ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

スキルワールド
日時: 2019/02/24 17:59
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1029

 どうも、マシュ&マロです

 この小説は『スキル』と呼ばれる能力を持つ者が存在する世界を題材にしたファンタジー作品です。
{自分の文才はかなり低いですが、諦めずに書こうと思っています}



※注意書き※

・オリキャラの募集はリクエスト掲示板でやっています。

・小説への意見や指摘は、リクエスト掲示板にあるスレットへお願いします

・作者は投稿が遅かったりしますので、ご了承下さい

・スキルワールドの説明などはリクエスト掲示板にありますので興味のある方はお読み下さい


それでは小説スタートッ!!



 第一幕『黒奈友間という少年』
 >>64


 第二幕『一人の裏切り者』
 (前半)>>102

Re: スキルワールド ( No.197 )
日時: 2020/09/13 22:45
名前: マシュ&マロ (ID: y7oLAcgH)



 思わず飛び出す安堵の吐息。


 「ほっ.......うっ!?、痛ててて!」


 安堵も束の間、抉れた右脇腹が激しい痛みに襲われ、ニコラは額から汗を吹き出しあまりの痛みに地面へ倒れ込む。


 沖田はその様子に少し苦笑いを見せつつ、交戦中のノアへと問いかける。


 「お前の奥の手が消えた訳だが、これから何をしてみせるつもりだ?」


 沖田は放たれたビームを体を捻り避け、軽く飛んで次の一発も回避し着地する。

 そして攻撃の手が止むとゆっくりと歩を進め、刀を肩に立て掛けつつノアの様子を伺う。


 「ふはははははははははッ!!!」


 突然_____、笑い出したノア。


 その様子に首をかしげる沖田、するとノアはこう呟いた。


 「俺に気を傾け過ぎたな、馬鹿め」


 一瞬それに、呆気に取られた沖田。


 その直後、沖田の背後から何かが吹き飛んだような音がし直後、振り返る間もなく全身に衝撃が走る。


 「うぐッ!!?」


 沖田は背後から伸びた巨大な手に体を鷲掴みにされる。

 その正体は先程、消し飛んだ筈のデスオメガ、そして次元の裂け目らしき所から片腕だけが飛び出していた。


 「どういう事....だ」


 沖田は声を出そうにも先の衝撃で肺を押し潰されかけ声が上手く出て来ない、しかしそんな沖田の問いに答えるようにノアはこう語る。


 「先程そこの小娘が発動したスキル、あれはデスオメガを“本当の意味”で消し飛ばしたのではない」


 その発言に、思わず沖田から問いがこぼれる。


 「本当の意味、だと?」


 「先程のあれ程度で俺のデスオメガを倒せたなどと、思い上がりも甚だしい」


 ノアは一つそれを鼻で笑い、言葉を続ける。


 「あれはデスオメガの“存在自体”を消し飛ばしたのではなく、この世界での“存在意義”を無理矢理に掻き消した上で電脳空間から弾き飛ばしただけの話だ」


 すると不意に愕然とした表情のニコラの方へ顔を向けるノア、そしてこう呟いた。


 「違うか小娘?」


 ニコラは何も言えなかった、ただ目の前に浮かぶ絶望に為すすべなく押し潰される事しか出来なかった。


 「まあ筋は悪くなかったが小娘、しかしお前は一つ勘違いをしている」


 そう言うとノアは一つ種明かしと、とある事を語り出す。


 「デスオメガが電脳世界という空間だけに行動を縛られているのはこの世界でしか存在出来ないからではなく此処が奴の『枷』自体だからだ」


 「枷.....、どうしてそんな事をわざわざ?」


 「何故?、詰まるところ俺とデスオメガは本来は別々の存在だ、言わば俺の力が及ぶ領域内で飼い慣らしている、とでも表現しよう」


 ノアはそこで一旦話題を断ち、本題へと移る。


 「残念ながらデスオメガを付き従わせるのは俺の力を以てしても存分に振るう事は現状では不可能なのでな、幾らか縛りを敷いていただけの事。それをわざわざお前が自ら破ってくれただけの話だ」


 「嘘だ.....、嘘だッ!!」


 “命令『消去』”


