コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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第8章 夢 ⑤ ( No.50 )
日時: 2015/07/14 18:17
名前: 詩織 (ID: HCf49dnt)

地元では、勉強も剣の腕前もトップの実力。
家柄も良く、いわゆるエリート。

ちやほやされて育った上に実力も伴ってしまい、15という若さで王宮騎士団の試験に合格した。
「とにかく生意気で冷めたガキだったよー。」
表情を変えず、前を見つめたまま彼は言った。

騎士団に入ってからもその実力は発揮され、小隊の隊長を任されるまでに時間はかからなかった。
彼の家族、特に両親が大喜びで息子を自慢したのも、当然と言えば当然のこと。
「でもさ、当の本人にとっては、『ま、こんなもんか。』って感じで。」
当たり前だと思ってた。あの頃の自分。
「ほんと、ムカつくガキだろー?今の俺だったら即はったおすね、ま、向こうも俺なんだけどさ。」
カラカラと快活に笑って、ラパスは言う。

その顔には、自嘲も後悔も含まれておらず、むしろすっきりした表情で、過去がどうあれ彼が今の自分に十分満足しているのだと、シルファは感じた。

「でも、ずっと騎士団を目指してきたんですよね、小さな頃から。どうしてあっさり違う道に行こうと思ったんですか。」
シルファの問いに、ラパスは迷いなく答えた。
「あの頃の俺は、『分からないこと』が分かってなかったから。分かりたいって思ったから、辞めることに未練はなかった。」
「?」
意味が分からず黙り込んでしまったシルファに、ラパスは続けた。

「俺は、別に騎士という生き方が好きでも嫌いでもなかった。他に特別好きなものも嫌いなものもなくて。やれと言われたことをやって、評価されて、自分は出来るのが当たり前だと思ってた。・・でも。楽しいと思ったことはなかったし、イライラすることも多かった。」

けど、それがなんでなのか分からなかった。
実力はあったから、評価は簡単に上がったし、特別扱いもされた。
まわりから見れば、エリート街道まっしぐら。
全てを手にした、羨ましがられる人生だった。

「なのにさぁ、無性にイラついてたんだよなぁ。でもそれは周りのせいだと思ってた。なんでなんだろう?って考えることはしなかった。」

自分のほんとの気持ちが分かっていなかった。
なにが嬉しくて、何を楽しいと感じて。なにが、本当はやりたいことなのか。
言われたことは全てこなしてきたけれど。今、自分は満足なのか。
自分に向き合うこともなく、ただ、これが自分だと思っていた。

やるべきことを完璧にこなしているのに、何の感慨もなかった。
けれどやるべきことをやっている、自分に非はないと。
なんでも知ってるつもりになって、ほんとのところ、自分の本心さえ分かっていなかった。

「なんでも出来ちゃったからさー。余計分からなくなってたんだろうな。他の生き方なんて知らなかったし。」
そう言って、苦笑めいた表情を浮かべた。

シルファは隣を歩きながら、彼の話が分かったような分からないような、そんな気持ちで彼を見ていた。

「そんな時にさ、社長に出会ったんだ。」
ラパスはその頃を思い出したように、楽しそうな顔をした。

「この人、なんでこんなに楽しそうに笑うんだ?って思ったよ。話しててさ、いっつも、なんか分かんないけど楽しかった。いっぱい、色んな話をしてくれた。」
だから、とラパスは言った。
「この人と一緒にいてみたいって、すげー思ったんだ。そしたらさ、自分でもびっくりするほどあっさり辞めてたよ。未練なんて全然なかった。だって、俺が心からそうしたいって思ったことだから、楽しくて仕方なかった。・・多分、初めてだろうな、あんな気持ちになったの。」
懐かしむような声で言う。

「・・御両親は、反対しなかったんですか?」
シルファが聞いた。
もし自分がそんなことをしたら、父は、兄は、なんと言うだろう。
ラパスの家族はなんと言ったのだろう。

「あー、それがさぁ。予想通り、大・反・対。」
「やっぱり。で、どうしたんですか?」
「俺はさ、ほら、当時は周りなんてどうでもいいってガキだったから。そんなん無視して家でてやろうとしたんだ。」
「ええ?」
「でも社長がダメだって。」


