コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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はじまりの物語 完結
日時: 2022/04/02 17:22
名前: 詩織 (ID: .DYzCgCx)

・〜・〜・〜・〜・〜・

赤い髪の少女は、不敵に笑った。

その瞳に諦めの色はない。

浮かぶのは、『希望』。きっと・・・彼も同じ瞳をしているはず。

今は顔の見えない少年を想った。


合わせた背中に感じる熱は‘信頼’と‘安心’を与えてくれる。
ぬくもりが伝わる。
君が、そこに居てくれる。
お互いそれだけで、強くなれる気がした。

『いくよ、シルファ?』
『了解、ラヴィン。』

囁くように交わされた会話を合図に、2人は地を蹴り飛び出した。

−−− 前だけを見つめて。


・〜・〜・〜・〜・〜・


はじめまして☆

小説を書くのは初挑戦(^^)
初心者なりに、まずは一話書ききること!・・を目標に頑張ります。

よろしければ、ぜひお付き合いくださいませ。
初めてで読みにくかったりするかもですが、
もし感想など頂けましたら、とってもうれしいです。


追加・・コメントいただいている作者さんのご紹介欄☆

☆せいやさん
言葉や文章がとても綺麗です。
表現が上手で、情景が浮かぶところが私は好きです。


☆ビタミンB2さん 「翼と自転車」
コメディ・ライトに書かれてます。軽快で、テンポが良くて、とっても読みやすいです。思わず笑っちゃうシーン多数。


☆あんずさん  「白銀の小鳥 From of the love」
素敵な短編集です。
優しく、でもその中にある強さが心に残る、暖かい文章です。
楽しい話から切ない話まで、表現が豊かで、そのメッセージにはいつも心を動かされます。

☆えみりあさん  複雑・ファジー「イノチノツバサ」
すごくかっこいい!丁寧な設定と文章で、感情移入して読んでしまいます。
   
☆星飯緋奈さん コメ・ライ「陰陽師ー紫鶴」
まず設定がすごい。私は設定だけでもかなりワクワクでした。
歴史もので、平安時代の雰囲気がびっくりするほど上手です。


☆てるてる522さん コメディ・ライト
たくさん執筆してらして、更新も早いので、すごいなぁと思ってます。
「〜Dolce〜Tarantella」は、読みやすく、可愛いお話です。

☆湯桁のろまさん コメディ・ライト
どれも空気感とか季節感とか、描写がすごく丁寧で素敵です。
私はストーリーも気になりますが、その文章を読むだけでも味があってとても楽しいです。

☆風花 彩花さん コメディ・ライト
とっても可愛らしいお話です。たくさん仲間がでてきて楽しそう。どうなっていくのかドキドキです。

☆いろはうたさん 
とにかく文章力がすごいです。和も洋も、物語が本格的で惹きつけられます。表情や景色や温度が感じられる描写はさすがだなぁと思います。

☆ゴマ猫さん 
短編も長編も素敵です。『雨と野良猫』はキャラクター達の会話の面白さもストーリーが読みやすいところも読んでいて楽しいです。

《  はじまりの物語  》
 登場人物

ラヴィン・ドール・・ラズベリー色の赤毛の少女。好奇心旺盛な16歳。考えるより行動派。明るく素直、割と単純。今回の主人公。

シルファ・ライドネル・・銀色の髪の少年。魔法使いの名門ライドネル家の末弟、17歳。魔法の修行中。悩めるお年頃。


ジェイド・ドール・・ラヴィンの叔父。王都に店をもつ貿易商で、昔は兄であるラヴィンの父と世界中旅した冒険家。姪っ子ラブ。


アレン・・ジェイドの相棒。灰色の髪と瞳。性格、生い立ちは正反対だがジェイドのよき親友。


ラパス・・金髪、碧眼。体育会系の青年。元・王宮騎士団。ジェイドに憧れ護衛の仕事に転身。


ジェン・・漆黒の髪の青年。お兄さんというか「お母さん」。
研究には寝食忘れるタイプだが、それ以外は割とのんびり。


マリー・・見た目は10歳?くらいの少女。綺麗な水色の髪。ジェンの妹ということになっているが、本当は・・?


