二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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  ドラゴンクエストⅨ_永遠の記憶を、空に捧ぐ。【移転完了】
日時: 2013/04/04 01:11
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: b43c/R/8)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=24342

※ (紙ほか)での更新は終了いたしました。
  (映像)で、『  永遠の記憶を、空に捧ぐ。__ドラゴンクエストⅨ』として更新を続けておりますので
  上記参照よりお越しくださいませ。




【 目次 】      >>512
【 重要なお知らせ 】 >>707




 漆千音です。元Chessです。祝・改名一周年((詳しくは >>496



 これは『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』の小説バージョンです。
バージョンですが現在おりじなるわーるど全開です。
ゲーム内で腑に落ちなかった点を自分なりに修正しているうちにややこしくなって
結果ゲーム以上に腑に落ちない点が出てきているかもしれず——小説書きの才能ください←

 過去に間違えて「まもりぶと」って書いちゃって「守り太」とかに変換された守られたくねぇ的な
考えをしたのは後世まで残してやろう。((黙


裏話      >>574
裏話そのに   >>601




【 ヒストリー 】

  2010
8/30 更新開始
9/30 参照100突破に喜ぶ
11/15 十露盤さん(当時MILKターボさん)、初コメありがとうございます((←
11/16 参照200突破に万歳する
12/7 参照300突破にガッツポーズする
12/13 ようやく返信100突破に浮かれる
12/14 『  ドラゴンクエスト_Original_ 漆黒の姫騎士』更新開始

  2011
1/23 パソコン変更、一時的にトリップ変更
1/27 参照600突破に調子に乗る
3/24 参照1000突破に踊る
3/25 返信300突破・サイドストーリー【 聖騎士 】
5/23 トリップを元に戻す
5/25 調子に乗って『小説図書館』に登録する
12/8 改名 chess→漆千音

 2012
2/10 返信500突破・サイドストーリー【 夢 】
8/11 teximaさん初コメありがとうです((←
8/30 小説大会2012夏・二次小説銀賞・サイドストーリー【 記憶 】
9/26 フレアさん初コメありがとうなのです((←
9/29 参照10000突破に転がって喜びを表現する
9/30 呪文一覧編集
10/1 目次編集。これで字数を500くらい減らしたぜ
    サイドストーリー【 僧侶 】
    時間についての説明をアップ >>639
10/7 スペース&ドットが再び全角で表示されるようになったぜ!! いえい←
10/8 サブサブタイトル変更。字数制限の影響でサブタイトルは省きましたorz
10/30 >>3 メイン登場人物に編集しました。ネタバレはなし。
   &過去の自分の超絶関係ない話を削除。返信数にずれが生じていますがあしからず。
11/4 >>676 『未世界』の説明を掲載。
11/7 四人の超綿密設定掲載。初3000字越え。
12/8 漆千音&十露盤さんのお父上HPB。改名してから一周年。
   「・・・」→「…」に変更。未だ時々間違える。
12/9 レヴェリーさん初コメありがたや((←
12/16 重要なお知らせ掲載。詳しくは >>707 へ。

 2013
1/14 移転開始ー。ようやく編集終わった。
1/24 >>727 ⅩⅤ章登場人物紹介チェルスのみ編集。
1/25 >>590 ようやくサイストⅢの編集。マイレナの代わりにアーヴェイを関わらせてみた。
4/3  (映像)への移転終了! 今後の更新はあちらになります。(お知らせ参照)




 今までありがとうございました!
 今後もよろしくお願いいたします。

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Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.478 )
日時: 2011/11/08 22:28
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

       2.