『それはダメだ。』
そう言って、ジェイドはラパスを見据えた。
『時間がかかってもいい。本気で俺んとこ来たいなら、本気で話して説得してこい。・・俺はいつまでだって待っててやるから。』

「・・ジェイドさんらしい。」
「だろ?それから社長とアレンさんの世話になって、いろいろあって。んで、今に至る、と。」

いつの間にか、2人は分かれ道の前まできていた。
ラパスはそこで歩みを止めると、シルファの方へと向き直る

風が、彼の髪を揺らした。
明るい金髪が、夕日でオレンジ色に染まってとても綺麗だ。

「シルファもさ、大丈夫だよ。」

いつもの笑顔と、いつもの明るい彼の声。

「お前はさ、自分が今、分からないってことが、ちゃんと分かってる。」
青い瞳が、シルファを見ていた。
「何か目標がある時は頑張れる。でも、どうしていいか分からない時、迷ってる時は、結構しんどいもんだよな。分かってる振り、したくなる。そうすると、自分のほんとの気持ちさえ、分からなくなる。だから・・」

ニッと笑って言った。
「分からないことを逃げずに受け入れてる、自分の弱い部分もちゃんと認めて向き合ってるお前は、強いと思うぜ、俺は。」

「・・そんなこと、初めて言われた。」
かぁっと自分の頬が赤くなるのが分かった。

出来ることもあるけど、出来ないことの方が多く感じて。
分からないこともいっぱいあって。
でも、少しずつでいいから、もっと強くなりたい。
いつも、そう思っていた。

なんだか自分を認めてもらえた気がして、シルファは心が暖かくなった。

「ま、そんな焦んなよ。社長も言ってただろ、まだこれからだって。お前の周りにはたくさん人がいるんだし、不安になったら話せばいいじゃん。」

そう言って笑うと、じゃあまたなとラパスはシルファとは逆方向へと歩きだした。
その後ろ姿を見送りながら、シルファは言われた言葉を思い返し、自分の進む方向へと歩き出す。
(うん、大丈夫。僕もがんばろう。)
決意を新たに、力強い足取りで、家路についた。

またいつかゆっくりと、2人の出会いの話も聞いてみたいなと思いながら。

第9章 真夜中の訪問者① ( No.51 )
日時: 2015/07/16 20:06
名前: 詩織 (ID: HCf49dnt)

第9章 真夜中の訪問者

その日、ジェイドは深夜になって店に忘れ物をしたことに気がついた。
それは明日までに目を通すようアレンから頼まれていた書類。
「ちぇ、めんどくせーなー。あー・・でもやっとかねぇとアレンがうるせーだろーしなぁ。」
ぶつぶつと独りごちながら、仕方なく自宅から店の社長室へと向かった。

書類に目を通しサインを済ませると、さっさと引き上げる。
この時期の真夜中、室内とはいえかなりの冷え込みだ。ジェイドは「うぉ、さみい!」と言いながら身震いすると、急いで階段を下り、裏口の玄関に向かう。

・・それは、ちょうど彼が一階のフロアを横切った時だった。

カタン。

微かな物音に、ジェイドの動きが止まる。
真夜中の店内は真っ暗で、彼の持つランプの灯りだけがゆらゆらと揺れていた。
音のしたのは、入口側の窓の付近。
壁際に並んでいる商品棚の辺りか・・。

息を潜めて、気配を探る。
その方向を睨んだまま、近くにあった荷解き用のナイフを2本、そっと掴んだ。


「誰だっ!」
叫ぶと同時にそのうち1本を投げつける。
カッ、と鋭い音を立て、ナイフは窓の枠に突き刺さった。

「おい。」
低い声でジェイドは言った。
「今のは牽制だ。出てこなきゃ、次は当てるぜ?」
静かな店内に、ジェイドの声が響いた。
じっとそちらを睨みつけ、もう1本のナイフを構える。

「わ!ま、待った待った!」

す、っと手が1本、机の下から伸びてきて、ひらひらと動いた。
「俺だよ、俺!ったく、相変わらず荒っぽいんだから。」
そう声がして、1人の男が姿を現した。

ダークブラウンのくしゃくしゃっとしたくせっ毛。
そばかすの浮いた、憎めない顔。
薄茶色の瞳をした小柄なその男は、両手を上げて降参のポーズを取りながら、ジェイドの前へとやってきた。

