コメディ・ライト小説(新)

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《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
日時: 2017/10/31 18:56
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967

初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。

若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。

※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

短編集へはURLから飛べます。

それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪

《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182

あとがき >>183

《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142

《イラスト》
ジェシカ >>27   ノア >>49   アンナ >>72 >>193(優史さん・画)   エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画)     フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137

《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183

《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
岸本利緒奈さん
羅紗さん
流沢藍蓮さん
ひなたさん
氷菓子さん
アンクルデスさん
白幡さん
チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん

Re: エンジェリカの王女 ( No.19 )
日時: 2017/07/28 08:25
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: O/vit.nk)

てるてる522さん、コメントありがとうございます!読んでいただき嬉しいです。
拙い作品ではありますが、これからもどうかよろしくお願いします!

Re: エンジェリカの王女 ( No.20 )
日時: 2017/07/28 08:26
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: O/vit.nk)

15話「寂しげな笑み」

 ——このままではいけない。だが仮に今ここで反論しても誰も味方してはくれないだろう。
 気づけば走り出していた。どこへ行くのか当てはないがそれでもいい。とにかくあの場から逃れられればそれで。そう思い闇雲に走っていたものだから、気づけば建物の外へ出てしまっていた。
 建物の陰に一人で座り込み冷たい夜風にあたっているうちに段々心が落ち着いてくる。冷静になりジェシカとノアのことを思い出す。すっかり忘れてしまっていたが二人は心配してくれているかもしれない。けれど今更あの場に戻るのは無理だ。
「……また怒られるのかな」
 あの時どうして逃げてしまったのだろう。本来ならあの場で自分の無罪を訴えるべきだったのに。そんなもう遅い後悔が沸き上がってくる。
「よりによって晩餐会でこんなことになるなんて……でも」
 こんなところでじっとしていたらいずれは誰かが来るだろう。そして力ずくで連れていかれて怒られる、それは目に見えていることだ。とにかく移動しなければ。
 そうだ、エリアスのところへ行こう。彼ならきっと話を聞いてくれる。
 昨夜行ったばかりなので地下牢の場所は分かる。あの暗さを思い出し躊躇いそうになるが、勇気を出して立ち上がり、地下牢のある棟へと歩きだした。

