コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- はじまりの物語 完結
- 日時: 2022/04/02 17:22
- 名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)
・〜・〜・〜・〜・〜・
赤い髪の少女は、不敵に笑った。
その瞳に諦めの色はない。
浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。
今は顔の見えない少年を想った。
合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。
『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』
囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。
−−− 前だけを見つめて。
・〜・〜・〜・〜・〜・
はじめまして☆
小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。
よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。
追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆
☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。
☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。
☆あんずさん 「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。
☆えみりあさん 複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。
☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。
☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。
☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。
☆いろはうたさん
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。
☆ゴマ猫さん
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。
《 はじまりの物語 》
登場人物
ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。
シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。
ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。
アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。
ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。
ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?
《 目次 》
序章 とおく聴こえるはじまりのおと >>000
第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002
第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007
第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013
第四章 出会いは冬の空の下 >>016-019 >>021-022
第五章 友達 >>024-025 >>027-028 >>030-031
第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035
動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037
第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045
第8章 夢 >>046-048
夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050
第9章 真夜中の訪問者 >>051-055
第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064
第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071
第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076
〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082
目次Ⅱ >>141
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
序章 とおく聴こえるはじまりのおと
優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。
季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。
雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。
「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。
「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。
「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。
「ラヴィン・・」
そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。
「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」
にかっと歯を見せて笑う。
ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。
「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」
フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。
そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。
「じゃあね・・。いってくる!」
気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。
彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。
これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。
・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。
微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。
風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。
冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。
・・・けれど、確かにはじまっている。
とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・
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- ファリスロイヤ昔語り 〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.140 )
- 日時: 2016/06/13 10:30
- 名前: 詩織 (ID: y/HjcuQx)
「ここは・・・」
辺りを見回す。
真っ暗な闇の中に一人、リーメイルは立っていた。
身体の重さを感じない、不思議な浮遊感。
『立っている』というよりは『浮いている』というほうが近いかもしれない。
真空のように物音ひとつない暗闇。
この感覚には覚えがあった。
(あの白昼夢と同じ?)
暗闇に浮かぶファリスロイヤ城を視た、あの恐ろしい幻影だ。
視線を下げて自分を見ると、いつもの白い巫女服をまとい、内履き用の簡素な靴を履いている。夢だとすれば、自分自身への最も定番なイメージ像なのだろう。神殿内にいる時は、いつもこの格好だから。
不思議なのは、これが夢だと自分が認識できていること。
眠りについたベットの中で、夢と気づかずに夢の中の世界にいることは、まぁよくある。
でも。
(何でかしら、夢だとはっきり分かるし、意識もちゃんとしてる。)
身体の感覚は薄いが、夢にしては思考がやけにハッキリしていた。
足を一歩、踏み出してみる。
前には進むようだが、地面に足がつく感触がない。
リーメイルは大きく息を吸い込むと、静かに吐きながら、意識を集中し、念じた。
(ここはどこ?私に、何を視せようと言うの。)
すると。
「!?」
帆に勢いよく風を受けた船のように、リーメイルの身体はふわりと宙を舞いどこかへと運ばれてゆく。
「あ、あれ?」
ぐにゃり、と空間が歪み、瞬きするような一瞬のあと。
気がつくと、どこか建物の中らしき場所にいた。
目の前には、古い石造りの廊下が続いている。明かりとりの小さな窓が天井近くにあるだけの薄暗い、けれども充分過ぎるほどの広さの廊下を、ゆっくりと、リーメイルは進んでゆく。
相変わらず、音の無い世界。人の姿も見当たらない。
廊下の突き当たり。
大きな古びた木の扉があった。色あせた両開きの扉の取っ手部分に見覚えのある意匠を見つけ、リーメイルの表情が険しくなる。
(やっぱり。ここは・・)
取っ手に両手をかける。
「・・・ファリスロイヤ城。」
何度も目にしてきたその意匠を、自分が見間違えるはずはない。
それは確かに、ファリスロイヤ城の紋章だった。
だが、リーメイルはこの場所を知らない。
もちろん外部の者である彼女が知っている場所ばかりでないのは当たり前だが、子供の頃から式典などで何度も歩いたことのある城だ。リアンやトーヤと遊び回ったこともある。
ここはたぶん城の中でも、外部からの人間の目には触れないような場所なのだ。
小さく放ったリーメイルの呟きと同時に、分厚く重い木の扉が音もなく開いた。
力は全く入れていない。
まるで彼女を誘うかのように、自然に開いたのだ。
奥に向かって開かれた扉の向こうには、石造りの階段が下へと向かって螺旋を描いていた。
「入れ、ということかしら。」
一歩足を踏み入れる。
「きゃっ?!」
暗闇の中からおそらくは城の最奥へとやってきた時と同じように、ふわりと宙を舞う感覚。
リーメイルの意識は、掲げられた蝋燭の薄明かりだけが揺れる階段を、風のように通り過ぎる。
そして。
「何なの、ここは・・。」
たどり着いた部屋。
暗い地下室のようなその部屋に窓はひとつも無く、けれど何の用途の為なのか、広さだけは十分にあった。天井も普通の部屋よりずいぶん高い。
広い床に何かが置いてあるのはなんとなく分かったが、リーメイルの今の位置からは中がよく見えなかった。
正方形の部屋の壁沿いには、階段と同じようにぼんやりと明かりが灯されている。
暗闇に浮かぶ小さな明かり。
今は身体の感覚はほとんどないが、もし現実なら、石造りの地下室のひんやりとした空気や、独特の臭いなどを感じただろう。
だが、その見た目よりももっと本質的な所で、リーメイルはこの部屋に存在するなにか底知れない冥さを感じとって、その背筋が冷える感覚に思わず身震いする。