《  目次  》


序章  とおく聴こえるはじまりのおと >>000

第一章 赤毛の少女、王都へ行く >>001-002

第二章 ジェイド・ドールと噂の古城 >>003-007

第三章 シルファ・ライドネル、いつもの朝 >>008 >>013

第四章 出会いは冬の空の下  >>016-019 >>021-022

第五章 友達  >>024-025 >>027-028 >>030-031



第六章 動き出す歯車 〜ジェンとマリーの研究室〜>>033-035

    動き出す歯車 〜ライドネル邸〜 >>036-037

第7章 石碑の謎解き 〜読めない魔法文字〜 >>039 >>040 >>041 >>042 >>045

第8章 夢 >>046-048

    夢〜冬の終わり、帰り道。〜 >>049-050

第9章 真夜中の訪問者 >>051-055

第10章 旅支度 >>059-061 >>062-064



第11章 女神の守る村 〜エイベリーの石碑〜 >>065-067 >>068-069 >>070-071

第12章 『魔女の棲む山』〜入口、発見!〜>>074 〜森の中の急襲〜 >>075 >>076

〜女神エルスの子守唄〜 >>077 >>080 >>081 〜密会〜 >>082


目次Ⅱ  >>141

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 序章  とおく聴こえるはじまりのおと
 

 優しい風に、彼女の赤い髪が踊る。

季節は冬も終わりに近づく頃。
凍てつく寒さがほんの少しだけ緩み、窓から差し込む日差しは、微かに柔らかさを増した。
まだまだ春は遠かったが、町には厳しい冬からゆっくりと、季節の移り変わりを予感させる風が吹いている。


雲ひとつないその日は、青い空がどこまでも高かった。
太陽の光が、その透けるような赤い髪の上に降り注ぐ。
肩まである美しい赤毛をひとつに括り、旅支度を終えた彼女は家の前に立っていた。

「じゃあ皆・・、いってくるね。」
見送る人々を振り返る。
家族、友人・・とりわけ心配そうな顔でこちらを見つめている親友に、彼女は言った。

「だーいじょうぶだって、フリア。向こうにいけば、ジェイドおじさんの仕事仲間のひとたちがいるし、店の支店だってたくさんあるんだしさ。おじさんを見つけて、事情を確認したらすぐに戻ってくるから。」
親友には安心して待っていてほしいから、笑顔で語りかける。

「ほんとに?ほんとにすぐ帰ってくるのよ。無茶しちゃダメよ。」
フリアと呼ばれた少女は、腰まである薄茶色の髪を揺らし、赤毛の少女の右手をぎゅっと握る。紫色の瞳が、目の前の親友を映す。

「ラヴィン・・」

そっとつぶやく。
ラヴィンと呼ばれた彼女・・赤い髪の少女、ラヴィン・ドールは、そんな親友・フリアを愛しげに見つめた。
「ほんとだって。うん、無茶なことなんてしないよ。
そんな大げさなモンじゃないってー。ちょっとしたおつかいなんだからさ。すぐ帰ってくるよ。」
空いたほうの左手をひらひらと振り、へらっと笑った。

「そしたらさ、またいつもの丘でお茶しよう。向こうの街にはめずらしいお菓子があるよ。おみやげいっぱい買ってくるからさ。・・そのころには、ユリアンの花もきっと綺麗だよ。」

にかっと歯を見せて笑う。

ユリアンは、この地方の春に咲く美しい紫色の花で、二人がよく過ごす丘には毎年春になると満開に咲くのだ。

「だから、安心して待ってて。フリアとお茶するの、楽しみにしてるから、私。」

フリアの手を両手でそっと握り返しながら、ラヴィンは優しく言った。

そして手を離すと、よっこらしょ、と荷物を肩にかける。

「じゃあね・・。いってくる!」

気をつけていけよー、連絡よこすんだよ、早く戻ってこいよ、
皆の声を後ろに
軽く手を振りながら、彼女は歩きだした。

彼女は、彼女の目的のために旅立った。
まだ少し肌寒く、春が待ち遠しい季節の、ある晴れた朝のことだった。


これから起こることも、出会う人も・・・
少女はまだ何も知らない。
でも、今は、足取り軽く踏み出した一歩。


・・それは、とおく聴こえるはじまりのおと。



微かなそれに、少年はまだ気付かない。
ため息をつき、空を見上げる。
そんな彼の髪を風が揺らす。

風に運ばれ、出会うは人と人のものがたり。

冬の最中の春のように、未だ見ぬそれは何も見えず、何も聴こえず。

・・・けれど、確かにはじまっている。

とおい町の、小さな小さな はじまりの音・・
少年に届くのはもう少し先・・

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第13章 暗闇の中の声 〜少女のねがい〜 ( No.85 )
日時: 2016/01/09 21:39
名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)

