コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.139 )
- 日時: 2017/09/26 15:37
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: pD6zOaMa)
102話「水色の鎌」
エリアスと別れ、カルチェレイナのところへ戻る。結構な距離があるので往復は厳しいかと思ったが、今はなぜかあまり疲れを感じなかった。どうやって彼女を倒せばいいのかに頭を使っていたからかもしれない。
私が戻った時、カルチェレイナとライヴァンはまだ戦っていた。相手が私でないからか、ヴィッタも参戦している。
襲いかかる赤いリボンと水色の蝶を、ライヴァンは黒い弾丸で払い続けていた。正確な弾丸の発射。いつもの自分大好きでバカみたいなライヴァンが行っているものとは到底思えない。
エリアスでも圧倒されたカルチェレイナを相手にしてここまで粘れるとは驚きだ。
「キャハッ、カルチェレイナ様!王女が帰ってきましたよぉ。キャハハハッ!」
ヴィッタの甲高い笑い声が、既に懐かしい気がする。ずっと昔に聞いたことがあるなぁというような感じだ。
カルチェレイナの彫刻のような顔がこちらを向く。憎しみのこもった黄色い瞳に鋭く睨まれ、冷たいものが背筋を駆け抜ける。
「彼の亡骸とはお別れしてこれたかしら?」
「……残念だけど、エリアスは生きているわ」
私は彼女から漂う凄まじい魔気に怯まず言い返す。
——大丈夫。
この羽が護ってくれるわ。だってエリアスの一部だもの。
「あら。じゃあルッツは敗れたのね。まったく、使えないやつだこと」
カルチェレイナは一度私から視線を逸らすと、溜め息混じりの声色で愚痴をこぼす。
「やっぱり天使はダメね。堕ちて悪魔になっても、生まれながらの悪魔には敵わない。まぁ肉体が変わるわけではないもの、仕方ないわね。所詮使い捨てにしかならないわ」
彼女はルッツをまるで物のように言う。私にはそれが信じられなかった。
ルッツはカルチェレイナをあんなに信用していた。もはや盲信という域まで。それなのにカルチェレイナがルッツを消耗品のようにしか捉えていなかったとしたら……どんなに切ないことだろうか。
すべてを捨てて悪魔となり、死を悲しんですらもらえない。あまりに虚しすぎる。
「そりゃそーですよぉ!キャハッ!あいつ、天使にやられてやがんの!」
ヴィッタは耳が痛くなるような声で楽しそうに騒ぐ。たまにはもう少し静かに話せないものだろうか。
「ライヴァン、時間を稼いでくれてありがとう。貴方はもう帰っていいわ」
そう言うと、彼は謎のポーズをとった。紫の瞳が驚いたように私を見る。
「なぜ!?」
ひきつったような情けない声が彼らしくて、何だか笑ってしまいそうだった。
「私はカルチェレイナを倒さなくてはならないの。貴方はそんなところ見たくないでしょ?」
ライヴァンは悪魔。それにカルチェレイナに仕えていた身だ。今は仕えていないとはいえ、元の主人がやられるところを見るのは辛いものがあるだろう。そんなことを彼に強いるわけにはいかない。
しかし、ライヴァンは予想外にもニヤリと笑う。
「ま・さ・か!」
一文字ずつポーズを変えながら大きな声を発する。バカオーラが全開だ。
「麗しき僕はそんなこと気にしないぞ!ここにいておくことにするっ!なぜかというと……」
ライヴァンはそこで敢えてためを作った。
なぜだろう、と内心気になる。
「僕がここにいたいからだ!」
……そんなこと。
私は内心呆れてしまった。
ライヴァンらしい答えだといえばそうなのだが、今この場で言うのに相応しいとは言いづらい答えである。こんなことを堂々と言えるのは、ある意味彼の長所かもしれないが。
普通なら、本当の理由がそれだとしても、もう少し何か考えるだろう。自身の心に忠実という意味ではライヴァンはかなりの強者だと思う。
「分かった、ならここにいてちょうだい。その方が心強いわ」
「ま・か・せ・て!」
彼の発言はいちいちおかしくて笑いそうになる。不思議だ。
ライヴァンが会話を終えるとカルチェレイナらの方に体を向ける。
「……カルチェレイナ。貴女は今も私を憎んでいるの?」
