コメディ・ライト小説(新)
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- 《完結》 エンジェリカの王女 【人気投票集計中】
- 日時: 2017/10/31 18:56
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: .YMuudtY)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10967
初めまして、こんにちは。
現在はコメディライトをメインに執筆させていただいている四季といいます。どうぞよろしくお願いします。
若干シリアス展開もあります。ご了承下さい。
感想・コメント、いつでもお待ちしております。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
短編集へはURLから飛べます。
それでは天使の物語、お楽しみ下さい♪
《本編 目次》2017.7.1より連載開始
序章 >>01
第1章 〜天使の国〜
1節 >>02-11 >>14-17 >>20-23 >>28-31
2節 >>32-41
3節 >>46-47 >>50-62
第2章 〜地上界への旅〜
1節 >>64-71 >>73-76 >>80-83
2節 >>84-88 >>90-92
3節 >>93 >>95 >>98-101 >>106-111
第3章 〜天魔の因縁〜
1節 >>112-114 >>118-121 >>125
2節 >>128-136 >>138-141
3節 >>143-145 >>147-149
最終章〜未来へゆく〜
>>150 >>153-154 >>158-159 >>164-171 >>174-178 >>181
終章 >>182
あとがき >>183
《紹介》 随時更新予定
登場人物 >>63
用語 >>142
《イラスト》
ジェシカ >>27 ノア >>49 アンナ >>72 >>193(優史さん・画) エリアス >>105
キャリー >>94(章叙さん・画) フロライト >>103(章叙さん・画)
ヴィッタ >>155
100話記念イラスト >>137
《気まぐれ企画》
【作品紹介】流沢藍蓮さんの作品「カラミティ・ハーツ 1 心の魔物」 >>89
【第1回人気投票】 >>115 結果発表はコチラ→ >>146
【第2回人気投票】 >>183
《素敵なコメントをありがとうございました!》
ましゅさん
てるてる522さん
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流沢藍蓮さん
ひなたさん
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チェリーソーダさん
いろはうたさん
彩雲さん
優史さん
- Re: エンジェリカの王女 ( No.54 )
- 日時: 2017/08/17 22:57
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 0/Gr9X75)
39話「感情に揺れる心」
私とジェシカは医務室を出ると、すぐ隣のカウンセリング室と書かれた部屋に入る。
中はいたって平凡だった。壁も床も、天井も白く、医務室と同じ材質だが、広さは比較的狭い。三人以上入ると窮屈に感じるであろうぐらいの広さしかない。木製のテーブルと椅子二人があり、壁に時計がかけてある。それ以外は何もないとてもシンプルな部屋だ。
私とジェシカは取り敢えず向い合わせの椅子に腰かける。
「それで、話は何?」
ジェシカが改めて尋ねた。いつもより真剣な顔をしている。
「実はね、少し前からなんだけど……たまに黒い女の人が見えるの」