 マルヴィナは、ずっと考え込んでいた。
口数が少ない彼女に戸惑いながらも、三人は割といつもの調子で草原を進んだ。

 翌日の話である。
ナムジンの協力者となれた四人は、ナムジンの話を聞き、そして現在、行動に移している。
彼が言うには、シャルマナの正体を暴ける何かさえあれば、草原の民たちで総がかりで倒せるのではないか、と
いうようなことだった。
だが、その『何か』がなかったために、いろいろな討伐方法を考えていたとも。
が、草原の民ではない、自由ある旅人がいれば、話は変わってくる。その『何か』を、
もしかしたら手に入れられるのではないかと。
「いや簡単に言ってくれるな。まずどこにあるかが分からん」
 セリアスはそう言ったが、やらないわけにはいかない。
そろそろ時間がまずいからとナムジンが狩人の包に戻った後、四人はそこに残ってそろって唸っていたのだが、
そこに姿を現したのは——霊体であるナムジンの母パルであった。
 彼女は助言をくれた。正体を暴く『何か』——それは、この辺りの地にあると。

 ——ここから東、パルの故郷、及び魔物に滅ぼされた洞窟の中の村カズチャ。
その奥に生える守り神ならぬ守り草を、彼らは名の通り、アバキ草、と呼んでいた。
 邪悪の正体を明るみにする、魔法的な力を持つものである。
それさえ手に入れることが出来れば、シャルマナというもの——その果実を喰らった魔物の偽の姿を解ける。
彼女は、そう言ったのである。
 ・・・もちろんここで四人が思ったのは、やっぱりあったんじゃないかしらっとした顔で「知らん」など
言いやがって——類のことではあったのだが。



「・・・マルヴィナ。どうしたの?」
 遂にシェナが、問う。マルヴィナは視線を上げ、何が? と問い返した。
「何がじゃないわよ。何か、マルヴィナが静かだと、調子狂っちゃうんだけど」
「そんなこと言わ——ちょっとそれどういう意味だ?」
「うん、いつもの調子は機能しているみたいね」シェナは頷き、で、何か悩んでいるの? と聞く。
「いや、そうじゃなくて・・・うん。果実のこと、考えていてさ」
「果実」拍子抜けしたように、言う。
「・・・ここで入手できたら、六つ目だろ? で——七つ目は、一体どこにあるんだろうって思って。
ほら、今まで、あまりにもいい調子で見つけてきただろ? まだまだ世界は広いのに・・・最後の一つを探すのに、
時間がかかるんじゃないかって思っちゃってさ」
 確かにそのとおりである。が、それは今言っても仕方のないことだ。
それよりも重要なのは——見つかった時、である。
「まぁ、仮に手に入れることができたとして——七つ、揃ったとして。その時、一体何が起こるのか——心配なんだ。
言い伝えが本当なら、天使は神の国へ戻れる。けれど——わたしたちは? 翼も光輪もないわたしたちは、
一体どうなるんだ?」

 彼らの中に、沈黙が落ちる。そういえば、考えてもいなかった。
けれど、何故考えていなかったんだと言われるほど、単純かつ重要なことである。
 誰も何も言えず、しばらく沈黙が続いた。マルヴィナはその空気に焦り、最終的にゴメン、と慌て口調で謝る。
「いま、考えるべきことじゃないな。ゴメン、雰囲気暗くしちゃって。えっと・・・うん、・・・・・・・」
 気の利いた言葉が思いつかず、やはり結局黙った。
それでも昼頃になると、ようやく普段と同じようなテンションとなったのだが、
マルヴィナの言ったその言葉を忘れることはできなかった——・・・。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.479 )
日時: 2011/11/10 20:46
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 この章はかなりストーリーを端折ります。あしからず((

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.480 )
日時: 2011/11/10 21:27
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 それから二日が経ち、ナムジンがやはりそう上手くはいかないか・・・と四人の旅人達のことを
考えていたまさにその時のことである。

「ナぁぁあムぅぅぅぅジぃぃぃぃぃぃぃンっ!!」

「はい」
 あ、帰ってきた、と、大声で走りながら凄い形相でさらに息を切らせるセリアスに、
あえて冷静っぽく振り返って見せた。後から残る三人が(ちなみに、キルガ、マルヴィナ、若干遅れてシェナだった)
セリアスより息を切らせてついてくる。
「みみ、み、みつ、見つけた、見つけたぞ!」
「感謝する。・・・お疲れさまです」
 ナムジンはキルガの無言のままに差し出された袋を受け取る。どうやら開ける気力もあまり残っていないらしい。
おそらく、セリアスに追いつくために全力疾走したのだろう。
 まぁ、その理由が、先日マルヴィナが惑わせた獣たちに再び見つかって追いかけられたから——と言うことまでは
さすがにナムジンも分かるはずがなかったが。
セリアスがどかりと腰を下ろし、キルガが前かがみになり息を整え、残る女二人は見た目を一切気にせず
だらりんと床に寝そべっていた。
 ナムジンは袋を縛る紐の[異国風]の結び目を不思議そうに見てから、何とかそれを解いた。
中から出てきたのは——草。

