コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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Re: はじまりの物語→→再開しました! ( No.210 )
日時: 2017/07/14 11:38
名前: 詩織 (ID: JPqqqGLU)

それは一瞬の事だった。
荒れ狂う真っ赤な炎が眼前に迫り、熱を伴う風圧に身体が押さえつけられる。
息が出来なくて、ラパスは咄嗟に両腕で顔面をかばった。
なすすべなく渦に飲まれる。
(くっそ!こりゃ駄目か?)
覚悟を決める。
が、突然ふっと身体が軽くなった。
「?」
圧に負けるまいと力んでいた足がたたらを踏む。
呼吸が楽になる。
ラパスを取り巻いていた炎の魔法は、音もなくかき消されていた。
顔を上げると、魔法使いの男は目を見開いていた。が、男の視線がある一点を捉えると、その顔は一気に苦渋に満ちたものになる。
男が大きく舌打ちした。
「来やがったな」

ラパスは男の視線を追って振り返る。多少身体に痛みはあるが、あの炎をまともに食らったらこんなものでは済まなかっただろう。こんな事が出来るのは、より上位の魔法使いだけ……。
「任せきりですまなかった。怪我はないか」
切れ長の瞳に凛々しい顔立ち。儀式用のフードを被っていても、その銀色の髪と瞳の輝きは見るものを圧倒する。シルファより幾分大人びた容姿の青年は、片手の手のひらを男に向けて構えたままラパスの傍らに立った。ライドネル家長男、リュイ・ライドネル。
「儀式はいいのか?シルファの……兄弟、かイトコさん?」
「兄だ。いいとは言えない、ギリギリだ。父上が、俺の分の負荷を全て受けて下さってなんとか保っている状態だ。こちらで魔法の気配がしたからな。このままなだれ込まれたら儀式自体が崩され魔力が暴走する」
「悪いな力不足で」
視線はクロドの一団に向けたまま、ラパスは軽口めいた様子で言った。リュイは横に首を振る。
「たった1人でここまで抑えてくれたことが奇跡的なんだ。一族を代表して礼を言う」
殊勝なリュイの言葉にラパスの口元が上がる。
「なぁんか、シルファに聞いてたより随分物分かりが良さそうじゃん」
「それはどういう……」
ぴくりと片眉を上げたリュイをそのままに、ラパスは剣を構えながら言った。
「それは全部終わってからな。礼もだ、ライドネル兄」
「リュイだ。リュイ・ライドネル」
「了解。じゃあリュイ、ここはひとつ、共闘と行こうぜ」
ラパスは不敵な笑みを浮かべて、剣を構えた。

**

「シルファっ!!」
やっとのことで儀式の間が見えてくる。ラヴィンは息を切らせて部屋に飛び込んだ。
移動の魔法陣で城に入った後、予想外に幾人ものクロドの部下に遭遇した。ラパスの姿が見えないのは、きっと表側の入口を守っているのだろうと判断する。クロドたちが把握している入場ルートは一カ所だけのはずだった。計画を外部からの侵入者に邪魔されない為、事前調査の段階で他の侵入経路には結界を張っているとユサファから聞いている。逆側のこの通路には本来入れないはずなのに……。
(きっとクロドが何かしたんだ)
出会ったクロドの部下たちを叩きのめしながら、ラヴィンはとにかく走り続けた。

儀式の間に入る。そこにも、すでに男たちはいた。それぞれ大声で喚きながら、見えない壁を手に持った武器で荒々しく攻撃している。結界が張られているのだ。
「っ! シルファっ!」
部屋の奥。魔法陣の一角に、シルファの姿が見えた。
苦し気に口を引き結び、瞳は閉じられている。フードで顔は良く見えないが、流れる汗は尋常ではない。
「ちょっと!やめなさいよ!」
叫ぶラヴィンに男たちが振り返った。
「お前……赤毛の……ジェイド・ドールの身内だな?!」
「ああ!クロドさんが言ってた奴か!」
ざわつく彼らに視線を走らせ、ラヴィンは畳みかけるように怒鳴った。
「そうだよ!私はジェイド・ドールの姪ラヴィン・ドール!あんたたちの相手は私!今すぐここから出ていくか、私の相手をするか、さっさと選んで!」