〜少女のねがい〜


少女は、夢を見ていた。

悲しくて、寂しくて、泣いているあの頃の夢。

どれだけ時間が経ったと思っても、
いつも、くり返しやってくる。

もう全部、消えちゃってもいいのに。
そう強く思うけれど、それほど簡単には消えてくれない。

忘れたいと願っても、いつも心のどこかに隠れていて、
呼んでもないのにやってくる。

辛くて、苦しくて、捨ててしまいたい過去の自分。
このまま、自分ごと消してしまいたいと思ったこともあった。


———— でも。

笑ってくれるひとがいたから。

いつもそばで、優しく見守ってくれるひと。
そんなひとが私にはいる、と信じさせてくれたから。

『強く なりたい。』

そう思った。
大切なひとと、笑って生きていきたいから。
一緒に、しあわせになりたいから。
だから。

『私、もっと強くなりたい。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・リー、・・マ・・・。

遠くから、声が聞こえる。
その呼び声に、彼女は夢の中で答えた。

(待って。まだ眠い・・・、もう少し・・)

・・リー、・・マリーおきて・・。

呼び声はまだ止まない。
自分を呼んでいる。

そこでふと、彼女は気づく。

(あれ?・・あのひとの・・声じゃない・・?)

いつも優しく、自分を呼ぶひと。
朝、ゆっくりと瞼を開ければ、きれいな黒髪が視界に入る。
眠い目をこすって目を開くと、映るのはあたたかい黒色の瞳と、やわらかく微笑みかけるあのひとの顔。
大きな手で、優しく頭を撫でてくれる。

「ジェン・・?」

そう呟いた自分の声で、マリーはハッと目を覚ました。
ゆっくりと瞬きをすると、次第に視界がはっきりとしてくる。
目の前でとても心配そうに自分を覗き込んでいるのは、銀の髪の年上の友人。
「・・・シルファ?」
「よかった!気がついたんだね!マリー。」
シルファは心底ホッとした顔をして、大きく息を吐いた。

「ん・・。」
ゆっくりと起き上がろうとするマリーを、シルファが慌てて支える。
「大丈夫?無理しなくていいから。」
「平気。」
気を失っていたのだろうか。また、昔の夢を見てしまった。
マリーはふるふると首を振ると、まだ覚醒しきれていない意識を無理やり今に戻した。
冷たい地面から身体を起こすと、辺りの様子が目に入る。

一見、先ほどまでの坑道と同じところかと思った。
けれど、よく似てはいるがなんとなく雰囲気が違う。
道の両側には、街道の街灯のように規則的に並ぶ明かりが揺れていた。
それはそこから続く先の道にも、ずっと続いている。

「あの明かりは、シルファの魔法?」
マリーの言葉に、シルファは首を横に振った。
「ううん。違う。魔法の明かりだけど、僕じゃない。」
「魔法なのに、シルファじゃない・・?」
マリーはぐるりと辺りを見回した。
「ここは?私たち、どうなったの?」
視線をシルファに戻すと、彼も困ったような表情でマリーを見ている。
「僕にも分からないんだ。ただ・・。」
思案気な顔で呟いた。
「さっきとは、別の場所だと思う。あの広くなった辺りで、微かに魔法の気配を感じたんだ。それまでは全く感じられなかったのに。」
「魔法の気配?」
「うん。でも、僕が知ってる魔法の気配じゃない。なにかもっと別の・・。それに、あの感じは変だ。外から来た人間が気づかないように、発動する場所をあえて隠してるような・・。」
「隠してる?それって・・、何かの罠、みたいな?」
眉根を寄せるマリーに、シルファは困った顔で首を傾げる。
「いや、そこまでは分からない。とにかく、多分僕らは転送系の魔法でさっきとは別の場所に飛ばされたんだよ。」
「なんで?!誰に?!」
あまりに突然のことに思考が追いつかない。思わず声を上げたマリーに、シルファは言った。
「分からない。飛ばされた時気を失ったみたいで、僕もさっき目が覚めた。そしたらここに2人で倒れてて・・」
「・・・。2人・・?」