思い切って、一歩足を踏み入れた。
ゆっくりと部屋の中へ進むと、次第に暗闇に慣れてきた彼女の目に、床に置かれた物体と
それらと共に床自体に描かれたモノが少しずつ、姿を現す。
突然
響く、穏やかな、男の声。
「ようこそ、私の城へ。お美しい聖女殿?」
部屋の明かるさが一気に増した。
息を呑み、リーメイルは勢いよく振り返る。
実体ではない金色の髪が乱暴に舞った。
見開かれた紅い瞳の視線の先。
濃紺の瞳。 静かで深い海の様な。
同じ色でありながら、紫や深緑や白や黒・・まばらに色が混ざり合った、不思議な色の髪。
ゆったりとした黒いローブを纏い、悠然と微笑む一人の男。
「私の名はルーファス。お会いしたかった、・・・貴女に。」
そう名乗ると男は微笑を崩さないまま、リーメイルへと、一歩足を踏み出した。
- Re: はじまりの物語 ( No.141 )
- 日時: 2020/01/05 16:17
- 名前: 詩織 (ID: pUqzJmkp)
〜 目次の続き 〜
このサイトを始めたばかりの頃、使い方が分からなかったので、一枚目のページに目次やらご挨拶と本編の序章を一緒に入れてしまい、
文字数オーバーで目次が入らなくなりました(^^;)
こんなに長くなる予定ではなかったので・・。
第14章 ファリスロイヤ昔語り 以降は、こちらに目次を乗せておきますね。
見にくくてすみません。
< 目次 Ⅱ >
第13章 暗闇の中の声 〜探索開始〜>>083 〜異変〜>>084
〜少女のねがい〜>>085 〜地下神殿〜 >>086 >>087 >>088
〜『幻獣の子』〜 >>091-092 >>095-097
〜暗闇の中の声〜 >>098-099 >>101-103 >>105 >>107 >>110
第14章 ファリスロイヤ昔語り 〜あの日、君がいた場所〜 >>111 >>112
〜君に捧ぐ花の色は〜 >>113-116 >>117 >>121 >>124-126
〜暗雲〜 >>128
〜冥き闇の手を持つ者よ〜 >>129 >>133-134 >>137-140 >>142-146
〜魔女と呼ばれた聖女〜 >>149-157 >>160 >>163 >>164 >>169 >>170 >>171 >>172 >>173
ファリスロイヤ昔語り外伝 〜 もうひとつの昔ばなし 〜 >>174
登場人物紹介パート2 >>175 >>176
第15章 因果は巡る風車 〜記憶〜>>177
〜風の向く方向〜>>178-180 >>181-185
〜風の集う場所〜 >>188 >>190 >>191 >>195 >>196
〜欲しかった強さ〜 >>197->>198 >>199 >>200 >>201 >>204 >>205
第16章 継がれゆくもの
〜目覚め〜 >>206-211 >>214
最終章 おわりとはじまりの物語
〜光の歌〜 >>215-217
最終話
〜おわりとはじまりの物語〜 >>218
ショートストーリー 〜マシュマロココア〜 >>135-136
- ファリスロイヤ昔語り 〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.142 )
- 日時: 2016/05/23 16:30
- 名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)
「ルーファス・・あなたが?」
言いながら、リーメイルはゆっくりと後ろへと下がった。
警戒心があらわになる。
彼女の表情に、ルーファスは微笑んだまま口を開いた。
「そんなに警戒しなくとも、私はここで貴女に危害を加えることはできない。--- ここは、貴女の夢の中なのだから。」
あまりに落ち着きを払ったルーファスの様子に、リーメイルは不可解な表情を浮かべながらも気丈に言い返した。
「やはり『夢紡ぎの法』ね?書物で読んだことはあったけど、こんな負担の大きな魔法を使えるなんて・・。あなたは一体何者なの?なぜ私の夢に?」
「ああ、この魔法をご存知とは。さすがは聖女殿。」
「質問に答えて。なぜわざわざこんなことをしてまで私に接触を?」
『夢紡ぎの法』。
相手の夢を自由に操作することのできる魔法。
自分の見せたい世界を見せ、必要があれば自分もその世界へ入り込み、相手と意思疎通を図ることもできる。
悪意があれば、毎晩の夢の中で本人に気づかれぬまま、相手を洗脳することも可能だ。
ただしそれなりに準備や道具が必要だったし、かなりの魔力を要するので、乱用されることはほとんどない。・・・一般的には。
「お会いしたかった、と。」
「だからなぜ」
「貴女と話がしてみたかった。私のこれまでの研究と、その成果について。」
「研究?」
リーメイルは訝しげに眉をひそめる。
ルーファスがリーメイルに向かって歩きだした。
リーメイルは身体を強張らせたが、彼はそんな彼女の前を通り過ぎると部屋の中へと進んでいく。
その彼を目で追っていくと。
「これを見た、貴女の感想を聞きたい。」
広々とした部屋のちょうど真ん中辺りで足をとめると、ルーファスはリーメイルを振り返る。
「?」
何を言われているか分からなくて、リーメイルはそろそろと慎重にそちらへと近づいた。
最初にここへ来たときは、暗闇に支配され全貌が分からなかった空間は、今、ルーファスの魔法によって明るくはっきりと照らされていた。
床に、何か描かれている。
最初は絵かと思った。
(この色は・・黒?いえ、黒っぽい、赤・・。)
だが近づくにつれ、それが絵ではなく、古い魔法文字だと分かった。
大きすぎて、すぐには把握できないほどの。
そうして気づく。
広い石床に描かれていたそれは、リーメイルが今まで見たこともないような、巨大な魔方陣であった。
(一体何の?)
どこかで見たことがあるように思う。
けれど、思い出せない。少なくとも、普段自分たちがよく使う類のものではない。
(この文字・・この配列・・)
ぐるりと部屋を見回すと、文字と共に、古びた木の枝や、素晴らしく透明度の高い黄水晶、何かの動物の骨らしきものなど、魔法道具がそこここに配置されていた。
(虹色孔雀の羽に、空色真珠の粉末、それから・・・ロザン山脈のハクエリアスの花?!こんなものまで?!)
