コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- 〜 『幻獣の子』 〜3 ( No.95 )
- 日時: 2015/11/25 21:21
- 名前: 詩織 (ID: ak9ikTR3)
「すぐにはね、うんって言えなかったの。」
足元を見つめながら、マリーが言った。
「外の世界・・知らないひとたちがたくさんいる場所・・。想像もできなかった。そんなところに自分がいるなんて。私にはおじいちゃんとジェンがいればそれで十分で、ずっと、あの静かなお家で暮らしていくんだと思ってたから。」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。
「・・怖かったのよね。村の人たちの私をみる怯えた目や、話しかけても誰にも答えて貰えない悲しさとか。そんなシーンばかりが目に焼き付いてて。外になんか出たくなかったの。」
「そっか。」
「でも、ジェンは待っててくれた。」
マリーの口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「私が正直な気持ちで、ゆっくりと答えを出せるように。毎日、一緒にあの家で暮らしながら、何気ない会話をして、ご飯を食べて。いつもの暮らしの中で、私の心が落ち着くのを待っててくれたの。」
ジェンは、国の研究機関の仕事を辞めていた。マリーがそれに気づいたのは、ジェンが仕事を辞めたずっと後。
どうして?昔からの夢だったんでしょう?
詰め寄るマリーに、ジェンは微笑んでいつも同じ答えを返した。
『外の世界を見てみたくなったんだ。ずっとこの国にいたから、たまにはな。だから、お前も一緒に来いよ。』と。
けれど、マリーは分かっていた。全部、自分の為なのだ。
(ひとり残された、私の為に、彼は大切な研究者の仕事を捨てた・・。)
そこまで大切に思ってくれたこと、それはもちろん、途方もなく嬉しかった。
もし彼がいなかったら、自分は本当に、一人ぼっちになってしまう。
その孤独は恐ろしすぎて、想像することすらできない。
けれど。
(私のせいで、この人は・・。)
そう思うと、嬉しさと同じくらい、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
だがジェンは、不満げな顔など一切見せずに、ただ、マリーを優しく誘った。
一緒に行ってみようと。
広い世界を、その目で見てみたくないか、と。
そして遂に。
マリーはジェンの手をとった。
「私も、連れて行って。」
・・・・・・・・・・・・・・
「私、ジェンには本当に感謝してるの。あの孤独な世界から、私を連れ出してくれた。皆に、会わせてくれた。あの場所にずっと閉じこもっていたら・・、私はあなたにも会えなかったし、今ここにいないわ。」
顔を上げたマリーは、シルファを見てにっこりと笑顔を浮かべた。
シルファも、つられて笑顔になる。
悲しい話だったが、今、こうしてマリーが目の前で笑っていてくれることが嬉しかった。
「そっか。ジェンは優しいな。マリーは、ジェンが本当に本当に、大好きなんだね。」
シルファは素直な感想を口にした。マリーの口調から、心底彼を信頼しているんだということが、すごくすごく伝わってきたから。
だから、深い意味など特に込めたつもりはなかったのだ。
が。
何気なく放ったその一言に。
少女はシルファの予想外の反応を返した。
「マ、マリー?」
「〜〜〜〜〜 っ!なによ。」
一瞬目を丸くした後、さっと視線を逸らした彼女の顔は・・。
これでもかというほどに、真っ赤に染まっていた。
(え?!え、ええー!まさかまさか・・この反応は。)
唖然とするシルファに、マリーはすかさず手を振った。
「ち、違うっ、違うの。えと、一人ぼっちの私のこと引き取ってくれて、感謝してるってイミで!」
「え?そうなの?」
明らかに動揺を隠せない様子で、マリーが早口で言った。
つられて、なぜだかシルファも動揺しわたわたと挙動不審な動きをしてしまう。