「なんだ、お前かよ。・・っつーか脅かすなよなぁ!」
男の姿を見て、はぁぁとため息をもらしながらジェイドは肩の力を抜いた。
「何やってんだよこんな夜中に。お前に常識ってもんは・・・、ねぇよな。」
「ひっでー。俺だって普段はバリバリ常識人よ?交渉人っつーオシゴトもしてますからね?」
男はおどけたようにそう言ってジェイドを見上げた。

「いやー、今日この街に帰って来れたのはいいんだけどさ。社長に報告に行こうと思ってたのにこんな時間になっちまって。さすがにもういねぇかなーと思ってきてみたら、なんと社長室に明かりが見えたんだよな。んで、どうせなら驚かしてやろーと思って忍び込んだところと見つかったってワケ。」
てへっと舌を出した男に、
「・・ってワケ、じゃねえよ!フツーに昼間来い、昼間。ったく、相変わらずはそっちだろ。で、どうやって入った?」
と憮然とした顔で聞いた。

「ん、そこの窓。カギ壊れかけてるよ。不用心だなぁ、ウォルズ商会ともあろう店が。ドロボー入るよ?」
「お前がゆーな。・・ああ、そういやこないだ、ラヴィンがカギ閉まってるの気づかずに無理やりこじ開けてぶっ壊したっつってたな。アレンに言って早く直さねーと。」
「お?ラヴィンきてんの?」
男の目が輝いた。
それを見てジェイドがめんどくさそうに言った。
「お前いい加減あいつにちょっかいかけんのやめろ。そのうち嫌われても知らねーぞ。」
「ラヴィンはそんな子じゃねーもんね。ようし、じゃあ仕事も終わったし、明日はラヴィンと遊ぶぞーっと。」
「ああ、もうそれはいいから。仕事。終わったって、どうなった?交渉はうまくいったのか?」

ジェイドの声が真面目なものになる。
男に依頼していたのは、大事な仕事のひとつだった。

その真剣な眼差しを受けて、男も黙って真剣な顔でジェイドを見返した。視線がぶつかる。

「ああ。」
答えて男はニヤリと笑った。

「交渉は成立。ついでにオマケの取引もばっちり保証してもらって、任務完了!証書もちゃんと持ってきたぜ。」
そこまで言うと、男は演技がかった仕草で敬礼のポーズをとった。

「ジェイド・ドール社長。お約束の交渉を成立させて、わたくし、ギズラード・ミシェル、ただいま王都に戻って参りました!」

第9章 真夜中の訪問者 ② ( No.52 )
日時: 2015/09/23 10:47
名前: 詩織 (ID: z6zuk1Ot)

男の名は『ギズラード・ミシェル』。
正確にはウォルズ商会の社員ではない。

彼を知るある人曰く、
「ああ、あいつかい?その業界では有名なフリーの交渉人さ。見かけによらず博識で、頭の回転が速い。そして何より口達者。あ、これは見かけ通りか。仲間数人引き連れて、受け負った商談はかなりの率で成功させるって噂だぜ。依頼主と商談相手、どちらにとっても益になる提案で取りまとめるから、依頼が絶えないんだとよ。」

またある人曰く、
「え?あいつって情報屋じゃないの?どっから掴んでくるんだか、いっつもとびきりのネタ持ってくるのよね。しかも殆どが本物。でもそのルートは完全に企業秘密なんですって。謎な男よね。」


ジェイドも始めは全ての商談を自分で行っていたし、少しずつ店が大きくなると、アレンや他の仲間が代理をつとめたりしていた。
けれど今のように規模が大きくなり、従業員の人数も増えると、社長が遠方への商談へ出掛けてばかりもいられない。

結果、遠方や時間のかかりそうな商談は、旧友(ジェイドに言ったら顔をしかめて「腐れ縁だ。」とでも言うだろう)の彼に依頼することになったのだ。


「おー!いいのがあるじゃないの。いいのが。」
そう言いながらギズラードはガラス棚の扉を開けると、お目当ての酒瓶を取り出した。
「おい。勝手に出すなよ。」
「いいじゃん。どうせ出してくれる気だったんだろ?頑張って交渉してきたんだしさぁ。労ってくれよ、社長サン。」
そう言いながら、そのでっかいソファにどさっと体を投げ出した。