シルファの言葉に、マリーの表情がハッと固まった。
そのまま勢いよく、再び辺りに視線を走らせる。

そうだ。おかしいと思った。
目覚めた時、彼の声と笑顔がなかった。
こんな時は必ず、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるはずの、彼女の腕も。

「ジェンっ!ラヴィンっ!どこ!?」

姿の見えない2人を探し、視線が彷徨う。
マリーは激しく動揺していた。
大きな双眸に、涙が浮かんでくる。

思わず嗚咽が漏れそうになるマリーの肩を、シルファが掴んだ。
その瞳を覗き込む。
「マリー、落ち着いて!大丈夫だから。」
強い、強い口調。
マリーは、シルファの銀色の瞳を見つめ返した。
「僕もすごく動揺した。起きたとき、2人がいなくて。君もなかなか目を覚まさないし、怖くて・・、辺りを探し回った。そうしたら、少し、分かったことがあるんだ。だから、少し落ち着いた。」
「わかったこと?」
涙声で、マリーが呟く。
こくり、と頷いてシルファは続けた。
「2人は、多分無事だ。ここの魔法で怪我をしたり、その・・、命の危険があることはないと思う。推測だけど。」
そこまで言って、シルファはふっと表情を緩めると、マリーをそっと抱きしめた。

「大丈夫。2人はきっと無事だ。別の場所に飛ばされてはいるけど・・、きっと僕らのことを心配してる。だから、2人を探そう。大丈夫、僕がいるよ。僕が、マリーと一緒にいるから。」
優しく背中をさすりながら、マリーを抱きしめる腕に力を込める。

(あったかい・・。)
マリーは、パニックに陥っていた心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。
大きく深呼吸をする。
何度かくり返し・・。

「もう、大丈夫。」
シルファの腕の中から、ゆっくりと顔を上げた。
「ありがとう、シルファ。」
涙を拭いて、立ち上がる。

「2人を探しましょ。」
不安が消えたわけではない。
本当は、怖い。とても、怖い。
もしあの2人に何かあったら。

(でも、怖がってるだけじゃ駄目だ。)
強がりでもなんでも。マリーは自分を奮い立たせた。
(私は今、ひとりじゃないから。シルファが、いてくれるから。)
キ、っと強い瞳で薄暗い道の先を睨む。

そんなマリーを見て、シルファは安心したように微笑むと、彼女の小さな手をとった。
その手を、マリーがぎゅっと握り返す。

「よし。」
シルファは道の先を見据えた。
「行こう、2人を探しに!」
「うん!」
マリーは力強く頷くと、もう一度、涙を拭った。

第13章 暗闇の中の声 〜 地下神殿 〜 ( No.86 )
日時: 2016/01/10 20:00
名前: 詩織 (ID: 9fVRfUiI)

〜 地下神殿 〜

コツ、コツ。
静寂の中に、2人の足音が響く。
地面に映る2つの影は、ゆっくりと揺らぎながら進んでいく。
マリーはシルファの手を強く握ると、彼に続いて辺りを見回しながら歩いて行った。

魔法の明かりに照らされてなお、薄暗い坑道。
・・・そもそもここは、本当に坑道なのだろうか?
ぱっと見た感じは先ほどまでとあまり変わらない。荒々しく削られた岩や土壁に囲まれた地下の道。だが、灯された明かりの存在や、所々に開いた横穴への入口を見ると、何か他の目的があったように思えてくる。

「それで?分かったことってなんなの?」
マリーの問いに、シルファは少し先を指さした。
「あそこまで行ったら、壁をよく見てごらん。」
「壁?」
マリーは握った手を離すと、シルファが指し示した辺りまで小走りで駆けてゆく。
2人が歩く先の、右手側の、壁。
近づいてみて、そこにあるものに、マリーは初めて気がついた。

「何これ・・・。絵?」
マリーは、その壁の上に描かれていた絵に思わず目を奪われる。

こんなに暗く湿った場所には不釣り合いなほど、美しく色鮮やかな世界が、そこには描かれていた。

(なんで?こんなところに・・誰が・・?)