「ええと、うん。分かった、分かった。ジェンは優しいもんね。かっこいいし。大人だしっ。」
「ちょっと!なんでシルファが赤くなってるの!違うっていってるのに!じゃなくって、私のこと、妹として大切にしてくれてるからっ。大切な家族・・だから・・。」
必死に言い繕っていたマリーの声が次第に小さくなり、そのまま黙って俯いてしまう。
そんなマリーを横目で見て、シルファはふぅ、とため息を吐く。
(あーびっくりした。)
動揺して、思わず変な動きをしてしまった。
(落ち着け、落ち着け)
自分に言い聞かせる。
それからポリポリと頬をかくと、視線を再びマリーに戻した。
「あー、うーんと、さ。『妹』って。そんなこと、ほんとは思ってないよね?」
感謝や、家族愛のようなものも、確かにあるのだろう。
けれど。今の彼女の態度を見れば、その奥にある想いが何なのかなんて一目瞭然で。
(これはさすがに・・、鈍い僕でも分かったぞ。)
何と言おうか迷ったが、結局、思ったことをそのまま言ってみた。
「その顔。マリー、君、ジェンのこと・・。」
『好きなの?』
言いながら、恐る恐る彼女の顔を覗きこむと。
今度こそ、真っ赤な顔をしたまま固まっている彼女。
————— それが答えだろう。
「ジェンに言ったら・・。」
しばらくして。
蚊の鳴くようなか細い声が聞こえた。
「ジェンに言ったら絶交だからねっ。」
マリーは赤い顔のまま、シルファを睨んだ。
「マリー、可愛いなぁ。」
いくら睨んでも、真っ赤なその顔のままでは全く威力がない。
案の定、ほんわかとした笑顔を浮かべたシルファはそんな感想を述べ、マリーの照れは頂点に達した。
「!!」
「大丈夫だよ、ジェンには言わないから。」
「当たり前よ!」
「僕、応援するね。」
「〜〜!!もうっ、何よお!シルファのばかぁ!からかわないでっ。」
シルファのセリフに一瞬絶句した後、マリーは叫んで手を振り上げる。
けれど、マリーの言葉は明らかに照れ隠しだったから。
むしろその様子さえ愛しくて。
照れたマリーにぽかすかと叩かれても、シルファは笑顔を隠すことが出来なかった。
「あはは。」
思わず笑いながら、シルファはマリーの頭を撫でた。
「子供扱いしないでよ!」
マリーが赤い顔のまま言った。
「私だって、いつまでも子供のままじゃないんだから。早く大人の女になって、ジェンの役に立つんだから!」
ムキになったマリーは悔しげな声を上げる。
それを聞いて、シルファは「うーん?」と首を傾げた。
「確かに大人になった君も素敵だとは思うし、将来楽しみだけどさ?今のままでも十分役にたってると思うけど?」
「どこが?!ただのお荷物じゃない!」
「そんなことあるわけないよ!君といるジェンが、すごく楽しそうに見えるから。」
「・・そんなの、役に立ってるって言わない。もっと、何か、ジェンの為に何か出来る大人になりたいのに。」
「そんなことないよ。」
シルファは首を横に振る。
「傍にいて、安心できるのはきっとジェンも同じだよ、マリーがそう思ってるようにさ。そういう存在・・って、大事だよ。君が隣で笑ってることで、ジェンだって幸せだと思う。」
「・・・。でも・・。」
「いいんじゃないかな、焦らなくても。」
シルファは自分の中にある言葉を、マリーに伝えた。
「ゆっくり、進めばいいんじゃないかな。」
「ジェンの為に何かしたい、っていうのはすごく素敵な「夢」だと思う。いろんなやり方を、これからゆっくり探せばいい。いくらだって、方法はあるよ。君は、まだまだこれからなんだからさ。」
マリーはシルファの顔をじっと見つめてその言葉を聞いていた。
「未来の君も今の君も、どっちも大切だよ。ジェンにとっても、僕らにとっても、ね。」
・・言いながら、シルファは不思議だった。自分が悩んだとき、ジェイドやラパスから貰った言葉を、こうしてマリーに伝えている自分がいる。
上手く伝わっているかは分からない。
ずっとずっと、辛い思いをしてきたマリーに、果たしてどれだけの言葉が届くのだろうか?