Re: はじまりの物語→→再開しました! ( No.211 )
日時: 2017/07/21 14:24
名前: 詩織 (ID: vMb14CZS)

「おっりゃぁぁーっ!」
激しい気合の声と共に、ラヴィンの身体が宙に舞う。身軽さを生かし壁を蹴って飛び上がると、自分の倍くらいある男の顔に飛び蹴りを食らわせる。儀式の間前の廊下。ラヴィンのスピードに翻弄されたクロドの部下たちは、ひとり、またひとりと床にのびていく。
「はぁっはぁっ……、あ、待ちなさいこら!」
汗を拭って、ラヴィンは地面を蹴った。目の前の敵に集中している間にも、儀式の邪魔をしようとする者があとからあとから部屋に入り込もうとするからだ。いくら武術の心得があるといっても、きりなく侵入してくる男たちを相手に、さすがのラヴィンも苦しそうな呼吸で肩を上下させている。
(いっぺんにこないだけ、ありがたいけど……何とかしないと、このままじゃ
もたない)
細工をした入口からの侵入は人数が限られているようで、一度に大勢入ることはできないようだ。だが結局全体数が違い過ぎて、持久戦になれば明らかにこちらが不利である。
(とにかく、やれるとこまでやるしかない)
儀式が始まって随分経つ。なんとか終了まで、魔法使いたちを守りたい。
脇をすり抜ける男の1人を捕まえて関節を捻り、蹴り飛ばし、素早く振り返った。

「っ?! ひゃっ!」
乱暴に掴まれた腕を引っ張り上げられる。
「ったく、なんてガキだ」
「ちょっと!ガキじゃな……痛っ!」
いつの間にこんな近くに来ていたのか。筋肉質で長身な男は遠慮などせずラヴィンの腕を捻り上げた。
「いた、たたた! 痛いってばおじさん!」
「おじさんだと?! お兄さんだろこのガキ!」
「どう見てもおじさんだよおじさん! そっちこそ女の子に向かってガキとはなによ!」
「うるせー、とにかくお前は邪魔だ!」
男がラヴィンを床に抑え込もうとのしかかってくる。
その間にも、1人、また1人とすり抜けていくクロドの部下たちの足元を視界の端で捉える。
「待ちなさいっ…あ!」
汗ばんだ巨体の男は、そのままラヴィンを組み伏せた。頬に走る、冷たい床とざらつく砂埃の感触。
「ちょ、や、やだぁっ!!」
思わず目を固く閉じて、ラヴィンは叫んだ。