 思わず激情の表情を見せるニコラから発せられた命令、するとあの時現れた形無き怪物が再び姿を現し今度はノアへと迫り来る。


 「・・・・・・無駄だ」


 怪物が触れる直前、ノアとの間に見えない壁があるかのように怪物は弾かれ消えた。


 「そんな......」


 代償として消えた左目を庇うニコラの口元からはそんな声にならない声が溢れ落ち、それを嘲笑うかのようにノアは言葉を発した。


 「デスオメガが俺の所有物である以上、俺を殺すことは出来ん。これで種明かしも済んだ事だ、全てを終わらせるとしよう」


 デスオメガの方へ視線を送るノア、すると沖田を鷲掴みにする腕は天高くまで上がり、一瞬の間が置かれた直後、拳は地面へと叩きつけられる。


 「ガハッ!!?」


 思わず吐血する沖田、それに吐血に限らず沖田の全身の骨や内臓は無惨に潰れ、まだ生きている事の方が不思議である。


 「ほお、まだ足掻くのか女? ならば死ぬまで続けろ、デスオメガ」


 デスオメガの拳は再び振り上げられ、即座に地面へと向かって振り落とされる。


 「させないわッ!」


 “命令『転移』”


 その瞬間、ニコラの隣に沖田が転げ落ちてきた。そしてその直後、地面が崩落しかねない程の衝撃が足を伝い、衝撃は風圧となって二人の体を圧した。


 「ぐっ!、大丈夫ですか沖田さん!」


 必死に呼び掛けるニコラ、しかし沖田自身の意識が戻ることはなく、加えて今の代償で左脚の膝から下が弾け飛んでおり歩行はもはや困難である。


 「今直ぐに治療を!?」


 “命令_________ウ.....ッ!?


 心臓が破裂するような鼓動を繰り返し、傷口からはドバドバと血が溢れ返りニコラ自身の限界を告げている様であった。


 「ぐっ!、体が......言うことを・・・・・・」


 意識が揺らぐ、吐き気が酷い、いっそのこと死んだ方がマシと思える程の痛みがニコラを襲い、それに応えるようにニコラは絶叫する。


 「ハハハハハハハハッ!!、無様な事この上ないとはこの瞬間のためにあるというものだな」


 ニコラは必死に痛みに抵抗し、ノアを睨みつける。だがしかしそれが限界であった。


 「もう楽になれ、それがお前に出来る唯一の選択だ。デスオメガ」


 デスオメガが空間の壁を突き破り、姿を現す。そしてニコラ達へ拳を振り上げた。


 (あぁ、私に出来る事はここまで......もっと普通にシエル達と今を楽しみたかったな、・・・・・・もう前みたいに泣かないって決めたのに私)


 一筋、ニコラの右目から頬を伝い一滴の涙が垂れ落ちる。それは後悔か、悲しみか、それとも諦めか......。


 だが、その直後______。


 「なっ......!?」


 デスオメガの拳はニコラに当たるギリギリで止まっている、いや.....この場合止められたと言う方が正しいだろう。


 「・・・・・・シエル?」


 ニコラの視界の先にいるのは紛れもないシエルの後ろ姿である。もう涙が止まらずニコラは地面に伏してしまう。


 「やっぱ私ってタイミング良いわね♪」


 「ちょっとお姉ちゃん、これってタイミング良いに入るの?」


 そんな美香と友間の声、よく見ると皆がいる。呆気に取られているニコラをよそに美香が声をかけてくる。


 「よく持ち堪えたわニコラ、それじゃこっからはストラング最強の出番と行こうじゃないの!」

Re: スキルワールド ( No.198 )
日時: 2020/09/15 21:26
名前: マシュ&マロ (ID: y7oLAcgH)