「これは・・・アバキ草?」
「あ、・・・知っ、てんのか?」
 大分息を整えながら(早い)、セリアスが尋ねてくる。ナムジンは頷いた。
「ということは、カズチャに向かっていたのか。昔、母上に見せてもらったことがある。
うろ覚えではあるが・・・煎じ方も、一応は分かる・・・これで、いける、いけるぞ!」
 ナムジンの口調は、ようやく念願を果たせる喜びに興奮したものとなっていた。
「ポギー!」
 ナムジンの声に、包の奥の棚から、ぐぎぎという声。一番近くにいたシェナが演劇的に驚き、床から跳ね起きた。
 そして、ナムジンが何かを言いかけた時——マルヴィナが、先に口を開く。
「ちょっっっと待ちなさいよ・・・まだ、時間は、あるんだから、あとちょっとだけ、休ませてほしいんだけれど」
 その言葉に、ナムジンは本気で何のことか分からず、固まった。
「ちょっ!?」マルヴィナは顔を上げる。「あんたまさか、この期に及んでわたしらに手伝わせない気でいたのっ!?」
「い、いや、まさかそこまでしていただくわけにも」
「ふざけんなぁ、見くびんじゃない! ここまできたんだ、最後まで手伝わせなさいよっ」
「は・・・はぁ」勢いに気圧され、ナムジンは考えること数秒、ようやく折れて頭を下げる。「お願いする」と。

 ようやく息の乱れが落ち着いてきて静かになった包の中で、四人は同時に頷いた。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.481 )
日時: 2011/11/24 23:20
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 茶色の陰が横ぎる。それを追うように、蒼い影もまた、動く。
この動きは、何度繰り返されただろう。

 戻って、カルバド。集落の中央の広場で、ナムジンと魔物が一対一で戦っていた。
魔物——即ち、ポギーである。
互いに目が険しい。叫ぶ遊牧民。期待の眼差し、歓声。余計な緊張を与える。

 が、遊牧民たちのその緊張が高まった時——ナムジンの前で、ポギーは仰向けに、倒れた。
今日一番の歓声が起こる。ナムジンは今更吹き出した汗を拭い、一瞬間を開けてからすとん、とへたり込んだ。
「ナムジン様が勝っただ——!」
 言わずともわかることを、説明癖の多い遊牧民の何人かが叫んだ。
族長が高らかに笑う。よく響く——と言うより、上から降りかかるように感じるほどの大きな笑い声であった。
ここで彼は、よくやったとでも言うのだろう。
シャルマナは——口元の薄布のせいで表情が分かりにくいが、おそらく口の端は持ち上がっていることだろう。

 ——いよいよだ。

 ナムジンが泣き笑いを作り、何かを言いかけた時——ポギーが、びくりと動いた。それは、誰もが見て取れるほど。
 まだ生きているとか、不死身かとか、そんな声が上がる。が、族長はそれを見て、どこかまだ笑ったまま、
大詰めだ、止めをさせと言う。ナムジンは顔を上げる。遊牧民たちの視線が集まる。
 間をおいて、ナムジンが、ナイフを振り上げる——