先ほどまでは気が動転していて、よく見る余裕などなかったし、薄暗さもあって全く気付かなかった。
荒々しく削られた岩壁も、その部分だけはきれいに整えられ、その上から薄く平らな石に描かれた絵が道沿いに並べて掲げられている。

「すごいよね。」
言葉もなくそれらの絵を見上げるマリーの後ろから、シルファが近づき声をかけた。
「こんな場所に・・、おそらくはずいぶん長い間放置されてただろうに。今も、こんなに綺麗だ。特殊な染料なのか、それとも魔法の力なのかな。ここには、魔法の気配が満ちているから。」
「そうなの?」
振り向くマリーに、シルファは頷いた。
「うん。さっきまでの場所とは全く違う。」
マリーは再び目の前の壁に視線を戻す。

確かに、こんな地中にあったにしては余りにも美しく、ほんのりと照らす明かりの下でさえ何の遜色もないほど色彩豊かだ。

「何を描いているのかしら。」
マリーはゆっくりと歩きながら、壁に沿って並ぶその絵を、順を追って眺めてゆく。


———— 緑豊かな大地。
     そこに暮らしているらしき人間たち。
     黄金色の作物、咲き乱れる花々。
     産まれる赤ん坊 ————

「・・・平和に暮らす人々って感じね。不思議な服装・・。こんな服、見たことないわ。」
「僕、何かで見たことあるよ。多分、歴史書だ。確かずっと昔、こんな衣装が一般的だった時代があったはずだよ。」
「じゃあこれはその時代の人が描いた絵なのかしら。・・・あ!」
絵を眺めながら歩いていたマリーが、急に声を上げて立ち止まった。
視線はそこにある一枚の絵、その真ん中に描かれた人物に釘付けになっている。

「シルファ!これって!」
慌ててシルファの服を引っ張った。
「うん。やっぱり気がついた?」
シルファが大きく頷き、2人は目を見合わせる。
「「女神、エルス様!」」

薄い金色の波打つ髪。透き通るような真紅の瞳。
淡い光に包まれて、天に浮かぶ女性。

ノエルの言っていたままの姿だ。
女神エルスであろうその美しき女性は、穏やかな微笑みを浮かべ、人々に手を差し伸べていた。

厳かで気高く、それでいてどこまでも愛に満ちた微笑み。
慈愛の女神、エルス。
そしてそこからは、人々の幸せな暮らしとそれを見守る女神の姿が、何枚にも渡って描かれていた。

「宗教画、っていうのかな。だとすれば、ここに居たのは女神エルスを信仰していた人ってことになるよね。」
シルファが言った。
マリーはまだ、美しいその絵を見つめている。
「みんな、幸せそう・・。」

確かに、描かれた人々は皆一様に幸せそうな笑顔を浮かべている。
豊かな実りに感謝し、祈りを捧げる場面の絵もあった。
そして必ず、彼らと共に描かれているのは、あの美しい女神の神々しい姿。

「でね、マリー。」
シルファはマリーの肩に手を乗せると、今度は反対側、彼らの来た方向から見て左手側の壁を指した。
「次はあっち側の壁を見て欲しいんだ。」
促されるまま、逆側の壁へと近づく。
そして、壁の前に立ち目を凝らした。
「これは・・・。」
心なしか彼女の表情が曇る。
見つめる先にあったのは、先ほどと同じく、絵。
だが。

「あっちのと全然違う。なんか・・、怖い。」
顔をしかめたままマリーは正直な感想を口にしていた。

先ほどのものは、壁画、というよりもむしろ飾られた絵画のようなもので。
見ている者の心に響く美しさがあった。
対して今、目の前にあるものは。

壁に直接書きなぐられている、まさに壁画と呼ばれるもの。
華やかさ、美しさとは真逆の色使い・・、闇のような黒、暗い茶色、そして、どす黒い赤。
生き物は、円と線だけの単調なもので、辛うじて人間だと判別がつくような代物だ。

マリーは無意識に両手で自分の身体を抱きしめながら、壁に描かれたその物語を目で追ってゆく。
何故だか、背筋が寒くなるような嫌な感じがする。
表情のない生き物たちの姿がやけに不気味だ。
暗いこの場所が、一層暗くなったかのような錯覚さえして、マリーは小さく身震いをした。