 美香とノアの間で火花が飛び散る。美香は一つ指を鳴らしスキルを使用する。

 その仮定で美香はニコラに語りかけてくる。


 「あなたのスキル、間違ってたらごめんだけど『特殊スキル』で間違いないわよね?」


 「えぇ、そお......ですが」


 美香は「そう、了解」とでも言いたげな表情を浮かべ、こんな事を呟く。


 「“特殊スキル”に見初められたのか。はたまた、あなた自身が・・・・・・」


 美香のそんな言葉が出かかるが、ニコラ本人が睨みを効かせる


 「無駄話をするために此処にいるのではないのでしょ?、私は私、貴女は貴女のすべき事を互いの理念のために成すだけの関係なのだし」


 「・・・・・・怖い怖い♪、じゃあその事についてはまた後日という事で」


 「私が生きてたらの話ですがね」


 軽い会話を済ませた後、美香は視線をノアへと向ける。そしてこう宣言する。


 「“全スキルの使用を許可”。それと友間、今からお姉ちゃんちょっと本気出すから離れてなさい」


 「う、うん....分かった」


 避難するように遠ざかる友間達、それを見送るとノアに語りかける。


 「待たせて悪いわね。これでお互いに手加減要らずで戦える訳で......、気分はいかが?」


 「フフフフ、この世界で俺を倒せる訳がないだろ? それにデスオメガが存在する限り、俺は殺せん」


 そう堪え切れず笑いを漏らすノア、美香は落ち着いた様子で声を発する。


 「痛い目を見たくないのならガードを上げとく事ね」


 「んっ?」


 ______バァンッ!!!


 ノアの右半身に激しい衝撃が走る、空気の壁......いや、大気の雪崩とも呼べる圧力がノアの右半身を襲い、思わず呻き声を挙げるノアに今度は灼熱の炎が襲いかかる。


 「ぐおっ!?」


 炎を力任せに右腕で振り払うノア、だがその瞬間、ノアの右腕が巨大な氷山の塊に喰われ直後にこの世の全ての苦痛が押し寄せるかの如く痛みと苦しみがノアの肉体を貫く。


 「うぉおおぉおッッッ!?!」


 訳が分からない、理屈の通じない理不尽さに意識の揺らぐ中、美香を睨み付けるノア。

 耐えきれず地面にその体を伏し、激しい苦痛に抗おうとするも無駄な足掻きである。


 「だから言わんこっちゃないわ、スキル『焼却』と『氷獄』を融合」


 ノアは絶叫する内側まで焼き焦げてしまう程の熱量が彼を襲うと共に、皮膚の表面が壊死する程の冷気が板挟みとなり襲い来る。それはまさに地獄である。


 「ッツッッッッッツ!!!?!?!」


 「だらしない、まだ周りに気を使って火力抑えてあげてるんだから抵抗ぐらいしてみなさいよ?」


 微笑を手で隠すような仕草を見せながらそう呟く美香、ノアはその様子に思わずこう叫ぶ。


 「デスオメガァァッッッ!!?」


 天を突く程の巨体、そんな死神が鎌を振り上げる。振り下ろされる様子はさながら隕石のそれとでも言えようか。


 「ふふ、遅いわ」


 デスオメガの顔面に相対するように巨大な拳が出現し、頬に強く打ち付けられる。

 その時に起きた衝撃は美香のいる地上にまで響き、今の一撃で狙いの反れたデスオメガの鎌は何もない地面に突き刺さり、亀裂が入り、大きな地響きを挙げ、舞い上げられた土煙がノアと美香を包み込む。