ゴン。

鈍い音がした。
直後、カツンカツンと何か固いものが床に転がる音。

おそるおそる目を開くと、ラヴィンの腕をとったまま、男は目を見開いていた。
「え、何……」

ラヴィンが戸惑う目の前で、男は物も言わず、そのままずるずると床に崩れ落ちていった。
その隙間から、床に転がる小さな物体が見える。
「石?」
「ラヴィン! 大丈夫ですか?!」
聞きなれた声が辺りに響いて、ラヴィンは弾かれたように顔を上げた。
「アレン?! え、叔父さんも!!」
廊下の向こう側から駆けてくる3人の姿を見つけて、ラヴィンの頬が一息に紅潮していく。
「わぁ! ギズもいるの?! 皆、来てくれたんだ」
ラヴィンの元に駆け付けたアレンが、倒れた男の腕からラヴィンを助け出した。
「怪我は? 腕は動きますか? あああもう! 女の子がこんなに傷だらけになって」
ラヴィンに怪我がないか一通り確かめてから、ほっと息を吐き出すと、アレンは彼らしい柔らかな笑みを浮かべてラヴィンの顔を覗き込んだ。
「1人で、よく頑張りましたね」
その瞳がとても優しかったから、ラヴィンは安心感と同時に、胸と目元がじんわりと暖かくなるのを感じた。
「ラヴィン」
横を向くと、ギズラードが、彼もそのダークブラウンの双眸にありったけの安堵と労いを込めて、ラヴィンを見下ろしていた。
彼の腕が、優しくラヴィンの肩を抱く。
「お疲れさん」
「ギズ……」
思わず涙腺が緩みそうになったラヴィン……の耳に、威勢の良すぎる怒鳴り声が響いた。
「こぉらてめーら! よっくもうちの姪に手ぇ出してくれたなぁ!!」
怒声と同時に鈍い音がして、見るとちょうど、ジェイドのごつい拳が敵の顔面に決まったところだった。辺りには同じく顔面や腹を抑えてうずくまる男たちが数人。
「あ、う、くっそぉ」
突然の援軍にたじたじになった敵方は、ジェイドの周りから逃げるように駆け出した。
元来た道と、それから儀式の間の前、ラヴィンたちのいる方向へ。
「あーあー、昔のまんまだなぁありゃ。ケンカっ早いのは仲間内でナンバーワン」
「なんだか楽しそうですねぇ。イキイキしちゃってまぁ」
呑気にそんな事を言い合うギズとアレンの正面にも、必死の形相で男たちが駆けてくる。
「ちょ、アレン? ギズ!」
ラヴィンを背後に庇ったまま、2人は動こうとしない。
迫る手が落ち着き払った2人に届く寸前、男たちの足がつんのめるようにもつれた。
「こンのやろっ」
あっという間に追いついたジェイドが、後ろから同時に2人の男の服を掴み、ついでにもう1人の足を引っかけて転ばせたのだ。
「おりゃっ!」
掛け声とともに勢いよく身体を捻れば、引っ張られた男たちは遠心力も伴ってあらぬ方向へと吹っ飛ばされていった。そのままパタリと動かなくなる。完全にのびていた。
「ったく。こら!ギズ、アレン!」
片手で汗を拭いながら、ジェイドが睨んだ。
「なにボーっとしてんだ、逃げるか戦うかどっちかにしろよ」
「いやぁ、社長があんまり楽しそうなもんで。ここはお譲りしようかなと」
「そうそう、ダンナ、体力おばけだしー。平気っしょ」
しれっと答えるアレンに、隣ではうんうん頷くギズラード。
ジェイドの眉毛が呆れたようにがくっと下がった。
「お前らなー。人を化けモンみたいにいうなよ。こちとらもうおっさんなの、疲れんの!ちったぁ手伝えよ」
嘆息する叔父の姿にちょっぴり同情を覚えるラヴィンだったが、やっぱりその動きは圧倒的で。逃げ遅れた残党もあっという間にひっ捕らえて、ロープでぐるぐる巻きにしてしまった。
「よっしゃ。ここはもう大丈夫だな」
「あとはクロドですね」
頷きながら、大人3人は視線を交わす。
「ここ頼んでいいか」
「もちろんです」
「了解。ダンナほどは暴れらんないけどね。なんかあったら呼びに行くよ」
ジェイドは深く頷いて2人の肩を叩くと、ラヴィンを促して歩き出した。
「クロドに話をつけに行く」
「え、え? 叔父さんが?」
慌てて後を追いかけながら、ラヴィンは驚いた顔でジェイドを見上げる。
不思議そうに問う姪に、ちらりと振り返ったジェイドがニヤリと笑った。
「ま、見てな。商人には商人のやり方があんのさ」

第16章 継がれゆくもの  ( No.212 )
日時: 2018/07/16 21:05
名前: しおり (ID: NOuHoaA7)

おひさしぶりです!
しおりです。

忙しくて少しお休みするつもりが、バタバタする中であっという間の約1年……
ちゅうとはんばなところで途切れてしまい、読んでくださる方々には申し訳なく思っていました。