けれど、自分を支えてくれた誰かの言葉を、また誰かに届けられること。
それが、なんだか嬉しかった。
今すぐでなくてもいいから。
届くといいな。
そう思った。
「今の君も、充分可愛いよ。ジェンもきっと、そう思ってる。」
もう、またそんなこと。
そんな返事が返ってくるかなと、ちらりと思った。
けれど、違った。
言われたマリーは。
「そっかな。・・・ありがとう。」
——— 笑った。とてもとても、嬉しそうに。
(う、わぁー。)
シルファは思わずマリーに見惚れる。
今まで見た中で、一番可愛い彼女の微笑みだった。
シルファの言葉を聞きながら、ふと、マリーは気付いたのだ。
心の中が、ほんのり暖かくなっていることに。
それまで、固く固く握りしめていたもの。閉じこめていたもの。
そこからふわりと、力が抜けていく感じ。
固いつぼみが、ふんわりと、少しだけゆるんだような、そんな感覚。
まだ全部が手放せた訳ではない。
ほんの、すこし。
理屈では分かっても、心が納得しないこともある。
でも、シルファが一生懸命伝えようとしてくれてることは分かる。
それが嬉しかった。
いつか、もっともっと分かる日がくるかな。
固く閉じたつぼみが、ゆっくりゆっくりほころんで・・・。
いつか花が咲く日が来るとしたら、どんな自分になっているんだろう。
どんな大人に、なれているんだろう。
胸を張って、ジェンの隣に立つことはできているだろうか?
なんとなく、そんなことを思った。
思いながら、自然に浮かんだ笑みを、素直にシルファに向けていた。
- 〜 『幻獣の子』 〜④ ( No.96 )
- 日時: 2015/11/28 20:23
- 名前: 詩織 (ID: .WGhLPV.)
・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「それで?」
過去を話し終わり一息ついたところで、話を戻すようにマリーが聞いた。
「私の魔力の話を聞いて、何か分かったの?」
「うん。」
シルファも表情を引き締めると、はっきりと頷く。
「キーワードは、やっぱりあの古代魔法だったんだ。」
「どういうこと?」
「ここはかなり昔に作られた場所なんだろうね。ここに満ちている魔力や、壁画を見るとさ。それに・・マリー、君の魔力がここのものと同じ性質のものだってこともそうだ。それで確信できたよ。」
「?」
「君の魔力は、古代幻獣の血の力なんだろ?」
「うん。」
「『古代』と呼ばれる時代の魔力。それが共通点。それから・・」
シルファは視線をあの少女の絵へと向けた。
「あそこに書かれていた、古代魔法文字。おそらくここにいた人たちの中に、あの魔法を扱える人間がいたんだよ。」
シルファの顔が少し気色ばむ。
マリーは、まだよく分からないという顔をした。
「たぶんだけど・・あの転送魔法、あれはここと同じ魔力を持ってるかどうかの選別じゃないかな。」
「同じ魔力?ここにある古代魔法の魔力と・・私の古代幻獣の血の力。そっか。それが引き合って、私はこっちに選ばれたのね。」
なるほど、と頷きかけて、マリーははたとシルファを見る。
「あれ?じゃあシルファはどうして?」
その問いに、シルファも小さく首を傾けると言った。
「僕の予想だとね、長い長い時間の中で魔法装置に微妙な狂いが出ていて、質は違うものでも‘魔力を持っている’ことに反応してしまってるんじゃないかって。」
「ふぅん。じゃあ・・、ジェンとラヴィンは魔力がなかったから、もう一方の道へ飛ばされた、ってこと?そうなのね?」
ようやく合点がいったというように、マリーが頷く。
「なんとなく、原理は分かってきた。」
シルファは頭の中で様々な魔法術式を思い浮かべながら、取り出したノートにペンを走らせていく。
「マリー、もう一度さっきの場所へ戻ってみよう。」