「黒い女の人?」
ジェシカは不思議そうに首を傾げる。不思議な顔をするのも無理はない。いきなり話しても事情が分かるはずがない。
「その人はどこに見えるの?」
「鏡の中とか、夢の中とかに突然現れるの。そして不気味なことばかり言ってくるの……」
いきなり力が欲しいかと言ってきたり、大爆発を起こしたり、恐ろしい未来を見せたり。あの黒い女はいつも、何がしたいのかさっぱり理解できないことばかりする。
「例えばどんな?」
目の前のジェシカが眉をひそめて聞いてくる。私は少し躊躇いつつも勇気を出して答える。
「私のことを、エンジェリカを終わらせる天使だ、とか……」
すると彼女は納得のいかないような顔をした。
「何それ、完璧におかしな人じゃん。意味不明だし。エンジェリカの王女様が、エンジェリカを終わらせるわけないじゃん」
私だってそう思うわ。私は生まれ育ったエンジェリカが好きだもの、「終わらせてやる」なんて考えたことは一度もない。
「でも確かに、そんなこと急に言われたら嫌だよね」
「そうなの。それで、さっきのノアさんの話を聞いて、もしかしてって思ったの。私は普通と違うのかなって……」
私がいたらみんなも巻き込んでしまうのかなって。そんなのは嫌だ。巻き込みたくない。私のために傷ついてほしくない。
「もし私に特別な力があって、それがみんなを傷つけるようなものなら、私はどうすればいいのかって思って、不安になったの。私、怖い……。エリアスやみんなを巻き込むのが怖い」
「そんなこと、ならないよ。大丈夫だって!」
「でも!ヴァネッサはもう犠牲になったわ!」
私は酷い。それに自分勝手。自分でもそう思う。こちらから相談しておいて、優しい彼女にこんなきついことを言えるのだから、私は最低だ。
「私のせいで傷ついたの!まだ意識も戻らないのよ!エリアスだって私のせいであんなに戦わされて……」
「待って。違うよ、そんな」
悲しそうな顔をするジェシカに、私は今まで溜め込んでいた不安を一気に吐き出す。……私、本当に最低だ。でも、頭ではそう思っていても、言葉が止まらない。
「エリアスもヴァネッサみたいになるかもしれない!私のせいで、苦しむことになるわ!……どうしてなの。私はこんなこと望んでなんてないのに!」
「待って。お願い。王女様、落ち着いてよ」
「次はエリアス……彼が不幸になるかもしれない。私のせいで……どうしてこんな……」
「いい加減にしてっ!!」
ジェシカが怒鳴った。その怒声で正気に戻った私は、「ごめんなさい」と消え入りそうな声で謝る。
「エリアスは強いよ。だから王女様を絶対に護る!侍女のヴァネッサさんとはまったく別の話じゃん!」
彼女の言う通りだと思う。エリアスがそう簡単に戦いに負けるはずがない。だが、頭でそれは分かっていても、時折不安が押し寄せてくるのだ。
「冷静になって。そんなやつの言うこと、信じなくていいよ。気にしたら負けってやつ!」
そう言われて無条件に頷けるなら、とっくに気にしていないだろう。気にしてしまうから、こんな不安になっているのだ。
「って言ってもそう簡単には無理だよね。ちなみに、その女を最初に見たのはいつ?」
「……晩餐会の前の夜、夢の中で初めて見たわ」
「あたしたちと出会う前の日ってこと?」
その確認にはしっかりと頷けた。
「次に見たのは?」
「準備をおおかた終えた時、部屋の鏡で見たわ。その時はヴァネッサに言ったけど、疲れているだけだって、まともに聞いてもらえなかったの」
ジェシカは「そっか」と小さく言ったきり、しばらく黙り込んでしまった。何かを考えているようにも見える。私は静かな空間で、彼女が再び口を開くのを待つ。
「……晩餐会の時さ、グラスが割れたり椅子が倒れたりしたよね。もしかして、あれもその女がやったんじゃない?超能力的な何かで……」
ドンドンドン!
