二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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  ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転完了】
日時: 2013/04/04 01:11
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342

※ (紙ほか)での更新は終了いたしました。
  (映像)で、『  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ』として更新を続けておりますので
  上記参照よりお越しくださいませ。




【 目次 】      >>512
【 重要なお知らせ 】 >>707




 漆千音です。元Chessです。祝・改名一周年((詳しくは >>496



 これは『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』の小説バージョンです。
バージョンですが現在おりじなるわーるど全開です。
ゲーム内で腑に落ちなかった点を自分なりに修正しているうちにややこしくなって
結果ゲーム以上に腑に落ちない点が出てきているかもしれず——小説書きの才能ください←

 過去に間違えて「まもりぶと」って書いちゃって「守り太」とかに変換された守られたくねぇ的な
考えをしたのは後世まで残してやろう。((黙


裏話      >>574
裏話そのに   >>601




【 ヒストリー 】

  2010
8/30 更新開始
9/30 参照100突破に喜ぶ
11/15 十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
11/16 参照200突破に万歳する
12/7 参照300突破にガッツポーズする
12/13 ようやく返信100突破に浮かれる
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
1/27 参照600突破に調子に乗る
3/24 参照1000突破に踊る
3/25 返信300突破・サイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 返信500突破・サイドストーリー【 夢 】
8/11 teximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 フレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 目次編集。これで字数を500くらい減らしたぜ
    サイドストーリー【 僧侶 】
    時間についての説明をアップ >>639
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 サブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
10/30 >>3 メイン登場人物に編集しました。ネタバレはなし。
   &過去の自分の超絶関係ない話を削除。返信数にずれが生じていますがあしからず。
11/4 >>676 『未世界』の説明を掲載。
11/7 四人の超綿密設定掲載。初3000字越え。
12/8 漆千音&十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。未だ時々間違える。
12/9 レヴェリーさん初コメありがたや((←
12/16 重要なお知らせ掲載。詳しくは >>707 へ。

 2013
1/14 移転開始ー。ようやく編集終わった。
1/24 >>727 ⅩⅤ章登場人物紹介チェルスのみ編集。
1/25 >>590 ようやくサイストⅢの編集。マイレナの代わりにアーヴェイを関わらせてみた。
4/3  (映像)への移転終了! 今後の更新はあちらになります。(お知らせ参照)




 今までありがとうございました!
 今後もよろしくお願いいたします。

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Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.603 )
日時: 2012/09/07 22:30
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

                マント  フード
 こんなに暑いのにそいつは、黒い外套に頭巾と、非常に暑苦しい姿をしていた。
しかも、そのまま——蹲るマルヴィナの前に、立ったのである。
セリアスは思わず、その場から引いてしまったのだ。
マルヴィナがはっとする、が、顔は上げられない。そのまま、そいつは、呟いた——



 べホマ、と。





 マルヴィナの頭の傷から、金色の光が生まれ出で、そのまま身体中を包み込む!
キルガが目を見張り、セリアスが唖然とする、その眼の前で、
マルヴィナの頭の包帯の中から流れ出ていた血が、止まる。
驚いてマルヴィナは、頭を上げた——痛く、ない。
どころか、傷が——。
「え? ・・・・・・・え?」
 混乱し、手を見て背を見て頭を触り、首を傾げて前を見る。黒外套が立ち上がる。
「え? ——待っ・・・!」
 待って。その言葉には、応えてくれなかった。だが、何かを言っていた——


 “マタアトデ”


 と。





「マル、ヴィナ・・・大丈夫か?」
 念のためにと、セリアスが訊いた。キルガが手を貸し、マルヴィナを立ちあがらせる。
頷くまえに、マルヴィナは血染めとなった包帯を外した。二人が目を見張った。
そこにあったはずの大きく、生々しい跡は、跡形もなく、消えていた。
「え?」    ベホマ
「まさか・・・完治呪文? 今のが・・・」                           ベホマ
 どのような傷でも完全に回復させるという、僧侶のみ使うという、最高位の回復呪文——それが、完治呪文。
「ちょ——今のは誰なんだ? なんで助けてくれたんだ? そしてありがとーう!」
 混乱しながら礼を言うセリアス。尤も、もう姿はそこにはなかったが——
「・・・今の人、何か・・・」キルガは呟いた。・・・が、自分の考えが馬鹿らしくなって、言うのはやめた。
だが、実のことを言うと、セリアスもまた、キルガと同じことを思っていながら言わなかった。