 予想より早く到着した。地下へ続く階段を下る。真っ暗闇は怖いはずだが今は不思議なぐらい平気だ。エリアスの聖気を感じる方へ向かって歩いていく。
 私がエリアスの入っている牢の前まで行った時、彼は私の名を呼んだ。
「王女?王女なのですか?」
 彼の瑠璃色の瞳が驚いたようにこちらを見ていた。
「そうよ。エリアス、調子はどう?」
 駆け寄り声をかける。
「私はこんなくらいどうということはありませんよ。それにしても王女、今夜は晩餐会だったのでは?同行できず申し訳ありません」
「そんなのいいの!晩餐会は行ったわ。でも、いつもの……」
 そこまでで言葉が詰まる。ちょっとのことで逃げてきたなんて情けない話をすれば、幻滅されるのではないか、と不安になる。
「あの女にまた何かされたのですか?」
 エリアスの顔に不安の色が浮かび、私はなぜか申し訳ない気持ちになった。
「ごめん。こんなこと貴方には関係ないのに……」
 言う気満々で来たもののいざ彼を目の前にすると言いにくい。
「王女が辛い思いをされたのであれば、それは私にも関係のあることですよ。たとえ傍でお守りすることはできずとも、何があったのかお聞きすることは可能です」
 エリアスはふっと柔らかな表情をして語りかけるような口調で言った。
「……エリアス」
 私はその優しさに、小さくそう返すことしかできない。
 一筋の涙が頬を伝って落ちる。一度溢れた涙は止まることを知らず、次から次へと流れていく。泣いている場合ではないと頭では分かっていても体がそれに従うことはない。手の甲で何度も涙を拭った。
「王女、あまり泣かれると、お化粧が取れてしまいますよ」
 エリアスの静かな声が聞こえる。うんうん、と頷きながらもやはり涙は止まらない。
 そんな時、私でもエリアスでもない聖気を近くに感じた。
「王女様見つけたー」
 声がした方を向くとジェシカとノアが階段を下りてきていた。今の呑気な発言はノア。ジェシカは私の様子を見て、急いで駆け下りてくる。
「大丈夫っ!?」
 泣き腫らした顔を見られるのは少し恥ずかしい。
「エリアスに何かされたの!?」
「いや、私のせいにするな」
 エリアスは呆れた顔で言う。
「ジェシカは男にすぐ責任押し付けるもんねー」
 後ろでのんびりとニコニコしていたノアが楽しそうに口を挟む。彼は本当に呑気だ。
「ジェシカさん……ごめんなさい。私、逃げたりして……」
 すると彼女は私の手をギュッと握り締めてくれた。とても温かい手で、また涙が溢れそうになる。
「いいよいいよ!王女様は悪くないよ。王様には一応説明しておいたし」
 そう言って慰めてくれるジェシカの優しさに私は再び涙をこぼす。今日出会ったばかりの私にこんな親切にしてくれるなんて感動ものだ。
「あちゃー。ジェシカ、王女様を泣かせちゃったー」
「アンタ本当にうるさい」
 またいつものようなやり取りが始まる。
「大丈夫だから!王様怒ってなかったよ。あの不細工なド派手女が嘘ついてるって説明したら分かってくれてた!」
「不細工なド派手女って言ったの……?」
 どちらかといえばそこが気になった。なかなかそんなボロクソな呼び方を思いつくものではない。
「うん!言った!」
 ジェシカは微塵の躊躇いもなく答える。
「言っちゃったねー」
 ノアは苦笑いしながら軽い口調でそう続けた。
 そんなことを聞いているうちに段々元気になってくる。二人の軽快なやり取りは私の心の暗い気持ちを吹き飛ばしていく。例えるなら真っ暗な夜の海に朝日の光が射してくるような感じ。
「ジェシカさん、ノアさん、ありがとう。私は勝手なことをしてしまったのに優しくしてくれて……ありがとう」
 この時私は素直に感謝を述べることができた。
「元気になられて何よりです」
 エリアスは寂しさと嬉しさが混ざったような不思議な微笑みを浮かべる。伏せ目を強調する長い睫が演出しているだけかもしれない。とにかく、彼の表情にちらつく寂しそうな色の意味は、今の私にはよく分からなかった。

Re: エンジェリカの王女 ( No.21 )
日時: 2017/07/28 21:47
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: xyOqXR/L)

16話「波乱の幕開け」

 その後、もう遅い時間ではあったが、王である父ディルクのところへ行った。ディルクは私が何もしていないということを理解してくれていた。あの女とその取り巻きたちの自作自演だから私のせいではないと言ってくれた。怒られると思い込んでいただけに嬉しい。
 だが私の心にはほんの少し疑問が残っていた。グラスが割れる直前、そこに映っていた黒い女の顔。晩餐会の前に見た女、そして夢に出てきた女。どれも同じだった。
 血のように真っ赤な唇、それ以外はすべてが真っ黒。闇から生まれたような女。
 ——貴女は一体誰なの?