 緊張の一瞬——










「今だッ!!」










 誰よりも、族長より、民たちより、いっそう大きな声で、ナムジンは叫んだ。




 勢いよくポギーが跳ね起きる。ナムジンの降ろされかけたナイフは方向を変えられ、狙いは——シャルマナへ。
ナイフとポギーが、二方向からほぼ同時にシャルマナを襲う。不意を突かれ、咄嗟にシャルマナはバリアーを張った。
辛うじて、シャルマナの方が早かった。バリアーに邪魔され、ポギーは手前で動けなくなる。
破られまいと必死に抵抗するシャルマナ、唖然とする草原の民。
「最早これまでだ、シャルマナ! 正体を現せ!」
 ナムジンは叫ぶいなや、腰に吊っていた筒の中の液体——アバキ草を、そのままシャルマナにぶっかける。
バリアーが消え、ポギーが飛びのき、マルヴィナたち四人がナムジンの元へたどり着く。
バリアーの反動に巻き込まれて膝をついていたラボルチュが声を上げる。
「ナムジン、貴様正気か!?」
 誰もがそう思うだろう。臆病で、優柔不断だった息子が、いきなり[暴挙]のようなものに出ているのである。
 が、ナムジンは、その彼に鋭く言いかえした。
「あなたが信じたものの正体を、その目でお確かめください!」
 言われずとも、そうしてしまう。
シャルマナ・・・シャルマナがいた場所から、毒々しい濁った紫の煙が立ち込める。
遊牧民たちはもう説明する気になれない。誰もが、目の前のありえない、悍ましい光景を見つめることしかできていなかった。
 高くも低くも聞こえる呻き声が轟く——立ち込めていた煙が、一瞬にして散った。
中にいたものの姿を見て、何人かは失神した。何人かは声を失った。最も多かったのは——やはり、“恐怖に叫んだ”。

 人間の何十倍あるだろうか、至る所の肉が垂れ下がった、ぶよぶよに膨れ上がった紫の魔物、粘り気のある唾液、
痺れを感じさせる瘴気。
紛れもない、それは、魔物。
術師シャルマナの、本当の姿——・・・。




「化けの皮がはがれたな、シャルマナ」
 想像していたものの数倍もおぞましい姿に、先ほどより吹き出す冷や汗を何とか悟られまいとしながら、ナムジンは言う。
大人一人分の顔ほどもある目が、揃ってナムジン、ポギー、マルヴィナたち四人を睨みつける。
「おのれ人間・・・貴様らごときに、何故わらわが・・・!」
「俺らは人間じゃねーよ」
 ぼそりとセリアスがいい、後ろからすかさずシェナに蹴られる。
「何故と言われても」奮い立つように、答える。「これは結果だ。彼女たちが作ってくれた好機を利用しただけのね」
 マルヴィナがナムジンの肩を叩く。笑みさえ浮かべて、頷いて見せた。
「貴様ら・・・このわらわの姿を見て、生きて済むと思わぬことじゃ!」
「生憎ながら、思ってはいない。・・・わたしらが手にしているものが、目につかないか?」
 剣と、槍と、斧と、弓、そして、短刀。ポギーは、その爪。
いずれも、武器——




「僕らは、お前を斃す、シャルマナ」
 ナムジンが言い——本当の戦いが、はじまる。

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.482 )
日時: 2011/11/27 20:30
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: EetYfsjv)

 セリアスが隙をつくらせる。キルガとシェナが守備の援護呪文を唱える。
マルヴィナは、敵の視界から外れる位置に動いた。
 今回は、魔術を操る者との戦闘である。物理的な攻撃を主体とするものと違い、魔術師は、多彩な攻撃、
あるいは援護の魔法を使ってくる。ただ無謀に突っ込んで行くだけでは、邪魔な負傷の元になりかねない。
だからこそマルヴィナは、初めは動かずに、仲間たちと、敵の動きを観察する。
そうしてから、参戦するのだ。




 固唾をのんで観戦する遊牧民たちの中に、その場を静かに離れたものがいた。
誰にも気づかれていないことを確認し——そのまま、包の陰へ隠れる。
しばらくの静寂が続き——しばらくして、その者の小さな声が聞こえた。
「・・・はい、間違いありません。はい・・・あぁ、いえそれはまだ・・・どういうわけか、先程から動いておらず・・・
はい? ・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・御意」
 無線から聞こえる声に向かって敬礼し、その者は通信を切る。
「・・・・・・・・・実力、か・・・あんな小娘の、どこを警戒しろと・・・」
 溜め息を吐かんばかりの表情で呟き、その場で、繰り広げられる戦闘を観察する。
その視線の大半は——やはりまだ動かない、マルヴィナへだった。