 ——懐かしい。










 謎の黒外套に助けられてから元気になったマルヴィナは、その分よく動いた。
竜戦士が襲ってくる。返り討ち。ヒートギズモが炎を吹く。追い風。緑竜が薙ぎ払う。払いかえす。
暑いのを払うように熱くなる彼女を見て男二人はやれやれと息を吐きながらも加勢。
そうこうするうちに頂と思しき場所に着く。
「うしゅああああー、着ぅいたぁー」
 何とも気の抜けた声でセリアスは脱力したのだった。


「天使だから当然のように思ってしまっていたが」
 山頂——の手前の坂を昇りながら、キルガが言った。
「グレイナルが存在していたのは三百年前。・・・普通の人間じゃ、既にこの世にはいないはずだった。
けれど、ちゃんと今もいる——竜族というのは長生きなんだな。おそらく生命力は、天使と変わらないのだろう」
「シェナを見りゃわかることだ。・・・人間界にも、天使みたいなのがいたんだな」セリアスが頷く。
「世界って不思議だよね」マルヴィナ。「・・・でも、グレイナルは、竜族じゃない」
「え?」
「へっ?」
 キルガとセリアスが、ほぼ同時に問い返した。
 マルヴィナの声は低かった。独り言でもいうような声で——だがすぐにびくりとする。
「・・・あれ? ・・・何でこんなこと知っているんだ?」
「はぁ?」
 セリアス。「おい、ボケたか」
「・・・肘鉄喰らいたいか」
「スンマセン」
 セリアスが脱兎の勢いで三歩逃げた。
「・・・ちなみに、だったら何なんだ?」
 キルガは首を傾げるも、あえて詮索はせずそちらを尋ねた。
「・・・うん。・・・でも、言わなくても、すぐわかる——」

 はかったように、その咆哮は、響いた。
その声、雄叫び、凄まじく、猛々しく、雄々しく。

 頂上。          ・
そこにいた、グレイナルという者は—————・・・。







「竜・・・・・・・!?」









 白く、大きな—————光竜だったのだ。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.604 )
日時: 2012/09/09 01:10
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 暖かい日差しが辺りを照らすその部屋で——
 シェナは、目を覚ました。
                          ・・・
 いつの間に寝ていたんだっけ。・・・あれ、でも私、今あの里に向かっているはず。
この部屋——あぁ、懐かしい。ここは、私の———・・・




「———————————————————————っ!!!!」




 瞬時に、複数の箇所のスイッチが入った。
がばっ、と身を起こし、立ちくらみ—いや、起きくらみ—をおこして倒れこむ。頭をぐらぐらさせながら、
けれどシェナはかつてないほどに焦っていた。故郷を懐かしむ余裕など、なかった。

(ど)
 どくどくどく。心臓が大砲のように大音を奏でる。
(どうしよう——どうしようどうしよう!!)
 頬を緊張させて、シェナは思った。
(ドミールだ、ここは、ドミールだ・・・・・・・・っ!!)
 知られてしまっただろう。仲間たちに、自分は、天使ではないと。
天使と同等の力を持つだけの、地上の民に過ぎないと。
(ね、熱っ・・・!)
 そう、熱。熱で、倒れたのだ。
馬鹿、自分を罵った。
ドミール出身だと、知られないために——どうにかして、里の民にばれないようにするか。口止めするか。
今更考えると、どう考えても不可能なことをやって見せようとしていたのだ。
その時からすでに熱はあったのかもしれない。
・・・焦って落ち込んで、そして——冷静になって、思った。
・・・おばあさまは? ケルシュは? そして——

 嫌いだった、あの少年は?

 命を懸けて自分を救おうとし、返り討ちにあい、それなのに私は何もできなかった、しなかったあの少年は、
今一体、どうしているの——?