 「くっ!、デスオメガッ!!」


 土煙が吹き飛ぶ、上を見上げる美香の視線の先には巨大な足裏が見える。

 そして迫り来る物体を見て、美香は笑う。


 「防御系スキル、フル回転」


 美香の周りで様々なスキルによるバリアが展開されていく、数は彼女の姿を覆い尽くす程まで増加し、迫り来る足裏と激突する。


 ________バァアンッッ!!!!


 空気が激しく震える。二つの衝突で起こった衝撃が電脳世界に木霊する。


 「流石に強いわね、全体の3割ぐらいは削られたかしら?」


 声がバリア越しに聞こえてくる。

 するとバリアは徐々に形を変えていき、槍となってデスオメガの腹部を貫いた。


 「ッ!!?」


 目を見開くノア、雄叫びを挙げ吐血するデスオメガ。その様子に美香は満足気に微笑んだ。


 「やっぱ私って最強だわ!」


 決着はもはや着いた、あとはデスオメガの消滅と共にノアを倒す。それだけ済む話..........ならば良かったのだが・・・・・。


 「さてとノア、覚悟は良いかしら?」


 ノアは笑う、大きく笑う。そしてこうも語った。


 「油断大敵だ」


 「・・・・・・・・えっ??」


 直後、美香は違和感を感じた。貫いた筈のデスオメガの消滅が見られない、というかこれは・・・・・・。


 「私のバリアがっ!?」


 バリアが傷口から吸収されていき傷口を塞ぐための糧とされている。美香はスキルを解除しようとするが何かがバリア内部まで侵食しそれを拒否してくる。


 「これは......ちょっとマズイわね」


 冷や汗を流す美香、傷口が完全に塞がる時にはバリアは跡形もなく取り込まれた後であった。


 「これは私、余裕ぶっかましてる場合じゃなくなったわね」


 苦笑いを浮かべる美香、これは
本当に勝てるのであろうか......。

Re: スキルワールド ( No.199 )
日時: 2021/04/10 18:52
名前: マシュ&マロ (ID: y7oLAcgH)



 冷や汗が美香の頬を伝う、額には皺が寄り、息遣いは荒い。


 ーーホント、しんどいわね......


 そう思いつつ頭上を見上げる、私は舌打ちをすると指鳴らしその場から瞬間移動する。

 そして移動し地面に足を付けた直後、何かが爆発したかのような衝撃が美香の両脚に伝わってくる。


 ーーくっ、全く厄介以外の何者でもないわ


 自分が悪態をついたところで状況が変わる事が無いとは理解している、しかし守りの要であったバリア等は敵に奪われた挙げ句、こちらは防戦一方を迫られている。

 あれ?、これって状況的にかなり拙いのでは?


 美香は不意に笑った。別に楽しくなってきた.....というより、馬鹿らしくなってきたと言う方が正しいだろう。


 ーーどうにか時間が欲しい、最低でも1分.....欲を言えば5分は欲しいっ!


 不用意にデスオメガを攻めれば自身のスキルを奪われる、しかし友間達がいる以上は守りに徹している訳にもいかない。


 ーーやっぱりノアを狙うしかないわね、だけど・・・・・・


 チラッ、とノアの方を一瞥するが決して守りが手薄な筈がない。何せここはノアの世界だ、倒すのは至難を極める。


 「はいはい、これが絶体絶命のピンチってやつなんでしょ」


 そう眉を竦めて美香は呟くと、指を鳴らしその場から消えた。


 ーー殺るなら速攻即殺、殺せなくても殺してやるわ!!


 美香の視界に入ってきたのはノアの背中、そして背後へと即死の一撃を放った。


 「んっ.....?..」


 ノアは不意に振り返ったが、もはや回避は間に合わない所まで来ていた、当たれば即死、ノアを守る防御壁が作動するも紙切れ同然にそれを貫き、迫ってくる。


 「デスオメガ」


 ノアがそう声を発すると、突如としてノアと美香との間に裂け目が生じ、
そこからデスオメガの左腕が飛び出してきた。


 ーーまずいッッ!!?


 ガシッ.....!!


 回避が間に合わず美香はデスオメガに掴まれてしまい、徐々にスキルが奪われていく感覚と骨の軋むような痛みが美香を襲う。


 ーー回避ッ!!