もしかしたら目を覚ましてくれているかもしれない——という期待を抱いて躊躇わないために、私は彼女に尋ねた。
もう迷わないと決めてはいるけれど念のためだ。
「貴女の家族を殺めたのは私ではないわ。それでも、私を憎み、私に復讐したいの?」
彼女の黄色く輝く瞳をじっと見つめる。視線を逸らしてはならないと思った。
「……そうよ」
カルチェレイナは唇を小さく動かす。
「エンジェリカの王女は私の敵。家族の仇。これだけは絶対に変わらないことよ」
それを聞いた時、私にはこの戦いの終わりが見えた。実際に目視できたわけではなく、どちらかといえば感じたという感覚に近い。第六感だろうか。
「エンジェリカの王女、すぐに貴女を消滅させてあげるわ!」
カルチェレイナは鋭く叫んだ。だがもう怯まない。
彼女が片手を高く掲げた。するとそこに魔気が集まってくる。どうやら今回は蝶ではないようだ。
——水色の鎌。
禍々しい魔気が漂っている。
「エンジェリカの王女!終わらせてあげるわ!」
カルチェレイナは私への憎しみを顕わにしながら叫ぶ。その表情からは尋常でない魔気が溢れてきている。
私はごくりと唾を飲んだ。
でも負けないわ。早く終わらせて、エリアスの元へ帰るの。
- Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.140 )
- 日時: 2017/09/27 14:58
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: O7xH2wYh)
103話「今はできる」
カルチェレイナは水色の鎌を構える。
持ち手には植物の蔓のようなものが絡んでおり、刃の部分は不気味な煌めきを放っている。色は綺麗だが何となく気味が悪い。底の見えない闇のような怖さを感じる。
「まさか、伝説の鎌っ!?」
ライヴァンが凄まじく驚いたような顔で叫ぶ。どうやら悪魔には有名なもののようだ。
「何か知っているの?」
「知っているの、だと!?何を言ってるんだっ!あれは魔界最強の鎌だぞ!」
え、魔界最強?
それにしても「魔界最強」だなんて、伝説なんかに出てくる武器みたいね。とても実在のものとは思えない。
「魔界最強って?」
私は「魔界最強の鎌」なんてまったく聞いたことがなかった。
単純に天界では有名でないというだけなのかもしれないが……、魔界最強というほどの武器なら噂を小耳に挟んだことくらいはあるはず。いくら王宮しか知らない私でも、一切知らないというのは不自然だ。
「あれはクイーンズ・シックルさ!魔界の王妃だけが使える最強の鎌で、刃に触れた相手を朽ち果てさせる力があると聞く。賢明な僕にも仕組みが分からない、高レベルな武器だよ」
……聡明じゃないと思う。
だが今の私に突っ込みを入れている暇はない。逆に、ライヴァンが情報をくれてありがたいと思わなければ。
それにしても、刃に触れるだけで朽ち果てるとはかなり恐ろしい武器だ。一撃でも食らえば終わってしまうということだから。一度も触れずにカルチェレイナを倒すなど、果たして私にできるだろうか。
——その時だった。
胸元のブローチにつけられたエリアスの白い羽が光を放った。あまりの眩しさに目を細める。
やがて光が去ると、目の前に槍が浮かんでいた。まるで「使え」と言われているようで、私はそれを迷わず掴んだ。
実に不思議だが、この時の私は「できる」と思った。その気持ちを疑わなかった。
槍術はよく分からないけれど——私はエリアスが戦うのをずっと見てきた。
彼が私の護衛隊長になり数年が経つ。この数年間、エリアスがあらゆる脅威と戦うところを一番近くで見ていたのは私だ。
「……エリアスの……?」
地面に倒れ込んでいるジェシカが、何とか顔を上げながら弱々しく漏らす。
彼女はこの槍がエリアスのものと同じであると認識しているようだ。まだそれだけの明瞭な意識があるらしい。ひとまず良かった。
ジェシカのことにホッとした、刹那。
一瞬にして接近してきていたカルチェレイナが鎌を振り被っているのが視界に入る。私は咄嗟に槍を横向け、振り下ろされた鎌をなんとか止めた。
私にこんなことできるはずがない。奇跡だ。