 翌朝、王宮内は再び建国記念祭の準備で騒々しくなっていた。慌ただしく行き交う使用人たちの足音が私の部屋までも聞こえてくる。この騒がしさ、私は好きだ。関係ないのになんだか自然と心が弾んでくる。
「おはようございます、アンナ王女。昨夜はブローチを忘れていかれて驚きましたよ」
 王妃だった母がくれた赤い宝石のブローチ。入浴時以外はいつも片時も離さず身につけていたのに、昨日に限って自室に忘れてしまっていた。もっとも、その時は気づいていなかったのだが。
「ごめん、ヴァネッサ。すっかり忘れていたのよ」
「お母様から頂いた大切なブローチでしょう。忘れてはなりませんよ」
 ヴァネッサは子どもに注意する母親のように告げる。
「分かってるわ。もう忘れたりしないから」
 私たちは他愛ない会話を交わし、それからいつもの日常へ戻った。昨日の揉め事なんて嘘みたいに穏やかな午前だ。
「そういえばヴァネッサ、ジェシカとノアはどこにいるの?見当たらないけど」
 護衛代行ということで常時身辺にいるものと考えていたが、今日は二人の姿を見かけていない。
「建国記念祭の準備のお手伝いをすると張り切って出ていきましたよ」
「えぇーっ?」
 私は耳を疑った。勝手に別の仕事をしに出ていくなど護衛としてありえない。
「あの二人謎ね。本当にちゃんと護ってくれるのかな……」
 ノアは呑気にいつもヘラヘラしているし、ジェシカはジェシカでいつも楽しそうだが大雑把で適当。もはや定番化されている二人のやり取りを見ているのは楽しい。だが敵の襲撃や暗殺など非常事態の時が心配である。
「それほど心配することはないと思いますが」
 ヴァネッサも二人のことはたいして知らないであろうに、違和感を感じるぐらいはっきりと言う。
「そう?」
 私はそれでもまだ信用できない。あれほどマイペースな二人が機転を利かせて護れるものかどうか。
「はい。アンナ王女なら何だかんだで生き延びるでしょう」
「えっ!命狙われる前提!?」
 会話の流れが少しおかしい気がする。私は二人が護衛の仕事を行えるのか不安だという話をしていたのであって、私が生き延びるかどうかという話ではなかったと思うのだが。
「何か問題が?」
「い、いえ……。ありません」
 ヴァネッサが真顔で怖かったのでそれ以上言わないことにした。
「それで、二人は建国記念祭の準備に行ったのよね。私も行ってきていい?退屈だし」
 敢えていつもと異なる軽いノリで言ってみたが、厳しいヴァネッサの答えはいつも通りだった。
「いいえ。それは認めません」
 さすがにヴァネッサはごまかせないか。
「それじゃあ行ってきます!」
「待ちなさいっ!!」
 無理に部屋を出ていこうとすると彼女は鋭く叫んだ。
「勝手に出歩くことは認めません!絶対に認めませんよ!!」
 鬼のような形相で叱られた。怖すぎて何も言えない。
 皆さん、王女と聞けば好き放題と思われるやもしれませんが、普通の家庭よりも厳しいんですよ……なんて。
「分かった分かった!もう行こうとしないから!外でも見とくから!」
 ヴァネッサの怒りを抑えるために素早く謝る。そして私はベッドの方へ行ってカーテンを開けた。
「……綺麗!」
 今日の空は物凄く澄んでいて美しかった。空の青に太陽の白い光が射し、混ざりあって絶妙な色になっている。綺麗よりもっと具体的な説明を考えても一切思いつかない。それぐらい言葉にできない美しさである。
「ヴァネッサ!鳥よ!」
 小さな白い鳥の群れが飛び去っていく。
「本当ですね」
 いや待って。反応薄すぎ。
「もっと盛り上がってよ」
 せめてもう少し、驚いたような顔をするとか何か感想を言うとか、反応を工夫してほしかった。
「盛り上がる?アンナ王女は鳥がお嫌いだったのでは?」
 言われてみればそうだった。私はどこへでも自由に飛んでいける鳥を見るたびいつも切なくなっていた。久々に鳥の群れを目にした興奮ですっかり忘れてしまっていたが、彼女はちゃんと覚えていたらしい。さすがの記憶力だ。
「そうね、ずっと嫌いだった。でも今は嫌じゃなかったわ!」
 ヴァネッサは驚いたように何度か目をパチパチさせる。
「アンナ王女……。心境が少し変わられましたか?」
  そうかもしれないしたまたまかもしれないが、一つだけ確かなことは、今の私は切なくなっていないということ。切ないどころか、むしろ清々しい気分である。
 青空がやけに綺麗なので私はもっと窓に近づき張り付くような体勢で外を見る。その時、ふと疑問に思う黒い何かがたくさん飛んでくるのが目に入った。
「あれは……鳥?」
 私が首を捻ると、ヴァネッサは窓の方へ接近してくる。
「何か発見しましたか?アンナ王女」
 窓の外に視線を向けた瞬間、彼女の顔が強張る。
「悪魔!?」
 いつも多少のアクシデントがあっても落ち着いて冷静に対処する彼女が愕然としていることから、私は、今とんでもないことが起きているのだと察した。