「っ!」

 音がして、シェナはそちらを見た。そして——止まった。
そこにいたのは。


「シェナ、さま・・・」
「ケルシュ・・・・・・・・?」

 祖母意外に頼りにし、好きだった、騎士の姿だった。



              ・・
 ケルシュは無事を祈り続けた少女を目の前に、思わず涙を流しそうになる。  ・・
だが、騎士の務めは。先にすべきことがある。なにより、騎士ではなく、ひとりの家族として、
言うべきことがある。
 互いに静かになってしまったそこで——ケルシュは、シェナの前に立ち、膝を折り腕を水平に掲げ、
頭を垂れて敬礼をした。騎士のすべき、行動。
 困惑するシェナの前で、ケルシュは言う——ずっと言いたかった、言葉を。






      ・・・
「お帰り——シェナ」







「!!」
 いつしか、そう呼んでくれなくなった名。  ・・
従者としてではない、ひとりの、もうひとりの、家族として、呼んでくれたその名。
 シェナは、思わず拳を握りしめた。
ゆっくりと立ち上がり、ケルシュの前にしゃがむと、その首に腕を回した。

「ただいま・・・ケルシュ・・・!」

 彼女の眼に浮かんでいたのは、一粒の涙。











 グレイナルだと、竜は名乗った。
その大きさ、存在感。圧倒される。だが——不思議と、猛々しさは、闇竜よりもかけているように見えた。
・・・それは、その歳のせいか。
「・・・わたしは、マルヴィナという。こちらは——」
「貴様ら」
 マルヴィナが仲間を紹介するより早く、グレイナルは言った。
「・・・そのにおい、忌まわしきガナン帝国! 性懲りもなくまた儂を狙ってきおったか!?」
「え?」「は?」「ちょ」
 マルヴィナ、キルガ、セリアスと、三テンポ綺麗に問い返す。
「はぐらかしおっても無駄じゃ、忘れるはずもない。・・・ならば儂とて容赦はせん、
年老いたとて舐めるでない。古の竜族の力、見せてやろうぞ」
「待った! ちょっと、待った!」マルヴィナが慌ててそれを止めた。「それは違う!」
「違うとな」グレイナルは嗤った。「この期に及んで弁解か。いつからそれほど見苦しくなった、帝国の犬よ」
「だから、違うって言ってるだろー!?」セリアスだ。「俺らは、あんたの力を借りに来たんだ!」
「僕らは、シェナの・・・この里の民シェラスティーナの、仲間です」キルガも言った。
「復活したガナン帝国に相対できる力を持つあなたに、協力を頼みたいのです」
「シェラスティーナ? ・・・あぁ、『真の賢者』か」
 グレイナルはその爪で首筋(?)をかく。「・・・そうか、あの娘が帰ってきたのか」
「信じていただけますか」キルガは静かに、祈るように言った。だが、相手は相変わらずだった。
「帝国に捕まったというのならあの娘も、帝国の者となったという事か。
ならばこのにおいは、あの娘によるものということだな」
「おい」
 セリアスが、抗議と、非難の声を上げたが、思ったよりその声は小さくなってしまい、相手には聞こえない。
「同じことだ、とにかく帝国のにおいを纏ったものに協力など」
「願い下げなのは、こっちも同じだ」
 先に鋭く言ったのは、マルヴィナだ。キルガが、セリアスが、驚く。
彼女はその眸を、怒りに燃え上がらせていた。
「仲間を・・・わたしらの大事な仲間を侮辱する者に、もう用はない。ましてやあなたは
シェナをよく知るものだろう。ならば分かるはずだ、彼女が帝国なんかに手を貸すはずがないと!」
 グレイナルはその大きな眼で、ぎっ、とマルヴィナを睨みつけた。マルヴィナは怯むことなく、睨み返す。
「・・・ほう、このグレイナルに、意見するか。それは無知ゆえか、若さゆえか」
「どうだっていい、とにかく仲間を侮辱する者に、手など借りない!」
 キルガとセリアスは黙ったままだったが、マルヴィナの言うことを否定はしなかった。
どこかで、彼女と同じことを思っていたから。少し、彼女より勇気が足りなかっただけで。
この勇敢さを、キルガは好きになったのかもしれない。セリアスはこんな時にも拘らず、そう思った。
 黙ったグレイナルに、踵を返しマルヴィナは仲間を促した。
「・・・帰ろう」
 二人は、頷いた。その場から、足音が消えてゆく。
グレイナルは、その場で、少しだけ笑っていた。