突如ドアを叩く大きな音が響く。ノックとは程遠い音だ。
「入ります!」
そう言ってカウンセリング室に入ってきたのはエリアスだった。
「王女、また悪魔が来ました」
「そんな!」
私は思わず悲鳴のような声をあげる。その口をエリアスが咄嗟に手のひらで塞ぐ。
「貴女はここにいて下さい。私とノアでなんとかしますから。ジェシカ、王女を頼む」
「うん、任せて。エリアスも気をつけてね」
短時間の会話を済ませると、エリアスは白い衣装を翻し、すぐさま部屋から出ていった。
「待って!エリアス!お願い、行かないで!」
急に心細くなった私は叫んでいた。
「駄目だよ、王女様」
「エリアス!」
ジェシカの制止を振り払い、私は彼の後を追っていた。外へ出たら迷惑、足を引っ張るだけ。そんなこと分かっていたのに、私は彼の傍にいたい衝動に動かされた。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.55 )
- 日時: 2017/08/18 17:42
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: 8.g3rq.8)
40話「どうして」
ジェシカの制止を振り切り、カウンセリング室のドアを勢いよく開ける。
「王女!?」
エリアスが信じられないものを見たような顔をする。つい衝動的に彼を追っていったものの、その後のことをまったく考えていなかった。
「おや。やはり王女様はいらしたのですな」
ベルンハルトの声だった。驚いて声のする方を見ると、銀髪の男性が立っていた。間違いない、ベルンハルトだ。まさかこんなところまで来ているとは。やってしまった……と衝動的な行動を後悔するが、今さら後悔してももはや手遅れ。
「嘘つきはよくありませんな」
ベルンハルトの顔に薄ら笑いは浮かんでいない。怒ったように眉がピクピク微動している。
刹那、ベルンハルトが指先で何かを描く。
「きゃっ!」
氷の破片が飛んでくる。が、目の前で全部跳ね返った。
「もー、危ないなー」
ノアが聖気で薄紫のシールドを張っていた。それで防げたのだろう。いつもはまったりしているのに、こういう場面では素早いのが不思議だ。
「王女様!大丈夫!?」
カウンセリング室からジェシカが出てくる。
「こっちは平気だよー」
「アンタ怪我してるじゃん!心配すぎ!」
「ほら、僕は動かなくても戦えるしさー」
「防御だけだけどね……」
一方エリアスは槍を構え戦闘体勢に入る。さっきまでとは目つきが変わった。
「ノア、王女を頼む」
「はいはーい」
ノアのお気楽な返事とほぼ同時にエリアスはベルンハルトへ急接近する。そして槍を振る。ベルンハルトは槍の長い柄を方腕で止め、もう片方の手を掲げる。すると小さなコウモリのような悪魔が大量に現れた。
「年老いているからと、なめてもらっては困りますぞ」
ベルンハルトの赤黒い瞳がギラリと怪しく輝いた。
エリアスは一度距離をとる。そこに、小型悪魔が一斉に彼をめがけて飛んでくる。
「その言葉、そっくり返す」
群がる小型悪魔を、白い一閃が消滅させた。エリアスの聖気を込めた槍での一撃。さすがに強烈だ。並大抵の相手では、たちうちできない。
「ふむ……一撃、か」
ベルンハルトはその様子を目にして興味深そうに呟く。
「次はお前だ」
長い槍の先がベルンハルトに向くが、当のベルンハルトは少しも警戒していないようで、まだ興味深そうに独り言を言っていた。
「……さて、実力はどれほどのものですかな」
エリアスは槍を操り攻撃するが、ベルンハルトはユルユルとした滑らかな動きでかわす。さすが四魔将だけあって一筋縄ではいかない。ベルンハルトは天井に当たりそうなぐらいの高度まで飛び上がる。エリアスは槍を持ったままベルンハルトを追う。今度はエリアスに向けて氷の欠片が飛ぶ。だがそれを読んでいたらしいエリアスは、体を回転させるようにして氷の欠片を避けた。
「おぉっと!」
槍に触れかけたベルンハルトはわざとらしく大袈裟にそんなことを漏らす。
「……なんてな」