ここからまた、完結を目指して頑張りたいと思います。
もしよろしければ、あと少しだけ、このお話にお付き合いください。


時間が空いてしまったの、再録ではありますが、人物紹介とこれまでのストーリーの要約を載せておきますね。


↓↓↓

<<<  登場人物紹介パート2  >>>

※コメント ラヴィン、ラパス、ジェイド、ジェン=そのまんま

シ=シルファ、ア=アレン、マ=マリー、ギ=ギズラード



<ラヴィン・ドール>
・小柄で赤毛の見た目可愛らしい少女。
(ラヴィン「・・見た目?」シ「ラヴィン、お、落ち着いて!ラヴィンは中身も可愛いよ!」)

・好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。とにかく動きが素早く武闘には長けている。
(シ「初めて会った時はびっくりした。かっこよかったよ。」)

・旅は大好き。完全にアウトドア派。
(ジェイド「さっすが俺の姪!」ア「怖いもの知らずなとこは嫌になるくらいそっっっくりですよ。」シ(いつも苦労してるんだろうなぁアレンさん・・))
・明るく素直、割と単純。
・かわいいもの好き
(マ「ちょ!ラヴィン抱き着きすぎっ・・うう」ラヴィン「だってぇふわふわであったかくってマリーかーわーいーいー」ジェン「おーい、息継ぎはさせてやれよー。」)


<シルファ・ライドネル>
・銀色の髪の少年。背が高い。(ラヴィン「すごーく綺麗な髪と瞳。神秘的っていうのかな。目が引き寄せられちゃう。」シ「/////(照)」)
・魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。

・魔法の修行中。悩めるお年頃。
(ラパス「ま、そういう年頃だよなー」マ「悩んでるのがシルファって感じもするわね。」シ「ええっ?!ちょっとマリーそれは・・」ラヴィン「眉毛下がったシルファもかわいいよね」マ「ね。」シ「・・・(無言でジェンを見る)」ジェン「・・・(笑いを堪えてる)」)

・父や兄たちには内心コンプレックス  (シ「・・・(お悩み中)」)

・魔法の研究や魔法書の読解が趣味
・図書館大好きっ子で確実にインドア派。
・・だったけれど、最近はラヴィンに引きずられめっきりアウトドア。




〜 ウォルズ商会の仲間たち 〜

<ジェイド・ドール>
・ラヴィンの叔父さん。茶髪で色黒。
・体つきががっしりしていて一見海の男っぽい(ラヴィン談)

・王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。今では地元の名士。(ラヴィン「尊敬するっ!」ラパス「カッケーっ!」2人ともきらきらのお目目で。)
・姪っ子ラブ。(ギ「本気で怒るんだもんなー怖ぇー」)

・大雑把で荒っぽく見えるが、心根は優しい。(ア「まぁね。それは認めます。」)
・酒好き、うまいもの好き。(シルファ「姉上と気が合うだろうなぁ。」)

・剣術が得意、体術もできる武闘派。(ア「ストレス解消に喜々として振るってますね。人の言う事もちょっとは聞いてください。」)



<アレン>
・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。
・ウォルズ商会幹部
・冷静で頭が良い
・性格、生い立ちはまるっきり正反対だが、ジェイドのよき親友。

・尊敬も呆れも入り混じった態度。(ラパス「そうそう、いつもそう。ホントは好きなくせにー」ラヴィン「ね!アレン、叔父さん大好きだもんねっ。」ア「・・・(何て返すか本気で考え中)」)


<ラパス>
・金髪、碧眼。体育会系の青年。(ラヴィン「金髪がねーとってもきれいなの。目はね、夏の海の濃いとこみたいなね、とにかく夏が似合うイメージなんだ。」)
・以前は王宮騎士団に所属していた。幼い頃から騎士になるための教育を受けてきたが、ジェイドに憧れウォルズ商会での護衛の仕事に転身。
・性格はサッパリきっぱりで正直。一見爽やかだが、思ったことはズバっと言う。