あの向こう見ずな眸を、思い出しながら。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.605 )
日時: 2012/09/09 20:00
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

「・・・そう」
 シェルラディスの死を、心苦しげに告げたケルシュに、シェナは思ったよりも冷静に答えた。
「・・・なんとなく、想像はしていたの。・・・駄目ね。覚悟はしていても、受け入れるのは厳しいわ」
「・・・シェディ様も、同じことをおっしゃっていました」ケルシュは顔を伏せ、言う。
「貴女がお生まれになり、母君が亡くなられたとき」
「・・・そっか」
 シェナは虚空を見上げた。
「・・・最後の言葉は、覚えてる。邪に屈するな、死を見るな——・・・忘れたことはなかったわ。
なかったのよ。・・・・・・・・・・・・・・でもっ・・・」
「シェナさま?」
 いつの間にか視線を落とし、シェナは苦しげに顔を歪めていた。けれど、それ以上は、語らなかった。
ケルシュはその様子にただならぬものを感じる。『でも』?
 どうかされたのですか。言いたかったが、言ってはならないような気がした。何とも言えぬ沈黙が落ちる。
が、ふとシェナは、その表情を元に戻すと、ケルシュを見た。
「そういえば、今の里長は誰が務めているの? ケルシュ?」
「いえ、私など。ラスタバです」
「ラスタバ・・・あっ」シェナはいきなり、弾かれたように身を乗り出した。「ねぇ、ディアは? 彼は——」
 シェナのその問いに——ケルシュは、その表情を、隠せなかった。

 ——哀切。
          ・・・
「・・・三百年前——あの後、命を落としました」
「——————————————————————————っ!!!」

 シェナの顔が、蒼白となった。
顔を伏せ、毛布を握りしめて。

 けれど、彼女は、呟いたのみだった。
眸の奥に生じたものを堪えながら——「そう」——と。





                                    ・・・・
 先程より気まずい空気を作り出してしまったその部屋の雰囲気を変えたのは、あの三人だった。
「ただいま——あぁっシェナ、目が覚めたのかっ!!」
 里長の家に『ただいま』とか言って、マルヴィナはそのままシェナに気づき、駆け寄る。
ずっと騙し続けていたことを思い出して、シェナは目をそらして、小さく答えた。
「で。シェナ。なんかいう事あるだろ」
 あぁ、やっぱり。シェナは、反射的に肩をすくめた。ずっと騙してきたこと。やっぱり、やっぱり——
「なんで体調悪いこと、黙っていたんだ! 熱があるならちゃんと言う、ちゃんと言って休む!
身体壊したらどうするんだ!?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
 想像していた言葉とは別のそれに、シェナは思わず目をしばたたかせた。
見れば、入口に立つキルガは「だから大丈夫か、って聞いたんだ」と苦笑するし、
セリアスは「もっと頼れもっと使え、まったく!」と口調の割に笑っている。

 ・・・誰も、言わない。隠していたこと、騙していたこと。

 シェナは、ようやく——今更——今になって初めて、悟った。
自分は、無駄に怯えていただけなのだと。
どこの出身だろうと関係なしに、彼らは自分を認めてくれるのだと。
 言い表せぬほど胸がいっぱいになり、シェナは思わず歯を噛みしめた。
あまりにもあっさりと許してくれた——却って、辛くなるほどに。

 ・・・それでも、言えない。


“ —・・・・・・・・・・・・・・でもっ・・・— ”