片側の口角をニヤリと持ち上げる。それとほぼ同時に、背中から出てきた一本の細い触手が、エリアスの左肩辺りを突き刺した。隙ができたエリアスを、ベルンハルトは全力で蹴り落とす。抵抗する時間もなくエリアスは床まで落下した。
「エリアス!」
私は思わず叫んだ。
しかし、かなりの勢いで床に叩きつけられたであろうエリアスは、すぐに体を起こす。即座に立つのは無理のようだが、肩膝をついて座るぐらいはできている。
「……っ!」
エリアスは左肩を押さえて顔をしかめる。そこに追い討ちをかけるように、ベルンハルトは上から大量の氷の欠片を降らせる。
「エリアス!逃げてっ」
ジェシカが大きく叫ぶ。爆発が起きる。ノアがいなければ爆風で飛ばされていたかもしれなかった。その後、煙が広がる。煙のせいで視界が悪く、辺りの様子を視認できない。
やがて煙が晴れると、エリアスが座り込んでいるのが見えた。私は堪らなくなって彼に駆け寄る。
「エリアス!大丈夫!?」
頬にはいくらか傷がつき、先程ベルンハルトの触手に刺された左肩からはドクドクと血が流れ出て、腕を伝って手まで濡れていた。それでもまだ意識はあるし、全然動けない状態ではないようだ。
「このぐらいでは致命傷にはなりません。まだ戦えます」
彼の目は挫けていなかった。
「でもエリアス、血が出てるわ。早く手当てしなくちゃ……」
血が流れている肩に触れようとすると、彼は静かに、それでいて真剣に言う。
「触れないで下さい。魔気が移ります」
一瞬意味が分からなかった。
「え?ま、魔気って……どうしてエリアスから?」
「さっき刺された時、瞬間的に魔気を入れられました。ですから、王女はなるべく触れない方が良いかと」
そんな。やっぱりヴァネッサと同じようになってしまう。私はショックを受けた。
「そんな!エリアス、魔気は平気なの?」
彼の呼吸は少し乱れていた。
「えぇ。……このくらいなら、問題ありません」
それでも彼は微笑んだ。きっと苦しいだろうに、弱音は決して吐かない。
そんな時だった。
「お話はそこまでですぞ」
ベルンハルトの声を聞き、振り返る。先程と同じ一本触手が迫ってくるのが見えた。間違いなく私を狙っている。「もう駄目だ」と思い瞼を閉じる。
——しかし、触手が私の体に刺さることはなかった。
「……く」
喉が締まったような微かな声が耳に入る。触手は私をかばったエリアスのうなじに突き刺さっていた。
「そんな……!」
私が着ている式典用の衣装が、エリアスの血で赤く染まっていく。それを見た時、私は戦慄した。
「……王女、私は……貴女の傍にありたい……」
一瞬だけ、瑠璃色の瞳が力なく私を見た気がする。そして彼は崩れるように倒れた。
「こんな……こんなことって……」
——その先は覚えていない。
- Re: エンジェリカの王女 ( No.56 )
- 日時: 2017/08/19 00:11
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: yl9aoDza)
41話「暁」
……どうして。どうしてなの。ついこの前まで、平和に暮らしていたのに。私はどこで間違えたの。私が、王宮の外へ行きたいと願ったから?自分勝手な希望を無理矢理通したから、ばちが当たったの?もしそれが理由なら、私が傷つけばよかったのに。私を殺してくれればよかったのに。エリアスもヴァネッサも関係ない、ただ私の近くにいただけよ。それなのに……、傷つくのは無関係な者ばかり。こんなのっておかしいわ。
でも、私にはもう分からない。どうすればいいか、もう分からないよ。
絶望という暗い闇から目覚めた時、辺りは焼け野原だった。ところどころに崩れ落ちた建物の残骸が散らばっている。悲鳴のような叫び声が時折聞こえるが、辺りに天使の姿は見当たらない。
「これは……、夢?」
私は理解不能な光景をぼんやりと眺めながら、誰にともなく呟く。
「夢ではない。現実だ」
背後から声が聞こえてくる。振り返ると、いつものあの女が立っていた。髪も瞳も服もすべてが真っ黒なその女は、無残なその光景を悲しそうな瞳で見つめている。
「四百年前、私が見た光景と同じだ……」