人気のない店内はあまりに寒かったので、とりあえず2人はジェイドの屋敷へと戻ることにした。とにかく暖かい場所へ。話はそれからだ。

暖炉に火を起こし、部屋を暖める。
広い居間に置かれているのは、大きなソファと洒落たテーブル。
棚には酒好きのジェイドが趣味で集めた酒の瓶がズラリと並べられていて。
ギズラードは勝手知ったる友の家とばかりに、並んだ酒を物色していた。

「お前に社長なんて呼ばれると、背中がこそばゆいな。」
キッチンから水とグラスを運んできたジェイドが、どかっとソファに腰掛けながら言った。
「そうゆうもん?んじゃいつも通り、ジェイドのダンナ。」
ギズラードはへらっと笑うと、年代物の蒸留酒の蓋を開けグラスに注いだ。

「ではでは!商談成功と、友との再会を祝って。」
「ん。」

カチン、と空中でグラスを合わせる。

「んで?どうだったんだよ?」
「ふふん。俺を誰だと思ってんのさ?そりゃあカンペキに決まってんじゃん。」
ギズラードはニタリと笑って、封書を差し出した。
ジェイドはそれを受け取ると、中身を確認し、感心したように声を上げる。
「こりゃすげぇな。予想以上の成果じゃねーか。」
「だろ?」
さっそく二杯目の酒を注ぎながらギズラードは得意げに笑った。

「何よりさ、あそこが仲介業者なしで品物卸すなんて、滅多にないんだからな。それもこれも、誰のおかげか分かってるよね、ダンナ?」
「ああ、これはすげーよ。さすがだ。」
ジェイドの素直な褒め言葉に、満足げに頷くと、へへっと笑って言った。
「報酬、楽しみにしてよーっと。」
「分かってるよ。」
苦笑しながらジェイドが言う。

ジェイドが大事な仕事を任せるのは、ただ友人だからというわけではない。
一見ヘラヘラしてみえるこの男は、普段ももちろんヘラヘラしているのだが、仕事に対するプライドだけは相当なもので、そこは絶対的に信頼のおける奴だとジェイドは思っている。
そう思えるくらいは、この男との付き合いは長かった。

「そういやさー。」
ひとしきり旅の報告を終え、機嫌良さそうに飲んでいたギズラードがふと思い出したように言った。
否、そう見せているだけで、実はいつこの話を切り出すか迷っていた。
グラスを揺らしながら、そのまま少し間があく。

その仕草に何かを感じてジェイドは無言で視線を送った。

「これ、確かなスジからの情報なんだけどさー。」
「なんだよ。」
彼らしくない、少し迷いのある口ぶりに、ジェイドが聞き返した。
「・・あいつ、戻ってきてるらしいぜ。この国に。」
「あいつ?」
「ん、あいつ。」
あえてジェイドの目を見ずに。
グラスの中に残った酒から視線を離さないまま、ギスラードはその名を口にした。

「商人クロド。あんたに商売で負けて隣国に移ったて聞いてたろ?帰ってきてるらしいぜ、この国にさ。」

第9章 真夜中の訪問者③ ( No.53 )
日時: 2015/07/22 20:28
名前: 詩織 (ID: HCf49dnt)

グラスの中の液体は、静かに揺れる炎の明かりを映している。

お互い3杯目の酒を注ぐと、それほど大きくない酒瓶はすっかり空っぽになった。

「ギズ。」
手の中のグラスを見つめながら、ジェイドが言った。
「俺は別にあいつと争ってたわけじゃねーよ。そんなつもりで仕事してたわけじゃないしな。」
「うん。知ってる。」
静かに、ギズラードは頷いた。

「あんたはそんな人じゃない。」
珍しく真顔で言った。

「もともと、あいつのやり方が酷かったんだ。裏ルートで大量仕入れした粗悪品をえらい高値で売りさばいたり、ニセ物だってかなりばらまいてた。あんたがこの街で商売始めて、正規ルートで質の良い商品を流通させて、しかも手頃な価格で売りに出せば、そりゃおのずと客は選ぶだろうよ。・・あんたには各地に味方がいるしな。信頼関係と情熱の上に成り立つ仕事が、あいつに負けるワケないんだ。」