 その先の、言葉だけは。






「ところでマルヴィナ殿——首尾はいかがでしたか?」
 ケルシュが改まって、マルヴィナに問う。が——彼女は、「あー」とお茶を濁しかけて、けれど素直に言った。
「うん。追い返された」
「・・・はい?」
「追い返された。機嫌損ねられてさ」セリアスだ。「一体何のために来たんだろな、俺ら」
 はっはっはっ、と力なく低く笑うマルヴィナとセリアスの二人は結構不気味だった。
「でも、この里はガナンと戦った人々がたくさんいるんだろ? 何かつかめるはずだ。
ここで諦めるわけにはいかない。・・・だから、わら布団で構わないからここに滞在する許可を欲しいんだが」
「・・・いや、あの、マルヴィナ殿。・・・お客人に、ましてシェナさまのご友人に、
そんな不躾な真似はできませぬ。宿屋をお使いください、無料で提供いたします」
「え」マルヴィナが若干上ずった声で言う。「いいの?」
「構いません。私が話をつけておきましょう」
「わ、ありがとうございます!」マルヴィナが手をたたいて喜び、ケルシュは早速宿屋へ向かう。
彼の姿が見えなくなったときに——黙っていたキルガはぼそりと言った。



「・・・狙ったな」

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.606 )
日時: 2012/09/09 20:47
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

            2.





「・・・よく、似ています」
 セリアスは、ラスタバに言われた。
「・・・はい?」


 それは、翌日のこと。
 驚くことにセリアスはその日、彼にしては早い時間に起きたのである。
目覚めの筋トレも終え、加えてドミールの里を見ておきたくて、セリアスはひとり探検していたのだ。
冒険者の好奇心だ。
 朝のいい時間にもなってきたので、セリアスはシェナの様子を確認すべく里長の家を訪問しようとしていた。
そこで、家の前に並ぶ墓に手を合わせるラスタバに、出会ったのだ。


「清涼の朝に、恩寵を。・・・おはようございます、セリアス殿」
「せいりょ・・・? ・・・ええ、オハヨウゴザイマス。・・・お参りですか」
 古めかしい挨拶に慣れず、セリアスは精一杯困惑がばれないように応えた。
「えぇ。いつもは、昼ごろなのですが——シェナさまが無事お戻りになられたことに、感謝申し上げたく」
 言ってから、ラスタバはセリアスを見る。「もちろん、あなた方にも」
「いやぁ、俺らのほうが、シェナにお世話になりっぱなしでしたからね。
むしろこっちが、お礼したいくらいですよ」人の好い笑顔。ラスタバは思わず、目を細めて——
気が付いたら、言っていた。

 よく似ています、と。









「私には、息子がおりました」
 セリアスが話を聞いてくれる体勢だったので、ラスタバは続けた。
セリアスはその言葉が過去形だということに、やや遅れて気付く。
「シェナさまと、大体同じ年でした・・・少々、息子のほうが年上でしたかな」
 遠くを見るように、ラスタバは目を細める。
セリアスは何処を見ていいものかわからず、曖昧に視線を彷徨わせた。
「息子さんに、俺が、似ているんですか」
 ラスタバは頷いた。「どこが、と問われると、困るのですが——どこか、重なって見えるのです」
 ラスタバは言ってから、セリアスに向き直った。
「いや、失礼。セリアス殿はセリアス殿ですな。勝手なことを申し上げました」
「い、いえ。・・・続けてください」
 なんとなく、その話を聞きたかった。自分に似た少年の話。
つい最近、シェナに言って空回りしたあの冗談。——あの時シェナが、放心したように自分を見ていた理由。
 彼女も、重ねたのだろうか。自分と、その少年の、面影を。
「・・・息子は三百年前——ガナン兵からシェナさまを助けようとして、返り討ちに遭い——
そのまま、息を引き取りました。・・・あなた方と、同じくらいの歳でした」
 ふたたび、ラスタバは遠くを見る。そこに息子が存在するかのように。
「・・・息子は、子供でした。ですが、それ故に、真っ直ぐだったのかもしれません——
今でも、残っているのです」
 ラスタバの視線の先が、変わった。セリアスも、それを追う。  トンネル
その先は——周りと比べるとどこか新しくもみえなくはない、一つの隧道だった。
「あの中に——息子の存在の証が。シェナさまに向けた、最後の伝言が——今も、まだ」

