「カルチェレイナ様を止めた!?テメェ弱虫じゃねぇのかよ!」
ヴィッタが眉を寄せつつ驚いたように叫ぶ。この乱雑な口調さえなければ可愛いのに。
「反応できたことは褒めてあげるわ。でも、私に一対一で勝てるとは思わないことね」
カルチェレイナはニヤリと口角を上げて笑っている。
「いいえ。一対一じゃないわ」
私には見守ってくれる者たちがいる。私の帰りを待ってくれている者もいる。
だから決して一人ではない。
「他に誰がいるというの?」
「みんな。天使たち。それにエリアスだって、武器という形で力を貸してくれているわ。カルチェレイナ、私と貴女は違うのよ」
ジェシカとノアも、ツヴァイとレクシフも、もう戦えない。全員限界だ。それでもこの戦いの結末を見届けてはくれるだろう。
エリアスも戦えないけれど、彼の思いは槍という形で今ここにある。
「ならばその槍諸共消し去ってあげるわ!」
カルチェレイナは怒ったように叫びつつ襲いかかってくる。
その必死な形相はゾッとするものがあったが、もう怖くはない。今の私には怯えず戦えるという自信がある。絶対に怯まないという強い自信があるから、私は前を向けた。
「……弾けっ!」
カルチェレイナが振り下ろすクイーンズシックルこと水色の鎌を槍で防ぎ、隙をみて言う。すると彼女の鎌は鋭く跳ね返された。急なことにカルチェレイナは少し動揺したようだ。
正直なところ、私も驚いている。言葉を現実にする力が彼女に通用するとは思っていなかったからだ。だがこれが効くならかろうじて勝ち目はある。
「忌々しい能力ね……」
カルチェレイナが表情がますます厳しくなった。
彼女は私のこの力を何より憎んでいる。だから彼女が「忌々しい」と称するのも無理はない。嬉しくはないけれど。
「僕が援護しようかっ!?」
背後からライヴァンの声が聞こえたが暇がなくて返事できない。そんな私より先にカルチェレイナが口を開く。
「二人の戦いに口を挟まないでちょうだい」
「ヒィッ!!」
カルチェレイナに鬼のような形相で睨まれ畏縮するライヴァン。肝心なところで情けないところは健在のようで、それを見てなぜか安心している私がいた。
個性とは魅力。情けないのもここまでくると立派な個性だ。
「い、いくら僕が……麗しいとはいえ……」
冷ややかな視線をまだ突き刺されているライヴァンは、足をガクガク震わせながら後退していく。その頬には一筋の汗が伝っている。恐らくカルチェレイナの目力に威圧されているのだろう。
頼りないわね……。
もっとも、私もずっと臆病だったので他者のことは言えないが。
「ヴィッタ、邪魔させないで」
「はぁい!」
ヴィッタは赤い髪を風になびかせながらライヴァンに向かって飛んでいった。従えている大型悪魔たちもヴィッタを追うように走っていく。
そちらへ気を取られていると、カルチェレイナの鎌が迫っていた。私は慌ててその場を飛び退き、見事に転倒した。上手く着地するのはさすがに無理だ。素人だもの。
転倒した私の上から鎌が迫ってくる——私は半ば諦めながら槍を彼女に向けて叫ぶ。
「貫け!」
- Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.141 )
- 日時: 2017/09/28 12:03
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Re8SsDCb)
104話「闇の果て」
私はしばらく目を開けられなかった。何がどういう状況になっているのか分からなかったし、あまり見たくなかったから。
鎌にやられていれば、どんな形であろうと多少の痛みは伴うはず。私に痛みがないということは——それ以上考えられなかった。正しくは、考えてはならない気がしたのだ。
目を開けることにこれほどの恐怖を感じたのは、生まれて初めてだと思う。
「……そん……な」
カルチェレイナの動揺に満ちた小さな声が耳に入り、恐る恐る目を開ける。
私が握っている槍はカルチェレイナを確かに貫いていた。
ヴィッタの絶叫する声が聞こえる。けれども、何がどうなったのか、暫し理解できなかった。ただ一つ分かるのは、槍がカルチェレイナを貫いていることだけである。