始まりは、人々が集まり暮らしているような絵だった。
その向こうには、湖・・のような楕円と、なにか大きな建物のような物が見える。
太陽と森があり、人々の日常の様子を表しているらしい。

だが、次の絵で場面は一変する。

湖の向こうの黒く大きな建物から、黒い布を纏った人間たちが大勢やって来て、暮らしていた人々は、やがて追い詰められていく。
逃げ惑う人々、焼かれる森。
炎か、血か。
激しく塗りたくられたどす黒い赤色は、何を表しているのだろう。

闇色に黒く塗りつぶされていく、人々の世界。

彼らは追われるまま、山、そして森の奥へと進んでゆき・・。
その先に描かれていた景色を見て、マリーが悲鳴に近い声を上げた。
「これ!まさか、さっきの?!」

絵の中で人々が逃げる先には、山の斜面にぽっかりと開いた黒い穴。
「私たちが入ってきた、あの入口じゃないの?!」

Re: はじまりの物語 ( No.87 )
日時: 2015/11/08 14:19
名前: 詩織 (ID: 02GKgGp/)

真っ黒い穴に、人々が逃げ込んでいく。
無造作に描かれた人間たちの中には、子供や赤子を抱いた母親のようなものや、彼らを追う黒い衣の人間らしき人影も混じり合っていた。

マリーは無言で、その絵物語を目で追ってゆく。

その次の絵は、2つに分かれていた。

1つは、暗い道の先に部屋のような空間がある。そこには、逃げた人々が描かれていた。
もう1つは、どこかの森の中のような景色。そこには、追ってきた黒い衣の人間たちがいる。

「見て、ここ。」
シルファがその絵を指さした。
「逃げた人たちは、こっちの絵・・、多分今僕らがいる場所だと思うけど・・、そこに進んでる。それを追ってきた、この黒い人たちはこっち・・、森みたいなところに、いきなり出てきてるだろ?」
「うん。」
「僕はこれがさっきの転送魔法を表してるんじゃないかと思うんだ。」
「転送魔法?って、さっきの?・・あ!そうか、この地下道と部屋みたいなのがある方が私とシルファが飛ばされたトコだとすれば・・・、ジェンとラヴィンはこっちの絵の方・・、森の中のどこかへ飛ばされたんじゃないかってこと?シルファはそう思ったの?」
「そうなんだ!」
ここにきて初めて、シルファが少し嬉しそうな顔をした。

「僕の推測だとね、多分あの場所には転送の魔法陣が仕掛けてあって、何か設定された選別方法で振り分けて、この場所か、森の中のどちらかに送られるんじゃないかって。この絵の中だと味方と敵になるけど・・、振り分ける為に味方だけに共通した何かがあったんだと思う。それで味方だけがこの場所に来れて、敵・・なのかな?・・のような人間たちはここには入れずに、森の中に弾き出されたんじゃないかな!」
「じゃあ、じゃあ私たち4人は、何らかの条件で2人ずつに分けられてしまって。私たちはこっち、ジェンたちは・・・どこか山の森の中にいる!そういうことね!」

マリーの頬に、うっすらと赤みが戻ってきた。
まだ推測の域はでない。
でも、少なくとも壁画の中の黒い衣の人間たちの場面に、あの赤色はない。
森の中を彷徨っているようには見えるけれど、それだけだ。
『少なくとも、命の危険はないと思う。』
シルファの言葉の意味が分かった。
これがこの場所を守る為に仕掛けられた転送で、行き先が普通の森の中ならば。

「あの2人だもの。きっと無事だわ。」
そう思ったとたん、急に力が沸いてきた。

「早く2人と合流する方法を見つけましょ。」
そう言って見上げると、シルファも力強く頷く。
瞳に輝きが戻り始めたマリーを見て、シルファはほっと息をついた。
(大丈夫だ、きっと。)

マリーは壁へと視線を戻す。

次の場面は、逃げ込んだ人々が、地下道の先にある部屋のような空間に集まり、何かに祈りを捧げるような姿勢をとっていた。


そしてこれが、この壁に描かれた壁画の、最後の場面でもあった。

「この人たちはどうなったのかしら・・。」
壁の中の人間たちに視線を向けたまま呟くマリーに、シルファはかぶりを振った。
「分からない。でももし絵の通りここがその場所なら、この道の先に大きな部屋があることは分かった。まずはそこまで行ってみよう。何かわかるかも知れない。」
「うん!」