           漆千音))キリがいいのです。短いがここで投稿じゃ。
               あー休日って短いのぅ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.607 )
日時: 2012/09/15 08:40
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

「伝言・・・」
 シェナは起きていた。
「・・・ディアのこと、訊いたんだ」
「あぁ」セリアスはベッドの横の椅子の上で胡坐をかきながら、頷いた。
「・・・ごめんね。私も、実は・・・ちょっとだけ、重ねたこともあるんだ。セリアスと、ディアのこと」
 シェナは顔を伏せた。
「凄く、凄く嫌いだった。私の悩んでること、何でもお見通しでさ。凄い不器用だから、それを指摘して、
でもそれ以上のことはできなくて・・・結局、私、怒ってばっかだった」
「うん」セリアスは相槌をうった。
「・・・ディアはさ、私を助けようとしてくれた。なのに、私は、何もできなかった。
叫べなかった。ディアを助けてって、叫べなかった。ディアは私のこと想ってくれたのに、
私は、自分可愛さに、何も言えなかった」
 シェナは拳を握りしめる。セリアスは、今度は答えなかった。答えられなかった。
・・・何だろう、この思いは。
表現できるものではない。けれど——分かることは、決して喜ばしい思いではないということ。
「・・・怖い。・・・ディアの伝言・・・知りたいけど、でも、見に行く勇気がない」
「・・・・・・・・・・・・・」セリアスは黙った。考えた——そして結局、言った。

「・・・俺も行こうか」

 駄目だ。どこかで、彼自身が言っていた。ついていくな。駄目だ。
けれど、一度言った言葉を撤回する自分は、いなかった。
「・・・え」
「ほら。勇気がないときは、誰かが近くにいると、安心するだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・」シェナは黙った。セリアスの眼を見る。無邪気な、純粋な、
ばかがつくほど正直な眼。——そんなところまで、そっくりだ。

「・・・うん」
 シェナは頷いた。
「うん。・・・お願い」









 ・・・             トンネル
 あの日に丁度出来上がったという、隧道。
自分も携わった、開通作業——けれど、こうして通るのは初めてだ。
足音が響く。大体の中間地点には、酒蔵があった。『竜の火酒』——この里の名産で、毎年の祭りで
解禁される非常に濃い酒だ。
そっか、ここに移されたんだ。・・・確かに、ここなら日が当たらなくて、良い酒が作れそうだ。
「え・・・と。ここじゃないか?」
 セリアスが指したのは、少々荒い壁のくぼみの一つ。なるほどそこだけ、何かが隠されているように、
盛り上がり、微妙に色の異なった部分があった。
「・・・うん。多分・・・」シェナは近づき、それに触れかけて——躊躇う。
セリアスが、大丈夫、というように、後ろから頷いた。
シェナは、決意し、壁に触れる——










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」

















 ・・・知っていた。

 彼は、ディアは、少女が好きだった。

 好きだからこそ、彼女の悩みに気付き、励まそうとして、不器用ゆえに失敗して、怒らせていた。
けれど——好きだからこそ、あの日、危険を顧みず、少女を助けようとした。

 だから、だからこそ、彼は。

 それなのに、私は。



 ——好きだったからこそ。



















            ア イ シ テ ル   、  シ ェ ナ
        『 無上の恵愛を、貴女に——  優美なる人へ』


















 だから、彼は——

 そっと、この挨拶を、ここに書いたのだ。







「・・・う」
 シェナはもう、我慢しなかった。
「う、うぅ」
 汚れるのもいとわず、膝をつき、その壁に額をこすり付けて。
「う・・・うぅ、うぁ・・・」
 その双眸から、涙を流して。
「あ、あぁぁぁぁぁぁああっ・・・・・・・・・・・・!!」
 絞り出すように、小さく、小さく、呟く——・・・。







「ごめ、ん・・・・・・・っ・・・・・・・・・ごめん、・・・・ディア・・・・・・・・っ!!」







 あの日言えなかった、その言葉を。


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