「さっきの?私たちが倒れてた場所?」
「うん、そう。そこから最初の坑道に逆転送で戻れないか調べてみる。」
「できるの?!そんなこと。」
「やってみないと分からないけど、多分出来るはず。あとは、もう少しこの部屋を調べたいかな。ラヴィンたちの飛ばされた先へのヒントが何か見つかるかもしれない。」
「まだ何かあるかしら。あの女神像と女の子の絵以外は特に見当たらないようだけど。」
「うん。でもここにいたのは、古代魔法の使い手だ。まだ隠されている情報があるかもしれないよ。」
「他の道への転送魔法とか?」
マリーが聞くと、シルファは頷きながら立ち上がった。
「だね。それにさ、気にならない?この、繋がりそうで繋がらない感じ。」
「?」
「だってさ。僕らの調べに来た石碑は、古代魔法文字が彫られた魔法装置で。そもそもその謎解きに、僕は同行させて貰ったんだよね。」
マリーが頷く。
「でも、村人は誰もあれについて詳しい事実を知らない。ノエルさんの話だと、村ができる前から、女神エルスの降臨と共にあの場にあったとされている、謎の石碑。
それと同じ文字が、なぜかそこの少女の絵にも刻まれていたんだよ?しかも、女神エルスにそっくりの女の子の絵にね。」
シルファの視線を追って、マリーもあの少女の絵に目を向けた。
ゆるく波打つ金髪と、紅い瞳で微笑む少女。『リーメイル』という名前なのか。
「それから、‘‘女神に滅ぼされた魔女の棲む山’’という言い伝えの場所にあったこの坑道。でもあの壁に飾られた絵を見る限り、ここには女神エルスを敬愛する人々が集まっていたらしい・・。
そして壁画の絵物語では、ここは誰かから追われて逃げてきたその人たちが逃げ込んだ隠れ場所。転送魔法なんて大掛かりなモノ仕掛けてまで、敵から仲間を守ろうとした場所。
ここに居たのはどういう人たちで・・・
・・・過去、ここで一体何があったんだろう————?」
ひとつひとつの事柄を再確認するように、シルファは言葉を並べた。
「確かに。共通点はたくさんあるのに、繋がりそうで、繋がらない。話の筋が見えないわよね。シルファはやっぱり、村のあの石碑とここは関係してるって考えてるの?」
見上げるマリーに、少し考えてから、シルファは深く頷いた。
「うん。そう思ってる。ここにいたはずの魔法の使い手と、あの石碑の魔法装置。あれにはきっと繋がりがあるだろうって。古代魔法と、女神エルスへの信仰。この大きな共通点があるしね。」
言いながら、シルファの脳裏にジェイドのあの言葉が浮かぶ。
——— 『語られる歴史は、必ずしも真実ではない』 ————
(ここには、村人だけじゃなく・・後世のほとんどの人に知られていない『何か』があるんだ。)
その言葉を聞きながら、マリーも立ち上がると服の裾を払った。
「分かったわ。私には魔法のことはよく分からないけど・・。とにかく、何か情報がないかこの部屋を探せばいいのね?」
「うん。少し調べてみて、それからもう一度あの最初の場所へ行ってみよう。」
「了解!」
可愛らしい声で返事をしたマリーが背を向け、部屋の反対側へと歩き出す。
その後ろ姿を見つめて、シルファは自分も壁際へと向かおうとしたのだが。
ふと、足を止めた。
「ねえ、マリー。」
再びマリーの方へと向き直ると、先ほどまでとは少し違う、柔らかい声で彼女に呼びかける。
「?なあに?」
ふわりと髪を揺らし、マリーが振り返った。
その声音の違いに気づいたのか、不思議そうな顔で、シルファを見上げる。
そんな彼女に、シルファは優しく笑って言った。
「いつか、気が向いたらさ。僕と一緒に、魔法の練習をしてみないかい?」
- 〜『幻獣の子』〜⑤ ( No.97 )
- 日時: 2015/11/28 20:25
- 名前: 詩織 (ID: .WGhLPV.)