彼女も誰に対してでもなく呟いていた。黒い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。
「アンナ……、やはりお前も私と同じだ。同じ力を持ち、同じ運命を辿る」
「何を言っているの?」
瓦礫は燃え、辺りは黒い煙に包まれている。数十メートル先は見えないくらいの煙だった。
「……前にも話した通り、四百年前、私はエンジェリカの王女だった。ある日突然悪魔の侵攻が始まり、天界は戦乱の時代を迎えた。もちろんエンジェリカも戦場となった」
黒い女は静かな声で語り始める。私はよく分からぬまま、他人事のように聞いていた。
「私はエンジェリカの王女として前線に立ち戦っていたが、仲間たちは私をかばって次々と倒れていった。そしてやがて絶望するようになった。自分のために多くの者が犠牲になることに耐えられなくなった私は、普段通り戦っていたある日、力を暴発させてしまい……エンジェリカを破壊した」
彼女は数百年もの間、辛い思いを抱えていたのか。そう思うと胸が締めつけられて痛くなった。
「それから、私の父である王と天使たちは私を裏切り者と呼んだ。私は王女でありながら罪人として捕らえられ、最終的に死刑となった。ここまでは前に少し話した記憶がある」
「聞いた記憶があるわ……」
「この話にはまだ続きがある。それから、私の遺体は封印されることとなった。もう二度とこんな悲劇が起こらないように、鎮魂の意味も込めて。その封印に使われたのが、お前の持っていたブローチだ」
「え?私の……?」
胸元に目をやると、赤い宝石のブローチがない。辺りを見回すと、足元に、粉々に砕けた赤い宝石が落ちていた。
「そんな!割れてる!?」
母からもらった大切なものなのに。ショックすぎる。
私は慌てて両手で拾い集めようとするが、指の隙間からサラサラとこぼれ落ちてしまう。
「恐らくお前の力の暴発を止めようとして割れてしまったのだろう。止められなかったということだな。おかげでエンジェリカはこの状態だ」
黒い女はどこか懐かしむように言う。全身の力が抜けて、私はへたり込んでしまった。
「じゃあ……、私がエンジェリカを壊したのね。エリアスもヴァネッサも、もう二度と会えないの?こんなの……嫌よ。こんなの……!私が王宮から出たいなんて言ったから……わがままを言ったから……!」
涙が溢れてくる。『絶望』という言葉がよく似合う感情。こんなことなら、外に行きたいなんて言うべきじゃなかった。
「……アンナ、それは違う」
黒い女がしゃがみこんで、私の手に触れる。思えば彼女と触れたのは初めてかもしれない。そんな気がする。
「アンナ。お前が外の世界を知りたいと思ったのは、間違いではない」
その瞬間、私は思い出した。彼女が言ったのは、初めて私が外出した日に、エリアスがかけてくれた言葉だ。目の前の彼女とエリアス、二人が重なって見える。
そして、それと同時に、エリアスの微かな聖気を感じた。本当に微かだけど確かに感じる。間違えるはずがない。だってエリアスは私の護衛隊長だもの!彼のことは誰より分かる。
心に光が差してくる。きっと、希望という名の光。絶望の闇が晴れていく。
私は立ち上がった。
「アンナ?」
「そうだ。私、エリアスのところへ行くわ。もしかしたら……、もしかしたらだけど、まだ生きているかもしれない!」
黒い女は微笑を浮かべて尋ねる。
「なぜそう思う?」
その問いに私は迷いなく答えられた。
「エリアスの聖気を感じるの。きっと彼は生きているわ!みんなもその辺にいるかもしれない!」
すると、彼女は初めて穏やかに微笑んだ。
「そうか。では、いってらっしゃい」
「ありがとう。……いってきます!」
私がエンジェリカを終わらせる。その運命の通り、私はこの国を破壊した。でも、まだすべてが終わったわけじゃない。今、私の胸にあるのは、絶望ではない。希望だ。小さな芽がいつの日か大きな樹になるように、私の心に生まれた小さな希望は私の未来を変える。
壊してしまったことは謝ればいい。一生かけてでもこの罪を償う。
待っていて、エリアス。それからみんな。今度は私が助けに行くから!
