘う 眠りの唄に 光となりて連れ立つは 小鳥の命と 友なる魔力 --------- 」
- ファリスロイヤ昔語り 〜 魔女と呼ばれた聖女 〜⑪ ( No.164 )
- 日時: 2016/08/27 20:19
- 名前: 詩織 (ID: NOuHoaA7)
空は黒く覆われ、休むことなく走る閃光と激しい地響き。
落雷によって遠くの森が燃えている。
上がる炎と煙。
眼前に迫った天高く全てを巻き上げる風の渦に、為す術もなくただ逃げ惑い、また茫然と見上げるしかない人々。
突如現れた見たこともない災害に、手を合わせひたすらに神に祈った、その時。
彼らは見た。
彼らの主の住む城から、一筋の光が射し込み、
今まさに飲み込まれる寸前だった真っ暗な街の空を、街を包むように光の壁が覆った。
再び落雷が街を襲う。
けれど、光の壁に弾かれて、うねる様に空に消えていく。
「・・・ルーファス様だ。」
誰かが呟いた。
「きっとルーファス様の魔法だ!そうに違いない!」
「リアン様とルーファス様が私たちを助けてくださってるんだわ!」
「ああ、助かった!ルーファス様が居てくださればもう大丈夫だ!」
絶望しかかっていた人々の間に歓喜の声が沸く。
「ああ恐ろしい。これもあの神殿の魔女のしわざか?」
「何やら使っちゃいけねぇ呪いの魔法に手をだしちまったらしいぜ。魔の魅力にとりつかれてたんだと。だが魔女は昨日捕まったそうだし、今朝ついに城の兵たちが神殿に乗り込んだっていうからな。あとはリアン様とルーファス様がなんとかして下さるだろう。」
「ったく、迷惑な話だぜ!聖女だとか抜かしやがって、すっかり騙されちまった。」
「でも俺達にはルーファス様たちがいて下さる!見ろ、あの光が、俺たちとこの街を守って下さってるんだからな。」
光の外側では相変わらず荒れ狂う空が見え轟音が鳴り響いていたが、
光の防壁は、揺らぐことなく、人々を守り続けていた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「『眠りの唄』ですか。」
ルーファスが、いつも通りの声で語り掛ける。
声も、表情も。
動揺などひとつも見せない彼の真意は読めない。
大地が悲鳴を上げ、大きく揺れている。
時々轟音を響かせて、城のあちこちが崩れているようだ。
地下室。
冷たい石造りの床の上。
リーメイルは答えることをせず、ただ、唄い続けている。
すでに魔法によって魔法陣と繋がっている彼女は、まるで人形のように一定の表情のまま、淡い光の中で唄を紡いでいた。
そんな彼女を見下ろして、穏やかに、けれど淡々とルーファスは語る。
「そんなものまでご存じだったとは、貴女は本当に私を驚かせるのがお上手だ。最初から協力して頂けたなら、この魔法陣もより高みに近づけたかもしれない。」
ルーファスが背を向けている『レフ・ラーレの魔法陣』。
その周りには、黒いローブを羽織った幾人かの人間が横たわっていた。
ルーファスに従っていた、魔法使いたちだった。
魔力を制御するために自ら魔法陣と繋がり、制御しきれずに魔力を奪われ命を落とした彼ら。
なぜそこまでと普通の人間なら思うだろう。
否、彼らも普通の人間だったからこそ、魔力に魅了された己の欲求、探求心に囚われたのかもしれなかった。ルーファスに心酔し、共に堕ちた優秀な若き魔法使いたち。
今は静かに眠る彼らを憐れむ者はここにはいない。
城の人間たちは皆、大きく揺れ続ける城から外へと避難してしまっている。
大きく揺れる地下室の天井から、ぱらぱらと砂塵が落ちたが、ルーファスが顔色を変えることはない。
「私ももうすぐ眠りにつきます。この魔法陣がどこまでいけるのかどうしても見たくてね、全ての魔力を連動させるよう魔法契約をかけてしまいました。」
そんな風に言いながらも、浮かぶのは穏やかな笑み。
「後悔は、ないですけどね。」
ある意味満足そうな声で、ルーファスは答えを返さぬ彼女へと語り続けた。
その顔は、少しだけ、楽し気に見えた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「・・・リアン?」
ふいに名前を呼ばれて、リアンはピクリと肩を揺らすと後ろを振り返った。
「トーヤ?なぜ君がここにいる?」
一瞬目を見開いた後。
険しい声で問いただす。
彼の視線の先、息を荒げて立つトーヤもまた、驚きを隠せないでいた。
「お前こそ、なんでまだここに?城の奴らは全員避難したんじゃなかったのか?!」
トーヤの言葉に、冷たく目を細めて、リアンは扉へと視線を移した。
ファリスロイヤ城地下室へと続く扉。
この先に、ルーファスとリーメイルがいる。
「僕にはここに残る理由があるからだ。君こそ、命を捨てに来たのか。」
そう言うと、トーヤを見て皮肉な笑みを浮かべた。
「大方の予想はつくよ。彼女を連れ戻しにきたんだろう?だが残念だな。彼女はもう魔法陣の魔力と一体になっていて意識はすでにここにない。連れ出すのは無理だそうだ。」
「知ってるさ。」
リアンの皮肉を切り捨てるように言って、トーヤはリアンに・・扉に向けて足を踏み出す。
「あいつの覚悟は知ってる。そして俺もそれを受け入れた。」
「ではなぜ、」
「あいつの傍にいたいからだ。」
トーヤの答えに、リアンの笑みが消える。
「今までずっと隣にいたんだ。あいつを1人にはしたくない。」
トーヤは足を止めない。
「俺の魔力を全部、あいつにやるよ。あいつは望まないだろうけどな、俺の勝手な我がままだ。」
扉の前に立つリアンに近づいていく。
「あいつの守りたかったもんを守る為に、俺の魔力を全部やる。そう決めてここに来た。」
リアンとの間があと2,3メートルとなったところで、トーヤが足を止めた。
「そこをどけ、リアン。」
「断る。」
固い声でリアンが言い捨てる。
「最後の我がままくらいのめよ。さんざん好き勝手してきたくせに。」
「君はいつも我がままじゃないか。リーメイルも苦労しただろう。」
「ハッ!お前には言われたかねーな。」
剣呑に笑って、トーヤは腰の剣を抜く。
「もう一度だけ言う。そこをどけ、リアン。」
「断る、と言ったら?」
リアンの言葉に、トーヤは剣を構えた。
「俺はいくぞ、あいつのところに。お前がどうなってもな。」
低くうなるようなトーヤの声が、揺れ続ける廊下に響く。
「では、」
暗い笑いを浮かべたリアンの声。
「お相手しようか?今の僕は昔の僕とは違う。君を、彼女のところへは行かせないよ。」
遠くで、何かが崩れる音がしている。
向かい合う2人の間に、天井からの砂塵がパラパラと降り注いだ。
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