その言葉に、マリーの瞳が大きく見開かれる。
「君の力はね、失くなったんじゃなくて、強い悲しみによって閉じ込められているだけなんだ。でも・・」
その開かれた双眸を見つめながら、シルファはゆっくりと続けた。
「その力自体は、決して悪いだけのものじゃない。今までその力のせいで、辛い思いもたくさんしてきただろうけど・・、でも、その力だって、大切なマリーの一部なんだよ。使い方次第で、きっと君の役に立つ。君を・・幸せにしてくれる。」
一言一言、マリーの気持ちに寄り添えるように。
そう想いを込めながら、シルファは続けて言った。
「ほら、僕が光の魔法を使ったとき、君たちみんな喜んでくれただろ?あれ、僕もすごく嬉しかったんだ。みんなの役に立てたかなって思った。」
照れくさそうに言いながら頬をかくシルファに、
マリーはコクコクと思い切り首を縦に振った。
「もちろん!」
本心からの言葉だから、思わず手に力が入る。
「すっごく綺麗だった!ステキだったよ。それに、明るくて、ほっとした。安心したもの!」
マリーの言葉にそれは嬉しそうに笑うと、シルファはマリーに近づき、目線を合わせるように屈んでその瞳を覗き込んだ。
「あんな風に、誰かを喜ばせて、自分も幸せな気持ちになること・・。誰かの為に、力を使うこと、君ならできるよ。うん、ジェンの力になることだって、きっとできるはず。」
その言葉に、マリーの頬がほんのり赤らんだ。
「だから、さ。」
そんなマリーの表情の変化を、愛おしく感じながら。
シルファは自分の想いを伝えた。
「ゆっくりでいいから。いつか、気持ちの整理ができて、やってみようかなと思ったらさ。僕と一緒に、魔法を学んでみようよ。」
「・・できるかな。」
小さな小さな声が、シルファに問いかけた。
「できるかな、私に。ジェンの、みんなの、役に立てる?喜んでもらえるかな?」
シルファはにっこりと笑って言った。
「大丈夫だよ。マリーだもん。僕も一緒だから。一緒に、やってみようよ。」
ふふふ、とマリーは笑った。
「じゃあ、シルファが先生?あ、師匠のほうがいいのかしら。ね、『お師匠さま』?」
「ええ?い、いいよいいよ、そんなの。うわ〜違和感しかない。」
呼ばれなれない言い方をされて、シルファはぶんぶんと首を横に振った。
「いいよ、修行仲間で。僕だって、まだまだ修業中の身なんだから。うちでは怒られてばっかだよ?こら!またお前か!って。父上めちゃくちゃ怖いんだよねー。・・はぁ、ちょっとヤなこと思い出した。」
「ちょっと!いきなりやる気下げること言わないでよ!自信なくなっちゃうじゃない。」
「あっごめん。いやいや、父上は昔っからスパルタだからさー。大丈夫、マリーは僕とゆっくりやればいいよ。」
「幻獣の力でも、シルファと同じように練習すればいいの?」
「魔力の基本的な使い方は一緒さ。そのあと・・、どんな風に広がっていくかはマリー、君次第だよ。」
「私次第・・。」
「そ。君次第。」
シルファは楽しそうな表情を浮かべて笑う。
「君は、なりたいものになれるんだよ。楽しみだね、これから。」
「なりたいもの・・。楽しみ、これから・・。」
シルファの言葉を小さく反芻する。
(そんなこと、考えたこともなかった。)
あの、悲しい世界から抜け出して、ジェンの側にいることを選んだ。
それからはずっと、いつか彼の役に立ちたい、強くなりたいと思っていたけれど。
なりたいものになる、とか。未来を語ることとか。
ましてや自分の力が誰かの役に立つなんて、思ってもみなかった。
次第に実感が沸いてきたのだろう。
マリーの瞳にワクワクするような色が浮かぶ。
「私、やってみようかな。シルファと、頑張ってみようかな!」
「そうそう!やってみようよ!ジェンとラヴィンにも報告しなくちゃね!きっとびっくりするよ。」