Re: エンジェリカの王女 ( No.22 )
日時: 2017/07/29 20:15
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: z5ML5wzR)

17話「四魔将襲来」

「ね、ねぇ、ヴァネッサ。どうすればいい?父に連絡する?それとも、取り敢えずジェシカとノアを呼ぶ?」
 部屋が緊張した雰囲気に包まれた。ヴァネッサは難しい顔をしている。
 しばらくして彼女は答える。
「そうですね。あれだけの数なら親衛隊がすぐに動くでしょうし……。では、先に二人を呼びましょうか」
「私は何をしたらいいの?」
 戦う力のない私が下手に動けば迷惑をかけるかもしれない。そう考え、判断を委ねることにした。
「貴女はここにいて下さい。私がジェシカとノアを……」
「「王女様!」」
 ちょうどヴァネッサがそこまで行ったタイミングで、ドアの向こう側から二人の声が聞こえてきた。なんというナイスタイミングか。
 ヴァネッサはドアの方まで行き、用心深く覗き穴で確認してから、ドアを細く開けた。
「騒ぎになってるけど王女様大丈夫!?」
 先に飛び込むように部屋へ入ってきたのはジェシカ。
「おはようー。来たよー」
 ジェシカの後ろからノアが現れる。右サイドの髪を指で弄りながら、まるで遊びにやって来たかのようなのんびり口調。
「外の様子はどのようになっていましたか?」
 ヴァネッサが真剣な顔で確認するとジェシカは答える。
「警備兵とか親衛隊とかが戦ってるよ。あいつらの狙いは王宮みたい。何か欲しいものでもあるのかな」
 それを聞いて私はゾクッとした。
「四魔将ライヴァン……?」
 前に街へ行った時にエンジェリカの秘宝を求めて私を拐った悪魔。
「王女様、今何て言った?」
 突然ジェシカがクルッと身を返し私に尋ねてくる。
「え?わ、私?」
「そう!今何か言ったよね」
「えぇ。四魔将ライヴァン……って言ったけど」
 するとノアが珍しく真面目な表情で口を挟んでくる。
「あー、そっか。じゃあやっぱり知り合いってことだねー」
 口調の軽さはいつもと変わらないが漂っている雰囲気が違う。
「あの、やっぱりって?」
「そのライヴァンって奴が、今回の襲撃の親玉ってわけね」
 ジェシカの言葉を聞き私はショックを受ける。できれば当たってほしくなかった予想が当たってしまっていたからだ。
 あの時の私のせいでこんなことに……。
 するとジェシカは肩をトントンと軽く叩いてくる。
「自分のせいとか思っちゃダメだからねっ!」
 彼女がニカッと明るい笑みを浮かべてくれたおかげでほんの少しだけ元気が湧いた。私は彼女の手を握らせてもらい乱れた心を落ち着けるよう努める。
「……下がって!」
 刹那、ジェシカは私の体を彼女の後方に強く引く。私はその勢いでよろけ転倒した。
 次の瞬間、上空から黒い矢のようなものが降ってきて、窓ガラスを貫いて飛んでくる。ジェシカは一瞬にして聖気を集結させて剣状にし、それですべての黒い矢を凪ぎ払った。
 私がそれを見て安堵したのも束の間、次は、コウモリと人間の中間のような姿をした黒い化け物がたくさん迫ってくる。
「……あはっ、ははは」
 ジェシカが突然笑い出す。
「キタコレッ!いいじゃん、面白いじゃん!」
 おかしなテンションで笑い、迫ってくる化け物を剣で次々斬っていく。踊っているような華麗な動きで一切躊躇いなく敵を斬るその姿は天使とは思えぬ迫力だ。
 気づけば化け物はすべて片付けられてしまっていた。
「どうよ、王女様!」
 ジェシカは振り返り誇らしそうに胸を張る。
 ……信じられない強さだ。少しでも疑った私が間違いだった。彼女一人でもエリアスに相当するくらいの戦闘力、もはや天使離れしている。
「す、凄いわ……何だか……」
 それしか出てこなかった。
「えへへっ、ノア、聞いた?あたし凄いって!王女様に褒められちゃった!」
「はいはい。聞いたよー」
 ノアは棒読みで適当な返事をする。
「どんなのが来ても関係なし!ぶっ飛ばしてやるんだから!」
 だが安心するにはまだ早かった。私たちが少し落ち着き話していると、突如轟音が鳴り響きドアが吹き飛んだのだ。辺りは砂煙に覆われる。
「こ、今度は何……?」
 今までとは桁違いの脅威的な魔気を感じ体が硬直する。
「うわー。あれとやるのはちょっと嫌だなー」
 いつもは呑気なノアもこの時ばかりは身構えていた。
 ドアが壊れた後の砂煙が晴れると、そこには見覚えのある青年が立っていた。セットされた黄色寄りの金髪、紫の瞳、自信ありげな表情。片側の口角を上げニヤリと笑う。
「久しいな!お人好し王女!!」
 背中から巨大なコウモリのような羽が生えていて、放出されている魔気も以前とは比べられないぐらいの強さ。しかし口調がバカ丸出しなところだけは前と変わらない。
「……しがないお金持ち」
 するとライヴァンは顔を真っ赤に染めて怒る。
「もうそれを言うなっ!恥ずかしいじゃないかっ!」
 ジェシカとノアはキョトンとして私に目をやる。
「アイツとどういう関係?」
「案外仲良しなのかなー?」
 いや、仲良しなわけないし。
「ライヴァンはエンジェリカの秘宝を欲しがって私を狙っているのよ」
「なっ、エンジェリカの秘宝ですって!?」
 ヴァネッサが口を開いた。
「そ!う!さ!」
 それをちゃんと聞き逃さなかったライヴァンはお馴染みの謎ポーズをしつつ叫ぶ。
「そんな……どうしてエンジェリカの秘宝を……」
 部屋内が白けた空気になっている中で、ヴァネッサはただ一人何かを考え込んでいるようだった。