- Re: エンジェリカの王女 ( No.57 )
- 日時: 2017/08/19 14:49
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: kJLdBB9S)
42話「生きているから」
私は微かに感じるエリアスの聖気だけを頼りに彼を探した。散乱する瓦礫を乗り越え、燃えているものには触れないよう注意しながら、ひたすら歩き続ける。生まれてからずっと護られてきた私にとってはこんなことは初めての体験だ。多少の不安はあれど怖くはない。希望という光があるから。
何度瓦礫の山を乗り越えただろうか。ついに倒れているエリアスの姿を発見し、急いで駆け寄る。
「エリアス!エリアス、聞こえる?……気絶してる」
遠い昔に習った生存確認の方法を頭の隅から掘り起こし、彼の手首の親指よりに手を当ててみる。トクトクと、弱々しいが脈を感じられた。やはり生きている!血は自然に止まったらしく固まっている。
「どうしよう……」と悩んでいると、ちょうど近くから声が聞こえてきた。
「王女様ー」
聞いたことのある声に慌ててキョロキョロ周りを見る。そしてついに声の主を発見した。
「ノアさん!」
薄紫の髪ですぐに分かった。ジェシカを背負っている。私たちはすぐに合流した。
「王女様、無事だったんだねー。良かった良かった。でも、一体何が起きたのかなー?」
呑気に笑っている。良かった、元気そうだ。彼よりも、彼が背負っているジェシカの方が心配である。
「ジェシカさんは……?」
「あー、うん。大丈夫だよー。びっくりして失神してるだけだから、そのうち起きるんじゃないかなー」
良かった、と心の底から安堵する。もう二度と会えないと思っていたみんなにまた会えるなんて……また泣きそう。でも今はまったりと再会を喜んでいる場合ではない。
「エリアス、まだ生きているの。早く手当てをしなくちゃ」
「うん。そーだねー。まずはどうするー?」
呆れるくらい呑気な性格。だけど、その呑気さに救われることもあるのだなって、今はそう思う。
「まず安全なところに運んで、それから……」
どうするべきかなんて分かるわけがない。私は医療に関する知識など持っていないのだ。
「じゃあ、取り敢えず救護班のところまで運ぼうかー。まずはジェシカをここに置いてー」
ノアは背負っている気絶したジェシカを地面に横たわらせる。……えっ、置いていくの?
「ジェシカさんも一緒に運ばなくちゃならないんじゃ」
「うん。けど、僕は力がないから二人も運べないよー」
確かにノアは力持ちではなさそうだが、だからといってジェシカをこんなところに置いていくのはいかがなものか。しかし、気絶しているエリアスとジェシカを、私とノアだけで運ぶのは至難の業である。
「僕が協力してやろうかっ!?」
背後から懐かしい声がして振り返る。そこにはS字ポーズをしたライヴァンが立っていた。黄色に近い金髪と紫の瞳がとても懐かしい。
「……何しに来たのかなー」
ライヴァンの姿を目にして、ノアは警戒したような硬い表情になる。
「僕が協力してやろうかっ!?」
ライヴァンは同じポーズのまま、もう一度言った。どうやら私たちと戦う気はなさそう。
「…………」
私もノアも言葉を失った。
「もういい!負傷者を運ぶ!」
言葉選びに困っている私たちのことは無視して、気絶したエリアスを片手でひょいと持ち上げる。とても軽そうに。
「……ライヴァン。貴方、手伝ってくれるの?」
私はまだ状況を飲み込めないまま尋ねる。すると口を尖らせて返してくる。
「お人好し王女は本当にお人好しだな!僕はただ負傷者を探していただけだっ」
しかし、少し頬が赤くなっていた。
「こいつは救護所へ運ぶ。そこの女は君たちで運ぶがいい」
ノアは一度地面に置いたジェシカを再び持ち上げ背負う。