<ジェン>
・漆黒の瞳の青年。同じく漆黒の髪を後ろでひとつに括っている。
・お兄さんというか「お母さん」または「保護者」。
(皆一斉に頷く。後ろで1人肩を落とす本人)
・もともとは他国の研究員。
・研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。
(ラヴィン「目の前のことに没頭するタイプよね。あと基本おおらかで落ち着いてるなー。」シ「うんうん。冷静だし大人って感じでかっこいいよね。ねっマリー。」マ「っ、そ、そうねっ。」ラヴィン「あれ、どしたのマリー?顔赤いよ?風邪?」マ「なんでもないっ!」(睨まれてシルファ目を逸らす))


<マリー>
・見た目は10〜12歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。
(ラヴィン「ふわんふわんで柔らかい猫ッ毛でね!めちゃくちゃ可愛いの!」)

・ジェンの妹ということになっているがそれは建前で、真実はラト族の村出身。身寄りのない彼女をジェンが引き取った。

・村では古代幻獣の力を持つ『幻獣の子』として恐れられており、未だに人と関わることが苦手。けれど最近は少しずつ、外の世界にも興味を持つようになりつつある。
(ア「いい傾向ですね。店でお客さんに話しかけられても、隠れることが減りましたし。」(裏のない笑顔)
ジェイド「そうだなぁー。俺たちと話すことも増えたしな。」(嬉しそうに顎をさする。) 
2人とも娘を見る父のような、もしくは孫を見る爺のような雰囲気。
ラパス「笑顔も可愛いしなぁ。悪い虫がつかないといーっすね。」
ジェイド「ああ?そんな野郎速攻でぶっとばしてやんよ。(ドス声)」
ア「社長が出張らなくても私がすぐに手を回しますからご心配なく(黒い笑顔)」
ラパス「あー、まっっったく心配なさそうっすねー。」)

・ジェンには特別な好意を寄せている。
・・でも誰にもナイショ(シルファにだけはバレている)
(シ「マリーがんば!」)


<ギズラード・ミシェル(ギズ)>
・ダークブラウンのくしゃくしゃクセっ毛に、薄茶色の瞳の小柄な男。そばかすの浮いた憎めない顔。
・ジェイドの昔馴染みで、仕事でも手を組む間柄。
・メインの仕事は交渉人だが、情報通で情報屋としての顔も持つ。今回は武器商人クロドとグレン公爵、ライドネル家の繋がりに気づいてジェイドに打ち明けた。
・小さな頃から知っているラヴィンがお気に入り。
・へらへら飄々としていて実は何を考えているかよく分からない人物
(ギ「ひでー!そんなことないよなダンナ?」ジェイド「あ?まんまだろボケ。」)


続く

Re: はじまりの物語  再開しました!7/16 ( No.213 )
日時: 2018/07/16 21:06
名前: しおり (ID: NOuHoaA7)

<<<  登場人物紹介パート2  >>> ②

〜 ライドネル家の人々 〜 ・・シルファの家族

<ユサファ>(シルファの父)
・ライドネル家現当主であり、シルファにとっては厳格な父親。
・歴代の中でも指折りの実力者で、一族内では絶対の存在。
・王宮付き魔法使いたちの長として王宮に努める。
(シ「とにかく凄い。絶対的な存在。」イルナリア「私たちが小さなころはもう少し柔らかく笑うことも多かった気がするわ。まだ、お母様がいらしたころ・・」)


<ロン>(ユサファの弟、シルファの叔父)
・当主の補佐を務める。
・生真面目で几帳面。
・ユサファを尊敬している。
(イル「真面目な方よねぇ、たまには冗談とか仰ってもいいのに。」シ「うーん、それはそれで・・怖い・・かも・・?」イル「まぁ失礼ね。あとで叔父様にお伝えしちゃおーっと。」シ「あ、姉上ぇぇ」)