「……やるじゃない」
カルチェレイナは膝を折り、地面へ垂直に座り込んだ。体は脱力し、鎌はカランと落ちて消えた。
「貴女の勝ちよ」
力なく座り込んだ彼女は何もかも諦めたような表情で言う。
「あたしは結局……何もできなかった。四百年、この日を待ち続けてきたというのに……」
このまま放っておいてもいずれ消滅するだろうが、本来ならもう一撃食らわせて止めを刺すべきなのだろう。だが私にはできなかった。
出会ってまもない頃、彼女がいつも見せてくれた笑顔。あれが偽りだと、私にはどうしても思えない。
だからだろうか。私は半ば無意識に彼女の手を取っていた。
「……何のつもり?」
カルチェレイナは困惑したようにほんの少しだけ眉を寄せる。
「こんな方法しか思いつかなくてごめんなさい。私は貴女のこと好きよ。だからカルチェレイナ、最後に私からプレゼントをあげるわ」
私は彼女の手を握ったまま目を閉じた。そして念じる。
彼女が幸せな夢をみられるように、と。
次に目を開けると、真っ白な空間にいた。空にも地面にも色はなく、ただひたすらに一面が白である。
少し先には川が流れていた。その川の手前にカルチェレイナが立っている。どうやら向こう岸にも誰かがいるようだ。
私は少し離れたその場所に立ったまま様子を見ることにした。
「ママ!」
向こう岸から可愛らしい声が聞こえる。姿はハッキリと見えないが、水色の髪をしていることだけは視認できる。
それから頑張って目を凝らしてみると、向こう岸には三人ほどいることが分かった。
カルチェレイナは躊躇うことなく川に入る。するとその少女もそこまで来て、二人は抱き締めあった。
「お兄ちゃんとパパもいるよ。ママに会えるのをとっても楽しみにしてたんだ!結構長いこと待ってたよ」
「……みんな揃っているのね」
よく似た水色の髪の少女を強く抱き締めながら、カルチェレイナは泣いていた。泣いているけれど、今までで一番嬉しそうだった。
向こう岸にいる二人も、手を振ったりしている。恐らく少女が言う「お兄ちゃんとパパ」なのだろう。
——家族。
母親と父親がいて、子どもがいて。魔界の王族とはいえ、いたって普通の幸せな家庭ではないか。
その温かな光景を目にして、私は正直羨ましいと思った。私が手に入れられなかったものをカルチェレイナは持っていたのだ。もしも運命がこんなに残酷でなかったなら、彼女は私よりずっと幸せに暮らしていたのかもしれない。
その時。カルチェレイナが振り返り、こちらを向いた。
その黄色い瞳に憎しみの色はまったくない。柔らかく穏やかで、幸せそうな表情だ。
「これがプレゼント?」
水色の髪の少女を抱き締めたまま、ほんの少し口角を上げて尋ねてくる。
私は妙に切なくなって、口を動かせなかった。何か言葉を発すると彼女との別れが辛くなる気がしたから、ただ首を縦に動かすだけにした。
それにしても実に不思議だ。最初は友達だったとはいえ、私は彼女に何度も命を狙われた。大切な者たちを傷つけられもして。それなのに、私は最後まで彼女を嫌いにはなれなかった。
「『エンジェリカの秘宝』はどんな願いも叶えてくれる……本当だったのね」
カルチェレイナはどこか寂しそうに笑う。
「ありがとう。アンナ」
——また考えてしまった。もし彼女と友達のままでいられたら、どんなに素敵だっただろうかと。
良き友になれる道もあったのではないかと思う。それだけがたった一つの心残りだ。
「神木麗奈は貴女を好きだった。それではね。またいつか会いましょう」
川を渡ってから一度だけ振り向いた彼女は、曇りのない微笑みで言った。私は結局何も言えず、ただ手を振って彼女の背を見送る。
カルチェレイナは家族と共にまだ見ぬ未来へ歩み出す。
彼女はもう闇を抜けた。その心には絶望も復讐もない。やがて訪れる未来は、決して不幸なものではないだろう。
友達にはなれなかった私が、彼女にただ一つしてあげられたこと。これによって彼女は少しでも救われただろうか。
さて、私もそろそろ戻らなくちゃ。
私にはまだまだたくさんの用事がある。万事解決にはまだ早い。
——帰ろう。エンジェリカへ。
- Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.142 )
- 日時: 2017/09/30 23:23
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: Btri0/Fl)
ー用語 紹介ー
【エンジェリカ】
天界で最も大きな領土を持つ天使の王国。建国三百年という、天界では比較的新しい国だが、発展度では他国の遥かに上回る。しかし実は四百年前から存在していた。
現在は国王であるディルクが治めている。彼の妻であるラヴィーナ妃は亡くなっており、次期国王はアンナ王女だと噂されているが、真相は不明。
「天界郵便」「天界列車」などという地上界と同じような文化を所々取り入れてはいるものの、機械類はそこまで発展しておらず、エスカレーターや自動改札などはない。仕事の機械化もされていないため労働の多くは天使の手によって行われている。
【親衛隊】
王に仕え、王を護る、選ばれた優秀な天使のみが加入を許されるエリート部隊。
入隊するにはずば抜けた戦闘力が必要だが、待遇がとても良いため、毎年希望者が殺到する。
【護衛隊】
アンナ王女の護衛をする部隊だが、隊員はまだ少ない。
エリアスが隊長を務める。ジェシカ、ノアも所属している。
【エンジェルコーン】
天界では知名度が高いとうもろこしの一種。白い実は甘みが強く、甘いもの好きには人気がある。分類的には野菜だがお菓子の材料として使うことが多い。
【アイーシア】
エンジェリカ原産の花。長い時間を蕾のまま過ごし、ようやく青白い花を咲かせると、3日ほどで散ってしまう。王宮の中庭に植えられている。花言葉は「有限」。
香りが強いため、花びらを使ってアイーシアティーを作ることも可能。
【クヤハズキオルーナ】
クヤハズキという植物から作られた、自然治癒を促進する経口薬。天使の体に合うように調合されているが、天使以外の生物にも多少の効果はあると思われる。
戦闘を生業とする天使たちに愛用されているロングセラー商品で、親衛隊員には一定期間ごとに無料で配布されている。
- Re: 《☆人気投票開催中☆》エンジェリカの王女 ( No.143 )
- 日時: 2017/09/29 17:40
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: kJLdBB9S)
105話「合流」
気がつけば私は先ほどまでいた場所に座っていた。
確かカルチェレイナの手を握っていたはずなのだが、見回しても彼女の姿は見当たらない。亡骸すら残らなかったようだ。辺りは異様な静けさに包まれている。ヴィッタは泣き崩れ、さすがのライヴァンもこの時ばかりは黙っていた。
一匹の水色に輝く蝶がヒラヒラと宙を舞い、やがて姿を消す。それは魔界の王妃カルチェレイナの終わりを告げているように感じられた。
「麗奈……さようなら」
今はもう消え去った彼女へ、小さく別れを告げる。そして私は切り替えて立ち上がった。
ちょうどその時。
「アンナ王女、ご無事ですか?」
背後から聞こえた平淡な女性の声に気づき振り返る。
「ヴァネッサ!」
そこには、ヴァネッサと、半ば抱き抱えるように支えられているエリアスの姿があった。二人の姿を目にして、緊張が一気に解れる感じがする。
彼女の瞳は生気を取り戻している。そういえば彼女とは森で別れたきり会っていなかったな、と少しだけ考えた。
私はすぐさま二人に駆け寄る。一刻も早く会いたかった。夢みたいだ。
「どうして一緒なの?」
ヴァネッサとエリアスは森の中とはいえ別々の場所にいたはず。それなのに今二人が共にいることを疑問に思い、尋ねてみた。
するとヴァネッサは落ち着いた調子で答える。
「歩いていたところ偶然エリアスと合流できたので、アンナ王女のところへ行こうという話になりまして。時間はかかりましたがここまで参りました」
とても真面目な返答に驚いた。今は再会を喜ぶシーンのはずだが、彼女は相変わらずテンションが低い。いつもと大差ない淡々とした口調に落ち着いた表情。嬉しくないはずはないのだが……不思議だ。喜び方も性格によってそれぞれということなのだろうか。