「じゃあ僕が運ぶよー。王女様はライヴァンと一緒に隊長をよろしくー」
私はまだライヴァンを信じられなかったが、ノアは彼をすっかり信じているようだった。
ほぼ外のような状態の簡易救護所は負傷者で溢れかえっていた。一言に負傷者といっても、擦り傷や打ち身のような軽傷から意識がない重症まで、その状態は様々である。
「負傷者はこちらへー!意識のある方はこちら!意識のない方はこちらへ!出血の方はここで速やかに止血を行いますー!」
看護師の天使が叫んでいた。負傷者もそれ以外も含め天使の数が多すぎて騒がしいため、大声で叫ばなければ聞こえないのだろう。
「麗しい僕が患者を連れてきた!すぐに手当てしてくれ」
言っていることはいつも通りで呆れるが、その表情はいつになく真剣だった。顔つきを見れば今回は嘘をついていないと分かる。
「はい。……重症ですね。ではこちらに」
看護師の天使は空いていた数少ない簡易ベッドの一台に気絶したエリアスを横たわらせる。これでひとまず安心か。私は横たわり眠るエリアスの片手をそっと手に取る。
「私たち、お似合いね」
彼の手は血がこびりついて赤く染まっている。私の純白のドレスも真っ赤に染まっている。ぴったりだと思う。
「ライヴァン、助けてくれてありがとう」
私は純粋に感謝していた。素直に「ありがとう」と言うことができた。
「……ふん。相変わらずお人好し王女だな、悪魔に礼を言うとは」
ライヴァンは感謝されて恥ずかしかったのか、らしくなく赤面して視線を逸らす。それを見て温かな気持ちになった。
「悪魔だからといってお礼を言わない理由にはならないわ。助けてもらってありがとうって言うのは普通でしょ」
- Re: エンジェリカの王女 ( No.58 )
- 日時: 2017/08/19 17:58
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: w1J4g9Hd)
43話「未来への一歩」
あの後ノアはジェシカを救護所へ預けた。そして私は彼とライヴァンと三人で、救護所の外へと出た。外は相変わらず瓦礫の山で、埃と煙の臭いしかしないが、空は青く澄んでいる。柔らかな光が差していた。
「ライヴァン、これからどうするつもりなの?この騒ぎに乗じて魔界に逃げ帰る?」
私は静かに尋ねる。これほど破壊された光景を見続けても、私のせいだとはいまだに実感が湧いてこない。
「……いや。麗しい僕は逃げ帰ったりしないっ!」
片足だちで両手を上に掲げたような意味不明なポーズをしっかりきめる。
「実はしばらくはここに残ろうかと思っているのだよ」
「へ?」
予想の斜め上をいく答えに、思わず情けない声が漏れてしまった。
「この美しさに天使たちはメロメロになることだろうっ!」
まったく理解できない。何を言っているのかさっぱりだ。通訳がほしい。
「魔界へ帰っても殺されるだけだ。つ!ま!り!だなっ。天界を旅してくるっ!」
「えぇぇっ!?」
顎が外れそうになった。
「貴方悪魔よ?天界を旅するって、そんなの……、普通に駆除対象にされるわよ?」
「僕は新しい人生をゆく!」
まったく、馬鹿げた話だ。ライヴァンは悪魔。どうしたってそれは変わらないのに。コウモリのような羽は生えているし、魔気は放出し放題だし。純粋な悪魔が天界で暮らしていくのは恐らくかなり厳しいだろう。激しい差別を受けるだろうし、場合によっては捕まったり処刑されるかもしれない。
「……きっと苦労するわ」
「いいさ。天界でなら卑怯でなくとも勝者になれる。君の言っていた言葉を信じて、これからは卑怯でない人生を生きようと思っている」
私は一呼吸おいて言う。
「それでも貴方は、天界に生きることを選ぶのね」
「どんな困難も、この麗しさで乗り越えるさ!」
ライヴァンは自信満々に言い放ち、bの文字みたいなポーズをビシッときめた。
「それではな。さらばっ!」