<リュイ>(長男)24歳 (シルファは4男で末っ子。以下年齢順。)
・いつもシルファをからかって遊ぶ兄3人組の1番上。兄弟で1番背が高い。
・皮肉屋で、シルファの前では意地悪な笑顔を浮かべることが多いが、仕事に関しては真面目で有能。頭が良くユサファの片腕として王宮で働いている。

(イル「兄上はほんと、シルファで遊ぶの大好きよね〜。」シ「姉上・・、遊ぶって言い方止めてください・・」イル「あ、リュイ兄様だけじゃなくってルージ兄様とレイもだったわね。」シ「・・・」イル「気持ちは分かるけど(にっこり)」シ「・・・え?!」)


<ルージ>(次男)23歳
ユサファ、リュイと共に王宮で働く。


<イルナリア>(長女)19歳
・おいしいものが大好きなシルファの姉。
・ストレートの長い髪。色は母に似て濃い鉄色
・身体が弱い為、魔法使いとしての修行はしていない。シルファの良き相談相手であり、母代わりでもある。
・見た目は繊細で美しい女性だが、芯は強い。
・趣味はお取り寄せ。

(シ「はー、姉上のお取り寄せは年々パワーアップしてきますね。」イル「だって大好きなんですもの!まだまだ食べてみたいお菓子はたくさんあるのよ。ええとね・・」(延々と続くお取り寄せ商品名) シ「わわ、分かりましたっ!よーっく分かりました!」イル「ちゃんと聞いてよ、それからね、隣国のフルーツの砂糖漬けに、あとはシロップで煮詰めた甘い木の実の云々・・」シ「・・・(黙って聞いてあげる優しい弟シルファ少年)」)


<レイ>(3男)18歳
・お調子者で賑やかな3番目の兄。
・近々グレン公爵家へと務めることが決まっている。
(シ「レイ兄上、もうすぐグレン公爵家での仕事が始まりますね。」
イル「・・(浮かない顔)」シ「大丈夫ですよ。レイ兄上なら上手くやりますって。」イル「シルファ・・」シ「あの人世渡り上手ですし。」イル「・・伝えておくわね。」)



〜 なにやら怪しい気配のひとびと 〜

・隣国に拠点を置く武器商人クロドとその部下たち
・代替わりしたばかりの若きグレン公爵



〜 これまでのお話をかんたんに 〜


第Ⅰ部 王都ギリア編
ベルリルの町から叔父に会いに王都へとやって来た赤毛の少女ラヴィン・ドール。無事叔父や仲間たちと喜びの再会を果たし、久しぶりのギリアでの生活に胸を躍らせる。叔父たちの話から興味を持った古い遺跡ファリスロイヤ城について王都図書館へと調べに出掛けた彼女は、帰り道、ガラの悪い男たちに絡まれたところを魔法使いの少年シルファに助けられた。

次第に打ち解けていくラヴィンとシルファ、それにウォルズ商会の面々。
己の立場や将来の夢に迷うシルファは、彼らとの関わりのなかで少しずつ自分と向き合っていく。

そんな中、ジェンの仕事中のスケッチを発端に、ルル湖付近にある村エイベリーの石碑に魔法文字が使われていることをシルファが発見。
大いに興味を惹かれたラヴィン、シルファ、ジェン、マリーの4人は、ジェンの仕事ついでにエイベリー村へ調査の旅に出かけることにした。

けれど、実は叔父のジェイド・ドールには僅かな懸念材料があった。
昔馴染みのギズラードに相談しつつ、なりゆきを見守るジェイド。

叔父の心配をよそに、ラヴィンたちはうきうきと、謎の石碑が待つエイベリー村を目指し、ギリアを発っていった。



第Ⅱ部 過去編 〜ファリスリヤ昔語り〜

エイベリー村で石碑を調査するうちに、村の老人ノエルから女神エルスと魔女についての伝承を聞くことができたラヴィンとシルファは、魔女に呪われるとのいわくつきの場所『魔女の住む山』を探索中、坑道らしき謎の入り口を発見。