驚きと喜びで紅潮する2人の顔を思い浮かべ、マリーとシルファは顔を見合わせて破顔した。
「じゃあ、今はとにかく情報を探そう。早く2人を迎えにいかなくちゃ!」
「うんっ!」
2人がもう一度、部屋の中を捜索しようと動き出した、その時。
「!?」
急に厳しい顔つきになったシルファが、バッと入口のほうを振り返った。
瞬間的に構えをとる。
突然の緊迫した空気に、マリーは驚いてシルファにしがみつくと同じく入口へと視線を向けた。
「な、なに?」
「・・・」
シルファは黙ったまま、その場所を睨んでいる。
「え・・。」
マリーは思わず目を疑った。
ぐにゃり、と。
入口付近の空間が、突然歪んだ。
小石を投げ込まれた水面のように、空間は揺れる。
そしてそこに、1人の男が姿を現した。
マリーが息をのむ。
その男は実態ではなく、向こう側が透けて見える、幻のような姿だったから。
そして、その後ろから・・
「うわっ!」
「きゃあっ!」
悲鳴と共に現れたのは・・
「「ジェンっ!!ラヴィン!??」」
シルファとマリーは、同時に叫んでいた。
突然現れた謎の男。
その後ろの空間から勢いよく放り出されたのは、黒髪の青年・ジェンと、赤毛の少女・ラヴィンの姿だったのだ。
- 〜暗闇の中の声〜 ( No.98 )
- 日時: 2016/04/13 21:03
- 名前: 詩織 (ID: hAeym9pF)
〜 暗闇の中の声 〜
・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
時は少し遡る。
深い森の中、生い茂る草をかき分けて、ひたすら歩く2つの人影。
「・・・マリー、泣いてないかな。」
不安げに呟いたのは、先を行く小柄な少女。
立ち止まって振り返りながら、少女・ラヴィンは後ろを歩くジェンの顔を見上げた。
うす茶色のその瞳が不安げに揺れる。
あの坑道で何かが起きて。
ジェンに起こされて気が付くと、見たことのない森の中に倒れていた。
最初はもちろん動揺した。
魔法の知識のないジェンとラヴィンには、何が起きたのかさっぱり分からない。
分からないながらも、とにかくこの森を抜けて安全な場所へ行き、マリーとシルファを探そうということになり。
2人は初めて見る森の中を、迷いながら歩いていた。
「シルファが一緒なら、きっと大丈夫だろ。これが魔法の力なら、あいつの専門分野だしな。」
落ち着いた声でジェンが言う。
「ん。」
ラヴィンは俯いて唇を噛み締めた。
握る両手に力を込めると、再び前を向いて歩き出す。
ざくざくと、枯葉を踏みしだく音だけが響く。
(マリー・・。シルファ・・!無事でいてね。)
思わず目頭が熱くなるのを堪え、ラヴィンは乱暴に歩みを進めた。
「痛っ!」
飛び出した枝に気づかずに、手の甲に擦り傷ができる。
微かに血が滲んだ。
「もう・・、もうっ!」
思わず立ち止まり、傷を睨む。
そんなラヴィンの様子を見て、ジェンは後ろから近づいた。
ぽん、と彼女の頭に優しく手を置いて。
「落ち着け、ラヴィン。・・大丈夫だから。」
ラヴィンは視線を上げる。
穏やかな顔で自分を見下ろす、黒い瞳を見つめた。
「ジェン。」
「あいつらなら大丈夫だよ。シルファは頼りになるやつだし、マリーだって、案外しっかりしてるんだぜ?気も強いし、最近は口も達者だしな。」
小さく笑う。
「だから、信じてやろうぜ。あいつらもきっと無事で、俺たちを探してる。お前が焦ってケガでもしたら、元も子もないぞ。」
言いながら、ラヴィンの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。な?」
その声に、ラヴィンは気ばかり焦っていた自分が、すうっと落ち着いてくるのが分かった。