シルファの言葉にマリーは大きく頷くと、再び彼の手をとって勢いよく歩きだした。
先ほどよりも、ずっとずっと、力強い足取りで。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

「ねぇシルファ。」
「ん?」
歩きながらマリーが尋ねた。

「ノエルさんの話だと、この山ってそもそも『魔女の棲む山』なんじゃなかったの?エルスさまに戦いを挑んで滅ぼされた、悪い魔女の亡霊がいるっていう。それなのにさっきの絵・・綺麗なほうね、あれを見ると、本当にエルスさまを大切に思ってる人が描いたようにしか見えなかったわ。」
「うん、僕も。」
「どうしてかしら?シルファはさっき、ここに居たのはエルスさまを信仰してたひとじゃないかって言ったけど・・。そうすると、ノエルさんから聞いた伝承とは全く逆になっちゃう。」
「そうなんだ、そこは僕も気になった。でも、前にジェイドさんが言ってたことがあるんだけどね。」
「社長さん?」

首を傾げてシルファを覗き込むマリーに、シルファは神妙な顔で言った。

「そう。いろんな国を旅してた頃の話をしてくれた時にね。・・『語られる歴史は、必ずしも真実ではない』って話。」
「嘘だってこと?」
「ううん。全部ウソっていうんじゃなくて。んーと、確か、『それを語るものによって、歴史は作られるから』って言ってたと思う。」
「ふぅん?」
マリーは漠然と分かったような分からないような、そんな声を返した。

だから、惑わされるな、自分の目を信じることも大切だ、って。
そうシルファは続けた。
僕もまだよく分かんないから受け売りなんだけどね、と小さく笑いながら。

そんな話をしながら2人が歩いていくと、突き当り、大きく開かれた空間に出た。
「ここだ。あの壁画にあった部屋はきっとここのことだね。」

相変わらず薄暗さは変わらない。
魔法の光がほのかに照らす空間に浮かび上がるのは、あの壁画の物語の最後で人々が集まって祈りを捧げていた場所。


「なんにもないわね。」
マリーの声が静かな空間に響く。
シルファはゆっくりと辺りを見回すと、部屋の奥に向かって手を掲げた。
「あ、明るくなった!」
マリーが声を上げた。
シルファが魔法で明かりを増やしたから、辺りが大分見えやすくなったのだ。

「あそこに何かある。」
シルファは部屋の奥を見つめると、そちらに歩き出した。
マリーも急いで後を追う。

「・・女神像か。」
そこにあったのは、優しい顔で見下ろす女性の像。
ここまでの状況を考えると、おそらく、女神エルスの姿をかたどったものだろう。
絵の中で人々が祈りを捧げて頭を垂れていた姿を思い出す。
あれは、この像に向かって祈っていたのだ。

(・・・・・。)
シルファは黙ったまま、微笑みかける女神の顔をじっと見つめた。

「シルファ、こっちは?これもエルスさまかしら?」
シルファがマリーの方を見ると、彼女は少し離れた壁際に立っていた。
そこには、一枚の大きな絵がそっと置かれている。

「最初の綺麗な絵みたいなのがあるの。どう思う?」
シルファがマリーの隣まで歩いていくと、そこにあったのは、マリーの背丈くらいの大きな肖像画。それがそっと、壁に立てかけられていた。

「エルス様・・。いや、でも・・?」
一瞬、エルス様だと無条件に思った。
ここに来てからずっと見続けてきた姿。緩やかなウェーブの髪、美しい紅い瞳。

けれど・・。

「なんか、ちょっと違う気がするな。」
直感的に、そう口にした。

絵の中の少女を、じっと見つめる。

——— そう、それは『少女』だったのだ。


Re: はじまりの物語 ( No.88 )
日時: 2015/11/08 14:14
名前: 詩織 (ID: 02GKgGp/)

淡く輝く金色の髪と紅い瞳という、ここまで描かれていた女神とそっくりな容貌だけれど。
絵の中の女性は、『女性』というよりもむしろ『少女』と呼べるような年頃に見える。
ラヴィンやシルファと同じくらいの。

確かに美しいけれど、神々しいというのとは少し違った。
同じく優しい微笑みを浮かべてはいるが、それはどこか可愛らしくて。

「この絵、神さまっていうより、人間の女の子みたいね。」
マリーも同じことを思ったようだ。そう言いながら、絵に顔を近づけた。

(だとしたら、誰なんだ?女神に生き写しの『人間』?)