翌日ジェンとマリーを伴って、4人は坑道を探索。
途中仕掛けられた魔法によってバラバラにされるも、なんとか合流することができた。

そこで出会った不思議な青年トーヤからこの地にまつわる物語を聞かされ、それと共に彼に力を貸してほしいと懇願される。

以下 『ファリスロイヤ昔語り』参照


最終部 おわりとはじまりの物語

旅から帰ったラヴィンたち一行と入れ違いに、ジェイドとラパスは離れた街の一角でギズから新たな情報を聞き出していた。ライドネル家とクロド及びグレン公爵の動きを追いながら、ジェイドはシルファのことが気がかりだった。
そして彼らが王都に帰った夜、事件は起きた。
1人で外出したマリーが帰ってこないのだ。マリーの行方を追って、ジェイドとラヴィンはライドネル家を訪ねる。

折しも当主ユサファやシルファをはじめライドネル家の魔法使いたちは任務の為ファリスロイヤへ向かった後だったが、父とクロドの関係を憂う長女イルナリアの計らいで、ラヴィンもファリスロイヤへと向かうことに。ジェイドはまだやることがあると言い、王都に残った。

ユサファとクロドの計略により、儀式の為に協力させられるマリー。シルファは反対するも、父からの説得により、彼女の安全を約束した上で儀式に参加する。
しかし、負荷のかかり過ぎたマリーの苦しむ姿を見て、シルファは父や兄たちに抗ってマリーを奪還。マリーを連れ逃げる彼を手助けしたのは、王都にいるはずの姉・イルナリアだった。
使命への執着により変わってしまった父に、想いを打ち明けるイルナリア。そしてユサファは、子供たちの言葉を受け入れる。

マリーをジェンに預け、シルファはトーヤと共に家族の元に戻ると、今後についての計画を持ち掛ける。結果、この地に封じられた魔力の暴走を防ぐ為、聖女イルナリアを目覚めさせ、魔力を世界へと還す(正しい方法で解放する)ことになった。
シルファの助けとなる為に城へ向かったラヴィン、そこへ合流したジェイド、アレン、ギズラード。クロドの足止めの為に共闘するラパスとシルファの兄・リュイ。
それぞれが奮闘する中、ジェイドはクロドとの交渉に臨む。


そして……

第16章 継がれゆくもの 〜目覚め〜 ( No.214 )
日時: 2018/07/16 21:21
名前: しおり (ID: NOuHoaA7)