 が、ようやく彼女は動き出す。
シャルマナが 爆発呪文_イオラ_ を唱えた時、叫んだ。
「シェナ、攻撃呪文を! セリアスとナムジンは下がって、キルガはシェナの防衛、ポギーは・・・」
 言いかけて、ポギーにはどう伝えたものかと考えてしまう。轟く爆発の威力を盾で軽減し、マルヴィナは
ごめんとりあえずナムジンについていて、と言ったが、爆音が邪魔して伝わったかどうかは定かではない。
ともかく、その音が収まりかけた時、シェナからの攻撃呪文がシャルマナに向かった。闇力呪文_ドルクマ_。
過たずそれはぴしゃりと敵に当たり、シャルマナは低い音——いや、声で呻いた。隙が生じる。
そこを、残った四人と一匹が狙う。隙が出来た時、シャルマナは先ほどから右の手に握る杖を振り回していた。
その動きに注意すればいい。
手の振られた方向にいたのは、セリアスだった。それを難なくかわし、一気に間合いを詰める。
 決める——



 そう、思った時、皆の武器の動きが、いきなり減速した。
視界がぐにゃりと歪んだのである。
「なっ・・・こ、れって」
「幻惑呪文_マヌーサ_ ・・・!」
 対象者を幻で包み、視界を邪魔することで、肉弾戦のミスを誘うもの——かつてマルヴィナも、
魔法戦士の時に使ったものだった。
「う、くそっ・・・そんな呪文持ってたのかよっ」
 セリアスが悪態をつく。
「悪い、わたしのミスだ」マルヴィナが唇を噛む。
「そんなのは関係ない、・・・シェナ、悪いが少しの間、攻撃を頼みたいっ」
 キルガの声に、シェナの了解の声が聞こえる。どうやら幻惑を免れたのは彼女だけらしい。
「・・・急いだほうがよさそうね。・・・・・・・・・・・・・・・」
 シェナは呟くと、両の手に力を込めた。息を吐く。腕を伸ばし、手を顔の位置まで上げる。
(上手くいくかは分からないけれど——)
 ぶつぶつと、長い、今までの何よりも長い呪文の前唱を詠む。
長いまつげが持ち上がり、シェナはカッと目を見開き、唱えた。
早口で、彼らには聞き取れなかったその呪文は、先程の闇力呪文と同じ系統のものだった。が——先ほどより大きく、
先程よりも強い力を感じる。

 それは、闇大呪文_ドルモーア_ 、闇呪文系統上位クラスの魔法であった。

「決、まった・・・!」
 シェナが疲労からくる冷や汗を滲ませて言った。シャルマナの叫びが、再び聞こえた。
これで終わった——そう思ってほころんだ頬を、一瞬のうちに締める。
 終わっていない。
まだシャルマナは、立っていた。
どうやら、初めての呪文であり、また相手がとんでもない巨体であるため、急所を微妙に外したらしい。
 マルヴィナはまずい、と唇を噛む。シェナは膨大な魔力に疲労してしまっている。
一撃必殺の攻撃だったのだろう。だが、それはかなわなかった。
 残るものが次なる攻撃を仕掛けなければならないのに、
視界が歪んだ状況では、攻撃どころか、防御も思うようにいかない。
(・・・わたしも一発勝負を決めるべきか・・・?)
 だが、決まらなかったら? こちらに不利な状況をつくることになる。
やるべきか、否か。


(・・・やろう)


 マルヴィナは、そっと決意する。
(シェナが決意したんだ。・・・わたしだって)
 マルヴィナは、いっそのことならと目を完全に閉じ、息を整えた。
脳裏に、二つの陰を思い浮かべる。唇に、手を当てる。


(・・・・・・・・・・・・・来い、聖狼・・・!)


 そして、長い口笛を一つ、高らかに吹いた——。


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