ちらりとジェイドを見上げて、小さく笑った。
「ただまぁ、ここらで商売がやりづらくなったあいつが隣国に逃げて、そこで話が終わってくれりゃよかったんだけどなぁ〜。」
「なんで戻ってきたんだ?」
「全部分かってるわけじゃないけどさ。俺の情報によると、どうやら裏でこの国のお偉いさんと繋がってるらしいんだな。」
「マジか。」
目を丸くするジェイドに、ギズラードはこくりと頷いた。

「ああ、マジマジ。」
「誰だよ?」
「知りたい?」
ニヤリ、とギズラードが口の端を上げる。
「ここまで来て焦らすなよ。いいから早く云え。」
「どーしよっかなぁ。トップシークレットだしなぁ〜。じゃあこの情報の報酬は〜〜」
「金とんのか!」

ジェイドの反応に楽しそうに笑うギズラード。
「いやー金はさっきの報酬で貰うから。それよりさー、俺、ぜひラヴィンを嫁に貰〜・・って、冗談だよぅ!そんな睨むなってばー。」
「お前のは冗談に聞こえねんだよ。」
ギロリと音がしそうな目つきで睨みつけると、ジェイドはグラスを傾け、残っていた酒を一気に飲み干した。

「もー怖いなー。これだから娘のいるパパは。」
「パパじゃねぇ。ムスメでもねぇ。」
「おんなじようなもんじゃん。」
ケタケタと笑って、ギズラードは立ち上がった。
「んじゃま、この棚でいっちばん良い酒。それが報酬ってことで。」
答えを待たず、さっさと棚まで歩くと、迷いなくその中で一番の高級酒を手にとった。

「ったく、俺のとっておきのヤツを。」
「へへー」
にへらっと笑って席に戻ると、さっそく蓋を開ける。

「で?飲んでいいからさっさと教えろ。誰があいつと組んでんのか。」
「グレン公爵」

あっさりと、彼は言った。
ジェイドの動きが止まる。

「あれ?ダンナ知ってる?グレン公爵。」
「・・ああ。でも、なんでグレン公爵があいつなんかと組む必要がある?」
「さぁ。細かいことは知らねーけど、でも確かグレン公爵って少し前に代替りして、まだ若いんだろ?議会での発言権も他のジジイ貴族たちには負けるだろうし。力つける為に、なんか良からぬことでも考えちゃってたりしてねー。」
「おいおい。」

物騒なこと言うなよ、とジェイドが渋い顔をする。
しかし、そう言ったまま彼は黙り込んでしまった。
真顔で考え込む友人を見て、ギスラードは不思議そうな顔をする。

「ダンナ?どした?」
「ああ、・・実は・・。」
・・ジェイドはさっきから、いや、もっと言えばあの出来事を目にした時から気にかかっていたことを、ギズラードに話してみることにした。

第9章 真夜中の訪問者 ④ ( No.54 )
日時: 2015/07/23 22:23
名前: 詩織 (ID: HCf49dnt)

『・・なぁラパス、あの旗・・』

『・・ええ、そうっすね。あれは確か・・。』

——あの時、交わされた会話。
あの日、ファリスロイヤ城で見た光景。
城の周りに掲げられていた旗の紋章は、この「国」のものではなく。
——「グレン公爵家」のものだった。


「あれ?と思ったんだ。」
ジェイドが言う。
「噂では国の調査団って聞いてたからな。国が主導して本格的な調査に乗り出したと思ってたんだが、国の紋章じゃなくグレン公爵家の紋章の旗が並んでた。・・後から思えばあの男も『国が許可した』って言い方してたしな。」
「ふうん。主導は国じゃなくて、あくまでグレン公爵。国は公爵の要望に許可を出しただけってことか。」
ジェイドの話を聞いて、ギズラードがふむふむと頷いた。
「グレン公爵ってどんな奴か、お前知ってるか?」
「個人的にはよく知らないよ。ただ、ファリスロイヤ城のある旧ファリス領ってのは・・・、あ、地図ってある?」
「ん?ああ。」
ジェイドはソファから立ち上がると、本棚から地図帳を取り出し、ギズラードの前に広げた。