(やっぱ、ジェンはすごい。)
不安でいっぱいになって、思わず取り乱してしまったけれど。
彼の声とあたたかい手で、心に安心感が生まれる。
足元が、しっかりと感じられる。
「分かった。もう大丈夫。・・ごめん、取り乱して。ありがと、ジェン。」
軽く息を吐くと、さっきよりも強い瞳でジェンを見上げる。
ジェンも安心したように頷くと、ラヴィンに笑顔を向けた。
再び、歩き出す2人。
ジェンのお陰で、歩き出す力を貰った。
だが、さっきのジェンの笑顔を見て。
ラヴィンは、安心と同時に、複雑な気分も味わっていた。
ジェンのお陰で落ち着けた。それは本当だ。彼はすごいと思う。
(だけど・・)
懸命に歩きながら、心の中で呟く。
(本当は・・、自分だって不安なのに。)
本当は。
すごく、ものすごく、マリーのことが心配でたまらないくせに。
マリーに何かあったら、って。怖くて仕方ないくせに。
シルファなら、何かあってもきっと対処できるだろうと、ラヴィンだって信頼はしている。
けれど自分とジェンのように、マリーがシルファと共にいられるとは限らない。
ジェンに起こされた時、自分はずいぶん動揺したけれどその時も、ジェンはもう落ち着いていて、ラヴィンに状況を説明してくれた。
先に目を覚ました彼だって、きっと激しく動揺しただろう。
でも、そんな素振りはみせなかった。
(私を安心させる為に、あんな顔するんだ、ジェンは。)
「・・いつもそう。」
呟いた声はあまりに小さく、森を歩く足音にまぎれて彼には耳には届かない。
ジェンはいつも穏やかな声で笑ってくれた。
面倒見がよくて、皆の「お母さん」役だとアレンやラパスからよくからかわれていた。
ラヴィンもマリーも、シルファでさえ、彼の側にいるとなんだか安心すると言った。
だからこそ、つい甘えてしまう、あたたかい場所。
ジェンが激しく怒ったり、取り乱したり・・そんな場面を、ラヴィンは見たことがない。
今だってそうだ。
けれど、少しずつ自分も大人になって、見えるようになったものもある。
ジェンのそれは、一緒にいる誰かを安心させる為。
(本当はすごく心配で、すごく焦ってるくせに。)
ラヴィンを安心させる為に、元気づける為に。
笑ってみせる、ジェン。
(いっつもだ。私やマリーや・・誰かの為に。自分の気持ちは後回しにしちゃう。誰かを守る為に・・。)
それが嬉しくもあり、少し、もどかしくもあった。
出会った頃からずっと、ラヴィンの甘えられる場所。弱音を吐けるところ。
けど、じゃあジェンは?
ジェンの、そんな場所は、どこ?
- 〜暗闇の中の声〜② ( No.99 )
- 日時: 2015/11/29 17:08
- 名前: 詩織 (ID: .WGhLPV.)
「おわっ!」
後ろからジェンの声がして、どさりと音が聞こえたので、ラヴィンは慌てて振り向いた。
ジェンが木の根に足を取られ、転倒したようだ。
「大丈夫?」
駆け寄るラヴィンに、ジェンが苦笑した。
「ああ。参った。ここの森は結構足場が悪いな。慣れてないから思ったよりキツい。」
言いながら立ち上がる。
手を貸しながら、ラヴィンは自分がずいぶん先へ進んでいたことを知った。
考え事をしていたから、早足になっていたらしい。
ジェンとは反対に、ラヴィンはもともとこういう場所には慣れているから、さっきのように取り乱してさえいなければ歩くことは容易いのだ。
ジェンは自分に追いつこうと、少し、無理をしていたのかもしれない。
立ち上がると、彼はぱっぱと手を払った。
少し擦りむいたらしい。イテテ、と傷口の泥を落としている。
その姿をみて。
「あ〜〜〜!もう!!」
ラヴィンは叫んでいた。
パシン、と音を立てて、自分の両手で頬を挟む。
ジェンが「は?」と目を丸くした。
(私、しっかりしなくちゃ!!)