再開 H30.7.16

本文続きです↓


「……なんだと?……どういうことだ!」
「ファリスロイヤから手を引け、と言ったんだ。この先このままここにいても、お前に益はない」
呆然と目を見開くクロドに対峙して、ジェイドは1枚の書状を掲げた。
「グレン公爵はこの件から手を引くそうだ。完全にな」
「ばかな! なぜ貴様がそんなことを」
荒々しく床を蹴りジェイドに歩み寄ると、彼の手から書状を奪い取るようにして、クロドは内容に視線を走らせる。
読み進めるうちに、眉間のシワは深くなり、力のこもりすぎた両手はぶるぶると震えている。ぎり、と奥歯を噛みしめる音まで聞こえてきそうだ。
「貴様の差し金か」
クロドが血走った眼でジェイドを睨んだ。
「ショイル公爵と言えば貴族議会の中でも古参の実力者だろう! なぜそんな大物の名が出てくる? グレン公爵に圧力をかけさせたのか?」
「まさか。俺は一介の商人だ。貴族同士の駆け引きに口を挟めるはずはない。ただお客への納品の際、巷の様子を聞かれて少々私見を述べただけだ」
「やはり貴様の仕業ではないか!」
現在、王都の貿易商ウォルズ商会と言えば、その信頼と実績に置いて5本の指に入る人気店だ。独自ルートで希少な品も手に入れられる確率が高いということもあり、貴族から頼られることもある。
あまり表では知られていないが、御年60のショイル公爵もウォルズ商会の品と息子のような歳の社長ジェイド・ドールを気に入っていて、商品だけではなく、ジェイドの持つ人脈や情報にも信を置いていた。
クロドはもちろんそのことを知っている。
「何を吹き込んだ?」
「だから何も。俺がでしゃばるまでもなく、グレン公爵が裏で動いているという情報はショイル公爵の耳に入ってたよ。あのじいさ……、んん、老巧な公爵を侮るな。俺は自分の知っている情報は伝えたが、結局、動いたのは公爵の意思だ」
貴族議会の重鎮であるショイル公爵は、若き野心家グレン公爵が不穏な動きをしていることを知り、独自に調査していた。そしてジェイドからの情報提供と助言を受け、グレン公爵に密書を送ったのだろう。この件からは手を引くようにと。
「言っとくけど本物だぜ」
「分かっている! 今まで俺がどれだけ、グレン公と密書のやり取りをしてきたと思ってるんだ」
クロドが吐き捨てる。
2人を取り囲むように、ラヴィンやラパス、リュイ、そしてクロドの部下たちが固唾を飲んで見守っていた。
「これは取り引きだ、クロド。公爵同士でどんな交渉があったのか知らないが、お互いのメリットデメリットを駆け引きした結果、グレン公爵は手を引いた。そしてお前にも、速やかに手を引くことを条件に全額じゃあないが約束の報酬の何割かは保証すると言っている。俺は2人の公爵の代理、交渉人という役目を負ってここに来た。取り引きに応じるか、否か。今ここで決めてもらう」
その口調には、有無を言わさぬ迫力と威厳があった。
クロドはしばし無言のまま唇を引き結んでいたが、やがて目を閉じるとため息とともに答えを返した。
「応じるしかないだろう」
天を振り仰いだのち、ぐるりと周りを見舞わず。ラパスとリュイが組んだことで、クロドの陣の戦力は壊滅的と言っていい。やけになっても力では勝ち目はないだろう。そしてそもそも、クロドはそんな無益なことをする男ではなかった。
手元の書状に視線を移す。
恐らくは今後のいざこざの芽を摘む為だろうが、強制的に切り捨てられる訳ではなくこちらにも報酬は与えられるようだ。今なら。
応じるか否か、どちらが自分に利益をもたらすかは明白だった。クロドは商人として、自分の進退を決した。
「取り引きに応じよう!」
腹の底から声を張り上げると、部下たちを引き連れジェイドに背を向ける。
去っていく男たちのうしろ姿を見送って、ラヴィンはやっと、肩の力を抜いた。



クロド一行の姿が見えなくなった頃、城の奥の間——儀式の行われていた部屋の方角からバタバタと幾つもの足音が近づいてきた。
「兄上っ! ラヴィン!」
振り返った彼らの目に飛び込んできたのは、一斉に奥から駆けてくる魔法使いたちの姿だった。
「何があった!」
鋭く問うたのはリュイだ。
先頭を走っていたシルファが叫ぶ。
「魔法陣の解放が完了しました! 全員急いで城の外へ! 」
「魔力の器は?」
「恐らく湖上空です!」
短い会話で全てを把握したリュイは、そこにいた全員を誘導し外へと駆け出す。
「行くよラヴィン!」
立ち尽くすラヴィンの所まで来ると、シルファは彼女の手を取り再び走り出す。

「魔力の器って?!」
走りながら尋ねるラヴィンに、シルファは振り向かないまま答えた。
「リーメイルだよ。やれることはやった。あとはもう、彼女に託すしかない」
リーメイルとトーヤ、2人の力を信じよう。
シルファの手に力がこもったのを感じ、ラヴィンも強く、握り返した。


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