「ほら、ここら辺って、国の東端で、国境に近いだろ?」
指で指し示しながら言う。
「ファリス一族が滅びて、その後別の貴族領になったこともあるらしいけど、最近はずっと国の直轄地になってたんだ。」
「へぇ〜。そりゃ知らなかったな。」
「ま、ね。庶民にはそんなこと関係ないからね。で、さっき言っただろ?グレン公爵家は最近代替わりしたばかりだって。ここの領地はさ、先代グレン公爵の時代に何かの報奨として、グレン公爵家に与えられた土地なのさ。」
「は?」
ジェイドは驚いて言った。
「じゃあ今のファリスロイヤの持ち主はグレン公爵ってことか。」
「ああ、息子の方の、現・グレン公爵さんのな。」
「自分の領地なのに、なんでわざわざ許可を?」
「言ったろ?少し前までは国の直轄地だったって。あの遺跡はさ、規模は小さいけどもともと国の歴史学者たちが研究してたとこでもあるんだ。だからもしかしたら、遺跡調査に関しては、国に権利があるような取り決めになってたのかもしれないな。」
そこまで言うと、ギズラードはぐいっとグラスの酒を飲んだ。

「ぷはぁ。うめー!」
幸せそうに口のまわりを拭う。
「あ、おい!俺まだ全然飲んでねーぞ!寄越せよ。」
ジェイドは慌ててギズラードの手から酒瓶を奪った。
・・ずいぶん軽い。
「お前〜。もうこれしかねーのか。」
「いやー、ダンナが真面目に考え込んでたからさ?水差しちゃいけないと思って?」
ぬけぬけと言うギズラードに、ジェイドは諦めたように残り少ない酒をグラスに注いだ。

「そんで?」
貴重な酒をちびちびと啜りながら、ジェイドが聞いた。
いつもの豪快な彼らしくないその仕草に、なんとなく哀愁が漂っている。

「そんな貴族と組めるほどの商人に、クロドがなったってことか?」
「んー、まあね。ダンナ、あいつ今何してると思う?」
「?商人じゃねーの?」
「ヤダなぁ。何を売ってるか、ってことだよ。ヒントは・・、隣国の情勢。」
「・・・」
ジェイドが考え込む。

情勢。 情勢?

隣国は今・・。

「もひとつヒント。」
とギズラード。
「うちの国は今、戦争はしていない。隣国も、していない。・・ただ、隣国はうちの国と逆側の国境付近で、部族間の紛争が起きている。それを収める為に、国の軍隊も派遣されている。そこで必要になるのは・・」

「・・武器か。」
面白くなさそうな顔で、ジェイドが答えた。
「ご名答。」
片目をつぶって笑う。ジェイドは渋い顔をした。
「武器商人って。あいつはまた・・。」
「ま、裏のルートは持ってる奴だったからね。向こうに行ってうまいことやって、たった数年だけどこっちにいた頃以上に稼いでるらしいよ。あいつらしいっちゃ、あいつらしい。」
「けっ。じゃあよ、武器商人のあいつとグレン公爵、野心満々同士で組んで、何を狙ってんだ?」
「そんなの俺は知らねーよ。けどさ。」
ギズラードは勿体付けるような言い方をした。
とびきりの情報だと言うように。

「組んでる奴はもうひとりいるぜ。」

誰だ?とジェイドが聞くのを期待している、そんな顔だ。
けれど残念なことに、ジェイドにはなんとなく予感があった。
彼にとってはあまり嬉しくはない予感だったけれど。

「ん?なにその顔?・・え?まさかダンナ、なんか知ってる?」
黙ったままのジェイドに、今度はギズラードが目を丸くする。

「えー!ちょっとこれってかなりのレア情報だよ?なになに?なんで知ってんの?ってかそもそもホントに知ってんのかよ。早く言ってみ、早く!」
まくし立てるギズラードに向かって
「あーうるせぇ。」
と遮りながら、ジェイドは煮え切らない様子で言った。
「多分、分かってる。合ってると思うぞ。でもなぁ、できれば違ってほしいっていうか。」
「なにそれ。意味分かんね。いいから早く。」
ギズラードに急かされ、仕方なくジェイドは口を開いた。

「・・銀色の・・」
その一言で、ギズラードの顔が確信に変わる。
やっぱり。その瞳はそう言っていた。

「魔法使い。ユサファ・ライドネル。」


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