滅多に見ることの出来ない希少な品の数々に、リーメイルは驚きで目を瞠る。
どれもこれも一般人にはほとんど手に入らない高価で貴重な材料を使用した魔法道具だ。
一体どれほどの魔法だというのか。
じっとそれらを見ていたリーメイルの脳裏に、ふと、ある魔法の名前が浮かぶ。
(いえ、まさか・・そんなはず・・でも)
思いついてしまったあまりにも不吉なひらめきに、その考えを振り払うようにして、リーメイルは、ひとつの質問を微笑んだまま自分の反応を見つめているルーファスへと投げかけた。
「この文字の赤は・・」
どうか、違って欲しい。
声が、少し掠れた。
そんな彼女の問いに、表情を変えず淡々と、ルーファスは答えた。
「ヤギと羊の血、ですよ。この地で生まれ育った、ね。」
ああ!と呻いて、思わず目を閉じた。
やっぱり、と小さく声が漏れる。
顔を上げ、叫ぶ。
「こんな・・っ!こんなものっ!!」
ルーファスの表情は変わらない。
「何を考えているの!?これは・・・これは・・・っ!」
怒りで震える彼女の声に、しかし楽しそうにルーファスは笑う。
まるで、よく気づいてくれたとでも言うように。
「・・・・・『レフ・ラーレの魔方陣』。」
ルーファスを睨んで。
リーメイルの声が、部屋に響いた。
「こんなものを作るなんて・・、あなた、この地をどうするつもり?!」
- ファリスロイヤ昔語り 〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.143 )
- 日時: 2016/05/26 18:51
- 名前: 詩織 (ID: Q8MrRCmf)
「やはり貴女は素晴らしい。この魔法を知っている者など、世にいる魔法使いの中でもほんの一握りしかいないのです。どこでその知識を?」
「あなたに教える必要はないわ。そんなことより!こんな装置で、一体何をしようと言うの?!この魔法は」
「そう、この魔法はこの大地に眠る大いなる力に干渉する為のもの。」
--- 『レフ・ラーレの魔方陣』
古の魔法文字で、大地・力・支配の意。
自然の中には魔力が宿っている。
大地にも、場所によってはとても強い魔力が流れている場所や、特定の力を宿す特別なスポットがあった。
何か強い魔法を使いたいとき、知識のある魔法使いたちなら、その『場所』の力を借りることも多い。
だがこの古代魔法は文字通り、大地の魔力を直接操作する為のもの。支配、隷属。
力をかりるどころではない。
そこにある大きな魔力そのものに干渉し、自分の意思通りに働かせる。
「あなたこそ、こんなものをどこで?これは禁忌魔法のはずよ!」
女神の神殿には、代々神殿の長と巫女長にだけ伝えられる秘密があった。
今ではもう資料もわずかであり、使い手も少ない‘古代魔法‘。
その独特な魔法体系を使うことの出来る生まれつきの能力を授かった者だけが使える魔法。
もしくは、その力に関わりの深いと言われる幻獣種族の血を引くものも、この力を扱えると聞いた。
その貴重な資料や魔法書が保管されている部屋がある。
リーメイルは巫女長の任命式の日、神殿長であるラウルに聞かされて初めてその部屋の存在を知った。
その中には、今は禁忌とされる秘術もあった。
あまりに危険であり、過去に惨事を引き起こしたもの。
その魔法書の中に、この魔法は記されていた。
さらに。
「魔法書にあったのは、こんな巨大なものではなかったわ。」
「そうでしょう。」
詰問するリーメイルに、ルーファスは笑った。
とても、嬉しそうに。
「これは特別です。私が研究してきた、すべての知識を詰め込んだ試作品ですから。」
「試作品?どういうこと?」
「貴女にも、使えるのではないですか?」
質問を無視したルーファスの問いに、リーメイルは無言のまま彼を睨む。
「私には分かるのですよ。貴女は特別な魔力の持ち主だ。私のこのレフ・ラーレの魔方陣、貴女ならこれも自由に使うことが出来る。」
「なぜあなたにそんなことが分かるの!それにもし出来たとしても、私はこんなもの絶対に使わない!あなた、分かっているの?この魔法の恐ろしさを。この場所でこんな大きなものを発動させたら・・・この土地は滅びてしまうかもしれないわ!」
思わず叫んでから、自分から出た言葉の不吉さに、思わず身震いする。
そんな彼女を、ルーファスは不思議そうに眺める。
「滅びる、とは?」
「だからっ」
「この魔法で、大地そのものが完全に滅びることはありません。そもそも、貴女の言う『滅び』の定義とは?」
「定義?何を言ってるの?」
意味が分からない。
イライラしたように返事をぶつける。
「この土地には、エルス様の力が宿っている。エルス様に守られているの、ずっとずっと昔からね!私たちはその愛と恩恵に感謝して、エルス様と共にこの地を守りこの地で穏やかに生きてきた。この大地の力はエルス様のものよ!人間が不自然に手を加えてはいけないの。もしこんなもので自然の魔力に干渉したら・・・大地も森も畑も、バランスを崩してめちゃくちゃになってしまうわ。そうしたらここに暮らす人々はどうなるの?!」