Re: エンジェリカの王女 ( No.23 )
日時: 2017/07/31 23:25
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: s/G6V5Ad)

18話「あの時のまま」

 四魔将の一人ライヴァンは私の目前で高らかに宣言する。
「エンジェリカの秘宝を渡せ!さもなくば王女を捕らえ人質とするのみ!」
 それに対して一歩前に歩み出たノアが言う。
「んー、本当にやる気?」
 ジェシカも両手で剣を構えたまま同じように前へ出た。
「美しい僕を見て恐れをなしたか!?大人しくしていれば痛い目には遭わずに済むぞ!」
 ライヴァンはとても強気な発言をしている。
「いやいや、そんなことで大人しく引くとかないでしょー。一応王女様の護衛だしねー?」
「そっちこそ!逃げるなら今のうちだよ!」
 ジェシカとノアはそう言い返しライヴァンを睨みつける。私は巻き込まれるのを恐れて数歩後ろに下がった。
「そうかい……麗しき僕のお願いが聞けない、と。ならもういい。覚悟っ!!」
 ライヴァンはそう叫ぶとほぼ同時に黒っぽい塊を大量に連射する。素早くジェシカの前に出たノアが、薄紫色をした聖気を固めシールドを作り出してそれをすべて防いだ。
 ジェシカは目にもとまらぬ速さでライヴァンに接近し剣を振り下ろす。しかしライヴァンは魔気に包まれた黒いナイフで防ぐ。あのスピードの斬撃についていけるとは、腐っても四魔将、といったところか。
「そんな攻撃、麗しき僕には効かないよ。僕は偉大だ。なんたって人の心を読めるからな!」
「そういうこと。……面白いじゃん」
 飛び退いて距離を確保してからジェシカは小さく呟いた。
「今度は麗しき僕から行かせてもらうよ!」
 ライヴァンのナイフを持っていない方の手から不気味な黒い塊が出てくる。塊は徐々に膨らみ大きくなっていき、人一人くらいの大きさになってから、私の方へ放り投げた。
 彼がジェシカではなく私を狙ってきたため僅かにノアは反応が遅れる。しかしギリギリのところでシールドを張る。
「気を固めてそのまま投げてくるとか、これだから野蛮なやつはー」
 不完全だったシールドは塊の軌道を反らすのが精一杯で割れてしまい、塊の端がノアの腕に掠った。
「ノアさん!大丈夫?」
 声をかけると彼は首から上だけ振り向き答える。
「平気平気。腕掠っただけだしたいしたことじゃないよー」
 彼はいつも軽い口調なので何を考えているか分かりづらい。それだけに、無理をしているのではないかと考えてしまう。それからも私はヴァネッサにぴったりとくっつき激しい戦いの様子を眺めるだけだった。
「エンジェリカの秘宝ぅっ!」
 気がつくとジェシカとノアをかわしたライヴァンが私に迫ってくる。何が起こったのか理解できなかった。
 最初ライヴァンはヴァネッサを魔気を帯びた黒いナイフで斬りつける。そして衝撃で頭が真っ白になった私の胸元についた赤い宝石のブローチを引き剥がし奪い取る。
「待って、返して……!それは……」
 私に分かる範囲だとすればブローチを奪われただけのはず。なのに意識が薄れていく。視界が歪んで霞み、体は思い通りに動かせない。
 そして私は気を失った。