 美香の姿がデスオメガの手の内から消える、そして次の瞬間には友間達の前にその姿を現した。


 「ハア...ハッ、ハア、ハッ.....友間」


 肩で息を切らしながら美香は弟の名を呼ぶ。


 「大丈夫!、お姉ちゃん!?」


 「いいえ、これは勝てないわ」


 美香は苦笑混じりにそう言うとお手上げというように溜め息を漏らした。


 「ホント!、私とあいつの相性が悪すぎなのよ!、相手のスキルを奪うとかチートよ! チート!」


 「お姉ちゃん、落ち着いて!」


 思わず愚痴をこぼす姉を止めに入った友間、しかし姉の愚痴は止まらない。


 「それに金森は何処?、確かに一緒に来たわよね沖田?」


 そう沖田へと振り返りながら聞いた美香、すると負傷している沖田に代わりシロが軽く頷きながらこう呟いた。


 「一緒に来たのは間違いない。なら、この世界から弾き出されたと考えるのが妥当だろう」


 それを聞くとまた美香は苦笑を浮かべ、こう言った。


 「シロ、手を貸しなさい」


 「どいつの相手をやればいい?」


 「あのデカブツの相手を任せるわ、ただあいつに無闇矢鱈に触れたり触れられたりしない事、じゃなきゃスキル奪われちゃうわよ」


 「了解した、しかしお前はお前で死ぬなよ?」


 「馬鹿言わないでよシロ、私はストラング最強よ?」


 先程の戦闘でデスオメガにスキルを完全に奪われるまで数秒の間がある事が分かったが、しかし相性が悪い事に変わりがないのでここはシロの出番である。


 「さて行くわよノア」


 「その疲労しきった体で何が出来る、ストラング最強とやら」


 「あっ、今絶対に私のこと馬鹿にしたわよね? しちゃったわよね?」


 「さあ、何のことやら?」


 ノアはとぼけ気味に笑うと、美香は指を鳴らしこう言った。


 「まっ、別に良いんだけどね」


 美香の姿がノアの視界から消える、そして次に美香を見たのは目と鼻の先である。


 「結局、私が最強である事に変わりはないしね」


 そして美香の指を鳴らした音と共に、ノアの視界は強烈な光で埋め尽くされた。

Re: スキルワールド ( No.200 )
日時: 2021/04/29 14:43
名前: マシュ&マロ (ID: y7oLAcgH)


 刹那、ニコラの目に強烈な光が入り込んでくる。思わず目を瞑ると、髪を乱す風が物凄い音を立てて吹き荒れる。


 ーーなんて威力、だけど......。


 ノアは生きている、デスオメガが支配下にある以上は絶対に死ねないのだ。

 焼き焦げた臭いと視界を遮る煙が立ち込める中、一人の物陰がむくりと起き上がり声を発する。


 「火葬にしては火力不足なのではないか?」


 不敵に笑い、そう皮肉混じりにそう呟いたノア。


 「あっ、そう。なら火力を上げるだけよ」


 美香が呟いた直後、巨大な火球がノアの目の前に迫り、片腕を伸ばしノアはそれを迎え打つ。


 バァアッンンッ!!


 ノアと衝突する火球、蒸せかえる程の熱気、大気を通して伝わる振動、それら全てがニコラの皮膚を強く打ちつける。


 「けほっ、けほっ、やっぱり難しそうね・・・・・・」


 ニコラは今、シエルに抱えられる形で沖田達と避難している最中である。そんなニコラの視線の先、立ち込める煙から出てくる人影があった。


 「ふん、デスオメガが存在する状況下で俺は殺せん。何度も言わせるな、甚だしい」


 「そう、私って人の嫌がる事をするのが大好きなのよ」


 美香はそう言ってニヤリと笑ってみせる、しかし心境はそうも余裕はなかった。


 ーーんー、どうにかシロがデスオメガを倒してくれる事を祈るばかりだけど、少し荷が重そうね....。


 チラッと、シロの方を見る美香、ちょうどシロがデスオメガの攻撃を避けたところであった。

 シロは煙に揉まれる中で不意に少し顔を上げ、デスオメガに噛みつくように睨み付ける。

 そして息を短く吐くと、最初の一歩を踏み出す。最初の一歩を踏みしめた左足に全体重を乗せ、次の二歩目で前に思いっきり飛び出しデスオメガの股下を過ぎ去り、その背後に回ると片足で急ブレーキをかけ勢いを殺しつつもう片方の脚に力を込める。


 「フゥゥー........ハアァッ!!」


 シロは飛び出す、音の壁を突破しその衝撃を肌に感じながら力を込めていた足を、迫りくるデスオメガのアキレス腱へと大気をねじ曲げる勢いで叩き込む。


 「ハアァッツッッ!!!」


 ーードッパァァアァンッ!!!