次にエリアスへ視線を移すと、彼は軽く笑みを浮かべる。
「ご無事でしたか、王女」
彼が伸ばした片手をそっと握ると、氷が溶けるように、指から指へと温もりが伝わる。
戦闘の跡が残る赤い染みだらけの白い衣装は見るからに痛々しい。しかしそれとは対照的に、彼の表情はとても穏やかで、苦痛を決して感じさせない。
そこへライヴァンが乱入してくる。
「ふっ。エリアスはボロボロではないか!」
また余計なことを言う。そんなことを言ったところでエリアスを怒らせるだけだというのに。
「随分やられ……ぶっ!」
やはり予想通りの展開になった。
エリアスの素早い平手打ちがライヴァンの頭に入る。エリアスは怪我で弱っているはずだが、とても痛そうな乾いた音が鳴った。敵に食らわせても十分なくらいの威力だと思われる。
ヴァネッサはエリアスの体を支え続けながらも、呆れたような表情を浮かべている。
「この期に及んでまだ殴るのかっ!?麗しい僕の頭がハゲたらどうしてくれるんだっ!」
脳より髪を心配するとは。今日に限ったことではないが、怒るところがおかしい。
ライヴァンの大袈裟な騒ぎ方を見て、私は無意識に笑みをこぼしてしまった。子どもみたいで、なんだか微笑ましくて。
「聞いているのかっ!?僕の美しい髪がなくなったら、どう責任を取ってくれ……」
「安心しろ。その時には育毛剤を買ってやる」
「脱毛すること前提かっ!」
「対処について尋ねたのはそっちだろう」
「うるさい!うるさいっ!」
くだらないことで熱くなるライヴァンに対して冷ややかな視線を送るエリアス。二人の言い合いには何とも言えないおかしさを感じた。
いい年してこんな言い合い、ちょっと変ね。
——と、その時。
エリアスは不意にフラッとよろけ、転けそうになる。ヴァネッサが素早く反応したから良かったものの、一歩誤れば転けていただろう。そのくらい危なかった。
まだ本調子でないエリアスは下手に動かない方がいいと思う。
「これ以上余計なことをしないで下さい」
ヴァネッサが不快そうな顔つきでライヴァンに言い放つ。短い文章だが、声に得体の知れない威圧感がある。
冷淡な視線を向けられ、ライヴァンは畏縮気味に後ずさった。ヴァネッサに睨まれたのが余程恐ろしかったのだろう。
彼女はライヴァンが後ずさるのを確認すると、視線を再びこちらへと戻す。
「ところでアンナ王女、これからどうなさるおつもりですか?」
カルチェレイナを倒した後どうするのかを考えていなかったことに、ヴァネッサから問われて初めて気がついた。私は「カルチェレイナを倒す」という目標の達成に夢中になり、その先のことは何も考えていなかった。未熟としか言い様がない。
このままではいけない、次にすべきことを明確にしなければ。まずは……何からすればいいのだろう。
「もしかして、考えていなかったのですか?」
ヴァネッサは僅かに調子を強める。さっき後ずさったライヴァンの気持ちが少しだけ分かった気がした。
「まだ終わっていませんよ!すぐにそうやって気を抜かないように!」
思わず背筋を伸ばしてしまうような厳しい忠告を受けた。ヴァネッサはまるで厳しい母親のようだ。
母親が子どもを叱るのは愛ゆえだというが、厳しく叱られる子どもにはそれが理解できないのが世の常である。そして、今の私はその子どもに当てはまる。
正直なところ私は今「そんな厳しく言わなくても」と愚痴をこぼしたくなっているもの。ヴァネッサと私は、完全に母親と子どもの関係ね。
「えっと、とにかく……」
私はヴィッタの方を向く。まずは彼女をどうにかしなくては。
可愛らしい目も丸みを帯びた子どもっぽい頬も、顔全体が真っ赤に染まっているが、そんなことはお構いなしに号泣している。甲高い声で愉快そうに笑い、時折狂気的なところをちらつかせていた、そんなかつての彼女とは別人のようだ。
ヴィッタに作り出された大型悪魔の一体が、クオォォと声を出しながら、彼女の小さな背中を優しく撫でている。それでも彼女の涙は止まることを知らない。
彼女はジェシカを傷つけた敵。だけど、さすがに少し可哀想な気がした。
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