「ねぇシルファ!ここに何か書いてある。これって、あの文字じゃないの?」
「え?!」
マリーの言葉に、シルファも急いで顔を近づけてみる。
確かに、絵の右下隅に小さく書きこまれているのは、あの魔法文字だ。

「ちょっと待って。これは・・・ええっと・・。」
シルファはその文字をしばらく黙って見つめた後、口の中で呟いた。
「・・ユア・・・ラ・・リィ、リー?メイル・・・。」
「どういう意味?」
「ユア、は聖なる、神聖なもの。ラは・・女性。リィ、リーメイル、かな。人の名前?」
「聖なる女性・・。リーメイル。この子の名前かしら。」
2人は、絵の中の少女を見つめた。


「ねぇ、マリー。」
しばらくして。シルファがぽつりと言った。
「なあに?」
「僕、君に聞きたいことがあるんだ。」
「・・・・。」
いつもの彼とは違う、少し緊張の入り混じった声に、マリーは黙ったまま視線を上げる。隣に立つシルファを見上げた。

「ここに飛ばされる前、あの転送魔法のあった場所で、微かに魔力を感じた。今ここに溢れている魔力と同じ質のものだ。あの時、僕はどこかで、この感覚を感じたことがあると思った。それをさっき、思い出したんだ。」
「・・・」
シルファはマリーと目線を合わせるようにしゃがみ込むと、彼女の目を見つめながら言った。
「君と、初めて会ったとき。あの時感じた、僕の知らない魔力の感覚。あれと同じものが、ここには満ちている。」
マリーは口を結んだまま、シルファの瞳を見つめ返した。

ーーーー ー ー ・・・

『・・でも、マリーからは魔法の気配がすごくしてくるんだ。しかもとても濃厚に。』

『なんだろう?よく分からないんだけど、僕が今まで見てきた魔力とは、なんか違う気がする・・・。今まで感じたことのない感覚な気がするんだよなぁ。強力なのに、種類が全く違うっていうか・・。』

『でも、ちょっと事情があって、そういうことにしてる。ごめんシルファ。マリーことは、ここで会ってもそっとしといてあげてくれるかな。』


———— ラヴィンと交わしたあの日の会話が蘇る。

そう、あの時感じた、不思議な魔力。あれは今ここで感じるものと確かに同質だった。
そして、きっとこの古代魔法文字も、そこに繋がっている ———— 

「君が話したくないことは、聞かないようにと思ってた。僕は、今の君と友達になったんだから。君に嫌な思いはさせたくなかった。」
シルファの瞳には、マリーを気遣う色が浮かんでいた。
「でもね。僕らがここに飛ばされたことに、ここの魔法が大きく関わっている。ラヴィンとジェンを見つける為に、この魔力を知ることがどうしても必要なんだ。」

シルファが言いたいことが、マリーには分かった。
「ごめん、マリー。君の魔力について、・・昔、君に何があったのか教えてくれないかい?」
静かに、真摯な思いを込めて、シルファはマリーに尋ねた。

マリーは、シルファを見つめていた。
目をそらさずに。

そして、小さく頷いた。
「分かったわ。いいわよ、シルファなら。」
そうして、近くの壁まで歩いていくと、壁にもたれるようにしゃがみこんだ。

「そっか。まだ残ってたのね、私の『魔力』。」

憂いを帯びたその呟きに、シルファは両手を握りしめ、マリーの隣へと寄り添うように腰を下ろした。

Re: はじまりの物語 ( No.89 )
日時: 2015/11/08 19:23
名前: ビタミンB2 (ID: fOamwJT9)

こんばんは
マリーちゃんの重大発表なのに……割り込みすいません。
あれ? 何かデジャウ……

あそこが伏線か……気が付きませんでした。愛すべきマリーちゃんに、何があったのでしょうか? 気になります……
リーメイルさんとの関係も? あるのかな……

続き、とっても気になりますね……楽しみです!


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