ラヴィンは頬をはさむ両手に力を込める。
自分にいっぱいいっぱいで、後ろを気遣う余裕がなかった。
こんな森の中なら、私の方が慣れてるのに。
洞窟も、気配を探るのも、私のほうが得意なんだ。
それは、どちらが優れているか、なんてことでは全然なくて。
(ジェンはいつも優しい。私たち仲間を、大切にしてくれる。自分の培った知識や技術だって、誰かの為の研究に役立ててる。)
(私は?)
ラヴィンは思う。私も、誰かの力になりたい。
自分の持ってるもの、出来ること。
まだまだ少ないけれど、それを、誰かと自分を助ける為に、幸せにする為に使いたい。
もっと、皆の為に出来ることをしたい。
(今は、私がしっかりしなくちゃ。)
父や叔父から教わったこと。学んできたこと。
冒険の仕方。森の歩き方。迷った時の対処法。
こんな時、どうするか。
(うん!できる。大丈夫。)
「ジェン!」
ラヴィンはジェンの目をキッと見据えて言った。
「大丈夫だから、絶対。この森、抜けてみせるから。私がマリーとシルファのとこ、連れてくからね!」
「ん?あ、ああ。そりゃ頼もしいが・・、どうした?急に。」
「何でもないっ。」
突然の彼女の宣言に、訝しげな表情を浮かべつつ聞くジェンだが、ラヴィンは気にせず彼を見つめる。
「ジェンも言っていいんだよ、困ったときや・・、辛いとか、怖いとか。」
「ラヴィン?お前、何言って・・」
「いつも、大切にしてくれてありがと。でも、私も昔みたいな子どもじゃない。マリーだって・・、姿は子どもでも、きっと心はどんどん成長してる。強くなってる。だって、マリー自身がそう望んでるから。」
「・・・。」
「だから、ジェンだって、私たちを頼ってもいいんだからね?まだ頼りないかもしれないけどさ。たまには、甘えたっていいんだから。」
「ラヴィン・・。」
「わかった?!」
「え?あ、ああ。ハイ。」
言われるがままに、素直な返事を口にして。
ラヴィンの迫力に押され、ジェンはこくりと頷いた。
それを見て、「よし」と頷くと、ラヴィンは前を向いて歩き出す。
———— ジェンは分かってないかもしれない。
なんで突然、自分がこんなことを言いだしたのか、なんて。
でも。
(今は、いいんだ。全部じゃなくても。これから少しずつ・・、ジェンが本当に頼れる場所に、なってやるんだから。)
頼ってもらえる自分になるんだ。
頑張りたい。
心から、信頼できる、安心できる場所になれるように。
安心して、泣いたり、笑ったりできる仲間であれるように。
(『甘えられる場所』は・・、私じゃなくて、あの子の役目かな。)
ふわふわ髪の少女の姿を思い出し、クスリと笑う。
だがすぐに表情を引き締めると、神経を研ぎ澄ませる。
集中し、必要な知識を引っ張りだす。
太陽の位置を確認する。
切り株を見つけ、年輪で方角を見定める。
「よし。」
もう一度呟いて、森の先を見据えた。その瞳は、いつにも増して真剣そのものだった。
———— その後、あちこちに軽い傷を作りながらも無事森を抜け、道にでたとき———
歓声を上げてジェンの手を取るラヴィンに、ジェンは嬉しそうに笑った。
よくやったな、と声をかけて。
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