例えば上流から下流へと、勢いよく流れる川の流れがあったとして。
この魔法はその流れの途中に壁を作り、無理やり方向を捻じ曲げるようなもの。
大きなエネルギーが得られる代わりに、一歩間違えれば反動で魔力が暴走しかねない、リスクも大きな魔法なのだ。
だからこそ、それを制御できる力とバランスをとる繊細さが術者に求められる、高度な魔法。
そして過去、それが出来ずに惨事に繋がった為に、歴史の中で禁忌とされた魔法。
「なのに・・『試作品』?あなた、自分が何を言っているか分かっているの?」
「もちろんですよ、聖女殿。しかし、なぜそう感情を荒げるのか、私にはよく分かりませんね。」
「分からない、ですって?」
「ええ。分かりません。多くの土地を旅しましたが、この大地には稀にみるほど強く、大きな魔力が宿っている。貴女も魔法使いなら、この素晴らしい力にこの手で触れてみたいと思いませんか?」
ルーファスは笑う。
その楽しげな顔は、まるで仲間と遊びの相談をする子供のようにあどけない。
「滅び、などと大げさに言うが、魔法が成功し今と何も変わらない可能性だってある。それにもし、たとえ反動で土地が枯れ、天候が狂い、森が死んでも、そんなものは大したことではない。大地は人間よりずっと強いのです。たかだか数年、数十年の時を経れば、また元通り豊かな大地へと戻ってゆくでしょう。そんなことより、たったそれだけの犠牲と引き換えに、大いなる魔力を垣間見ることができるとは---- どれほど素晴らしく魅力的なことか、貴女には分からないのですか。」
まるでここは自分だけの秘密基地で。
大人には内緒で思う存分遊ぶんだと。
そんなことを語る幼子の顔で、口調で、微笑みかけるルーファス。
理解、できない。
リーメイルは戦慄を覚える。
この人物と自分は、分かり合うことは、決してない。
「そこに、住む人々は、どうなるの。」
震えそうになる声を、相手に悟らせないように、低く力を込めて問う。
「さあ。私には分かりませんね。特に関係もないですし。」
興味がないというような顔でさらりと答える。
そんなことより、と。
「私は貴女と、話がしたかった。同じレベルの魔力を持つ貴女と、一度語ってみたかった。」
「何の為に?」
「魔法とは、何なのでしょうね。」
「は?」
突然の質問に面食らう。
そんなリーメイルの様子に構わず、くすくすと笑いながらルーファスは続けた。
「なんなのでしょうか、魔法とは。学び続け、試し続け・・、探求しても探求しても、その世界は広く、深く。光も闇も内包し、その深淵は、まだ誰も見たことがない。私は知りたいのです。魔力の根源、この世界の、理を。・・・この魔法は、そこに近づく一つの道にすぎない。だから、『試作品』なのですよ。できれば」
そこでじっと、リーメイルを見つめる。
その深い海のような瞳。
「貴女にも賛同し、ご助力頂きたかったのですが。そのご様子ですと私の気持ちはご理解いただけなかったようですね。」
「当たり前だわ!今すぐ中止して。」
「それは無理ですね。もうすでに少しずつ魔力はここに集まってきています。もし貴女が無理やり壊そうとすれば、反動がでるかもしれませんよ。」
そんなことはリーメイルにも分かっている。
この魔方陣そのものが、ルーファスの強い魔力で作られているのが分かる。
室内に集められた強力な魔法道具や魔法文字のせいで、不自然で、不安定な魔力がこの部屋の空気を歪めていた。
(あの日感じた淀みは、この魔法のせいだったんだわ。あの時には、もう・・。)
葬儀の日、城で感じた不自然さを思い出し、悔しさに唇を噛む。
「では時間がかかってもいいから、あなたが解除しなさい!城でこんなことをするなんて・・、リアンを何と言って騙したの?私が知ったからには、お城の皆も、神殿も黙ってはいないわ!魔法を解除したら即刻この土地からでていって!」
「リアン様はご承知ですよ。」
当たり前のことを言うように。
さらりと言われた言葉。
「・・え・・?」
リーメイルの動きが止まる。
言い放った言葉への予想だにしない返答に、一瞬、頭の中が真っ白になった。
何を言われたのか分からない。
「リアンが・・え・・、知ってる?この魔法・・を?」
理解が追いつかず呆然とする彼女に、ルーファスは優しく囁いた。
「あの方と私は、お互いの、良き理解者ですから。」
- ファリスロイヤ昔語り〜冥き闇の手を持つ者よ〜 ( No.144 )
- 日時: 2016/06/14 13:17
- 名前: 詩織 (ID: y/HjcuQx)
目を見開いたまま、リーメイルは茫然とルーファスを見つめていた。
相変わらず穏やかな微笑を崩さない彼と、その彼から発せられた言葉が頭の中でうまくかみ合わない。
理解が追い付かなかった。
(リアンが・・知ってる?このことを?)