 甲、足首、脛、膝、蹴りを入れたシロの脚全体に衝撃が伝播する。それと同時に顔を歪める程の痛みに襲われ脚の骨にヒビが入った事が容易に理解できた。


 「くっ、やはり無茶だったか・・・・・・」


 呻き声を挙げて膝から倒れ込むデスオメガから急いで退避するシロ、まだ無茶をすれば走れない事はない。しかし、無茶が効かなくなるのもそう遠くはないという事も嫌々ながら自覚できた。


 「はぁ、はぁ、友間さんが十分に離れるだけの時間だけでも稼がなければ」


 足が震える、両足で立っているだけで痛みがビキビキと悲鳴を挙げる。その度に呼吸が荒くなりシロの体力を消耗させる。

 シロは頬からドボトボと滴る汗を自身の二の腕で拭うと、ギラつく歯を見せて笑った。別に喜楽によって笑っている訳ではない、本来の笑う行為とは生物にとって威嚇や向き出しの闘争心の表れであり、シロは高まる鼓動と体温の上昇に伴ってこう叫んだ。


 「来いッ!!!!!」


 今の叫びで大量の唾液が飛んだ、血走った目からは血が溢れ出す。シロは牙を向き出すように笑う、獣のように前傾の姿勢を取った。狙うはデスオメガの喉元、それ以外シロは見ていない。

 血の臭いがした、鉄の溶け混んだような吐き気のする強烈な臭いだ。それはシロのものなのかどうか最早分からない、ただそれはシロを興奮させる。思わずひくつく鼻、これは何処かで嗅いだ事のあるものだ。

 これはシロが過去に置き去りにしていたと思い込んだもの。そう...これは、血湧き肉踊るかつての“闘争”の感覚である。

白き獣 ( No.201 )
日時: 2021/09/23 22:52
名前: マシュ&マロ (ID: y7oLAcgH)





 獣が吠えた。意志なき獣が吠えた。ただ闘うことを旨とし、彷徨うだけの獣が吠えた。


 ーー嫌ッ!!


 獣はもがいていた。何もない空を掴むようにもがいていた。


 ーー誰か、、、ッ!


 獣は呼んだ。縋るような、すすり泣くような声で呼んだ。

 誰かを、、、何かを、、、遠い昔、、、


 そう、これは昔のこと、とある少女が傷つく事を恐れ、苦しむ事を恐れて捨て去った筈の感情。

 捨て切っていたとばかり思っていた感情。


 ーー助けて、、、


 そう彼女は手を伸ばしていた、光に。


 遠い昔、遥か昔、彼女のいない昔に。










 シロは吠えていた、獣の如く吠えていた。


 吠えると同時に唾液が飛ぶ、汗が迸る、血も湧き立つ。

 その理性無き獣はそそり立つ絶壁、デスオメガへと、そしてその喉元へと牙を剥き出しに喰らいついた。


 その直後、デスオメガの巨体から、地鳴りのような叫び声が発せられ、シロの体は大きくなびいた。


「フフーッ!!、フフーッ!!」


 獣は鼻息を荒げ、巨人の喉元に牙を立て、爪でその肉を抉り必死にしがみつく。

 その目は日頃の色を失い、赤く爛々と輝いている。怪物に噛みつく口元には笑みが、返り血を浴びたその頬は、まるで紅葉したかのように一色に染まっている。


 獣の息づかいが聞こえてくるようだ、


 興奮を隠し切れない、隠そうとしない、もはやどうでも良いことなのだ。


 そして獣の両腕に力が入る。


 獣はその喉元を食い破ろうと頭を大きく振った。数度の伸縮を繰り返した後、肉が弾けるような音を立てて裂けた。


 ほとばしる血の雨、歓喜に目を躍らせる獣、痛みに悶える怪物の叫び、そんな光景がほんの一瞬の内に起こり、そして過ぎた。


 その一部始終を遠くから見ていた美香は、今にも胃から何かが込み上げてきそうになり、両手で口元を押さえずにはいられなかった。


 「人間じゃないわ、、、」


 不意に口の端から言葉が溢れる。そう彼女は人間ではない、まるで人間ではないのだ。美香にはそう思うことしか、、、


 「違うッ!!」


 彼女は人間だ、紛れもない人間で、大事な弟の彼女であり大切な家族だ。


 「あの子が道を外したのなら、導くのがお義姉ちゃんとしての役目」


 しかし、美香の視線は他にあり。


 「まずはアンタを始末してからよ、ノア」


 指を差しながらノアを睨む美香、それに対して相手は意に返さない様子でこう述べる。


 「やってみろ」


 両者の間に火花が走る。


 死合の合図にそれ以上の言葉はいらない。

 





 


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。