 目の前に女が立っていた。黒い髪に漆黒のワンピース、そして真っ赤な唇。夢に出てきてから、鏡でグラスで、数回見た顔だ。
「貴女は一体誰なの?」
 前の夢とは違い周囲には誰もいない。もしかしてこの世界には今私と彼女しかいないのではないか。そう思うぐらい静かな寂しい場所。
「私に名はない。私がお前だからだ」
 黒い女は低い声で答えた。
「意味が分からないわ」
「今はまだそうかもしれない」
 夜の冷たい風が髪を揺らす。枯れた葉は一枚もない木々がある以外、本当に何も見当たらない。
「それで、ここはどこなの?」
「…………」
 女は黙ってしまった。
「ごめんなさい。聞かない方が良かった?」
「……ここはエンジェリカ」
 私は急に風が強まり寒さに身震いした。この寒い夜に外で話すには薄着すぎる。
「エンジェリカ?嘘だわ。何もないじゃない」
 こんな殺風景な荒れ地がエンジェリカだなんて信じられなかった。エンジェリカは天界でも一番大きな王国だもの。
「今から四百年前。私はエンジェリカの王女だった」
 それは実におかしな話だ。
「四百年前?エンジェリカの歴史は三百年よ。今年が三百回目の建国記念祭だもの」
「あくまで歴史に残っているエンジェリカは……ね」
 彼女の話は信じられないし意味がよく分からない。しかしつい聞き入ってしまう。彼女の言葉には本当かもしれないと思わせる不思議な力がある。
「四百年前、天使と悪魔の最大の戦争があった。その戦場となったのがエンジェリカだった。私は王女として戦った。だが聖気の強すぎた私はエンジェリカの土地すらも壊してしまった」
 そう話す彼女は悲しそうな顔をしている。
「結果天界を壊したという罪で私は裁かれ死んだ。それから私はずっとこの日に止まったまま、いつか来る悪魔との戦争の時を待ち続けてきた」
「じゃあもし戦争になったら貴女は悪魔の味方をするの?」
 黒い髪を冷たい夜風になびかせながら彼女は言う。
「私はどちらにも味方しない。天使の味方をする気はない。だが私はエンジェリカの王女だ。悪魔の味方となる予定もない」
 私には彼女が何をしたいのかよく分からなかった。
「時間だ。呼ばれている。そろそろ戻らなければ二度と戻れなくなる」
「そうなの!?じゃあ急いで帰らなくちゃね」
 でもこの時間は無駄じゃなかったと私は思う。
「今日は貴女のことを少しだけ知れて良かったわ。またお話聞かせてね」
 彼女は本当はそんなに悪い存在ではないのかもしれないと、そう思えるようになったから。


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