彼は大地を蹴り、上空へ飛び上がる。コウモリのような羽をバサバサと羽ばたかせながら、彼はどこへともなく飛んでいった。
「さよなら、ライヴァン。またいつか会いましょう」
私は飛んでいく彼の背をじっと見つめていた。少しだけ寂しさを抱えながら。
「王女様、ライヴァンを勝手に逃がしてよかったのー?」
今まで黙っていたノアが口を開く。彼の発言は確かにその通りだと思うが、今の私にとってはそれほど気になることでない。
「分からないけど、多分いいんじゃない?」
「怒られないかなー?」
「私はもっと怒られることがあるもの。ライヴァンぐらい些細なことだわ」
エンジェリカの王女でありながらエンジェリカを破壊した。いくら意図的でなく力の暴発とはいえ罪は罪。怒られ罰を受けるのは目に見えている。
「それってエンジェリカを破壊したことを言ってるー?」
私は小さく頷く。するとノアはニコッと笑みを浮かべた。
「王女様は大丈夫。だって、いい人だからさー」
「でもびっくりさせたでしょ」
「ううん、平気ー。だってほら、僕は聖気には鋭いからさー。それに、王女様から出た聖気は、天使だけは全然傷つけなかったよー」
「嘘でしょ。みんな怪我していたわ」
「あれは衝撃波で飛ばされたり瓦礫で怪我しただけだよー」
「同じことよ」
……なんだか気まずい空気。
折角励まそうとしてくれていたのに、ちょっと酷いこと言ってしまったかな?そんな風に悔やむ。でももう遅い。いや、気にしすぎ?
「王女様は大丈夫だよー。隊長がいるし、ジェシカもいるし。ヴァネッサさん……だっけ、あの人もいるしさー」
ノアはのんびりとした口調で話し出した。
「王女様の場合は、恵まれた環境にいるって気づくことが未来を開いていくのかもねー」
まるで自分が恵まれていなかったかのように彼は言う。
「ノアさんは、恵まれていなかったの?」
すると彼は少し間を開けて、静かに答える。
「……そんなことはないよー。ちょっと複雑だったけど、ただそれだけだねー」
「いつか聞かせてくれる?ノアさんの昔の話とか」
「王女様が聞きたいならねー」
ノアは右サイドの髪に触れながら穏やかに笑う。こんな風に二人だけで話すのは初めてだが、案外気楽だ。体の力を抜いて自然に話せる。ずっと昔から知り合いだったみたいな不思議な感じ。
「じゃあいつか、みんなで語り合うのはどう?ジェシカさんとエリアスも呼んで」
「うん。ヴァネッサさんも忘れずに呼ぼうねー」
「もしかしたらヴァネッサは断るかもしれないわね。ヴァネッサはあまり騒がしいのが好きじゃないから」
そんな風に楽しいことを想像していると幸せな気分になってくる。すべての罪がなかったことになるような気すらしてくる。それが幻想にすぎないと理解していても、今だけは夢をみていたい。
「突然、失礼します」
ノアと話していた私に声をかけてきたのは、白い服を身にまとった真面目そうな男性。襟に親衛隊の紋章がついていることから、私の父ディルク王の部下であることがすぐ分かった。
「アンナ王女。王様から貴女にお話があるとのことですので、ご同行願います」
感情のこもらない淡々とした声で言う。
……夢から覚める時間か。
「分かりました。同行します」
私が死刑にならず道を返ることができたら、あの黒い女は喜んでくれるだろうか。ふと頭にそんなことが浮かんでくる。
女はずっと、一人孤独に、自身を悔やみ周りを憎んでいた。すべてを失い自身も辛かったはずなのに、誰にも話せぬまま、破壊してしまった日のエンジェリカにずっといたのだろう。四百年もの間。だけど、彼女はエンジェリカを一番愛していた。それだけは間違いない。
私が同じ結末を辿らないことで、貴女の時計の針を動かすことができるなら——私は。
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