そんな彼女の様子を見て、ルーファスはゆっくりと語り掛ける。
「あの方は、私の魔法に対する想いを理解している。そして、私もあの方のこの地への想いを理解している。」
「・・・この地への、想い・・?」
「そう。あの方はこの地に対して強い意志をお持ちだ。上を目指す野心、統治者に必要な冷酷さ、計画を実行するだけの資金と権限も。そして私には彼に助力するだけの魔力と知識があった。私たちの利害は一致し、お互いの理想の実現の為に手をとることを約束した。」
「嘘よ!リアンはあなたのいうような人じゃないわ!野心?冷酷?何を言ってるのか分からない。リアンは優しくて思いやりがあって」
「貴女のほうこそ、何も分かっていないのではないですか?あの方の心の内を。」
リーメイルの声を遮り、きっぱりと告げるルーファスに、リーメイルは言葉を失う。
「そもそも貴女方は、なぜこの素晴らしい魔力を宿した土地に在りながら、この力を使おうとしない。女神など、存在しもしない幻想に囚われて、その幻を崇め力を捧げるなど全くもって無意味なことを。」
リーメイルの顔色が変わる。
だが構わず、ルーファスは続けた。
「この地の魔力は女神などというまがいものの所有物ではなく、この大地そのものの力。誰のものでもなく、善でも悪でもない。力そのものに意思など無いのだから。だからこそ我らが自らの手で使いこなせば、この途方もない魔力は我らの意のまま。どれほどのことが成せると思っておいでか?」
存在しない、幻想。幻。・・・まがいものの『女神』。
女神への、明らかなる冒涜だった。
「いい加減にしなさい!!エルス様を侮辱するのは許さないわ。私たちの愛する女神を貶める人間を、リアンやこの地の民だって許すはずない!早くここからでていって!」
「貴女こそ、貴女の価値観に囚われているのではないですか?貴女が女神とやらを愛するのは勝手だ。だがそれをリアン様や他の人間たちに押し付けるのはやめるべきだ。」
「押し付けてなんてっ」
言いかけて、リーメイルは思わず言葉を切った。
---- ルーファスが、笑っていた。
今までとは何かが違う。
酷く冷たい笑みだ。
どれだけ彼女が足掻いても、もう何も揺らぐことはないのだと、そんな余裕が瞳の奥に宿っているような。遥か上から見下ろす視線。
冷酷、と。さっきリアンのことをそう評したルーファスだったが、リーメイルには今のルーファスにこそ、誰の痛みも感じることのない、氷のような無関心を感じていた。
「私は彼らの暮らしをより良くする力を持つ『賢者』ですよ?リアン様も、城の皆も、民も。私を信頼しています・・・多分貴女よりも、ね。」
その言葉に、ふと脳裏にあの日の光景が浮かんだ。
——— リアン様とルーファス様がいて下さって良かった。
——— あの2人がいればこの城も安泰だ。
「・・ねぇ、まさか・・・お城の人たちに『何か』した?」
暗い予感がして、冷たい汗が背中を伝う。
水面下で進められていた計画。
一体、どこまで?
ルーファスの表情が変わった。
その瞬間、リーメイルは悟った。
「っ!!!」
そうだ。そうなのだ。
あの日ルーファスの名を口にする誰もが、安心しきったような表情を浮かべ、その名は何か尊いもののように呼ばれていた。
当たり前のように、誰もが口にするその名前。
尊敬と思慕が含まれる声音。
そういうことだったのか!!
(あの時、もうすでに・・!!)
ギリ、と唇をかんで目の前の魔法使いの男を睨み付け、そして、勢いよく踵を返すと来た方向へと走り出す。
「どこへ行かれるのですか。」
「もうこれ以上、ここにいるのは無駄だわ。あなたと話していても意味はない!」
この魔法使いは分かっているのだ。
自分が彼女よりも完全に優位に立っていることを。
だからこそ、今こんな話を彼女に披露している。
リーメイルがどう動こうと、もはや自分たちの計画に支障はないと思っている。
(甘くみないで、私たちを。)
振り向きもせず、ルーファスの問いに吐き捨てるように答えた後。一度だけ、その金の髪を翻して彼を見据えた。
赤い瞳が、怒りに燃えている。
「私は、絶対に守って見せる。この地も、みんなも、・・・リアンだってね。あなたには渡さないわ。」
低く放つと、二度と振り返らずに、リーメイルはその場から立ち去った。
その姿を、動じることなく、ルーファスは見送っていた。
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